特許第5949100号(P5949100)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5949100
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】観察光学系
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/02 20060101AFI20160623BHJP
   G02B 23/02 20060101ALI20160623BHJP
   G02B 25/00 20060101ALI20160623BHJP
   G03B 5/00 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   G02B13/02
   G02B23/02
   G02B25/00
   G03B5/00 J
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-101850(P2012-101850)
(22)【出願日】2012年4月26日
(65)【公開番号】特開2013-228632(P2013-228632A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100092897
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 正悟
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100157417
【弁理士】
【氏名又は名称】並木 敏章
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 陽介
【審査官】 堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−116989(JP,A)
【文献】 特開平11−109256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00−17/08
G02B 21/02−21/04
G02B 25/00−25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸に沿って物体側から順に並んだ、対物レンズ系と、接眼レンズ系とを備え、
前記対物レンズ系の後側焦点と前記接眼レンズ系の前側焦点とが略一致するように配置された観察光学系であって、
前記接眼レンズ系は、物体側から順に並んだ、負の屈折力を持つ第1レンズ群と、正の屈折力を持つ第2レンズ群とからなり、前記第1レンズ群と前記第2レンズ群との間に中間像が形成される構成であり、
前記第1レンズ群を補正レンズ群とし、この第1レンズ群を、光軸に対して直交する方向へ移動させることにより、像のブレを補正することが可能であり、
以下の条件式を満足することを特徴とする観察光学系。
|φex−3|/2 < x < |φex−3|/2 + φex/3
1.6 < f2e/fe < 4.5
1.5 < (−f1e)/fe < 3.8
但し、
φex:前記観察光学系の射出瞳径、
x:像面補正量、
f1e:前記第1レンズ群の焦点距離、
f2e:前記第2レンズ群の焦点距離、
fe:前記接眼レンズ系の焦点距離。
なお、前記像面補正量xは、像ブレ補正時の前記補正レンズ群の移動に伴う、前記接眼レンズ系の前側焦点の光軸直交方向への移動量である。
【請求項2】
前記対物レンズ系と前記接眼レンズ系との間に、正立光学系を備えることを特徴とする請求項1に記載の観察光学系。
【請求項3】
それぞれに前記接眼レンズ系を備えた左右一対の鏡筒と、
前記一対の接眼レンズ系の光軸間距離が変位するように前記一対の鏡筒の位置関係を調整する眼幅調整機構とを備え、
像のブレを補正する際には、前記眼幅調整機構による前記鏡筒の回転に応じて、前記補正レンズ群の移動方向を変化させることを特徴とする請求項1または2に記載の観察光学系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、望遠鏡、双眼鏡等の観察用の光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
