特許第5949194号(P5949194)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5949194非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5949194
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20160623BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20160623BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   H01M4/48
   H01M4/38 Z
   H01M4/36 B
   H01M4/36 C
   H01M4/36 D
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-132953(P2012-132953)
(22)【出願日】2012年6月12日
(65)【公開番号】特開2013-258032(P2013-258032A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2014年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 浩一朗
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−063433(JP,A)
【文献】 特開2011−108635(JP,A)
【文献】 特開2013−165057(JP,A)
【文献】 特開2005−149946(JP,A)
【文献】 特開2013−131324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
H01G 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素、一般式SiOx(0.8≦x<1.2)で表される酸化珪素及び珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合体から選ばれる核粒子の表面に、減圧下、600〜1300℃で還元性を有する有機物ガス中、CVDによりカーボン被覆処理をし、得られたカーボン被覆粒子を冷却する製造方法であって、この冷却工程において、CVD後のカーボン被覆粒子の粉体温度が400℃以下になるまで、減圧下で装置内の酸素濃度を1体積%以下に保つことを特徴とする、珪素、一般式SiOx(0.8≦x<1.2)で表される酸化珪素及び珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合体から選ばれる核粒子の表面に、カーボン被膜を有する被覆粒子であって、上記核粒子表面(表面を0としたとき深さ0〜5nm)におけるO/Siモル比(Xs)と、表面から100nmの粒子内部のO/Siモル比(X)とが、Xs<Xである非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項2】
冷却工程において、不活性ガス又は還元性ガスを通気する請求項1記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項3】
還元性を有する有機物ガスが、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン及びヘキサンから選ばれる単独又は混合物である請求項1又は2記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池用負極活物質として用いた際に、優れた初回充放電効率及びサイクル特性を有する非水電解質二次電池用負極活物質及び負極材、ならびにこれを用いた負極を有する、リチウムイオン二次電池及び電気化学キャパシタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の二次電池が強く要望されている。従来、この種の二次電池の高容量化策として、例えば、負極材料にV、Si、B、Zr、Sn等の酸化物及びそれらの複合酸化物を用いる方法(例えば、特許文献1:特開平5−174818号公報、特許文献2:特開平6−60867号公報参照)、溶融急冷した金属酸化物を負極材として適用する方法(例えば、特許文献3:特開平10−294112号公報参照)、負極材料に酸化珪素を用いる方法(例えば、特許文献4:特許第2997741号公報参照)、負極材料にSi22O及びGe22Oを用いる方法(例えば、特許文献5:特開平11−102705号公報参照)等が知られている。また、負極材に導電性を付与する目的として、SiOをカーボンとメカニカルアロイング後、炭化処理する方法(例えば、特許文献6:特開2000−243396号公報参照)、珪素粒子表面に化学蒸着法により炭素層を被覆する方法(例えば、特許文献7:特開2000−215887号公報参照)等が挙げられる。
【0003】
