(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、ガラス基板とは、その表面に表示パネル用部材が形成されて表示パネルを構成する、ガラスからなるシートやフィルムをいう。支持ガラス板とは、表示パネルを構成しない、ガラスからなるシートやフィルムをいう。ガラス積層体とはこれらガラス基板と支持ガラス板との積層体であり、表示パネルの製造に使用される。ガラス積層体は、表示パネル製造工程の途中まで(ガラス基板と支持ガラス板が分離されるまで)使用され、ガラス基板と支持ガラス板とが分離された後は、支持ガラス板は表示パネル製造工程から除かれ、表示パネルを構成する部材とはならない。ガラス基板から分離された支持ガラス板は、支持ガラス板として再利用することができる。すなわち、新たなガラス基板と積層して、ガラス積層体を得ることができる。
【0015】
支持ガラス板は、ガラス基板を支持して補強し、表示パネル製造過程においてガラス基板の変形、傷付き、破損等を防止するために使用される。また、従来のガラス基板よりも薄いガラス基板を使用する場合は、従来の厚さのガラス基板に適合した表示パネル製造工程に適用するために、従来のガラス基板と同じ厚さのガラス積層体とすることにより薄いガラス基板を使用できるようにすることも、支持ガラス板を使用する目的の1つである。
【0016】
本発明において、表示パネル用部材とは、ガラス基板の表面に形成されて表示パネルを構成する部材またはその一部をいう。ガラス積層体のガラス基板側表面(すなわち、露出しているガラス基板表面)に形成される表示パネル用部材は、予めガラス基板上に形成されかつ表示パネルを構成する、すべての部材(以下、単に「全部材」ともいう)でなくてもよい。ガラス積層体から分離された表示パネル用部材(部分部材)付きガラス基板を、その後の工程で表示パネル用部材(全部材)付きガラス基板とすることができるからである。さらにその後、表示パネル用部材(全部材)付きガラス基板を用いて表示パネルが製造される。また、ガラス積層体から分離された表示パネル用部材(全部材または部分部材)付きガラス基板には、その分離面に他の表示パネル用部材が形成されてもよい。また、表示パネル用部材(全部材)付きガラス積層体を用いて表示パネルを組み立て、その後支持ガラス板を分離して表示パネルを製造することができる。さらに、表示パネル用部材(全部材)付きガラス積層体を2枚用いて表示パネルを組み立て、その後2枚の支持ガラス板を分離して表示パネルを製造することもできる。
【0017】
本発明において、表示パネルとは、液晶パネル(LCD)、有機ELパネル(OLED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、フィールドエミッションディスプレイパネル(FED)等の表示パネルをいう。表示パネルはその構成部材として1枚または2枚のガラス基板を有する。場合により、3枚以上のガラス基板を有している場合もある。本発明において、表示パネルは、表示パネル用部材付きガラス基板(本発明のガラス積層体を使用して得られたもの)を用いて製造される。表示パネルを構成するガラス基板が複数枚存在する場合、表示パネルの製造に使用する複数枚ガラス基板の一部は、本発明のガラス積層体を使用して得られた表示パネル用部材付きガラス基板ではない、他のガラス基板であってもよい。例えば、本発明のガラス積層体を経ることなく製造された表示パネル用部材付きガラス基板や表示パネル用部材が形成されていないガラス基板をガラス基板の一部として使用して表示パネルを製造することができる。
【0018】
本発明において、ガラス基板と支持ガラス板とを積層してガラス積層体とする際、互いに接触するガラス基板表面と支持ガラス板表面とを、それぞれ、ガラス基板の積層面、支持ガラス板の積層面という。ガラス基板の積層面とは反対側の面をガラス基板の非積層面といい、支持ガラス板の積層面とは反対側の面を支持ガラス板の非積層面という。また、ガラス基板の積層面となる側の主面を(ガラス基板の)第1主面ともいい、支持ガラス板の積層面となる側の主面を(支持ガラス板の)第1主面ともいう。同様に、ガラス基板の非積層面となる側の主面を(ガラス基板の)第2主面ともいい、支持ガラス板の非積層面となる側の主面を(支持ガラス板の)第2主面ともいう。
【0019】
ガラス基板と支持ガラス板は、いずれも、ガラス原料を溶融し、溶融ガラスを板状に成形して得られる。このような成形方法は、一般的なものであってよく、例えばフロート法、フュージョン法、スロットダウンドロー法、フルコール法、ラバース法等が用いられる。また、特に薄いものは、いったん板状に成形したガラスを成形可能温度に加熱し、延伸等の手段で引き伸ばして薄くする方法(リドロー法)で成形して得られる。
【0020】
ガラス基板と支持ガラス板の材質であるガラスは、いずれも、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、高シリカガラス、その他の酸化ケイ素を主な成分とする酸化物系ガラスが好ましい。酸化物系ガラスとしては、酸化物換算による酸化ケイ素の含有量が40〜90質量%のガラスが好ましい。ガラス基板用ガラスとしては、表示パネルの種類により要求されるガラス特性が異なることより、その要求を満たすガラスが採用される。支持ガラス板用ガラスとしては、要求されるガラス特性の制約は少ないが、ガラス積層体が表示パネル用部材形成などの際に加熱処理される場合は、ガラス基板のガラスと熱膨張率差の少ないガラスを使用することが好ましい。特に支持ガラス板のガラスはガラス基板と同じガラスであることが、熱膨張率差が少なく、他の物性も同等であることより、好ましい。
【0021】
ガラス基板のガラスとしては、表示パネルの種類により要求されるガラス特性に合致するガラスが使用される。液晶パネル(LCD)用のガラス基板はアルカリ金属成分の溶出が液晶に影響を与えやすいことより、アルカリ金属成分を含まないガラス(無アルカリガラス)やアルカリ金属成分含量が少ないガラス(低アルカリガラス)からなる。このように、ガラス基板のガラスは、適用される表示パネル及びその製造工程に基づいて適宜選択される。
【0022】
また、ガラス基板のガラスとしては熱膨張率の低いガラスが特に好ましい。ガラス基板表面上に表示パネル用部材を形成するには多くの場合熱処理をともなう。ガラス基板のガラスの熱膨張率が大きいと、この熱処理に様々な不都合を生じやすい。例えば、ガラス基板上に薄膜トランジスタ(TFT)を形成する場合、加熱下でTFTが形成されたガラス基板を冷却するとガラス基板の熱収縮によりTFTの位置ずれが過大になるおそれがある。本発明におけるガラスの熱膨張率の指標としては、JIS R 3102−1995に規定されている平均線膨張係数を用いる。ガラス基板のガラスの25〜300℃における平均線膨張係数は、好ましくは0〜50×10
−7/℃であり、より好ましくは0〜40×10
−7/℃である。この温度の上限300℃は、通常の表示パネルの製造において、ガラス基板にかかる温度の上限に相当する。
【0023】
