特許第5949695号(P5949695)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5949695流動性に優れたポリイミドパウダー組成物及びその成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5949695
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】流動性に優れたポリイミドパウダー組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20160630BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20160630BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20160630BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   C08J3/12 ZCFG
   C01B33/18 C
   C08L79/08 Z
   C08K9/06
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-163116(P2013-163116)
(22)【出願日】2013年8月6日
(65)【公開番号】特開2015-30826(P2015-30826A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2015年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】松村 和之
(72)【発明者】
【氏名】坂詰 功晃
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−273757(JP,A)
【文献】 特開2013−119565(JP,A)
【文献】 特開昭64−054065(JP,A)
【文献】 特開2002−103363(JP,A)
【文献】 特開平11−302380(JP,A)
【文献】 特開2002−128892(JP,A)
【文献】 特開2002−128893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28;99/00
C08J 5/00−5/02;5/12−5/22
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
C01B 33/00−33/193
B29C 43/00−43/58
B29C 41/18
B29C 67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A1)4官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合生成物又はこれらの混合物を、加水分解及び縮合することによって実質的にSiO単位からなる親水性球状シリカ微粒子を得る工程と、
(A2)該親水性球状シリカ微粒子の表面に、RSiO3/2単位(式中、Rは置換又は非置換の炭素原子数1〜20の1価炭化水素基である)を導入する工程と、
(A3)RSiO1/2単位(式中、各Rは同一又は異なり、置換又は非置換の炭素原子数1〜6の1価炭化水素基である)を導入する工程
とを含む方法により、
粒子径が0.005〜1.00μmの範囲で、粒度分布D90/D10の値が3以下であり、かつ平均円形度が0.8〜1である疎水性球状シリカ微粒子(1)を製造し、該疎水性球状シリカ微粒子(1)をポリイミドパウダーの表面に、該ポリイミドパウダーの質量の少なくとも0.01質量%の量で付着させることを特徴とするポリイミドパウダーの製造方法。
【請求項2】
前記疎水性球状シリカ微粒子(1)の製造方法が、
(A1)一般式(I):
Si(OR (I)
(式中、各Rは同一又は異種の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基である)
で示される4官能性シラン化合物、その部分加水分解生成物又はこれらの混合物を、塩基性物質の存在下、親水性有機溶媒と水の混合液中で加水分解及び縮合することによって実質的にSiO単位からなる親水性球状シリカ微粒子の混合溶媒分散液を得、
(A2)得られた該親水性球状シリカ微粒子の混合溶媒分散液に、一般式(II):
Si(OR (II)
(式中、Rは置換又は非置換の炭素原子数1〜20の一価炭化水素基であり、各R4は同一又は異種の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基である)
で示される3官能性シラン化合物、その部分加水分解生成物又はこれらの混合物を添加して該親水性球状シリカ微粒子の表面を処理することにより、該親水性球状シリカ微粒子の表面にRSiO3/2単位(Rは前記の通りである)を導入して第一の疎水性球状シリカ微粒子の混合溶媒分散液を得、
(A3)得られた該第一の疎水性球状シリカ微粒子の混合溶媒分散液に、一般式(III):
SiNHSiR (III)
(式中、各Rは同一又は異種の置換又は非置換の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基である)
で示されるシラザン化合物、一般式(IV):
SiX (IV)
(式中、Rは一般式(III)で定義した通りであり、XはOH基又は加水分解性基である)で示される1官能性シラン化合物、又はこれらの混合物を添加して、前記第一の疎水性球状シリカ微粒子の表面をこれにより処理して、該第一の疎水性球状シリカ微粒子の表面にRSiO1/2単位(Rは一般式(III)で定義した通りである)を導入することにより第二の疎水性シリカ微粒子を得る方法である、請求項1記載のポリイミドパウダーの製造方法
【請求項3】
前記ポリイミドパウダーに前記疎水性球状シリカ微粒子(1)をポリイミドパウダーの0.01〜5.0質量%で添加し、混合することにより、該ポリイミドパウダー表面に該疎水性球状シリカ微粒子(1)を付着させことを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリイミドパウダーの製造方法
