(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物は、ムーニー粘度[ML
1+4、100℃]50〜200のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)、ムーニー粘度[ML
1+4、100℃]5〜45のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)、および、平均繊維長0.1〜12mmの短繊維(C)を含有してなる。
【0012】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)
本発明で用いるニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を有し、ムーニー粘度[ML
1+4、100℃]が50〜200のゴムである。
【0013】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成するα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されず、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルが特に好ましい。なお、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0014】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)中における、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは20〜50重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐油性が低下する傾向にある。一方、多すぎると、得られるゴム架橋物の耐寒性が低下する傾向にある。
【0015】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の他に、得られるゴム架橋物がゴム弾性を発現するという点より、共役ジエン単量体単位を有することが好ましい。
【0016】
共役ジエン単量体単位を形成する共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4〜6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3−ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。なお、共役ジエン単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0017】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)における共役ジエン単量体単位の含有量は、好ましくは40〜90重量%、特に好ましくは50〜80重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。そして、上記共役ジエン単量体単位の含有量は、後述する水素化を行った場合には、水素化された部分も含めた含有量である。
【0018】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)は、また、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、および、共役ジエン単量体とともに、これらと共重合可能なその他の単量体を共重合したものであってもよい。このようなその他の単量体としては、エチレン、α−オレフィン単量体、非共役ジエン単量体、芳香族ビニル単量体、フッ素含有ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸及びそのエステル、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸モノエステル及び多価エステル、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物、架橋性単量体、共重合性老化防止剤などが挙げられる。
【0019】
α−オレフィン単量体としては、好ましくは炭素数が3〜12のものであり、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが例示される。
【0020】
非共役ジエン単量体は、炭素数が5〜12のものが好ましく、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどが例示される。
【0021】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0022】
フッ素含有ビニル単量体としては、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0023】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エチル(アクリル酸エチル又はメタクリル酸エチルの意。以下同様。)、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
【0024】
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸モノエステルとしては、例えば、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチルシクロペンチルなどが挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸多価エステルとしては、例えば、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジ−n−ブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジ−2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
【0025】
架橋性単量体としては、ジビニルベンゼンなどのジビニル化合物;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、エチレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステルなどのジ(メタ)アクリル酸エステル類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステルなどのトリ(メタ)アクリル酸エステル類;などの多官能エチレン性不飽和単量体のほか、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N′−ジメチロール(メタ)アクリルアミドなどの自己架橋性単量体などが挙げられる。
【0026】
共重合性老化防止剤としては、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、 N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが例示される。
【0027】
これらの共重合可能なその他の単量体として、複数種類を併用してもよい。