支持ガラス板のガラスとしては、ガラス基板のガラスとの25〜300℃における平均線膨張係数の差が15×10
−7/℃以下であるガラスを使用することが好ましい。ガラス基板のガラスと支持ガラス板のガラスとの25〜300℃における平均線膨張係数の差が大き過ぎると、表示パネルの製造工程における加熱冷却時に、ガラス積層体が激しく反ったり、ガラス基板と支持ガラス板とが剥離する可能性がある。ガラス基板のガラスと支持ガラス板のガラスとが同じガラスである場合には、このような問題を生じるおそれがない。
【0024】
ガラス基板の厚さは、特に限定されないが、薄型化及び/又は軽量化の観点から、通常0.8mm未満であり、好ましくは0.3mm以下であり、さらに好ましくは0.15mm以下である。0.8mm以上の場合、薄型化及び/又は軽量化の要求を満たせない。0.3mm以下の場合、ガラス基板に良好なフレキシブル性を与えることが可能である。0.15mm以下の場合、ガラス基板をロール状に巻き取ることが可能である。また、ガラス基板の厚さは、ガラス基板の製造が容易であること、ガラス基板の取り扱いが容易であること等の理由から、0.04mm以上であることが好ましい。
【0025】
支持ガラス板の厚さは、支持ガラス板を用いて表示パネルを製造する際に扱いやすく、割れにくい等の理由から、0.08mm以上であることが好ましい。支持ガラス板は、ガラス基板よりも厚くてもよいし、薄くてもよい。好ましくは、目的に応じて前記範囲から選択されたガラス基板の厚さと後述のガラス積層体の厚さから、支持ガラス板の厚さが選択される。
【0026】
ガラス基板の大きさや形状は、表示パネルの大きさや形状にしたがって選択される。通常、表示パネルの形状は矩形であることより、ガラス基板の形状もまた通常矩形である。支持ガラス板の大きさや形状は、通常、ガラス基板の大きさや形状とほぼ同じものが使用される。支持ガラス板の大きさとしては、ガラス基板を支持する観点から、ガラス基板の大きさと同じかそれよりも多少大きいものが好ましい。すなわち、支持ガラス板の第1主面の外形寸法はガラス基板の第1主面の外形寸法と等しいか、または大きいことが好ましい。
【0027】
次に、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。尚、各図面において、図を見やすくするため、ガラス積層体の形状の比例関係を誇張して描いている。
【0028】
本実施形態では、表示パネル用部材の形成工程において、ガラス積層体の温度が300℃を超えない場合について説明する。
【0029】
図1は、本発明の第1実施形態におけるガラス積層体を示す断面図である。
図1に示すように、ガラス積層体10は、ガラス基板12と支持ガラス板14とが積層された積層体であって、ガラス基板12の積層面(第1主面)12aと支持ガラス板14の積層面(第1主面)14aとが直接接触し、両表面が密着している。ガラス積層体10自体は、2つの面を有し、一方の面はガラス基板12の非積層面(第2主面)12bからなり(以下、このガラス積層体の面をガラス基板面12bともいう)、他方の面は支持ガラス板14の非積層面(第2主面)14bからなる。
【0030】
本発明のガラス積層体において、両ガラス板12、14の積層面12a、14aが密着しているとは、ガラス積層体のガラス基板面12b上に表示パネル用部材が形成され、ガラス基板と支持ガラス板とを分離する段階に至った時までに、ガラス基板と支持ガラス板とが分離しない程度の結合力で積層面12aと積層面14aとが接触していることを意味する。また、この積層面の結合力は、ガラス基板と支持ガラス板とを分離する操作を行ったときは、両ガラス板12、14が容易に分離する程度の結合力である必要がある。
【0031】
上記結合力は、表示パネルの製造工程において扱いやすい等の理由から、後述の剥離試験において、剥離強度が0.2N/cm以上となる結合力であることが好ましい。また、この結合力は、ガラス基板12と支持ガラス板14とを容易に分離することができる観点から、後述の剥離試験において、剥離強度が100N/cm以下となる結合力であることが好ましい。より好ましくは、剥離強度が50N/cm以下となる結合力であり、さらに好ましくは剥離強度が40N/cm以下となる結合力である。積層面12a、14aの結合力が過大になると、分離の際にガラス基板12、支持ガラス板14の一方又は両方が損傷することがある。
【0032】
一般に、ガラス板同士を積層すると積層面においてガラス表面同士が結合してある程度の結合力で密着することは公知であり、この結合力は、両ガラス表面に存在するシラノール基(Si−OH)同士の水素結合や部分的な脱水縮合による化学結合の生成、両ガラス表面間のファンデルワールス力、などによると考えられている。本発明のガラス積層体においては、積層面12a、14aは融着(ガラスを溶融して結合させること)されない。融着させると積層面の結合力が高くなりすぎて、ガラス基板と支持ガラス板との分離が困難となる。
【0033】
通常、ガラス積層体は、ガラス基板面12b上に表示パネル用部材を形成する際、300℃程度まで加熱されることが少なくない。本発明のガラス積層体は、この程度の加熱を経ても、ガラス基板と支持ガラス板との分離が困難となることはない。シラノール基(Si−OH)同士の脱水縮合反応は加熱により促進されるが、300℃程度の加熱では、両ガラス表面のシラノール基同士の脱水縮合により化学結合が生成し難く、上記結合力は高くなりすぎることはないと考えられる。
【0034】
ガラス基板と支持ガラス板の積層面12a、14a間の結合力は積層面12a、14aの種々の要因により変化しやすいが、いずれも平滑な平面であることが少なくとも必要である。両表面が平面でないと積層面間に空隙が生じ、両表面が密着しない。同様に、両表面が平滑でないと、積層面間に微細な空隙が生じやすく、両表面が密着しにくい。また、両表面は充分に清浄であることが好ましい。積層面に汚れなどの異物が存在すると、両表面が密着しにくい。そのほか、ガラス表面のシラノール基密度、ガラス表面のガラス組成などが影響することも考えられる。また、ガラス基板と支持ガラス板それぞれの積層面は同一とは限られず、例えば平滑性や清浄度の異なる積層面の組み合わせによっても結合力が変化すると考えられる。したがって、好ましくは、上記剥離試験による剥離強度が上記の範囲となるように適宜調整して使用することが好ましい。
【0035】
ガラス基板12の積層面(第1主面)12aの平均表面粗さ及び支持ガラス板14の積層面(第1主面)14aの平均表面粗さは、いずれも、1.0nm未満であることが好ましい。両積層面の平均表面粗さが1.0nm以上であると、両表面の実質的な接触面積が小さくなり過ぎるので、両面を充分な結合力で密着させることができない。これら積層面の平均表面粗さは、ガラス基板12と支持ガラス板14を積層する前に、それぞれ積層面となる第1主面12a、14aを測定して得られる値である。
【0036】