対物レンズ系の一部のレンズ群を変位させることで、手振れ等による画像のブレを補正する防振機能を備えた観察光学系が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−186228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の発明のように、レンズ群を光軸に対して直交方向に移動させるシフト方式を用いて防振を行う方法では、シフトさせるレンズ群が小型軽量且つ単純な構成であることが望まれる。シフトさせるレンズ群が大型で高重量であると、シフトに大きな駆動力を必要とし、駆動機構も大型化しやすい。ゆえに、天体望遠鏡など、レンズ径の大きな観察光学系への適用には不向きであった。また、シフトさせるレンズ群が複雑な構成であると、透過率やコスト面からも好ましくない。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、小型で簡単な構成でありながら、像ブレ補正が可能な観察光学系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するため、本発明を例示する第一の態様に従えば、光軸に沿って物体側から順に並んだ、対物レンズ系と、接眼レンズ系とを備え、前記対物レンズ系の後側焦点と前記接眼レンズ系の前側焦点とが略一致するように配置された観察光学系であって、前記接眼レンズ系は、物体側から順に並んだ、負の屈折力を持つ第1レンズ群と、正の屈折力を持つ第2レンズ群とからなり、前記第1レンズ群と前記第2レンズ群との間に中間像が形成される構成であり、前記第1レンズ群を補正レンズ群とし、この第1レンズ群を、光軸に対して直交する方向へ移動させることにより、像のブレを補正することが可能であり、以下の条件式を満足することを特徴とする観察光学系が提供される。
【0007】
|φex−3|/2 < x < |φex−3|/2 + φex/3
1.6 < f2e/fe < 4.5
1.5 < (−f1e)/fe < 3.8
但し、
φex:前記観察光学系の射出瞳径、
x:像面補正量
f1e:前記第1レンズ群の焦点距離、
f2e:前記第2レンズ群の焦点距離、
fe:前記接眼レンズ系の焦点距離。
なお、前記像面補正量xは、像ブレ補正時の前記補正レンズ群の移動に伴う、前記接眼レンズ系の前側焦点の光軸直交方向への移動量である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小型で簡単な構成でありながら、像ブレ補正が可能な観察光学系を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る観察光学系の概念図である。
図2】像ブレ補正時に観察光学系の射出瞳が瞳孔からケラレない条件を説明する図であり、(a)は射出瞳径φexが瞳孔径より小さい場合、(b)は射出瞳径φexが瞳孔径より大きい場合を示す。
図3】本実施形態に係る観察光学系に設けられた眼幅調整機構の説明図であり、(a)は像ブレ補正前の状態、(b)は像ブレ補正後の状態をそれぞれ示す。
図4】第1実施例に係る観察光学系のレンズ構成図である。
図5】第1実施例に係る観察光学系の横収差図であり、(a)は像ブレ補正前の状態(シフト量0mm,像変位量0°)、(b)と(c)は像ブレ補正後の状態(シフト量0.94mm,像変位量0.5°)をそれぞれ示す。
図6】第2実施例に係る観察光学系のレンズ構成図である。
図7】第2実施例に係る観察光学系の横収差図であり、(a)は像ブレ補正前の状態(シフト量0mm,像変位量0°)、(b)と(c)は像ブレ補正後の状態(シフト量1.61mm,像変位量0.14°)をそれぞれ示す。
図8】第3実施例に係る観察光学系のレンズ構成図である。
図9】第3実施例に係る観察光学系の横収差図であり、(a)は像ブレ補正前の状態(シフト量0mm,像変位量0°)、(b)と(c)は像ブレ補正後の状態(シフト量1.81mm,像変位量0.1°)をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態に係る観察光学系は、地上望遠鏡や天体望遠鏡などの観察用の光学系として用いるものであり、このような光学系においては一般的に対物レンズ系と比べて相対的にレンズ径が小さい、接眼レンズ系の一部または全体を補正レンズ群として変位させて、像のブレ補正を行うとともに、補正レンズ群を変位させる駆動機構をコンパクトにして、光学系全体の簡素化・小型化を図るものである。
【0011】
具体的には、観察光学系は、図1に示すように、光軸に沿って物体側から順に並んだ、対物レンズ系Goと、接眼レンズ系Geとを備え、対物レンズ系Go(全系の焦点距離fo)の後側焦点と、接眼レンズ系Ge(全系の焦点距離fe)の前側焦点とが略一致するように配置され、接眼レンズ系Geの全体または一部を補正レンズ群として、光軸に対して直交する方向(矢印yで示す方向)へ移動させることにより、像のブレを補正することが可能であり、条件式(1)を満足するように構成されている。