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載のポリイミドパウダーの製造方法により、ポリイミドパウダーを得、得られたポリイミドパウダーを加圧加熱成型することを特徴とする、ポリイミドパウダー成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドパウダー組成物に関し、更に詳しくは、ポリイミドパウダーに高度の流動性及び高充填性を付与した、ポリイミドパウダー組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリイミドパウダーは、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを溶媒中で反応させて製造されている。例えば、特許文献1にはポリイミドパウダーなどの含窒素耐熱性重合体粒子の析出方法が記載され、特許文献2、3などに、N−メチル−2−ピロリドン中で3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを155℃以下の温度で重合・イミド化させた後160〜300℃に短時間で昇温してイミド化を完了させてイミド化率が95%以上の芳香族ポリイミドパウダーを微細な粒子として析出させ、反応混合物からポリイミドポリマーを濾集することによって、平均粒径が3〜20μのポリイミドパウダーを製造することが記載されている。
【0003】
しかし、上記の公知文献に記載されているポリイミドパウダーは、バッチ式の粉末成形機で成形する場合に特に問題なく粉末成形体を得ることができるが、連続式の粉末成形機、例えば打錠成形機やラム成形機などで連続成形する場合には金型内に充填する際に均一に充填することが困難な場合があるという問題があった。
【0004】
特許文献4では連続成形のための金型への均一充填が容易であるポリイミドパウダーを提供するために、一旦ポリイミドパウダーを粉体として取り出した後、再度ポリエチレングリコールを添加してスラリーにしてから、スプレードライヤーなどで乾燥するという造粒工程により流動性のよいポリイミドパウダーができると開示しているが、工程が煩雑になる上、コストも掛かかり好ましい方法とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−25228号公報
【特許文献2】特開昭57−200452号公報(特公平2−48571号公報)
【特許文献3】特開昭57−200453号公報
【特許文献4】特開2002−69200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、良好な流動性・高充填性等を有するポリイミドパウダー組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記ポリイミドパウダー組成物が上記課題を解決することを見出し本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の通りである。
【0008】
<1> ポリイミドパウダーの表面に、該ポリイミドパウダーの質量の少なくとも0.01質量%の量のシリカ微粒子が付着した粉末であって、
該シリカ微粒子が、
(A1)4官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合生成物又はこれらの混合物を、加水分解及び縮合することによって実質的にSiO2単位からなる親水性球状シリカ微粒子を得る工程と、
(A2)該親水性球状シリカ微粒子の表面に、R1SiO3/2単位(式中、R1は置換又は非置換の炭素原子数1〜20の1価炭化水素基である)を導入する工程と、
(A3)R23SiO1/2単位(式中、各R2は同一又は異なり、置換又は非置換の炭素原子数1〜6の1価炭化水素基である)を導入する工程
とを含む方法により製造され、
粒子径が0.005〜1.00μmの範囲で、粒度分布D90/D10の値が3以下であり、かつ平均円形度が0.8〜1である疎水性球状シリカ微粒子(1)であることを特徴とするポリイミドパウダー組成物。
【0009】
<2> 前記疎水性球状シリカ微粒子(1)が、
(A1)一般式(I):
Si(OR34 (I)
(式中、各R3は同一又は異種の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基である)
で示される4官能性シラン化合物、その部分加水分解生成物又はこれらの混合物を、塩基性物質の存在下、親水性有機溶媒と水の混合液中で加水分解及び縮合することによって実質的にSiO2単位からなる親水性球状シリカ微粒子の混合溶媒分散液を得、
(A2)得られた該親水性球状シリカ微粒子の混合溶媒分散液に、一般式(II):
1Si(OR43 (II)
(式中、R1は置換又は非置換の炭素原子数1〜20の一価炭化水素基であり、各R4は同一又は異種の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基である)
で示される3官能性シラン化合物、その部分加水分解生成物又はこれらの混合物を添加して該親水性球状シリカ微粒子の表面を処理することにより、該親水性球状シリカ微粒子の表面にR1SiO3/2単位(R1は前記の通りである)を導入して第一の疎水性球状シリカ微粒子の混合溶媒分散液を得、
(A3)得られた該第一の疎水性球状シリカ微粒子の混合溶媒分散液に、一般式(III):
23SiNHSiR23 (III)
(式中、各R2は同一又は異種の置換又は非置換の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基である)
で示されるシラザン化合物、一般式(IV):
23SiX (IV)
(式中、R2は一般式(III)で定義した通りであり、XはOH基又は加水分解性基である)で示される1官能性シラン化合物、又はこれらの混合物を添加して、前記第一の疎水性球状シリカ微粒子の表面をこれにより処理して、該第一の疎水性球状シリカ微粒子の表面にR23SiO1/2単位(R2は一般式(III)で定義した通りである)を導入することにより第二の疎水性シリカ微粒子として得られる疎水性球状シリカ微粒子である、<1>記載のポリイミドパウダー組成物。
【0010】
<3> 前記ポリイミドパウダーに前記疎水性球状シリカ微粒子(1)をポリイミドパウダーの0.01〜5.0質量%で添加し、混合することにより、該ポリイミドパウダー表面に該疎水性球状シリカ微粒子(1)を付着させたことを特徴とする、<1>又は<2>に記載のポリイミドパウダー組成物。
【0011】
<4> <1>〜<3>の何れか1項記載のポリイミドパウダー組成物を加圧加熱成型した成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリイミドパウダー組成物は、良好な流動性、高い充填特性、及び安定性を備えるため、成形性が良好であり、焼結成形物の物性低下を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例2の、球状疎水性シリカ微粒子をポリイミドパウダー表面に付着させたポリイミドパウダー組成物の電子顕微鏡写真を示す。
図2】実施例4の、球状疎水性シリカ微粒子をポリイミドパウダー表面に付着させたポリイミドパウダー組成物の電子顕微鏡写真を示す。
