(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5949661
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】硫化スズ焼結体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/547 20060101AFI20160630BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20160630BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20160630BHJP
H01L 51/42 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
C04B35/00 T
C23C14/34 A
C23C14/06 D
H01L31/04 100
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-107874(P2013-107874)
(22)【出願日】2013年5月22日
(65)【公開番号】特開2014-227316(P2014-227316A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】高塚 裕二
【審査官】
立木 林
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−015109(JP,A)
【文献】
特表2012−507631(JP,A)
【文献】
特開2012−019021(JP,A)
【文献】
特開2010−245238(JP,A)
【文献】
特開2013−201187(JP,A)
【文献】
Zhang Shuai, et al.,Thermally evaporated SnS:Cu thin films for Solar Cells,Proceedings of the 2011 6th IEEE International Conference on Nano/Micro Engineered and Molecular Sys,2011年,p.889-892
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/547
C23C 14/34
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成分としてSnを主成分とし、添加金属成分として少なくともCuを含み、直流(DC)スパッタリング法により成膜するターゲット用の硫化スズ焼結体であって、
Cuの濃度は、質量%で0.1%以上10%以下の範囲内であり、
比抵抗が0.01Ω・cm〜100Ω・cmである
ことを特徴とするスパッタリングターゲット用硫化スズ焼結体。
【請求項2】
前記Cuの少なくとも一部がCu2Sとして存在している
請求項1に記載のスパッタリングターゲット用硫化スズ焼結体。
【請求項3】
SnS粒子表面を、SnS−Cu2S共晶層が被覆している
請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット用硫化スズ焼結体。
【請求項4】
出発原料としてCu2S粉とSnS粉を、Cuの濃度が質量%で0.1%以上10%以下の範囲内となるように混合し、
得られる混合粉を、580℃〜800℃の温度で、15kg重/cm2以上175kg重/cm2以下の加圧圧力として、不活性ガス雰囲気中で加熱・保持するホットプレス法により焼結して焼結体を得る
ことを特徴とするスパッタリングターゲット用硫化スズ焼結体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の硫化スズ焼結体をターゲットとして、直流電源を用いるDCスパッタリング法で成膜する工程を備える
ことを特徴とするCZTS膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池のバッファ膜や光学膜を直流(DC)スパッタリング法で成膜するスパッタリングターゲットに好適な硫化スズ焼結体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光吸収層に化合物系半導体を用いた薄膜太陽電池として、CZTS系薄膜太陽電池とよばれる、光吸収層に銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、及び、硫黄(S)又はセレン(Se)のいずれかのカルコゲン元素からなる化合物系半導体を用いた薄膜太陽電池が注目されている(非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0003】
このCZTS系薄膜太陽電池は、CISやCIGS系薄膜太陽電池とは異なり、インジウム(In)等の希少元素を用いないことから将来的な実用が期待されている。またSeを用いない硫化物でも変換効率が期待できることから毒性の強いSeを含まない太陽電池としても期待されている。
【0004】
またCu
2ZnSnS
