特許第5949123号(P5949123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5949123
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】偏光板
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20160623BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20160623BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   G02B5/30
   C09J11/06
   C09J163/00
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-109216(P2012-109216)
(22)【出願日】2012年5月11日
(65)【公開番号】特開2013-235216(P2013-235216A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113000
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 亨
(74)【代理人】
【識別番号】100151909
【弁理士】
【氏名又は名称】坂元 徹
(72)【発明者】
【氏名】淺津 悠司
(72)【発明者】
【氏名】阪上 智恵
(72)【発明者】
【氏名】岩田 智
【審査官】 植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−241946(JP,A)
【文献】 特開2009−294502(JP,A)
【文献】 特開2011−184678(JP,A)
【文献】 特開2012−82264(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/064631(WO,A1)
【文献】 特開2011−195616(JP,A)
【文献】 特開2009−120683(JP,A)
【文献】 特開平1−188524(JP,A)
【文献】 特許第2902357(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
C09J 11/06
C09J163/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂に二色性色素が吸着配向している偏光子に、接着剤を介して透明樹脂フィルムが貼合されており、
前記接着剤は、エポキシ化合物を含む光硬化性成分及び光塩基発生剤を含有する光硬化性組成物から形成されていることを特徴とする偏光板。
【請求項2】
前記エポキシ化合物は、分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有する請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
前記エポキシ基は、グリシジルオキシ基として存在する請求項2に記載の偏光板。
【請求項4】
前記エポキシ化合物は、分子内に芳香環を有しない請求項1〜3のいずれかに記載の偏光板。
【請求項5】
前記光塩基発生剤は、分子内にカルバメート構造を有する化合物又は4級アンモニウム化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の偏光板。
【請求項6】
前記光硬化性組成物は、エポキシ化合物を含む前記光硬化性成分100重量部に対し、前記光塩基発生剤を 0.01〜400重量部含有する請求項1〜5のいずれかに記載の偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂に二色性色素が吸着配向している偏光子に、透明樹脂からなる保護フィルムが貼合された偏光板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、液晶表示装置を構成する光学部品の一つとして有用である。偏光板は通常、偏光子の両面に保護フィルムを積層した状態で、液晶表示装置に組み込まれる。偏光子の片面にのみ保護フィルムを設けることも知られているが、多くの場合、もう一方の面には単なる保護フィルムとしてではなく、別の光学機能を有する層が、保護フィルムの機能を兼ねて貼合される。
【0003】
偏光子の製造方法として、二色性色素により染色された一軸延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸処理し、水洗後、乾燥する方法が広く知られている。このようにして得られる偏光子は、通常、前述の水洗及び乾燥後に、直ちに保護フィルムが貼合される。これは、乾燥後の偏光子は物理的な強度が弱く、一旦これを巻き取ると、加工方向に裂ける等の問題があるためである。したがって、乾燥後の偏光子は、通例、直ちに水系の接着剤を塗布した後、この接着剤を介して両面同時に保護フィルムが貼合される。通例、保護フィルムとして、厚さ30〜120μm のアセチルセルロース系樹脂フィルムが使用されている。
【0004】
一方、アセチルセルロース系樹脂フィルムは、透湿度が高いため、このフィルムを保護フィルムとして貼合した偏光板は、湿熱下、例えば、温度70℃、相対湿度90%のような条件下では劣化を引き起こす等の問題があった。そこで、アセチルセルロース系樹脂よりも透湿度の低い樹脂を保護フィルムとすることで、かかる問題を解決する方法も提案されており、例えば、シクロオレフィン系樹脂を保護フィルムとすることが知られている。具体的には、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂フィルムを偏光子の少なくとも一方の面に積層することが、特開平 6-51117号公報(特許文献1)に記載されている。
【0005】
このような透湿度の低い樹脂フィルムを従来の装置で上述の偏光子に貼合する場合、水を主な溶媒とする水系接着剤、例えば、ポリビニルアルコール水溶液を使用してその樹脂フィルムを貼合した後、溶媒を乾燥させるいわゆるウェットラミネーションでは、十分な接着強度が得られなかったり、外観が不良になったりする等の問題があった。これは、透湿度の低い樹脂フィルムが一般的にアセチルセルロース系樹脂フィルムよりも疎水性であることや、透湿度が低いために溶媒である水を十分に乾燥できない等の理由による。
【0006】