【0012】
|φex−3|/2 < x < |φex−3|/2 + φex/3 …(1)
但し、
φex:観察光学系の射出瞳径、
x:像面補正量。
なお、像面補正量xは、像ブレ補正時の補正レンズ群の移動に伴う、接眼レンズ系Geの前側焦点の光軸直交方向への移動量である。
【0013】
この構成によれば、(相対的に)レンズ径が小さい接眼レンズ系Geの一部または全体を変位させることにより像のブレを補正するため、接眼レンズ系Geを変位させるための駆動機構の大型化を抑えて、光学系全体の小型化を図ることができる。また、従来の観察光学系では、レンズ径の大きい対物レンズ系を利用して防振を行っていたが、テレフォトタイプもしくは内焦式にするなど、防振用の補正レンズ群を追加するための構成が必須であり、光学系が複雑になりやすいという問題があった。しかしながら、本実施形態に係る観察光学系では、(相対的に)レンズ径が大きい対物レンズ系Goを、防振のために移動させる必要がないので、対物レンズ系Goを複雑な構成にすることなく、極めて単純な光学配置(例えば、後述の実施例ではいずれも、対物レンズ系Goが、正レンズLo1と負レンズLo2との接合レンズと、負レンズLo3とからなる3枚構成である)とすることができる。これは、透過率や製造コストの面から言っても好ましい。
【0014】
ところで、本実施形態のようなアフォーカルな観察光学系では、最終的な結像面は観察
者の網膜1である。しかしながら、網膜(眼球)1は手振れによって変位しない。つまり、手振れによる像ブレを補正するためには、観察光学系の光軸に対してではなく、網膜(眼球)1に対して行う必要がある。しかしながら、像ブレ補正を行うために、接眼レンズ系Geの全体または一部である補正レンズ群を、光軸に対して直交する方向に移動(シフト)させると、該レンズ群の移動に伴って、接眼レンズ系Geの射出瞳位置も光軸と直交する方向に移動する。つまり、アイポイントE.P.が観察者の眼球1に対して移動することになり、射出瞳径の小さい観察光学系では、眼球の瞳孔によるケラレが生じるおそれがある。瞳孔によるケラレが発生すると、周辺視野が欠けたり、視野が暗くなったりするので、観察者にとって不快である。
【0015】
そこで、本実施形態の観察光学系では、条件式(1)において、像面補正量x、すなわち、像ブレ補正時の補正レンズ群の移動に伴う、接眼レンズ系Geの前側焦点の光軸に垂直な面内における移動量の許容範囲を規定しており、この条件を満足するように補正レンズ群を移動させれば、十分な像ブレ補正効果を確保しつつ、射出瞳径が小さい光学系であっても、像ブレ補正時の瞳孔によるケラレを最小限に抑えて、違和感なく像を観察することを可能にしている。
【0016】
ここで、条件式(1)を導出するに至った根拠を説明する。人間の眼球の瞳孔径は一般に3.0mm程度とされるので、この瞳孔径3.0mmを基準として、像ブレ補正時に観察光学系の射出瞳が瞳孔からケラレない条件を考える。
【0017】
まず、図2(a)に示すように、射出瞳径φexが瞳孔径より小さい場合、像ブレ補正時に、眼球1の光軸A´と直交する方向へのアイポイント(接眼レンズ系Geの射出瞳位置)の移動量が(3.0−φex)/2で収まっていれば、射出瞳は瞳孔径内に全て収まり、瞳孔よりケラレることなく、像の観察が可能である。
【0018】
次に、図2(b)に示すように、射出瞳径φexが瞳孔径より大きい場合、像ブレ補正時に、眼球1の光軸A´と直交する方向へのアイポイント(接眼レンズ系Geの射出瞳位置)の移動量が(φex−3.0)/2で収まっていれば、射出瞳は瞳孔を完全に満たす。
【0019】
従って、眼球1の光軸A´と直交する方向へのアイポイントの移動量が|φex−3.0|/2の範囲に収まれば、像ブレ補正時であっても、網膜上の照度は変化せず、違和感なく像を観察することが可能である。すなわち、像面補正量xの最大値は、|φex−3.0|/2以下であることが望ましい。
【0020】
しかしながら、射出瞳径φexと瞳孔径とがほとんど等しい場合、または対物レンズ系Goの焦点距離が長く必要な像面補正量xが大きい場合、前述の条件では補正量が不足することになり、十分な像ブレ補正効果が得られないことがある。そこで、本実施形態では、射出瞳径φexの1/3を補正項として、条件式(1)に加えている。
【0021】
