特許第5949765号(P5949765)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5949765
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】フッ素樹脂ペレットの処理方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20160630BHJP
   C08F 214/26 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   C08J3/12 ZCEW
   C08F214/26
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-523023(P2013-523023)
(86)(22)【出願日】2012年7月3日
(86)【国際出願番号】JP2012067001
(87)【国際公開番号】WO2013005743
(87)【国際公開日】20130110
【審査請求日】2015年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-148833(P2011-148833)
(32)【優先日】2011年7月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(72)【発明者】
【氏名】大継 聡
(72)【発明者】
【氏名】田野中 裕二
(72)【発明者】
【氏名】辻 篤志
(72)【発明者】
【氏名】相田 茂
(72)【発明者】
【氏名】小川 章夫
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−183812(JP,A)
【文献】 特開2002−036237(JP,A)
【文献】 特公平04−000083(JP,B2)
【文献】 特開2003−231718(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/007705(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/074039(WO,A1)
【文献】 特開平11−116710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00− 3/28
7/00− 7/02
7/12− 7/18
C08F 14/18− 14/28
114/18−114/28
214/18−214/28
B29B 7/00− 15/06
B29C 31/00− 31/10
37/00− 37/04
71/00− 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融成形可能なフッ素樹脂を溶融成形して得られるフッ素樹脂ペレットに、40〜100℃の温水、100〜200℃の水蒸気及び40〜200℃の温風から選ばれるフッ酸除去媒体を接触させて、得られるフッ素樹脂ペレットを35℃で15日保管した時のフッ素樹脂ペレット1kgあたりのフッ酸放散量が5μg以下となるように処理するフッ素樹脂ペレットの処理方法であって、40〜100℃の温水の場合はフッ素樹脂ペレットと10秒〜60分接触させ、100〜200℃の水蒸気の場合はフッ素樹脂ペレットと10秒〜60分接触させ、40〜200℃の温風の場合はフッ素樹脂ペレットと30分〜1時間接触させることを特徴とするフッ素樹脂ペレットの処理方法。
【請求項2】
前記温風の風量が、5〜50m/時間である、請求項に記載のフッ素樹脂ペレットの処理方法。
【請求項3】
前記フッ素樹脂ペレットの平均粒子径が1.0〜5.0mmである、請求項1又は2に記載のフッ素樹脂ペレットの処理方法。
【請求項4】
前記フッ素樹脂ペレットの嵩密度が0.5〜1.5g/mlである、請求項1〜のいずれか1項に記載のフッ素樹脂ペレットの処理方法。
【請求項5】
前記溶融成形可能なフッ素樹脂が、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、クロロトリフルオエチレン/エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体から選ばれたものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のフッ素樹脂ペレットの処理方法。
【請求項6】
前記溶融成形可能なフッ素樹脂が、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体である、請求項1〜のいずれか1項に記載のフッ素樹脂ペレットの処理方法。
【請求項7】