そこで、上記のポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光子と熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂フィルムとを、ポリウレタン系接着剤により接着することが、特開 2000-321432号公報(特許文献2)に提案されている。しかしながら、ポリウレタン系接着剤は、硬化に時間を要するだけでなく、接着力も必ずしも十分とはいえないという問題があった。
【0007】
また、透湿度の低い樹脂フィルムとポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光子との間で高い接着力を与えるとともに、アセチルセルロース系樹脂の如き透湿度の高い樹脂フィルムと上述の偏光子との間でも高い接着力を与える接着剤として、光硬化性接着剤を用いる試みがある。例えば、特開 2004-245925号公報(特許文献3)には、芳香環を含まないエポキシ化合物を主成分とする接着剤が開示されており、活性エネルギー線の照射、具体的には紫外線の照射によるカチオン重合でこの接着剤を硬化させ、偏光子と保護フィルムとを接着することが提案されている。その他、特開 2008-257199号公報(特許文献4)には、脂環式エポキシ化合物と脂環式エポキシ基を有さないエポキシ化合物を組み合わせ、さらに光カチオン重合開始剤を配合した光硬化性接着剤を、偏光子と保護フィルムとの接着に用いる技術が開示されている。
【0008】
上記特許文献3及び4に開示される接着剤は、カチオン重合によって硬化させることが意図されているため、光カチオン重合開始剤、すなわち光の照射を受けて酸を発生する光酸発生剤が配合される。一方、光の照射を受けて塩基を発生する光塩基発生剤、すなわち光アニオン重合開始剤も知られている。
【0009】
光塩基発生剤として、カルバメート化合物、α−アミノケトン化合物、4級アンモニウム化合物、O−アシルオキシム化合物、アミノシクロプロペノン化合物などが知られている。例えば、特開平 10-77264 号公報(特許文献5)には、カルバメート化合物の1種である2−ニトロベンジルアルコールの環状アミン−N−カルボン酸エステルが記載され、国際公開第 2010/064631号(特許文献6)には、1−(2−アントラキノニル)エタノールの1−ピペリジンカルボン酸エステルを包含する1−アリールアルカノールのN−置換カルバミン酸エステルを光塩基発生剤とすることが記載されている。特開平 11-71450 号公報(特許文献7)には、α−アミノケトン化合物の1種であって、アセトフェノンのα−位にアミノ基が結合するα−アミノアセトフェノンを潜在性塩基触媒とすることが記載されている。特開 2003-212856号公報(特許文献8)には、4級アンモニウム化合物の1種であるイミダゾリウム塩を光塩基発生剤とすることが記載され、特開 2005-264156号公報(特許文献9)には、4−アリールチオフェナシル基が特定構造の4級窒素に結合する化合物を光塩基発生剤とすることが記載されている。特開 2006-36895 号公報(特許文献10)には、アシルオキシイミノ基が1分子中に3個以上6個以下結合した構造を有するO−アシルオキシム化合物を光塩基発生剤とすることが記載されている。また特開 2011-195616号公報(特許文献11)には、シクロプロペノン環にアミノ基が結合したアミノシクロプロペノン化合物を光塩基発生剤とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−51117号公報
【特許文献2】特開2000−321432号公報
【特許文献3】特開2004−245925号公報
【特許文献4】特開2008−257199号公報
【特許文献5】特開平10−77264号公報
【特許文献6】国際公開第2010/064631号
【特許文献7】特開平11−71450号公報
【特許文献8】特開2003−212856号公報
【特許文献9】特開2005−264156号公報
【特許文献10】特開2006−36895号公報
【特許文献11】特開2011−195616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の特許文献3及び4に開示されるような光カチオン重合により硬化する接着剤においては、紫外線の照射によって光カチオン重合開始剤から生じる酸が、重合硬化後も残存するため、耐熱試験時に酸による偏光子の劣化によって変色してしまう問題がある。
【0012】
本発明者らは、かかる問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、光塩基発生剤から生成するアミンを硬化剤として接着剤を硬化させれば、耐熱試験時の変色を抑制できることを見出した。したがって本発明の目的は、光硬化性接着剤を用いて偏光子と透明樹脂フィルムとが貼合されており、耐熱性に優れた偏光板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂に二色性色素が吸着配向している偏光子に、接着剤を介して透明樹脂フィルムが貼合されており、前記接着剤は、エポキシ化合物を含む光硬化性成分及び光塩基発生剤を含有する光硬化性組成物から形成されていることを特徴とする偏光板を提供するものである。
【0014】
この偏光板において、接着剤となる光硬化性組成物を構成するエポキシ化合物は、分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有するものであることが好ましい。とりわけこれらのエポキシ基は、グリシジルオキシ基として存在することが好ましい。またこれらのエポキシ化合物は、分子内に芳香環を有しないものであることが好ましい。
【0015】
さらにこれらの偏光板において、接着剤となる光硬化性組成物を構成する光塩基発生剤は、分子内にカルバメート構造を有する化合物又は4級アンモニウム化合物であることが好ましい。
【0016】
これらの偏光板において、接着剤となる光硬化性組成物は、上記したエポキシ化合物を含む光硬化性成分100重量部に対して、光塩基発生剤を 0.01〜400重量部含有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の偏光板は、偏光子と透明樹脂フィルムとを貼合する接着剤が、エポキシ化合物を含む光硬化性成分及び光塩基発生剤を含有する光硬化性組成物から形成されていることにより、良好な耐熱性を発現する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に係る偏光板は、ポリビニルアルコール系樹脂に二色性色素が吸着配向している偏光子の片面又は両面に、透明樹脂フィルムを貼合したものである。まず、偏光板を構成する各部材から順に説明する。
