(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コヒーレントでありかつ一定の周期で繰り返す繰り返し周波数を掃引可能なパルス光を出射する光源と、当該光源から出射するパルス光を分岐する分岐手段と、分岐された2つのパルス光のうちいずれか一方のパルス光に遅延を付与する遅延手段と、前記2つのパルス光のうちいずれか一方のパルス光を対象物に入射して該対象物にて反射する反射パルス光と前記分岐手段にて分岐され前記反射パルス光と異なるパルス光とを合波する合波手段と、得られた合波光を受光し、この合波光の干渉によるビート成分を検出する検出手段と、該検出手段から出力されるビート成分が最大となったときに得られる情報に基づき前記対象物までの距離を算出する演算手段とを備え、
前記情報は、前記検出手段から出力される前記ビート成分の内、前記周波数をシフトしたシフト周波数に、前記反射パルス光と前記反射パルス光となるパルス光以外のパルス光との繰り返し周波数差、または、前記繰り返し周波数差とその整数倍の繰り返し周波数差を加えた周波数成分を含むことを特徴とする距離測定装置。
前記光源は、干渉型の光変調器の互いに干渉する各々の光の変調条件を調節することにより光周波数コムを発生する光周波数コム光源を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載の距離測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の距離測定装置を実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0013】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態の距離測定装置を示す概略構成図であり、この距離測定装置1は、パルス光源2と、ビームスプリッタ(分岐手段)3と、遅延光路(遅延手段)4と、周波数シフタ(周波数シフト手段)5と、ビームスプリッタ(合波手段)6と、光検出器(検出手段)7と、演算装置(演算手段)8と、制御装置9と、可動ミラー(光路切替手段)10と、基準ミラー11とを備えている。なお、12は距離を測定する対象となる対象物である。
【0014】
パルス光源2は、コヒーレントでありかつ一定の周期で繰り返す繰り返しパルス光を出射するパルス光源、例えば、コヒーレントでありかつ繰り返し周波数が10GHz±0.1GHzの範囲で繰り返し可変な超短パルス光を繰り返し周波数掃引可能とする超短パルス光源が好適に用いられる。
このような超短パルス光源としては、キャビティの光学長が可変のモードロックレーザ、マッハツェンダ型光変調器の変調歪を用いた超短パルス光源(以下、単に「変調歪方式の超短パルス光源」と称する)が挙げられる。ここで、変調歪方式の超短パルス光源は、高い繰り返し周波数が得られ、繰り返し周波数が容易且つ安定に制御できる点で好ましい。
【0015】
この変調歪方式の超短パルス光源は、干渉型の光変調器の互いに干渉する各々の光の変調条件を調節することにより光周波数コムを発生するもので、光周波数コム光源とも称されるものである。光周波数コムについては、既に、特許4771216号公報、特開2011−221366等で報告されているので、詳細な説明は省略する。
【0016】
この変調歪方式の超短パルス光源は、マッハツェンダ型LN変調器の駆動条件を適切に選択することにより、平坦な光周波数コムを発生させ、さらに、この平坦な光周波数コムを分散補償することで数ピコ秒の超短パルスを発生させることができる。さらに、この数ピコ秒の超短パルスにパルス圧縮を行うことにより、さらに周波数の高いサブピコ秒の超短パルスを発生させることができる。
例えば、パルス圧縮を行わない場合には、2〜3ピコ秒(ps)程度のパルス幅の超短パルスを発生させることができる。さらに、超短パルスにパルス圧縮を行った場合には、100〜300フェムト秒(fs)程度のパルス幅の超短パルスを発生させることができる。
【0017】
この変調歪方式の超短パルス光源においては、超短パルスの繰り返し周波数をLN変調器の変調周波数で制御することにより、超短パルスの繰り返し周波数を安定かつ高分解能で、容易に制御することができる。
