(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光源から放射された所定の波長を有する照明光を試料に照射するとともに、前記試料から放射される前記所定の波長とは異なる波長を有する観察光を集光する対物レンズと、
前記光源と前記対物レンズとの間に配置され、前記光源からの前記照明光を前記対物レンズに導くとともに、前記対物レンズからの前記観察光を光検出部に導く波長選択部と、を有し、
前記波長選択部は、
所定の反射率を有する平面が所定の間隔で対向するように配置された2つの光透過部材と、
前記間隔を変化させる間隔調整部並びに前記光透過部材に対する前記照明光及び前記観察光の入射角度を変化させる角度調整部の少なくとも一方と、を含むことを特徴とする顕微鏡装置。
入力部で入力された蛍光色素の種類、前記照明光の波長及び前記観察光の波長の少なくとも一つに対応して前記間隔調整部及び前記角度調整部の少なくとも一方を制御する制御部を有することを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡装置。
前記制御部により制御される前記間隔調整部の前記間隔を前記蛍光色素の種類、前記照明光の波長及び前記観察光の波長の少なくとも一つに対応付けて記憶する記憶部を有し、
前記記憶部から読み出された前記間隔になるように、前記制御部により前記間隔調整部を制御することを特徴とする請求項2に記載の顕微鏡装置。
前記制御部により制御される前記角度調整部の前記入射角度を前記蛍光色素の種類、前記照明光の波長及び前記観察光の波長の少なくとも一つに対応付けて記憶する記憶部を有し、
前記記憶部から読み出された前記入射角度になるように、前記制御部により前記角度調整部を制御することを特徴とする請求項2に記載の顕微鏡装置。
前記照明光の波長の切り替えによって生じる前記間隔の補正値、及び前記照明光の波長の切り替えによって生じる前記入射角度の補正値の少なくとも一方に基づいて、前記制御部により前記間隔調整部及び前記角度調整部の少なくとも一方を制御することを特徴とする請求項2に記載の顕微鏡装置。
前記波長選択部と前記対物レンズとの間に配置され、前記照明光により前記試料を走査する走査ユニットを有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の顕微鏡装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような走査型顕微鏡において、試料を観察するための励起光や観察光の波長を変更する場合には、その波長に合わせて、透過及び反射する波長帯域が異なる(波長特性が異なる)波長選択部であるダイクロイックミラーを用いる必要がある。そのため、従来の走査型顕微鏡では、波長特性が異なる複数のダイクロイックミラーをターレットを用いて光路上に出し入れするように構成されたものがある。しかしながら、様々な波長特性に対応するためには、多数のダイクロイックミラーを用意する必要があり、交換が煩雑で、且つ、部品点数増加に伴いコストアップしてしまうという課題があった。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、照明光及び観察光の波長に合わせて波長選択部の波長特性を変化させることができるように構成された顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明に係る顕微鏡装置は、光源から放射された所定の波長を有する照明光を試料に照射するとともに、この試料から放射される所定の波長とは異なる波長を有する観察光を集光する対物レンズと、光源と対物レンズとの間に配置され、光源からの照明光を対物レンズに導くとともに、対物レンズからの観察光を光検出部に導く波長選択部と、を有し、波長選択部は、所定の反射率を有する平面が所定の間隔で対向するように配置された2つの光透過部材と、この間隔を変化させる間隔調整部並びに光透過部材に対する照明光及び観察光の入射角度を変化させる角度調整部の少なくとも一方と、を含むことを特徴とする。
【0007】
このような顕微鏡装置は、入力部で入力された蛍光色素の種類、照明光の波長及び観察光の波長の少なくとも一つに対応して間隔調整部及び角度調整部の少なくとも一方を制御する制御部を有することが好ましい。
【0008】