【0019】
[偏光子]
偏光子は、自然光を直線偏光に変換する機能を有するフィルムであり、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたもので構成される。偏光子を構成するポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニル及びこれと共重合可能な他の単量体の共重合体などが例示される。酢酸ビニルに共重合される他の単量体として、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85〜100モル%、好ましくは98〜100モル%の範囲である。このポリビニルアルコール系樹脂は、さらに変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなども使用し得る。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1,000〜10,000、好ましくは 1,500〜10,000 の範囲である。このようなポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光子の原反フィルムとして用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂の製膜は、公知の方法で行うことができる。
【0020】
偏光板は、上記のような製膜したポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色して二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着したポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、ホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程、及びこれらの工程が施されて二色性色素が吸着配向している偏光子に保護フィルムを貼合する工程を経て製造される。
【0021】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一軸延伸は、二色性色素による染色の前に行ってもよいし、二色性色素による染色と同時に行ってもよいし、二色性色素による染色の後に行ってもよい。一軸延伸を二色性色素による染色後に行う場合、この一軸延伸は、ホウ酸処理の前に行ってもよいし、ホウ酸処理中に行ってもよい。またもちろん、これらの複数の段階で一軸延伸を行うことも可能である。一軸延伸するには、周速の異なるロール間を通して延伸してもよいし、熱ロールで挟む方法で延伸してもよい。また、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、溶剤により膨潤した状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常4〜8倍程度である。
【0022】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色するには、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、二色性色素を含有する水溶液に浸漬すればよい。二色性色素として、具体的にはヨウ素又は二色性染料が用いられる。
【0023】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は、通常、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は、水100重量部あたり、通常0.01〜0.5重量部程度であり、ヨウ化カリウムの含有量は、水100重量部あたり、通常 0.5〜10重量部程度である。この水溶液の温度は、通常20〜40℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間は、通常30〜300秒程度である。
【0024】
一方、二色性色素として二色性染料を用いる場合は、通常、水溶性二色性染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性染料の含有量は、水100重量部あたり、通常1×10-3〜1×10-2重量部程度である。この水溶液は、硫酸ナトリウムなどの無機塩を含有していてもよい。この水溶液の温度は、通常20〜80℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間は、通常30〜300秒程度である。
【0025】
二色性色素による染色後のホウ酸処理は、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液に浸漬することにより行われる。ホウ酸水溶液におけるホウ酸の含有量は、水100重量部あたり、通常2〜15重量部程度、好ましくは5〜12重量部である。二色性色素としてヨウ素を用いる場合には、このホウ酸水溶液は、ヨウ化カリウムを含有することが好ましい。ホウ酸水溶液におけるヨウ化カリウムの含有量は、水100重量部あたり、通常2〜20重量部程度、好ましくは5〜15重量部である。ホウ酸水溶液への浸漬時間は、通常 100〜1,200秒程度、好ましくは150〜600秒、さらに好ましくは200〜400秒である。ホウ酸水溶液の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50〜85℃である。
【0026】
ホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、通常、水洗処理される。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬することにより行われる。水洗後に乾燥処理が施されて、偏光子が得られる。水洗処理における水の温度は、通常5〜40℃程度であり、浸漬時間は、通常2〜120秒程度である。その後に行われる乾燥処理は、通常、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行われる。その乾燥温度は、通常40〜100℃である。乾燥処理における処理時間は、通常120〜600秒程度である。
【0027】
