特許第5949545号(P5949545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5949545繊維強化複合材料を得る製造方法、およびそれに用いるエポキシ樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5949545
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料を得る製造方法、およびそれに用いるエポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20160623BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20160623BHJP
   C08K 5/41 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   C08J5/24CFC
   C08L63/00 C
   C08K5/41
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-513380(P2012-513380)
(86)(22)【出願日】2012年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2012053691
(87)【国際公開番号】WO2012111764
(87)【国際公開日】20120823
【審査請求日】2014年12月8日
(31)【優先権主張番号】特願2011-30646(P2011-30646)
(32)【優先日】2011年2月16日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100147212
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】牛山 久也
(72)【発明者】
【氏名】福原 康裕
(72)【発明者】
【氏名】古賀 一城
(72)【発明者】
【氏名】佐野 智雄
(72)【発明者】
【氏名】三谷 和民
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4396274(JP,B2)
【文献】 国際公開第2007/063580(WO,A1)
【文献】 特開2010−174073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/24
C08K 5/41
C08L 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維集合体にエポキシ樹脂組成物を含浸させ、硬化させて繊維強化複合材料を得る製造方法であって、
前記エポキシ樹脂組成物は、硬化剤が構成要素[B]および構成要素[C]からなり、
エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[A]100質量部に対して、構成要素[B]の配合量をb質量部、構成要素[C]の配合量をc質量部としたとき、
式(1)の範囲においては式(2)を満たし、
式(3)の範囲においては式(4)を満たし、
式(5)の範囲においては式(6)を満たす前記エポキシ樹脂組成物を60℃以上80℃以下の温度で混合し、溶解させて以下の条件を満たす構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]を含んでなるエポキシ樹脂組成物とすることを含む製造方法、
構成要素[A]:換算分子量aのエポキシ樹脂
構成要素[B]:3,3'-ジアミノジフェニルスルホン
構成要素[C]:4,4'-ジアミノジフェニルスルホン
150<a≦200…(1)
0<b/(b+c)<1…(2)
200<a≦350…(3)
0.002a−0.35≦b/(b+c)≦−0.002a+1.35…(4)
350<a<800…(5)
0.35≦b/(b+c)≦0.65…(6)
ここで、換算分子量aの定義は下記の通りである。エポキシ樹脂[A]として1種のエポキシ樹脂のみを用いる場合には、用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量とエポキシ樹脂1分子中に含まれるエポキシ基数の積を換算分子量aとする。また、エポキシ樹脂[A]として複数種のエポキシ樹脂成分を用いる場合にはエポキシ樹脂成分毎にエポキシ当量とエポキシ樹脂成分1分子中に含まれるエポキシ基数の積をそれぞれ算出し、算出した各々の、エポキシ樹脂成分のエポキシ当量とエポキシ基数の積をエポキシ樹脂[A]を構成する各成分の配合比で加重平均した値を換算分子量aとする。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂組成物がさらに、式(7)を満たす請求項1に記載の繊維強化複合材料を得る製造方法、
15≦(b+c)≦70・・・(7)。
【請求項3】
以下の構成要素[A]、構成要素[B]、および構成要素[C]を含んでなるエポキシ樹脂組成物であって、硬化剤が構成要素[B]および構成要素[C]からなり、該エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[A]100質量部に対して、構成要素[B]の配合量をb質量部、構成要素[C]の配合量をc質量部としたとき、
式(8)の範囲においては式(9)を満たし、
式(10)の範囲においては式(11)を満たし、
式(12)の範囲においては式(13)を満たすことを特徴とするエポキシ樹脂組成物、
構成要素[A]:換算分子量aのエポキシ樹脂
構成要素[B]:3,3'-ジアミノジフェニルスルホン
構成要素[C]:4,4'-ジアミノジフェニルスルホン
150<a≦200…(8)
