(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重合阻害剤が、ベンゾキノン、ヒドロキノン、及びこれらの化合物におけるベンゼン環の水素が非水素の基で置換された誘導体からなる群から選択されるキノン化合物である請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づき本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明において、非水電解質二次電池とは、非水電解質中におけるイオンの電極への吸蔵・放出により、電気エネルギーを貯蔵・利用可能とする電気化学デバイスの総称である。以下の実施形態では、リチウムイオン電池を代表例として説明する。
【0013】
図1は、リチウムイオン電池の断面構造を模式的に示した図である。
図1に示すように、リチウムイオン電池101は、正極107、負極108、及び両電極の間に挿入されたセパレータ109からなる電極群が、電池容器102に密閉状態にて収納されている。
【0014】
電池容器102の上部には蓋103があり、その蓋103に、正極外部端子104、負極外部端子105及び注液口106が備えられている。電池容器102に電極群を収納した後に、蓋103を電池容器102に被せ、蓋103の外周を溶接して電池容器102と一体にすることによりリチウムイオン電池が製造される。電池容器102への蓋103の取り付けには、溶接の他に、かしめ、接着等の他の方法を採ることができる。
【0015】
正極107は、正極活物質、バインダ及び集電体から主に構成される。その正極活物質としては、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMn
2O
4等が代表例として挙げられる。その他、LiMnO
3、LiMn
2O
3、LiMnO
2、Li
4Mn
5O
12、LiMn
2−xM
xO
2(ただし、M=Co、Ni、Fe、Cr、Zn又はTaであって、x=0.01〜0.2である)、Li
2Mn
3MO
8(ただし、M=Fe、Co、Ni、Cu又はZnである)、Li
1−xA
xMn
2O
4(ただし、A=Mg、Ba、B、Al、Fe、Co、Ni、Cr、Zn又はCaであって、x=0.01〜0.1である)、LiNi
1−xM
xO
2(ただし、M=Co、Fe又はGaであり、x=0.01〜0.2である)、LiFeO
2、Fe
2(SO
4)
3、LiCo
1−xM
xO
2(ただし、M=Ni、Fe、Mnであって、x=0.01〜0.2である)、LiNi
1−xM
xO
2(ただし、M=Mn、Fe、Co、Al、Ga、Ca又はMgであって、x=0.01〜0.2である)、Fe(MoO
4)
3、FeF
3、LiFePO
4、LiMnPO
4等を挙げることができる。ただし、本発明は正極材料に何ら制約を受けないので、これらの材料に限定されるものではない。
【0016】
正極活物質の粒径は、合剤層の厚さ以下になるように規定される。正極活物質の粉末中に合剤層の厚さ以上のサイズを有する粗粒がある場合、予めふるい分級、風流分級等により粗粒を除去し、合剤層の厚さ以下の粒子を調製する。
【0017】
正極活物質は粉体であるので、正極を作製するために粉体の粒子同士を結合させるためのバインダが必要である。バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。また、正極活物質が酸化物である場合、酸化物の導電性は一般に低いので、炭素粉末等の導電剤を加えて酸化物粒子間の導電性を高めることが好ましい。
【0018】
正極活物質とバインダの混合比は、重量比率で80:20〜99:1の範囲内とすることが好ましい。導電性を十分に発揮させ、大電流の充放電を可能にするために、上記重量組成は95:5に対し正極活物質の比率が小さくなるようにすることが特に好ましい。逆に、電池のエネルギー密度を高めるために、85:5よりも正極活物質の比率が大きくなるように配合することがより好ましい。
【0019】
導電剤としては、黒鉛、非晶質炭素、易黒鉛化炭素、カーボンブラック、活性炭、導電性繊維、カーボンナノチューブ等の公知の材料を用いることができる。導電性繊維には、気相成長炭素又はピッチ(石油、石炭、コールタール等の副生成物)を原料として高温で炭化して製造した繊維、アクリル繊維(ポリアクリロニトリル)から製造した炭素繊維等がある。また、正極の充放電電位(通常は2.5〜4.2Vである)にて酸化溶解しない材料であり、正極活物質よりも電気抵抗の低い金属材料、例えばチタン、金等の耐食性金属、SiCやWC等のカーバイド、Si
3N