しかしながら、上記従来の方法では、充放電容量が上がり、エネルギー密度が高くなるものの、サイクル性が不十分であったり、市場の要求特性には未だ不十分であったりし、必ずしも満足でき得るものではなく、更なる向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−174818号公報
【特許文献2】特開平6−60867号公報
【特許文献3】特開平10−294112号公報
【特許文献4】特許第2997741号公報
【特許文献5】特開平11−102705号公報
【特許文献6】特開2000−243396号公報
【特許文献7】特開2000−215887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、良好な初回充放電効率及びサイクル特性を有する、特にリチウムイオン二次電池用として有効な非水電解質二次電池用負極活物質及び負極材、ならびにこれを含む負極を有するリチウムイオン二次電池及び電気化学キャパシタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は検討過程において、種々の条件にて得られた粒子の電池特性評価を行った結果、粒子表面の酸化膜層が抵抗となり、充放電時のリチウム移動を阻害しているという結論に至った。そこで、得られた各種材料の分析を行った結果、負極活物質、すなわちリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料として、一般式SiOx(0.8≦x<1.2)で表される酸化珪素及び珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合体から選ばれる核粒子の表面に、カーボン被膜を有する被覆粒子であって、上記核粒子表面(表面を0としたとき深さ0〜5nm)におけるO/Siモル比(Xs)と、表面から100nmの粒子内部のO/Siモル比(X)とが、Xs<Xである被覆粒子を選択することで、上記課題を解決できることを知見した。
【0007】
従って、本発明は下記を提供する。
[1].珪素、一般式SiOx(0.8≦x<1.2)で表される酸化珪素及び珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合体から選ばれる核粒子の表面に、減圧下、600〜1300℃で還元性を有する有機物ガス中、CVDによりカーボン被覆処理をし、得られたカーボン被覆粒子を冷却する製造方法であって、この冷却工程において、CVD後のカーボン被覆粒子の粉体温度が400℃以下になるまで、減圧下で装置内の酸素濃度を1体積%以下に保つことを特徴とする、珪素、一般式SiOx(0.8≦x<1.2)で表される酸化珪素及び珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合体から選ばれる核粒子の表面に、カーボン被膜を有する被覆粒子であって、上記核粒子表面(表面を0としたとき深さ0〜5nm)におけるO/Siモル比(Xs)と、表面から100nmの粒子内部のO/Siモル比(X)とが、Xs<Xである非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
[2].冷却工程において、不活性ガス又は還元性ガスを通気する[1]記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
[3].還元性を有する有機物ガスが、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン及びヘキサンから選ばれる単独又は混合物である[1]又は[2]記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明で得られた負極活物質を、非水電解質二次電池の負極材として用いることで、高い初回充放電効率を有し、サイクル性に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1における酸化珪素粒子のXPS測定チャート(1)である。
図2】実施例1における被覆粒子の粒子断面のTEM写真である。
図3】実施例1における被覆粒子のXPS測定チャート(2)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[非水電解質二次電池用負極活物質]
本発明の非水電解質二次電池用負極活物質は、珪素、一般式SiOx(0.8≦x<1.2)で表される酸化珪素及び珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合体から選ばれる核粒子の表面に、カーボン被膜を有する被覆粒子であって、上記核粒子表面(表面を0としたとき深さ0〜5nm)におけるO/Siモル比(Xs)と、表面から100nmの粒子内部のO/Siモル比(X)とが、Xs<Xであるものである。
【0011】
[核粒子]