こうして、ヨウ素又は二色性染料が吸着配向しているポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子が得られる。この偏光子の厚さは、10〜40μm 程度とすることができる。
【0028】
[透明樹脂フィルム]
本発明の偏光板は、以上説明した偏光子に、透明樹脂フィルムが保護フィルムとして貼合されたものである。偏光子の両面に樹脂フィルムを貼合する場合、両面に貼合する2枚のフィルムは、同じ種類のものであってもよいし、異なる種類のものであってもよい。これらの樹脂フィルムとしては、シクロオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリサルホン系樹脂フィルム、脂環式ポリイミド系樹脂フィルム、アセチルセルロース系樹脂フィルムなどを用いることができる。
【0029】
上記の透明樹脂フィルムは、偏光子への貼合に先立って、貼合面に、ケン化処理、コロナ処理、プライマー処理、アンカーコーティング処理等の易接着処理が施されてもよい。また、透明樹脂フィルムは、偏光子への貼合面と反対側の表面に、ハードコート層、反射防止層、防眩層等の各種処理層を有していてもよい。透明樹脂フィルムの厚さは、通常5〜200μm 程度の範囲であり、好ましくは10〜120μm 、さらに好ましくは10〜85μm である。
【0030】
[光硬化性組成物]
以上説明した偏光子と透明樹脂フィルムの貼合には、エポキシ化合物を含む光硬化性成分及び光塩基発生剤を含有する光硬化性組成物が、接着剤として用いられる。ここで、エポキシ化合物とは、分子中にエポキシ基を有し、紫外線などの照射により重合反応が進行し、硬化する化合物又はオリゴマーをいう。
【0031】
本発明では、接着剤を形成する光硬化性組成物に含まれる光硬化性成分としてエポキシ化合物を用いる。光硬化性のエポキシ化合物としては、脂環式エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、水素化エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物などが例示できる。
【0032】
まず脂環式エポキシ化合物について説明する。これは、脂環式環に直接結合したエポキシ基を分子内に少なくとも1個有する化合物である。例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル) アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル) アジペート、ジエチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、エチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテルなどが挙げられる。
【0033】
次に芳香族エポキシ化合物について説明する。これは、分子内に芳香族環とエポキシ基を有する化合物である。例えば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェールFのジグリシジルエーテル、ビスフェノールSのジグリシジルエーテルのようなビスフェノール型エポキシ化合物又はそのオリゴマー;フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ヒドロキシベンズアルデヒドフェノールノボラックエポキシ樹脂のようなノボラック型のエポキシ樹脂;2,2′,4,4′−テトラヒドロキシジフェニルメタンのグリシジルエーテル、2,2′,4,4′−テトラヒドロキシベンゾフェノンのグリシジルエーテルのような多官能型のエポキシ化合物;エポキシ化ポリビニルフェノールのような多官能型のエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0034】
水素化エポキシ化合物について説明する。上記の芳香族エポキシ化合物の核水添物が水素化エポキシ化合物となる。これらは、対応する芳香族エポキシ化合物の原料である芳香族ポリヒドロキシ化合物、典型的にはビスフェノール類に対し、触媒の存在下及び加圧下で選択的に水素化反応を行うことにより得られる多価アルコール、典型的には水添ビスフェノール類を原料とし、これにエピクロロヒドリンを反応させてクロロヒドリンエーテルとし、さらにそれをアルカリで分子内閉環させる方法によって製造できる。
【0035】
次に脂肪族エポキシ化合物について説明する。脂肪族エポキシ化合物には、脂肪族多価アルコール又はそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルがある。これらの例としては、ネオペンチルグリコールのジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル、エチレングリコールやプロピレングリコール、グリセリンのような脂肪族多価アルコールに1種又は2種以上のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド)を付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0036】
以上に例示したエポキシ化合物は、それぞれ単独で使用してもよいし、また複数のエポキシ化合物を混合して使用してもよい。
【0037】
本発明では、光塩基発生剤から生成するアミンとの反応性の観点から、エポキシ化合物は、分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有することが好ましく、さらにそのエポキシ基は、グリシジルオキシ基として存在することが好ましい。上に掲げたエポキシ化合物のうち、芳香族エポキシ化合物、水素化エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物が、分子内に少なくとも2個のグリシジルオキシ基を有するエポキシ化合物に該当する。また、耐候性や屈折率などの観点から、分子内に芳香環を有しないエポキシ化合物を用いることがより好ましい。すなわち、上に掲げたエポキシ化合物のなかでも、水素化エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物がより好ましい。
【0038】