また、このような顕微鏡装置は、制御部により制御される間隔調整部の間隔を蛍光色素の種類、照明光の波長及び観察光の波長の少なくとも一つに対応付けて記憶する記憶部を有し、この記憶部から読み出された間隔になるように、制御部により間隔調整部を制御することが好ましい。
【0009】
また、このような顕微鏡装置は、制御部により制御される角度調整部の入射角度を蛍光色素の種類、照明光の波長及び観察光の波長の少なくとも一つに対応付けて記憶する記憶部を有し、この記憶部から読み出された入射角度になるように、制御部により角度調整部を制御することが好ましい。
【0010】
また、このような顕微鏡装置は、照明光の波長の切り替えによって生じる間隔の補正値、及び照明光の波長の切り替えによって生じる入射角度の補正値の少なくとも一方に基づいて、制御部により間隔調整部及び角度調整部の少なくとも一方を制御することが好ましい。
【0011】
また、このような顕微鏡装置において、光透過部材の平面の各々には、反射率が異なる少なくとも2以上の領域が形成され、2つの光透過部材は、光軸に直交する面内を移動させて照明光が入射する領域を変化させる位置調整部を有することが好ましい。
【0012】
また、このような顕微鏡装置は、波長選択部の波長特性を検知する検出部を有し、この検出部で検出した結果に基づいて、所望の波長特性になるように、間隔調整部及び角度調整部の少なくとも一方を制御することが好ましい。
【0013】
また、このような顕微鏡装置において、波長選択部は、照明光を透過し、観察光を反射するように構成されていることが好ましい。
【0014】
また、このような顕微鏡装置は、波長選択部と対物レンズとの間に配置され、照明光により試料を走査する走査ユニットを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明を以上のように構成すると、照明光及び観察光の波長に合わせて波長選択部の波長特性を変化させることができる顕微鏡装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、顕微鏡装置の一例である走査型顕微鏡10は、光源20から放射されたレーザ光(照明光又は励起光)を観察試料の試料面50に照射して走査する走査光学系30と、試料面50からの観察光(励起光により発生する蛍光)を検出する検出光学系40と、を有して構成される。
【0018】
走査光学系30は、光源20側から順に、ビームエキスパンダ31、波長選択部32、走査ユニット33、スキャンレンズ34、第2対物レンズ35、及び、対物レンズ36から構成されている。また、検出光学系40は、走査光学系30の側方に配置され、波長選択部32側から順に、結像レンズ41、遮光板42、及び、光検出部43から構成されている。また、この走査型顕微鏡10には、走査ユニット33で走査する位置(試料面50上の座標)及び光検出部43で検出された値を処理する制御部70が設けられている。なお、この制御部70は、後述するように波長選択部32の波長特性も制御するように構成されている。
【0019】
この走査型顕微鏡10において、光源20から放射されたレーザ光は、ビームエキスパンダ31で必要なビーム径の略平行光束となり、波長選択部32を透過し、走査ユニット33に入射する。この走査ユニット33は、光軸に直交する方向にレーザ光を2次元的に走査するものであり、例えば、レーザ光を反射することによりこのレーザ光を光軸と直交する面内で所定の方向に偏向させる第1の偏向素子と、この第1の偏向素子で反射されたレーザ光をさらに反射することにより、このレーザ光を光軸と直交する面内で前記所定の方向と直交する方向に偏向させる第2の偏向素子とから構成されている。なお、これらの第1及び第2の偏向素子は、駆動部60のモータで回転されるように構成されている。そして、この走査ユニット33を出射したレーザ光(略平行光束)はスキャンレンズ34により一次像面Iに結像された後、第2対物レンズ35を通過することにより再び略平行光束となり、対物レンズ36によって試料面(対物レンズ36の焦点面)50上に集光される。
【0020】
試料面50上に集光されて形成されたレーザ光の像は点像となっており、その点像の径は対物レンズ36の開口数(NA)で決まる大きさである。この試料面50上の点像の領域(照射領域)において励起した試料から生じる蛍光である観察光は、再び対物レンズ36で集光されて略平行光束となり、第2対物レンズ35により一次像面Iに結像された後、さらにスキャンレンズ34で略平行光束にされて走査ユニット33に入射する。そして、この走査ユニット33でデスキャンされて出射した観察光(略平行光束)は波長選択部32で反射されて検出光学系40内に入り、結像レンズ41により遮光板42の開口部42a上に集光される。この遮光板42の開口部42aを通過した光のみが光検出部43に到達し検出される。