例えば、ベースとなる変調周波数(繰り返し周波数)が10GHzのとき、0.1GHzの範囲で10kHzの周波数分解能で掃引を行えば、測定距離範囲が15mmの場合に3μmの分解能で距離検出が可能である。この場合、変調周波数を大きく変化させることが難しいので、遅延光路4を設けることにより、小さい変調周波数変化で十分な掃引ができる。
なお、空間光学系では、通常、パルス光源2は、コリメータレンズやビームエキスパンダ等を用いて適宜適切なビーム径の平行光束として用いられる。
【0018】
ビームスプリッタ3は、パルス光源2から出射する繰り返しパルス光L
0を2つの繰り返しパルス光L
1、L
2に分岐するもので、伝搬中の偏光状態が保存される無偏光ビームスプリッタが好ましい。ビームスプリッタ3として偏光ビームスプリッタを用いた場合については後述する。
遅延光路4は、ビームスプリッタ3にて分岐された一方のパルス光L
1に、他方のパルス光L
2と比較して時間的な遅延を付与するもので、光路4a上に反射用のミラー4bが複数設けられた構成である。
【0019】
周波数シフタ5は、ビームスプリッタ3、6間の光路上に設けられ、ビームスプリッタ3にて分岐された他方のパルス光L
2の周波数をシフトさせて周波数シフトされたパルス光L
2’とするもので、バルク型のAO変調器、ニオブ酸リチウム(LN)基板上に光導波路が形成された導波路型光素子、光ファイバを用いた方向性結合器型光素子等が好適に用いられる。
【0020】
この周波数シフタ5では、シフトする周波数の範囲が周波数シフタ5によるシフト周波数を中心とした狭い範囲内に設定されている。
例えば、このシフト周波数の中心周波数は、パルス光源2の繰り返し周波数0.5〜100GHzや周波数を掃引する周波数1〜1000kHzと分離することができ、かつ周波数シフタ5が入手し易いやすい10MHz以上かつ300MHz以下の範囲となるように設定されている。
【0021】
ビームスプリッタ6は、遅延光路4を通過するパルス光L
1を透過させて対象物12に入射させ、この対象物12にて反射する反射パルス光L
1’と周波数シフトパルス光L
2’とを合波するもので、伝搬中の偏光状態が保存される無偏光ビームスプリッタが好ましい。
なお、ビームスプリッタ3、6として偏光ビームスプリッタを用いた場合、ビームスプリッタ3で反射した繰り返しパルス光L
1がビームスプリッタ6で透過するように遅延光路4中に1/2波長板を配置した構成を取ることができる。
【0022】
なお、このように配置した場合、ビームスプリッタ6を透過して対象物12へ向かったパルス光L
1が、対象物12で反射して反射パルス光L
1’となった後にビームスプリッタ6で反射するように、このビームスプリッタ6から対象物12までの光路中に1/4波長板を設置するとよい。
【0023】
光検出器7は、合波された反射パルス光L
1’及び周波数シフトパルス光L
2’から合波光の干渉によるビート成分を検出するもので、例えば、アバランシェホドダイオード(APD)等が好適に用いられる。この光検出器7では、その周波数帯域を、周波数シフタ5により周波数をシフトすることが可能な周波数の範囲を含むように設定することが好ましい。
【0024】
演算装置8は、光検出器7から出力される合波光の干渉によるビート成分に基づき、このビート成分が最大となったときに得られる情報を基に対象物12までの距離を算出する。
上記の情報としては、次の(1)、(2)のいずれか一方、あるいは双方を含むのが好ましい。
(1)ビート成分が最大となったときの繰り返し周波数(すなわち、変調周波数)。
(2)光検出器7から出力されるビート成分の内、反射パルス光L
1’と、ビームスプリッタ3にて分岐された反射パルス光L
1’と異なる繰り返しパルス光(ここでは、周波数シフトパルス光L
2’)との繰り返し周波数差の周波数成分を含む情報、または、この繰り返し周波数差とその整数倍の周波数成分を含む情報。
制御装置9は、パルス光源2及び演算装置8各々の動作を制御する。
【0025】