前記エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体が、テトラフルオロエチレンに基づく繰返し単位と、エチレンに基づく繰返し単位と、CH=CX(CFY(ここで、X及びYは、それぞれ独立に水素又はフッ素原子であり、nは2〜8の整数である。)で表される化合物に基づく繰返し単位とを含有し、エチレンに基づく繰返し単位/テトラフルオロエチレンに基づく繰返し単位のモル比が、80/20〜20/80であり、CH=CX(CFYで表される化合物に基づく繰返し単位の含有量が、該エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体の全繰返し単位に対して、0.01〜20モル%である、請求項に記載のフッ素樹脂ペレットの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融成形可能なフッ素樹脂を溶融成形して得られるフッ素樹脂ペレットからのフッ酸の放出を抑制するフッ素樹脂ペレットの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融成形可能なフッ素樹脂の一つとして、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(以下、ETFEともいう。)がある。溶融成形可能なフッ素樹脂は、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、難燃性、耐候性、成形加工性に優れており、航空機、原子力発電所、自動車、産業用ロボットなどに使われる電線の絶縁被覆材料として使用されている。
【0003】
このような溶融成形可能なフッ素樹脂は、溶液重合や懸濁重合といった重合方法によって、フッ素樹脂微粒子の形態として製造される。得られたフッ素樹脂微粒子を造粒してフッ素樹脂ビーズとし、次いで、ペレット状に溶融成形してフッ素樹脂ペレットが得られる。該フッ素樹脂ペレットを、成形材料として用いて、各種製品が製造される。フッ素樹脂ペレットは、各種製品に成形加工する際のハンドリング性に優れる。
【0004】
ところで、ETFEなどの主鎖に水素とフッ素とを含むフッ素樹脂は、高温に長時間保持されると、主鎖からフッ酸(HF)が脱離することがある。また、非特許文献1に記載されるように、ETFEは、溶融成形温度ではフッ酸を含むガスが発生することが知られている。
フッ酸は水に対して非常に高い溶解性を示すため、重合で得られたフッ素樹脂微粒子を、水媒体を用いて造粒して得たフッ素樹脂ビーズにはフッ酸はほとんど含まれない。
しかしながら、フッ素樹脂ビーズをペレット状に溶融成形する際、フッ素樹脂の主鎖からフッ酸が脱離することがある。このため、フッ素樹脂ペレットにはフッ酸が含まれることがある。フッ素樹脂ペレットにフッ酸が含まれていると、フッ素樹脂ペレットからフッ酸が経時的に気相に放散されるので、フッ素樹脂ペレットを密閉された場所に長期間保管した場合や、夏季に高温で保管した場合に、酸の臭気が感じられることがあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ふっ素樹脂ハンドブック、里川孝臣編、日刊工業新聞社、1990年発行、P471〜474
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、溶融成形可能なフッ素樹脂を溶融成形して得られるフッ素樹脂ペレットからのフッ酸の放出を抑制するフッ素樹脂ペレットの処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の要旨を有するものである。
[1]溶融成形可能なフッ素樹脂を溶融成形して得られるフッ素樹脂ペレットに、30〜200℃の温水、100〜200℃の水蒸気及び40〜200℃の温風から選ばれるフッ酸除去媒体を接触させて、得られるフッ素樹脂ペレットを35℃で15日保管した時のフッ素樹脂ペレット1kgあたりのフッ酸放散量が5μg以下となるように処理することを特徴とするフッ素樹脂ペレットの処理方法。
[2]前記フッ素樹脂ペレットに、30〜200℃の温水を10秒以上接触させる、前記[1]に記載のフッ素樹脂ペレットの処理方法。
[3]前記フッ素樹脂ペレットに、100〜200℃の水蒸気を10秒以上接触させる、前記[1]に記載のフッ素樹脂ペレットの処理方法。
[4]前記フッ素樹脂ペレットに、40〜200℃の温風を30分以上接触させる、前記[1]に記載のフッ素樹脂ペレットの処理方法。
[5]前記温風の風量が、5〜50m/時間である、前記[4]に記載のフッ素樹脂ペレットの処理方法。
[6]前記フッ素樹脂ペレットの平均粒子径が1.0〜5.0mmである、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のフッ素樹脂ペレットの処理方法。
[7]前記フッ素樹脂ペレットの嵩密度が0.5〜1.5g/mlである、前記[1]〜[6]のいずれかに記載のフッ素樹脂ペレットの処理方法。