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)が有するその他の単量体単位の含有量は、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0028】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)のヨウ素価は、好ましくは120以下であり、より好ましくは60以下、さらに好ましくは30以下、特に好ましくは10以下である。ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)のヨウ素価が高すぎると、得られるゴム架橋物の耐熱性および耐オゾン性が低下するおそれがある。
【0029】
また、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)のJIS K6300−1に従って測定したムーニー粘度[ML
1+4(100℃)]は、50〜200、好ましくは50〜120、特に好ましくは60〜110である。ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)のムーニー粘度が低すぎるとゴム架橋物の機械的特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎるとゴム組成物の加工性が低下する可能性がある。
【0030】
上記ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)の製造方法は特に限定されない。
一般的には、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、共役ジエン単量体、並びに必要に応じて加えられるこれらと共重合可能なその他の単量体を共重合する方法が便利で好ましい。重合法としては、公知の乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法および溶液重合法のいずれをも用いることができるが、重合反応の制御が容易なことから乳化重合法が好ましい。
なお、乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0031】
また、共重合して得られた共重合体(X)のヨウ素価が上記の範囲より高い場合は、共重合体の水素化(水素添加反応)を行うと良い。水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0032】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸及びリノレン酸等の脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤;などが挙げられる。乳化剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部である。
【0033】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物が好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。重合開始剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部である。
【0034】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;α−メチルスチレンダイマー;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、メルカプタン類が好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましい。分子量調整剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜0.8重量部である。
【0035】
乳化重合の媒体には、通常、水が使用される。水の量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは80〜500重量部である。
【0036】
乳化重合に際しては、さらに、必要に応じて安定剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができる。これらを用いる場合においては、その種類、使用量とも特に限定されない。
【0037】
そして、得られた共重合体(X)に対して、共役ジエン単量体単位の二重結合を選択的に水素化し、その後、水素化して得られたラテックス等を凝固および乾燥することにより、本発明で用いるニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)を製造することができる。ここで、水素化は、乳化重合後の共重合体(X)をラテックス状態のまま水素化しても良いが、ラテックス状態の共重合体(X)を凝固および乾燥後にアセトン等の有機溶媒に溶解し、水素化を行っても良い。なお、水素化に用いる水素化触媒の種類と量、水素化温度などは、公知の方法に準じて決めればよい。
【0038】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)
本発明で用いるニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を有し、ムーニー粘度[ML
1+4、100℃]が5〜45のゴムである。
【0039】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成するα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は、上記ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)の場合と同様であり、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルが特に好ましい。
【0040】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)中における、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは20〜50重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐油性が低下する傾向にある。一方、多すぎると、得られるゴム架橋物の耐寒性が低下する傾向にある。
【0041】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の他に、得られるゴム架橋物がゴム弾性を発現するという点より、共役ジエン単量体単位を有することが好ましい。
【0042】
共役ジエン単量体単位を形成する共役ジエン単量体としては、上記ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)の場合と同様であり、1,3−ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。
【0043】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)における共役ジエン単量体単位の含有量は、好ましくは40〜90重量%、特に好ましくは50〜80重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。そして、上記共役ジエン単量体単位の含有量は、後述する水素化を行った場合には、水素化された部分も含めた含有量である。
【0044】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)は、また、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、および、共役ジエン単量体とともに、これらと共重合可能なその他の単量体を共重合したものであってもよい。このようなその他の単量体としては、上記ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)の場合と同様のものが挙げられる。