【0021】
上述の構成により、遮光板42の開口部42aは試料面50上に結像されたレーザ光の点像と共役であり、試料面50上の照射領域から出た光(蛍光である観察光)はこの開口部42aを通過することができる。一方、試料面50上の他の領域から出た光のほとんどはこの開口部42a上には結像されず、通過することができない。以上より、制御部70が走査ユニット33の走査に同期させて光検出部43で検出された信号を処理することにより、試料面50の二次元的な画像を得ることができる。これによりこの走査型顕微鏡10は、高い分解能で試料面50の像を得ることができる。ここで、上記処理により得られた試料面50の画像は、ハードディスクやフラッシュメモリで構成され制御部70に接続された記憶部73に記憶されても良いし、ディスプレイ等で構成され制御部70に接続された出力部72に出力されても良い。
【0022】
なお、このような走査型顕微鏡10において、レーザ光の2次元スキャンによりムラのない2次元画像を得るためには、走査ユニット33を構成する第1及び第2の偏向素子によるレーザ光の回転中心(振り角の中心)と対物レンズ36の射出瞳Pの位置とを共役関係とすることが必要である。そのため、スキャンレンズ34は、対物レンズ36の射出瞳Pの像を走査ユニット33の回転中心若しくはその近傍に形成するように構成されている。
【0023】
また、本実施形態に係る走査型顕微鏡10の光源20は、異なる波長のレーザ光を放射することができるように構成されている。そのため、観察者は、観察する試料に応じてこの試料を励起するための光の波長を選択することができる。
【0024】
このように、本実施形態に係る走査型顕微鏡10は試料を励起するための励起光(レーザ光)の波長を選択することができるため、励起光(照明光)の波長が変化するとともに、これらの励起光により発生する蛍光(観察光)の波長も変化する。そのため、本実施形態の波長選択部32は、励起光及び蛍光の波長に応じてその波長特性(透過及び反射する波長帯域)を調整できるように構成されている。以下に、
図2〜
図8を用いてこの波長選択部32の構成について説明する。
【0025】
波長選択部32は、
図3に示すように、所定の間隔を有して近接して配置された2つの平面S1,S2を有して構成されている。これらの平面S1,S2は、例えば、光を透過する光学部材である2枚の平板状の光透過部材32a,32bを対向させて配置し、対向する面に設けられた反射膜により構成される。
図4に示すように、これらの平面S1,S2に挟まれた空間(以下、「干渉空間32c」と呼ぶ)に入射した光束は、2つの平面S1,S2で一部が透過し残りが反射することによりこの干渉空間32c内で反射を繰り返し、これらの平面S1,S2の間で多重干渉を起こす。ここで、
図4に示すように、一方の平面(例えば、
図4においては平面S1)から入射した光束に関し、この入射光束の干渉空間32cでの入射角度をφ′とし、光束の入射位置での平面S1,S2の間隔(以下、「面間隔」と呼ぶ)をdとし、干渉空間32cの媒質の屈折率をn′として、δを次式(1)のように定義する。なお、
図4に示す構成では干渉空間32cには空気が満たされており、屈折率n′はおよそ1である。また、光透過部材32a,32bの媒質の屈折率をnとし、この光透過部材32a,32bにおける上記光束の入射角度をφとすると、スネルの法則により、nsinφ=n′sinφ′が成立する。
【0027】
そして、各平面S1,S2のエネルギー反射率をR
0とすると、上述のように近接して配置された2つの平面S1,S2の多重干渉によるエネルギー透過率Tfpは、式(1)に示すδを用いて次式(2)のように表される。
【0029】
これらの式(1)及び式(2)から明らかなように、上述した構成の波長選択部32を透過する光の波長及びこの波長選択部32で反射する光の波長は、平面S1及び平面S2に挟まれた干渉空間32cにおける光束の入射角度φ′、平面S1及び平面S2の間隔d並びにエネルギー反射率R
0により決定される。例えば、干渉空間32cが空気で満たされており(n′=1)、面間隔dが300nm、平面S1,S2のエネルギー反射率R
0が80%、干渉空間32cにおける光束の入射角度φ′が45度のときの波長選択部32の波長特性を