[8]前記溶融成形可能なフッ素樹脂が、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体である、前記[1]〜[7]のいずれかに記載のフッ素樹脂ペレットの処理方法。
[9]前記エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体が、テトラフルオロエチレンに基づく繰返し単位と、エチレンに基づく繰返し単位と、CH=CX(CFY(ここで、X及びYは、それぞれ独立に水素又はフッ素原子であり、nは2〜8の整数である。)で表される化合物に基づく繰返し単位とを含有し、エチレンに基づく繰返し単位/テトラフルオロエチレンに基づく繰返し単位のモル比が、80/20〜20/80であり、CH=CX(CFYで表される化合物に基づく繰返し単位の含有量が、該エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体の全繰返し単位に対して、0.01〜20モル%である、前記[8]に記載のフッ素樹脂ペレットの処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶融成形可能なフッ素樹脂を溶融成形して得られるフッ素樹脂ペレットに、上記フッ酸除去媒体を接触させることにより、フッ素樹脂ペレットの表面及びその近傍からフッ酸が除去されて、フッ素樹脂ペレットからのフッ酸の放出が抑制される。そして、得られるフッ素樹脂ペレットを35℃で15日保管した時のフッ素樹脂ペレット1kgあたりのフッ酸放散量が5μg以下となるように上記フッ酸除去媒体を接触させて処理することで、長期保管時や夏季の高温保管時にも雰囲気中へのフッ酸の放出が抑制される。このため、長期保管や高温保管を実施した後でもフッ酸由来の酸臭が抑制されるため、フッ素樹脂ペレットの取扱い性や作業性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のフッ素樹脂ペレットの処理方法は、溶融成形可能なフッ素樹脂を溶融成形して得られるフッ素樹脂ペレットを処理対象として用いる。なかでも、主鎖に水素原子を含むフッ素樹脂および、ポリマー鎖の末端に水素を含む可能性のあるフッ素樹脂は、高温に長時間保持されると、主鎖からのフッ酸の脱離および鎖末端の分解によるフッ酸生成が生じるので、本発明の処理方法に特に適している。
主鎖に水素原子を含む溶融成形可能なフッ素樹脂としては、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、クロロトリフルオエチレン/エチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体(THV)等が挙げられる。また、ポリマー鎖の末端に水素を含む可能性のあるフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等が挙げられる。特に好ましくはETFEである。ETFEは、溶融成形温度で微量のフッ酸が発生し易いので、ETFEを溶融成形して得られるペレットには、フッ酸が含まれていることが多く、特に本発明の処理に適している。
【0010】
以下、ETFEについて詳しく説明する。
本発明において、ETFEとしては、重合媒体の存在下に、ラジカル重合開始剤、分子量を調節するための連鎖移動剤等とともに、所定の温度で、所定時間、撹拌下に、エチレン、テトラフルオロエチレン、及び、必要に応じて、その他のモノマーを共重合させて得られるETFEが好ましい。ETFEを重合媒体の存在下に製造すると、ETFEの微粒子が媒体中に分散したETFEスラリーが得られる。ETFEスラリー中のETFE濃度は、50〜200g/L(リットル)(重合媒体)が好ましく、100〜180g/L(重合媒体)がより好ましい。ETFE濃度がこの範囲より低いと、バッチあたりの造粒物の収量が少なくなり、生産性が低下する。ETFE濃度がこの範囲より高いと、ETFE微粒子の凝集が発生し易く、ETFE微粒子を造粒した際に、得られるETFEビーズにETFE微粒子の凝集物が含まれ易くなる。上記好ましい範囲にあると、ETFE微粒子が凝集し難く、凝集物の少ないETFEビーズを生産性よく製造できる。
【0011】
ETFEとしては、エチレン(以下、「E」と称する場合がある。)に基づく繰返し単位とテトラフルオロエチレン(以下、「TFE」と称する場合がある。)に基づく繰返し単位を含有するものが好ましい。(Eに基づく繰返し単位)/(TFEに基づく繰返し単位)のモル比は、80/20〜20/80が好ましく、70/30〜30/70がより好ましく、50/50〜35/65が最も好ましい。
(Eに基づく繰返し単位)/(TFEに基づく繰返し単位)のモル比が極端に大きいと、ETFEの耐熱性、耐候性、耐薬品性、薬液透過防止性等が低下する場合がある。一方、当該モル比が極端に小さいと、ETFEの機械的強度、溶融成形性等が低下する場合がある。当該モル比が上記範囲にあると、ETFEが、耐熱性、耐候性、耐薬品性、薬液透過防止性、機械的強度、溶融成形性等に優れたものとなる。