なお、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)が有するその他の単量体単位の含有量は、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0045】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)のヨウ素価は、好ましくは120以下であり、より好ましくは60以下、さらに好ましくは30以下、特に好ましくは10以下である。ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)のヨウ素価が高すぎると、得られるゴム架橋物の耐熱性および耐オゾン性が低下するおそれがある。
【0046】
また、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)のJIS K6300−1に従って測定したムーニー粘度[ML
1+4(100℃)]は、5〜45、特に好ましくは10〜40である。ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)のムーニー粘度が低すぎる場合には、引張応力が非常に高く、かつ、低発熱性に優れたゴム架橋物が得られない。また、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)のムーニー粘度が高すぎる場合には、引張応力が非常に高く、かつ、低発熱性に優れたゴム架橋物が得られないだけでなく、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物の加工性が悪化する。
【0047】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)の使用割合は、本発明の効果がより一層顕著になることから、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)とニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)の合計100重量%中、5〜75重量%が好ましく、15〜75重量%が特に好ましい。
【0048】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)の製造方法は特に限定されないが、(i)上記で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)に、高せん断力を加え、ポリマー鎖を切断することにより低分子量化(低ムーニー化)する方法、(ii)上記で得られた共重合体(X)を、凝固・乾燥後に、従来公知の方法でオレフィンメタセシス反応により低分子量化(低ムーニー化)し、次いで、共役ジエン単量体単位の二重結合を選択的に水素化する方法、または(iii)共重合体(X)の製造時(重合時)に、連鎖移動剤を比較的多量に用いることにより低分子量化(低ムーニー化)し、次いで、共役ジエン単量体単位の二重結合を選択的に水素化する方法、などが挙げられるが、複雑な反応工程を経る必要がないことから、上記(i)の方法が好ましい。
【0049】
上記(i)の方法の好適な具体例としては、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)に、ポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)等の従来公知の老化防止剤を添加し、二軸押出機を用いて混練することにより高せん断力を与え、ポリマー鎖を切断することにより低分子量化(低ムーニー化)して、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)を得る方法が挙げられる。
この場合、二軸押出機のスクリュー回転数は、200〜400rpmが好ましい。
また、高せん断力を与える際の温度は、200〜350℃が好ましい。
さらに、高せん断力を与える時間(連続式の場合は「滞留時間」)は、5秒〜5分が好ましい。
【0050】
上記(i)の方法において、老化防止剤の添加量は、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)100重量部に対し、0.1〜5重量部が好ましく、0.5〜3重量部が特に好ましい。
【0051】
短繊維(C)
本発明に用いる短繊維(C)は、平均繊維長が0.1〜12mmである。
ここで、平均繊維長とは、光学顕微鏡で写真撮影し、得られる写真において無作為に選んだ100個の短繊維の長さを測定し、算術平均により求めた値である。
短繊維(C)の平均繊維長が大きすぎると、短繊維同士が絡まって塊になりやすく、ゴム組成物中に分散しにくくなる傾向にあり、逆に小さすぎると所望の引張応力が得られにくい。
なお、短繊維(C)の平均繊維長は、0.5〜10mmが好ましく、1〜8mmが特に好ましい。
【0052】
また、短繊維(C)の平均繊維径は、本発明の効果がより一層顕著になることから、0.5〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましく、2〜20μmが特に好ましい。なお、平均繊維径とは、光学顕微鏡で写真撮影し、得られる写真において無作為に選んだ100個の短繊維の最も太い部分の径を測定し、算術平均により求めた値である。
【0053】
なお、短繊維(C)のアスペクト比([短繊維の平均繊維長]/[短繊維の平均繊維径])は、5〜1000が好ましく、50〜800が特に好ましい。
短繊維(C)のアスペクト比が上記範囲にある場合に、本発明の効果がより一層顕著になる。
【0054】
短繊維(C)としては、有機繊維および無機繊維が挙げられる。有機繊維としては、綿、木材セルロース繊維等の天然繊維;ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、レーヨン、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、フッ素系ポリマー等の合成樹脂からなる繊維;等が例示される。無機繊維としてはガラス繊維、炭素繊維等が例示される。
これらの中でも、本発明の効果がより一層顕著になることから、有機繊維を用いることが好ましく、合成樹脂からなる繊維を用いることがより好ましく、ポリアミドからなる繊維を用いることがさらに好ましい。
【0055】
ポリアミドとしては、ポリカプラミド、ポリ−ω−アミノヘプタン酸、ポリ−ω−アミノノナン酸、ポリウンデカンアミド、ポリエチレンジアミンアジパミド、ポリテトラメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカミド、ポリオクタメチレンアジパミド、ポリデカメチレンアジパミドなどの脂肪族ポリアミド;ポリパラフェニレンテレフタラミド(商品名「Kevlar」、東レ・デュポン社製)、ポリメタフェニレンイソフタラミド(商品名「コーネックス」、帝人テクノプロダクツ社製)、コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド(商品名「テクノーラ」、帝人テクノプロダクツ社製)、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリメタキシリレンピメラミド、ポリメタキシリレンアゼラミド、ポリパラキシリレンアゼラミド、ポリパラキシリレンデカナミドなどの芳香族ポリアミド(アラミド);などが挙げられるが、引張応力が非常に高く、低発熱性に優れたゴム架橋物が得られ易いことから、芳香族ポリアミド(アラミド)が好ましく、ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリメタフェニレンイソフタラミドおよびコポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミドがより好ましく、コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミドが特に好ましい。