可動ミラー10は、ビームスプリッタ6と対象物12との間の光軸とは異なる一つの軸を回転軸として回転することにより、この光軸を伝搬するパルス光が対象物12あるいは基準ミラー11のいずれかに入射するように切り替える。なお、ここでは光路切替手段として可動ミラー10を用いたが、可動ミラー10の替わりにAO変調器や液晶等を用いた光スイッチ素子を光路切換手段としてもよい。
基準ミラー11は、コーナーリフレクタ等により構成されており、距離計測の基準面となる。
【0026】
この距離測定装置1では、ビームスプリッタ6の対象物12側に可動ミラー10を配置し、基準面となる基準ミラー11までの距離(遅延量)を測定し、この距離(遅延量)を対象物12までの距離から差し引くことにより、この基準ミラー11の位置を基準として、対象物12までの距離を正確に求めることができる。
また、ビームスプリッタ6と対象物12との間の光路上にパルス光L
1を2次元状にて走査する走査光学系を配置することにより、対象物12の三次元における形状測定を行うことができる。
【0027】
なお、
図1では、ビームスプリッタ6の対象物12側に可動ミラー10と基準ミラー11とを配置する構成としたが、可動ミラー10を配置せず、この基準ミラー11を移動させることにより、ビームスプリッタ6と対象物12との間の光路に挿入したり、あるいは取り出したり等してもよい。
【0028】
次に、この距離測定装置1の動作について説明する。
まず、パルス光源2により、繰り返し周波数が10GHz±0.1GHzの範囲内の所望の値に設定された繰り返しパルス光L
0を出射する。
ビームスプリッタ3では、この繰り返しパルス光L
0を反射/透過により2つの繰り返しパルス光L
1、L
2に分岐し、反射した一方のパルス光L
1(物体光)を遅延光路4に入射し、透過した他方のパルス光L
2(参照光)を周波数シフタ5に入射する。
【0029】
パルス光L
1(物体光)は、遅延光路4を通過する間に遅延距離Dだけ遅延が付与され、次いで、ビームスプリッタ6を透過し、対象物12に入射する。対象物12に入射したパルス光L
1は、この対象物12にて反射されることで反射パルス光L
1’となり、この反射パルス光L
1’はビームスプリッタ6にて反射され、光検出器7に入射する。
一方、パルス光L
2(参照光)は、周波数シフタ5にて周波数が所定の周波数、例えば50MHzシフトされた周波数シフトパルス光L
2’となり、この周波数シフトパルス光L
2’はビームスプリッタ6を透過し、光検出器7に入射する。
【0030】
ここでは、パルス光源2からビームスプリッタ3までの光路と、ビームスプリッタ6から光検出器7までの光路とは、パルス光L
1(物体光)とパルス光L
2(参照光)とで共通であるから、この共通の光路長をDc、遅延光路4による光路長差をDd、ビームスプリッタ6から対象物12までの光路長をDtとすると、パルス光L
1(物体光)とパルス光L
2(参照光)との光路長差Da(=Dd+2Dt)は次の式(1)にて表される。
【数1】
式(1)中、Naは、ある瞬間に光路長差Daの内に含まれるパルス数、θaはパルス光L
2(参照光)のパルス列とパルス光L
1(物体光)のパルス列の1周期に満たない位相差成分、cは光速、f
1は繰り返し周波数である。
【0031】
このとき、f≧f
1において、Naが変化せず、かつ、θa≒0となる繰り返し周波数fが存在する。
θa≒0の場合、光検出器7には、パルス光L
1(物体光)とパルス光L
2(参照光)とがほぼ同時に入射し、これらのビート周波数(周波数シフタでシフトした周波数)の出力が観測され、θa=0の時にビート成分が最大となる。
【0032】
ここで、Naが光学系の設計上既知であれば、Daを求めることができ、さらに、この光路の中で、測定の基準となる位置が既知であれば、対象物12までの距離を求めることができる。
したがって、繰り返し周波数fを掃引し、ビートが観察される繰り返し周波数を求めることにより、基準点から対象物12までの距離を求めることができる。
なお、測定の基準となる位置と測定光学系の相対位置や、遅延光路の光路長が温度変動等により求められる精度に比較して無視できない変動を持つ場合には、上述のように基準位置に設定された基準ミラー11を用いて、対象物の測定距離と基準位置の測定距離を差し引くことにより、精度の高い測定を行うことができる。
【0033】
ビートが観察されるのは、パルス光L
1とパルス光L