核粒子となるのは、珪素、一般式SiOx(0.8≦x<1.2)で表される酸化珪素及び珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合体で、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料である。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。中でも、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合体が好ましい。
【0012】
核粒子−珪素
珪素としては特に限定されず、従来公知のリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が用いられる。
【0013】
核粒子−酸化珪素
本発明において酸化珪素とは、金属珪素の酸化、二酸化珪素の還元、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却・析出して得られた非晶質の珪素酸化物の総称であり、一般式SiOxで表されるものをいう。xは0.8≦x<1.2であり、0.8≦x<1.0が好ましい。
【0014】
核粒子−珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合体
珪素系化合物としては、不活性なものが好ましく、二酸化珪素、窒化珪素、炭化珪素、酸窒化珪素が好ましい。珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子は、下記性状を有していることが好ましい。
i.銅を対陰極としたX線回折(Cu−Kα)において、2θ=28.4°付近を中心としたSi(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の広がりをもとに、シェーラーの式によって求めた珪素の結晶の粒子径が好ましくは1〜500nm、より好ましくは2〜200nm、更に好ましくは2〜20nmである。珪素の微粒子の大きさが1nmより小さいと、充放電容量が小さくなる場合があるし、逆に500nmより大きいと充放電時の膨張収縮が大きくなり、サイクル性が低下するおそれがある。なお、珪素の微粒子の大きさは透過電子顕微鏡写真により測定することができる。
ii.固体NMR(29Si−DDMAS)測定において、そのスペクトルが−110ppm付近を中心とするブロードな二酸化珪素のピークとともに−84ppm付近にSiのダイヤモンド結晶の特徴であるピークが存在する。なお、このスペクトルは、通常の酸化珪素(SiOx:x=1.0+α)とは全く異なるもので、構造そのものが明らかに異なっているものである。また、透過電子顕微鏡によって、シリコンの結晶が無定形の二酸化珪素に分散していることが確認される。
【0015】
珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する複合体における、珪素微結晶(Si)の分散量は2〜36質量%が好ましく、10〜30質量%が好ましい。この分散珪素量が2質量%未満では、充放電容量が小さくなる場合があり、逆に36質量%を超えるとサイクル性が低下するおそれがある。
【0016】
珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合体は、例えば、上記酸化珪素を、不活性ガス雰囲気下800〜1300℃で不均化処理することにより得ることができる。熱処理温度が800℃より低いと、不均化が全く進行しないかシリコンの微細なセル(珪素の微結晶)の形成に極めて長時間を要し効率的でなく、逆に1300℃より高いと、二酸化珪素部の構造化が進み、リチウムイオンの往来が阻害されるので、リチウムイオン二次電池としての機能が低下するおそれがある。熱処理温度は900〜1200℃が好ましく、900〜1100℃がより好ましい。なお、処理時間(不均化時間)は不均化処理温度に応じて10分〜20時間、特に30分〜12時間程度の範囲で適宜選定することができるが、例えば1100℃の処理温度においては5時間程度で所望の物性を有する、珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子(珪素複合体粒子)が得られる。
【0017】
上記不均化処理は、不活性ガス雰囲気において、加熱機構を有する反応装置を用いればよく、特に限定されず、連続法、回分法での処理が可能で、具体的には流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。この場合、(処理)ガスとしては、Ar、He、H2、N2等の上記処理温度にて不活性なガス単独もしくはそれらの混合ガスを用いることができる。
【0018】
核粒子は適宜粉砕処理などを行い、所望の粒径とすることが好ましく、平均粒子径はレーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積平均値D50(即ち、累積体積が50%となる時の粒子径(メジアン径))が、0.01〜50μmを有するものが好ましい。0.1〜30μmがより好ましく、0.5〜10μmがより好ましい。D50が0.01μmより小さいと表面酸化の影響で純度が低下し、非水電解質二次電池用負極活物質として用いた場合、充放電容量が低下したり、嵩密度が低下し、単位体積あたりの充放電容量が低下するおそれがある。一方、50μmより大きいと、負極膜を貫通してショートする原因となるおそれがある。また、BET比表面積は0.1m2/g以上が好ましく、より好ましくは0.2m2/g以上で、上限は30m2/g以下が好ましく、より好ましくは20m2/g以下である。