【0056】
短繊維(C)は1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
短繊維(C)の含有割合は、引張応力が非常に高く、低発熱性に優れたゴム架橋物が得られ易いことから、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)とニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)の合計100重量部に対し、0.1〜50重量部が好ましく、0.5〜20重量部がより好ましく、1〜10重量部が特に好ましい。
【0057】
なお、短繊維(C)は、エポキシ系樹脂とラテックスからなる接着剤組成物、イソシアネート系樹脂とラテックスからなる接着剤組成物、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂とラテックスからなる接着剤組成物(RFL)などによって、表面処理を施したものでもよい。
【0058】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(D)
本発明のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物は、得られるゴム架橋物の引張強度および低発熱性向上の観点から、さらにα,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(D)を含有することが好ましい。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(D)の含有量は、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)とニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)の合計100重量部に対し、好ましくは3〜120重量部、より好ましくは5〜100重量部、特に好ましくは5〜50重量部である。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(D)の含有量が少なすぎると引張強度改善効果が得られない場合があり、逆に、多すぎると伸びが小さくなる可能性がある。
【0059】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(D)を形成するα,β−エチレン性不飽和カルボン酸は、金属塩を生成するために少なくとも1価のフリーのカルボキシル基を有するものであって、不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸、不飽和ジカルボン酸モノエステルなどが例示される。不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。不飽和ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。不飽和ジカルボン酸モノエステルとしては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチルなどが挙げられる。これらエチレン性不飽和カルボン酸の中で、エステル基を持たないエチレン性不飽和カルボン酸が好ましく、不飽和モノカルボン酸がより好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
【0060】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(D)の金属としては、上記α,β−エチレン性不飽和カルボン酸と塩を形成するものであれば特に制限されないが、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、バリウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム、スズ及び鉛が好ましく、亜鉛、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムがより好ましく、亜鉛及びマグネシウムが特に好ましい。
【0061】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(D)は、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸、及び、前記金属の酸化物、水酸化物又は炭酸塩などを反応させて塩を形成することにより得られる。
上記の塩を形成する際のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸中のフリーのカルボキシル基1モルに対する金属量は、好ましくは0.2〜3モル、より好ましくは0.3〜2.5モル、特に好ましくは0.4〜2モルである。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸が多すぎる(金属量が少なすぎる)場合は、ゴム組成物において残留モノマーの臭気が激しくなり、また、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸が少なすぎる(金属量が多すぎる)場合は、ゴム架橋物の強度が低下する場合がある。
【0062】
なお、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(D)は、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)やニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)などの成分と混練してゴム組成物を調製する際に、上記金属塩の形でゴムに配合してもよいが、予め金属塩を形成させずに、金属塩を形成することとなる前記のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸および前記金属の酸化物、水酸化物又は炭酸塩などを配合して、混練操作の過程でこれらを反応させて生成させてもよい。
【0063】
架橋性ニトリルゴム組成物
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)、短繊維(C)、および、必要に応じて用いられるα,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(D)に、架橋剤を含有させてなるものである。本発明で使用される架橋剤は、本発明のニトリル基含有高飽和共重合ゴムを架橋できるものであれば良く、特に限定されないが、有機過酸化物架橋剤、硫黄架橋剤、ポリアミン架橋剤などが挙げられ、有機過酸化物架橋剤が好ましい。
【0064】
有機過酸化物架橋剤としては、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類などが挙げられ、好ましくはジアルキルパーオキサイド類である。ジアルキルパーオキサイド類としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどが挙げられる。ジアシルパーオキサイド類として、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイドなどが挙げられる。パーオキシエステル類としては、例えば、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなど)などが挙げられる。