本発明で用いるエポキシ化合物は、30〜3,000g/当量、さらに50〜1,500g/当量の範囲のエポキシ当量を有することが好ましい。そのエポキシ当量があまり小さいと、硬化後の接着剤層の可撓性が低下したり、偏光子と透明樹脂フィルムの接着強度が低下したりする可能性がある。一方、そのエポキシ当量があまり大きいと、他の成分との相溶性が低下する可能性がある。なお、エポキシ当量は、エポキシ基1個あたりのエポキシ化合物の分子量により定義される。
【0039】
本発明では、酸による偏光子の劣化問題を解決するため、上記したエポキシ化合物を含む光硬化性成分の硬化剤として光塩基発生剤が配合される。光塩基発生剤は、可視光線や紫外線等の光の照射を受けてアミンを生成する化合物を意味する。エポキシ化合物を含む光硬化性成分と光塩基発生剤とを含有する光硬化性組成物は、光の照射を受けて光塩基発生剤からアミンを生成し、これがエポキシ化合物と反応することで硬化反応が進行する。例えば、後述する実施例で光塩基発生剤として用いた1−(2−アントラキノニル)エチル 1−ピペリジンカルボキシレートは、光(hν)の照射を受け、空気中に存在する水分(H2O) を巻き込んで以下のように分解し、アミンであるピペリジンを生成する。このアミンがエポキシ化合物と反応する。
【0040】
【化1】
【0041】
このように光塩基発生剤をエポキシ化合物の硬化剤として用いることで、エポキシ化合物の一般的な硬化剤として知られるアミン自体を配合した場合に比べ、貯蔵安定性に優れた接着剤層が形成される。
【0042】
以下、光塩基発生剤について説明する。光カチオン重合は、光ラジカル重合と比較して酸素による阻害を受けないという利点から実用化が進んでいるが、硬化後も発生した酸が接着剤層中に残ることになる。特に偏光板においては、接着剤層中に酸が残存すると、それが触媒として働き、偏光子を構成するポリビニルアルコール系樹脂のポリエン化による偏光板の変色を引き起こすことがある。一方で、光塩基発生剤から生成するアミンを硬化剤とした場合には、反応が空気中の酸素によって阻害されることなく、かつ接着剤中に酸が残存することがない。本発明では、エポキシ化合物を含む光硬化性成分に光塩基発生剤を配合することにより、空気中でも酸素による阻害を受けることなく速やかに硬化を進行させるとともに、硬化後も酸による偏光板の変色を防ぐことができる。
【0043】
本発明に用いる光塩基発生剤は、光の照射を受けてアミンを生成する化合物であればよい。光塩基発生剤としては、背景技術の項でも述べたとおり、分子中にカルバメート構造を有するカルバメート化合物、α−アミノケトン化合物、4級アンモニウム化合物、O−アシルオキシム化合物、アミノシクロプロペノン化合物などが知られている。
【0044】
特に、カルバメート構造を有する化合物及び4級アンモニウム化合物は、優れた硬化速度と耐熱性を与えることから、好ましい。ここで、カルバメート構造とは、カルバミン酸NH2COOH に由来する以下の構造を意味する。
【0045】
【化2】
【0046】
光塩基発生剤となるカルバメート化合物としては、例えば、次のようなものが知られている。
1−(2−アントラキノニル)エチル 1−ピペリジンカルボキシレート、
1−(2−アントラキノニル)エチル 1H−2−エチルイミダゾール−1−カルボキシレート、
9−アントリルメチル 1−ピペリジンカルボキシレート、
9−アントリルメチル N,N−ジエチルカルバメート、
9−アントリルメチル N−プロピルカルバメート、
9−アントリルメチル N−シクロヘキシルカルバメート、
9−アントリルメチル 1H−イミダゾール−1−カルボキシレート、
9−アントリルメチル N,N−ジオクチルカルバメート、
9−アントリルメチル 1−(4−ヒドロキシピペリジン)カルボキシレート、
1−ピレニルメチル 1−ピペリジンカルボキシレート、
ビス〔1−(2−アントラキノニル)エチル〕 1,6−ヘキサンジイルビスカルバメート、
ビス(9−アントリルメチル) 1,6−ヘキサンジイルビスカルバメートなど。
【0047】
これらのなかでも好ましい化合物を、化学構造とともに以下に掲げる。
【0048】
【化3】
【0049】
光塩基発生剤となるα−アミノケトン化合物としては、例えば、次のようなものが知られている。
1−フェニル−2−(4−モルホリノベンゾイル)−2−ジメチルアミノブタン、
2−(4−メチルチオベンゾイル)−2−モルホリノプロパンなど。
【0050】
光塩基発生剤となる4級アンモニウム化合物としては、例えば、次のようなものが知られている。
1−(4−フェニルチオフェナシル)−1−アゾニア−4−アザビシクロ[2,2,2]オクタン テトラフェニルボレート、
5−(4−フェニルチオフェナシル)−1−アザ−5−アゾニアビシクロ[4,3,0]−5−ノネン テトラフェニルボレート、
8−(4−フェニルチオフェナシル)−1−アザ−8−アゾニアビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン テトラフェニルボレートなど。
【0051】
光塩基発生剤となるアミノシクロプロペノン化合物としては、例えば、次のようなものが知られている。
2−ジエチルアミノ−3−フェニルシクロプロペノン、
2−ジエチルアミノ−3−(1−ナフチル)シクロプロペノン、
2−ピロリジニル−3−フェニルシクロプロペノン、
2−イミダゾリル−3−フェニルシクロプロペノン、
2−イソプロピルアミノ−3−フェニルシクロプロペノンなど。
【0052】
光塩基発生剤の配合量は、光硬化性成分100重量部に対して、通常 0.01〜400重量部であり、好ましくは 0.5〜200重量部、より好ましくは1〜150重量部である。その配合量があまり少ないと、接着剤層の硬化が不十分になり、接着剤層の機械強度や偏光子と透明樹脂フィルムとの間の接着強度が低下する。一方、その量があまり多くなると、耐光性の低下や着色の可能性が出てくる。
【0053】
光塩基発生剤から生成するアミンは、エポキシ化合物中のエポキシ基と反応し、光硬化性組成物の硬化を進行させる。硬化反応を促進させるために、必要ならば光照射後に加熱養生を行ってもよい。生成するアミンが1級アミン又は2級アミンである場合は、反応の進行のみを考慮すると、エポキシ基とアミノ基の活性水素がほぼ等量となるようにすることが望ましい。光塩基発生剤として4級アンモニウム化合物を用いた場合には、その光塩基発生剤から3級アミンが生成し、この場合は、生成するアミンが触媒量で十分に反応が進行することもあるが、1級アミン又は2級アミンを生成するときに比べて、高い温度での養生を必要とすることがある。
【0054】