以上のように設定された条件式(1)によれば、多くの光学系において、十分な像ブレ補正効果が得られるとともに、像ブレ補正時であっても違和感の少ない像の観察が可能となる。なお、条件式(1)では、瞳孔径3.0mmを基準としているが、実際の観察時の瞳孔径が3.0mmでなくとも、瞳のケラレが大きな問題となることはない。
【0022】
本実施形態に係る観察光学系において、接眼レンズ系Geは、物体側から順に並んだ、負の屈折力を持つ第1レンズ群G1と、正の屈折力を持つ第2レンズ群G2とからなり、第1レンズ群G1と第2レンズ群G2との間に中間像が形成される構成であり、補正レンズ群は第1レンズ群G1であり、次の条件式(2),(3)を満たすように構成されることが好ましい。
【0023】
1.6 < f2e/fe < 4.5 …(2)
1.5 < (−f1e)/fe < 3.8 …(3)
但し、
f1e:接眼レンズ系Geの第1レンズ群G1の焦点距離、
f2e:接眼レンズ系Geの第2レンズ群G2の焦点距離、
fe:接眼レンズ系Geの全体の焦点距離。
【0024】
条件式(2)は、補正レンズ群である接眼レンズ系Geの第1レンズ群G1が、受け持つ倍率を規定するものである。すなわち、f2e/feは、像ブレ補正時に、第1レンズ群G1が光軸から変位した際の像の移動量として考えることができる。f2e/feの値を小さくすると、対物レンズ系Goによって発生した諸収差が拡大されず、特に軸上色収差、倍率色収差の補正に対して有利に働く。しかしながら、条件式(2)の下限値を下回ると、第1レンズ群G1による像の移動量が小さくなりすぎ、防振に際して第1レンズ群G1の光軸と直交する方向への移動量が大きくなり、過大な偏心収差を発生させることになる。また、本実施形態のように接眼レンズ系Geが高倍率である場合には、第2レンズ群G2の焦点距離を短くしなければならず、十分なアイレリーフの確保が難しくなる。
【0025】
一方、f2e/feの値を大きくすると、防振に際して第1レンズ群G1の移動量を小さくすることが可能となるので、偏心によるコマ収差の発生を最小限に抑えることができる。また、防振のために補正レンズ群を移動させる駆動機構にかかる負荷を小さくし、消費電力を抑えることができる。しかしながら、条件式(2)の上限値を上回ると、対物レンズ系Goの収差を過大に拡大することになるので、観察光学系の全体の収差補正が困難となり、好ましくない。
【0026】
本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(2)の下限値を1.8とすることが好ましい。本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(2)の上限値を4.0とすることが好ましい。
【0027】
条件式(3)は、第1レンズ群G1の、接眼レンズ系Geに対する相対的な屈折力を規定するものである。(−f1e)/feの値を小さくすると、第1レンズ群G1の屈折力が大きくなるため、接眼レンズ系Geのペッツバール和がゼロに近づき、像の平坦性が向上する。また、所望倍率を得るための距離が短くなるため、軸外光束の第1レンズ群G1での変位角が大きくなり、十分なアイレリーフを確保しやすくなる。しかしながら、条件式(3)式の下限値を下回ると、第1レンズ群G1の接眼レンズ系Geに対する屈折力が大きくなりすぎ、防振に際して第1レンズ群G1が光軸と直交する方向へ変位したときの偏心コマ収差の発生が過剰となる。さらに、第2レンズ群G2の径が大きくなり、好ましくない。
【0028】
一方、(−f1e)/feの値を大きくすると、像ブレ補正時における収差補正には有利に働く。しかしながら、条件式(3)の上限値を上回ると、第1レンズ群G1の屈折力が不足するため、接眼レンズ系Geの全長を徒に長くし、また像の平坦性を悪化させることになり、好ましくない。
【0029】
本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(3)の下限値を1.7とすることが好ましい。本実施形態の効果を確実なものとするために、条件式(3)の上限値を3.2とすることが好ましい。
【0030】
このような観察光学系によれば、望遠鏡を架台に載置するときに発生するような、微小な振動による像ブレを接眼レンズ系Geを変位させることよって良好に補正することがで
きる。つまり、本実施形態の観察光学系は、特に像ブレの影響を受けやすい、高倍率の望遠鏡に適していることが分かる。
【0031】
本実施形態に係る観察光学系は、対物レンズ系Goと接眼レンズ系Geとの間に、正立プリズムPを備えることが好ましい。この構成によれば、観察光学系の全長を短くすることができる。
【0032】