2が重なったタイミングだけであるから、例えば、パルス光のパルス幅が1psの場合、光速を3×10
8m/秒とすれば、3×10
−4m以内にタイミングがあった場合のみである。したがって、ビート信号が最大となるタイミングは、更に1桁から2桁狭い範囲で求められ、10
−6m程度の分解能を得ることができる。この分解能は、従来の周波数変調によって発生するビートを検出する方式と異なり、繰り返し周波数の掃引速度に影響されないので、高分解能の距離検出が実現できる。
この場合、繰り返し周波数の掃引を、パルス光L
1とパルス光L
2のタイミングのズレが3×10
−4m程度のステップで変化するように、ステップ上に行い、ビートが観察される繰り返し周波数が見つかったら、その近傍で繰り返し周波数を変化させるステップを細かくして、最大のビート成分が得られる繰り返し周波数を求めるのが好適である。
【0034】
このときの掃引の範囲、すなわち、繰り返し周波数の下限f
1に対する繰り返し周波数の上限f
2は、パルス光のタイミングが1つ分ずれるまでで設定すればよく、次の式(2)から求められる。
【数2】
【0035】
一方、上記の式(1)において、fの変化量に対するθの変化量は次の式(3)にて表される。
【数3】
この式(3)によれば、fの変化量に対するθの変化量は、Da、すなわちNaが大きいほど大きくなることが分かる。
【0036】
したがって、繰り返し周波数の小さい変化で十分な範囲を検出しようとする場合には、Daを大きく取るために、遅延光路4の光学距離を検出距離範囲よりも十分長い距離に設定することが好ましい。
例えば、f
1=10GHzとすると、空気中のパルス間隔(距離)は30mmであり、この時、遅延光路4の光学距離を3mと設定することにより、測定対象が極至近の距離にあったとしても、光路長差に含まれるパルス数(Na)は100となる。この時、繰り返し周波数を+100MHz変化させ、f
2=10.1GHzとすると、光路長差に含まれるパルス数は101となり、パルス光L
1とパルス光L
2の間でパルス1周期分(30mm)のずれを発生させる掃引を行うことができ、この30mmの範囲の距離測定を行うことができる。
【0037】
ここで、例えばパルス幅が数psとして、パルス光L
1とパルス光L
2のタイミングが1ps(3×10
−4m)ずつステップ状にずれるようにするには、100MHz×(3×10
−4m/30mm)=1MHzにより、1MHzステップで繰り返し周波数を変化させていけば良い。また、各ステップにおいては、同じ繰り返し周波数のパルス列が光検出器7に到達する時間(ここでは光路長差3mから10
−8秒)の測定待ち時間とパルスの繰り返し時間(ここでは繰り返し周波数10GHzにより10
−10秒)に相当する測定時間が測定に際して最低限必要である。
【0038】
ここで、上記の式(1)から測定距離を求める手順について説明する。
上記パルス1周期分のずれを発生させる繰り返し周波数掃引によって測定を行う場合の測定対象の距離をDmとすると、この測定対象距離Dmと、全光路長差Daと、遅延光路4による光路長差Ddとの間には、
Da=2×Dm+Dd
の関係が成り立つ。そこで、測定可能範囲の全光路長差Daの最大値をDa
max、最少値をDa
minとし、これを、一定パルス数Naで繰り返し周波数Fの最少値F
minから最大値F
maxまで掃引するものとすると、パルス数Naとは、次の式(4)の関係が成り立つ。
【数4】
【0039】
したがって、この式(4)から、繰り返し周波数Fの最大値F
maxと最少値F
minとの関係は次の式(5)で表されることとなる。
【数5】
この式(4)により、繰り返し周波数Fは、最少値F
minから最大値F
maxまでの範囲で掃引すればよいことが分かる。
【0040】
このときのパルス数Naは固定されているので、実際の測定においては、繰り返し周波数Fでビートが検出されたとすると、このときの全光路長差Daは、次の式(6)で表される。
【数6】
したがって、測定対象の距離Dmmは、光路長差Daと遅延光路4による光路長差Ddを用いて、次の式(7)で表される。
【数7】
【0041】