0<b/(b+c)<1…(9)
200<a≦350…(10)
0.002a−0.35≦b/(b+c)≦−0.002a+1.35…(11)
350<a<800…(12)
0.35≦b/(b+c)≦0.65…(13)
ここで、換算分子量aの定義は下記の通りである。エポキシ樹脂[A]として1種のエポキシ樹脂のみを用いる場合には、用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量とエポキシ樹脂1分子中に含まれるエポキシ基数の積を換算分子量aとする。また、エポキシ樹脂[A]として複数種のエポキシ樹脂成分を用いる場合にはエポキシ樹脂成分毎にエポキシ当量とエポキシ樹脂成分1分子中に含まれるエポキシ基数の積をそれぞれ算出し、算出した各々の、エポキシ樹脂成分のエポキシ当量とエポキシ基数の積をエポキシ樹脂[A]を構成する各成分の配合比で加重平均した値を換算分子量aとし、
該エポキシ樹脂組成物は、60℃以上80℃以下の温度で混合し、溶解させて得られる。
【請求項4】
さらに、式(14)の範囲においては式(15)を満たし、
式(16)の範囲においては式(17)を満たし、
式(18)の範囲においては式(19)を満たすことを特徴とする請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物、
150<a≦190…(14)
0.1≦b/(b+c)≦0.9…(15)
190<a≦365…(16)
0.002a−0.28≦b/(b+c)≦−0.0017a+1.23…(17)
365<a<800…(18)
0.45≦b/(b+c)≦0.60…(19)。
【請求項5】
さらに、式(20)を満たすことを特徴とする請求項3または4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物、
150<a<800・・・(20)。
【請求項6】
さらに、式(21)、(22)を満たすことを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物、
150≦a≦357・・・(21)
0.00169a−0.103≦b/(b+c)≦−0.0019a+1.19・・・(22)。
【請求項7】
さらに、式(23)、(24)を満たすことを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
150≦a≦300・・・(23)
0.00169a−0.103≦b/(b+c)≦−0.0010a+0.90・・・(24)
【請求項8】
さらに、式(25)を満たすことを特徴とする請求項3〜7のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物、
15≦(b+c)≦70・・・(25)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料を得る製造方法、およびそれに用いるエポキシ樹脂組成物に関する。本発明は、特に、航空機用構造材料用途をはじめとして、一般産業用途、自動車用途、船舶用途、スポーツ用途、その他用途に好適な繊維強化プラスチック(FRP)を得るための繊維強化複合材料を得る製造方法、およびそれに用いるエポキシ樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
FRPは、軽量で強度、剛性、耐疲労性などの優れた機械特性を有するために、スポーツ用途、航空宇宙用途、一般産業用途等に広く用いられている。特に高性能が要求される用途においては、連続繊維を用いたFRPが用いられ、強化繊維としては炭素繊維が、マトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂、特にエポキシ樹脂が多く用いられている。
【0003】
FRPを生産する方法として、オートクレーブ成形、真空バッグ成形、フィラメントワインディング成形、プルトリュージョン成形、レジントランスファーモールディング(RTM)などの成形方法が知られており、目的とする成形物の形状や大きさ、生産数などにより適宜選択されている。特に高性能が要求される用途に対しては、強化繊維に未硬化のマトリックス樹脂が含浸されたシート状中間基材であるプリプレグを積層して硬化させるオートクレーブ成形法や真空バッグ成形法が多く用いられている。また、RTMは、繊維強化材としてのプリフォームを型内に装填した後、液状の樹脂を注入、硬化し、FRPを得るものであり、複雑な形状の成形物を容易に、かつ低コストで成形できる利点を持ち、さらには近年の技術開発により高い性能を示すFRPを製造する方法が開発されていることから、近年注目されており、航空機構造部材の成形方法としても適用されつつある。
【0004】
FRPのマトリックス樹脂としてはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂などの熱硬化性樹脂やポリプロピレン、メチルメタクリレート、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂があるが、プリプレグ用やRTM用の樹脂としては熱硬化性樹脂が用いられ、高性能が要求される航空機分野では、耐熱性や靭性など物性に優れたエポキシ樹脂が広く用いられている。
【0005】
上記のプリプレグ用やRTM用のエポキシ樹脂とともに用いる硬化剤としては、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、酸無水物、ルイス酸錯体などが知られている。特に航空機分野で用いるFRPは多くの場合、耐熱性が要求されるため、硬化剤としては芳香族ポリアミンが一般的である。中でもジアミノジフェニルスルホンは硬化後の耐熱性や弾性、靭性、吸湿特性といった物性に優れ、硬化前ではエポキシ樹脂と混合後の保存安定性が高い。そのため、エポキシ樹脂と混合した状態で保存できる、いわゆる1液型のエポキシ樹脂としての取り扱いが可能である。これらの特性により、特に耐熱性が求められる分野で広く用いられている。