図3】比較例5の、球状疎水性シリカ微粒子をポリイミドパウダーに添加しない未処理のポリイミドパウダーの電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
<ポリイミドパウダー成分>
ポリイミドパウダーは、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを、15〜100重量%がアミド系溶媒と85〜0重量%が沸点180℃以上の非アミド系溶媒と0.5〜5重量%の水を含有する反応溶媒中に加えて、溶液中の全モノマ−の割合が2〜25重量%となるように不活性ガス存在下、全還流の条件下140℃以上180℃以下程度の温度で反応させて微細粒子を析出させた後、180〜220℃程度の範囲内の温度にて反応を0.2〜20時間継続して、対数粘度(30℃、0.5g/100ml濃硫酸)が0.2〜3程度であり、イミド化率が95%以上であり、平均粒径が1〜25μm程度、特に3〜20μmで凝集物の少ない粉末として取得することが好ましい。
【0015】
前記芳香族テトラカルボン酸成分二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物などが挙げられる。これらの一部、好ましくは50モル%以下、特に20モル%以下を他の芳香族テトラカルボン酸二無水物、例えば3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物や、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパンの二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタンの二無水物、(3,4−ジカルボキシフェニル)エ−テルの二無水物で置き変えてもよい。
【0016】
前記芳香族ジアミンとしては、特に制限はないが、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエ−テルが好適に使用される。その一部、好適には50モル%以下、特に20モル%以下を他の芳香族ジアミンで置き換えてもよい。他の芳香族ジアミンとしては、特に制限はないが、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、メタフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、1,4−ビス(4−アミノ−フェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−フェノキシ)ベンゼンなどを挙げることができる。
【0017】
好適には3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、その酸エステル又はその酸二無水物及び2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、その酸エステル又はその酸二無水物とp−フェニレンジアミンとを、特に2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類を全テトラカルボン酸成分に対して約3モル%以上15モル%以下の割合で含む芳香族テトラカルボン酸成分とp−フェニレンジアミンとを、重合、イミド化して得られるポリイミドパウダーが挙げられる。このポリイミドパウダーは、ガラス転移温度(Tg)が室温〜400℃の温度範囲では観測されない高耐熱性の結晶性芳香族ポリイミドから主としてなる固形分の少なくとも一部、特にほぼ全面をアモルファスポリイミドの薄層で覆った構造を有しているものが好ましい。このポリイミドパウダーによれば、成形の際に粉末粒子表面のポリマ−軟化が充分で、かつ相互に結合するため、耐熱性と機械的強度、伸びが高度にバランスした成形品が得られる。
【0018】
前記微細粒子の析出段階に先立って、100℃以上180℃未満に反応溶液の温度を調節後、イミド化触媒、例えばイミダゾ−ル系イミド化触媒を反応系に添加し前記の加熱条件でイミド化することによって、イミド化速度を調節することにより、生成ポリイミドパウダーの粒度及び粒度分布を調節することもできる。前記のアミド系溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタムが挙げられ、特にN−メチル−2−ピロリドンが好適に使用される。
【0019】
前記のイミド化反応終了後、ポリイミドパウダーを取得する方法としては特に制限はなく、例えば、反応混合物をそのままあるいは室温まで冷却した後、芳香族ポリイミド粉末を濾別し、その粉末を溶媒で洗浄し、乾燥する方法が採用できる。この洗浄用の溶媒としては、反応溶媒と置換しうる低沸点溶媒であれば特に制限はなく、例えば、水、メタノ−ル、エタノ−ルやイソプロパノ−ル(IPA)などのアルコ−ル類が好適な溶媒として挙げられる。また、乾燥は250℃以下の常圧、減圧のいずれでもよいが、200℃以下の減圧乾燥が好ましい。乾燥後の粉末は350℃で1時間加熱による重量減少率が1%以下、特に0.5%以下となる乾燥状態とすることが好ましい。
【0020】
<疎水性球状シリカ微粒子>
ポリイミドパウダーの表面に付着せしめる疎水性球状シリカ微粒子について、詳細に説明する。
本発明で使用される疎水性球状シリカ微粒子は、
(A1)4官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合生成物又はこれらの混合物を、加水分解及び縮合することによって実質的にSiO2単位からなる親水性球状シリカ微粒子を得る工程と、
(A2)該親水性球状シリカ微粒子の表面に、R1SiO3/2単位(式中、R1は置換又は非置換の炭素原子数1〜20の1価炭化水素基である)を導入する工程と、
(A3)R23SiO1/2単位(式中、各R2は同一又は異なり、置換又は非置換の炭素原子数1〜6の1価炭化水素基である)を導入する工程
とを含む方法により製造され、
粒子径が0.005〜1.00μmの範囲で、粒度分布D90/D10の値が3以下であり、かつ平均円形度が0.8〜1である疎水性球状シリカ微粒子(1)である。
【0021】
上記疎水性球状シリカ微粒子は粒子径が0.005〜1.00μmであり、好ましくは0.01〜0.30μm、特に好ましくは0.03〜0.20μmである。この粒子径が0.005μmよりも小さいと、ポリイミドパウダーの凝集が激しく、該ポリイミドパウダーをうまく取り出せない場合がある。また1.00μmよりも大きいと、ポリイミドパウダーに良好な流動性や充填性を付与できない場合があり、好ましくない。
【0022】