本実施形態に係る観察光学系は、双眼鏡用の光学系として用いることも可能である。この場合、それぞれに接眼レンズ系Geを備えた左右一対の鏡筒40と、一対の接眼レンズ系Geの光軸間距離PDが変位するように一対の鏡筒40の位置関係を調整する眼幅調整機構とを備え、像のブレを補正する際には、眼幅調整機構による一対の鏡筒40の位置調整方向に応じて、接眼レンズ系Geの全体またはその一部である補正レンズ群Ghの移動方向を変化させるように構成することが好ましい(図3(a)参照)。
【0033】
眼幅調整機構は、双眼鏡において、眼の間隔が観察者によって異なることに鑑みて、観察者が観察しやすいように、接眼レンズ系の光軸間距離を任意に設定可能にするものである。その方法としては、左右の光学系をそれぞれの光軸と平行な一つの共通な回転軸を中心に回転させることによって行う方法(1軸式)や、左右の光学系をそれぞれ別の回転軸を中心として回転させる方法(2軸式)などが知られている。いずれの方法においても、眼幅調整時には、接眼レンズ系を眼幅調整の軸を中心として回転させるため、手振れによる中間像の変位方向は接眼レンズ系の光軸に対して回転することになる。従って、像のブレを補正するためには、補正レンズ群の鏡筒に対する移動方向を、眼幅調整に応じて変えなくてはならない。
【0034】
図3(a)に示すように、手振れによってある面内でチルトが起こったとき(すなわち、観察光学系の光軸と眼球の光軸とが平行ないし一致した静止状態から、観察光学系の光軸が傾いたとき)、像のブレを補正するためには、補正レンズ群Ghのシフトを、その面と平行な面内で行う必要がある。前述の通り、鏡筒40は眼幅調整を行う際には、(紙面垂直方向に延びる)接眼レンズ系の光軸Aと平行に設けられた、軸Bを中心にして回転する。よって、適切な手振れ補正のためには、図3(b)に示すように、補正レンズ群Ghの移動方向を、鏡筒40に対して変化させなければならない。例えば、鏡筒40の上下方向および左右方向の角速度を検出する振動ジャイロ等のセンサ(不図示)を備え、眼幅調整に伴い鏡筒40が回転したときには、鏡筒の回転に伴う補正レンズ群Ghのシフト方向の回転を補正し、前記センサからの角速度の情報に基づいて左右の補正レンズ群Ghのシフト方向が平行になるようにシフトさせればよい。その結果、眼幅調整が可能で、且つ、手振れによる像振れを良好に低減する防振機能を有した、使い勝手の良い双眼鏡を提供することができる。
【実施例】
【0035】
これより本実施形態に係る各実施例について、図面に基づいて説明する。以下に、表1〜表3を示すが、これらは第1実施例〜第3実施例における各諸元の表である。
【0036】
なお、各実施例では収差特性の算出対象として、C線(波長656.2730nm)、d線(波長587.5620nm)、F線(波長486.1330nm)を選んでいる。
【0037】
表中の[全体諸元]において、foは対物レンズ系Goの焦点距離、feは接眼レンズ系Geの焦点距離、f1eは第1レンズ群G1の焦点距離、f2eは第2レンズ群G2の焦点距離、φexは観察光学系の射出瞳径、ωは半画角(単位:°)を示す。
【0038】
表中の[レンズ諸元]において、面番号は光線の進行する方向に沿った物体側からの光学面の順序、Rは各光学面の曲率半径、Dは各光学面から次の光学面(又は像面)までの
光軸上の距離である面間隔、ndは光学部材の材質のd線に対する屈折率、νdは光学部材の材質のd線を基準とするアッベ数を示す。物面は物体面を、曲率半径の「∞」は平面又は開口を示す。空気の屈折率「1.000000」は省略する。
【0039】
表中の[条件式]において、条件式(1)〜(3)に対応する値を示す。
【0040】
以下、全ての諸元値において、掲載されている焦点距離、曲率半径、面間隔、その他の長さ等は、特記のない場合一般に「mm」が使われるが、光学系は比例拡大又は比例縮小しても同等の光学性能が得られるので、これに限られるものではない。また、単位は「mm」に限定されることなく、他の適当な単位を用いることが可能である。
【0041】
ここまでの表の説明は全ての実施例において共通であり、以下での説明を省略する。
【0042】
(第1実施例)
第1実施例について、図4図5及び表1を用いて説明する。第1実施例に係る観察光学系10は、図4に示すように、光軸に沿って物体側から順に並んだ、対物レンズ系Goと、正立プリズムPと、接眼レンズ系Geとを有して構成される。なお、正立プリズムPは、図4においては展開した状態で示されている。
【0043】
