(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5950467
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】ペリクル
(51)【国際特許分類】
G03F 1/62 20120101AFI20160630BHJP
【FI】
G03F1/62
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-196840(P2013-196840)
(22)【出願日】2013年9月24日
(65)【公開番号】特開2015-64416(P2015-64416A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2015年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159433
【弁理士】
【氏名又は名称】沼澤 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】堀越 淳
【審査官】
佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−157229(JP,A)
【文献】
特開2002−219778(JP,A)
【文献】
特開2005−350650(JP,A)
【文献】
特開2007−099858(JP,A)
【文献】
特開2012−093518(JP,A)
【文献】
特開2011−118263(JP,A)
【文献】
特開2011−076037(JP,A)
【文献】
特開平11−160854(JP,A)
【文献】
特開平07−072617(JP,A)
【文献】
特開2000−258896(JP,A)
【文献】
特開2011−095586(JP,A)
【文献】
特開平06−161094(JP,A)
【文献】
特開2011−095556(JP,A)
【文献】
特開昭58−219023(JP,A)
【文献】
特開昭61−106243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/00 − 7/04 、
G03F 1/00 − 1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリクル膜と、該ペリクル膜が一方の端面に貼り付けられたペリクルフレームと、該ペリクルフレームの他方の端面に設けられたペリクルをガラス基盤に貼り付けるためのシリコーン系粘着剤又はアクリル系粘着剤と、該粘着剤を保護するためのフッ素変性シリコーン離型剤を塗布した離型性ライナーを有するペリクルであって、前記離型性ライナーは、基材にシリカ粉末を添加した離型側の表面粗さが凸凹の算術平均粗さ(Ra)で5μm〜30μmであり、前記粘着剤から剥離するときの最大剥離力が5〜8gであることを特徴とするペリクル。
ここで、「最大剥離力」とは、オートグラフAGS−500G(島津製作所株式会社製)を用いて、引っ張り方向がフレームと90°方向で、引っ張り速度が500mm/minである場合に、離型性ライナーをペリクルの粘着剤から剥離するときの最大剥離力をいう。
【請求項2】
前記離型性ライナーは、前記基材が可撓性の樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1に記載のペリクル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSI、超LSIなどの半導体デバイス、プリント基板、液晶ディスプレイ等を製造する際のゴミ除けとして使用されるリソグラフィー用ペリクルに関し、特に、ペリクルフレームの粘着層を保護するための離型性ライナーを有するペリクルに関する。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSIなどの半導体製造或いは液晶ディスプレイ等の製造においては、半導体ウェハー或いは液晶用原板に光を照射してパターンを作製するが、この時に用いるフォトマスク或いはレチクル(以下、単にフォトマスクと記述する)にゴミが付着していると、エッジががさついたものとなるほか、下地が黒く汚れたりするなど、寸法、品質、外観などが損なわれるという問題があった。
【0003】
このため、これらの作業は通常クリーンルームで行われているが、それでもフォトマスクを常に清浄に保つことが難しい。そこで、フォトマスク表面にゴミ除けとしてペリクルを貼り付けした後に露光を行っている。この場合、異物はフォトマスクの表面には直接付着せず、ペリクル上に付着するため、リソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル上の異物は転写に無関係となる。
【0004】
一般に、ペリクルは、光を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース或いはフッ素樹脂などからなる透明なペリクル膜をアルミニウム、ステンレス、ポリエチレンなどからなるペリクルフレームの上端面にペリクル膜の良溶媒を塗布した後、風乾して接着する(特開昭58−219023号公報参照)か、アクリル樹脂やエポキシ樹脂などの接着剤で接着する(米国特許第4861402号明細書、特公昭63−27707号公報参照)。さらに、ペリクルフレームの下端にはフォトマスクに接着するためのポリブテン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等からなる粘着剤、及び粘着剤の保護を目的としたライナー(離型シート)から構成される。
【0005】
ところで、上記のライナーは、シート状基材の少なくとも一方の面に離型剤を塗布してなるものであるが、ペリクルの粘着層に対しては離型性が十分に良好であることが要求される。また、離型剤は、ペリクルに使用される粘着剤の種類によって適切な離型剤を選択すればよい。例えば、耐光性に優れたシリコーン系粘着剤に対しては、フッ素変性シリコーン系離型剤を使用することが好ましく、アクリル系粘着剤に対しては、シリコーン系離型剤を使用することが好ましい。