【0065】
硫黄架橋剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄などの硫黄;4,4’−ジチオモルホリンやテトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、高分子多硫化物など有機硫黄化合物;などが挙げられる。
【0066】
ポリアミン架橋剤としては、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、2,2−ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジドなどが挙げられる。なお、ポリアミン架橋剤が用いられるのは、通常、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)またはニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)として、カルボキシル基を含有する単量体を共重合したものを用いた場合である。
【0067】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、架橋剤の含有量は、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)とニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)の合計100重量部に対し、好ましくは0.1〜20重量部、特に好ましくは1〜10重量部である。架橋剤の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の引張応力が悪化するおそれがある。一方、多すぎると、得られるゴム架橋物の耐疲労性が悪化する可能性がある。
【0068】
また、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)、短繊維(C)、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩(D)および架橋剤以外に、ゴム分野において通常使用される配合剤、たとえば、カーボンブラックやシリカなどの補強性充填材、炭酸カルシウムやクレイなどの非補強性充填材、架橋促進剤、架橋助剤、架橋遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、一級アミンなどのスコーチ防止剤、可塑剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、受酸剤、帯電防止剤、顔料などを配合することができる。これらの配合剤の配合量は、本発明の目的や効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、配合目的に応じた量を配合することができる。
【0069】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、本発明の効果が阻害されない範囲で、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)およびニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)以外のゴムを配合してもよい。
このようなゴムとしては、アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム、エピクロロヒドリンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴムなどが挙げられる。
【0070】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)およびニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)以外のゴムを配合する場合における、架橋性ニトリルゴム組成物中の配合量は、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)とニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)の合計100重量部に対し、好ましくは30重量部以下であり、より好ましくは20重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下である。
【0071】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、上記各成分を好ましくは非水系で混合して調製される。本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を調製する方法に限定はないが、通常、架橋剤および熱に不安定な架橋助剤などを除いた成分を、バンバリーミキサ、インターミキサ、ニーダなどの混合機で一次混練した後、ロールなどに移して架橋剤や熱に不安定な架橋助剤などを加えて二次混練することにより調製できる。
【0072】
このようにして得られる本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、コンパウンドムーニー粘度[ML
1+4、100℃]が、好ましくは15〜200、より好ましくは20〜150、特に好ましくは50〜100であり、加工性に優れるものである。
【0073】
ゴム架橋物
本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明のゴム架橋物は、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を用い、たとえば、所望の形状に対応した成形機、例えば押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10〜200℃、好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、通常、100〜200℃、好ましくは130〜190℃であり、架橋時間は、通常、1分〜24時間、好ましくは2分〜6時間である。
【0074】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
【0075】
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
【0076】
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、引張応力が非常に高く、低発熱性に優れたものである。
【0077】
このため、本発明のゴム架橋物は、O−リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、ウェルヘッドシール、空気圧機器用シール、エアコンディショナの冷却装置や空調装置の冷凍機用コンプレッサに使用されるフロン若しくはフルオロ炭化水素または二酸化炭素の密封用シール、精密洗浄の洗浄媒体に使用される超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素の密封用シール、転動装置(転がり軸受、自動車用ハブユニット、自動車用ウォーターポンプ、リニアガイド装置及びボールねじ等)用のシール、バルブ及びバルブシート、BOP(Blow Out Preventar)、プラターなどの各種シール材;インテークマニホールドとシリンダヘッドとの連接部に装着されるインテークマニホールドガスケット、シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板及び負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;
