特許第5950757号(P5950757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧

特許5950757金属板材及び金属板材表面の樹脂被覆方法並びにその用途
<>
  • 特許5950757-金属板材及び金属板材表面の樹脂被覆方法並びにその用途 図000002
  • 特許5950757-金属板材及び金属板材表面の樹脂被覆方法並びにその用途 図000003
  • 特許5950757-金属板材及び金属板材表面の樹脂被覆方法並びにその用途 図000004
  • 特許5950757-金属板材及び金属板材表面の樹脂被覆方法並びにその用途 図000005
  • 特許5950757-金属板材及び金属板材表面の樹脂被覆方法並びにその用途 図000006
  • 特許5950757-金属板材及び金属板材表面の樹脂被覆方法並びにその用途 図000007
  • 特許5950757-金属板材及び金属板材表面の樹脂被覆方法並びにその用途 図000008
  • 特許5950757-金属板材及び金属板材表面の樹脂被覆方法並びにその用途 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5950757
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】金属板材及び金属板材表面の樹脂被覆方法並びにその用途
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/16 20060101AFI20160630BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20160630BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20160630BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20160630BHJP
   B32B 3/14 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   B32B15/16
   H01M4/66 A
   H01M4/70 A
   C23C26/00 A
   B32B3/14
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-183245(P2012-183245)
(22)【出願日】2012年8月22日
(65)【公開番号】特開2014-40043(P2014-40043A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2015年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】金 容薫
(72)【発明者】
【氏名】小泉 正治
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−313684(JP,A)
【文献】 特開2001−216956(JP,A)
【文献】 特開2005−135826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/16
B32B 3/14
C23C 26/00
H01M 4/66
H01M 4/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が樹脂被覆された金属板材であって、
前記金属板材が、アルミニウム、銅、金、銀からなる群より選ばれるいずれか一つの金属を含み、
前記金属板材の表面の凹部には、樹脂微粒子により樹脂被覆層が選択的に形成され、
前記金属板材の表面の凸部には、樹脂微粒子による樹脂被覆層が形成されていないことを特徴とする金属板材であって、
前記樹脂被覆層に、金属ナノ構造体および/または導電性炭素を含むことを特徴とする金属板材。
【請求項2】
前記樹脂被覆層を形成する樹脂微粒子が、スチレンブタジエンゴム、アクリルゴム、アクリルニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴムからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂を含む樹脂微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の金属板材。
【請求項3】
前記金属板材が、厚さが50μm以下の銅箔であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属板材。