【0012】
また、本発明において、ETFEには、Eに基づく繰返し単位及びTFEに基づく繰返し単位に加えて、ETFEの本質的な特性を損なわない範囲で他のモノマーに基づく繰返し単位を含んでもよい。
他のモノマーとしては、以下の(1)〜(7)が挙げられる。他のモノマーは1種又は2種以上を用いることができる。
(1)プロピレン、ブテン等のα−オレフィン類(ただし、Eを除く)。
(2)一般式CH=CX(CFY(ここで、X及びYは、それぞれ独立に水素又はフッ素原子であり、nは2〜8の整数である。)で表される化合物。
(3)フッ化ビニリデン(VDF)、フッ化ビニル(VF)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン(HFIB)等の不飽和基に水素原子を有するフルオロオレフィン。
(4)ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等の不飽和基に水素原子を有しないフルオロオレフィン(ただし、TFEを除く)。
(5)ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、ペルフルオロ(ブチルビニルエーテル)(PBVE)等のペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)。
(6)CF=CFOCFCF=CF、CF=CFO(CFCF=CF等の不飽和結合を2個有するペルフルオロビニルエーテル類。
(7)ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)(PDD)、2,2,4−トリフルオロ−5−トリフルオロメトキシ−1,3−ジオキソール、ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)等の脂肪族環構造を有する含フッ素モノマー類。
【0013】
なかでも、他のモノマーとしては、CH=CX(CFYで表される化合物(以下、「FAE」という。)が好ましい。FAEは、一般式中のnが2未満であるとETFE成形体の特性が不十分(例えば、ETFE形成体のストレスクラック発生等)となる場合があり、式中のnが8を超えると重合反応性が不十分になる場合がある。この範囲にあると、ETFE成形体は特性に優れ、FAEの重合反応性にも優れる。
【0014】
FAEとしては、CH=CF(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFH、CH=CH(CFH、CH=CH(CFH、CH=CH(CFH、CH=CH(CFH等が挙げられる。FAEは1種又は2種以上を用いることができる。
なかでも、FAEとしては、CH=CH(CFYで表される化合物がより好ましい。式中のnは、n=2〜6がさらに好ましく、n=2〜4が最も好ましい。この範囲にあると、ETFE成形体が耐ストレスラック性に著しく優れる。
【0015】
ETFEにおけるFAEに基づく繰返し単位の含有量は、当該ETFEの全繰返し単位に対して、0.01〜20モル%が好ましく、0.1〜15モル%がより好ましく、1〜10モル%が最も好ましい。FAEの含有量が0.01モル%未満であると、ETFE成形体の耐ストレスクラック性が低く、ストレス下において割れる等の破壊現象が発生する場合がある。また、20モル%を超えると、当該ETFE成形体の機械的強度が低い場合がある。FAEの含有量が、上記範囲にあると、ETFE成形体は特性に優れる。
【0016】
ETFEの重合に用いる重合媒体としては、フッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等の有機溶媒等が挙げられる。重合媒体の具体例としては、n−ペルフルオロヘキサン、n−ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロシクロブタン、ペルフルオロシクロヘキサン、ペルフルオロベンゼン等のペルフルオロカーボン類;1,1,2,2−テトラフルオロシクロブタン、CFCFHCFCFCF、CF(CFH、CFCFCFHCFCF、CFCFHCFHCFCF、CFHCFHCFCFCF、CF(CFH、CFCH(CF)CFCFCF、CFCF(CF)CFHCFCF、CFCF(CF)CFHCFHCF、CFCH(CF)CFHCFCF、CFCFCHCH、CF(CFCHCH等のハイドロフルオロカーボン類;CFCHOCFCFH、CF(CF)CFCFOCH、CF(CFOCH等のハイドロフルオロエーテル類等が挙げられる。中でも、CF(CFH、CFCHOCFCFHがより好ましく、CF(CFHが最も好ましい。
【0017】