4、BN等の窒化物からなる繊維を用いても良い。これらの製造方法は、溶融法、化学気相成長法等の既存の製法を利用することができる。
【0020】
正極活物質、バインダの溶液及び導電剤の混合物を攪拌、混合しながら、溶媒を添加して滑らかな流動性を有するスラリーを調製し、そのスラリーを正極集電体に塗布し、溶媒を蒸発させて乾燥することによって正極107を製造することができる。正極集電体としては、厚さが10μm〜100μmのアルミニウム箔、厚さが10μm〜100μm、孔径0.1mm〜10mmのアルミニウム製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板等が用いられ、材質もアルミニウムの他に、ステンレス鋼、チタン等が適用可能である。本発明では、材質、形状、製造方法等に制限されることなく、任意の集電体を使用することができる。
【0021】
正極スラリーの塗布には、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法等の既知の製法を採ることができ、手段に制限はない。スラリーを集電体へ付着させた後、有機溶媒を乾燥し、ロールプレスによって正極を加圧成形することにより、正極107を作製することができる。また、塗布から乾燥までを複数回行うことにより、複数の合剤層を集電体に積層化させることも可能である。
【0022】
負極108は、負極活物質及びバインダを含む合剤層と、集電体とから構成される。合剤層には、必要に応じて導電剤が添加される場合がある。
【0023】
負極の作製に際しては、まず、負極活物質の粉末とバインダを混合する。負極活物質としては、リチウムと合金化するアルミニウム、シリコン、スズ等や、グラフェン構造を有する炭素材料が用いられる。すなわち、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な天然黒鉛、人造黒鉛、メソフェ−ズ炭素、膨張黒鉛、炭素繊維、気相成長法炭素繊維、ピッチ系炭素質材料、ニードルコークス、石油コークス、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、カーボンブラック等の炭素質材料、あるいは5員環又は6員環の環式炭化水素又は環式含酸素有機化合物を熱分解することによって合成した非晶質炭素材料等が利用可能である。黒鉛、易黒鉛化炭素、難黒鉛化炭素等の炭素材料の混合負極、又は前記炭素材料に金属を混合又は複合化した負極であっても、本発明を実施する上で支障はない。本発明では、負極活物質に特に制限がなく、上述の材料以外でも利用可能である。
【0024】
また、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリアセチレン等からなる導電性高分子材料も負極に用いることができる。これらの材料と黒鉛、易黒鉛化炭素、難黒鉛化炭素等のグラフェン構造を有する炭素材料とを組み合わせて、負極を構成することができる。
【0025】
上述の負極活物質とバインダとを含む混合物に溶媒を添加し、十分に混練又は分散させて、スラリーを調製する。溶媒は、有機溶媒、水等であって、バインダを変質させないものであれば任意に選択することができる。
【0026】
負極活物質とバインダの混合比は、重量比率で80:20〜99:1の範囲内であることが好適である。導電性を十分に発揮させ、大電流の充放電を可能にするために、上記重量組成は99:1に対し負極活物質の比率が小さくなるようにすることが特に好ましい。一方、電池のエネルギー密度を高めるために、90:10よりも負極活物質の比率が大きくなるように配合することがより好ましい。
【0027】
導電剤は必要に応じて負極に添加される。例えば、大電流の充電又は放電を行う場合に、少量の導電剤を添加して、負極の抵抗を下げることが望ましい。導電剤としては、黒鉛、非晶質炭素、易黒鉛化炭素、カーボンブラック、活性炭、導電性繊維、カーボンナノチューブ等の公知の材料を用いることができる。導電性繊維には、気相成長炭素、又はピッチ(石油、石炭、コールタール等の副生成物)を原料として高温で炭化して製造した繊維、アクリル繊維(ポリアクリロニトリル)から製造した炭素繊維等がある。
【0028】
上述のスラリーは、負極集電体に塗布し、溶媒を蒸発させて乾燥することによって、負極108を製造することができる。負極集電体としては、厚さが10μm〜100μmの銅箔、厚さが10μm〜100μm、孔径0.1mm〜10mmの銅製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板等が用いられ、材質も銅の他に、ステンレス鋼、チタン等が適用可能である。本発明では、材質、形状、製造方法等に制限されることなく、任意の集電体を使用することができる。
【0029】