【0006】
しかしながら、上記のプリプレグを用いる成形方法やRTMといった成形方法では、ジアミノジフェニルスルホンなどの固体成分を硬化剤として用いて、フィラメント径が小さい強化繊維に樹脂を含浸する際や厚目付けのプリプレグを製造する際、また厚目付のプリフォームに樹脂を含浸する際には固体成分(硬化剤)のみが強化繊維表面に濾し取られるため、局所的な硬化剤の配合比が変わってしまい、硬化物(成形物)の硬化不良や、それに伴う物性低下の他、外観不良を引き起こすことがある。一般に成形されたCFRPはその表面を清掃するために溶剤でふき取ることが多いが、上記のような硬化不良がひどい場合、溶剤でふき取る際にCFRPの樹脂成分が溶解するなどして表面がべたついたり、表面の平滑性が失われるなどの問題が発生する。さらにひどい硬化不良の場合には、成形したCFRPの剛性が不足するため簡単に塑性変形してしまい。形状が安定しない問題が発生する。
【0007】
硬化剤として3,3'−ジアミノジフェニルスルホンのみ、または4,4'−ジアミノジフェニルスルホンのみを含んだエポキシ樹脂組成物では120℃前後まで温度が上がらないと、硬化剤がエポキシ樹脂に溶解しない。したがって、これより低い温度、例えば80℃程度でエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させる場合には強化繊維のフィラメント径や強化繊維集合体の目付によっては硬化剤の濾別が起こり、FRPの物性の低下が起こってしまう。そのため、硬化剤の濾別を防ぐにはエポキシ樹脂組成物を120℃以上まで温めなければならない。しかしながら、この温度では硬化反応が進行するために製造工程の制御が極めて難しくなる。
【0008】
特許文献1には長時間低粘度を保持し、かつ耐熱性と靭性が高く、RTMによる成形時に硬化剤の濾別を低減するエポキシ樹脂組成物が開示されている。特許文献1に記載のエポキシ樹脂組成物を用いればFRP成形時の硬化剤の濾別を低減することが出来る。しかしながら、特許文献1において硬化剤を溶解させるためには、120℃までエポキシ樹脂組成物を加熱する必要があり、この温度では硬化反応が進行し始めてしまう。
【0009】
また、一方でRTMによる成形では、硬化剤の濾別を防ぎ、含浸を容易にするために液状の硬化剤を用いることが多い、特に液状の酸無水物硬化剤や液状のアミン型硬化剤が一般的に用いられる。しかしながら、これらの液状硬化剤はエポキシ樹脂との混合後の保存安定性が低いために、エポキシ樹脂と混合すると徐々に反応が進み、粘度の増加が起こる。このため、1液型のエポキシ樹脂としての取り扱いができず、主剤と硬化剤を別々に用意しておき、含浸工程の直前で混合、計量する必要がある(2液型エポキシ樹脂)。また、酸無水物硬化剤は硬化剤が吸湿により変性し、硬化性や硬化物の耐熱性が低下するといった問題や硬化後の吸湿特性に問題がある。液状のアミン型硬化剤では硬化物の耐熱性や剛性、線膨張係数、吸湿特性が上記のジアミノジフェニルスルホンに比べ見劣りする。
【0010】
特許文献2には、高耐熱性、および高室温下、高温高湿下で高い弾性率と低い吸水率を有する硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物、及びプリプレグ、繊維強化複合材料が開示されている。特許文献2に記載のエポキシ樹脂組成物を使えば、プリプレグを用いた繊維強化複合材料として硬化後の諸物性に優れるが、樹脂組成物の粘度が高い上に、硬化剤として粉体のジアミノジフェニルスルホンを用いているため、RTM成形や厚目付けのプリプレグを製造する際に、硬化剤の濾別による含浸不良が発生してしまうという問題がある。
【0011】
特許文献3には、硬化剤としてジアミノジフェニルスルホンを用い、オートクレーブを用いなくとも成形性に優れるエポキシ樹脂組成物及びプリプレグ、炭素繊維複合材料が開示されている。また、特許文献3の実施例ではジアミノジフェニルスルホンを溶解して用いる例が記載されており、樹脂含浸時の硬化剤の濾別による含浸不良を防ぐことができると思われる。しかしながら、その樹脂組成物は粘度が高い上に、ジアミノジフェニルスルホンを溶解させるために高温環境下に樹脂を保持する必要がある。このためジアミノジフェニルスルホン溶解時に樹脂が増粘してしまい、結果としてRTM成形や厚目付けのプリプレグを製造する際に、含浸不良が発生してしまうという問題がある。さらにはジアミノジフェニルスルホンを溶解する工程ではジアミノジフェニルスルホンによる硬化反応が始まっているため、樹脂組成物の粘度をコントロールすることが難しく、製造されるプリプレグの品質を一定に保つことが非常に困難だという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−169291号公報
【特許文献2】特開2002−363253号公報
【特許文献3】特開2005−105267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように単一構造のジアミノジフェニルスルホンのみを用いると120℃以上の高温にしないと硬化剤を溶解することは出来ないため、より温和な条件でエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させると上述した硬化剤の濾別が起こり、FRPの物性低下を引き起こす。また、120℃以上の高温にすると、硬化剤の溶解過程において硬化反応が進行するために製造工程の制御が極めて難しくなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を進めた結果、以下の構成からなる繊維強化複合材料を得る製造方法、およびそれに用いるエポキシ樹脂組成物によって課題を解決できることを見出した。よって、本発明の態様は、以下のようである。