【0078】
印刷用ロール、製鉄用ロール、製紙用ロール、工業用ロール、事務機用ロールなどの各種ロール;平ベルト(フィルムコア平ベルト、コード平ベルト、積層式平ベルト、単体式平ベルト等)、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト等)、Vリブドベルト(シングルVリブドベルト、ダブルVリブドベルト、ラップドVリブドベルト、背面ゴムVリブドベルト、上コグVリブドベルト等)、CVT用ベルト、タイミングベルト、歯付ベルト、コンベアーベルト、などの各種ベルト;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジェターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;ダストカバー、自動車内装部材、タイヤ、被覆ケーブル、靴底、電磁波シールド、フレキシブルプリント基板用接着剤等の接着剤、燃料電池セパレーターの他、化粧品、及び医薬品の分野、エレクトロニクス分野など幅広い用途に使用することができる。これらの中でも、本発明のゴム架橋物はベルトとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験、評価は下記によった。
【0080】
ヨウ素価
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムのヨウ素価は、JIS K 6235に準じて測定した。
【0081】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムの組成
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムを構成する各単量体単位の含有割合は、以下の方法により測定した。
すなわち、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分を含む)の含有割合は、水素添加前のニトリルゴムを用いて、ヨウ素価(JIS K 6235による)を測定することにより算出した。
アクリロニトリル単位の含有割合は、JIS K6383に従い、ケルダール法により、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム中の窒素含量を測定することにより算出した。
【0082】
ムーニー粘度(ポリマー・ムーニーおよびコンパウンド・ムーニー)
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムのムーニー粘度(ポリマー・ムーニー)、および、架橋性ニトリルゴム組成物のムーニー粘度(コンパウンド・ムーニー)は、JIS K6300−1に従って測定した(単位は[ML
1+4、100℃])。
【0083】
バンバリー加工性(ダンプアウト時の粘着性)
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物をバンバリーミキサーで混練する際の、加工性を以下の方法によって評価した。
バンバリーミキサーで、架橋剤を配合する前のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物を混練し、混練後のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物のダンプアウト(排出)時に、目視により粘着状況を観察し、以下の基準でバンバリー加工性を評価した。
○ ゴム組成物がバンバリーミキサーの排出口に粘着しない。
△ ゴム組成物がバンバリーミキサーの排出口に若干粘着する。
× ゴム組成物がバンバリーミキサーの排出口に著しく粘着する。
【0084】
常態物性(引張強度、引張応力、伸び、硬さ)
架橋性ニトリルゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレス成形してシート状のゴム架橋物を得た。得られたシート状のゴム架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。そして、得られた試験片を用いて、JIS K6251に従い、ゴム架橋物の破断時の引張強度、10%引張応力、20%引張応力、100%引張応力、および、破断時の伸びを、また、JIS K6253に従い、デュロメータ硬さ試験機(タイプA)を用いてゴム架橋物の硬さをそれぞれ測定した。
【0085】
発熱性(動的粘弾性試験)
上記常態物性の評価と同様にしてシート状のゴム架橋物を得た後、得られたシート状のゴム架橋物を幅10mm、長さ50mmに打ち抜いて動的粘弾性試験用のゴム架橋物を得た。そして、得られた動的粘弾性試験用のゴム架橋物について、動的粘弾性測定装置(商品名「Explexor 500N」、GABO QUALIMETER Testanlagen GmbH社製)を用いて、測定周波数:50Hz、静的歪:1.0%、動的歪:0.2%、温度:100℃、チャック間距離:30mm、測定モード:テンションモード、の条件でtanδを測定した。
そして、得られたtanδの値を、比較例1の測定値を100とする指数で示した。この値が小さいほど、動的発熱が少なく、低発熱性に優れる。
【0086】
製造例1(ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a1)の製造)
反応器内に、イオン交換水200部、脂肪酸カリウム石鹸(脂肪酸のカリウム塩)2.25部を添加して石鹸水溶液を調製した。そして、この石鹸水溶液に、アクリロニトリル42部、およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.45部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン58部を仕込んだ。次いで、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、攪拌しながら16時間重合反応を行なった。次いで、濃度10%のハイドロキノン(重合停止剤)水溶液0.1部を加えて重合反応を停止し、水温60℃のロータリーエバポレ−タを用いて残留単量体を除去して、ニトリルゴムのラテックス(固形分濃度約25重量%)を得た。
【0087】
次いで、上記にて得られたラテックスを、そのニトリルゴム分に対して3重量%となる量の硫酸アルミニウムの水溶液に加えて撹拌してラテックスを凝固し、水で洗浄しつつ濾別した後、60℃で12時間真空乾燥してニトリルゴムを得た。そして、得られたニトリルゴムを、濃度12%となるようにアセトンに溶解し、これをオートクレーブに入れ、パラジウム・シリカ触媒をニトリルゴムに対して500重量ppm加え、水素圧3MPa、温度50℃で水素添加反応を行なった。水素添加反応終了後、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なってニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a1)を得た。得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a1)の組成は、アクリロニトリル単位40.5重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分を含む)59.5重量%であり、ヨウ素価は7、ポリマー・ムーニー粘度[ML
1+4、100℃]は100であった。
【0088】
製造例2(ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a2)の製造)