【請求項4】
分散媒に、平均粒径が10〜1000nmである樹脂微粒子を固形分濃度が3〜20wt%で分散させた微粒子液を金属板材の表面に塗布した後、金属板材を乾燥させて樹脂微粒子を金属板材の凸部から凹部に移動させ、前記金属板材の表面の凹部には、樹脂微粒子により樹脂被覆層を選択的に形成し、前記金属板材の表面の凸部には、樹脂微粒子による樹脂被覆層が形成されないようにすることを特徴とする金属板材表面の樹脂被覆方法。
【請求項5】
前記樹脂の微粒子は、表面に、金属ナノ構造体および/または導電性炭素が付着していることを特徴とする請求項4に記載の金属板材表面の樹脂被覆方法。
【請求項6】
表面が樹脂被覆される前の前記金属板材の被覆される面の十点平均粗さRzが0.5μm以上10μm以下で、さらにRzが樹脂微粒子の平均粒径の少なくとも2倍であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の金属板材表面の樹脂被覆方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅箔などの金属板材の表面に樹脂被覆層を形成した金属板材と金属板材表面の選択的樹脂被覆方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池用の負極は、銅箔などの集電体上に、活物質粒子と導電助剤、結着材などを含むスラリーを塗布して負極活物質層を形成することで作製されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−027664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、活物質粒子や導電助剤は、結着材を介して銅箔表面に固定されているのであるが、通常用いられるスチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースとの混合物などの結着材は銅箔表面との密着性が悪く、活物質層が集電体から剥離しやすいという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、集電体である金属表面の導電性を維持しながら、樹脂との密着性に優れる選択的に樹脂被覆を行った金属板材を得ることである。
【0006】
前述した目的を達成するために、以下の発明を提供する。
(1)表面が樹脂被覆された金属板材であって、前記金属板材が、アルミニウム、銅、金、銀からなる群より選ばれるいずれか一つの金属を含み、前記金属板材の表面の凹部には、樹脂微粒子により樹脂被覆層が選択的に形成され、前記金属板材の表面の凸部には、樹脂微粒子による樹脂被覆層が形成されていないことを特徴とする金属板材。
(2)前記樹脂被覆層に、金属ナノ構造体および/または導電性炭素を含むことを特徴とする(1)に記載の金属板材。
(3)前記樹脂被覆層を形成する樹脂微粒子が、スチレンブタジエンゴム、アクリルゴム、アクリルニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴムからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂を含む樹脂微粒子であることを特徴とする(1)または(2)に記載の金属板材。
(4)前記金属板材が、厚さが50μm以下の銅箔であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の金属板材。
(5)金属板材の樹脂被覆された表面の凹部には、選択的に樹脂被覆層が形成され、金属板材の樹脂被覆された表面の凸部には、樹脂被覆層が形成されておらず、前記金属板材および前記樹脂被覆層上に負極活物質層を有し、前記樹脂被覆層により、負極活物質層の密着性を向上させることを特徴とする負極。
(6)分散媒に、平均粒径が10〜1000nmである樹脂微粒子を固形分濃度が3〜20wt%で分散させた微粒子液を金属板材の表面に塗布した後、金属板材を乾燥させて樹脂微粒子を金属板材の凸部から凹部に移動させ、前記金属板材の表面の凹部には、樹脂微粒子により樹脂被覆層を選択的に形成し、前記金属板材の表面の凸部には、樹脂微粒子による樹脂被覆層が形成されないようにすることを特徴とする金属板材表面の樹脂被覆方法。
(7)前記樹脂の微粒子は、表面に、金属ナノ構造体および/または導電性炭素が付着していることを特徴とする(6)に記載の金属板材表面の樹脂被覆方法。