光硬化性組成物には、以上説明したエポキシ化合物を含む光硬化性成分及び光塩基発生剤の他に、硬化促進剤として熱塩基発生剤を配合することもできる。ここで熱塩基発生剤とは、加熱によってアミンを生成する化合物又は塩基性を増大させる化合物を意味する。熱塩基発生剤の例を挙げると、ジアザビシクロウンデセンのフェノール塩、ジアザビシクロウンデセンのオクチル酸塩、ジアザビシクロウンデセンのテトラフェニルボレート塩などがある。これを配合することで、加熱養生時の硬化が促進される場合もある。
【0055】
さらに、光硬化性組成物は、上述した接着剤の性能を損なわない程度に、その他の添加剤、例えば、イオントラップ剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、増感剤、粘着付与剤、熱可塑性樹脂、充填剤、流動調整剤、可塑剤、消泡剤、レベリング剤などを含有することができる。イオントラップ剤には、例えば、粉末状のビスマス系、アンチモン系、マグネシウム系、アルミニウム系、カルシウム系、チタン系及びこれらの混合系等の無機化合物が包含され、酸化防止剤には、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤などが包含される。
【0056】
[偏光板及びその製造方法]
本発明の偏光板は、以上説明した光硬化性組成物を介して、偏光子と透明樹脂フィルムを貼合し、そこに光を照射して未硬化の光硬化性組成物を硬化させ、透明樹脂フィルムを偏光子上に固着させることにより、製造できる。光硬化性組成物は、偏光子と透明樹脂フィルムのそれぞれの貼合面のうち、少なくとも一方に塗布すればよい。偏光子の両面に透明樹脂フィルムを貼合する場合は、2枚の透明樹脂フィルムを段階的に片面ずつ貼合してもよいし、両面を一段階で貼合しても構わない。
【0057】
光硬化性組成物の塗工方法に特別な限定はなく、例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式が利用できる。また、各塗工方式には各々最適な粘度範囲があるため、溶剤を用いて光硬化性組成物の粘度調整を行うことも有用な技術である。このための溶剤としては、偏光子の光学性能を低下させることなく、エポキシ化合物を含む光硬化性成分を良好に溶解するものを用いればよい。例えば、トルエンに代表される炭化水素類、酢酸エチルに代表されるエステル類などの有機溶剤が使用できる。硬化後の接着剤層の厚さは、通常50μm 以下、好ましくは20μm 以下、さらに好ましくは10μm 以下である。
【0058】
光照射に用いる光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどが、好適に用いられる。光硬化性組成物への光照射強度は、目的とする組成物毎に決定されるものであって、特に限定されないが、光塩基発生剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が 0.1〜1,000mW/cm2となるようにすることが好ましい。光硬化性組成物への光照射強度があまり小さいと、反応時間が長くなりすぎ、一方でその強度があまり大きくなると、ランプから輻射される熱及び光硬化性組成物の重合時の発熱により、接着剤層の黄変や偏光子の劣化を生じる可能性がある。光硬化性組成物への光照射時間は、硬化する組成物毎に制御されるものであって、やはり特に限定されないが、照射強度と照射時間の積として表される積算光量が10〜5,000mJ/cm2となるように設定されることが好ましい。その積算光量があまり小さいと、光塩基発生剤由来のアミンの発生が十分でなく、得られる接着剤層の硬化が不十分となる可能性があり、一方でその積算光量をあまり大きくしようとすると、照射時間が非常に長くなり、生産性向上にとって不利になる。
【0059】
光照射により光硬化性組成物を硬化させるにあたっては、偏光子の偏光度、透過率及び色相、また透明樹脂フィルムの透明性といった、偏光板の諸機能が低下しない範囲で、上に示した各種条件を設定することが好ましい。
【0060】
[偏光板に積層されうる他の光学層]
本発明の偏光板は、偏光機能以外の光学機能を有する光学層と組み合わせて、積層光学部材とすることもできる。光学部材の形成を目的に偏光板に積層される光学層には、例えば、反射層、半透過型反射層、光拡散層、位相差板、集光板、輝度向上フィルムなど、液晶表示装置等の形成に用いられるものがある。前記の反射層、半透過型反射層及び光拡散層は、反射型の偏光板(光学部材)、半透過型の偏光板(光学部材)及び拡散型の偏光板(光学部材)、あるいはそれら両用型の偏光板(光学部材)を形成する場合に用いられるものである。
【0061】
反射型の偏光板は、視認側からの入射光を反射させて表示するタイプの液晶表示装置に用いられ、バックライト等の光源を省略できるため、液晶表示装置を薄型化しやすい。また半透過型の偏光板は、明所では反射型として、暗所ではバックライト等の光源を介して表示するタイプの液晶表示装置に用いられる。反射型の偏光板としての光学部材は、例えば、偏光子上の透明樹脂フィルムに、アルミニウム等の金属からなる箔や蒸着膜を付設して反射層を形成した構造のものであることができる。半透過型の偏光板としての光学部材は、前記の反射層をハーフミラーとしたり、パール顔料などを含有して光透過性を示す反射板を偏光板に接着したりした構造のものであることができる。一方、拡散型の偏光板としての光学部材は、例えば、偏光板上の透明樹脂フィルムにマット処理を施す方法、微粒子含有の樹脂を塗布する方法、微粒子含有のフィルムを接着する方法など、種々の方法を用いて、表面に微細凹凸構造を形成したものであることができる。
【0062】
さらに、反射拡散両用の偏光板としての光学部材の形成は、例えば、拡散型偏光板の微細凹凸構造面にその凹凸構造が反映した反射層を設けるなどの方法により行うことができる。微細凹凸構造の反射層は、入射光を乱反射により拡散させ、指向性やギラツキを防止し、明暗のムラを抑制しうる利点などを有する。また、微粒子を含有した樹脂層やフィルムは、入射光及びその反射光が微粒子含有層を透過する際に拡散されて、明暗ムラをより抑制しうるなどの利点も有している。表面微細凹凸構造を反映させた反射層は、例えば、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等の蒸着やメッキなどの方法で、金属を微細凹凸構造の表面に直接付設することで形成できる。表面微細凹凸構造を形成するために配合する微粒子としては、例えば、平均粒径が0.1〜30μmのシリカ、酸化アルミニウム、酸化チタン、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモンなどからなる無機系微粒子、架橋又は未架橋のポリマーなどからなる有機系微粒子が利用できる。