例えば、測定距離Dmの最大値を、繰り返し周波数10GHzにおけるパルス間隔の半分の15mm、測定距離Dmの最小値を0mm、遅延光路4による光路長差Ddを3.00mとすると、光路長差Daの最大値Da
maxは3.03m、最少値Da
minは3.00mとなる。ここで、パルス間隔がこの測定範囲をカバーできるように、繰り返し周波数の最大値を10.0GHzと設定し、式(5)により繰り返し周波数の最小値を求め、周波数Fの最少値F
min(=9.901GHz)から最大値F
max(=10.0GHz)まで掃引して9.95GHzにてビート信号が検出された場合、光路長差Daは、
Da=3.03×9.901/9.95=3.00×10.0/9.95=3.01508m
となる。したがって、測定対象の距離Dmmは、
Dmm=(3.01508−3.000)/2=0.007539m
となる。
【0042】
なお、必ずしもパルス1周期分のみのずれの範囲で測定を行わなければならないわけではなく、繰り返し周波数掃引により、パルス1周期分を超えるずれ(遅延)が生じる範囲の距離検出を行うことも可能である。その場合には、繰り返し周波数の掃引にともなって、ビート信号の極大が複数回観測される。光路長差は、極大の都度繰り返し周波数を記録し、その繰り返し周波数から、(1)式を連立させた連立方程式によりそれぞれの繰り返し周波数におけるパルス数Na、Daを求めることができる。例えば、繰り返し周波数faの時にビート信号が極大となった場合、(1)式は、Da=Na(c/fa)、次に、繰り返し周波数fbの時にビート信号が極大となった場合、(1)式は、Da=(Na−1)(c/fb)となるので、これらの連立方程式により、未知数Da、faを確定することができる。
【0043】
2種類の繰り返し周波数をベースに用いて逐次上記のパルス1周期分の繰り返し周波数掃引測定をすることにより、測定範囲を拡張することもできる。
例えば、繰り返し周波数FがF
1及びF
2の2種類の繰り返し周波数を用いて、F
1a、F
2aでそれぞれビート成分最大を得た場合、Da=Na
1(c/F
1a)、Da=Na
2(c/F
2a)の連立方程式から、Na=Na
1=Na
2の場合にDa、Naを確定することができる。このようにNa
1、Na
2が等しくなる条件は、F
1a<F
2aであれば、Da≦c/(F
2a−F
1a)であり、この範囲の測定レンジを得ることができる。
【0044】
ここで、上記のように繰り返し周波数がF
1及びF
2の2種類の繰り返し周波数を用いて測定レンジを拡張した場合の距離の求め方について、さらに
図2に基づき説明する。
パルス光源2としては、繰り返し周波数がF
1及びF
2の2種類の繰り返し周波数を複数のパルス光源を用いて逐次出射させることのできるアレイ型パルス光源、または、繰り返し周波数がF
1及びF
2の2種類の繰り返し周波数を1つのパルス光源から逐次出射させることのできる周波数可変型のパルス光源が好適に用いられる。
【0045】
2つの繰り返し周波数(パルス間隔)F
1及びF
2を用いたばあい、2つの繰り返し周波数F
1及びF
2のパルスタイミング(パルス位置)が最初に一致してから、次に一致するまでの期間における双方の測定値から距離を特定することが可能である。
ここで、繰り返し周波数F
1の単体での測定最大距離(掃引範囲)L
1はL
1=c/F
1で表され、繰り返し周波数F
2の単体での測定最大距離(掃引範囲)L
2はL
2=c/F
2で表される。このとき、測定可能範囲は、パルス数の差が1以下の範囲であり、F
1<F
2とすると、L
1×L
2/(L
1−L
2)で表される。
【0046】
ここで、繰り返し周波数F
1では、P
1という測定距離が得られ、繰り返し周波数F
2ではP
2という測定距離が得られたとすると、実際の距離Lは、
L=P
1+L
1×(P
2−P
1)/(L
1−L
2)
=P
2+L
2×(P
2−P
1)/(L
1−L
2)
となる。
【0047】
次に、掃引速度が対象物12までの距離(光束の伝搬時間)と比較して速い場合には、干渉するパルス光L
1(物体光)とパルス光L
2(参照光)との間に繰り返し周波数差が生じる。そのため、ビート信号は、周波数シフタの周波数に繰り返し周波数差を加えた周波数成分を持つことになる。
したがって、ビート信号から得られる上記の繰り返し周波数差と掃引速度から、パルス光L