【0015】
態様(1) 繊維集合体にエポキシ樹脂組成物を含浸させ、硬化させて繊維強化複合材料を得る製造方法であって、
前記エポキシ樹脂組成物は、
エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[A]100質量部に対して、構成要素[B]の配合量をb質量部、構成要素[C]の配合量をc質量部としたとき、
式(1)の範囲においては式(2)を満たし、
式(3)の範囲においては式(4)を満たし、
式(5)の範囲においては式(6)を満たす前記エポキシ樹脂組成物を60℃以上80℃以下の温度で混合させて以下の条件を満たす構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]を含んでなるエポキシ樹脂組成物とすることを含む製造方法、
構成要素[A]:換算分子量aのエポキシ樹脂
構成要素[B]:3,3'-ジアミノジフェニルスルホン
構成要素[C]:4,4'-ジアミノジフェニルスルホン
150<a≦200…(1)
0<b/(b+c)<1…(2)
200<a≦350…(3)
0.002a−0.35≦b/(b+c)≦−0.002a+1.35…(4)
350<a…(5)
0.35≦b/(b+c)≦0.65…(6)
ここで、換算分子量aの定義は下記の通りである。エポキシ樹脂[A]として1種のエポキシ樹脂のみを用いる場合には、用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量とエポキシ樹脂1分子中に含まれるエポキシ基数の積を換算分子量aとする。また、エポキシ樹脂[A]として複数種のエポキシ樹脂成分を用いる場合にはエポキシ樹脂成分毎にエポキシ当量とエポキシ樹脂成分1分子中に含まれるエポキシ基数の積をそれぞれ算出し、算出した各々の、エポキシ樹脂成分のエポキシ当量とエポキシ基数の積をエポキシ樹脂[A]を構成する各成分の配合比で加重平均した値を換算分子量aとする。
【0016】
態様(2) 前記エポキシ樹脂組成物がさらに、式(7)を満たす態様(1)に記載の繊維強化複合材料を得る製造方法、
15≦(b+c)≦70・・・(7)。
【0017】
態様(3) 以下の構成要素[A]、構成要素[B]、および構成要素[C]を含んでなるエポキシ樹脂組成物であって、該エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[A]100質量部に対して、構成要素[B]の配合量をb質量部、構成要素[C]の配合量をc質量部としたとき、
式(8)の範囲においては式(9)を満たし、
式(10)の範囲においては式(11)を満たし、
式(12)の範囲においては式(13)を満たすことを特徴とするエポキシ樹脂組成物、
構成要素[A]:換算分子量aのエポキシ樹脂
構成要素[B]:3,3'-ジアミノジフェニルスルホン
構成要素[C]:4,4'-ジアミノジフェニルスルホン
150<a≦200…(8)
0<b/(b+c)<1…(9)
200<a≦350…(10)
0.002a−0.35≦b/(b+c)≦−0.002a+1.35…(11)
350<a…(12)
0.35≦b/(b+c)≦0.65…(13)
ここで、換算分子量aの定義は下記の通りである。エポキシ樹脂[A]として1種のエポキシ樹脂のみを用いる場合には、用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量とエポキシ樹脂1分子中に含まれるエポキシ基数の積を換算分子量aとする。また、エポキシ樹脂[A]として複数種のエポキシ樹脂成分を用いる場合にはエポキシ樹脂成分毎にエポキシ当量とエポキシ樹脂成分1分子中に含まれるエポキシ基数の積をそれぞれ算出し、算出した各々の、エポキシ樹脂成分のエポキシ当量とエポキシ基数の積をエポキシ樹脂[A]を構成する各成分の配合比で加重平均した値を換算分子量aとする。
【0018】
態様(4) さらに、式(14)の範囲においては式(15)を満たし、
式(16)の範囲においては式(17)を満たし、
式(18)の範囲においては式(19)を満たすことを特徴とする態様(3)に記載のエポキシ樹脂組成物、
150<a≦190…(14)
0.1≦b/(b+c)≦0.9…(15)
190<a≦365…(16)
0.0020a−0.28≦b/(b+c)≦−0.0017a+1.23…(17)
365<a…(18)
0.45≦b/(b+c)≦0.60…(19)。
【0019】
態様(5) さらに、式(20)を満たすことを特徴とする態様(3)または(4)のいずれか一つに記載のエポキシ樹脂組成物、
150<a<800・・・(20)。
【0020】
態様(6) さらに、式(21)、(22)を満たすことを特徴とする態様(3)〜(5)のいずれか一つに記載のエポキシ樹脂組成物、
150≦a≦357・・・(21)
0.00169a−0.103≦b/(b+c)≦−0.0019a+1.19・・・(22)。
【0021】
態様(7) さらに、式(23)、(24)を満たすことを特徴とする態様(3)〜(6)のいずれか一つに記載のエポキシ樹脂組成物、
150≦a≦300・・・(23)
0.00169a−0.103≦b/(b+c)≦−0.0010a+0.90・・・(24)。
【0022】
態様(8) さらに、式(25)を満たすことを特徴とする態様(3)〜(7)のいずれか一つに記載のエポキシ樹脂組成物、
15≦(b+c)≦70・・・(25)。
【発明の効果】
【0023】
