特許第5949060号(P5949060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5949060
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】イオン交換装置及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/42 20060101AFI20160623BHJP
   B01J 49/00 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   C02F1/42 A
   B01J49/00 113
   B01J49/00 191
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-80581(P2012-80581)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-208565(P2013-208565A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真吾
(72)【発明者】
【氏名】堀井 重希
【審査官】 小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−226252(JP,A)
【文献】 特開平03−181384(JP,A)
【文献】 特開2003−001251(JP,A)
【文献】 特開2005−296774(JP,A)
【文献】 特開2012−205996(JP,A)
【文献】 特開2000−354772(JP,A)
【文献】 特許第4161127(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 39/00−49/02
C02F 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換体が充填されたイオン交換体充填層を有するイオン交換装置に被処理水を通水して被処理水中のイオンを分離し、通水停止後に、あらかじめ演算手段により算定された再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件に従って再生剤を通液して該イオン交換体を再生するイオン交換装置において、
該演算手段は、被処理水の水質、通水速度及び通水時間から、通水停止後再生前における該イオン交換体充填層内のイオンの吸着量分布を演算し、該通水停止後再生前の吸着量分布に対して複数の再生条件にて再生させた後の吸着量分布を演算することにより、該再生条件を算定するイオン交換装置であって、
前記通水停止後再生前の吸着量分布の演算と前記再生後の吸着量分布の演算を2回以上繰り返し、最後の再生後の吸着量分布に対して、前記被処理水の水質、通水速度及び通水時間にて通水させた場合における、処理水濃度が所定のイオン濃度に達するまでの採水時間を算出し、該採水時間が所定時間よりも長くなり、かつ、再生剤量又は再生コストが最小となるように前記再生条件を算定することを特徴とするイオン交換装置。
【請求項2】
前記再生後の吸着量分布により、イオン交換体充填層内のイオン残留量が所定値よりも小さくなり、かつ、再生剤量又は再生コストが最小となるように前記再生条件を算定することを特徴とする請求項1に記載のイオン交換装置。
【請求項3】
前記イオン交換装置がカチオン塔とアニオン塔を備えており、演算手段によりカチオン塔とアニオン塔の両方について再生条件を算定した後、該再生条件での再生によりカチオン塔から排出される酸性の再生廃液のpH及び廃液量とアニオン塔から排出される塩基性の再生廃液のpH及び廃液量とを算定し、カチオン塔からの再生廃液とアニオン塔から排出される再生廃液とを混合したときの混合廃液のpHの算出結果が酸性の場合には、アニオン塔の再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件を大きくし、該混合廃液のpHの算出結果が塩基性の場合には、カチオン塔の再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件を大きくすることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン交換装置。
【請求項4】
前記混合廃液のpHの算出結果が所定のpHよりも小さい場合には、該混合溶液が所定のpH域に収まるようにアニオン塔の再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件を大きくし、該混合廃液のpHの算出結果が所定のpHより大きい場合には、該混合廃液が所定のpH域に収まるようにカチオン塔の再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件を大きくすることを特徴とする請求項に記載のイオン交換装置。