1(物体光)とパルス光L
2(参照光)との伝搬時間の差を求めることができ、この伝搬時間の差を基に実際の距離を求めることができる。例えば、繰り返し周波数差がΔfr(Hz)、掃引速度がΔfs(Hz/秒)とすれば、物体光と参照光の時間差は、Δfr/Δfsで表され、これと光速により、対象物の距離が求められる。
【0048】
また、パルス光L
2(参照光)及びパルス光L
1(物体光)それぞれの光の周波数成分が、基本周波数に対して繰り返し周波数の整数倍ずれた成分を有するので、ビート成分には、周波数シフタ5によりシフトされた周波数に、繰り返し周波数差の整数倍の周波数を加えた成分の信号が加わる。
これらの成分は、それぞれ、対応するパルス光の周波数成分の位相情報を含んでおり、その位相情報は周波数解析により求めることができる。この位相情報は、パルス光L
1(物体光)とパルス光L
2(参照光)の伝搬距離の差によるものであるから、パルス光の周波数差に比例する。したがって、ビート信号の周波数成分とその位相情報とに基づき、対象物12までの距離を求めることができる。
【0049】
ただし、このように、繰り返し周波数差と掃引速度に基づいて距離を求める場合には、掃引速度が遅い場合や物体光と参照光の距離差が小さい場合に、繰り返し周波数差が小さくなり、測定分解能が低くなる。このような場合は、まず、繰り返し周波数差と掃引速度に基づいて概ねの距離を求め、その距離に対応する繰り返し周波数の近傍で、低速で繰り返し周波数を掃引することにより、周波数シフタによるビート信号成分が最大になる繰り返し周波数を求め、この繰り返し周波数から、式(6)に基づいて精度よく対象物の距離を求めることができる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態の距離測定装置1によれば、パルス光源2と、ビームスプリッタ3と、遅延光路4と、周波数シフタ5と、ビームスプリッタ6と、光検出器7と、演算装置8と、制御装置9と、可動ミラー10と、基準ミラー11とを備えたので、対象物までの距離を精度よくかつ安定して測定することができる。したがって、超短パルス光を用いて測定対象までの距離を、高分解能かつ高速度で測定することができる。
【0051】
パルス光源2として変調歪方式の超短パルス光源を用いることにより、数ピコ秒の超短パルスを容易に得ることができ、対象物までの距離をサブミリメートルの距離分解能で精度よくかつ安定して測定することができる。この超短パルスは、繰り返し周波数が高度に安定しており、精度の高い距離測定を実現することができる。
以上により、構成が簡単で、しかも高分解能かつ高速度な距離測定装置を実現することができる。
【0052】
[第2の実施形態]
図3は、本発明の第2の実施形態の距離測定装置を示す概略構成図であり、この距離測定装置21が第1の実施形態の距離測定装置1と異なる点は、第1の実施形態の距離測定装置1が、分岐された一方のパルス光L
1(物体光)に遅延を付与する遅延光路4を設ける一方、他方のパルス光L
2(参照光)の周波数をシフトさせる周波数シフタ5を設けたのに対し、本実施形態の距離測定装置21が、分岐された他方のパルス光L
2(参照光)に遅延を付与する遅延光路4を設け、さらに、このパルス光L
2(参照光)の周波数をシフトさせる周波数シフタ5を設けた点である。
【0053】
この距離測定装置21では、まず、パルス光源2により、繰り返し周波数が10GHz±0.1GHzの範囲内の所望の値に設定された繰り返しパルス光L
0を出射する。
ビームスプリッタ3では、この繰り返しパルス光L
0を反射/透過により2つの繰り返しパルス光L
1、L
2に分岐する。
【0054】
分岐した一方のパルス光L
1(物体光)は、ビームスプリッタ6を透過し、対象物12にて反射されることで反射パルス光L
1’となり、この反射パルス光L
1’はビームスプリッタ6にて反射され、光検出器7に入射する。
一方、分岐した他方のパルス光L
2(参照光)は、遅延光路4を通過する間に遅延が付与され、次いで、周波数シフタ5にて周波数が所定の周波数、例えば50MHzシフトされたパルス光L
2’となり、このパルス光L
2’はビームスプリッタ6を透過し、光検出器7に入射する。