ETFEの重合に用いるラジカル重合開始剤としては、その半減期が10時間である温度が0〜100℃であるラジカル重合開始剤が好ましく、20〜90℃であるラジカル重合開始剤がより好ましい。ラジカル重合開始剤の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート;tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルパーオキシアセテート等のパーオキシエステル;イソブチリルパーオキシド、オクタノイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等の非フッ素系ジアシルパーオキシド;(Z(CFCOO)(ここで、Zは水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、pは1〜10の整数である。)等の含フッ素ジアシルパーオキシド;パーフルオロtert−ブチルパーオキシド;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物等が挙げられる。
【0018】
ETFEの重合に用いる連鎖移動剤としては、メタノール、エタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール等のアルコール類;1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等のフッ化塩化炭化水素;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素類;CF等のハイドロフルオロカーボン類;アセトン等のケトン類;メチルメルカプタン等のメルカプタン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。
【0019】
ETFEの重合条件は特に限定されない。重合温度は0〜100℃が好ましく、20〜90℃がより好ましい。重合圧力は0.1〜10MPaが好ましく、0.5〜3MPaがより好ましい。重合時間は1〜30時間が好ましく、2〜20時間がより好ましい。
【0020】
次に、溶融成形可能なフッ素樹脂として、ETFEを用いた場合を例に挙げて、フッ素樹脂ペレットの製造方法を説明する。なお、ETFE以外のフッ素樹脂も同様にして、フッ素樹脂ペレットを製造することができる。
【0021】
まず、重合によって得られたETFE微粒子を造粒して、ETFEビーズを製造する。造粒は、ETFEスラリーに含有される、ETFE微粒子、重合媒体及び、エチレン及びテトラフルオロエチレン等の未反応モノマーを、そのまま配管を通して、重合槽から造粒槽へ輸送して行うことが好ましい。造粒槽において、ETFEスラリーに、ETFE造粒物の分散媒となる水を所定量加えた後、造粒槽内でETFEスラリーと水とを撹拌しながら加熱し、未反応モノマー、重合媒体、連鎖移動剤等の揮発成分を留出させながら、ETFE微粒子を造粒し、ETFEビーズを製造する。
造粒工程において、未反応モノマーや重合媒体等の成分の蒸気により造粒槽内の圧力が上昇する。そのため、造粒槽の圧力が一定となるように造粒槽から前記成分を連続的に留出し、回収しながら造粒することが好ましい。造粒槽から留出した未反応モノマーや重合媒体は、熱交換器や脱水塔を経由させてからガスホルダーや重合媒体タンクに回収し、再利用することが好ましい。
【0022】
このようにして得られるETFEビーズを、ペレット状に溶融成形することで、ETFEペレットが得られる。成形方法としては、特に限定はなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、タンデム押出機を用いてETFEを溶融押出しし、溶融したETFEを冷却固化し、所定長さに切断してペレット状に成形する方法等が挙げられる。溶融押出しする際の押出温度は、樹脂の溶融粘度や製造方法により変える必要があり、好ましくは樹脂の融点+20℃〜樹脂の融点+120℃である。冷却固化したETFEの切断方法は、特に限定は無く、ストランドカット方式、ホットカット方式、アンダーウオーターカット方式、シートカット方式などの従来公知の方法を採用できる。
【0023】
本発明の処理方法に用いるフッ素樹脂ペレットの嵩密度は、0.5〜1.5g/mlが好ましく、0.8〜1.2g/mlがより好ましく、0.9〜1.1g/mlが最も好ましい。嵩密度が上記範囲であれば、フッ素樹脂ペレットを用いてフッ素樹脂成形体を製造する際におけるハンドリング性が良好である。なお、本発明において、嵩密度の値は、後述する実施例に示すように、JIS K6891 四ふっ化エチレン樹脂成形粉試験方法に準拠して測定した値である。
【0024】