製造例1において、t−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.45部を0.55部に変更した以外は製造例1と同様にして、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a2)を得た。得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a2)の組成は、アクリロニトリル単位40.5重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分を含む)59.5重量%であり、ヨウ素価は7、ポリマー・ムーニー粘度[ML
1+4、100℃]は75であった。
【0089】
製造例3(ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a3)の製造)
製造例1において、アクリロニトリル42部を37部に、t−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.45部を0.5部に、1,3−ブタジエン58部を63部に変更した以外は製造例1と同様にして、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a3)を得た。得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a3)の組成は、アクリロニトリル単位36.2重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分を含む)63.8重量%であり、ヨウ素価は7、ポリマー・ムーニー粘度[ML
1+4、100℃]は85であった。
【0090】
製造例4(ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a4)の製造)
製造例3において、t−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部を0.55部に変更した以外は製造例3と同様にして、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a4)を得た。得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a4)の組成は、アクリロニトリル単位36.2重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分を含む)63.8重量%であり、ヨウ素価は7、ポリマー・ムーニー粘度[ML
1+4、100℃]は72であった。
【0091】
製造例5(ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(b1)の製造)
二軸押出機(7つのバレルを結合して構成したもの)を用いて、製造例1で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a1)100部に対しポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)(商品名「ノクラック224」、大内新興化学社製、アミン・ケトン類老化防止剤)1部を添加し、下記条件で、高せん断力付与処理を行い、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(b1)を得た。
スクリュー回転数:300rpm
設定温度:バレル1(投入ゾーン)100℃
設定温度:バレル2(溶融ゾーン)250℃
バレル3〜6(混練、せん断ゾーン)250〜290℃
バレル7(混練、脱気ゾーン)200〜250℃
得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(b1)の組成は、アクリロニトリル単位40.5重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分を含む)59.5%であり、ヨウ素価は7、ポリマー・ムーニー粘度[ML
1+4、100℃]は25であった。
【0092】
製造例6(ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(b2)の製造)
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a1)に代えて製造例3で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a3)を用いた以外は製造例5と同様にして、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(b2)を得た。得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(b2)の組成は、アクリロニトリル単位36.2重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分を含む)63.8重量%であり、ヨウ素価は7、ポリマー・ムーニー粘度[ML
1+4、100℃]は25であった。
【0093】
実施例1
バンバリーミキサを用いて、製造例1で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a1)50部、製造例5で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(b1)50部、N774カーボンブラック(商品名「シーストS」、東海カーボン社製)50部、4,4’−ジ−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ノクラックCD」、大内振興化学社製、老化防止剤)1.5部、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル(商品名「アデカサイザーC−8」、ADEKA社製、可塑剤)5部、およびコポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド短繊維(商品名「テクノーラDCF 3mm」、帝人テクノプロダクツ社製、平均繊維長3mm、平均繊維直径12μm、アスペクト比250の短繊維)3部を混練した。次いで、混合物をロールに移して、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン40%品(商品名「Vul Cup 40KE」、GEO Specialty Chemicals Inc製、有機過酸化物架橋剤)8部を添加して混練することで、架橋性ニトリルゴム組成物を得た。
【0094】
そして、上述した方法により、バンバリー加工性、コンパウンド・ムーニー粘度、常態物性、発熱性の各評価・試験を行った。なお、バンバリー加工性は、架橋剤としての1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン40%品を配合する前のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物を、バンバリーミキサにより混練した後、混練後のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物をダンプアウト(排出)した際に、目視により粘着状況を観察することにより評価した。結果を表1に示す。
【0095】
実施例2
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a1)50部を65部に、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(b1)50部を35部に変更した以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