【0063】
他方、上記した光学層としての位相差板は、液晶セルによる位相差の補償などを目的として使用される。その例としては、各種プラスチックの延伸フィルムなどからなる複屈折性フィルム、ディスコティック液晶やネマチック液晶が配向固定されたフィルム、フィルム基材上に上記の液晶層が形成されたものなどが挙げられる。この場合、配向液晶層を支持するフィルム基材として、トリアセチルセルロースなどアセチルセルロース系樹脂フィルムが好ましく用いられる。
【0064】
複屈折性フィルムを形成するプラスチックとしては、例えば、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリアリレート、ポリアミドなどが挙げられる。延伸フィルムは、一軸延伸や二軸延伸などの適宜の方式で処理したものであってよい。また、熱収縮性フィルムとの接着下に収縮力及び/又は延伸力をかけることでフィルムの厚さ方向の屈折率を制御した複屈折性フィルムでもよい。なお、位相差板は、広帯域化など光学特性の制御を目的として、2枚以上を組み合わせて使用してもよい。
【0065】
集光板は、光路制御などを目的に用いられるもので、プリズムアレイシートやレンズアレイシート、あるいはドット付設シートなどとして、形成することができる。
【0066】
輝度向上フィルムは、液晶表示装置などにおける、輝度の向上を目的に用いられるもので、その例としては、屈折率の異方性が互いに異なる薄膜フィルムを複数枚積層して反射率に異方性が生じるように設計された反射型偏光分離シート、コレステリック液晶ポリマーの配向フィルムやその配向液晶層をフィルム基材上に支持した円偏光分離シートなどが挙げられる。
【0067】
光学部材は、偏光板と、上述した反射層、半透過型反射層、光拡散層、位相差板、集光板、及び輝度向上フィルム等の光学層から使用目的に応じて選択される1層又は2層以上とを組み合わせ、2層又は3層以上の積層体とすることができる。それぞれの光学層は、所望により2種以上を組み合わせてもよい。なお、各光学層の配置に特に限定はない。
【0068】
光学部材を形成する各種光学層は、接着剤を用いて一体化される。そのために用いる接着剤は、接着剤層が良好に形成されるものであれば特に限定はない。接着作業の簡便性や光学歪の発生防止などの観点から、粘着剤(感圧接着剤とも呼ばれる)を使用することが好ましい。偏光子の一方の面に、保護フィルムとしての透明樹脂フィルムを貼合し、偏光子のもう一方の面に光学層、例えば位相差板を直接貼合する場合は、偏光子と、保護フィルムとしての透明樹脂フィルム及び光学層(位相差板)とを、本発明で規定する光硬化性成分及び光塩基発生剤を含有する光硬化性組成物を用いて接着することも、もちろん可能である。
【0069】
粘着剤には、アクリル系重合体やシリコーン系重合体、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどをベースポリマーとしたものを用いることができる。なかでもアクリル系粘着剤のように、光学的な透明性に優れ、適度な濡れ性や凝集力を保持し、基材との接着性にも優れ、さらに耐候性や耐熱性などを有し、加熱や加湿の条件下で浮きや剥がれ等の剥離問題を生じないものを選択して用いることが好ましい。アクリル系粘着剤においては、メチル基やエチル基やブチル基等の炭素数が20以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸のアルキルエステルと、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等の官能基含有アクリル系モノマーとを、ガラス転移温度が好ましくは0℃以下となるように配合した、重量平均分子量が10万以上のアクリル系共重合体が、ベースポリマーとして有用である。
【0070】
偏光板への粘着剤層の形成は、例えば、トルエンや酢酸エチルなどの有機溶媒に粘着剤組成物を溶解又は分散させて10〜40重量%の溶液を調製し、これを偏光板上に直接塗工して粘着剤層を形成する方式や、予めプロテクトフィルム上に粘着剤層をシート状に形成しておき、それを偏光板上に移着することで粘着剤層を形成する方式などにより、行うことができる。粘着剤層の厚さは、その接着力などに応じて決定されるが、1〜50μm 程度の範囲が適当である。
【0071】
粘着剤層には、必要に応じて、ガラス繊維、ガラスビーズ、樹脂ビーズ、金属粉や他の無機粉末からなる充填剤、顔料、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤などが配合されていてもよい。紫外線吸収剤には、サリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などがある。
【0072】
光学部材は、液晶セルの片面又は両面に配置することができる。光学部材の液晶セルへの貼着にも、上述した粘着剤層を用いることができる。液晶セルは任意のものでよく、例えば、薄膜トランジスタ型に代表されるアクティブマトリクス駆動型の液晶セル、スーパーツイステッドネマチック型に代表される単純マトリクス駆動型の液晶セルなど、種々の液晶セルを使用して液晶表示装置を形成することができる。液晶セルの両面に設ける光学部材は、同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。以下の例では、エポキシ化合物、光塩基発生剤及び比較のための光酸発生剤として、次のものを用いた。それぞれの最初に“ ”を付して示した名前は、商品名である。
【0074】
〈エポキシ化合物〉
“デナコール EX-211” :ナガセケムテックス(株)から入手した、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル。オリゴマーが混じった製品であるため、そのエポキシ当量は約138g/当量である。なお、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルの純品であれば、そのエポキシ当量は約108g/当量となる。
【0075】
〈光塩基発生剤〉
“WPBG056” :和光純薬工業(株)から入手した、1−(2−アントラキノニル)エチル 1−ピペリジンカルボキシレート。
【0076】
〈光酸発生剤〉
“CPI-100P”:サンアプロ(株)から入手した、ジフェニル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウム ヘキサフルオロホスフェートの50重量%プロピレンカーボネート溶液。