対物レンズ系Goは、光軸に沿って物体側から順に並んだ、両凸レンズLo1と物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズLo2との接合レンズと、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズLo3とから構成される。
【0044】
接眼レンズ系Geは、光軸に沿って物体側から順に並んだ、両凹レンズLe1と両凸レンズLe2との接合レンズと、両凸レンズLe3と、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズLe4とから構成される。
【0045】
第1実施例に係る観察光学系10では、接眼レンズ系Geの全体を補正レンズ群として、光軸に対してほぼ直交する方向へ移動させることにより、手振れ等に起因する像のブレを補正できるように構成されている。本実施例では、0.5°だけ像をシフトする際の、補正レンズ群のシフト(移動)量は0.94mmとなっている。
【0046】
下記の表1に、第1実施例における各諸元の値を示す。表1における面番号1〜16が、図4に示す曲率半径R1〜R16の各光学面に対応している。なお、面番号1〜5は対物レンズ系、面番号6〜9は正立プリズムP、面番号10〜16は接眼レンズ系Geを示す。
【0047】
(表1)
[全体諸元]
対物レンズ系の焦点距離fo 129.6
接眼レンズ系の焦点距離fe 10.8
観察光学系の倍率 12
対物レンズ系の有効径 25
画角2ω 4.2°

[レンズ諸元]
面番号 R D nd νd
1 52.700 5.50 1.516800 64.10
2 -38.545 2.00 1.749501 35.19
3 -86.210 32.10
4 170.000 2.50 1.516800 64.10
5 44.150 14.30
6 ∞ 30.00 1.568829 56.05
7 ∞ 1.40
8 ∞ 26.00 1.568829 56.05
9 ∞ 18.75
(中間像) ∞ 4.38
10 -40.000 1.80 1.805180 25.43
11 9.600 6.50 1.713000 53.89
12 -18.500 0.20
13 18.500 3.20 1.620410 60.29
14 -65.000 0.20
15 18.500 2.70 1.620410 60.29
16 176.300

[条件式]
φex =2.08
|φex−3|/2 =0.46
|φex−3|/2 + φex/3 =1.153

条件式(1) x =0.94
【0048】
表1から、第1実施例に係る観察光学系10は、条件式(1)を満たすことが分かる。なお、条件式(2)、(3)は、本実施例に該当しない。
【0049】
図5は、第1実施例に係る観察光学系10の横収差図を示す。同図中、(a)は補正レンズ群(接眼レンズ系Ge全体)を光軸上に配置した状態、つまり像変位量がゼロのときの横収差を示し、(b)と(c)は像のブレ補正を行うため、補正レンズ群(接眼レンズ系Ge全体)を光軸と直交する方向に0.94mm変位させた状態、つまり光軸に対して0.5°だけ像を変位させたときの横収差図を示す。各収差図において、ωは半画角を示す。
【0050】
各収差図から明らかなように、第1実施例に係る観察光学系10は、像ブレ補正を行わないときも、像ブレ補正を行ったときも、収差が良好に補正されていることが分かる。また、一般に対物レンズ系の一部のレンズ群を光軸と直交する方向に変位させると、偏心によるコマ収差が発生して像の品位を損なうことになるが、第1実施例のように中間像Iを境に接眼レンズ系Ge全体を変位させると、偏心コマ収差が発生せず、より良好な像質を得ることができる。
【0051】
(第2実施例)
第2実施例について、図6図7及び表2を用いて説明する。第2実施例に係る観察光学系20は、図6に示すように、光軸に沿って物体側から順に並んだ、対物レンズ系Goと、接眼レンズ系Geとを有して構成される。
【0052】
対物レンズ系Goは、光軸に沿って物体側から順に並んだ、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズLo1と両凸レンズLo2との接合レンズと、物体側に凸面を向けた平凸レンズLo3とから構成される。
【0053】
接眼レンズ系Geは、光軸に沿って物体側から順に並んだ、負の屈折力を持つ第1レンズ群G1と、正の屈折力を持つ第2レンズ群G2とからなり、第1レンズ群G1と第2レンズ群G2との間に中間像が形成されるように構成されている。第1レンズ群G1は、光