図5(a)に示す。なお、
図5において、実線が透過する光の波長特性を示し、破線が反射する光の波長特性を示している。このような構成の波長選択部32では、420nm付近の波長の光が透過し、それ以外の波長の光が反射する。そのため、例えば、420nmの光を励起光にし、その他の波長の光を観察光とすることができる。また、面間隔dを800nmとし、その他の条件を上述の構成と同一にしたときの波長選択部32の波長特性を
図5(b)に示す。このような構成の波長選択部32では、380nm付近と560nm付近の波長の光が透過し、それ以外の波長の光が反射する。そのため、例えば、380nm又は560nmの光を励起光にし、その他の波長の光を観察光とすることができる。もちろん、光束の入射角度φ′又はエネルギー反射率R
0を変化させてもこの波長選択部32の波長特性を変化させることができる。
【0030】
それでは、以上のような構成の波長選択部32の平面S1及び平面S2の面間隔dを変化させる方法について説明する。
図2及び
図3に示すように、本実施形態に係る波長選択部32は、上述の平面S1,S2が形成された平板状の光透過部材32a,32bを有し、これらの光透過部材32a,32bは、平面S1,S2が対向するように配置されている。この光透過部材32a,32bは、周縁部の3カ所においてスペーサ32dを挟むことにより干渉空間32cを形成するように構成されている。また、この波長選択部32は、光透過部材32a,32b及びスペーサ32dを囲むように保持部材32eが設けられている。この保持部材32eは、上述の平面S1,S2を光が透過及び反射可能なように、この平面S1,S2に対して直交する方向から見たときに開口部32jが形成された円環形状を有している。また、
図3に示すようにその断面はコの字形状を有しており、この保持部材32eにより囲まれた空間に光透過部材32a,32bの周縁部及びスペーサ32dが配置されている。そして、3つのスペーサ32dの各々に対して位置整合するように保持部材32eの一方の面側に取り付けられた3つの固定部材32fを用いて、光透過部材32a,32b及びスペーサ32dを保持部材32eの他方の面に押しつけてこれらを挟持することにより固定するように構成されている。よって、この波長選択部32は、固定部材32fによる押さえつける力を調整することにより、スペーサ32dを押し縮める量を調整し、2つの光透過部材32a,32bの面間隔dを精度良く調整することが可能となる。このように、スペーサ32d、保持部材32e及び固定部材32fは、波長選択部32の面間隔dを調整する間隔調整部32gを構成している。
【0031】
なお、上述の説明の間隔調整部32gでは、固定部材32fによるスペーサ32dの押し縮め量で間隔dを調整する場合について説明したが、これらの代わりにピエゾ素子のような圧電効果を利用した素子により面間隔dを調整するように構成しても良いし、ヒーターやペリチェ素子によりスペーサ32dの温度を変化させることによりこのスペーサ32dを膨張・収縮させて面間隔dを調整するように構成しても良い。
【0032】
また、波長選択部32の平面S1,S2の面間隔dをピエゾ素子のように電気信号により制御する構成の場合、
図1に示した制御部70によりこの面間隔を制御することができる。例えば、この制御部70は、試料の性質や光源20から放射される励起光(照明光)の波長から、試料で発生する蛍光(観察光)の波長を決定し、上述の式(1)及び式(2)を用いて、波長選択部32が所望の波長特性となる(励起光を透過し、観察光を反射する)面間隔dを演算により求め、この面間隔dとなるように波長選択部32の間隔調整部32gを制御するように構成することができる。
【0033】
また、上述したように、波長選択部32の波長特性は、平面S1,S2に入射する光束の入射角度φ′(φ)により変化する。そのため、波長選択部32を回転させることによりこの波長選択部32の平面S1,S2の光軸に対する角度を変化させる角度調整部32h(例えば、ステッピングモータのようなアクチュエータにより構成する)を設け、干渉空間32cにおける入射角度φ′を所望の波長特性となるように制御することも可能である。但し、波長選択部32の平面S1,S2の光軸に対する角度を変化させると、この波長選択部32で反射された観察光が出射する方向も変化するため、角度調整部32hによる波長選択部32の回転に合わせて、検出光学系40を移動させるように構成することが必要である。この場合も、試料の性質や光源20から放射される励起光(照明光)の波長から、試料で発生する蛍光(観察光)の波長を決定し、上述の式(1)及び式(2)を用いて、波長選択部32が所望の波長特性となる入射角度φ′を演算により求め、この入射角度φ′となるように波長選択部32の角度調整部32hを制御するように構成することができる。