上記疎水性球状シリカ微粒子の粒度分布の指標であるD90/D10の値は、3以下である。ここで、D10及びD90はそれぞれ、粒子径の分布を測定することによって得られる値である。粉体の粒子径の分布を測定した場合に、小さい側から累積10%となる粒子径をD10、小さい側から累積90%となる粒子径をD90という。このD90/D10が3以下であることから、本発明における疎水性球状シリカ微粒子の粒度分布はシャープであることを特徴とする。このように粒度分布がシャープな粒子であると、ポリイミドパウダーの流動性を制御することが容易になる点で好ましい。上記D90/D10は、2.9以下であることがより好ましい。
なお、本発明において、微粒子の粒度分布は、動的光散乱法/レーザードップラー法ナノトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製、商品名:UPA−EX150)により測定し、その体積基準メジアン径を粒子径とした。なお、メジアン径とは粒度分布を累積分布として表した時の累積50%に相当する粒子径である。
【0023】
また上記疎水性球状シリカ微粒子の平均円形度は0.8〜1が好ましく、0.92〜1がより好ましい。ここで「球状」とは、真球だけでなく、若干歪んだ球も含む。このような「球状」の形状とは、粒子を二次元に投影した時の円形度で評価し、円形度が0.8〜1の範囲にあるものを云う。ここで円形度とは、(粒子面積と等しい円の周囲長)/(粒子周囲長)である。この円形度は電子顕微鏡等で得られる粒子像を画像解析することにより測定することができる。平均円形度は、電子顕微鏡により観察し、1次粒子100個を測定して、平均することにより得ることができる。
【0024】
本発明において、親水性球状シリカ微粒子が「実質的にSiO2単位からなる」とは、該微粒子は基本的にはSiO2単位から構成されているが該単位のみから構成されている訳ではなく、少なくとも表面に通常知られているようにシラノール基を多数個有することを意味する。また、場合によっては、原料である4官能性シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合生成物に由来する加水分解性基(ヒドロカルビルオキシ基)が一部シラノール基に転化されずに若干量そのまま微粒子表面や内部に残存していてもよいことを意味する。
【0025】
以上のように、本発明においては、テトラアルコキシシラン等の加水分解によって得られる小粒径ゾルゲル法シリカをシリカ原体(疎水化処理前のシリカ)として、これに特定の表面処理を行なうことにより、粉体として得たときに疎水化処理後の粒子径がシリカ原体の一次粒子径を維持しており、凝集しておらず、小粒径であり、ポリイミドパウダーに良好な流動性を付与できる疎水性シリカ微粒子が得られる。
【0026】
小粒径のシリカ原体は、アルコキシ基の炭素原子数が小さいテトラアルコキシシランを用いること、溶媒として炭素原子数の小さいアルコールを用いること、加水分解温度を高めること、テトラアルコキシシランの加水分解時の濃度を低くすること、加水分解触媒の濃度を低くすることなど、反応条件を変更することにより、得ることができる。
【0027】
この小粒径のシリカ原体に、前述の通り、そして更に詳しく以下に述べるように、特定の表面処理を行なうことにより、所望の疎水性シリカ微粒子が得られる。
【0028】
次に、上記疎水性球状シリカ微粒子の製造方法の一つについて、以下に詳細に説明する。
【0029】
<疎水性球状シリカ微粒子(1)の製造方法>
本発明の疎水性球状シリカ微粒子は、
工程(A1):親水性球状シリカ微粒子の合成工程、
工程(A2):3官能性シラン化合物による表面処理工程、
工程(A3):1官能性シラン化合物による表面処理工程
によって得られが、以下、各工程をより具体的に説明する。
【0030】
・工程(A1):親水性球状シリカ微粒子の合成工程
一般式(I):
Si(OR34 (I)
(式中、各R3は同一又は異種の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基である)
で示される4官能性シラン化合物、その部分加水分解生成物、又はこれらの混合物を、塩基性物質を含む親水性有機溶媒と水の混合液中で加水分解及び縮合することによって、親水性球状シリカ微粒子の混合溶媒分散液が得られる。
【0031】
上記一般式(I)中、R3は、炭素原子数1〜6の一価炭化水素基であるが、好ましくは炭素原子数1〜4、特に好ましくは1〜2の1価炭化水素基である。R3で表される1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基のようなアルキル基;フェニル基のようなアリール基が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基、特に好ましくはメチル基又はエチル基が挙げられる。
【0032】
上記一般式(I)で示される4官能性シラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン;及びテトラフェノキシシランが挙げられ、好ましくは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン及びテトラブトキシシラン、特に好ましくは、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランが挙げられる。また、一般式(I)で示される4官能性シラン化合物の部分加水分解縮合生成物としては、例えば、メチルシリケート、エチルシリケート等のアルキルシリケートが挙げられる。
【0033】
前記親水性有機溶媒としては、一般式(I)で示される4官能性シラン化合物と、この部分加水分解縮合生成物と、水とを溶解するものであれば特に制限されず、例えば、アルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸セロソルブ等のセロソルブ類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等が挙げられ、好ましくは、アルコール類、セロソルブ類であり、特に好ましくはアルコール類が挙げられる。該アルコール類としては、一般式(V):
5OH (V)
[式中、R5は炭素原子数1〜6の1価炭化水素基である]で示されるアルコールが挙げられる。
【0034】
上記一般式(V)中、R5は、好ましくは炭素原子数1〜4、特に好ましくは1〜2の1価炭化水素基である。R5で表される1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基及びイソプロピル基、より好ましくはメチル基及びエチル基が挙げられる。一般式(V)で示されるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられ、好ましくはメタノール、エタノールが挙げられる。アルコールの炭素原子数が増えると、生成する球状シリカ微粒子の粒子径が大きくなる。従って、目的とする小粒径のシリカ微粒子を得るためには、メタノールが好ましい。