【0019】
[カーボン被膜]
上記核粒子の表面にカーボン被膜を有することで導電性が付与される。カーボン被覆量は特に限定されるものではないが、核粒子に対して0.1〜40質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましい。カーボン被覆量が0.1質量%より少ないと、導電性を維持できなくなるおそれがあり、結果として非水電解質二次電池用負極活物質とした場合にサイクル性が低下するおそれがある。逆にカーボン被覆量が40質量%より多くても、効果の向上が見られないばかりか、負極材料に占めるカーボンの割合が多くなり、非水電解質二次電池用負極材として用いた場合、充放電容量が低下するおそれがある。
【0020】
本発明においては、上記核粒子表面(表面を0としたとき深さ0〜5nm)におけるO/Siモル比(Xs)と、核粒子表面から100nmの粒子内部のO/Siモル比(X)とが、Xs<Xである。これは、核粒子の表面が還元されたがどうかの指標であり、これを調整することにより、核粒子表面の酸化膜層を減らし、高い初回充放電効率、優れたサイクル性を得ることができる。なおO/Siモル比は、XPS装置(X線光電子分光測定装置)で測定することができる。カーボン被膜の厚さはTEM(透過型電子顕微鏡)で測定することができる。
【0021】
[製造方法]
本発明の被覆粒子を得る方法としては、例えば、上記各粒子又はその混合物を、常圧又は減圧下で、600〜1300℃、好ましくは800〜1200℃で還元性を有する有機物ガス中で、CVDによりカーボン被覆処理をする方法が挙げられる。上記処理温度が600℃より低いと有機物ガスの熱分解が不十分でCVDが困難となるおそれがあり、逆に1300℃より高いと、二酸化珪素部の構造化が進み、リチウムイオンの往来が阻害されるので、リチウムイオン二次電池用負極材としての機能が低下するおそれがある。なお、処理時間は、カーボン被覆量、処理温度、処理圧力等によって適宜選定されるが、通常、1〜24時間、特に3〜15時間程度が経済的にも効率的である。
【0022】
本発明における有機物ガスを発生する原料として用いられる有機物としては、特に非酸化性雰囲気下において、上記熱処理温度で熱分解してカーボンを生成し得るものが選択され、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン等の炭化水素の単独又は混合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環〜3環の芳香族炭化水素又はこれらの混合物が挙げられる。また、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油も単独又は混合物を用いることができる。
【0023】
また、CVDによるカーボン被覆処理後の冷却工程において、核粒子及びカーボン被膜が酸化するのを防止する必要がある。例えば、CVDによるカーボン被覆処理後のカーボン被覆粒子の粉体温度が400℃以下、好ましくは300℃以下になるまで、装置内の酸素濃度を1体積%以下、好ましくは0.1体積%以下に保つ方法が挙げられる。装置内の酸素濃度を1体積%以下にする方法としては、例えば、Arガス、窒素ガス、Heガス等の不活性ガスや、水素などの還元性ガスを通気するとよい。また、減圧下でCVD処理をした場合は、減圧下、好ましくは5〜10000Paの状態を保ちながら、被覆粒子の温度が400℃以下、好ましくは300℃以下になったことで、大気で大気圧まで復圧して取り出すとよい。粉体温度の測定は、粉体層に熱電対を刺して測定できるが、粉体層に直接熱電対を刺せない場合は、上記と同じ温度とみなすことができる装置内温度、例えば炉内に設置された熱電対で測定した炉内温度として測定することができる。また、CVD処理後の400℃以下までの装置内の酸素濃度は、ジルコニア式酸素濃度計、具体的には、第一熱研(株)エコアゼットTB−II F−Rで測定することができる。このようにCVD処理後の冷却中の処理装置内の酸素濃度を1体積%以下とすることで、大気中の酸素により再酸化されるおそれがなく、核粒子の表面が還元された状態を保持できる。なお、原料として酸化珪素を用いてカーボンCVD処理をすることによって、同時に酸化珪素の不均化反応が進行し、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合体粒子がカーボン被膜を有する被覆粒子としてもよい。
【0024】
[非水電解質二次電池用負極材]
本発明は、上記被覆粒子を非水電解質二次電池用負極活物質として用いるものであり、これを用いた非水電解質二次電池負極材を用いて、負極を作製し、リチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0025】