【0055】
光検出器7では、反射パルス光L
1’及び周波数シフトパルス光L
2’から合波光の干渉によるビート成分を検出し、演算装置8では、光検出器7から出力されるビート成分に基づき、このビート成分が最大となったときに得られる情報を基に対象物12までの距離を算出する。なお、周波数シフタは、全ての実施形態において、参照光の光路に配置することも、物体光の光路に配置することも、いずれも可能である。
【0056】
本実施形態の距離測定装置21においても、第1の実施形態の距離測定装置1と同様の作用、効果を奏することができる。
しかも、パルス光L
2(参照光)に、遅延光路4により遅延を付与することにより、対象物12までの最大距離が、遅延光路4と比べて短く、光路長差Daの正負が対象物12の距離によって逆転する可能性が無い場合においては、参照光と物体光の距離差を比較的小さく抑えることができ、物体光と参照光との可干渉性が向上する。その結果、干渉による検出光の変調度が高くなることにより、ビート振幅のピークを高精度に検出できるようになり、対象物までの距離をサブミリメートルの距離分解能でより精度よくかつ安定して測定することができる。したがって、超短パルス光を用いて測定対象までの距離を、高分解能かつ高速度で測定することができる。
【0057】
[第3の実施形態]
図4は、本発明の第3の実施形態の距離測定装置を示す概略構成図であり、この距離測定装置31は、光導波路を光ファイバに替えた点が第1の実施形態の距離測定装置1と異なる点である。
【0058】
この距離測定装置31は、パルス光源2と、分岐カプラ(分岐手段)32と、偏波面保存光ファイバ(PMF)を用いた遅延光路(遅延手段)33と、光導波路型周波数シフタ(周波数シフト手段)34と、サーキュレータ35と、合波カプラ(合波手段)36と、光検出器(検出手段)7と、演算装置(演算手段)8と、制御装置9と、光スイッチ(光路切替手段)37と、光ファイバの端面を反射面とした光ファイバ38と、コリメータレンズ39とを備えている。
【0059】
遅延光路33は、偏波面保存光ファイバ(PMF)を用いたもので、分岐カプラ32にて分岐された一方のパルス光L
1に遅延距離Dを付与するものである。
光導波路型周波数シフタ34は、分岐カプラ32と合波カプラ36との間の偏波面保存光ファイバ(PMF)に設けられ、分岐カプラ32にて分岐された他方のパルス光L
2の周波数をシフトさせて周波数シフトされたパルス光L
2’とするもので、バルク型のAO変調器、ニオブ酸リチウム(LN)基板上に光導波路が形成された導波路型光素子等が好適に用いられる。
【0060】
ここでは、偏波面保存光ファイバ(PMF)と光導波路型周波数シフタ34(例えば、ニオブ酸リチウム(LN)基板上に光導波路が形成された導波路型光素子)を透過させた後に、再度偏波面保存光ファイバ(PMF)にカップリングしているが、コリメータレンズを用いて、バルク型のAO変調器等のバルク型の周波数シフタを用いても良い。
【0061】
この距離測定装置31では、まず、パルス光源2により、繰り返し周波数が10GHz±0.1GHzの範囲内の所望の値に設定された繰り返しパルス光L
0を出射する。
分岐カプラ32では、この繰り返しパルス光L
0を2つの繰り返しパルス光L
1、L
2に分岐する。ここで、分岐された一方のパルス光L
1(物体光)は、偏波面保存光ファイバ(PMF)を用いた遅延光路33に入射し、他方のパルス光L
2(参照光)は、偏波面保存光ファイバ(PMF)を経て光導波路型周波数シフタ34に入射する。
【0062】
パルス光L
1(物体光)は、遅延光路33を通過する間に遅延距離Dだけ遅延が付与され、次いで、サーキュレータ35、光スイッチ37、コリメータレンズ39を順次透過し、対象物12に入射する。対象物12に入射したパルス光L
1は、この対象物12にて反射されることで反射パルス光L
1’となり、この反射パルス光L
1’は、コリメータレンズ39、光スイッチ37を順次透過する。
一方、パルス光L
2(参照光)は、光導波路型周波数シフタ34にて周波数が所定の周波数、例えば50MHzシフトされた周波数シフトパルス光L
2’となり、この周波数シフトパルス光L
2’は、合波カプラ36にて反射パルス光L