【0077】
[実施例1]
(a)光硬化性組成物の調製
上記したエポキシ化合物“デナコール EX-211”2.0g及び光塩基発生剤 “WPBG056”150mgを20mLのスクリュー管に量り取り、混合・脱泡して、液状の光硬化性組成物を調製した。
【0078】
(b)偏光板の作製
コニカミノルタオプト(株)から入手した紫外線吸収剤を含まない厚さ40μm のトリアセチルセルロースフィルム〔商品名 “N-TAC KC4FR-1”〕を2枚用意し、それぞれの片面にコロナ放電処理を施して、それぞれのコロナ放電処理面に、上の(a)で調製した光硬化性組成物を硬化後の膜厚が2.5μmとなるようにバーコーターを用いて塗工した。別途、厚さ30μm のポリビニルアルコール−ヨウ素系偏光子を用意し、その両面にそれぞれ、上の光硬化性組成物の塗膜が形成されたトリアセチルセルロースフィルムの塗膜を重ねた。得られた積層物をベルトコンベア付き紫外線照射装置のベルトコンベアに乗せ、紫外線照射装置に設置されたフュージョンUVシステムズ社製の紫外線ランプ“Dバルブ”から、一方のトリアセチルセルロースフィルム側へ積算光量が500mJ/cm2 となるように紫外線を照射し、偏光子両面の塗膜を硬化させた。こうして、偏光子の両面にトリアセチルセルロースフィルムが貼合された偏光板を作製した。
【0079】
(c)偏光板の耐久性評価
上で作製した偏光板の一方のトリアセチルセルロースフィルム外側に、イオン性化合物が配合され、帯電防止機能が付与されているアクリル系粘着剤の層を設けた。こうして粘着剤層が設けられた偏光板を30mm×30mmの大きさに裁断し、その粘着剤層を無アルカリガラス〔コーニング社製の商品名“EAGLE XG”〕に貼合した。得られた偏光板/ガラス積層体について、温度90℃の高温環境下に48時間保持する耐久性試験を行った。
【0080】
耐久性試験前後の偏光板/ガラス積層体につき、透過色相のa値及びb値を測定した。測定には、(株)島津製作所製の紫外可視分光光度計“UV-2450” にオプションアクセサリーである“偏光子付きフィルムホルダー”をセットしたものを用いた。まず、380〜780nmの波長領域における上記積層体の平行透過スペクトル(偏光板の透過軸に平行な振動面を有する直線偏光を入射したときの透過スペクトル)及び直交透過スペクトル(偏光板の透過軸に直交する振動面を有する直線偏光を入射したときの透過スペクトル)を求め、これらから、“UV-2450” に付属するソフトウェア“UV-Probe”により、上記積層体の単体透過スペクトル(自然光を入射したときの透過スペクトルに相当)、並びに透過色相のa値及びb値が算出されるようにした。ソフトウェア“UV-Probe”から得られた透過色相のa値及びb値をもとに、ab値を次の式(1)により算出した。
【0081】
ab=(a2+b21/2 (1)
【0082】
そして、耐久性試験後の透過色相のab値〔ab(試験後)〕から耐久性試験前の透過色相のab値〔ab(試験前)〕を差し引いた値Δab〔=ab(試験後)−ab(試験前)〕を算出し、高温耐久性試験による色相変化の指標とした。この例で作製した偏光板は、Δabが 2.04であった。また、耐久性試験後の偏光板を目視で観察し、試験前に比べて外観に変化があるかどうかを調べた。この例では、試験前後で偏光板の外観に変化がみられなかった。
【0083】
ここで、偏光板の色相変化の評価に用いた透過色相のa値及びb値、並びにab値について、少し説明を加える。透過色相とは、1枚の偏光板に一方の面から自然光をあてたとき、他方の面から透過してくる光の色相を意味する。この色相は、ハンターのLab表色系におけるa値及びb値で表すことができ、標準の光を用いて測定される。Lab表色系は、JIS K 5981:2006「合成樹脂粉体塗膜」の「5.5 促進耐候性試験」に記載されるように、ハンターの明度指数Lと色座標a及びbで表されるものである。明度指数Lと色座標a及びbの値は、JIS Z 8722:2009「色の測定方法−反射及び透過物体色」に規定される三刺激値X、Y及びZから、次の式によって計算される。
【0084】
L=10Y1/2
a=17.5(10.2X−Y)/Y1/2
b=7.0(Y−0.847Z)/Y1/2
【0085】
Lab表色系においては、明度をL軸で表し、色度の軸はa値とb値で表して、これら3軸が立体的に直交する色空間を考える。その色度図は、a軸を横軸、b軸を縦軸とする直交グラフにするので、L軸はa軸とb軸の直交点になる。a軸のプラス側が赤領域、マイナス側が緑領域となり、そしてb軸のプラス側が黄領域、マイナス側が青領域となり、直交点(a=0、b=0の点)は無彩色点となる。
【0086】
ここでは、直交点からの離れ具合を意味する前記式(1)で算出されるab値を、偏光板の色目の指標とした。そして、耐久性試験の前後におけるab値の変化量Δabを、高温耐久性試験による色相変化の指標とした。もちろん、Δabがゼロであれば、色相変化がないことを意味し、それが大きくなるほど、色相変化が大きいことを意味する。経験によれば、Δabが3を超えると、目視での色相変化がやや目立つようになり、それ以下であれば、目視での色相変化はほとんど感じられない。Δabは、2.5 以下であるのがより好ましい。
【0087】
[比較例1]
(a)光硬化性組成物の調製
光塩基発生剤“WPBG056”を、前記した光酸発生剤“CPI-100P”90mg に変更し、その他は実施例1の(a)と同様にして、光硬化性組成物を調製した。ここで用いた、光酸発生剤“CPI-100P”は前記のとおり50重量%プロピレンカーボネート溶液として入手したものであり、この例で配合した90mgは、溶媒のプロピレンカーボネートを含む溶液量として量り取った値である。
【0088】
(b)偏光板の作製及び耐久性評価
上で調製した光硬化性組成物、すなわち光酸発生剤“CPI-100P”が配合された光硬化性組成物を用いる以外は、実施例1の(b)と同様にして、偏光子の両面にトリアセチルセルロースフィルムが貼合された偏光板を作製した。この偏光板につき、実施例1の(c)と同様の方法で耐久性試験を行った。その結果、Δabは 4.57であり、また目視観察でも、耐久性試験により偏光板に変色や色抜けが認められた。
【0089】
以上の実施例及び比較例からわかるように、光酸発生剤(光カチオン重合開始剤)が配合された光硬化性組成物を接着剤とした比較例1では、偏光板が熱により変色しやすいのに対し、光塩基発生剤(光アニオン重合開始剤)が配合された光硬化性組成物を接着剤とした実施例1では、そのような熱による変色が有効に抑制できる。