【請求項5】
イオン交換体が充填されたイオン交換体充填層を有するイオン交換装置に被処理水を通水して被処理水中のイオンを分離し、通水停止後に、あらかじめ演算手段により算定された再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件に従って再生剤を通液して該イオン交換体を再生するイオン交換装置の運転方法において、
該演算手段は、被処理水の水質、通水速度及び通水時間から、通水停止後再生前における該イオン交換体充填層内のイオンの吸着量分布を演算し、該通水停止後再生前の吸着量分布に対して複数の再生条件にて再生させた後の吸着量分布を演算することにより、該再生条件を算定するイオン交換装置の運転方法であって、
前記通水停止後再生前の吸着量分布の演算と前記再生後の吸着量分布の演算を2回以上繰り返し、最後の再生後の吸着量分布に対して、前記被処理水の水質、通水速度及び通水時間にて通水させた場合における、処理水濃度が所定のイオン濃度に達するまでの採水時間を算出し、該採水時間が所定時間よりも長くなり、かつ、再生剤量又は再生コストが最小となるように前記再生条件を算定することを特徴とするイオン交換装置の運転方法。
【請求項6】
前記再生後の吸着量分布により、イオン交換体充填層内のイオン残留量が所定値よりも小さくなり、かつ、再生剤量又は再生コストが最小となるように前記再生条件を算定することを特徴とする請求項に記載のイオン交換装置の運転方法。
【請求項7】
前記イオン交換装置がカチオン塔とアニオン塔を備えており、演算手段によりカチオン塔とアニオン塔の両方について再生条件を算定した後、該再生条件での再生によりカチオン塔から排出される酸性の再生廃液のpH及び廃液量とアニオン塔から排出される塩基性の再生廃液のpH及び廃液量とを算定し、カチオン塔からの再生廃液とアニオン塔から排出される再生廃液とを混合したときの混合廃液のpHの算出結果が酸性の場合には、アニオン塔の再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件を大きくし、該混合廃液のpHの算出結果が塩基性の場合には、カチオン塔の再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件を大きくすることを特徴とする請求項5又は6に記載のイオン交換装置の運転方法。
【請求項8】
前記混合廃液のpHの算出結果が所定のpHよりも小さい場合には、該混合溶液が所定のpH域に収まるようにアニオン塔の再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件を大きくし、該混合廃液のpHの算出結果が所定のpHより大きい場合には、該混合廃液が所定のpH域に収まるようにカチオン塔の再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件を大きくすることを特徴とする請求項に記載のイオン交換装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン交換装置及びその運転方法に係り、特にイオン交換体の再生条件を最適化可能な装置及び方法に関する。イオン交換装置の形態としては、単層・複層をとわず、再生型のイオン交換装置であれば、純水・超純水装置、復水脱塩装置、軟化器等に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
イオン交換体の再生においては、イオン交換装置の設計時に決定した再生レベル(イオン交換体の容量当たりの再生剤のグラム数)をそのまま適用するのが通常であり、再生剤濃度、再生LV、再生時間といった個々の再生条件については最適化が図られていないことが多い。
【0003】
特許文献1には、あらかじめ測定した被処理水の金属陽イオン総量に基づいてイオン交換樹脂の再生レベルを決定し、再生レベルに見合う量の再生剤(塩水)が供給されるように再生ポンプの作動時間を設定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4161127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のように被処理水中のイオン総量のみで再生条件を最適化することは困難である。これは、再生条件を最適化するためには、通水後再生直前におけるイオン交換体の充填層内のイオンの吸着状態を把握する必要があり、給水条件(給水中の各イオンの濃度、通水量、通水LV等)、装置条件(塔径、イオン交換体充填層高さ等)、イオン交換体の性状(交換容量、イオン選択性、嵩密度等)などにより当該吸着状態が変わるため、吸着状態の正確な予測が難しいためである。
【0006】