負極スラリーの塗布には、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法等の既知の製法を採ることができ、手段に制限はない。負極スラリーを集電体へ付着させた後、溶媒を乾燥し、ロールプレスによって負極を加圧成形することにより、負極108を作製することができる。また、塗布から乾燥までを複数回行うことにより、複数の合剤層を集電体に積層化させることも可能である。
【0030】
正極107と負極108の間にセパレータ109を挿入し、正極107と負極108の短絡を防止する。セパレータ109としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系高分子シート、あるいはポリオレフィン系高分子と4フッ化ポリエチレンに代表されるフッ素系高分子シートとを溶着させた多層構造のセパレータ等を使用することができる。電池温度が高くなったときにセパレータ109が収縮しないように、セパレータ109の表面にセラミックスとバインダとの混合物を薄層状に形成しても良い。これらのセパレータ109は、電池の充放電時にリチウムイオンを透過させる必要があるため、一般に径が0.01μm〜10μm、気孔率が20%〜90%の細孔を有することが好ましい。
【0031】
セパレータ109は、電極群の末端に配置されている電極と電池容器102の間にも挿入し、正極107と負極108が電池容器102を通じて短絡しないようにしている。セパレータ109と各電極107、108の表面及び細孔内部に、電解質及び非水溶媒、並びに本発明の特徴である難燃剤及び重合阻害剤を含む電解液が保持されている。
【0032】
使用可能な電解液の代表例として、エチレンカーボネートに、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等を混合した溶媒に、電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、あるいはホウフッ化リチウム(LiBF
4)を溶解させた溶液が挙げられるが、本発明は溶媒や電解質の種類、溶媒の混合比等に特に制限されることなく、他の構成からなる電解液も利用可能である。電解質は、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル等のイオン伝導性高分子に含有させた状態で使用することも可能である。この場合は、前記セパレータが不要となる。
【0033】
電解液に使用可能な溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、テトラヒドロフラン、1,2−ジエトキシエタン、クロロエチレンカーボネート、クロロプロピレンカーボネート等の非水溶媒が挙げられる。これらはいずれか一種を用いても良いし、複数を併用しても良い。本発明の非水電解質二次電池に内蔵される正極あるいは負極上で分解しなければ、これ以外の溶媒を用いても良い。
【0034】
また、電解質としては、化学式でLiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6あるいはリチウムトリフルオロメタンスルホンイミドに代表されるリチウムのイミド塩等の多種類のリチウム塩を挙げることができる。これらの塩を、上述の溶媒に溶解させて得られる非水電解液を電池用の電解液として使用することができる。本発明の非水電解質二次電池に内蔵される正極あるいは負極上で分解しなければ、これ以外の電解質を用いても良い。
【0035】
さらに、必要に応じて、イオン性液体を用いることができる。例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMI−BF
4)、リチウム塩LiN(SO
2CF
3)
2(LiTFSI)とトリグライム又はテトラグライムの混合錯体、環状四級アンモニウム系陽イオン(N−メチル−N−プロピルピロリジニウムが例示される)とイミド系陰イオン(ビス(フルオロスルホニル)イミドが例示される)より正極と負極にて分解しない組み合わせを選択して、本発明の非水電解質二次電池に用いることができる。
【0036】
そして、本発明の非水電解質二次電池は、電解液に、難燃剤として、下式で表される環状リン化合物を添加したことを特徴とする。
【0038】
ここで、R1、R2、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して水素、ハロゲン、メチル又はハロゲン化メチルである。特に、R1、R2、R3及びR4は水素又はハロゲンであることが望ましい。メチル置換基の数が増加すると、難燃剤の分子サイズが大きくなり、電解液の粘度が増大し、その結果、電解液の導電率の低下が起こる場合がある。