(8)表面が樹脂被覆される前の前記金属板材の被覆される面の十点平均粗さRzが0.5μm以上10μm以下で、さらにRzが樹脂微粒子の平均粒径の少なくとも2倍であることを特徴とする(6)または(7)に記載の金属板材表面の樹脂被覆方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、金属表面の導電性を維持しながら、樹脂との密着性に優れる金属板材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る、表面が樹脂被覆された金属板材1の断面を示す図。
図2】(a)〜(c)本発明の実施形態に係る、金属板材表面の樹脂被覆方法を示す図。
図3】本発明の実施形態に係る負極13の断面を示す図。
図4】銅箔表面の樹脂被覆に用いた有機微粒子液の濃度と、表面が樹脂被覆された銅箔の表面抵抗の関係を示すグラフ。
図5】(a)表面が樹脂被覆された銅箔の表面を示す写真、(b)拡大写真、(c)さらなる拡大写真。
図6】(a)表面が樹脂被覆された銅箔の断面を示す写真、(b)表面が樹脂被覆された銅箔の傾斜断面写真、(c)表面が樹脂被覆された銅箔の他の領域の傾斜断面写真。
図7】銅箔表面の樹脂被覆に用いた有機微粒子液の濃度と、活物質層表面の抵抗値の関係を示すグラフ。
図8】銅箔表面の樹脂被覆に用いた有機微粒子液の濃度と、表面が樹脂被覆された銅箔の表面に塗布された活物質層との密着力の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
(表面が樹脂被覆された金属板材の構成)
以下、金属板材の代表例として金属箔を例として本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る表面が樹脂被覆された金属板材1の断面を示す図である。表面が樹脂被覆された金属板材1は、金属板材1の凹部4に樹脂被覆層3を有するが、金属板材1の凸部6には樹脂被覆層3を有しない。
【0010】
有機微粒子からなる樹脂被覆層3は、スチレンブタジエンゴム、アクリルゴム、アクリルニトリル、アクリルニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴムからなる群より選ばれる少なくとも一つの樹脂を含むことが好ましく、特にスチレンブタジエンゴムが好ましく、更に分子内にヒドロキシル基またはカルボキシル基の官能基を含有することを特徴とする。これらの材料は、分散媒として水を用いた懸濁液を容易に得ることができるため、本実施形態に係る樹脂被覆方法に適している。
【0011】
また、金属板材5は、アルミニウム、銅、金、銀からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属を含むことが好ましい。これらの金属を含む金属板材5は、圧延、又は電解法により容易に得ることができ、さらに水が分散媒の懸濁液を塗布しても、金属板材5の表面にさびを生じるなどの深刻なダメージを与えない。
【0012】
特に金属板材5として、厚さが50μm以下の銅箔を用いることが好ましい。このような薄い銅箔は、リチウムイオン二次電池用負極の集電体として広く用いられているからである。
【0013】
さらに、樹脂被覆層3に、金属ナノ構造体および/または導電性炭素を含むことが好ましい。金属ナノ構造体としては金、銀、銅などのナノ粒子やナノワイヤ、ナノシートなどを用いることができる。導電性炭素としては黒鉛、炭素ナノチューブ(CNT)、フラーレン(C60)、活性炭素、炭素ナノホーン(円錐形の炭素ナノチューブ)などを使用できる。これらを含むことで、樹脂被覆層3自体に導電性が生じ、表面が樹脂被覆された金属板材1の表面抵抗が良好となる。
【0014】
(金属板材表面の樹脂被覆方法)
金属板材表面の樹脂被覆方法を、図2を用いて説明する。
まず、図2(a)に示すように、金属板材5の表面に、微粒子液7を供給し、さらにコーター棒11をA方向へ動かして塗布する。微粒子液7は、水の分散媒に、樹脂微粒子9などを分散させた液体である。塗布方法としては、バーコートやブレード塗布などの、微粒子液7が金属板材5の表面にある程度とどまり、乾燥にある程度時間の必要な塗布方法を用いることが好ましく、オーブンではなく、例えば、室温における自然乾燥が好ましい。後述の乾燥過程において、表面張力の強い水などにより樹脂微粒子9が金属板材5の表面の凹部4に引き寄せられる必要があるため、ある程度の乾燥時間がある方が、凹部4に選択的に樹脂被覆層3が形成されやすいためである。一方で、スピンコートなどの一瞬にして液滴を飛ばすような塗布方法では、金属板材5の表面の全面に樹脂被覆層3が形成され、金属板材表面の導電率は悪化してしまう。
【0015】