本発明の繊維強化複合材料を得る製造方法、およびそれに用いるエポキシ樹脂組成物によれば、低温でエポキシ樹脂にジアミノジフェニルスルホンを溶解することが出来、FRPの成形時に硬化剤の濾別を低減出来るため、硬化不良による物性低下などの諸問題を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の一態様に係る成形の様子を示す図である。
図2図2は、本発明の一態様に係る成形における時間に対する温度および圧力のプロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の繊維強化複合材料を得る製造方法、およびそれに用いるエポキシ樹脂組成物について、以下に本発明の好ましい実施の形態を説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではない。
【0026】
[エポキシ樹脂組成物]
<エポキシ樹脂[A]>
エポキシ樹脂[A]は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂など各エポキシ樹脂メーカーから様々な商品が市販されている。例えば、セロキサイド(商標)3000(ダイセル化学工業(株)製)、GAN(日本化薬(株)製)、jER630(三菱化学(株)製)、HP4032(DIC(株)製)、セロキサイド(商標)2081(ダイセル化学工業(株)製)、jER828(三菱化学(株)製)、jER807(三菱化学(株)製)、jER152(三菱化学(株)製)、jER604(三菱化学(株)製)、MY−0500(ハンツマン(株)製)、MY−0600(ハンツマン(株)製)、TETRAD−X(三菱瓦斯化学(株)製)、SR−HHPA(阪本薬品工業(株)製)、EXA−4580−1000(DIC(株)製)、EX−201(ナガセケムテックス(株)製)、1500NP(共栄社化学(株)製)などを例示することが出来るが、これらに限定されるものではない。また、前記エポキシ樹脂は1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0027】
<3,3'−ジアミノジフェニルスルホン[B]>
本発明で用いられる3,3'−ジアミノジフェニルスルホン[B]は、硬化剤として使用される。3,3'−ジアミノジフェニルスルホン[B]のD90は、30μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。3,3'−ジアミノジフェニルスルホン[B]のD90が小さいほど、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン[B]をエポキシ樹脂[A]に溶解する際の作業時間を短縮できるので好ましい。なお、上述したD90の定義は下記の通りとする。
D90:硬化剤の粒子径分布が粒子径の小さいものから体積で積算して全粒子の90%となるときの粒子径
【0028】
<4,4'−ジアミノジフェニルスルホン[C]>
本発明で用いられる4,4'−ジアミノジフェニルスルホン[C]は、硬化剤として使用される。4,4'−ジアミノジフェニルスルホン[C]のD90は、30μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。4,4'−ジアミノジフェニルスルホン[C]のD90が小さいほど、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン[C]をエポキシ樹脂[A]に溶解する際の作業時間を短縮できるので好ましい。なお、上述したD90の定義は下記の通りとする。
D90:硬化剤の粒子径分布が粒子径の小さいものから体積で積算して全粒子の90%となるときの粒子径
【0029】
なお、ジアミノジフェニルスルホンの配合量は、エポキシ樹脂[A]100質量部に対して、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン[B]と4,4'−ジアミノジフェニルスルホン[C]を合計した量(b+c)が15〜70質量部であることが好ましい。15質量部未満の場合は、エポキシ樹脂組成物を加熱しても硬化しない、硬化不良のため硬化物の剛性不足が発生する、硬化不良のため溶剤により樹脂成分が溶解するなどして硬化物の表面がべたつく、硬化物の耐熱性が低く脆い、といった諸問題が発生することがある。一方(b+c)が70質量部を超える場合、組成物中に含まれる粉体成分の比率が多くなるため、エポキシ樹脂[A]に3,3'−ジアミノジフェニルスルホン[B]と4,4'−ジアミノジフェニルスルホン[C]を混錬することが難しくなる。あわせて、エポキシ樹脂組成物を加熱しても硬化しない、硬化不良のため硬化物の剛性不足が発生する、硬化不良のため溶剤により樹脂成分が溶解するなどして硬化物の表面がべたつく、硬化物の耐熱性が低く脆い、といった諸問題が発生する場合がある。
【0030】
モル比としては、エポキシ樹脂[A]のエポキシ基1molに対して、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン[B]と4,4'−ジアミノジフェニルスルホン[C]を合計したアミノ基由来の活性水素量が0.4mol〜1.5molが好ましく、0.8mol〜1.2molがより好ましい。活性水素量が0.4mol未満であったり、1.5molを超えたりすると、エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物の耐熱性や靭性が著しく低下する恐れがある。
【0031】