【0039】
また、R5は、ハロゲン化メチルであっても良い。ハロゲン化により、耐酸化性が向上するからである。ハロゲン化の効果は他の置換基(R1、R2、R3及びR4)においても同様である。
【0040】
本発明においては、上記の環状リン化合物に加えて、環状リン化合物の開環重合を阻害する物質(重合阻害剤)を添加する。これらの重合阻害剤は以下の3つのグループに分けられる。
【0041】
第一のグループは芳香族スルホン酸塩である。芳香族環の数は1又は2以上であるが、電解液での溶解性を考慮すると、単環であることが望ましい。このグループに属する材料としては、フェノール−2−スルホン酸ナトリウム、フルオロフェノールスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメチルフェノールスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。ナトリウムは、リチウムに置き換えても良い。これらの化合物は、電解液への溶解度が低いので、可溶の範囲内で用いられる。また、多量に電解液に添加すると、正極又は負極にて酸化又は還元される恐れがある。そのため、添加量は、電解液重量に対して0.1重量%以上、1重量%以下とすることが望ましい。
【0042】
第二のグループは、キノン構造を有する化合物である。このグループに属する材料としては、ベンゾキノン、ヒドロキノン等が挙げられる。これらの化合物におけるベンゼン環の水素を非水素の基(例えば、ハロゲン)で置換した誘導体も用いることができる。これらの化合物は、電解液重量に対して0.1重量%以上、1重量%以下の添加量で用いることが望ましい。多量に電解液に添加すると、正極又は負極にて酸化又は還元される恐れがあるからである。
【0043】
第三のグループは、ポリエーテル、多環芳香族エーテル、鎖状エーテル又は環状エーテルである。これらはいずれか一種を用いても良いし、複数を組み合わせて用いても良い。ポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらのポリエーテルの分子量(重量平均分子量)は、特に制限されるものではないが、電解液に溶解させる目的で、100〜600程度であることが好ましい。ポリエチレングリコールの水素の一部を、芳香族基、アルキル基、ハロゲン等により置換しても良い。ポリエチレングリコール分子の両末端に存在するOH基の水素をアルキルに置換すると、リチウムイオン電池の正極又は負極によって酸化又は還元されないため、好適である。また、分子鎖中に含酸素官能基(カルボニル基、エステル基、カルボキシル基等)を含んでいても良い。また、多環芳香族エーテルの例としては、アニソール、ジフェニルエーテル、ジメトキシベンゼン等を挙げることができる。さらに、鎖状エーテルの代表例としては、前出のポリエチレングリコールであるが、その他に、2,5−ジオキサヘキサン二酸ジメチル、エチレングリコールジアセタート、コハク酸ジメチルがある。また、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等の環状エーテルであっても良い。このグループの化合物は、電解質を溶解させるので、電解液の溶媒として用いることもできる。すなわち、通常の炭酸エステルの代わりに用いることが可能である。これらの第三のグループの化合物は、電解液重量に対して0.1重量%以上、1重量%以下の添加量で用いることが望ましい。
【0044】
上記の第一〜第三グループの重合阻害剤は、いずれか一種を用いても良いし、複数種を適宜組み合わせて用いても良い。
【0045】
電極群の構造は、
図1に示した短冊状電極の積層したもの、あるいは円筒状、扁平状等の任意の形状に捲回したもの等、種々の形状にすることができる。電池容器102の形状は、電極群の形状に合わせ、円筒型、偏平長円形状、角型等の形状を選択してもよい。
【0046】
電池容器102の材質は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼製等、非水電解液に対し耐食性のある材料から選択される。また、電池容器102を正極リード線110又は負極リード線111に電気的に接続する場合は、非水電解液と接触している部分において、電池容器の腐食やリチウムイオンとの合金化による材料の変質が起こらないように、リード線の材料を選定する。
【0047】
電極群の上部は、リード線を介して外部端子に電気的に接続されている。正極107は正極リード線110を介して正極外部端子104に接続されている。負極108は負極リード線111を介して負極外部端子105に接続されている。なお、正極リード線110及び負極リード線111は、ワイヤ状、板状等の任意の形状を採ることができる。電流を流したときにオーム損失を小さくすることのできる構造であり、かつ電解液と反応しない材質であれば、正極リード線110及び負極リード線111の形状、材質は任意である。