4は太陽光で水を分解して水素を生成する光触媒としても注目されている(非特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、現在のところ、CISやCIGS系薄膜太陽電池のような高い変換効率は得られておらず、さらなる研究開発が必要とされている。
【0006】
一般的なCZTS膜の製造方法としては、スパッタリング法や蒸着などの物理蒸着法やゾルゲル法、スプレー熱分解法、電着・硫化法などの様々な方法が提案されている(非特許文献2参照)。
【0007】
例えば、特許文献1では、従来のCZTS系薄膜太陽電池を構成するCZTS系光吸収層作製方法として、Cu、Zn、及びSnの積層膜となるプリカーサ膜を、スパッタ法等により電極層上に形成し、これを硫化水素(H
2S)雰囲気中で熱処理する方法が開示されている。
【0008】
また、ZnS、Cu
2SやSnS
2などの硫化物ターゲットを用いてCuZnSnS
3はの化合物層を合成する開発が進んでいる(非特許文献4、特許文献5参照)。
【0009】
金属ターゲットを用いて硫化する方法は、Znの蒸気圧が高いためZnが揮発してZnが少なくなる可能性や硫化時に大きな体積変化を起こして基板から膜が剥離する恐れがある。
【0010】
また、特許文献6にはCuS(第二硫化銅)粉末、ZnS粉末と硫化錫粉末を混合し、ホットプレス法でCZTSの単相ターゲットを作製し、p型伝導体で表面抵抗が45.3Ω/□〜680Ω/□の焼結体を得たとの記載がある。
【0011】
またZnが多くCuが少ない組成で太陽電池の変換効率が高くなるとの指摘がある(非特許文献5)。そのためCZTSの化学量論組成の化合物ターゲットではなく、硫化スズ、硫化亜鉛や硫化銅のターゲットを用いて組成比を制御できる成膜法が検討されている。
【0012】
スパッタリング法は、
図1に示すようにArイオンをターゲットに照射してターゲットから放出される物質をターゲットに対向する基板に積層させる成膜方法である。ターゲット面を負電位にすることでArイオンがターゲットに照射され、イオン照射よりターゲットから電子とターゲットが放出される。照射イオンと放出電子の電荷を電極から供給することでArイオン照射(放電)が持続する。
【0013】
スパッタ法には電荷供給法として直流(DC)電源を用いる方法と高周波(RF)を用いる方法がある。一般にターゲット材の抵抗が低い場合はDC電源を用い、抵抗が高い場合にはRF電源を用いる。RFスパッタ法は抵抗が高いターゲットでもスパッタできるが、電源がDC電源よりも高いことやターゲット面を負電位にするため高周波回路での電気抵抗と電気容量のマッチング調整を行う必要があり、DCスパッタよりもコストが増える。
【0014】
SnSターゲットなどの硫化物ターゲットは抵抗が高く直流放電ができないため、DCスパッタリング法で成膜することが難しく、硫化スズターゲットの抵抗を下げることが求められている。
【0015】
低抵抗の硫化スズターゲットを得るには、硫化スズ粒子そのものの抵抗を下げることで達成でき、この硫化スズ粒子を焼結して得る方法と、硫化スズ粒子に導電性粒子を混合して焼結して得る方法がある。
【0016】
光ディスク用保護膜に使われるZnS−SiO
2混合ターゲットでは、ZnSとSiO
2とIn
2O
3、酸化亜鉛、酸化スズや酸化アンチモン等の導電性酸化物を混合し、ホットプレス又は熱間静水圧プレス法で焼結することでターゲットの抵抗を下げ、DCスパッタを可能にしたターゲットが提案されている(特許文献2、3参照)。また、ZnSにAl、Ag、Cu、In
2S
3及びZnCl
2の粉体を混合、焼成し、Al、Ag、Cu、In、Clを、ZnSに添加することで低抵抗化する方法も提案されている(特許文献4参照)。
【0017】
導電性粒子との混合・焼結する方法では、
図2(a)に示すように導電性粒子が連結することで、低抵抗の導電パスが形成されることで電荷が導電パスを流れてターゲット表面の電位が負になる。しかし導電粒子が少ない場合や均一に混合できないと、
図2(b)のように、導電粒子が連結せず導電パスが形成されないため抵抗は小さくならない。このように、導電性酸化物を含む場合は導電性粒子を連結させて導電パスを生成しないとターゲットの抵抗が低くならないという問題がある。
【0018】
金属粉末を混合する場合は、Al、Ag、Cu、Inなどの金属粒子が柔らかいので、硫化物粉末を均一に混合することが難しく、得られたターゲットの組成バラツキや抵抗分布が大きいという問題がある。また、Alは活性なため微細な粉末にすると発火しやすくなり取り扱いが難しいという問題もある。また、Cu、In、AlやGaを金属として添加してもこれらの金属はSnSより硫化しやすいため、焼結時にCu
2S、In
2S
3、Al
2S
3やGa
2S
3の硫化物を形成し、金属Snを生成する。金属Snは融点が低いため焼結時に焼結体から染み出して型の間に析出して型が固着したり、焼結体の下部に偏析したりする。
【0019】
硫化スズは半導体であり、4価のスズを他の価数、例えば1価のCuや3価のGaやAlで置換すればp型の半導体になる。従ってスズに低価数の金属元素を添加し、その粉末を焼結すれば低抵抗焼結体が得られる。
【0020】
しかしながら低抵抗SnS粉末は市販されておらず、硫化スズ粉末を低抵抗化する手法は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2009−026891号公報
【特許文献2】特開平13−192820号公報
【特許文献3】特開2007−310994号公報