【0034】
さらに、波長選択部32の波長特性は、平面S1,S2のエネルギー反射率R
0により変化する。そのため、光透過部材32a,32bの平面S1,S2の各々にエネルギー反射率R
0の異なる少なくとも2以上の領域を形成し、光透過部材32a,32bを位置調整部32kにより移動させて照明光及び観察光が入射する領域を切り替えることにより、エネルギー反射率R
0が所望の波長特性となるように制御することも可能である。なお、略平行に延びる平面S1,S2に対して、直線方向にエネルギー反射率R
0の異なる少なくとも2以上の領域を設け、この方向に沿って位置調整部32kにより光透過部材32a,32bを直線的に移動させるように構成しても良いし、円状にエネルギー反射率R
0の異なる少なくとも2以上の領域を設け、この方向に沿って位置調整部32kにより光透過部材32a,32bを回転させるように構成しても良い。また、平面S1,S2におけるエネルギー反射率R
0は、連続して変化するように構成しても良いし、段階的に変化するように構成しても良い。上記の面間隔d及び入射角度φ′と同様に、試料の性質や光源20から放射される励起光(照明光)の波長から、試料で発生する蛍光(観察光)の波長を決定し、上述の式(1)及び式(2)を用いて、波長選択部32が所望の波長特性となるエネルギー反射率R
0を演算により求め、このエネルギー反射率R
0となるように波長選択部32の位置調整部32kを制御するように構成することができる。
【0035】
また、この波長選択部32は、面間隔d、入射角度φ′及びエネルギー反射率R
0のいずれか一つを制御して所望の波長特性となるように構成しても良いし、いずれか2つ若しくはすべてを制御して所望の波長特性となるように構成しても良い。このように、本実施形態に係る波長選択部32は、間隔調整部32g、角度調整部32h及び位置調整部32kのうち少なくとも一つを有していれば、上述の式(1)及び式(2)に基づいて波長特性を変化させることができる。
【0036】
また、上述したように、照明光及び観察光の波長は、観察する試料や蛍光色素の種類により決定される。以下の表1に、代表的な蛍光色素であるeCFP(強化シアン蛍光タンパク質)、eGFP(強化緑色蛍光タンパク質)、eYFP(強化黄色蛍光タンパク質)及びフルオレセインの吸収波長(励起波長)及び蛍光波長(蛍光の中心波長)を示す。
【0037】
(表1)
吸収波長 蛍光波長
eCFP 800-900nm 476nm
eGFP 820-950nm 509nm
eYFP 860-950nm 532nm
フルオレセイン 780-820nm 519nm
【0038】
以上のような波長特性であるため、例えば、eGFPを蛍光色素として用いる場合には、波長選択部32を、蛍光(観察光)の509nmの光を反射し、励起光として820nmの光を透過するように調整することが必要である。この場合、エネルギー反射率R
0を90%ととし、入射角度φ′を45度ととし、面間隔dを580nmとすることで、所望の波長特性を得ることができる。
【0039】
また、光源20から放射する照明光(励起光)及びこの照明光により発生する観察光(蛍光)の波長を入力部71により入力して制御部70に対して設定し、制御部70で上述の式(1)及び式(2)に基づいて、面間隔d、入射角度φ′及びエネルギー反射率R
0の中の少なくとも一つを制御してこの光源20の波長に連動して波長選択部32の波長特性を制御するように構成することも可能である。あるいは、記憶部73に、表1に示すような蛍光色素の種類や、この種類に対応する照明光及び観察光の波長の少なくとも一つを記憶しておき、入力部71から入力された蛍光色素の種類や照明光及び観察光の波長に基づいて、式(1)及び式(2)により面間隔d、入射角度φ′及びエネルギー反射率R
0の少なくとも一つを算出して波長選択部32を調整するように構成しても良い(すなわち、入力部71から入力された蛍光色素に応じて表1から照明光及び観察光の波長を決定しても良いし、観察に使用する照明光及び観察光の波長を直接入力しても良いし、照明光又は観察光のうちのいずれか一方の波長を入力してそこから他方の波長を決定しても良い)。