本発明の処理方法に用いるフッ素樹脂ペレットの平均粒子径は、1.0〜5.0mmが好ましく、1.5〜3.5mmがより好ましく、2.0〜3.0mmが最も好ましい。フッ素樹脂ペレットの平均粒子径が小さすぎると、フッ素樹脂ペレットを用いてフッ素樹脂成形体を製造する際におけるハンドリング性が損なわれ易い。フッ素樹脂ペレットの平均粒子径が大きすぎると、フッ素樹脂ペレットの体積に対する表面積の割合が小さくなり、フッ素樹脂ペレットからフッ酸が除去されにくくなり、処理時間が長くなる傾向となる。なお、本発明において、平均粒子径の値は、後述する実施例に示すように、任意に抽出したフッ素樹脂ペレットの長径と短径を測定し、その平均値から求めた値である。
【0025】
本発明のフッ素樹脂ペレットの処理方法は、溶融成形可能なフッ素樹脂を溶融成形して得られるフッ素樹脂ペレットに、30〜200℃の温水、100〜200℃の水蒸気及び40〜200℃の温風から選ばれるフッ酸除去媒体を接触させて処理する。フッ素樹脂ペレットにこれらのフッ酸除去媒体を接触させることで、フッ素樹脂ペレットが加温されて、内部に存在するフッ酸が表面に溶出する。そして表面に溶出したフッ酸はフッ酸除去媒体によって除去されるので、処理後のフッ素樹脂ペレットは、フッ酸放散量が低減され、保管時における雰囲気中のフッ酸臭を低減できる。フッ酸は水に非常に高い溶解性を示すため、フッ酸除去媒体は、温水、水蒸気が好ましく、温水が特に好ましい。
【0026】
フッ素樹脂ペレットの処理は、処理後のフッ素樹脂ペレットを35℃で15日保管した時のフッ素樹脂ペレット1kgあたりのフッ酸放散量が5μg以下、好ましくは2μg以下になるまで行う。フッ素樹脂ペレット1kgあたりのフッ酸放散量を5μg以下まで低減することで、長期保管や高温保管後にもフッ酸が放散しにくくなるので、作業環境が向上し、フッ素樹脂ペレットの取扱いに優れる。なお、本発明においてのフッ酸放散量の値は、後述する実施例に示される方法で測定した値を意味する。
【0027】
フッ酸除去媒体として温水を用いて処理する場合、温水の温度は30〜200℃であり、40〜100℃が好ましく、60〜90℃がより好ましい。温水の温度が30℃未満であると、処理に時間を要する。200℃を超えると、ETFEの融点に近づくため、ペレットの溶融や変形が生じる可能性がある。処理時間は、10秒以上が好ましく、10秒〜60分がより好ましく、10秒〜1分が特に好ましい。処理時間が10秒以上であれば、フッ素樹脂ペレット1kgあたりのフッ酸放散量を5μg以下まで低減できる。また、60分を超えてもほとんど効果の向上が得られないので、上限は60分が好ましい。
温水でのフッ素樹脂ペレットの処理方法は、温水とフッ素樹脂ペレットとが接触していればよく、温水中にフッ素樹脂ペレットを浸漬させる方法が一例として挙げられる。浸漬中は温水を撹拌、揺動等の方法で混合してもよいが、これらの混合処理を行わなくても、温水中に浸漬するだけで十分な効果が得られるので、混合処理は特に不要である。
【0028】
フッ酸除去媒体として水蒸気を用いて処理する場合、水蒸気の温度は100〜200℃であり、100〜150℃が好ましい。水蒸気の温度が100℃未満であると、処理に時間を要する。200℃を超えるとETFEの融点に近づくため、ペレットの溶融や変形が生じる可能性がある。処理時間は、10秒以上が好ましく、10秒〜60分がより好ましく、10秒〜1分が特に好ましい。処理時間が10秒以上であれば、フッ素樹脂ペレット1kgあたりのフッ酸放散量を5μg以下まで低減できる。また、60分を超えてもほとんど効果の向上が得られないので、上限は60分が好ましい。
水蒸気でのフッ素樹脂ペレットの処理方法は、水蒸気とフッ素樹脂ペレットとが接触していればよい。例えば、フッ素樹脂ペレットに対し水蒸気を吹き付けて処理する方法や、水蒸気が充填された容器内にフッ素樹脂ペレットを配置して処理する方法が挙げられる。
【0029】
フッ酸除去媒体として温風を用いて処理する場合、温風の温度は40〜200℃であり、100〜200℃が好ましい。温風の温度が40℃未満であると、処理に時間を要する。200℃を超えると、ETFEの融点に近づくため、ペレットの溶融や変形が生じる可能性がある。温風の風量は、5〜50m/時間が好ましく、5〜10m/時間がより好ましい。風量が5m/時間未満であると脱酸処理に要する時間が長くなり、50m/時間を超えると処理装置内でペレットが飛散し、処理装置外部へペレットが吹きこぼれる可能性がある。温風の種類としては、空気、窒素等が挙げられる。好ましくは空気である。処理時間は、30分以上が好ましく、30分〜2時間がより好ましく、30分〜1時間が特に好ましい。処理時間が30分以上であれば、フッ素樹脂ペレット1kgあたりのフッ酸放散量を5μg以下まで低減できる。また、処理時間が2時間を超えてもほとんど効果の向上が得られないので、上限は2時間が好ましい。
温風でのフッ素樹脂ペレットの処理方法は、水蒸気とフッ素樹脂ペレットとが接触していればよい。例えば、フッ素樹脂ペレットに対し温風を吹き付けて処理する方法が挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例(例1〜4)及び比較例(例5)を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、ETFEペレットの平均粒子径、ETFEペレットの嵩密度、ETFEペレットのフッ酸放散量は、以下の方法により測定した。