微粒子液7とは、水に樹脂微粒子9が、分散している液体である。また微粒子液7には有機溶媒が添加されていても良い。また、ここで、分散液の液体として、水の代わりに有機溶媒を用いることができる。また、塗布する微粒子液7の固形分濃度は、3〜20wt%であることが好ましく、5〜20wt%であることがより好ましい。固形分濃度が薄すぎると凹部4に形成される樹脂被覆層3の量が少なくなり、樹脂被覆層3を形成した効果がほとんどなく、被覆樹脂表面側の金属板材の密着性が不足する。また、固形分濃度が濃すぎると、樹脂被覆層3が金属板材5の表面の全部を覆ってしまい、電気抵抗が高くなりすぎる。
【0016】
その後、図2(b)に示すように、金属板材5の表面を乾燥させる。表面張力の強い水により、樹脂微粒子9が金属板材5の表面の凹部4に引き寄せられるため、金属板材5の凹部4に樹脂微粒子9が集まる。
【0017】
そうすると、図2(c)および図1に示すように、金属板材5の凹部4に樹脂被覆層3が形成され、凸部6には樹脂被覆層3が形成されない、表面が樹脂被覆された金属板材1が得られる。
【0018】
微粒子液7に含まれる樹脂微粒子9の平均粒径が10〜1000nmであることが好ましい。後述するとおり、表面の樹脂被覆前の金属板材5の表面の十点平均粗さが10μm以下であることから、金属板材5の表面の凹部4に樹脂微粒子が入り込むような大きさであることが好ましいためである。
【0019】
表面が樹脂被覆される前の金属板材5の被覆される面の十点平均粗さRzは特に限定するものではないが、0.5μm以上10μm以下が望ましい。ここで、Rzを0.5μm以上としたのは、Rzが0.5μm以下では、金属板材表面で樹脂微粒子が移動するために必要な凹凸形状が十分に形成されずに、樹脂微粒子による凹部の選択的被覆を安定して行うことができないからである。さらに、Rzが2.0μm以上であると、樹脂微粒子が微粒子液中で移動するための凹凸がより安定的に形成されるため、Rzは、2.0μm以上がさらに好ましい。
また、逆にRzが10μmを超えると、金属板材の表面の凹凸が大きすぎて、凹部に選択的に被覆された樹脂による密着性が確保できないからである。
平均粒径10〜1000nmの樹脂微粒子9を用いるが、表面の樹脂被覆前の金属板材5の表面の十点平均粗さは、樹脂微粒子9の平均粒径の5倍以上であることが好ましい。さらに望ましくは、10倍以上であることが望ましい。本発明の効果を実現する上で、金属面の凸と凸の間隔も、微粒子の平均粒子径に対し、5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることがより好ましい。
【0020】
また、樹脂微粒子9は、表面に、金属ナノ構造体および/または導電性炭素が付着していることが好ましい。樹脂微粒子9の表面に、これらの導電材料が付着していると、形成される樹脂被覆層3にもこれらの導電材料が添加されることとなり、樹脂被覆層3の導電性が向上するためである。
【0021】
(表面が樹脂被覆された金属板材を用いた電極)
本実施形態に係る表面が樹脂被覆された金属板材1を、負極の集電体として用いることができる。図3は、本発明の実施形態に係る負極13の断面を示す図である。図3に示すように、ここでは、負極13は、金属板材5の凹部4に樹脂被覆層3を有し、凸部6に樹脂被覆層3を有しない表面が樹脂被覆された金属板材1の表面に、負極活物質層15を形成してなる。負極活物質層15は、負極活物質、導電剤、結着材などを含むスラリーを、表面が樹脂被覆された金属板材5の表面に塗布・乾燥させ、必要に応じて焼成することにより得られる。負極13は、リチウムイオン二次電池用の負極として用いることができる。
【0022】
また、負極の場合と同様に、正極活物質層を金属板材5の上に形成して、リチウムイオン二次電池用の正極を得ることができる。正極活物質層は、正極活物質、導電剤、結着材などを含むスラリーを塗布して得られる。ここで、金属板材5としては、種々の金属板材を用いることができるが、銅箔やアルミニウム箔を用いることが望ましい。銅箔やアルミニウム箔を、リチウムイオン二次電池用の負極や正極の集電体として用いれば、コスト、性能ともに優れた好適な負極や正極を得ることができる。
【0023】
(本実施形態の効果)
本実施形態に係る表面が樹脂被覆された金属板材1は、表面の凸部6には樹脂被覆層3が形成されていないため、金属板材5の表面の表面抵抗が少ない。そのため、表面に負極活物質層15を形成しても金属板材5(集電体)と負極活物質層15との間に電気的接続を形成できる。
【0024】
また、本実施形態に係る表面が樹脂被覆された金属板材1は、表面の凹部4には樹脂被覆層3が形成されているため、樹脂材料との密着性が高い。そのため、表面に負極活物質層15を形成した場合、金属板材5(集電体)と負極活物質層15との間の密着性が高い。
【0025】