【0035】
また、上記塩基性物質としてはアンモニア、ジメチルアミン、ジエチルアミン等、好ましくは、アンモニア、ジエチルアミン、特に好ましくはアンモニアが挙げられる。これらの塩基性物質は、所要量を水に溶解した後、得られた水溶液(塩基性)を前記親水性有機溶媒と混合すればよい。
該塩基性物質の使用量は、一般式(I)で示される4官能性シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合生成物のヒドロカルビルオキシ基の合計1モルに対して0.01〜2モルであることが好ましく、0.02〜0.5モルであることがより好ましく、0.04〜0.12モルであることが特に好ましい。このとき、塩基性物質の量が少ないほど小粒径のシリカ微粒子が得られる。
【0036】
上記加水分解及び縮合で使用される水の量は、一般式(I)で示される4官能性シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合生成物のヒドロカルビルオキシ基の合計1モルに対して0.5〜5モルであることが好ましく、0.6〜2モルであることがより好ましく、0.7〜1モルであることが特に好ましい。水に対する上記親水性有機溶媒の比率(親水性有機溶媒:水)は、質量比で0.5〜10であることが好ましく、3〜9であることがより好ましく、5〜8であることが特に好ましい。親水性有機溶媒の量が多いほど小粒径のシリカ微粒子が得られる。
【0037】
一般式(I)で示される4官能性シラン化合物等の加水分解及び縮合は、周知の方法、即ち、塩基性物質を含む親水性有機溶媒と水との混合物中に、一般式(I)で示される4官能性シラン化合物等を添加することにより行われる。
【0038】
この工程(A1)で得られる親水性球状シリカ微粒子の混合溶媒分散液中のシリカ微粒子の濃度は一般に、3〜15質量%であり、好ましくは5〜10質量%である。
【0039】
・工程(A2):3官能性シラン化合物による表面処理工程
工程(A1)において得られた親水性球状シリカ微粒子の混合溶媒分散液に、一般式(II):
1Si(OR43 (II)
(式中、R1は置換又は非置換の炭素原子数1〜20の一価炭化水素基、各R4は同一又は異種の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基である)で示される3官能性シラン化合物、又はその部分加水分解生成物、又はこれらの混合物を添加して、該親水性球状シリカ微粒子の表面をこれにより処理することにより、前記親水性球状シリカ微粒子の表面にR1SiO3/2単位(R1は前記の通り)を導入して、第一の疎水性球状シリカ微粒子の混合溶媒分散液を得る。
【0040】
本工程(A2)は、次の工程である濃縮工程においてシリカ微粒子の凝集を抑制するために不可欠である。凝集を抑制できないと、得られるシリカ系粉体の個々の粒子は一次粒子径を維持できないため、流動性付与能が悪くなる。
【0041】
上記一般式(II)中、R1は、好ましくは炭素原子数1〜3、特に好ましくは1〜2の1価炭化水素基である。R1で表される1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基等のアルキル基、好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基又はイソプロピル基、特に好ましくは、メチル基又はエチル基が挙げられる。また、これらの1価炭化水素基の水素原子の一部又は全部が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、好ましくはフッ素原子で置換されていてもよい。
【0042】
上記一般式(II)中、R4は、好ましくは炭素原子数1〜3、特に好ましくは1〜2の1価炭化水素基である。R4で表される1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、好ましくは、メチル基、エチル基又はプロピル基、特に好ましくは、メチル基又はエチル基が挙げられる。
【0043】
一般式(II)で示される3官能性シラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン等の非置換若しくはハロゲン置換のトリアルコキシシラン等、好ましくは、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン及びエチルトリエトキシシラン、より好ましくは、メチルトリメトキシシラン及びメチルトリエトキシシラン、又は、これらの部分加水分解縮合生成物が挙げられる。
【0044】
一般式(II)で示される3官能性シラン化合物の添加量は、使用された親水性球状シリカ微粒子のSi原子1モル当り0.001〜1モル、好ましくは0.01〜0.1モル、特に好ましくは0.01〜0.05モルである。添加量が0.01モルより少ないと、得られる疎水性球状シリカ微粒子の分散性が悪くなるため、ポリイミドパウダーへの流動性化付与効果が現れず、1モルより多いとシリカ微粒子の凝集が生じ得る。
【0045】
この工程(A2)で得られる第一の疎水性球状シリカ微粒子の混合溶媒分散液中の該シリカ微粒子の濃度は通常3質量%以上15質量%未満、好ましくは5〜10質量%である。かかる濃度が低すぎると生産性が低下することがあり、高すぎるとシリカ微粒子の凝集が生じてしまうことがある。
【0046】
・濃縮工程
このようにして得られた第一の疎水性球状シリカ微粒子の混合溶媒分散液から前記親水性有機溶媒と水の一部を除去し、濃縮することにより、第一の疎水性球状シリカ微粒子の混合溶媒濃縮分散液とすることが好ましい。この際、疎水性有機溶媒をあらかじめ(濃縮工程前)、或いは濃縮工程中に加えてもよい。この際、使用する疎水性溶媒としては、炭化水素系又はケトン系溶媒が好ましい。具体的には該溶媒として、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、メチルイソブチルケトンが好ましい。前記親水性有機溶媒と水の一部を除去する方法としては、例えば留去、減圧留去などが挙げられる。得られる濃縮分散液はシリカ微粒子濃度が15〜40質量%であるものが好ましく、20〜35質量%であるものがより好ましく、25〜30質量%であるものが特に好ましい。15質量%より少ないと後工程の表面処理が円滑に進まないことがあり、40質量%より大きいとシリカ微粒子の凝集が生じてしまうことがある。
【0047】