【特許文献4】特開2002−373459号公報
【特許文献5】特表2012-507631号公報
【特許文献6】特開2010−245238号公報
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】K.ITO T.NAKAZAWA JJAP 27(1988)2094
【非特許文献2】片桐裕則 電子材料 2009年11月号 45
【非特許文献3】D.YOKOYAMA et al. Appl. Phys Express 3 (2010) 101202
【非特許文献4】五十嵐重雄、関拓郎、百瀬成空、橋本佳男、伊東謙太郎:第57回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集 20p−TE−7 (2010)14−254
【非特許文献5】H.Katagiri et al. Thin Solid Films 517(2009)2455
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明が解決しようとする課題は、CZTS系薄膜太陽電池の製造時にスパッタリングターゲットとして使用できる硫化スズ焼結体で、比抵抗を直流スパッタリングが可能になるように低減した硫化スズ焼結体を提供することにある。
【0024】
本発明者らは、係る種々の技術的課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、金属成分としてSnを主成分とし、添加金属成分として少なくともCuを含む硫化スズ焼結体であって、Cuの濃度は、質量%で0.1%以上10%以下の範囲内である硫化スズ焼結体の比抵抗が0.01Ω・cm〜100Ω・cmになることを見出した。そして、この焼結体をスパッタリングターゲットとして使用する際に、直流スパッタリングが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
(1) 金属成分としてSnを主成分とし、添加金属成分として少なくともCuを含む硫化スズ焼結体であって、
Cuの濃度は、質量%で0.1%以上10%以下の範囲内であり、
比抵抗が0.01Ω・cm〜100Ω・cmであることを特徴とする硫化スズ焼結体。
【0026】
(2) 前記Cuの少なくとも一部がCu
2Sとして存在している(1)に記載の硫化スズ焼結体。
【0027】
(3) SnS粒子表面を、SnS−Cu
2S共晶層が被覆している(1)又は(2)に記載の硫化スズ焼結体。
【0028】
(4) 出発原料としてCu
2S粉とSnS粉を、Cuの濃度が質量%で0.1%以上10%以下の範囲内となるように混合し、
得られる混合粉を、下記A)又はB)により焼結して焼結体を得ることを特徴とする硫化スズ焼結体の製造方法。
A)600℃〜830℃の温度で、常圧下、不活性ガス雰囲気中で加熱・保持する常圧焼結法。
B)580℃〜800℃の温度で、15kg重/cm
2以上175kg重/cm
2以下の加圧圧力で不活性ガス雰囲気中で加熱・保持するホットプレス法。
【0029】
(5) (1)から(3)のいずれかに記載の硫化スズ焼結体をターゲットとして、直流電源を用いるDCスパッタリング法で製膜する工程を備えることを特徴とするCZTS膜の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明の硫化スズ焼結体によれば、比抵抗を0.01Ω・cm〜100Ω・cmにすることができ、この焼結体をスパッタリングターゲットとして使用すれば直流スパッタリングが可能となる。
【0031】
また、本発明の硫化スズ焼結体の製造方法によれば、低比抵抗で、品質の安定し、安全性も向上した硫化スズ焼結体を製造できる。
【0032】
更に、本発明のCZTS膜の製造方法によれば、硫化スズ焼結体をターゲットにして使用した場合であっても、直流スパッタリングが使用可能となるので低コストで製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】一般的なスパッタリング工程を示す模式図である。
【
図2】導電性粒子とSnS粒子の混合焼結体における導電パスを示す模式図である。
【
図3】焼結前の単なる混合状態a)と、SnS粒子表面で反応し共晶液体が粒子を覆った状態b)を示す模式図である。
【
図4】スパッタリング用のターゲットの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に本発明を詳細に説明する。一般に、硫化銅(Cu
2S)は低抵抗化しやすいことが知られている。Cu
2SとSnSを混合し、焼結することで低抵抗な焼結体が得られる可能性がある。また、Cu
2SとSnSは共晶反応を起こして490℃以上で液相が発生する。そのため490℃以上で液相線温度以下では共晶組成(Cu
2S:55mol%、SnS:45mol%)よりSnS過剰の組成領域ではSnSとSnS−Cu
2S共晶の液相が共存する。
【0035】
発明者らは、SnSに添加するCu
2Sの量を振り、各種温度で焼結することを詳細に検討した結果、特定量のCu
2Sを添加したSnS焼結体において、抵抗が低くなる焼結体が得られることを見出した。これは
図3に示したようにSnSに添加したCu