本発明は、上記の諸条件を加味した通水・再生のシミュレーション計算を行うことにより、最適な再生条件にてイオン交換体を再生可能なイオン交換装置およびその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のイオン交換装置は、イオン交換体が充填されたイオン交換体充填層を有するイオン交換装置に被処理水を通水して被処理水中のイオンを分離し、通水停止後に、あらかじめ演算手段により算定された再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件に従って再生剤を通液して該イオン交換体を再生するイオン交換装置において、該演算手段は、被処理水の水質、通水速度及び通水時間から、通水停止後再生前における該イオン交換体充填層内のイオンの吸着量分布を演算し、該通水停止後再生前の吸着量分布に対して複数の再生条件にて再生させた後の吸着量分布を演算することにより、該再生条件を算定するイオン交換装置であって、前記通水停止後再生前の吸着量分布の演算と前記再生後の吸着量分布の演算を2回以上繰り返し、最後の再生後の吸着量分布に対して、前記被処理水の水質、通水速度及び通水時間にて通水させた場合における、処理水濃度が所定のイオン濃度に達するまでの採水時間を算出し、該採水時間が所定時間よりも長くなり、かつ、再生剤量又は再生コストが最小となるように前記再生条件を算定することを特徴とするものである。
【0008】
本発明のイオン交換装置の運転方法は、イオン交換体が充填されたイオン交換体充填層を有するイオン交換装置に被処理水を通水して被処理水中のイオンを分離し、通水停止後に、あらかじめ演算手段により算定された再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件に従って再生剤を通液して該イオン交換体を再生するイオン交換装置の運転方法において、該演算手段は、被処理水の水質、通水速度及び通水時間から、通水停止後再生前における該イオン交換体充填層内のイオンの吸着量分布を演算し、該通水停止後再生前の吸着量分布に対して複数の再生条件にて再生させた後の吸着量分布を演算することにより、該再生条件を算定するイオン交換装置の運転方法であって、前記通水停止後再生前の吸着量分布の演算と前記再生後の吸着量分布の演算を2回以上繰り返し、最後の再生後の吸着量分布に対して、前記被処理水の水質、通水速度及び通水時間にて通水させた場合における、処理水濃度が所定のイオン濃度に達するまでの採水時間を算出し、該採水時間が所定時間よりも長くなり、かつ、再生剤量又は再生コストが最小となるように前記再生条件を算定することを特徴とするものである。
【0009】
本発明では、前記再生後の吸着量分布により、イオン交換体充填層内のイオン残留量が所定値よりも小さくなり、かつ、再生剤量又は再生コストが最小となるように前記再生条件を算定することが好ましい。
【0011】
本発明では、前記イオン交換装置がカチオン塔とアニオン塔を備えており、演算手段によりカチオン塔とアニオン塔の両方について再生条件を算定した後、該再生条件での再生によりカチオン塔から排出される酸性の再生廃液のpH及び廃液量とアニオン塔から排出される塩基性の再生廃液のpH及び廃液量とを算定し、カチオン塔からの再生廃液とアニオン塔から排出される再生廃液とを混合したときの混合廃液のpHの算出結果が酸性の場合には、アニオン塔の再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件を大きくし、該混合廃液のpHの算出結果が塩基性の場合には、カチオン塔の再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件を大きくすることが好ましい。
【0012】
この場合、前記混合廃液のpHの算出結果が所定のpHよりも小さい場合には、該混合溶液が所定のpH域に収まるようにアニオン塔の再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件を大きくし、該混合廃液のpHの算出結果が所定のpHより大きい場合には、該混合廃液が所定のpH域に収まるようにカチオン塔の再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件を大きくすることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、通水条件によって異なる通水後再生前におけるイオン交換体充填層内のイオン吸着量分布を予測し、その分布を初期条件として再生条件の最適化を行うため、イオン交換装置の再生における再生剤量又は再生コストを最小限にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】イオン交換塔のモデル図である。
図2】試験結果を示すグラフである。