濃縮工程は、次の工程(A3)において表面処理剤として使用される一般式(III)で表されるシラザン化合物及び一般式(IV)で表される一官能性シラン化合物がアルコールや水と反応して表面処理が不十分となり、その後に乾燥を行った時に凝集を生じ、得られるシリカ粉体は一次粒子径を維持できず、流動性付与能が悪くなる、といった不具合を抑制するという意義もある。
【0048】
・工程(A3):1官能性シラン化合物による表面処理工程
工程(A2)で得られた第一の疎水性球状シリカ微粒子の混合溶媒分散液に、一般式(III):
23SiNHSiR23 (III)
(式中、各R2は同一又は異種の置換又は非置換の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基である)
で示されるシラザン化合物、又は一般式(IV):
23SiX (IV)
(式中、R2は一般式(III)で定義した通りであり、XはOH基又は加水分解性基である)で示される1官能性シラン化合物又はこれらの混合物を添加し、これにより前記第一の疎水性球状シリカ微粒子の表面を処理し、該微粒子の表面にR23SiO1/2単位(但し、R2は一般式(III)で定義の通り)を導入することにより、第二の疎水性球状シリカ微粒子を得る。この工程の処理により、第一の疎水性球状シリカ微粒子の表面に残存するシラノール基をトリオルガノシリル化する形でR23SiO1/2単位が該表面に導入される。
【0049】
上記一般式(III)及び(IV)中、R2は、好ましくは炭素原子数1〜4、特に好ましくは1〜2の1価炭化水素基である。R2で表される1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基、好ましくは、メチル基、エチル基又はプロピル基、特に好ましくは、メチル基又はエチル基が挙げられる。また、これらの1価炭化水素基の水素原子の一部又は全部が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、好ましくは、フッ素原子、で置換されていてもよい。
【0050】
Xで表される加水分解性基としては、例えば、塩素原子、アルコキシ基、アミノ基、アシルオキシ基が挙げられ、好ましくはアルコキシ基又はアミノ基、特に好ましくはアルコキシ基が挙げられる。
【0051】
一般式(III)で示されるシラザン化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン等、好ましくはヘキサメチルジシラザンが挙げられる。一般式(IV)で示される1官能性シラン化合物としては、例えば、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール等のモノシラノール化合物;トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン等のモノクロロシラン;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のモノアルコキシシラン;トリメチルシリルジメチルアミン、トリメチルシリルジエチルアミン等のモノアミノシラン;トリメチルアセトキシシラン等のモノアシルオキシシランが挙げられ、好ましいものとしては、トリメチルシラノール、トリメチルメトキシシラン又はトリメチルシリルジエチルアミン、特に好ましいものとしては、トリメチルシラノール又はトリメチルメトキシシランが挙げられる。
【0052】
前記シラザン化合物又は/及び官能性シラン化合物の使用量は、使用した親水性球状シリカ微粒子のSi原子1モルに対して0.1〜0.5モル、好ましくは0.2〜0.4モル、特に好ましくは0.25〜0.35モルである。使用量が0.1モルより少ないと、得られる疎水性シリカ微粒子の分散性が悪くなるため、ポリイミドパウダーへの流動性付与効果が現れない。使用量が0.5モルより多いと、経済的に不利である。
【0053】
上記疎水性球状シリカ微粒子は、常圧乾燥、減圧乾燥等の常法によって粉体として得られる。
【0054】
<ポリイミドパウダー組成物>
本発明のポリイミドパウダー組成物は、前記ポリイミドパウダーに前記疎水性球状シリカ微粒子を添加し、該ポリイミドパウダーの表面上に物理吸着させて付着させてなるものである。該ポリイミドパウダーへの該疎水性球状シリカ微粒子の添加量は、該ポリイミドパウダーの0.01〜5.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜4.0質量%、特に0.5〜3.0質量%である。この添加量が0.01質量%より少ないと、ポリイミドパウダーの流動性が変化しない場合があり、好ましくない。またこの添加量が5.0質量%を超えると、コスト的に好ましくない場合がある。本発明のポリイミドパウダーは、通常、前記ポリイミドパウダーと前記疎水性球状シリカ微粒子とから成る粉末であるが、任意に着色剤、カップリング剤のような添加剤を含んでもよい。
【0055】
ポリイミドパウダーに前記の疎水性シリカ微粒子を付着させるには、公知の混合方法によれば良く、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダー、リボンブレンダー、らいかい機、ニーダーミキサー、バタフライミキサー、あるいは通常のプロペラ攪拌子による混合機を用いて、各成分の所定量を均一に混合すればよい。そうすれば簡単に疎水性シリカ微粒子をポリイミドパウダー表面に付着させることができる。
【0056】
ポリイミドパウダー組成物の流動性については、粉体流動性の指標である基本流動性エネルギーの測定により判断した。その基本流動性エネルギーは、粉体流動性分析装置FT−4(シスメックス(株)製)を用いて測定する。この装置の測定原理を説明する。垂直に置かれた筒状容器に粉体を充填し、該粉体中を垂直な軸棒の先端に設けられた二枚の回転翼(ブレード)を回転させながら一定の距離(高さH1からH2まで)下降させる。このときに粉体から受ける力をトルク成分と荷重成分とに分けて測定することにより、該ブレードがH1からH2まで下降するのに伴うそれぞれの仕事量(エネルギー)を求め、次いで両者のトータルエネルギー量を求める。こうして測定されたトータルエネルギー量が小さいほど粉体の流動性が良好であることを意味するので、粉体流動性の指標として使用できる。
【0057】
その基本流動性エネルギーの値が小さければ小さいほど粉体の流動性は良いと判断できるが、この値が1000mJ以下であれば流動性が優れていると判断できる。
特に好ましくは900mJ以下、更に好ましくは800mJ以下である。
【0058】
この値が1000mJ以上になると明らかに流動性の悪化傾向が見られ、粉体の移送性が極端に悪くなったり、成形密度が悪化し、得られる成形体の物性が望ましいものにならない等の悪影響が見られるようになる。
【0059】