2Sとを混合した混合状態a)が、その後加熱し焼結する処理を施す過程で、SnS粒子表面で反応して共晶液相を生じ、SnS粒子表面をこの共晶液体が覆い、SnS粒子表面に低抵抗の層が生成し、それが焼結により連結することにより導電パスが繋がって抵抗が低くなる状態b)が形成されると推定される。また液相からCuがSnS粒子に拡散するためSnS粒子表面はp型の低抵抗層になっていると推定される。
【0036】
Cu
2Sの添加量により液相発生量が変化するが、液相の量が多くなるととSnS粒子とから液相が分離して液相が焼結体の下部または焼結体の外部へ流出することが考えられる。すなわち、液相の流出によりSnS焼結体の密度が低くなってターゲット材として利用できなくなる。そのためCuの濃度は、質量%で0.1%以上10%以下の範囲内、好ましくは0.2%以上3%以下とすることが重要である。Cuの濃度は、質量%で0.1%未満では焼結体が低抵抗にならないため好ましくない。また、Cuの濃度は、質量%で10%を越えると、液相の量が多くなり、溶融物が分離してしまい、緻密な焼結体が得られないため好ましくない。
【0037】
次に、本発明の硫化スズ焼結体の製造方法について、具体的に工程順に説明する。まず、原料粉末としてSnS粉末とCu
2S粉末を、Cuの濃度が質量%で0.1%以上10%以下の範囲内となるように秤量し、混合する。混合は乳鉢、Vブレンダーや湿式ボールミルなど公知の方法で行うことができる。
【0038】
次に、上記で得られたSnS粉末とCu
2S粉末の混合粉末を焼結させるが、焼結法としてはA)常圧焼結法や、B)ホットプレス(HP)法を用いることができる。
【0039】
A)常圧焼結法では、まず得られた混合粉末を金型に入れてプレス成型する。または冷間等方プレス(CIP)で成型して成型体を作製する。その成型体を600℃以上、さらに好ましくは640℃以上、上限は830℃以下、さらに好ましくは750℃以下に加熱・保持して焼結させる。600℃より低い温度では焼結しにくく相対密度が低くなるため好ましくなく、830℃を超えると硫黄の解離が激しく起きるため好ましくない。焼結はSnSが硫化物であり高温では硫黄が解離するため、Arや窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中で行うことが望ましい。
【0040】
B)加圧焼結法であるホットプレス(HP)法では、得られた混合粉末をグラファイト製の型に詰めてホットプレス装置に入れて加圧しながら焼結させる。焼結温度は580℃以上、より好ましくは630℃以上、上限は800℃以下、より好ましくは730℃以下である。580℃以下では焼結しにくく相対密度が低くなるため好ましくなく、800℃を超えると焼結体中の溶融物が多くなり、溶融物が型から押し出されるため好ましくない。
【0041】
加圧する圧力は15kg重/cm
2以上より好ましくは50kg重/cm
2以上、上限は175kg重/cm
2以下好ましくは140kg重/cm
2以下である。15kg重/cm
2未満では焼結が進行しない。また175kg重/cm
2を超えると液相が押し出されてSnS粒子上に低抵抗層が形成されないので好ましくない。
【0042】
加圧パターンは型に原料を詰めた後に加圧して型の混合粉末を圧縮し、そのあと圧力を抜いて500℃程度まで加熱して、SnSとCu
2Sを反応させて液相が生じた後に加圧して焼結を進行させてもよい。
【0043】
グラファイト製の型には焼結体の貼り付きを防止するため離型材を塗布しても良い。離型材としてはBNやAl
2O
3などが用いられる。
【0044】
焼結はSnSが硫化物であり高温では硫黄が解離するため、Arや窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中で行うことが望ましい。また、室温から550℃程度まで真空中で加熱し水分などの吸着物質を除去し、そのあと不活性ガスで充填しても良い。
【実施例】
【0045】
<実施例1>
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
〔SnCuS焼結体の作製〕
まず、出発原料のSnS粉末(日本化学製)を12gに対して、添加するCu
2S粉末(高純度化学製)を0.25g加えて乳鉢で混合し、同様の操作を4回行って混合粉末49gを作製した。混合粉末中のCuの濃度は、質量%で1.6%とした。
【0046】
得られた混合粉末をホットプレス(HP)法にて焼結させた。内径50mmφのグラファイト製の型に入れてホットプレス(大亜真空製)に入れて、面圧75kg重/cm
2で加圧した。グラファイト製の型にはBNスプレー(ルービBN昭和電工製)でBNを塗布し、乾燥させた。その後面圧を0にして炉内を2×10
−3Paまで真空に引いて10℃/分の昇温速度で660℃まで加熱した。550℃で面圧を75kg重/cm
2で加圧し、600℃でN
2ガスを流し大気圧まで加圧した。保持温度の660℃に達した後、2時間保持し、保持終了と同時に面圧を0にして冷却した。冷却後に、装置内部を確認すると、型の外部に押し出された溶融物が若干付着していた。焼結体の表面に付着しているBN粉末をサンドペーパーで削り落とした。焼結体の重量と外形寸法を測定し密度を測定した。また表面の電気抵抗(表面抵抗率Ω/□)を4端針表面抵抗率計(三菱化学製Loresta IP MCP−T250)で測定し、試料の厚みをかけて体積抵抗率(Ω・cm)に換算した。得られた密度と比抵抗を表1に示す。また焼結体を蛍光X線装置で分析してCuの濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