なお、上記非水電解質二次電池用負極活物質を用いて負極を作製する場合、カーボン等の導電剤を添加することができる。この場合においても導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよく、具体的にはAl,Ti,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag,Sn,Si等の金属粒子や金属繊維又は天然カーボン、人造カーボン、各種のコークス粒子、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等のカーボンを用いることができる。
【0026】
負極(成形体)の調製方法としては下記の方法が挙げられる。上記被覆粒子と、必要に応じて導電剤と、結着剤等の他の添加剤とに、N−メチルピロリドン又は水等の溶剤を混練してペースト状の合剤とし、この合剤を集電体のシートに塗布する。この場合、集電体としては、銅箔、ニッケル箔等、通常、負極の集電体として使用されている材料であれば、特に厚さ、表面処理の制限なく使用することができる。なお、合剤をシート状に成形する成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0027】
[リチウムイオン二次電池]
リチウムイオン二次電池は、上記負極活物質を用いる点に特徴を有し、その他の正極、負極、電解質、セパレータ等の材料及び電池形状等は公知のものを使用することができ、特に限定されない。例えば、正極活物質としてはLiCoO2、LiNiO2、LiMn24、V25、MnO2、TiS2、MoS2等の遷移金属の酸化物、リチウム、及びカルコゲン化合物等が用いられる。電解質としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられ、非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン等の1種又は2種類以上を組み合わせて用いられる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。
【0028】
[電気化学キャパシタ]
また、電気化学キャパシタを得る場合は、電気化学キャパシタは、上記負極活物質を用いる点に特徴を有し、その他の電解質、セパレータ等の材料及びキャパシタ形状等は限定されない。例えば、電解質として六フッ化リン酸リチウム、過塩素リチウム、ホウフッ化リチウム、六フッ化砒素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられ、非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン等の1種又は2種類以上を組み合わせて用いられる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0030】
[実施例1]
平均粒子径5μmの酸化珪素粒子を準備した。この粒子の粒子表面近傍の元素比を、島津製作所のXPS装置(AXIS−Hs)で分析した。測定チャートを図1に示す。酸化珪素粒子表面から内部に向かってO/Si比は減少しており、粒子表面近傍(表面を0としたとき深さ0〜5nm)におけるO/Siモル比をXs、表面から100nmの粒子内部のO/Siモル比をXとした時、Xs>Xとなっていることがわかる。
この粒子50gをカーボン製トレイに入れ、バッチ式加熱炉内に仕込んだ。その後、油回転式真空ポンプで100Pa以下まで減圧しつつ、300℃/hrの昇温速度で1000℃まで昇温、保持した。次に、メタンガスを0.1NL/minで流入し、15時間のカーボン被覆処理(CVD処理)を行った。なお、この時の減圧度は1000Paであった。処理後は炉内が1000Paを保つようにArガスを通気しながら降温し、粉体温度が250℃になったところで、大気で大気圧まで復圧して取り出した。炉内の酸素濃度は第一熱研(株)エコアゼットTB−II F−Rで測定し、得られた電流値から酸素濃度を求めた。復圧前の炉内酸素濃度は8×10-12ppmであった。得られた黒色粒子は、平均粒子径=5.1μm、カーボン被覆量4.8質量%(対黒色粒子)の導電性粒子であった。
【0031】
この粒子のカーボン被膜の厚みを見るため、粒子断面をTEMで観察した。図2のように、被膜厚みは約40nmであることを確認した。また、表面近傍の元素比を、XPS装置で分析した。測定チャートを図3に示す。TEM観察結果から、粒子におけるカーボン被膜と酸化珪素の境界は表面から約40nmであり、その酸化珪素表面から5nmまでのO/Si比(Xs)は内部のO/Si比(X)より小さい。
よってこの粒子はカーボン被覆処理によりXs<Xと変化しており、表面近傍が還元された酸化珪素であることがわかる。なお、カーボンCVD処理をすることによって、同時に酸化珪素の不均化反応が進行し、得られた粒子は、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合体粒子がカーボン被膜を有する被覆粒子であった。
【0032】