軸に沿って物体側から順に並んだ、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズLe1と、両凹レンズLe2と物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズLe3との接合レンズとから構成される。第2レンズ群G2は、光軸に沿って物体側から順に並んだ、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズLe4と、両凹レンズLe5と両凸レンズLe6との接合レンズと、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズLe7と、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズLe8とから構成される。
【0054】
第2実施例に係る観察光学系20では、接眼レンズ系Geを構成する第1レンズ群G1を補正レンズ群として、光軸に対してほぼ直交する方向へ移動させることにより、手振れ等に起因する像のブレを補正できるように構成されている。本実施例では、0.14°だけ像をシフトする際の、補正レンズ群のシフト(移動)量は1.61mmとなっている。
【0055】
下記の表2に、第2実施例における各諸元の値を示す。表2における面番号1〜19が、図6に示す曲率半径R1〜R19の各光学面に対応している。なお、面番号1〜5は対物レンズ系Go、面番号6〜19は接眼レンズ系Geを示す。
【0056】
(表2)
[全体諸元]
対物レンズ系の焦点距離fo 480.0
接眼レンズ系の焦点距離fe 5.0
第1レンズ群の焦点距離f1e -13.0
第2レンズ群の焦点距離f2e 18.3
観察光学系の倍率 96
対物レンズ系の有効径80
画角2ω 0.75°

[レンズ諸元]
面番号 R D nd νd
1 1674.353 3.00 1.734000 51.51
2 190.401 9.00 1.497820 82.56
3 -1032.116 0.50
4 208.285 8.00 1.497820 82.56
5 ∞ 463.42
6 13.400 1.50 1.729160 54.66
7 8.450 2.90
8 -18.500 1.00 1.729160 54.66
9 10.400 3.50 1.805180 25.43
10 59.064 38.84
11 -112.837 5.10 1.563840 60.69
12 -25.231 0.20
13 -1500.000 1.50 1.805180 25.43
14 20.000 11.60 1.620410 60.29
15 -45.300 0.20
16 36.256 3.70 1.620410 60.29
17 145.000 0.20
18 20.000 5.90 1.563840 60.69
19 145.000

[条件式]
φex =0.83
|φex−3|/2 =1.085
|φex−3|/2+φex/3=1.361
fe =5.0
f1e =-13.0
f2e =18.3

条件式(1) x =1.17
条件式(2) f2e/fe =3.66
条件式(3) (−f1e)/fe =2.66
【0057】
表2から、第2実施例に係る観察光学系20は、条件式(1)〜(3)を満たすことが分かる。
【0058】
図7は、第2実施例に係る観察光学系20の横収差図を示す。同図中、(a)は接眼レンズ系Geを光軸上に配置した状態、つまり像変位量がゼロのときの横収差を示し、(b)と(c)は像のブレ補正を行うため、補正レンズ群(接眼レンズ系Geの第1レンズ群G1)を光軸と直交する方向に1.61mm変位させた状態、つまり光軸に対して0.14°だけ像を変位させたときの横収差を示す。各収差図において、ωは半画角を示す。
【0059】
各収差図から明らかなように、第2実施例に係る観察光学系は、像ブレ補正を行わないときも、像ブレ補正を行ったときも、収差が良好に補正されていることが分かる。
【0060】
(第3実施例)
第3実施例について、図8図9及び表3を用いて説明する。第3実施例に係る観察光学系30は、図8に示すように、光軸に沿って物体側から順に並んだ、対物レンズ系Goと、接眼レンズ系Geとを有して構成される。
【0061】
対物レンズ系Goは、光軸に沿って物体側から順に並んだ、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズLo1と両凸レンズLo2との接合レンズと、物体側に凸面を向けた平凸レンズLo3とから構成される。
【0062】