ガラス基板12や支持ガラス板14の材質、両材質の組み合わせ、ガラス基板12や支持ガラス板14の形状や形状の組み合わせ、などの要因により、いずれも平均表面粗さ1.0nm未満のガラス基板12や支持ガラス板14の組み合わせでは充分な密着性が得られない場合がある。したがって、ガラス基板と支持ガラス板の少なくとも一方の平均表面粗さを0.8nm以下とすることが好ましく(他方は1.0nm未満であってもよい)、ガラス基板12と支持ガラス板14の平均表面粗さを、いずれも、0.8nm以下とすることがより好ましい。なお、ガラス基板12と支持ガラス板14のいずれにおいても、非積層面12b、14bの平均表面粗さは、上記の範囲に限定されない。
【0037】
なお、本発明においてガラス表面の平均表面粗さとは、任意に選択された2点以上における算術平均高さの平均値をいう。算術平均高さとは、JIS B 0601−2001に規定されている算術平均高さRaのことであり、原子間力顕微鏡によって各点における5μm×5μmの測定領域を測定することによって求められる。
【0038】
第1主面の平均表面粗さが上記範囲内にあるガラス基板や支持ガラス板は、研磨やエッチングなどの方法でガラス面を平滑化する方法で得ることができる。また、ガラス板を製造する方法によっては、当初から平均表面粗さが上記範囲内にあるガラス基板や支持ガラス板を製造することができる。さらに、市販のガラス基板や支持ガラス板によっては、すでに研磨等の平滑化処理を行ったものもある。したがって、ガラス基板や支持ガラス板を使用するにあたり、その第1主面の平均表面粗さを測定してその平均表面粗さが上記範囲外である場合には研磨等を行って平均表面粗さが上記範囲内のものとして使用することが好ましい。
【0039】
ガラス基板12と支持ガラス板14の積層面12a、14aがいずれも充分に清浄であることは、積層前にその積層面となる第1主面12a、14aの水接触角を測定して判断される。一般に、ガラス表面の活性度(清浄度)が低いほどガラス表面の水接触角が大きくなる傾向がある。従って、第1主面12a、14aの水接触角が大き過ぎると、第1主面12a、14aの活性度(清浄度)が低過ぎるので、第1主面12a、14aを充分な結合力で密着させることができない。
【0040】
ガラス基板と支持ガラス板のそれぞれの第1主面12a、14aの水接触角は、いずれも、5°以下であることが好ましい。ここで、水接触角とは、JIS R 3257−1999に規定されている接触角のことである。ガラス基板12や支持ガラス板14の材質、両材質の組み合わせ、ガラス基板12や支持ガラス板14の形状や形状の組み合わせ、などの要因により、いずれもその第1主面の水接触角が5°以下のガラス基板12や支持ガラス板14の組み合わせでは充分な密着性が得られない場合は、少なくとも一方の第1主面の水接触角を4°以下とすることが好ましく、ガラス基板12と支持ガラス板14の第1主面14aの水接触角を、いずれも、4°以下とすることがより好ましい。なお、ガラス基板12と支持ガラス板14のいずれにおいても、非積層面12b、14bの水接触角は、上記の範囲に限定されない。
【0041】
第1主面を有するガラス基板や支持ガラス板は、積層前にその第1主面12a、14aを洗浄して水接触角の低い第1主面とした後、積層に供することが好ましい。洗浄方法は、ガラス製品の洗浄に用いられる一般的な方法であってよい。例えば、ウェット洗浄としては、超音波洗浄、セリア砥粒などの砥粒を有する研磨液を用いた研磨、フッ酸や硝酸などの酸を含む酸性洗浄液を用いた酸洗浄、アンモニアや水酸化カリウムなどの塩基を含むアルカリ洗浄液を用いたアルカリ洗浄、界面活性剤やその他の洗剤を含む洗浄液を用いた洗浄等がある。また、ドライ洗浄としては、紫外光、オゾンを用いた光化学洗浄、プラズマを用いた物理洗浄等がある。これらの洗浄方法は、単独で又は組み合わせて用いられる。洗浄終了後は、必要に応じて、洗浄剤が残留しないように乾燥を行う。
【0042】
ガラス積層体10の厚さ(ガラス基板12と支持ガラス板14との厚さの合計)は、ガラス積層体10が現行の製造ラインで搬送することができるように設定されることが好ましい。例えば、現行の製造ラインが厚さ0.7mmの基板を搬送させるように設計されており、ガラス基板12の厚さが0.3mmである場合、支持ガラス板14の厚さは、0.4mmであることが好ましい。現行の製造ラインは厚さ0.2mm以上1.0mm以下の基板を搬送するように設計されているものが多いので、ガラス積層体10の厚さは0.2mm以上1.0mm以下が好ましい。
【0043】
本実施形態のガラス積層体10では、
図1に示すように、ガラス基板12と支持ガラス板14とが直接接触し密着しているので、両ガラス板12、14の間にOリングや樹脂層が介在する場合と比較して、ガラス積層体10が撓みにくい。このため、ガラス積層体は平坦性に優れており、このことはガラス積層体のガラス基板面の平坦性が優れていることを意味している。
【0044】
また、本実施形態のガラス積層体10では、ガラス基板12と支持ガラス板14とが直接接触して密着しているので、ガラス基板と支持ガラス板の間に剥離性を有する樹脂層を介在させる場合と比較して、部品点数を削減することができ、コストを削減することができる。また、ガラス積層体から分離した支持ガラス板は、容易に再利用できる。すなわち、いったん使用された支持ガラス板は樹脂層が存在しないことより、そのまま、または必要により洗浄等を行って、直ちに新たなガラス基板と積層することができる。更に、ガラス積層体から分離した支持ガラス板を再使用しない場合であっても、樹脂層を支持ガラス板に接着して用いる場合と比較して、樹脂層を支持ガラス板から剥離する工程が不要となるため、支持ガラス板14をガラス原料として容易に再利用することができる。
【0045】
更に、本実施形態のガラス積層体10では、両ガラス板12、14の間に剥離性を有する樹脂層を介在させる場合と比較して、耐熱性に優れている。例えば、大気中300℃の温度で1時間加熱した後でも、ガラス基板積層面12aと支持ガラス板積層面14aとの間の剥離試験における剥離強度の変化は僅かであり、積層面間の結合力は維持されている。
【0046】
図2Aは、
図1の変形例を示す断面図であって、
図2Bは、
図1の変形例を示す平面図である。以下、
図2A及び
図2Bに示すガラス積層体20の構成について説明するが、
図1に示すガラス積層体10と同一構成については、同一符号を付して説明を省略する。
【0047】
図2A及び
図2Bに示す変形例では、支持ガラス板14は、その第1主面14aの周縁部に凹部22を有する。凹部22は積層面内に存在し、ガラス基板12の第1主面12aにより覆われ、密閉されている。凹部22内は減圧雰囲気にあることが好ましい。凹部22内が減圧雰囲気にあることで、ガラス基板12が支持ガラス板14に減圧吸着され、積層面12a、14a間の結合力を高めることが可能となる。凹部22が支持ガラス板14の中央部に形成されている場合、表示パネルの製造工程においてフォトリソグラフィ技術を用いて支持ガラス板14側からガラス基板12の中央部へ光を入射すると、入射する光が凹部22の影響を受ける。このため、表示パネル用部材を精度良く形成することが困難となる。
【0048】
次に、ガラス積層体の製造方法について説明する。
【0049】