【0006】
特許文献1には、剥離性に優れたライナーとして、シート状基材の少なくとも一方の面に、フッ素変性シリコーンを離型剤として0.1〜1.0g/m
2塗布してなるペリクル用ライナーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−160854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に準じたライナーを使用しても、しばしば剥離に要する力が過大となることがあり、これが、オートマウンターを用いてペリクルをマスク基板に貼り付ける際にライナーの剥離エラーを引き起こしてしまうという問題があった。オートマウンターに代えてマニュアル操作でライナーを強引に剥離することもできるが、この場合にはペリクル粘着剤やペリクルフレームの変形、破損、更にはペリクルの落下を引き起こす可能性がある。このような剥離力過大の傾向は、他の化学構造のフッ素変性シリコーン離型剤を使用した場合でも改善されず、また、基材への塗布量を変化させても大きく改善されなかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、オートマウンター又はマニュアル操作でライナーを剥離した際に、軽度の剥離力で剥離が可能な離型性ライナーを有するペリクルを提供することにある。
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行ったところ、ライナーの剥離側の表面粗さを
凸凹の算術平均粗さ(Ra)で5μm〜30μmとすれば、軽度の剥離力で剥離が可能であることを知見し、本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明のペリクルは、ペリクル膜と、該ペリクル膜が一方の端面に貼り付けられたペリクルフレームと、該ペリクルフレームの他方の端面に設けられたペリクルをガラス基盤に貼り付けるための
シリコーン系粘着剤又はアクリル系粘着剤と、この粘着剤を保護するための
フッ素変性シリコーン離型剤を塗布した離型性ライナーを有するペリクルであって、この離型性ライナー
は、基材にシリカ粉末を添加した離型側の表面粗さが
凸凹の算術平均粗さ(Ra)で5μm〜30μm
であり、前記粘着剤から剥離するときの最大剥離力が5〜8gであることを特徴とするものである。
ここで、「最大剥離力」とは、オートグラフAGS−500G(島津製作所株式会社製)を用いて、引っ張り方向がフレームと90°方向で、引っ張り速度が500mm/minである場合に、離型性ライナーをペリクルの粘着剤から剥離するときの最大剥離力をいう。また、この離型性ライナーは、その基材が可撓性の樹脂フィルムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、離型性ライナーの離型側の表面粗さを
凸凹の算術平均粗さ(Ra)で5μm〜30μmとすることによって、ペリクルの粘着剤層に対して安定した良好な剥離性を有するので、これを用いた本発明のペリクルは、オートマウンターに対する適正が極めて高く、また、マニュアル操作でのライナー剥離においてもペリクルに過大な力を与えることがないから、半導体デバイス、液晶ディスプレイ等の製造歩留まりを改善することができる。」
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、これら実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明のペリクルの一実施形態を示す縦断面図である。このペリクル1では、ペリクル1を貼り付ける基板(フォトマスク又はそのガラス基盤部分)の形状に対応した通常四角枠状(長方形枠状又は正方形枠状)のペリクルフレーム12の上端面に接着剤を介してペリクル膜11が張設されている。また、ペリクルフレーム12の下端面には、ペリクル1を基板に貼り付けるための粘着剤13が形成され、この粘着剤13の下端面には、粘着剤13を保護するためのライナー14が剥離可能に貼り付けられている。
【0016】
ここで、ペリクル膜11の材質には特に制限はなく、光をよく透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース、或いはフッ素樹脂等の公知のものを使用することができる。また、ペリクルフレーム12の材質にも特に制限はなく、アルミニウム、ステンレススチール等の金属、ポリエチレンなどの合成樹脂等の公知のものを使用することができる。さらに、粘着剤13としては公知のものを使用することができ、ポリブテン系粘着剤、ポリ酢酸ビニル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤等を用いることができる。
【0017】
ペリクルフレーム12へ粘着剤13を塗布する場合は、必要により粘着剤13を溶媒で希釈してペリクルフレーム12の下端面に塗布し、これを加熱乾燥し、硬化させることにより形成することができる。この場合、粘着剤13の塗布方法としては、刷毛塗り、スプレー、自動ディスペンサ等による方法が挙げられる。
【0018】
離型性ライナー14は、シート状基材の少なくとも一方の面に離型剤を塗布してなるものであるが、その基材は、公知の発塵性のないシート状の基材から適宜選択され、樹脂製のフィルムであることが好ましい。これは、樹脂製のフィルムであれば、取り扱いが容易であり、かつ粘着剤13に剥離可能に貼着する際に必要な可撓性を有するためである。好ましい樹脂製のフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂(PFA)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。
【0019】
また、離型剤は、ペリクルに使用される粘着剤の種類によって適切な離型剤を選択すればよいが、例えば、耐候性に優れたシリコーン系粘着剤に対してはフッ素変性シリコーン離型剤を、また、アクリル系粘着剤に対してはシリコーン離型剤を、それぞれ公知のものの中から離型性の良好なものを適宜選択して、公知の方法で塗布すればよい。