本発明のポリイミドパウダー組成物から、それ自体公知の連続成形法、例えば特開昭55−86731号公報や特公平5−66246号公報に記載された装置や連続成形法によって成形して成形体を得ることができる。例えば、連続成形法として、前記ポリイミドパウダー組成物をラム式押出し成形機の金型への充填と、350℃以上、特に約450〜550℃の成形温度下にラムによる100〜1500kgf/cm2 の圧力下、押出し速度200〜2000mm/時間での押出しとを交互に行い、長尺の成形体を得る成形法が挙げられる。
【0060】
また、前記の成形体には、人造ダイヤモンド、シリカ、マイカ、カオリン、窒化ほう素、酸化アルミニウム、酸化鉄、グラファイト、硫化モリブデン、硫化鉄などの無機充填剤、あるいはふっ素樹脂などの有機充填剤などの各種の充填剤を前記のポリイミドパウダーと混合して使用することができる。この充填剤の添加は、内部添加、外部添加のいずれの方法で配合したものでもよい。
【0061】
本発明のポリイミド樹脂粉末を使用した成形体は、優れた耐熱性、機械特性、摺動特性を有する成形体であり、電子・電気産業、自動車産業、宇宙・航空産業などにおいてエンジニアプラスチックとして使用することができ極めて有用である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、下記の実施例は、本発明を何ら制限するものではない。
【0063】
[ポリイミドパウダー製造例]
温度計、攪拌機、窒素導入管及び水分定量器を備えた四ツ口フラスコに、窒素ガスを通しながら、乾燥した2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)と3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)とのモル比a−BPDA/s−BPDA=7/93の割合で、ジアミンとしてp−フェニレンジアミン、重合溶媒としてNMPを使用し、ポリマ−濃度17重量%、温度:195℃、時間:4時間で反応させた。N−メチル−2−ピロリドン溶液中に分散したポリイミドパウダーを濾過によって回収し、更に、これを4.5倍量の熱イオン水で3回洗浄後、200℃で減圧乾燥により、平均粒子径8μmのポリイミドパウダーを得た。
【0064】
[疎水性球状シリカ微粒子の合成]
<合成例1>
・工程(A1):親水性球状シリカ微粒子の合成工程
攪拌機と、滴下ロートと、温度計とを備えた3リットルのガラス製反応器にメタノール989.5gと、水135.5gと、28%アンモニア水66.5gとを入れて混合した。この溶液を35℃となるように調整し、攪拌しながらテトラメトキシシラン436.5g(2.87モル)を6時間かけて滴下した。この滴下が終了した後も、さらに0.5時間攪拌を継続して加水分解を行うことにより、親水性球状シリカ微粒子の懸濁液を得た。
【0065】
・工程(A2):3官能性シラン化合物による表面処理工程
上記工程(A1)で得られた懸濁液に室温でメチルトリメトキシシラン4.4g(0.03モル)を0.5時間かけて滴下し、滴下後も12時間攪拌を継続し、シリカ微粒子表面を疎水化処理することにより、疎水性球状シリカ微粒子の分散液を得た。
【0066】
次いで、ガラス製反応器にエステルアダプターと冷却管とを取り付け、前工程で得られた分散液を60〜70℃に加熱してメタノールと水の混合物1021gを留去し、疎水性球状シリカ微粒子の混合溶媒濃縮分散液を得た。このとき、濃縮分散液中の疎水性球状シリカ微粒子の含有量は28質量%であった。
【0067】
・工程(A3):1官能性シラン化合物による表面処理工程
前工程で得られた濃縮分散液に、室温において、ヘキサメチルジシラザン138.4g(0.86モル)を添加した後、この分散液を50〜60℃に加熱し、9時間反応させることにより、該分散液中のシリカ微粒子をトリメチルシリル化した。次いで、この分散液中の溶媒を130℃、減圧下(6650Pa)で留去することにより、疎水性球状シリカ微粒子(1)186gを得た。
【0068】
工程(A1)で得られた親水性球状シリカ微粒子について、下記の測定方法1に従って測定を行った。また、上記の工程(A1)〜(A3)の各段階を経て得られた疎水性球状シリカ微粒子について、下記の測定方法2〜3に従って測定を行った。得られた結果を表1に示す。
【0069】
[測定方法1〜3]
1.工程(A1)で得られた親水性球状シリカ微粒子の粒子径測定
メタノールにシリカ微粒子懸濁液を、シリカ微粒子が0.5質量%となるように添加し、10分間超音波にかけることにより、該微粒子を分散させた。このように処理した微粒子の粒度分布を、動的光散乱法/レーザードップラー法ナノトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製、商品名:UPA−EX150)により測定し、その体積基準メジアン径を粒子径とした。なお、メジアン径とは粒度分布を累積分布として表した時の累積50%に相当する粒子径である。
【0070】
2.工程(A3)において得られた疎水性球状シリカ微粒子の粒子径測定及び粒度分布D90/D10の測定
メタノールにシリカ微粒子を、0.5質量%となるように添加し、10分間超音波にかけることにより、該微粒子を分散させた。このように処理した微粒子の粒度分布を、動的光散乱法/レーザードップラー法ナノトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製、商品名:UPA−EX150)により測定し、その体積基準メジアン径を粒子径とした。粒度分布D90/D10の測定は、上記粒子径測定した際の分布において小さい側から累積が10%となる粒子径をD10、小さい側から累積が90%となる粒子径をD90とし測定された値からD90/D10を計算した。
【0071】
3.疎水性球状シリカ微粒子の形状測定
電子顕微鏡(日立製作所製、商品名:S−4700型、倍率:10万倍)によって観察を行い、形状を確認した。「球状」とは、真球だけでなく、若干歪んだ球も含む。なおこのような粒子の形状は、粒子を二次元に投影した時の円形度で評価し、円形度が0.8〜1の範囲にあるものとする。ここで円形度とは、(粒子面積と等しい円の周囲長)/(粒子周囲長)である。平均円形度は上記電子顕微鏡により観察し、1次粒子100個を測定して、平均した値を用いた。
【0072】
<合成例2>
合成例1において、工程(A1)でメタノール、水及び28%アンモニア水の量を、メタノール1045.7g、水112.6g、28%アンモニア水33.2gに変えたこと以外は同様にして、疎水性球状シリカ微粒子(2)188gを得た。この疎水性球状シリカ微粒子を用いて合成例1における測定と同様に測定した。この結果を表1に示す。
【0073】
<合成例3>
・工程(A1):