本発明のガラス積層体は、ガラス基板と支持ガラス板とを積層することにより製造される。積層は、ガラス基板と支持ガラス板とを所定の配置で重ね、圧接して両者を密着させることにより行われる。また、ガラス基板が0.3mm以下、特に0.15mm以下、の場合、ガラス基板がフレキシブル性を有することより、フレキシブルなプラスチックフィルムを板体表面に積層する場合に使用される積層法を使用することもできる。例えばガラス基板をロールに沿わせて支持ガラス板面に重ねながら圧接する、ロール積層法を使用することもできる。ガラス基板の第1主面と支持ガラス板の第1主面とを密着させるために、それらの面の間に空気等の気体が残留することは好ましくない。両第1主面間に気体が残留するとガラス積層体が表示パネルの製造工程等で加熱された際にその気体が膨張し、積層面が剥離しやすくなる。さらに、ガラス基板が局所的に変形したり割れたりするおそれも生じる。そのため、両第1主面間に気体が残留しにくい積層法で積層することが好ましい。
【0050】
本発明のガラス積層体は、ガラス基板と支持ガラス板とを減圧雰囲気下で積層することにより製造されることが好ましい。以下、この積層法を減圧積層法という。減圧雰囲気は、圧力が、大気圧をゼロとして規格化すると、好ましくは−60kPa以下であり、より好ましくは−100kPa以下である。大気圧をゼロとして規格化せずに言い換えると、減圧雰囲気は、圧力が好ましくは41.3kPa以下であり、より好ましくは1.3kPa以下である。
【0051】
減圧積層法に限られず、本発明のガラス積層体を製造する場合は、予め研磨や洗浄等を行ったガラス基板と支持ガラス板を使用することが好ましい。例えば、少なくとも第1主面が平滑なガラス基板を洗浄して少なくとも第1主面の水接触角が5°以下のガラス基板を用意し、同様に少なくとも第1主面が平滑な支持ガラス板を洗浄して少なくとも第1主面の水接触角が5°以下の支持ガラス板を用意し、これらガラス基板と支持ガラス板とを減圧可能なプレス装置に入れてそれらの第1主面同士を対向させ、プレス装置内を減圧雰囲気として両者を重ねて圧接し、ガラス積層体とする。特に、ガラス積層体を製造する際は予めガラス基板と支持ガラス板の積層面となる両者の第1主面を洗浄して積層に供することが好ましい。
【0052】
次に、ガラス基板と支持ガラス板の洗浄を行って減圧積層法でガラス積層体10を製造する方法について
図3を参照して説明する。
【0053】
図3は、ガラス積層体10の製造方法を示す工程図である。
【0054】
このガラス積層体10の製造方法は、
ガラス基板12及び支持ガラス板14の第1主面12a、14aをそれぞれ洗浄する洗浄工程(ステップS11)と、
ガラス基板12と支持ガラス板14とを積層する第1積層工程(ステップS12)と、を有する。
【0055】
ガラス基板12及び支持ガラス板14として、その少なくとも第1主面12a、14aが平滑な平面(平均表面粗さ(Ra)が、それぞれ1.0nm未満の平面)であるものを使用する。洗浄工程では、ガラス基板12及び支持ガラス板14の少なくとも第1主面12a、14aをそれぞれ洗浄して第1主面12a、14aに付着したパーティクルや有機物等を除去する。これにより、ガラス基板12及び支持ガラス板14の第1主面12a、14を活性化する(水接触角を5°以下とする)ことができ、両ガラス板12、14の第1主面12a、14a同士の密着性を高めることができる。洗浄方法としては前記の方法を使用できる。
【0056】
第1積層工程では、ガラス基板12と、支持ガラス板14とを積層する。例えば、ガラス基板12の第1主面12aと支持ガラス板14の第1主面14aとを重ね合わせて、ローラやプレス装置等を用いてガラス基板12と支持ガラス板14とを圧接する。圧接することにより、両ガラス板12、14の第1主面12a、14a同士の密着性を高めることができると共に、ガラス基板12の第1主面12aと支持ガラス板14の第1主面14aとの間に噛み込んだ気泡を外部に追い出すことができる。加えて、減圧雰囲気下に積層することにより、積層時の気泡の噛み込みをさらに抑制することができる。なお、
図2A及び
図2Bに示すように、ガラス基板12の第1主面12aの周縁部に凹部22が形成されている場合、減圧雰囲気下で両ガラス板12、14を積層することにより、凹部22内を減圧した状態とすることができる。
【0057】
第1積層工程では、ガラス基板12の第2主面12bの周縁部を支持して、ガラス基板12と支持ガラス板14とを積層することが好ましい。ガラス基板12の第2主面12bの中央部を支持した場合、表示パネル用部材を形成するための領域が傷付くおそれがある。
【0058】
図4Aは、プレス装置30のガラス基板および支持ガラス板の設置動作を説明するための断面図である。
図4Bは、プレス装置30の減圧操作を説明するための断面図である。
図4Cは、プレス装置30のガラス基と支持ガラス板との積層動作を説明するための断面図である。
図5は、吸着ヘッド31を示す平面図である。このプレス装置30は、吸着ヘッド31及びステージ32等により構成される。吸着ヘッド31は、
図5に示すように、矩形枠状である。
【0059】
このプレス装置30では、最初に、
図3の洗浄工程後のガラス基板12を第2主面12bが上側となるようにステージ32上に載置する。続いて、吸着ヘッド31を下降させガラス基板12の第2主面12bの周縁部に接触したところで停止させる。次いで、吸着ヘッド31に電圧(例えば、2kV)を印加することにより、吸着ヘッド31にガラス基板12を静電吸着させる。この状態で、吸着ヘッド31を上昇させ、
図3の洗浄工程後の支持ガラス板14を第1主面14aが上側となるようにステージ32上に載置する。
図4Aは支持ガラス板14をステージ32上に載置した時点のプレス装置30の断面図である。
【0060】
その後、吸着ヘッド31を再び下降させ、
図4Bに示すように、ガラス基板12と支持ガラス板14とを所定間隔(例えば、3mm)で対向させる。続いて、例えば真空ポンプ(図示せず)を用いて、ガラス基板12と支持ガラス板14との間の空間を所定圧(例えば、−100kPa(大気圧を基準とする))に減圧する。
【0061】
この状態で、吸着ヘッド31を下降させ、
図4Cに示すように、吸着ヘッド31によりガラス基板12へ所定圧(例えば、300kN/m
2)を印加して、ガラス基板12と支持ガラス板14とを室温で所定時間(例えば、180秒)圧接する。続いて、吸着ヘッド31への電圧印加を解除すると共に真空ポンプを停止して、吸着ヘッド31を上昇させる。このようにして、
図1に示すガラス積層体10を得ることができる。
【0062】
次に、表示パネルの製造方法について
図6及び
図7を参照して説明する。
【0063】
図6は、液晶パネル(LCD)の製造方法の一例を示す工程図である。尚、本実施形態では、TFT−LCDの製造方法について説明するが、本発明をSTN−LCDの製造方法に適用してもよく、液晶パネルの種類ないし方式に制限はない。
【0064】
液晶パネルの製造方法は、
一のガラス積層体10を構成するガラス基板12の第2主面12b上に薄膜トランジスタ(TFT)を形成するTFT基板製造工程(ステップS21)と、