図3】試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明においては、再生剤濃度、再生剤通液速度及び再生剤通液時間から選ばれる1以上の再生条件の最適化を行うために、後述のイオン交換シミュレータを使用するのが好ましい。
【0016】
<イオン交換シミュレータ>
イオン交換装置への通水シミュレーションにおいては、式(1)の物質収支式及び式(2)の吸着速度式を連立させることにより、イオン交換体充填層内における対象イオンのイオン交換体内濃度q及び液中濃度Cの経時変化を算定する一次元固定層のモデルを用いることができる(参考:化学工学便覧(改訂第六版)丸善株式会社P.702〜703)。
【0017】
【数1】
ε:充填されたイオン交換体の空隙率[−]
C:液中濃度[mol/L]
t:時間[h]
u:通水LV[m/h]
z:充填層入口からの距離[m]
γ:イオン交換体の嵩密度([カラム内のイオン交換体重量]/[カラム充填層容積])[kg/L]
q:イオン交換体内濃度[mol/kg]
【0018】
【数2】
:総括物質移動容量係数[l/h]
:qと平衡な液中濃度[mol/L]
【0019】
このモデルを図1に示す。図1の通り、イオン交換塔内に充填されたイオン交換体を充填層最上面から充填層最下面に向かって、F,F,F……………Fのn個の層状のフラクションよりなるものとする。フラクションの数nは多ければ多いほど精度が上がるが、nは50〜10000程度であればよい。
【0020】
上記式(1)は、任意のフラクションFにおける単位時間当りのイオンの流入量が該フラクションFからのイオンの流出量と該フラクションFに属するイオン交換体へのイオン吸着量との和に等しいという物質収支を表わすものである。
【0021】
式(2)は、該フラクションFに属するイオン交換体のイオン吸着量qの単位時間当りの増加量は、フラクションFに流入する水中のイオン濃度Cと、該qと平衡な液中イオン濃度Cとの差に比例することを表わす。
【0022】
対象イオンがAイオン単成分とした場合、qとCとの関係は次式(3)にて表される。
【0023】
【数3】
最下段のフラクションFの流出水は、イオン交換塔からの流出水である。従って、(2)式を(1)式に代入し、Cをtで解くことにより、フラクションFのイオン濃度Cと通水開始からの経過時間tとの関係を表わす式がK,ε,γ,Q,KOH(上記(3)式の選択係数。以下、同様。),C,C,z,uを用いて表わされる。このうち、ε,γ,Q,C,z(充填層高)は既知である。KOHは、平衡吸着試験で求めておくか、又はカラム試験結果とシミュレーションをフィッティングすることにより求めることができる。
【0024】
また、対象イオンがN種の成分とした場合、NイオンにおけるqとCの関係は次式(4)にて表される。
【0025】
【数4】
【0026】
KAOH、KBOH、…KNOHについては、N種のイオンについて、それぞれ単成分系での平衡吸着試験により求めるか、又はカラム試験結果とシミュレーション結果をフィッティングすることにより求めることができる。
【0027】
次に、イオン交換塔からの流出水のイオン濃度を経時的に測定し、フラクションFからの流出水濃度経時変化が実測値と合致するようにK,KNOHを定める。このようにして求めた式からイオン交換装置のイオン吸着量の分布と流出水のイオン濃度の経時変化が求められる。
【0028】
一方、再生のシミュレーションの場合には、通水後のイオン吸着量分布を初期値として、再生剤のみを通水した場合の通水シミュレーションを行えばよい。さらに再生後のイオン吸着量分布を初期値として被処理水を通水した場合のシミュレーションを行えば、実装置における通水−再生を繰り返した場合における通水状態を再現することができる。
【0029】
なお、イオン交換シミュレータとしては、適用するモデルにより予測精度は異なるが、上述のシミュレーションモデル以外に、各種のシミュレーションモデルを利用することができる。たとえば、下記の文献i)〜iii)に開示されるシミュレーションモデルを採用することが可能である。
i) 片岡,武藤,西機;ケミカルエンジニアリングVol.40 No.2 Page.144-147 (1995.02)
ii) Journal of Hazardous Materials 152(2008)241-249 “Prediction of ion-exchange column breakthrough curves by constant-pattern wave approach”
iii) Reactive & Functional Polymers 60(2004)121-135
【0030】
本発明においては、再生条件の最適化を行うために、再生剤濃度、再生LV、再生時間をそれぞれ変化させ、再生剤量又は再生コスト(再生剤原価×再生剤量)が最小となる条件を算出することが可能である。その際には、