また、正極活物質層を金属板材5の上に形成したリチウムイオン二次電池用の正極を得た場合でも、同様に金属板材5と正極活物質層との間は、良好な電気的接続が得られ、密着性が高い。
【実施例】
【0026】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明する。
[実施例]
古河電気工業社製銅箔NC−WS(塗布面の十点平均粗さRz=1.5μm)に、日本ゼオン社製スチレンブタジエン系ゴムラテックス(BM−400B、平均粒径100nm)の分散液(10wt%)を、ブレードコートにより塗布し、銅箔の表面の樹脂被覆を行った。塗布から乾燥までは大気の室温下で約20分程度必要であった。スチレンブタジエン系ゴムラテックスの原液を希釈することにより、その他、固形分濃度の異なるラテックス分散液(0.625wt%、1.25wt%、2.5wt%、5wt%、20wt%)を作製し、上記と同様に銅箔の表面上に樹脂被覆を行った。
【0027】
[比較例]
表面に樹脂被覆を行わない、銅箔を比較例として用いた。また、スチレンブタジエン系ゴムラテックスの原液を希釈することにより、その他、固形分濃度が30wt%、40wt%のラテックス分散液を作成し、上記の実施例と同様に銅箔の表面上に樹脂被覆した。
【0028】
[表面抵抗の測定]
三菱化学アナリテック社製の抵抗率計(ロレスタGP MCP−T610型、4端子4探針法)により、実施例、比較例の材料の表面抵抗を測定した。
【0029】
図4は、銅箔表面の樹脂被覆に用いた有機微粒子液の濃度と銅箔の表面抵抗の関係を示す。図4より、表面の樹脂被覆を行っても、銅箔の表面抵抗に大きな変化がないことが分かる。なお、固形分濃度が30wt%を超えると、選択的に被覆された凹部の面積が増加するとともに、微粒子が凹部のみでなく凸部にも残留するようになり、本発明の特徴的な構造である凹部のみに樹脂微粒子が集まって、凹部に樹脂被覆層が選択的に形成されるものでなく、凸部にも存在した。また、固形分濃度が40wt%の微粒子液を塗布した銅箔は、同様の構造が認められるだけなく、表面抵抗が高すぎて測定できなかった。
【0030】
ここで、写真は省略するが、固形分濃度が40wt%の微粒子液を塗布した場合は、後述する固形分濃度が10wt%の銅箔表面の状態からも判るように、選択的に被覆された樹脂部分の凹部の面積率が急激に増加することで、凸部の面積率が急激に減少するため、電気抵抗の急激な増加をもたらして表面抵抗が測定できなかったものである。
【0031】
実施例に係る銅箔(微粒子液濃度10wt%)を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。図5(a)は、表面が樹脂被覆された銅箔の表面を示す写真であり、上半分の白い部分が未処理部分で、下半分の黒い部分が樹脂被覆された表面である。また、図5(b)は表面が樹脂被覆された部分を拡大した写真であり、図5(c)は、図5(b)よりもさらに拡大した写真である。白く見える部分は銅が露出した箇所であり、黒く見える部分が樹脂で被覆された部分である。このように、微粒子液濃度10wt%の場合でも、樹脂が被覆されていない凸部は、銅箔表面に細長い笹の葉形状でアイランド状に分布し、選択的に樹脂被覆された凹部の面積より、明らかに少ないことがわかる。
【0032】
図6(a)は、表面が樹脂被覆された銅箔の断面を示す写真であり、図6(b)、(c)は、垂直より20°傾けて観察した断面写真である。銅箔表面の凹凸の凹部に樹脂がたまって樹脂被覆層が形成されている様子が観察される。
【0033】
[活物質を含む負極スラリーの調製と負極の製造]
負極活物質として日立化成製天然黒鉛(SMG−N)をミキサーに投入した後、さらに結着材としてのスチレンブタジエン系ゴムラテックス40wt%のエマルジョン(日本ゼオン(株)製、BM−400B)、スラリーの粘度を調整する増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル化学工業(株)製、#2200)1wt%溶液を混合してスラリーを作製した。スラリーの配合は、負極活物質96重量%、結着材(固形分換算)2重量%、増粘材(固形分換算)2重量%とした。前記スラリーを金属板材としての銅箔上に塗布乾燥し、焼成して負極を得た。銅箔としては、樹脂被覆しない銅箔と、固形分濃度が10wt%、20wt%、40wt%のいずれかのラテックス分散液を用いて樹脂被覆した銅箔を用いた。
【0034】
図7は、銅箔表面の樹脂被覆に用いた有機微粒子液の濃度と、活物質層表面の抵抗値の関係を示すグラフである。活物質層の表面抵抗は、銅箔の表面抵抗と同様の測定方法により測定した。図7より、銅箔の樹脂被覆に用いた有機微粒子液の濃度が高くなっても、活物質層表面の抵抗値は特に変化がない。