他のガラス積層体10を構成するガラス基板12の第2主面12b上にカラーフィルタ(CF)を形成するCF基板製造工程(ステップS22)と、
薄膜トランジスタが形成されたガラス基板12と、カラーフィルタが形成されたガラス基板12とを積層する第2積層工程(ステップS23)と、
を有する。
【0065】
TFT基板製造工程、及びCF基板製造工程では、周知のフォトリソグラフィ技術やエッチング技術等を用いて、ガラス基板12の第2主面12b上にTFTやCFを形成する。
【0066】
尚、TFTやCFを形成する前に、必要に応じて、ガラス基板12の第2主面12bを洗浄してもよい。洗浄方法としては、上述のドライ洗浄やウェット洗浄を用いることができる。
【0067】
尚、TFT基板製造工程と、CF基板製造工程との順序に制限はなく、CF基板を製造した後に、TFT基板を製造してもよい。
【0068】
第2積層工程では、TFTが形成されたガラス積層体10(以下、「ガラス積層体10A」という)と、CFが形成されたガラス積層体10(以下、「ガラス積層体10B」という)との間に液晶材を注入して積層する。液晶材を注入する方法としては、例えば、減圧注入法、滴下注入法がある。
【0069】
減圧注入法では、例えば、最初に、シール材及びスペーサ材を用いて両ガラス積層体10A、10Bを、TFTが存在する面とCFが存在する面とが対向するように貼り合わせる。次に、手動又は適当な吸着パッドやナイフ等により、両ガラス積層体10A、10Bから支持ガラス板14、14を剥離する。その後、複数のセルに切断する。切断された各セルの内部を減圧雰囲気としたうえで、注入孔から各セルの内部に液晶材を注入し、注入孔を封止する。続いて、各セルに偏光板を貼り付け、バックライト等を組み込み、液晶パネルを製造する。
【0070】
尚、本実施形態では、両ガラス積層体10A、10Bから支持ガラス板14、14を剥離し、その後、複数のセルに切断するとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、シール材及びスペーサ材を用いて両ガラス積層体10A、10Bを貼り合わせる前に支持ガラス板14、14を剥離してもよい。
【0071】
滴下注入法では、例えば、最初に、両ガラス積層体10A、10Bのいずれか一方に液晶材を滴下しておき、シール材及びスペーサ材を用いて両ガラス積層体10A、10Bを、TFTが存在する面とCFが存在する面とが対向するように積層する。次に、手動又は適当な吸着パッドやナイフ等により、両ガラス積層体10A、10Bから支持ガラス板14、14を剥離する。その後、複数のセルに切断する。続いて、各セルに偏光板を貼り付け、バックライト等を組み込み、液晶パネルを製造する。
【0072】
尚、本実施形態では、両ガラス積層体10A、10Bから支持ガラス板14、14を剥離し、その後、複数のセルに切断するとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、両ガラス積層体10A、10Bのいずれか一方に液晶材を滴下する前に支持ガラス板14、14を剥離してもよい。
【0073】
支持ガラス板14は、剥離後に損傷してない場合、別のガラス基板12との積層に再利用されてよい。再利用されるまでの間、支持ガラス板14の表面を、保護シートで被覆してもよい。一方、剥離後に損傷している場合、ガラス原料として再利用されてよい。
【0074】
液晶パネルの製造方法は、上記の工程の他、ガラス基板12から支持ガラス板14を剥離した後に、ガラス基板12をケミカルエッチング処理により薄板化する薄板化工程を更に有してもよい。ガラス基板12の第1主面12aは、支持ガラス板14により保護されていたので、エッチング処理を行ったとしても、エッチピットが発生しにくい。
【0075】
尚、
図6に示す例では、TFT基板、CF基板の製造にそれぞれガラス積層体10を1つずつ用いるとしたが、本発明はこれに限定されない。即ち、TFT基板、CF基板のいずれか一方のみの基板の製造にガラス積層体10を用いてもよい。
【0076】
図7は、有機ELパネル(OLED)の製造方法の一例を示す工程図である。
【0077】
有機ELパネルの製造方法は、
ガラス積層体10を構成するガラス基板12の第2主面12b上に有機EL素子を形成する有機EL素子形成工程(ステップS31)と、
有機EL素子が形成されたガラス基板12と、対向基板とを積層する第3積層工程(ステップS32)と、
を有する。
【0078】
有機EL素子形成工程では、周知の蒸着技術等を用いてガラス基板12の第2主面12b上に有機EL素子を形成する。有機EL素子は、例えば、透明電極層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層等からなる。
【0079】
尚、有機EL素子を形成する前に、必要に応じて、ガラス基板12の第2主面12bを洗浄してもよい。洗浄方法としては、上述のドライ洗浄やウェット洗浄を用いることができる。
【0080】
第3積層工程では、例えば、最初に、手動又は適当な吸着パッドやナイフ等により、有機EL素子が形成されたガラス積層体10から支持ガラス板14を剥離する。その後、複数のセルに切断する。続いて、有機EL素子と対向基板とが接触するように、各セルと対向基板とを貼り合わせる。このようにして、有機ELディスプレイを製造する。
【0081】
このようにして、ガラス積層体10を用いて製造された表示パネルは、その用途に特に制限はないが、例えば携帯電話、PDA、デジタルカメラ、ゲーム機等の携帯電子機器に好適に用いられる。
【0082】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0083】
上記第1実施形態では、表示パネル用部材の形成工程において、ガラス積層体の温度が300℃を超えない場合について説明した。
【0084】
これに対し、本実施形態では、表示パネル用部材の形成工程において、ガラス積層体の温度が300℃を超える場合について説明する。
【0085】
近年、表示パネル用部材の形成工程において、ガラス基板の温度が300℃を超える場合がある。例えば、ガラス基板面上にTFTを形成する工程には、ガラス基板の温度が400〜450℃の状態で行われる工程や、600℃程度の状態で行われる工程が含まれることがある。400〜450℃で行われる工程としては、ガラス基板面上にアモルファスシリコンを成膜する工程、成膜したアモルファスシリコン層に含まれる水素を除去する工程、成膜したアモルファスシリコン層上にゲート絶縁膜を形成する工程等が挙げられる。600℃で行われる工程としては、成膜したアモルファスシリコン層の一部にイオン注入によって形成されたソースやドレインを活性化処理する工程等が挙げられる。
【0086】
表示パネル用部材の形成工程において、
図1のガラス積層体の温度が300℃を超える場合、ガラス基板12と支持ガラス板14の積層面12a、14aに存在するシラノール基(Si−OH)同士の脱水縮合反応が促進される。このため、積層面12a、14aに存在するシラノール基の密度が高過ぎると、表示パネル用部材の形成工程後に、ガラス基板12と支持ガラス板14とを分離するのが困難となる。