エポキシ樹脂[A]および3,3'−ジアミノジフェニルスルホン[B]、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン[C]はそれぞれ、態様(3)に記載の要件を満たすことが好ましい。態様(3)に記載の要件を満たすことで、単一構造のジアミノジフェニルスルホンが溶解する温度(120℃程度)よりも、より温和な条件(例えば80℃環境下で1時間暴露)で硬化剤をエポキシ樹脂[A]に溶解させることが出来る。また、エポキシ樹脂[A]および3,3'−ジアミノジフェニルスルホン[B]、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン[C]はそれぞれ、態様(4)に記載の要件を満たすことがさらに好ましい。態様(4)に記載の要件を満たすことで、態様(3)に記載のエポキシ樹脂組成物中の硬化剤を溶解させるよりも、さらに温和な条件(例えば70℃環境下で2時間暴露)で硬化剤をエポキシ樹脂[A]に溶解させることが出来る。
さらにはエポキシ樹脂[A]換算分子量aは態様(5)に記載の要件を満たすことがさらに好ましい。換算分子量aが150を下回る場合、エポキシ樹脂の主骨格を構成する原子数を多くできない。そのため、硬化後の架橋構造において十分な剛性や耐熱性、靭性を持たせることが困難である。一方、換算分子量aが800を超える場合、樹脂組成物の粘度が高くなりすぎるため、ジアミノジフェニルスルホンを混合することが困難になってしまう。
さらにはエポキシ樹脂[A]および3,3'−ジアミノジフェニルスルホン[B]、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン[C]はそれぞれ、態様(6)に記載の要件を満たすことがさらに好ましい。態様(6)に記載の要件を満たすことで、態様(3)〜(5)に記載のエポキシ樹脂組成物中の硬化剤を溶解させるよりも、さらに温和な条件(例えば65℃環境下で1時間暴露)で硬化剤をエポキシ樹脂[A]に溶解させることが出来るので好ましい。
ただし、液状の芳香族ジアミンと構成要素[B]と構成要素[C]を組み合わせて用いる場合には、液状の芳香族ジアミンから構成要素[B]と構成要素[C]が析出しないようにするため、構成要素[B]と構成要素[C]の配合量を少なくする必要があり、硬化後の耐熱性や弾性、靭性、吸湿特性といった物性の改善効果は限定されたり、1液型エポキシ樹脂としての取り扱いができなかったりするので、好ましくない。
【0032】
本発明に用いるエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて種々の添加剤を含むことができる。例えば、反応性を向上させるための硬化促進剤や、流動性コントロールのための熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂組成物に靭性を付与するためのゴム粒子、エポキシ樹脂組成物の揺変性付与や剛性向上のための無機粒子、強化繊維との濡れ性向上のための界面活性剤などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
硬化促進剤の好ましい例としてはイミダゾール化合物、フェニルジメチルウレア(PDMU)などのウレア化合物、三フッ化モノエチルアミン、三塩化ホウ素アミン錯体などのアミン錯体が挙げられる。
【0034】
熱可塑性樹脂の好ましい例としては、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、エポキシ樹脂組成物中に溶解した状態で配合されてもよく、微粒子、長繊維、短繊維、織物、不織布、メッシュ、パルプなどの形状でプリプレグやプリフォームの表層に配置されてもよい。また、熱可塑性樹脂は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0035】
ゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、及び架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が、取り扱い性等の観点から好ましく用いられる。ゴムの種類は制限されず、例えばブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、ブチルゴム、NBR,SBRなどが用いられる。
【0036】
架橋ゴム粒子の好ましい例としては、YR−500シリーズ(東都化成(株)製)等が挙げられる。架橋ゴム粒子は、エポキシ樹脂組成物の調製時に他の成分と共に混合してもよいが、架橋ゴム粒子が予めエポキシ樹脂[A]に分散されたマスターバッチ型の架橋ゴム粒子分散エポキシ樹脂を用いると、エポキシ樹脂組成物の調製時間を短縮することが出来るので好ましい。このようなマスターバッチ型の架橋ゴム粒子分散エポキシ樹脂としては、BPF307あるいはBPA328(日本触媒(株)製)、ブタジエンゴムを含有したMX−156あるいはシリコンゴムを含有したMX−960(カネカ(株)製)などが挙げられる。
【0037】
コアシェルゴム粒子の好ましい例としては、アクリル系ゴムを使用したW−5500あるいはJ−5800(三菱レイヨン(株)製)、シリコーン・アクリル複合ゴムを使用したSRK−200E(三菱レイヨン(株)製)、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物からなるパラロイド(商標)EXL−2655(呉羽化学工業(株)製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなるスタフィロイド(商標)AC−3355、TR−2122(武田薬品工業(株)製)、アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル共重合物からなるPARALOID EXL−2611あるいはEXL−3387(Rohm&Haas社製)等を挙げることができる。
【0038】
無機粒子の好ましい例としては、カーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム、スメクタイト、酸化マグネシウム、タルク、合成マイカ、炭酸カルシウム、スチール等を挙げることができる。