【0035】
[密着力の測定]
実施例、比較例の銅箔に、上記スラリーを自動塗工装置のドクターブレードを用いて、厚さ10μmの集電体用電解銅箔(古河電気工業(株)製、NC−WS)上に15μmの厚みで塗布し、70℃で10分間乾燥させて負極を製造した。活物質層と銅箔との間の密着性は、島津製作所社製オートグラフ(AG−10kN)を用い、90°ピール試験(クロスヘッド速度=10mm/min)により測定した。
【0036】
図8は、前述のように、銅箔表面の樹脂被覆に用いた有機微粒子液の濃度と、銅箔の表面に塗布された活物質層との密着力の関係を示すが、表面の樹脂被覆を行うことで、活物質層と銅箔との密着性が高まっていることが分かる。これは、活物質層に含まれる結着材樹脂が、銅箔表面の樹脂被覆層と強く密着するためである。特に、微粒子液の濃度は1wt%や2wt%では、比較例と大きな差はないが、濃度が3wt%を超えると急激に密着力が向上し、5wt%以上では密着力が徐々に飽和し、大きな変化はなく安定している。
【0037】
〔電池特性評価〕
試験極に負極と、対極と参照極にリチウム、セパレータにはポリオレフィン製の微孔膜、電解液に1.3mol/LのLiPFを含むエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合溶液にビニレンカーボネート(VC)を1重量%添加した電解液を用いて評価用セルを構成し、充放電特性を調べた。なお、充放電特性の評価は、初回の放電容量および30サイクルの充電・放電後の放電容量を測定し、初回放電容量に対する30サイクルの充電・放電後の放電容量の割合を百分率で求め、容量維持率とした。
【0038】
上記条件で電池特性の確認を行った結果、未処理品銅箔を用いた場合、初期電池容量(=360mAh/g)に対し、30サイクル目で25%まで容量低下が確認された。一方、2.5wt%のスチレンブタジエン系ラテックス分散液によって表面の樹脂被覆を施した銅箔を用いた場合、初期電池容量(=350mAh/g)に対し、15%の容量低下が確認され、表面が樹脂被覆された銅箔を用いることで良好な充放電サイクル特性が得られた。更に2.5wt%のラテックス分散液に導電性炭素としてカーボンナノチューブ(保土ヶ谷化学社製NT-7K)を10.7ppm添加し、上記と同様な銅箔表面被覆処理を施した結果、初期電池容量(=355mAh/g)に対し、6%の容量低下が確認され、非常に良好な充放電サイクル特性が得られた。
〔産業上の利用可能性〕
【0039】
本発明に係る表面が樹脂被覆された金属箔は、リチウムイオン二次電池の電極の集電体として用いることができる。また、絶縁層の表面に、本発明に係る表面が樹脂被覆された金属箔を貼ることで、樹脂の絶縁層と金属箔とが高密着で積層された高周波向けの基板を得ることができる。
【0040】
他に、本発明に係る表面が樹脂被覆された金属箔は、アルミニウムと銅との間の接続界面を有する端子に用いることができる。つまり、アルミニウムや銅の表面に本発明に係る樹脂被覆を行った後にアルミニウムと銅を接合させると、アルミニウムと銅の表面の凹部は樹脂微粒子で埋められているため、界面に隙間が生じにくくなり、毛細管現象によって界面に水が入ることが起きにくくなる。そのため、界面に水が入ってアルミニウムの腐食が発生することを防止できる。
【0041】
絶縁樹脂と金属との密着性を高めるために、樹脂コートを行う前に、部分絶縁が必要な金属の表面に、本発明に係る金属箔の表面に樹脂被覆を行うことができる。特に、樹脂被覆合金条のFコート(登録商標)において、合金条の上に樹脂を被覆する際に、本発明に係る金属箔の表面への樹脂被覆方法を適用することで、樹脂被覆が剥がれにくい合金条を得ることができる。
【0042】
フレキシブルプリント基板において、本発明に係る表面が樹脂被覆された金属箔を用いれば、絶縁体と金属箔との密着性を高めることができる。そのため、折り曲げ時に絶縁体から金属箔が剥離することがなく、折り曲げ特性が向上する。
【0043】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しえることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
特に、本発明は、金属箔にのみ限定されるわけではなく、金属薄板材を含む金属の表面を有する金属板材全般を含む。
【符号の説明】
【0044】
1………表面が樹脂被覆された金属板材
3………樹脂被覆層
4………凹部
5………金属板材
6………凸部
7………微粒子液
9………樹脂微粒子
11………コーター棒
図1
図2
図3
図4
図7
図8
図5
図6