【0040】
なお、上述の面間隔d及び入射角度φ′は、上記式(1)及び式(2)から算出される値により波長選択部32を制御しても良いし(例えば、面間隔dが509nmであれば、その値になるように光透過部材32a,32bの面間隔を制御する)、予め決められた基準となる位置や、現在の状態における位置に対する補正値(基準となる位置や現在の位置からの差分)として求めて波長選択部32を制御しても良い。
【0041】
また、以上の説明では、面間隔d、入射角度φ′及びエネルギー反射率R
0の少なくとも一つを制御して波長選択部32を所望の波長特性となるように構成しているが、この波長選択部32に、波長特性を検出する検出部32mを設けても良い。この場合、波長選択部32の波長特性を確認するだけでなく、検出部32mで検出される波長特性をフィードバックして面間隔d、入射角度φ′又はエネルギー反射率R
0の値を調整することにより、この波長選択部32の波長特性が所望の値になるように制御することも可能である。この検出部32mによる波長選択部32の波長特性の検出方法としては、光透過部材32a,32bの平面S1,S2の間隔を検知することにより検出する方法があり、以下にその構成を説明する。
【0042】
まず、
図6(a)を用いて透過光及び反射光の強度比率から波長選択部32の波長特性を検出する検出部32mの構成について説明する。この検出部32mは、異なる波長の光であって、これらの光が略平行に進んで光透過部材32aに所定の入射角度で入射する光を放射する第1の光源101及び第2の光源102と、第1の光源101から放射され光透過部材32a,32bを透過した光を検出する第1の透過センサ111、及び、第1の光源101から放射され光透過部材32bの平面S1,S2の多重干渉で反射して光透過部材32aを透過した光を検出する第1の反射センサ112と、第2の光源102から放射され光透過部材32a,32bを透過した光を検出する第2の透過センサ121、及び、第2の光源102から放射され光透過部材32bの平面S1,S2の多重干渉で反射して光透過部材32aを透過した光を検出する第2の反射センサ122と、から構成されている。なお、ここでは、第1の光源101から放射される光の波長を400nmとし、第2の光源102から放射される光の波長を550nmとし、第1及び第2の光源101,102から放射された光の光透過部材32aへの入射角度を15°とし、また、波長選択部32の平面S1,S2のエネルギー反射率を80%、間隔dを300nmとして、
図7に示す波長特性を有しているものとして説明する。
【0043】
波長選択部32の波長特性は、上述したように、平面S1及び平面S2に挟まれた干渉空間における光束の入射角度、平面S1及び平面S2の間隔並びにエネルギー反射率により決定される。すなわち、これらの値が適切な値であれば、この検出部32mにおいて、第1の光源101に対応した第1の透過センサ111及び第1の反射センサ112で検出される光の強度は、第1の光源101から放射される光の波長が400nmであることから、
図7に示すように波長選択部32の透過率が95%、反射率が5%となるため、この比率に応じた値となる。同様に、第2の光源102に対応した第2の透過センサ121及び第2の反射センサ122で検出される光の強度は、第2の光源102から放射される光の波長が550nmであることから、
図7に示すように波長選択部32の透過率が50%、反射率が50%となるため、この比率に応じた値となる。
図6(a)に示すように、第1及び第2の光源101,102から放射された光の入射角度を、走査型顕微鏡10における励起光及び観察光の入射角度に設定し、上記センサ111,112,121,122で検出される光の強度が上述した割合になるように光透過部材32a,32bの間隔を調整することにより、波長選択部32の波長特性を所望の値に設定することができる。
【0044】
次に、