【0048】
また、正極外部端子104又は負極外部端子105と、電池容器102の間には絶縁性シール材料112を挿入し、両端子が短絡しないようにしている。絶縁性シール材料112は、フッ素樹脂、熱硬化性樹脂、ガラスハーメチックシール等から選択することができ、電解液と反応せず、かつ気密性に優れた任意の材質を使用することができる。
【0049】
正極リード線110又は負極リード線111の途中、あるいは正極リード線110と正極外部端子104の接続部、又は負極リード線111と負極外部端子105の接続部に、正温度係数(PTC;Positive temperature coefficient)抵抗素子を利用した電流遮断機構を設けると、電池内部の温度が高くなったときに、リチウムイオン電池101の充放電を停止させ、電池を保護することが可能となる。なお、正極リード線110及び負極リード線111は箔状、板状等、任意の形状にすることができる。
【0050】
その後、蓋103を電池容器102に密着させ、電池全体を密閉する。電池を密閉する方法には、溶接、かしめ等の公知の技術を用いることができる。
【0051】
電解液の注入方法は、蓋103を電池容器102から取り外して電極群に直接、添加する方法、あるいは蓋103に設置した注液口106から添加する方法がある。
【0052】
図1に示したリチウムイオン電池101の注液口106は、電池容器102の上面に設置されている。電極群を電池容器102に収納し密閉した後に、電解質と非水溶媒を含む電解液を注液口106より滴下し、所定量の電解液を充填した後に、注液口106を密封する。
【0053】
注液口106に安全機構を付与することも可能である。その安全機構として、電池容器内部の圧力を解放するための圧力弁を設けても良い。
【0054】
次に、本発明に係る蓄電装置の一実施形態について
図2に基づき説明する。
図2は、2個のリチウムイオン電池201a、201bを直列に接続した例である。
【0055】
各リチウムイオン電池201a、201bは、正極207、負極208、セパレータ209からなる同一仕様の電極群を有し、上部に正極外部端子204、負極外部端子205及び注液口206を設けている。各外部端子と電池容器202の間には絶縁シール材料212を挿入し、外部端子同士が短絡しないようにしている。なお、
図2では、
図1の正極リード線110と負極リード線111に相当する部品が省略されているが、リチウムイオン電池201a、201bの内部の構造は
図1と同様である。
【0056】
リチウムイオン電池201aの負極外部端子205は、電力ケーブル213により充放電制御器216の負極入力ターミナルに接続されている。リチウムイオン電池201aの正極外部端子204は、電力ケーブル214を介して、リチウムイオン電池201bの負極外部端子205に連結されている。リチウムイオン電池201bの正極外部端子204は、電力ケーブル215により充放電制御器216の正極入力ターミナルに接続されている。このような配線構成によって、2個のリチウムイオン電池201a、201bを充電又は放電させることができる。
【0057】
充放電制御器216は、電力ケーブル217、218を介して、外部に設置した機器(以下では外部機器と称する)219との間で電力の授受を行う。外部機器219には、充放電制御器216に給電するための外部電源や回生モータ等の各種電気機器が含まれ、並びに本蓄電装置が電力を供給するインバータ、コンバータ及び負荷が含まれている。外部機器が対応する交流、直流の種類に応じて、インバータ等を設ければ良い。これらの機器類は、公知のものを任意に適用することができる。
【0058】
また、
図2の例では、再生可能エネルギーを生み出す機器として風力発電機の動作条件を模擬した発電装置222を設置し、電力ケーブル220、221を介して充放電制御器216に接続している。発電装置222が発電するときには、充放電制御器216が充電モードに移行し、外部機器219に給電するとともに、余剰電力をリチウムイオン電池201a、201bに充電する。また、風力発電機を模擬した発電装置222の発電量が外部機器219の要求電力よりも少ないときには、リチウムイオン電池201a、201bを放電させるように充放電制御器216が動作する。なお、発電装置222は、他の発電装置、すなわち太陽電池、地熱発電装置、燃料電池、ガスタービン発電機等の任意の装置に置換することができる。充放電制御器216には、上述の動作をするように自動運転可能なプログラムを記憶させておく。