実施例3
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a1)50部を75部に、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(b1)50部を25部に変更した以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
実施例4
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a1)50部を30部に、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(b1)50部を70部に変更した以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
実施例5
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a1)50部を製造例3で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a3)50部に、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(b1)50部を、製造例6で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(b2)50部に変更した以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
実施例6
コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド短繊維(商品名「テクノーラDCF 3mm」、帝人テクノプロダクツ社製、平均繊維長3mm、平均繊維直径12μm、アスペクト比250の短繊維)3部を、コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド短繊維(商品名「テクノーラDCF 6mm」、帝人テクノプロダクツ社製、平均繊維長6mm、平均繊維直径12μm、アスペクト比500の短繊維)に変更した以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
実施例7
N774カーボンブラック50部を20部に変更し、メタクリル酸亜鉛15部を加えた以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
実施例8
N774カーボンブラック50部を20部に変更し、メタクリル酸亜鉛15部を加えた以外は、実施例5と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
比較例1
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a1)50部を100部に変更し、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(b1)を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
比較例2
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a1)100部を、製造例2で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a2)100部に変更した以外は、比較例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
比較例3
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a1)100部を、製造例3で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a3)100部に変更した以外は、比較例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0105】
比較例4
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a1)100部を、製造例4で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a4)100部に変更した以外は、比較例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0106】
比較例5
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a1)100部を、製造例5で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(b1)100部に変更した以外は、比較例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0107】
比較例6
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a1)100部を、製造例6で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(b2)100部に変更した以外は、比較例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0108】
比較例7
コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド短繊維(商品名「テクノーラDCF 3mm」、帝人テクノプロダクツ社製、平均繊維長3mm、平均繊維直径12μm、アスペクト比250の短繊維)を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
表1より、ムーニー粘度[ML
1+4、100℃]50〜200のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)、ムーニー粘度[ML
1+4、100℃]5〜45のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B)、および、平均繊維長0.1〜12mmの短繊維(C)を含有してなるニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物は、加工性に優れ(コンパウンド・ムーニーが低く、かつ、ダンプアウト時の粘着性が少ない)、また、得られるゴム架橋物の引張応力が非常に高く、低発熱性に優れる結果となった(実施例1〜8)。なお、メタクリル酸の亜鉛塩を添加した場合には、引張強度と引張応力がさらに向上するだけでなく、低発熱性にもより一層優れていた(実施例7および8)。
【0112】
一方、ムーニー粘度[ML
1+4、100℃]が50〜200のニトリル基含有高飽和共重合体のみを用い、ムーニー粘度[ML
1+4、100℃]5〜45のニトリル基含有高飽和共重合体ゴムを用いなかった場合は、ゴム組成物の加工性が良好でなく(比較例1〜3)、得られるゴム架橋物が引張応力に劣り(比較例1〜4)、低発熱性が悪い場合があった(比較例4)。
またムーニー粘度[ML
1+4、100℃]5〜45のニトリル基含有高飽和共重合体ゴムのみを用い、ムーニー粘度[ML
1+4、100℃]が50〜200のニトリル基含有高飽和共重合体ゴムを用いなかった場合は、ゴム組成物の加工性が良好でなく(ダンプアウト時の粘着性が悪い)、また得られるゴム架橋物の低発熱性が劣り、引張応力も十分でなかった(比較例5および6)。
さらに、アラミド短繊維を配合しなかった場合は、得られるゴム架橋物の引張応力が著しく低く、また低発熱性にも劣る結果となった(比較例7)。