【0087】
通常、積層面12a、14aに存在するシラノール基の密度が低くなると、両積層面12a、14aの結合力が弱くなる傾向がある。両積層面12a、14aに存在するシラノール基同士の水素結合が、両積層面12a、14aの結合力に寄与しているためと考えられる。従って、積層面12a、14aに存在するシラノール基の密度が低過ぎると、両積層面12a、14aの結合力が弱過ぎ、ガラス積層体をハンドリングするのが難しい。
【0088】
積層面12a、14aに存在するシラノール基の密度が適切な範囲であることは、積層前にその積層面となる第1主面12a、14aの水接触角を測定して判断される。一般に、ガラス表面に存在するシラノール基の密度が高いほど、ガラス表面の水接触角が小さくなる傾向がある。シラノール基(Si−OH)には親水性のOH基が含まれるためと考えられる。
【0089】
ガラス基板12及び支持ガラス板14の少なくとも一方の第1主面の水接触角は、15〜70°であることが好ましく、15〜50°であることがより好ましい。15°未満の場合、シラノール基の密度が高過ぎる。一方、70°超の場合、シラノール基の密度が低過ぎる。なお、ガラス基板12と支持ガラス板14のいずれにおいても、非積層面12b、14bの水接触角は、上記の範囲に限定されない。
【0090】
第1主面を有するガラス基板や支持ガラス板は、積層前に第1主面12a、14aの少なくとも一方を表面処理してシラノール基の密度の低い第1主面とした後、積層に供することが好ましい。これにより、ガラス積層体の温度が300℃を超えた場合に、ガラス基板12と支持ガラス板14とを容易に分離することができる。
【0091】
ガラス基板12と支持ガラス板14との分離後、ガラス基板12側が製品となる。このため、支持ガラス板14側の第1主面14aのみを表面処理することが好ましい。ガラス基板12側の第1主面12aを表面処理すると、例えば分離後の第1主面12aに偏光板を貼り付けるのが困難になる等、製品側に不具合が発生することがある。
【0092】
表面処理を行う第1主面は、十分に清浄な面であることが好ましく、洗浄直後の面であることが好ましい。清浄度(活性度)が低過ぎると、均一な表面処理ができない。
【0093】
表面処理に用いられる材料としては、シランカップリング剤やシリコーンオイル等がある。これらの材料は、単独で又は組み合わせて用いられる。組み合わせて用いる場合、シランカップリング剤で表面処理した後にシリコーンオイルで表面処理しても良いし、シリコーンオイルで表面処理した後にシランカップリング剤で表面処理しても良い。
【0094】
シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−N'−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシランのようなアミノシラン類や、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのようなエポキシシラン類、γ−クロロプロピルトリメトキシシランのようなクロルシラン類、γ−メルカプトトリメトキシシランのようなメルカプトシラン、ビニルメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランのようなビニルシラン類、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのようなアクリルシラン類等から1つ以上選ばれたものが好ましく使用できる。
【0095】
シランカップリング剤による表面処理方法は、一般的な方法であって良い。例えば、シランカップリング剤を気化したガスを含む雰囲気にガラス板を曝し、ガラス表面のシラノール基(Si−OH)に含まれる親水性のOH基を疎水性の基に置換する方法等がある。雰囲気中のシランカップリング剤の濃度、温度、処理時間等を調節することにより、ガラス表面に存在するシラノール基の密度を調節することができる。
【0096】
シリコーンオイルとしては、特に限定されないが、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、といったストレートシリコーンオイル、側鎖または末端にアルキル基、ハイドロジェン基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、ポリエーテル基等を導入した変性シリコーンオイル等がある。
【0097】
シリコーンオイルによる表面処理方法は、一般的な方法であって良い。例えば、シリコーンオイルをスピンコータ等によりガラス表面に塗布し、熱処理によってガラス表面に焼き付ける方法等がある。シリコーンオイルの塗布量等を調節することにより、ガラス表面に露出するシラノール基の密度を調節することができる。
【0098】
ところで、表面処理を行った場合、ガラス表面に存在するシラノール基の密度が低下するので、両積層面12a、14aの結合力が低下する。
【0099】
そこで、表面処理による上記結合力の低下を補うため、ガラス基板12と支持ガラス板14とを積層する際に、加熱処理しても良い。これにより、両第1主面12a、14aに存在するシラノール基同士の脱水縮合反応を行い、上記結合力を高めることができる。脱水縮合反応を促進するため、ガラス積層体の温度が300℃を超えるように加熱することが好ましい。この加熱は、積層面12a、14aが融着されないように行われる。
【0100】
また、表面処理による上記結合力の低下を補うため、ガラス基板12と支持ガラス板14の一部(例えば、縁部や角部)をガラスフリット等の接着剤で接着しても良い。この接着は、積層面12a、14aが融着されないように行われる。接着したガラス基板12と支持ガラス板14を剥離する際には、接着部分を予め切除して良い。
【0101】
本実施形態のガラス積層体では、シラノール基の密度の低い積層面を介して、ガラス基板12と支持ガラス板14とが直接接触し密着しているので、両ガラス板12、14の間にOリングや樹脂層が介在する場合と比較して、ガラス積層体が撓みにくい。このため、ガラス積層体は平坦性に優れており、このことはガラス積層体のガラス基板面の平坦性が優れていることを意味している。
【0102】
本実施形態のガラス積層体は、上記第1実施形態と同様に、ガラス基板と支持ガラス板とを積層することにより製造され、ガラス基板と支持ガラス板とを減圧雰囲気下で積層することにより製造されることが好ましい。例えば、少なくとも第1主面が平滑なガラス基板を用意し、用意したガラス基板を洗浄して少なくとも第1主面の水接触角を5°以下とする。また、少なくとも第1主面が平滑な支持ガラス板を用意し、用意した支持ガラス板を洗浄した後に表面処理して少なくとも第1主面の水接触角を15〜70°とする。その後、これらのガラス基板と支持ガラス板とを減圧可能なプレス装置に入れてそれらの第1主面同士を対向させ、プレス装置内を減圧雰囲気として両者を重ねて圧接し、ガラス積層体とする。
【0103】