【0059】
蓄電装置を動作させる際には、リチウムイオン電池201a、201bに対して定格容量が得られる通常の充電を行う。例えば、1時間率の充電電流にて、4.2Vの定電圧充電を0.5時間、実行することができる。充電条件は、リチウムイオン電池の材料の種類、使用量等の設計で決まるので、電池の仕様ごとに最適な条件とする。
【0060】
リチウムイオン電池201a、201bを充電した後には、充放電制御器216を放電モードに切り替えて、各電池を放電させる。通常は、一定の下限電圧に到達したときに放電を停止させる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
以下に示すようにして、
図1に示すリチウムイオン電池を作製した。各実施例及び比較例においては、正極活物質としてLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2を選択した。また、正極のバインダにはポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用い、このバインダを予め1−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと記す)に溶解させたものを用いた。なお、正極活物質の重量組成を85%、バインダの重量組成を8%とした。さらに、カーボンブラックを導電剤として用い、その重量組成は7%とした。
【0063】
上記の正極活物質、バインダのNMP溶液、及び導電剤の混合物を、攪拌、混合しながら、NMPを添加し、なめらかな流動性を有するスラリーを調製した。そのスラリーを、10μm厚さのアルミニウム箔からなる正極集電体にブレードコーターにより塗布し、溶媒を蒸発させて乾燥することにより、正極107を製造した。
【0064】
また、負極活物質として、(002)面のX線回折ピークから求めたグラファイト層間隔d
002が0.35〜0.36nmの範囲にある黒鉛粉末を用いた。そして、バインダにスチレン−ブタジエンゴム(バインダA)とカルボキシメチルセルロース(バインダB)を用い、負極活物質とバインダAとバインダBの重量組成を98:1:1として、水を溶媒として混合しスラリーを調製した。このスラリーを、厚さ10μmの圧延銅箔からなる負極集電体にブレードコーターにより塗布し、溶媒を蒸発させて乾燥することにより、負極108を製造した。
【0065】
また、セパレータとしては、厚さ25μmのポリエチレン製微多孔シートを用いた。
【0066】
そして、非水電解液として、1モル濃度(1mol/dm
3)のLiPF
6を、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネートを1:1の体積比率で混合した溶媒に溶解させた電解液を用いた。この電解液には、所定の難燃剤及び重合阻害剤を添加した。各実施例及び比較例における難燃剤と重合阻害剤の種類及び量を、表1及び表2に示す。
【0067】
電池B1〜B6の6種類のリチウムイオン電池は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの体積比1:1の混合溶媒に、難燃剤及び重合阻害剤を添加し、その溶液に、1mol/dm
3の濃度になるようにLiPF
6を溶解させた電解液を用いた。難燃剤及び重合阻害剤の添加量は、電解液全体の重量に対して表2に示した値になるように、予め計算した量に設定した。したがって、表2の難燃剤及び重合阻害剤の重量百分率の残りの比率が、電解質、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートの合計の重量比率に相当する。
【0068】
電池B1〜B11は、難燃剤の濃度を一定とし、重合阻害剤の種類の差異を評価するための実施例である。電池B12、B13、B15及びB16は、ジフェニルエーテルの重合抑止効果を、添加量0.01重量%から2重量%の間で検証し、ジフェニルエーテルの添加量の範囲を明確にしようとするものである。電池B14は、難燃剤のメチル置換数の影響を評価するものである。
【0069】
また、比較例として、難燃剤と重合阻害剤をともに添加しない電解液を用いた電池をB21とした。難燃剤のみを添加した電池をB22、重合阻害剤のみを添加した電池をB23とした。
【0070】
各実施例及び比較例におけるリチウムイオン電池の定格容量は10Ahである。定格容量を得るために、初期エージングを行った。その条件は、まず5Aの充電電流にて電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行い、4.2Vに達した後には4.2Vを維持しながら電流が0.1Aに減少するまで充電を継続した。次いで30分の休止を経た後、5Aの放電電流にて電池電圧が3.0Vに達するまで放電を行った。これを3回繰り返して、最後に得られた放電容量を初期容量とした。