[電池評価]
次に、得られた負極材45質量%と人造カーボン(平均粒子径10μm)45質量%、ポリイミド10質量%を混合し、更にN−メチルピロリドンを加えてスラリーとした。
このスラリーを厚さ20μmの銅箔に塗布し、80℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を350℃で1時間真空乾燥させた。その後、2cm2に打ち抜き、負極とした。
【0033】
ここで、得られた負極の充放電特性を評価するために、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質として六フッ化リンリチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0034】
作製したリチウムイオン二次電池は、一晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用い、テストセルの電圧が0Vに達するまで0.5mA/cm2の定電流で充電を行い、0Vに達した後は、セル電圧を0Vに保つように電流を減少させて充電を行った。そして、電流値が40μA/cm2を下回った時点で充電を終了した。放電は0.5mA/cm2の定電流で行い、セル電圧が2.0Vを上回った時点で放電を終了し、放電容量を求めた。
【0035】
以上の充放電試験を繰り返し、評価用リチウムイオン二次電池の50サイクル後の充放電試験を行った。その結果、初回放電容量1725mAh/g、初回充放電効率81%、50サイクル目の容量保持率92%の高容量であり、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0036】
[実施例2]
実施例1で使用した酸化珪素粒子を、炉芯管内径200mm、炉芯管長3mのロータリーキルンに、スクリュー式フィーダーを使用して1kg/時間で供給した。ヒーターは1020℃に設定した。このとき、炉芯管中央部は1000℃、炉内酸素濃度は2×10-15ppmであった。
ガスは、メタンを窒素で13体積%に希釈したものを、30L/minでガス入り口から流入させた。原料の供給開始から5時間経過すると時間当たりの排出量が安定したため、その時点から2時間分の生成物を回収した。ロータリーキルンから排出された処理物は窒素ガスを通気した容器で冷却したのち回収し、容器内の酸素濃度は0.05体積%、回収時の粉体温度は35〜40℃であった。得られた黒色粒子は、平均粒子径=5.2μm、カーボン被覆量5.3質量%の導電性粒子であった。
この粒子も実施例1と同様に酸素量分析、XPS分析を行い、実施例1と同様、Xs<Xの関係を満たす粒子であることを確認した。
【0037】
[実施例3]
実施例1で使用した酸化珪素粒子50gをカーボン製トレイに入れ、バッチ式加熱炉内に仕込んだ。油回転式真空ポンプで100Pa以下まで減圧しつつ、300℃/hrの昇温速度で800℃まで昇温、保持後、トルエンを0.5g/minで炉内に滴下し、3時間のカーボン被覆処理を行った。実施例1と同様、炉内圧が1000Paを保つようにArガスを通気しながら降温し、250℃で復圧して取り出した。復圧前の炉内酸素濃度は7×10-12ppmであった。得られた黒色粒子は、平均粒子径=5.0μm、カーボン被覆量4.9質量%の導電性粒子であった。
この粒子も実施例1と同様に酸素量分析、XPS分析を行い、実施例1と同様、Xs<Xの関係を満たす粒子であることを確認した。
【0038】
[比較例1]
実施例1と同様の酸化珪素粒子(Xs>X)をそのまま使用し、45質量%と人造カーボン(平均粒子径10μm)45質量%、ポリイミド10質量%を混合し、更にN−メチルピロリドンを加えてスラリーとした。その後は実施例1と同様に試験用電池を作製し、同様な電池評価を行った。
【0039】
[比較例2]
実施例1と同様の酸化珪素粒子(Xs>X)50gをカーボン製トレイに入れ、バッチ式加熱炉内に仕込んだ。常圧のまま300℃/hrの昇温速度で1000℃まで昇温、保持した。次に、水素を窒素で20体積%に希釈したものを、1NL/minで流入し、3時間の熱処理を行った。この粒子も同様に酸素量分析、XPS分析を行ったが、Xs>Xであり表面近傍が還元されてはいなかった。
この粒子を用いて実施例1と同じ方法で試験用電池を作製し、同様な電池評価を行った。
【0040】
[比較例3]
実施例1と同じ平均粒子径5μmの酸化珪素粒子を準備し、実施例1と同様にカーボン被覆処理を行った。
処理後はArガスを炉内が1000Paを保つように通気しながら降温したが、粉体温度が450℃の時点で大気中に取り出した。この粒子も同様に酸素量分析、XPS分析を行ったが、Xs>Xであり表面近傍が還元されてはいなかった。
【0041】
実施例及び比較例の電池評価結果を表1に示す。実施例1〜3の、Xs<Xの関係を満たす粒子で作製した電池と比較して、比較例1〜3のようにXs>Xとなる粒子を使用した電池は電池性能で劣ることが確認された。
【0042】
【表1】
【0043】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1
図3
図2