【0039】
濡れ性向上のための界面活性剤の好ましい例としては、BYK−A530(ビックケミー・ジャパン(株)製)等を挙げることが出来る。
【0040】
[エポキシ樹脂組成物の用途]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化剤の強化繊維表面への濾別を低減し、硬化不良によるFRPの物性の低下を抑制することが出来るため、プリプレグを用いた成形およびRTMに用いた際の生産性が高い。なお、エポキシ樹脂組成物の用途はこれに限らず、例えば電子材料用封止材、塗料、接着剤など広範囲の用途に使用できる。
【0041】
[繊維強化複合材料を得る製造方法]
本発明では硬化後の物性に優れるジアミノジフェニルスルホンを強化繊維に樹脂組成物を含浸させる際の硬化剤の濾別や増粘による含浸不良を起こすことなく成形できるため、強化繊維と樹脂組成物を組み合わせる任意の製造方法を用いることができる。特にRTM、VaRTM、レジンインフュージョンなどのインフュージョン成形や厚目付けのプリプレグを用いた成形において硬化剤の濾別や増粘による含浸不良が問題になりやすく、本発明を適用した際に効果が大きい。
本発明に係る繊維強化複合材料を得る製造方法は、例えば、上記態様(1)に従って、繊維集合体にエポキシ樹脂組成物を含浸させ、硬化させて繊維強化複合材料を得るが、この場合、上記の様に、エポキシ樹脂組成物を60℃以上80℃以下の温度で混合させて態様(1)に記載の条件を満たす構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]を含んでなるエポキシ樹脂組成物を繊維集合体に含浸させ、硬化させることが必要である。
60℃以上80℃以下の温度での混合は、エポキシ樹脂組成物を攪拌し、構成要素[A]中に構成要素[B]および構成要素[C]を分散させた後に実施してもよい。60℃以上80℃以下の温度での混合を、エポキシ樹脂組成物を攪拌しながら行うと、構成要素[B]および構成要素[C]の溶解時間を短くできるためより好ましい。構成要素[B]および構成要素[C]の分散と60℃以上80℃以下の温度での混合を同時に行うことも製造時間の短縮の観点から好ましい。攪拌装置としては任意の方法が用いられるが、特に3本ロール、ニーダー、プラネタリーミキサー、自転・公転式ミキサーなど樹脂組成物に剪断力を加えることができる装置を用いると構成要素[B]および構成要素[C]の分散や溶解の時間を短縮させることができるため好ましい。
この方法により、構成要素[A]に溶解された構成要素[B]および構成要素[C]が強化繊維集合体中の強化繊維の表面で濾し取られることがないので、局所的な硬化剤の配合比が変わってしまうことが無いので、硬化物(成形物)の物性低下や外観不良を引き起こすことがない。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0043】
[エポキシ樹脂組成物の調製]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、態様(1)または(3)に記載の各成分([A]〜[C])を容器に計量し、ハイブリッドミキサーHM−500(KEYENCE(株)製)を用いて撹拌を5分、脱泡を1分30秒行うことによって調製した。
【0044】
[ジアミノジフェニルスルホンの溶解度合いの評価]
ジアミノジフェニルスルホンの溶解度合いを判断するため、目視での評価を行った。上述の方法により調製したエポキシ樹脂組成物を容器に入れたまま、下記に示す条件1または条件2の環境下でそれぞれ暴露した。条件1〜3の環境下でそれぞれ暴露した後にエポキシ樹脂組成物のジアミノジフェニルスルホンの溶解度合いを確認し、○、△、×の記号を付けて評価した。なお、それぞれの記号の意味は以下に示す通りである。
条件1:室湿度下で80℃に設定した高温恒温器HISPEC HT310S(楠本化成(株)製)内で1時間暴露した。
条件2:室湿度下で70℃に設定した高温恒温器HISPEC HT310S(楠本化成(株)製)内で2時間暴露した。
条件3:室湿度下で65℃に設定した高温恒温器HISPEC HT310S(楠本化成(株)製)内で1時間暴露した。
○:上記条件の暴露後にエポキシ樹脂組成物が透明になり、硬化剤が完全に溶解していることを示す。
△:上記条件の暴露後にエポキシ樹脂組成物が濁っており、硬化剤の溶解は見られるが、溶け残りがあることを示す。
×:上記条件の暴露前と暴露後でエポキシ樹脂組成物の外観に大きな変化が見られず、多くの硬化剤が溶け残っていることを示す。
【0045】
実施例1〜35
上記のようにして、表1、2に示す原料組成(部は質量部を示す)からなるエポキシ樹脂組成物を調製し、次いで目視によって硬化剤の溶解の度合いを評価した。エポキシ樹脂組成物の含有成分(部は質量部を示す)の評価結果を表1、2に示した。
【0046】
比較例1〜21
表3に示す原料組成(部は質量部を示す)からなるエポキシ樹脂組成物を調製した点を除いて、実施例1と同様に目視により硬化剤の溶解の度合いを評価した結果を表3に示す。
【0047】
樹脂調製に用いた原料の詳細を下記に示す。なお、硬化剤のD90はAEROTRAC SPR(商標) MODEL7340(日機装(株)製)により測定した。D90の測定は焦点距離100mm、乾式測定により行った。
・セロキサイド(商標)3000:脂環式エポキシ樹脂、ダイセル化学工業(株)製、換算分子量187
・jER630:パラアミノフェノール型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製、換算分子量288
・jER604:テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製、換算分子量480