図6(b)を用いてアライメント顕微鏡により波長選択部32の波長特性を検出する検出部32m′の構成について説明する。この検出部32m′は、波長選択部32を構成する2つの光透過部材32a,32bのそれぞれの位置を正確に計測するため、光透過部材32aには第1のアライメント顕微鏡201及び第3のアライメント顕微鏡203を配置し、光透過部材32bに対しては第2のアライメント顕微鏡202及び第4のアライメント顕微鏡204をそれぞれ配置して構成している。これにより、それぞれの光透過部材32a,32bを形成する各平面S1,S2の位置、あるいは光透過部材32a,32bの側面部に形成されたアライメントマーク(不図示)の位置を精密に計測することで、波長選択部32の波長特性を検出する、すなわち、これにより光透過部材32aと光透過部材32bとの間隔を所望の値に設定している。なお、2つの光透過部材32a,32b(平面S1,S2)の間隔を、より平行に設定するためにはそれぞれの光透過部材32a,32bに対して概ね120度の間隔を空けて3組のアライメント顕微鏡を配置するのが良い。またシステムを簡略化するためには光透過部材32aと光透過部材32bのうちのどちらか片方の最低一箇所にアライメント顕微鏡を配置すればよい。
【0045】
最後に、
図8を用いて測長干渉計により波長選択部32の波長特性を検出する検出部32m″の構成について説明する。この検出部32m″は、波長選択部32を構成する2つの光透過部材32a,32bのそれぞれの位置を正確に計測するため、それぞれの同一方向の側面に反射面R1,R2を設けて測長干渉計を構成する。具体的には、干渉計ヘッド301から出射した光束を偏光ビームスプリッタ302にてP波及びS波に分離し、この偏光ビームスプリッタ302を透過したP波は光透過部材32bの反射面R2に、偏光ビームスプリッタ302で反射したS波は第1のミラー303にて光透過部材32aの反射面R1に入射させる。ここで、この偏光ビームスプリッタ302で分離された2つの光路のいずれにも第1のλ/4板304及び第2のλ/4板305が配置されている。そのため、光透過部材32a,32bのそれぞれの反射面R1,R2にて反射して再び偏光ビームスプリッタ302に入射する際に偏光方向が90度変換されることになる。すなわち、光透過部材32aの反射面R1で反射した光はP波になって第1のミラー303で反射され、偏光ビームスプリッタ302を透過し、光透過部材32bの反射面R2で反射した光はS波になって偏光ビームスプリッタ302で反射されることにより、これらの光が合成されて第2のミラー306に入射し、この第2のミラー306で反射されてレシーバー307に入射する。このレシーバー307より出力される出力信号、すなわち波長選択部32の波長特性に基づいて光透過部材32a,32bの間隔を正確に制御することができる。
【0046】
なお、
図8に示す検出部32m″においては、干渉計を一つだけ配置しているが、より理想的には複数の干渉計を配置して制御することで光透過部材32a,32bの平行度を良好に保つことが可能となり好ましい。
【0047】
また、以上の説明では、波長選択部32により励起光を透過し、観察光(蛍光)を反射するように構成した場合について説明したが、2光子励起により試料を観察する構成の場合には、励起光を反射し、観察光(蛍光)を透過するように構成することも可能である。2光子励起とは、2つの光子を一つの蛍光分子にほぼ同時に衝突させてこの蛍光分子を励起させる観察方法であり、その励起効率は励起光強度の2乗に比例する。このような2光子励起を実現するためには、上述した光源20として、空間的に対物レンズ36の焦点に収束させた照明光(光子)を時間的に圧縮するために、非常に光子密度の高いパルス状の照明光(光子)を供給するフェムト秒パルスレーザ(2光子用レーザ光)を用いることが必要である。ここで、対物レンズ36で集光される2光子用レーザ光の強度は、対物レンズ36の焦点面からの光軸方向の距離の2乗に反比例して減少する。したがって、2光子励起の場合、その励起効率は近似的に焦点面からの光軸方向の距離の4乗に反比例して減少することになるため、結果として焦点面の近傍にある蛍光分子だけが励起され、蛍光を発することになる。すなわち、光軸方向(縦方向)の分解能が高い試料の画像を得ることができる。また、2光子励起の場合、蛍光分子から放射される蛍光は、照明光(光子)の2倍のエネルギーを有しており、波長が1/2となる。そのため、照明光には長波長の赤外レーザを用いることができるため、励起波長と蛍光波長の差を大きくすることができる。以上より、波長選択部32を励起光を反射し、観察光(蛍光)を透過するように構成することが可能となる。
【0048】
但し、
図5に示すように、本実施形態における波長選択部32は、透過する光の波長帯域を先鋭化することができるため、
図1に示すように、この波長帯域において照明光(励起光)を透過させ、その他の波長帯域において観察光(蛍光)を反射させるように配置することが望ましい。