【0031】
[ETFEペレットの平均粒子径]
任意のETFEペレットの数十個を測定対象のETFEペレットから抽出した。抽出した各ETFEペレットの長径と短径を測定し、その平均値から平均粒子径を求めた。
【0032】
[フッ素樹脂ペレットの嵩密度]
JIS K6891(1964) 四ふっ化エチレン樹脂成形粉試験方法に準拠して測定し、求めた。
【0033】
[フッ素樹脂ペレットのフッ酸放散量]
処理後のETFEペレットの0.5kgを、アルミ蒸着したポリエチレン袋(容積400mL(ミリリットル)、縦330mm×横220mm)に入れ、周囲をヒートシールして密封し、35℃に温度保持したオーブン内で所定日数保管した。保管後、注射器を使用してポリエチレン袋内の気相ガスを採取し、ガス検知管GASTEC(No.17、HF(フッ酸))(ガステック社製)を使用して、採取したガス中のフッ酸量を定量した。ポリエチレン袋内の容積は400mLであるので、ガス検知管GASTECでの分析結果から、下記換算式を使用し、ETFEペレット1kgあたりのフッ酸放散量を算出した。
ETFEペレット1kgあたりのフッ酸放散量(μg)=ガス検知管GASTECで分析した採取したガス中のフッ酸量(μg)×[ポリエチレン袋内の容積(400mL)/ガス検知管GASTECでの分析に用いたガス量(mL)]×[1(kg)/ポリエチレン袋に封入したETFEペレット量(0.5kg)]
【0034】
[例1]
モル比で、エチレンに基づく繰り返し単位/テトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位が54/46(モル比)であり、CH=CH(CFFに基づく繰り返し単位を、全繰り返し単位に対して1.5モル%含有するETFEのビーズを、溶融成形して、平均粒子径2.5mm、嵩密度1.0g/mlのETFEペレット1を得た。
容積3LのSUS製ジョッキに、ETFEペレット1の0.5kgを入れた。ついで、80℃に加温した温水の0.5kgを入れて、30秒間温水中にETFEペレット1を浸漬させた。30秒後、温水を濾別し、処理後のETFEペレットを、0.4kg/cmの空気(室温;約20℃)を吹きかけて水切りし、ETFEペレット2を得た。得られたETFEペレット2の0.5kgを用いて、ETFE1kgあたりのフッ酸放散量を測定した。結果を表1に記す。
【0035】
[例2]
例1において、80℃の温水に換えて、40℃温水を用いる以外、例1と同様にしてETFEペレット1を処理し、ETFEペレット3を得た。得られたETFEペレット3の0.5kgを用いて、ETFE1kgあたりのフッ酸放散量を測定した。結果を表1に記す。
【0036】
[例3]
例1で得られたETFEペレット1の6.4kgを、容積10LのSUS製容器に入れ、容器に100℃の水蒸気(常圧)を吹込み、30秒間ETFEペレット1と接触させて処理を行った。処理後のETFEペレットに付着した水分を0.4kg/cmの空気(室温;約20℃)を吹きかけて水切りし、ETFEペレット4を得た。得られたETFEペレット4の0.5kgを用いて、ETFE1kgあたりのフッ酸放散量を測定した。結果を表1に記す。
【0037】
[例4]
例1で得られたETFEペレット1の6.4kgを、容積10LのSUS製容器に入れ、容器内に150℃の温風を、風速8.0m/時間で吹込み、30分間ETFEペレット1と接触させて処理を行い、ETFEペレット5を得た。得られたETFEペレット5の0.5kgを用いて、ETFE1kgあたりのフッ酸放散量を測定した。結果を表1に記す。
【0038】
[例5]
例1で得られたETFEペレット1の0.5kgを用いて、ETFE1kgあたりのフッ酸放散量を測定した。結果を表1に記す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1の例1〜4に示されるように、ETFEペレットに、30〜200℃の温水、100〜200℃の水蒸気又は40〜200℃の温風と接触させることで、フッ酸の放散量を低減できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のフッ素樹脂ペレットの処理方法によって得られたフッ素樹脂ペレットは、長期保管や高温保管後にもフッ酸を放散しにくいのでフッ酸由来の酸臭が抑制されて作業環境が向上し、取扱いに優れる。かかるフッ素樹脂ペレットは、各種電線被覆材およびフィルム等の用途に適する。
なお、2011年7月5日に出願された日本特許出願2011−148833号の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。