【0020】
本発明の離型性ライナー14の離型側の表面粗さを変えるには、離型性ライナー14の基材に添加剤を添加する方法、ブラストを投射する方法、基材を凸凹に成型する方法などがあるが、いずれの方法でもよくその方法にはこだわらない。添加剤を用いる場合は、その形状として、球状、柱状、棒状、板状、不定形、中実、中空などがあるが、いずれの形状でもよくその形状にはこだわらない。その材質についても、金属、ガラス、結晶性シリカ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、ダイヤモンドなど公知の添加物質であれば特にこだわらない。
【0021】
また、ブラストを投射する方法を用いる場合は、機械式、空気式、湿式等の方式があり、その投射材についても、砂系、金属系、セラミック系、樹脂系があるが、これら投射方式や投射材のいずれでもよい。さらに、基材を凸凹に成型する方法を用いる場合も、プレス等公知の方法で凸凹に加工すればよく、その方法にはこだわらない。
【0022】
本発明の離型性ライナー14の離型側の表面粗さは、
凸凹の算術平均粗さ(Ra)で5μm〜30μmとする必要がある。表面粗さが5μmより小さい場合には表面粗さの効果が発揮されず、離型性が不安定となる。また、30μmを超える大きさの場合は、ライナー表面の凸凹がペリクルの粘着剤に転写され、粘着剤の表面が凸凹になり外観不良となるので好ましくない。さらに離形性ライナーには本発明の効果を妨げない範囲でライナーの帯電を防止する帯電防止層やライナーを重ねたときに張り付かないようにブロッキング層等が積層されていてもよい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例及び比較例についてさらに具体的に説明する。
<実施例1>
はじめに、外寸149×113mm、内寸145×109mm、高さ4.5mmの大きさで、上端面及び下端面の各々の外内両辺縁部がR加工された長方形のアルミニウム合金製ペリクルフレーム12を機械加工により製作し、その表面に黒色アルマイト処理を施した。その後、このペリクルフレーム12をクリーンルームに搬入し、中性洗剤と純水により、十分に洗浄し乾燥させた。
【0024】
粘着剤13としては、シリコーン粘着剤X−40−3122(信越化学工業株式会社製)を使用し、自動ディスペンサ(岩下エンジニアリング株式会社製、図示せず)によって、ペリクルフレーム12の下端面に塗布した。その後、粘着剤13が流動しなくなるまで風乾させた後、更に高周波誘導加熱装置(図示せず)によりペリクルフレーム12を130℃まで加熱し、粘着剤を硬化させた。
【0025】
また、前記ペリクルフレーム12の上端面にはフッ素系溶剤で希釈したフッ素系高分子ポリマーを塗布し、加熱乾燥させて接着層を形成し、ペリクル膜11を貼り付け、カッターにて外側の不要膜を切除してペリクル1を完成させた。
【0026】
さらに、離型性ライナー14には、基材となるPETフィルムにシリカ粉末を添加し、離型剤としてフッ素変性シリコーン離型剤X−70−220(信越化学工業株式会社製)を0.2g/m
2塗布した。この実施例1では、離型側の表面粗さを15μmとした離型性ライナー14を使用し、ペリクル1の粘着剤13に保護用として貼り付けた。
【0027】
<実施例2>
離型性ライナー14として基材となるPETフィルムにシリカ粉末を添加し、表面粗さが5μmであるライナーを使用した他は実施例1と同様にペリクル1を作製し、離型性ライナー14を貼り付けた。
【0028】
<実施例3>
離型性ライナー14として基材となるPETフィルムにシリカ粉末を添加し、表面粗さが30μmであるライナーを使用した他は実施例1と同様にペリクル1を作製し、離型性ライナー14を貼り付けた。
【0029】
<実施例4>
粘着剤13としてアクリル粘着剤SK−1495(綜研化学株式会社製)を使用した他は実施例1と同様にペリクル1を作製し、離型性ライナー14を貼り付けた。
【0030】
<比較例1>
離型性ライナー14として基材となるPETフィルムに何も処理せず、表面粗さが1.5μmである離型性ライナー14を使用した他は実施例1と同様にペリクル1を作製し、離型性ライナー14を貼り付けた。
【0031】
<比較例2>
離型性ライナー14として基材となるPETフィルムにブラスト処理を施し、表面粗さが55μmである離型性ライナー14を使用した他は実施例1と同様にペリクル1を作製し、離型性ライナー14を貼り付けた。
【0032】
[離型性ライナーの表面粗さ(Ra)]
前記実施例1〜4及び比較例1、2について、その離型性ライナー14の離型側の表面粗さをLEXT_OLS4000(オリンパス株式会社製)により測定した。測定条件は、JIS_B_0601に準じて行い、測定長は2570μmにて測定を行った。
【0033】
[離型性ライナーの剥離力]
また、前記実施例1〜4及び比較例1、2について、その離型性ライナー14をペリクル1の粘着剤13から剥離するときの剥離力を測定した。測定は、ペリクル1を固定し、オートグラフAGS−500G(島津製作所株式会社製)にて、離型性ライナー14がペリクル1から完全に剥離するまで離型性ライナー14を引っ張り、その間の最大剥離力を測定した。引っ張り方向はフレームと90°方向であり、引っ張り速度は500mm/minである。
【0034】
[離型性ライナー剥離後の粘着剤外観]
さらに、前記実施例1〜4及び比較例1、2について、その離型性ライナー14をペリクル1から剥離した後、ペリクル1の粘着剤13の表面を目視にて観察した。
【0035】
以上の測定結果と評価結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1の結果から、本発明のような表面粗さの離型性ライナー14とすることによって、ペリクル1から離型性ライナー14を剥離するときの剥離力が軽度となり、また、粘着剤の外観にも影響を与えないことが確認された。
【符号の説明】
【0038】
1 ペリクル
11 ペリクル膜
12 ペリクルフレーム
13 粘着剤
14 離型性ライナー(離型シート)