接眼レンズ系Geは、物体側から順に並んだ、負の屈折力を持つ第1レンズ群G1と、正の屈折力を持つ第2レンズ群G2とからなり、第1レンズ群G1と第2レンズ群G2との間に中間像Iが形成されるように構成されている。第1レンズ群G1は、光軸に沿って物体側から順に並んだ、物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズLe1と、両凹レンズLe2とから構成される。第2レンズ群G2は、光軸に沿って物体側から順に並んだ、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズLe3と、両凹レンズLe4と両凸レンズLe5との接合レンズと、両凸レンズLe6と、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズLe7とから構成される。
【0063】
第3実施例に係る観察光学系30では、接眼レンズ系Geを構成する第1レンズ群G1を補正レンズ群として、光軸に対してほぼ直交する方向へ移動させることにより、手振れ等に起因する像のブレを補正できるように構成されている。本実施例では、0.1°だけ像をシフトする際の、補正レンズ群のシフト(移動)量は1.81mmとなっている。
【0064】
下記の表3に、第3実施例における各諸元の値を示す。表3における面番号1〜18が、図8に示す曲率半径R1〜R18の各光学面に対応している。なお、面番号1〜5は対物レンズ系Go、面番号6〜18は接眼レンズ系Geを示す。
【0065】
(表3)
[全体諸元]
対物レンズ系の焦点距離fo 480.0
接眼レンズ系の焦点距離fe 10.1
第1レンズ群の焦点距離f1e -28.1
第2レンズ群の焦点距離f2e 18.6
観察光学系の倍率 48
対物レンズ系の有効径 80
画角2ω 1.5°

[レンズ諸元]
面番号 R D nd νd
1 1674.353 3.00 1.73400 51.51
2 190.401 9.00 1.49782 82.56
3 -1032.116 0.50
4 208.285 8.00 1.49782 82.56
5 ∞ 460.72
6 -38.302 4.00 1.80518 25.43
7 -18.282 1.00
8 -16.325 1.20 1.51680 64.11
9 18.717 30.48
10 -71.530 5.40 1.62041 60.29
11 -24.500 0.20
12 -95.000 1.50 1.80518 25.43
13 26.710 10.00 1.64000 60.09
14 -40.000 0.20
15 40.000 4.70 1.64000 60.09
16 -700.000 0.20
17 24.500 4.80 1.64000 60.09
18 95.000

[条件式]
φex =1.67
|φex−3|/2 =0.665
|φex−3|/2 + φex/3 =1.222
fe =10.1
f1e =-28.1
f2e =18.6

条件式(1) x =0.84
条件式(2) f2e/fe =1.84
条件式(3) (−f1e)/fe =2.78
【0066】
表3から、第3実施例に係る観察光学系10は、条件式(1)〜(3)を満たすことが分かる。
【0067】
図9は、第3実施例に係る観察光学系30の横収差図を示す。同図中、(a)は接眼レンズ系Geを光軸上に配置した状態、つまり像変位量がゼロのときの横収差を示し、(b)と(c)は像のブレ補正を行うため、補正レンズ群(接眼レンズ系Geの第1レンズ群G1)を光軸と直交する方向に1.81mm変位させた状態、つまり光軸に対して0.1°だけ像を変位させたときの横収差を示す。各収差図において、ωは半画角を示す。
【0068】
各収差図から明らかなように、第3実施例に係る観察光学系は、像ブレ補正を行わないときも、像ブレ補正を行ったときも、収差が良好に補正されていることが分かる。
【0069】
ここまで本発明を分かりやすくするために、実施形態の構成要件を付して説明したが、本発明がこれに限定されるものではないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0070】
10,20,30 観察光学系
Go 対物レンズ系
Ge 接眼レンズ系
G1 第1レンズ群
G2 第2レンズ群
P 正立プリズム(正立光学系)
E.P. アイポイント
1 観察者の眼球(網膜)
40 レンズ鏡筒
A 観察光学系の光軸
A´ 眼球の光軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9