撹拌機、滴下ロート及び温度計を備えた3リットルのガラス製反応器に、メタノール623.7g、水41.4g及び28%アンモニア水49.8gを添加して混合した。この溶液を35℃に調整し、撹拌しながら該溶液にテトラメトキシシラン1163.7g及び5.4%アンモニア水418.1gを同時に添加開始し、前者は6時間、そして後者は4時間かけて滴下した。テトラメトキシシラン滴下後も0.5時間撹拌を続けて加水分解を行い、シリカ微粒子の懸濁液を得た。
【0074】
・工程(A2):
こうして得られた懸濁液に室温でメチルトリメトキシシラン11.6g(テトラメトキシシランに対してモル比で0.01相当量)を0.5時間かけて滴下し、滴下後も12時間撹拌して、シリカ微粒子表面の処理を行った。
【0075】
該ガラス製反応器にエステルアダプターと冷却管を取り付け、上記の表面処理を施したシリカ微粒子を含む分散液にメチルイソブチルケトン1440gを添加した後、80〜110℃に加熱して、メタノール水を7時間かけて留去した。
【0076】
・工程(A3):
こうして得られた分散液に、室温でヘキサメチルジシラザン357.6gを添加し、120℃に加熱し、3時間反応させて、シリカ微粒子をトリメチルシリル化した。その後溶媒を減圧下で留去して球状疎水性シリカ微粒子(3)472gを得た。
【0077】
こうして得られたシリカ微粒子(3)について、合成例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0078】
<合成例4>
シリカ微粒子の合成の際に、テトラメトキシシランの加水分解温度を35℃の代りに20℃とした以外は、合成例3と同様にして各工程を行ったところ、疎水性球状シリカ微粒子(4)469gを得た。この疎水性球状シリカ微粒子(4)を用いて合成例1と同様の測定を行った。この結果を表1に示す。
【0079】
<比較合成例1>
攪拌機と温度計とを備えた0.3リットルのガラス製反応器に爆燃法シリカ(商品名:SOC1、アドマテクス社製)100gを仕込み、純水1gを攪拌下で添加し、密閉後、さらに60℃で10時間攪拌した。次いで、室温まで冷却した後、ヘキサメチルジシラザン2gを攪拌下で添加し、密閉後、さらに24時間攪拌した。120℃に昇温し、窒素ガスを通気しながら残存原料及び生成したアンモニアを除去し、疎水性球状シリカ微粒子(5)100gを得た。
【0080】
得られたシリカ微粒子(5)について、合成例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0081】
<比較合成例2>
攪拌機と温度計とを備えた0.3リットルのガラス製反応器に爆燃法シリカ(商品名:SOC1、アドマテクス社製)100gを仕込み、純水1gを攪拌下で添加し、密閉後、さらに60℃で10時間攪拌した。次いで、室温まで冷却した後、メチルトリメトキシシラン1gを攪拌下で添加し、密閉後、さらに24時間攪拌した。次にヘキサメチルジシラザン2gを攪拌下で添加し、密閉後、さらに24時間攪拌した。120℃に昇温し、窒素ガスを通気しながら残存原料及び生成したアンモニアを除去し、疎水性球状シリカ微粒子(6)101gを得た。得られたシリカ微粒子(6)について、合成例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0082】
<実施例1〜5、比較例1〜5>
上記の各疎水性球状シリカ微粒子(1)〜(6)を、表2に示す量で前記ポリイミドパウダーに添加し、サンプルミルにより3分撹拌混合を行った。得られた粉体状のポリイミドパウダー組成物について、粉体流動性の指標である基本流動性エネルギーの測定を行った。結果を表2に示す。なお、測定の詳細は以下の通りである。
また、実施例2、4の、球状疎水性シリカ微粒子をポリイミドパウダー表面に付着させたポリイミドパウダー組成物の電子顕微鏡写真及び比較例5の、球状疎水性シリカ微粒子をポリイミドパウダーに添加しない未処理のポリイミドパウダーの電子顕微鏡写真を夫々図1、2及び3に示す。
【0083】
流動性は、粉体流動性分析装置FT−4(シスメックス(株)製)を用いて測定した。この装置の測定原理を説明する。垂直に置かれた筒状容器に粉体を充填し、該粉体中を垂直な軸棒の先端に設けられた二枚の回転翼(ブレード)を回転させながら一定の距離(高さH1からH2まで)下降させる。このときに粉体から受ける力をトルク成分と荷重成分とに分けて測定することにより、該ブレードがH1からH2まで下降するのに伴うそれぞれの仕事量(エネルギー)を求め、次いで両者のトータルエネルギー量を求める。こうして測定されたトータルエネルギー量が小さいほど粉体の流動性が良好であることを意味するので、粉体流動性の指標として使用する。この装置にて、ポリイミド樹脂組成物の安定性試験も行なった。
【0084】
・・条件:
容器:容積160ml(内径50mm、長さ79mm)のガラス製円筒型容器を使用した。
【0085】
ブレード:円筒型容器内の中央に鉛直に装入されるステンレス製の軸棒の先端に、水平に対向する形で二枚取り付けられている。ブレードは、直径48mmのものを使用する。H1からH2までの長さは69mmである。
【0086】
・・流動性試験:上記のようにして、測定容器に充填した粉体を静置した状態から流動させた場合の粉体流動特性をみる。ブレード先端の回転速度を100mm/secとし、トータルエネルギー量を7回連続して測定する。7回目のトータルエネルギー量(最も安定した状態であるので基本流動性エネルギーと称される)を表2に示す。トータルエネルギー量が小さいほど流動性が高い。
・・安定性試験:流動性試験に続いて、ブレードの回転速度を100mm/sec→70mm/sec→40mm/sec→10mm/secと変えた時のトータルエネルギー量を測定する。その時のFRI変動指数(FlowRateIndex)が1に近いほど、流動速度について安定していると言える。ここで、FRI変動指数=(10mm/sのデータ)/(100mm/sのデータ)。
【0087】
【表1】
<注>
1) 工程(A1)で得られた分散液の親水性球状シリカ微粒子の粒子径
2) 最終的に得られた疎水性球状シリカ微粒子の粒子径
【0088】
【表2】
【0089】
成形体の成形は玉川マシナリー株式会社製の粉末成形機を使用して成形した。成形された成形体の形状は幅10mm×長さ65mm×厚さ3mmの板状のものを成形し、成形温度は室温で行い、成形圧力は5000kgf/cm2 で行った。成形された成形体はノギスを使用して各方向の寸法の測定から体積を算出し、次いで重量を測定して成形直後の密度を算出した。次いで、この成形体を窒素気流下で500℃×15分の条件で焼成し上記と同様の方法により焼成後の密度を算出した。焼成された成形体をASTM−D790の規格に従い曲げ強度を測定した。その結果を表3に示す。
【0090】
【表3】
【0091】
表3から、実施例のものは比較例のものに比べて、連続成形性に優れ、焼成後の成形体密度が高く、成形体の曲げ強度が高いことが分かる。
図1
図2
図3