1’と合波され、光検出器7に入射する。
【0063】
光検出器7では、合波された反射パルス光L
1’及び周波数シフトパルス光L
2’から合波光の干渉によるビート成分を検出し、演算装置8では、光検出器7から出力されるビート成分に基づき、このビート成分が最大となったときに得られる情報を基に対象物12までの距離を算出する。
【0064】
本実施形態の距離測定装置31においても、第1の実施形態の距離測定装置1と同様の作用、効果を奏することができる。
しかも、遅延光路33に光ファイバを用いたので、狭い空間内においても遅延距離を長く取ることができ、したがって、狭い繰り返し周波数掃引範囲においても、十分な検出範囲を高い距離分解能で精度よくかつ安定して測定することができる。
【0065】
[第4の実施形態]
図5は、本発明の第4の実施形態の距離測定装置を示す概略構成図であり、この距離測定装置41は、光検出器(検出手段)を、基準面までの距離を測定する基準用の光検出器と、対象物までの距離を測定する対象物用の光検出器とにより構成した点が第3の実施形態の距離測定装置31と異なる点である。
【0066】
この距離測定装置41は、パルス光源2と、分岐カプラ(分岐手段)32と、光ファイバを用いた遅延光路(遅延手段)33と、光導波路型周波数シフタ(周波数シフト手段)34と、分岐カプラ(分岐手段)42、43と、サーキュレータ35と、合波カプラ(合波手段)36、44と、基準用の光検出器45と、対象物用の光検出器46と、演算装置(演算手段)8と、制御装置9と、コリメータレンズ39とを備えている。
【0067】
この距離測定装置41では、まず、パルス光源2により、繰り返し周波数が10GHz±0.1GHzの範囲内の所望の値に設定された繰り返しパルス光L
0を出射する。
分岐カプラ32では、この繰り返しパルス光L
0を2つのパルス光L
1、L
2に分岐する。ここで、分岐された一方のパルス光L
1(物体光)は、偏波面保存光ファイバ(PMF)を用いた遅延光路33に入射し、他方のパルス光L
2(参照光)は、偏波面保存光ファイバ(PMF)を経て光導波路型周波数シフタ34に入射する。
【0068】
パルス光L
1(物体光)は、遅延光路33を通過する間に遅延距離Dだけ遅延が付与され、分岐カプラ42にてパルス光L
11とパルス光L
12とに分岐される。
一方、パルス光L
2(参照光)は、光導波路型周波数シフタ34にて周波数が所定の周波数、例えば50MHzシフトされた周波数シフトパルス光L
2’となり、この周波数シフトパルス光L
2’は、分岐カプラ43にてパルス光L
21とパルス光L
22とに分岐される。
【0069】
このようにして分岐されたパルス光L
11とパルス光L
21とは、合波カプラ44にて合波され、この合波されたパルス光は、基準用の光検出器45に入射する。
また、分岐されたパルス光L
12は、サーキュレータ35、コリメータレンズ39を順次透過し、対象物12に入射する。対象物12に入射したパルス光L
12は、この対象物12にて反射されることで反射パルス光L
12’となり、この反射パルス光L
12’は、コリメータレンズ39を透過し、合波カプラ36にてパルス光L
22と合波され、この合波されたパルス光は、対象物用の光検出器46に入射する。
【0070】
光検出器45では、パルス光L
11とパルス光L
21とから合波光の干渉による基準面までの距離を測定するための基準となるビート成分を検出し、基準面までの測定データとして出力する。
一方、光検出器46では、反射パルス光L
12’とパルス光L
22とから合波光の干渉による対象物までの距離を測定するための測定用のビート成分を検出し、対象物の測定データとして出力する。
演算装置8では、光検出器45から出力される基準面までの測定データと、光検出器46から出力される対象物の測定データとの差を対象物12までの距離として算出する。
【0071】
本実施形態の距離測定装置41においても、第3の実施形態の距離測定装置31と同様の作用、効果を奏することができる。
しかも、光検出器を、基準用の光検出器45と、対象物用の光検出器46とにより構成したので、超短パルス光を用いて基準面から測定対象までの距離を、高分解能かつ高速度で測定することができる。