(1) イオン交換体充填層内のイオン残留量を所定値よりも小さくする、
(2) 通水時に所定の採水量を確保できるようにする
といった制約条件を与える必要がある。
【0031】
イオン交換装置は完全な再生状態、すなわちカチオン交換体であれば完全なH形(軟水器の場合は通常Na形)、アニオン交換体であれば完全なOH形の状態から通水−再生を繰り返すと、少しずつイオン交換体充填層内のイオン残留量が増え、数回の通水−再生によりイオン残留量が落ち着いてくる(図2)。
【0032】
逆に、完全な負荷状態から再生−通水を繰り返すと、少しずつイオン交換体充填層内のイオン残留量が減り、数回の再生−通水によりイオン残留量が落ち着いてくる(以下、本願において、「通水−再生の繰り返し」には、この「再生−通水の繰り返し」も含むこととする)。したがって、通水時に所定の採水量を確保できることを制約条件として与える場合には、再生条件ごとに通水−再生の繰り返し計算を行い、イオン残留量が落ち着いた状態で、通水の計算をおこなって、採水量を確保可能かどうかを確認する必要がある。通水−再生の繰り返し計算を行う場合には、2回以上、好ましくは3回〜6回の繰り返し計算の後、通水の計算を行うのが好ましい。繰り返し計算を行わないと、イオン残留量がまだ落ち着いておらず、通水後再生前のイオンの吸着量分布が実際と異なるおそれがあり、また、過度に繰り返し計算を行うと、設定された再生条件ごとに繰り返し計算を行うため、計算に多大な時間を要してしまうおそれがある。
【0033】
<廃液pHによる再生条件の最適化>
カチオン塔とアニオン塔を備えたイオン交換装置においては、カチオン塔とアニオン塔からの再生廃液のpHとそれぞれの廃液量をシミュレーションにより予測し、両方を混合した混合廃液のpHが酸性の場合には、アニオン塔の再生剤(通常NaOH)を増やした再生条件とすることにより、再生廃液の中和処理における中和剤を削減するとともに、アニオン塔内の残留イオン量を減らすことができるため、アニオン塔の運転に余裕をもたせたり、樹脂塔の構成によっては樹脂交換時に樹脂量を低減したりすることができる。混合廃液のpHが塩基性の場合には、逆にカチオン塔の再生剤(通常HCl、軟水器の場合は通常NaCl)を増やして再生することにより同様の効果が得られる。
【0034】
その際には、再生条件を複数条件に振ったシミュレーションを行い、混合廃液のpHが好ましくは4〜10、より好ましくは5〜9となる再生条件を採用する。
【実施例】
【0035】
[試験例1〜4]
図2は、強カチオン交換樹脂の充填層の後段に強アニオン交換樹脂の充填層を設けたイオン交換装置(諸元を表1に示す。)に、調製した被処理水(水質を表2に示す。)を90L/hの上向流で通水した結果であり、試験例1〜4がイオン交換塔シミュレータによるシミュレーション結果である。再生は下降流(向流再生)であり、通水−再生を繰り返した(試験例1は完全再生型の樹脂に通水を1度行ったものであり、再生は行っていない)。再生条件は表3の通りである。
【0036】
図2の試験例1〜4より、通水−再生を繰り返すと採水時間が短くなっていくことがわかり、この試験例においては、通水−再生を3回以上繰り返しても採水時間の差がほとんどなくなることがわかる。
【0037】
図3には、試験例2〜4の再生後、最後の通水前におけるイオン吸着量分布を示す。試験例2(通水−再生1回)に比べ、試験例3(通水−再生3回)は吸着帯が若干処理水側に進行し、イオンの残留量も増えていることがわかるが、試験例4(通水−再生10回)のイオン吸着分布は試験例3とほとんど変わらないことがわかる。したがって、3回以上の通水−再生を複数回繰り返したシミュレーションを行えば、実系における再生後のイオン吸着量分布の再現精度を高めることができることがわかる。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
[試験例5]
試験例3のシミュレーションと同条件で通水及び再生を行った実測値を図2に示す。
【0042】
試験例3と試験例5の破過曲線は非常によく一致しており、一次元固定層モデルによるシミュレーションにより、十分にイオン交換装置内の挙動を再現可能であることがわかる。
【0043】
[実施例1]
試験例3及び試験例5と同じ3回の通水−再生繰返しの条件において、最適な再生条件を決定するため、カチオン塔について再生剤濃度1〜10%、再生LV8〜30m/h、再生時間(薬注時間)1〜20minの条件で種々変化させてシミュレーションを行った。試験例3と同じ採水量を確保でき、再生剤の純分量が最も小さくなる再生条件を探索した結果、カチオン塔は再生剤濃度1.8%、再生LV9m/h、再生時間20minの条件が最適であり、再生剤の純分量を10%削減できることがわかった。
【符号の説明】
【0044】
〜F フラクション
図1
図2
図3