【0071】
そして、初期容量を得た後、10Aの充電電流にて電池電圧が4.2Vに達するまで充電し、4.2Vに達した後には4.2Vを維持しながら電流が0.1Aに減少するまで充電を継続した。次いで30分の休止を経た後、5Aの放電電流にて電池電圧が3.0Vに達するまで放電を行った。これを3回繰り返して、最後に得られた放電容量を初期容量とした。測定した初期容量を、表2の「初期容量」の欄に示す。
【0072】
次に、初期容量測定時と同じ充放電条件にて、充放電サイクル試験を行った。100サイクル経過後に、電池容器の底面に小孔を開け、その電池を密閉容器に入れた。その容器を遠心分離機に設置し、容器を回転させて、容器の底部に電解液を捕集した。その電解液を1ml採取し、電解液の引火点をセタ密閉式引火点測定装置にて測定した。その温度を、表2の「100サイクル経過後の電解液の引火点」の欄に示す。100サイクルの充放電後の電解液において、その引火点の降下があれば、電解液の難燃性が低下し、電解液が着火し易くなったことがわかる。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
本発明の実施例である電池B1〜B6は、初期容量も大きく、100サイクル経過後の引火点は、難燃剤無添加の場合の引火点(25℃)よりも高い値を保持し、難燃剤の作用が残存していることを確認した。
【0076】
特に、実施例である電池B7〜B11、B13及びB14の電池の場合、初期容量が大きく、100サイクル経過後の引火点も、難燃剤無添加のときの引火点(25℃)よりも高い値を保持し、難燃剤の作用が残存していることがわかった。
【0077】
比較例である電池B21とB23については、難燃剤を添加していないので、初期容量の低下が見られない点は良いが、電解液の引火点が低くなる問題がある。
【0078】
比較例である電池B22は、電解液の引火点が無添加の電解液の引火点(24℃)にほぼ一致した。重合阻害剤が添加されていないためである。
【0079】
重合阻害剤のみを電解液に添加した電池B23では、初期容量は高いが、電解液の引火点が難燃剤無添加の電池B21の引火点にほぼ一致した。
【0080】
難燃剤を電解液に添加し、さらに0.01重量%のジフェニルエーテルを電解液に添加した電池B15では、初期容量は高いものの、重合阻害剤の添加量が少ないために、引火点が降下した。一方、ジフェニルエーテルの添加量を2重量%まで増大させた電池B16では、初期容量が低下するものの、引火点は高い結果が得られた。過剰に重合阻害剤を添加すると、電極上で分解してしまうためと考えられる。この結果から、重合阻害剤の最適な添加量は、電解液重量に対して0.1重量%以上、1重量%以下であることが明らかとなった。
【0081】
次に、上記の電池B13を2個直列に接続して、
図2に示した蓄電装置を作製した。電池B13はリチウムイオン電池201a、201bである。
【0082】
以上で説明した蓄電装置において、外部機器219は充電時に電力を供給し、放電時に電力を消費させた。本実施例では、2時間率の充電を行い、1時間率の放電を行い。初期の放電容量を求めた。その結果、各リチウムイオン電池201a、201bの設計容量10Ahの98.5%〜99%の容量を得た。
【0083】
その後、環境温度20℃〜30℃の条件で、以下で述べる充放電サイクル試験を行った。まず、2時間率の電流(5A)にて充電を行い、充電深度50%(5Ah充電した状態)になった時点で、充電方向に5秒のパルスを、放電方向に5秒のパルスをリチウムイオン電池201a、201bに与え、発電装置222からの電力の受け入れと外部機器219への電力供給を模擬するパルス試験を行った。なお、電流パルスの大きさは、ともに30Aとした。続いて、残りの容量5Ahを2時間率の電流(5A)で各電池の電圧が4.2Vに達するまで充電し、その電圧で1時間の定電圧充電を行い、充電を終了させた。その後、1時間率の電流(10A)にて各電池の電圧が3.0Vまで放電した。このような一連の充放電サイクル試験を100回繰り返したところ、初期の放電容量に対し、98%〜99%の容量を得た。電力受け入れと電力供給の電流パルスを電池に与えても、システムの性能はほとんど低下しないことがわかった。
【0084】
次に、上述の実施例に記載した方法にてリチウムイオン電池201aから電解液を抽出し、引火点を測定したが、充放電サイクル試験前の引火点に一致した。
【0085】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。