なお、本実施形態のガラス積層体は、上記第1実施形態と同様に、表示パネルの製造に用いることが可能である。
【実施例】
【0104】
以下に、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、本実施例では、ガラス基板および支持ガラス板として同一のガラス板を使用した。したがって、以下の例においては、ガラス積層体を構成する2枚のガラス板の任意の一方が本発明におけるガラス基板であり、他方が本発明における支持ガラス板である。
【0105】
(試験例1)
縦400mm×横300mm×厚さ0.4mm、平均表面粗さ0.8nm、25〜300℃における平均線膨張係数38×10
−7/℃の3枚のガラス板(旭硝子社製、AN100)を用意した。ここで、平均表面粗さは、原子間力顕微鏡(Pacific Nanotechnology社製、Nano Scope IIIa;Scan Rate 1.0Hz,Sample Lines256,Off−line Modify Flatten order−2,Planefit order−2)により測定した。
【0106】
3枚のガラス板を、それぞれ、25℃の水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウム1質量%)に10分間浸漬した後、25℃の純水に10分間浸漬し、続いて、25℃の別の純水に浸漬して超音波洗浄(36KHz)を5分間行った。その後、3枚のガラス板の表面に、80℃のIPA(イソプロピルアルコール)蒸気を10分間あてて乾燥を行った。
【0107】
接触角計(クルス社製、DROP SHAPE ANALYSIS SYSTEM DSA 10Mk2)を用いて、洗浄、乾燥を行った直後に、1枚のガラス板の表面に1μLの水滴を静置して水接触角を測定したところ、水接触角は4°であった。
【0108】
図4A〜
図4C及び
図5に示すプレス装置30を用いて、洗浄、乾燥を行った直後に、残りの2枚のガラス板12、14を積層し、
図1に示すガラス積層体10を得た。尚、積層は、両ガラス板12、14の間の空間の圧力を−100kPa(大気圧をゼロとして規格化)に減圧した状態で行った。
【0109】
得られたガラス積層体10について、下記の評価を行った。
【0110】
(密着試験)
ガラス積層体10を水平盤上に載置し、上側のガラス板の中央を直径20mmの吸着パッドで吸着して、鉛直方向に速度25mm/秒で持ち上げたところ、積層した2枚のガラス板12、14が分離せず、良好な密着力があることが分かった。
【0111】
(剥離試験1)
密着試験後、ガラス積層体を切断して得た縦25mm×横25mmの複数のブロックのうち、一のブロックについて、加熱処理することなく室温で
図8に示す剥離試験を行った。剥離試験の治具としては、板状部材41、42、及び取手部材43、44を用いた。
【0112】
板状部材41は、大きさが縦25mm×横25mm×厚さ5mm、ポリカーボネート製であり、ブロック101を構成するガラス基板12の第2主面12bにエポキシ接着剤(不図示)により接着されている。板状部材42は、大きさが縦25mm×横25mm×厚さ5mm、ポリカーボネート製であり、ブロック101を構成する支持ガラス板14の第2主面14bにエポキシ接着剤(不図示)により接着されている。板状部材41、42は、それぞれ、その側面がブロック101の側面と略面一となるように配置した。ブロック101と板状部材41、及びブロック101と板状部材42との接着面積は、それぞれ縦25mm×横25mmである。
【0113】
取手部材43は、大きさが縦25mm×横10mm×厚さ5mm、ポリカーボネート製であり、板状部材41のガラス基板12側と反対側の面にエポキシ接着剤(不図示)により接着されている。取手部材44は、大きさが縦25mm×横10mm×厚さ5mm、ポリカーボネート製であり、板状部材42の支持ガラス板14側と反対側の面にエポキシ接着剤(不図示)により接着されている。取手部材43、44は、それぞれ、その左側面が板状部材41、42の左側面と略面一となるように配置した。板状部材41と取手部材43との接触面積、及び板状部材42と取手部材44との接着面積は、それぞれ縦25mm×横10mmである。
【0114】
治具41〜44を装着したブロック101を支持ガラス板14が下側になるように略水平に配置した。ガラス基板12側に接着された取手部材43を固定し、支持ガラス板14側に接着された取手部材44を図中矢印D方向である下方に、言い換えると、板状部材41、42の厚さ方向に向かって、300mm/分の速度で引き離したところ、0.78N(0.32N/cm)の荷重がかかったときに、積層した2枚のガラス板12、14が分離した。分離後の両ガラス板12、14にクラック等の破損は見られなかった。
【0115】
(剥離試験2)
複数のブロックのうち、別のブロックについて、大気中300℃の温度で1時間加熱処理を行った後、室温まで冷却し
図8に示す剥離試験を行ったところ、0.78N(0.32N/cm)の荷重がかかったときに、積層した2枚のガラス板12、14が分離した。分離後の両ガラス板12、14にクラック等の破損は見られなかった。
【0116】
(剥離試験3)
さらに、別のブロックについて、大気中450℃の温度で1時間加熱処理を行った後、室温まで冷却し
図8に示す剥離試験を行ったところ、積層した2枚のガラス板12、14は、一方が割れるまで、分離しなかった。
【0117】
(耐熱試験)
別のブロックについて、ホットプレートを用いて大気中450℃の温度で1時間加熱処理した状態を観察したところ、積層した2枚のガラス板の間に気泡は見られず、また、両ガラス板にクラック等の破損は見られなかった。
【0118】
(剪断試験1)
別のブロックについて、
図9に示す剪断試験を室温で行った。剪断試験の治具としては、板状部材51、52を用いた。
【0119】
板状部材51は、大きさが縦25mm×横50mm×厚さ3mm、ポリカーボネート製であり、ブロック102を構成するガラス基板12の第2主面12bにエポキシ接着剤(不図示)により接着されている。板状部材51は、その左側面がブロック102の左側面と略面一となるように配置した。ブロック102と板状部材51との接着面積は、縦25mm×横25mmである。板状部材52は、大きさが縦25mm×横50mm×厚さ3mm、ポリカーボネート製であり、ブロック102を構成する支持ガラス板14の第2主面14bにエポキシ接着剤(不図示)により接着されている。板状部材52は、その右側面がブロック102の右側面と略面一となるように配置した。ブロック102と板状部材52との接着面積は、縦25mm×横25mmである。
【0120】
治具51、52を装着したブロック102を支持ガラス板14が下側になるように略水平に配置する。ガラス基板12側に接着された板状部材51を固定し、支持ガラス板14側に接着された板状部材52を
図9中矢印L方向である左方向、言い換えると、板状部材51、52の長手方向に向かって、0.5mm/分の速度で引っ張ったところ、118N(19N/cm
2)の荷重がかったときに、積層した2枚のガラス板12、14の一方が割れた。一方が割れるまで、両ガラス板12、14の間にずれは見られなかった。