・EX−201:レゾルシノールジグリシジルエーテル、ナガセケムテックス社製、製品名:デナコールEX−201、換算分子量:234
・1500NP:ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、共栄社化学社製、製品名:エポライト1500NP、換算分子量:270
・GAN:ジグリシジルアニリン、日本化薬(株)製、換算分子量250
・jER828:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製、換算分子量378
・jER807:ビスフェノールF型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製、換算分子量336
・EXA−4850−1000:2官能エポキシ樹脂、DIC(株)製、換算分子量700
・jER1001:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製、換算分子量950
・3,3'−DDS:3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、活性水素当量62、日本合成化工(株)製のものを粉砕して使用した。D90:4.3μm(D90は粉砕後の測定値)
・4,4'−DDS:4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、活性水素当量62、和歌山精化工業(株)製のものを粉砕して使用した。D90:5.8μm(D90は粉砕後の測定値)
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1、2に記載の実施例は、態様(1)または態様(2)に記載の要件を満たしているため、エポキシ樹脂組成物中の硬化剤がエポキシ樹脂に溶解している。
【0051】
一方、表3に記載の比較例では、態様(1)または態様(2)に記載の要件を満たしていないため、エポキシ樹脂組成物中の硬化剤はエポキシ樹脂に溶解していない。
(実施例36〜39)
実施例1〜35と同様に、表3に示した成分をそれぞれ計量し、ハイブリッドミキサーHM−500(KEYENCE(株)製)を用いて撹拌を5分、脱泡を1分30秒行うことによって調製した。
ついで、得られたエポキシ樹脂組成物をセパラブルフラスコに投入し、攪拌棒をスリーワンモーターにて回転させることにより、樹脂組成物を攪拌しながら、同樹脂組成物の温度を70℃に設定してオイルバス中で30分攪拌し、硬化剤の溶解を行った。
ジアミノジフェニルスルホンの溶解度合いを判断するため、目視での評価を行った。判定の基準は実施例1〜35と同様に樹脂組成物を目視で確認し、以下の基準に基づいて判定した。溶解度合いの判定結果は表3に示す。
○:上記条件の暴露後にエポキシ樹脂組成物が透明になり、硬化剤が完全に溶解していることを示す。
△:上記条件の暴露後にエポキシ樹脂組成物が濁っており、硬化剤の溶解は見られるが、溶け残りがあることを示す。
×:上記条件の暴露前と暴露後でエポキシ樹脂組成物の外観に大きな変化が見られず、多くの硬化剤が溶け残っていることを示す。
【表3】
【0052】
次いで、得られた樹脂組成物を用い擬似的なレジンインフュージョン成形により、CFRPの含浸・成形評価を行った。
プリフォームとして炭素繊維織物(TR3110:三菱レイヨン株式会社製)を10枚積層して用い、レジンコンテントが35質量%になるよう樹脂を計量して用いた。成形バックは図1に従って作製し、5mmHg以下の真空度で真空引きを行いながら図2の硬化プロファイルに従って、90℃まで昇温後、1時間保持し、その後180℃まで昇温して3時間保持させ、圧力は0.6MPaにて、オートクレーブ成形での成形を実施した。成形したCFRPは良好な外観を示した。成形したCFRPを手で曲げても塑性変形は見られなかった。このCFRPの表面を、アセトンをしみこませたウェスを用いて、ふき取りを行ったところ、特に問題は見られなかった。
【0053】
【表4】
【0054】
(比較例22、23)
実施例36〜39と同様に樹脂組成物の調製、硬化剤の溶解、含浸・成形評価を行った。ただし、樹脂組成は表4に従った。また、硬化剤の溶解度合いの判定では硬化剤は溶解していなかった。このようにして得られた硬化剤を溶解したエポキシ樹脂組成物を用いて、CFRPの成形を行った。
比較例22では、成形したCFRPは良好な外観を示した。成形したCFRPを手で曲げても塑性変形は見られなかった。このCFRPの表面を、アセトンをしみこませたウェスで擦り、ふき取りテストを行ったところ、表面の樹脂が溶け、べたつく現象が見られた。表面樹脂のアセトンによる溶解から硬化不良が起こっていると考えられる。
比較例23では、成形したCFRPは剛性が不足しており、手で曲げると塑性変形し、元の形状には戻らなかった。このCFRPの表面を、アセトンをしみこませたウェスで擦り、ふき取りテストを行ったところ、CFRPの塑性変形、表面の樹脂が溶け、べたつく現象が見られた。表面樹脂のアセトンによる溶解から硬化不良が起こっていると考えられる。
【0055】
以上に詳細に説明したように、本発明のエポキシ樹脂組成物は3,3'−ジアミノジフェニルスルホン[B]と4,4'−ジアミノジフェニルスルホン[C]の両方を硬化剤として用いることにより、単一構造のジアミノジフェニルスルホンを用いるよりもより低い温度でエポキシ樹脂に溶解させることが出来るため、そのエポキシ樹脂組成物から得られたFRPは硬化剤の濾別を低減することが出来、硬化不良による物性の低下を抑制できる。よって、本発明は産業上有用である。
【符号の説明】
【0056】
1 ステンレス型
2 樹脂組成物
3 ゴムダム
4 プリフォーム
5 SUSプレート
6 シールテープ
7 耐熱テープ
8 押しピンによる2cm間隔の穴
9 不織布
10 バギングフィルム
11 真空ポンプへ接続された引き口
図1
図2