<実施例2>
HPの660℃の保持時間を1時間とした以外は、実施例1と同様の方法で焼結体を作製し、密度と電気抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
<実施例3>
HPの保持温度を680℃とした以外は、実施例2と同様の方法で焼結体を作製し、密度と電気抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
<実施例4>
HPの保持温度を700℃とした以外は、実施例2と同様の方法で焼結体を作製し、密度と電気抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
<実施例5>
SnS粉末を12.5gに対して、Cu
2S粉末を0.125g加えて乳鉢で混合し、同様の操作を4回行って混合粉末50.5gを作製した。混合粉末中のCuの濃度は、質量%で0.8%とした以外は、実施例4と同様の方法で焼結体を作製し、密度と電気抵抗を測定した。結果を表1に示す。
<実施例6>
SnS粉末を12gに対して、Cu
2S粉末を0.5g加えて乳鉢で混合し、同様の操作を4回行って混合粉末50gを作製した。混合粉末中のCuの濃度は、質量%で3.2%とし、HPの保持温度を620℃とした以外は、実施例4と同様の方法で焼結体を作製し、密度と電気抵抗を測定した。結果を表1に示す。
<実施例7>
SnS粉末を12gに対して、Cu
2S粉末を0.5g加えて乳鉢で混合し、同様の操作を4回行って混合粉末50gを作製した。混合粉末中のCuの濃度は、質量%で3.2%とし、HPの保持温度を640℃とした以外は、実施例4と同様の方法で焼結体を作製し、密度と電気抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
<比較例1>
Cu
2S粉末17.3gとSnS粉末32.7gを乳鉢で混合した。混合粉末のCuの濃度を、質量%で28.6%とした。すなわち、組成はSnS66.7モル%である。この混合粉末を用いて保持温度を700℃とした以外は、実施例1と同様の方法で焼結体を作製した。焼結体の重量は16.58gしかなく、33.42gが溶融して押し出されていた。焼結体の表面に多数の穴があったため寸法と表面抵抗の測定ができなかった。
【0052】
<比較例2>
HP時の面圧を10kg重/cm
2で加圧した以外は、実施例1と同様の方法で焼結体を作製し、密度と電気抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
<比較例3>
HP時の面圧を300kg重/cm
2で加圧した以外は、実施例1と同様の方法で焼結体を作製し、密度と電気抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
<比較例4>
HP時の保持温度を820℃とし、Cu濃度を質量%で3.2%とした以外は、実施例1と同様の方法で焼結体を作製し、密度と電気抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
<比較例5>
HP時の保持温度を550℃とし、Cu濃度を質量%で3.2%とした以外は、実施例1と同様の方法で焼結体を作製し、密度と電気抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
<比較例6>
SnS単独での焼結体の作製
出発原料にSnS粉末だけを用いて、保持温度を680℃で4時間保持した以外は、実施例1と同様の方法で焼結体を作製し、密度と電気抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
[性能の評価]
直流(DC)スパッタリングが可能な低抵抗の組成系について、実際にスパッタリング装置にて放電試験を行った。
【0058】
[スパッタリング方法]
図4に示すように、Cuのバッキングプレートに、In系のボンディング層を介して焼結体を貼りつけてターゲットを作製した。ターゲットをマグネトロンRFスパッタリング装置(アネルバ製SPF210H
)に取り付けて、成膜を行った。ロータリーポンプで2Paまで引いた後、さらにクライオポンプで8×10
−4Paまで真空に引いた。その後、Arガスを入れてスパッタリング圧力0.2〜1.5Paとし、DC電源はアドバンスエナジー社製のMDXを使用して100Wで放電させた。
【0059】
実施例1から7のターゲットはArガス圧、ターゲット・基板間の距離(T/S間距離)を変化させると、安定に放電する領域があり、現実に直流スパッタリング可能であった。
【0060】
比較例2、3、5、6はArガス圧、ターゲット・基板間の距離を変えるとDC放電するが、放電が部分的で不安定で短い時間で放電が消えた。これは抵抗の高い部分が帯電して火花放電のような異常放電現象が発生して放電が不安定になったものである。さらにターゲットの表面電位が高くなると、Arイオンがターゲットに当たらなくなるため放電がストップしたものと思われる。
【0061】
以上のように、本発明の実施例1〜7では、ターゲットの密度も高い密度で安定しており、比抵抗は低いため、直流スパッタリングが可能であった。
【0062】
【表1】