【0031】
エポキシ樹脂[A]および3,3'−ジアミノジフェニルスルホン[B]、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン[C]はそれぞれ、態様(3)に記載の要件を満たすことが好ましい。態様(3)に記載の要件を満たすことで、単一構造のジアミノジフェニルスルホンが溶解する温度(120℃程度)よりも、より温和な条件(例えば80℃環境下で1時間暴露)で硬化剤をエポキシ樹脂[A]に溶解させることが出来る。また、エポキシ樹脂[A]および3,3'−ジアミノジフェニルスルホン[B]、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン[C]はそれぞれ、態様(4)に記載の要件を満たすことがさらに好ましい。態様(4)に記載の要件を満たすことで、態様(3)に記載のエポキシ樹脂組成物中の硬化剤を溶解させるよりも、さらに温和な条件(例えば70℃環境下で2時間暴露)で硬化剤をエポキシ樹脂[A]に溶解させることが出来る。
さらにはエポキシ樹脂[A]換算分子量aは態様(5)に記載の要件を満たすことがさらに好ましい。換算分子量aが150を下回る場合、エポキシ樹脂の主骨格を構成する原子数を多くできない。そのため、硬化後の架橋構造において十分な剛性や耐熱性、靭性を持たせることが困難である。一方、換算分子量aが800を超える場合、樹脂組成物の粘度が高くなりすぎるため、ジアミノジフェニルスルホンを混合することが困難になってしまう。
さらにはエポキシ樹脂[A]および3,3'−ジアミノジフェニルスルホン[B]、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン[C]はそれぞれ、態様(6)に記載の要件を満たすことがさらに好ましい。態様(6)に記載の要件を満たすことで、態様(3)〜(5)に記載のエポキシ樹脂組成物中の硬化剤を溶解させるよりも、さらに温和な条件(例えば65℃環境下で1時間暴露)で硬化剤をエポキシ樹脂[A]に溶解させることが出来るので好ましい。
ただし、液状の芳香族ジアミンと構成要素[B]と構成要素[C]を組み合わせて用いる場合には、液状の芳香族ジアミンから構成要素[B]と構成要素[C]が析出しないようにするため、構成要素[B]と構成要素[C]の配合量を少なくする必要があり、硬化後の耐熱性や弾性、靭性、吸湿特性といった物性の改善効果は限定されたり、1液型エポキシ樹脂としての取り扱いができなかったりするので、好ましくない。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0043】
[エポキシ樹脂組成物の調製]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、態様(1)または(3)に記載の各成分([A]〜[C])を容器に計量し、ハイブリッドミキサーHM−500(KEYENCE(株)製)を用いて撹拌を5分、脱泡を1分30秒行うことによって調製した。
【0044】
[ジアミノジフェニルスルホンの溶解度合いの評価]
ジアミノジフェニルスルホンの溶解度合いを判断するため、目視での評価を行った。上述の方法により調製したエポキシ樹脂組成物を容器に入れたまま、下記に示す条件1または条件2の環境下でそれぞれ暴露した。条件1〜3の環境下でそれぞれ暴露した後にエポキシ樹脂組成物のジアミノジフェニルスルホンの溶解度合いを確認し、○、△、×の記号を付けて評価した。なお、それぞれの記号の意味は以下に示す通りである。
条件1:室湿度下で80℃に設定した高温恒温器HISPEC HT310S(楠本化成(株)製)内で1時間暴露した。
条件2:室湿度下で70℃に設定した高温恒温器HISPEC HT310S(楠本化成(株)製)内で2時間暴露した。
条件3:室湿度下で65℃に設定した高温恒温器HISPEC HT310S(楠本化成(株)製)内で1時間暴露した。
○:上記条件の暴露後にエポキシ樹脂組成物が透明になり、硬化剤が完全に溶解していることを示す。
△:上記条件の暴露後にエポキシ樹脂組成物が濁っており、硬化剤の溶解は見られるが、溶け残りがあることを示す。
×:上記条件の暴露前と暴露後でエポキシ樹脂組成物の外観に大きな変化が見られず、多くの硬化剤が溶け残っていることを示す。
【0045】
実施例1〜35
上記のようにして、表1、2に示す原料組成(部は質量部を示す)からなるエポキシ樹脂組成物を調製し、次いで目視によって硬化剤の溶解の度合いを評価した。エポキシ樹脂組成物の含有成分(部は質量部を示す)の評価結果を表1、2に示した。
【0046】
比較例1〜21
表3に示す原料組成(部は質量部を示す)からなるエポキシ樹脂組成物を調製した点を除いて、実施例1と同様に目視により硬化剤の溶解の度合いを評価した結果を表3に示す。
【0047】
樹脂調製に用いた原料の詳細を下記に示す。なお、硬化剤のD90はAEROTRAC SPR(商標) MODEL7340(日機装(株)製)により測定した。D90の測定は焦点距離100mm、乾式測定により行った。
・セロキサイド(商標)3000:脂環式エポキシ樹脂、ダイセル化学工業(株)製、換算分子量187
・jER630:パラアミノフェノール型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製、換算分子量288
・jER604:テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製、換算分子量480