【0121】
剥離試験1と剪断試験1との結果から明らかなように、積層した2枚のガラス板12、14は、積層面の鉛直方向に比較的弱い力で剥がれると共に、比較的強い力がかかっても、積層面の面内方向にずれ難い。よって、容易に分離することができると共に、ガラス積層体10の運搬等の際に積層面がずれるのを抑制することができる。
【0122】
(剪断試験2)
別のブロックについて、大気中300℃の温度で1時間加熱処理を行った後、室温まで冷却し
図9に示す剪断試験を行ったところ、118N(19N/cm
2)の荷重がかったときに積層した2枚のガラス板12、14の一方が割れた。一方が割れるまで、両ガラス板12、14の間にずれは見られなかった。
【0123】
(試験例2)
試験例2では、
図4A〜
図4C及び
図5に示すプレス装置30を用いる代わりに、手押しで2枚のガラス板を大気中室温で積層した以外は、試験例1と同様にしてガラス積層体を製造した。
【0124】
製造したガラス積層体について、試験例1と同様に、密着試験を行ったところ、積層した2枚のガラス板が分離せず、良好な密着力があることが分かった。
【0125】
密着試験後、試験例1と同様にして、剥離試験1を行ったところ、0.80N(0.32N/cm)の荷重がかかったときに、積層した2枚のガラス板が分離した。分離後の両ガラス板にクラック等の破損は見られなかった。
【0126】
また、剥離試験2を行ったところ、0.75N(0.30N/cm)の荷重がかかったときに、積層した2枚のガラス板が分離した。分離後の両ガラス板にクラック等の破損は見られなかった。
【0127】
また、剥離試験3を行ったところ、積層した2枚のガラス板は、一方が割れるまで、分離しなかった。
【0128】
耐熱試験を行ったところ、積層した2枚のガラス板の間に大きな気泡が見られた。これは、大気圧中で積層したので、積層時に微細な気泡が噛み込んだためと推定される。
【0129】
(試験例3)
試験例3では、ガラス板を洗浄、乾燥してから積層するまでの時間を1週間空けた以外は、試験例1と同様にしてガラス積層体を製造した。なお、洗浄、乾燥してから1週間後に、上記接触角計を用いてガラス板の水接触角を測定したところ、水接触角は10°であった。
【0130】
製造したガラス積層体について、試験例1と同様に、密着試験を行ったところ、積層した2枚のガラス板が分離せず、良好な密着力があることが分かった。
【0131】
密着試験後、試験例1と同様にして、剥離試験1を行ったところ、0.75N(0.30N/cm)の荷重がかかったときに、積層した2枚のガラス板が分離した。分離後の両ガラス板にクラック等の破損は見られなかった。
【0132】
また、剥離試験2を行ったところ、0.75N(0.30N/cm)の荷重がかかったときに、積層した2枚のガラス板が分離した。分離後の両ガラス板にクラック等の破損は見られなかった。
【0133】
また、剥離試験3を行ったところ、積層した2枚のガラス板は、一方が割れるまで、分離しなかった。
【0134】
(試験例4)
試験例4では、
図4A〜
図4C及び
図5に示すプレス装置30を用いる代わりに、手押しで2枚のガラス板を大気中室温で積層した以外は、試験例3と同様にしてガラス積層体を製造した。
【0135】
製造したガラス積層体について、試験例1と同様に、密着試験を行ったところ、積層した2枚のガラス板が分離し、十分に密着していなかったことが分かった。
【0136】
(試験例5〜8)
試験例5〜8では、洗浄、乾燥を行った直後であって積層を行う直前に、2枚のガラス板の第1主面のうち、一方のみに、シランカップリング剤による表面処理を施した以外は、試験例1と同様にしてガラス積層体を製造した。
【0137】
シランカップリング剤には、ヘキサメチルジシラザン(関東化学株式会社製、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン)を用いた。このシランカップリング剤を気化したガスを含む雰囲気に、ガラス板を曝して表面処理を行った。
【0138】
表1に、表面処理を行った時間、表面処理を行った直後のガラス表面の水接触角、積層後の密着試験や剥離試験1〜3の結果を示す。なお、密着試験の判断基準としては、積層した2枚のガラス板が分離しなかったものを○とし、分離したものを×とした。剥離試験1〜3の判断基準としては、0.2N/cm以上の剥離強度を有し、且つ、剥離後に破損しなかったものを「○」とし、剥離前に破損したものを「×」とし、剥離強度が弱く、剥離試験1〜3を行うことができなかったものを「−」とした。
【0139】
【表1】
【0140】
(試験例9〜11)
試験例9〜11では、洗浄、乾燥を行った直後であって積層を行う直前に、2枚のガラス板の第1主面のうち、一方のみに、シランカップリング剤による表面処理を施した以外は、試験例1と同様にしてガラス積層体を製造した。
【0141】
表面処理方法としては、シランカップリング剤(東レ・ダウコーニング株式会社製、Z6040)を気化したガスを含む雰囲気に、ガラス板を曝す方法を用いた。
【0142】
表2に、表面処理を行った時間、表面処理を行った直後のガラス表面の水接触角、積層後の密着試験や剥離試験1〜3の結果を示す。なお、密着試験の判断基準、剥離試験1〜3の判断基準は、表1と同様であるので、説明を省略する。
【0143】
【表2】
【0144】
(試験例12〜13)
試験例12〜13では、洗浄、乾燥した直後であって積層を行う直前に、2枚のガラス板の第1主面のうち、一方のみに、シリコーンオイルによる表面処理を施した以外は、試験例1と同様にしてガラス積層体を製造した。
【0145】
シリコーンオイルには、ジメチルシリコーンオイル(東レ・ダウシリコーン社製、SH200、ジメチルポリシロキサン)を用いた。先ず、このシリコーンオイルをヘプタンで希釈した溶液を、スピンコータ(ミカサ社製、MS−A100)を用いてガラス表面に塗布した。次いで、ホットプレートを用いて大気中500℃の温度で5分間加熱処理した。このようにして、ガラス表面にシリコーンオイルを焼き付ける表面処理を行った。
【0146】
表3に、溶液中のシリコーンオイルの濃度、表面処理を行った直後のガラス表面の水接触角、積層後の密着試験や剥離試験1〜3の結果を示す。なお、密着試験の判断基準、剥離試験1〜3の判断基準は、表1と同様であるので、説明を省略する。
【0147】
【表3】
【0148】
表1〜3から明らかなように、ガラス表面の水接触角を適切に設定し、ガラス表面に存在するシラノール基の密度を適切に設定することによって、ガラス積層体を450℃の温度で1時間加熱処理した場合にも、ガラス積層体を構成する2枚のガラス板を所定の操作によって剥離できることが分かった。
【0149】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
【0150】
本出願は、2009年10月20日出願の日本特許出願2009−241797に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。