・EX−201:レゾルシノールジグリシジルエーテル、ナガセケムテックス社製、製品名:デナコールEX−201、換算分子量:234
・1500NP:ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、共栄社化学社製、製品名:エポライト1500NP、換算分子量:270
・GAN:ジグリシジルアニリン、日本化薬(株)製、換算分子量250
・jER828:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製、換算分子量378
・jER807:ビスフェノールF型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製、換算分子量336
・EXA−4850−1000:2官能エポキシ樹脂、DIC(株)製、換算分子量700
・jER1001:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製、換算分子量950
・3,3'−DDS:3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、活性水素当量62、日本合成化工(株)製のものを粉砕して使用した。D90:4.3μm(D90は粉砕後の測定値)
・4,4'−DDS:4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、活性水素当量62、和歌山精化工業(株)製のものを粉砕して使用した。D90:5.8μm(D90は粉砕後の測定値)
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1、2に記載の実施例は、態様(1)または態様(2)に記載の要件を満たしているため、エポキシ樹脂組成物中の硬化剤がエポキシ樹脂に溶解している。
【0051】
一方、表3に記載の比較例では、態様(1)または態様(2)に記載の要件を満たしていないため、エポキシ樹脂組成物中の硬化剤はエポキシ樹脂に溶解していない。
(実施例36〜39)
実施例1〜35と同様に、表3に示した成分をそれぞれ計量し、ハイブリッドミキサーHM−500(KEYENCE(株)製)を用いて撹拌を5分、脱泡を1分30秒行うことによって調製した。
ついで、得られたエポキシ樹脂組成物をセパラブルフラスコに投入し、攪拌棒をスリーワンモーターにて回転させることにより、樹脂組成物を攪拌しながら、同樹脂組成物の温度を70℃に設定してオイルバス中で30分攪拌し、硬化剤の溶解を行った。
ジアミノジフェニルスルホンの溶解度合いを判断するため、目視での評価を行った。判定の基準は実施例1〜35と同様に樹脂組成物を目視で確認し、以下の基準に基づいて判定した。溶解度合いの判定結果は表3に示す。
○:上記条件の暴露後にエポキシ樹脂組成物が透明になり、硬化剤が完全に溶解していることを示す。
△:上記条件の暴露後にエポキシ樹脂組成物が濁っており、硬化剤の溶解は見られるが、溶け残りがあることを示す。
×:上記条件の暴露前と暴露後でエポキシ樹脂組成物の外観に大きな変化が見られず、多くの硬化剤が溶け残っていることを示す。
【表3】
【0052】
次いで、得られた樹脂組成物を用い擬似的なレジンインフュージョン成形により、CFRPの含浸・成形評価を行った。
プリフォームとして炭素繊維織物(TR3110:三菱レイヨン株式会社製)を10枚積層して用い、レジンコンテントが35質量%になるよう樹脂を計量して用いた。成形バックは
図1に従って作製し、5mmHg以下の真空度で真空引きを行いながら
図2の硬化プロファイルに従って、90℃まで昇温後、1時間保持し、その後180℃まで昇温して3時間保持させ、圧力は0.6MPaにて、オートクレーブ成形での成形を実施した。成形したCFRPは良好な外観を示した。成形したCFRPを手で曲げても塑性変形は見られなかった。このCFRPの表面を、アセトンをしみこませたウェスを用いて、ふき取りを行ったところ、特に問題は見られなかった。
【0053】
【表4】
【0054】
(比較例22、23)
実施例36〜39と同様に樹脂組成物の調製、硬化剤の溶解、含浸・成形評価を行った。ただし、樹脂組成は表4に従った。また、硬化剤の溶解度合いの判定では硬化剤は溶解していなかった。このようにして得られた硬化剤を溶解したエポキシ樹脂組成物を用いて、CFRPの成形を行った。
比較例22では、成形したCFRPは良好な外観を示した。成形したCFRPを手で曲げても塑性変形は見られなかった。このCFRPの表面を、アセトンをしみこませたウェスで擦り、ふき取りテストを行ったところ、表面の樹脂が溶け、べたつく現象が見られた。表面樹脂のアセトンによる溶解から硬化不良が起こっていると考えられる。
比較例23では、成形したCFRPは剛性が不足しており、手で曲げると塑性変形し、元の形状には戻らなかった。このCFRPの表面を、アセトンをしみこませたウェスで擦り、ふき取りテストを行ったところ、CFRPの塑性変形、表面の樹脂が溶け、べたつく現象が見られた。表面樹脂のアセトンによる溶解から硬化不良が起こっていると考えられる。
【0055】
以上に詳細に説明したように、本発明のエポキシ樹脂組成物は3,3'−ジアミノジフェニルスルホン[B]と4,4'−ジアミノジフェニルスルホン[C]の両方を硬化剤として用いることにより、単一構造のジアミノジフェニルスルホンを用いるよりもより低い温度でエポキシ樹脂に溶解させることが出来るため、そのエポキシ樹脂組成物から得られたFRPは硬化剤の濾別を低減することが出来、硬化不良による物性の低下を抑制できる。よって、本発明は産業上有用である。