【実施例】
【0026】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明する。
[実施例]
古河電気工業社製銅箔NC−WS(塗布面の十点平均粗さRz=1.5μm)に、日本ゼオン社製スチレンブタジエン系ゴムラテックス(BM−400B、平均粒径100nm)の分散液(10wt%)を、ブレードコートにより塗布し、銅箔の表面の樹脂被覆を行った。塗布から乾燥までは大気の室温下で約20分程度必要であった。スチレンブタジエン系ゴムラテックスの原液を希釈することにより、その他、固形分濃度の異なるラテックス分散液(0.625wt%、1.25wt%、2.5wt%、5wt%、20wt%)を作製し、上記と同様に銅箔の表面上に樹脂被覆を行った。
【0027】
[比較例]
表面に樹脂被覆を行わない、銅箔を比較例として用いた。また、スチレンブタジエン系ゴムラテックスの原液を希釈することにより、その他、固形分濃度が30wt%、40wt%のラテックス分散液を作成し、上記の実施例と同様に銅箔の表面上に樹脂被覆した。
【0028】
[表面抵抗の測定]
三菱化学アナリテック社製の抵抗率計(ロレスタGP MCP−T610型、4端子4探針法)により、実施例、比較例の材料の表面抵抗を測定した。
【0029】
図4は、銅箔表面の樹脂被覆に用いた有機微粒子液の濃度と銅箔の表面抵抗の関係を示す。
図4より、表面の樹脂被覆を行っても、銅箔の表面抵抗に大きな変化がないことが分かる。なお、固形分濃度が30wt%を超えると、選択的に被覆された凹部の面積が増加するとともに、微粒子が凹部のみでなく凸部にも残留するようになり、本発明の特徴的な構造である凹部のみに樹脂微粒子が集まって、凹部に樹脂被覆層が選択的に形成されるものでなく、凸部にも存在した。また、固形分濃度が40wt%の微粒子液を塗布した銅箔は、同様の構造が認められるだけなく、表面抵抗が高すぎて測定できなかった。
【0030】
ここで、写真は省略するが、固形分濃度が40wt%の微粒子液を塗布した場合は、後述する固形分濃度が10wt%の銅箔表面の状態からも判るように、選択的に被覆された樹脂部分の凹部の面積率が急激に増加することで、凸部の面積率が急激に減少するため、電気抵抗の急激な増加をもたらして表面抵抗が測定できなかったものである。
【0031】
実施例に係る銅箔(微粒子液濃度10wt%)を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
図5(a)は、表面が樹脂被覆された銅箔の表面を示す写真であり、上半分の白い部分が未処理部分で、下半分の黒い部分が樹脂被覆された表面である。また、
図5(b)は表面が樹脂被覆された部分を拡大した写真であり、
図5(c)は、
図5(b)よりもさらに拡大した写真である。白く見える部分は銅が露出した箇所であり、黒く見える部分が樹脂で被覆された部分である。このように、微粒子液濃度10wt%の場合でも、樹脂が被覆されていない凸部は、銅箔表面に細長い笹の葉形状でアイランド状に分布し、選択的に樹脂被覆された凹部の面積より、明らかに少ないことがわかる。
【0032】
図6(a)は、表面が樹脂被覆された銅箔の断面を示す写真であり、
図6(b)、(c)は、垂直より20°傾けて観察した断面写真である。銅箔表面の凹凸の凹部に樹脂がたまって樹脂被覆層が形成されている様子が観察される。
【0033】
[活物質を含む負極スラリーの調製と負極の製造]
負極活物質として日立化成製天然黒鉛(SMG−N)をミキサーに投入した後、さらに結着材としてのスチレンブタジエン系ゴムラテックス40wt%のエマルジョン(日本ゼオン(株)製、BM−400B)、スラリーの粘度を調整する増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル化学工業(株)製、#2200)1wt%溶液を混合してスラリーを作製した。スラリーの配合は、負極活物質96重量%、結着材(固形分換算)2重量%、増粘材(固形分換算)2重量%とした。前記スラリーを金属板材としての銅箔上に塗布乾燥し、焼成して負極を得た。銅箔としては、樹脂被覆しない銅箔と、固形分濃度が10wt%、20wt%、40wt%のいずれかのラテックス分散液を用いて樹脂被覆した銅箔を用いた。
【0034】
図7は、銅箔表面の樹脂被覆に用いた有機微粒子液の濃度と、活物質層表面の抵抗値の関係を示すグラフである。活物質層の表面抵抗は、銅箔の表面抵抗と同様の測定方法により測定した。
図7より、銅箔の樹脂被覆に用いた有機微粒子液の濃度が高くなっても、活物質層表面の抵抗値は特に変化がない。
【0035】
[密着力の測定]
実施例、比較例の銅箔に、上記スラリーを自動塗工装置のドクターブレードを用いて、厚さ10μmの集電体用電解銅箔(古河電気工業(株)製、NC−WS)上に15μmの厚みで塗布し、70℃で10分間乾燥させて負極を製造した。活物質層と銅箔との間の密着性は、島津製作所社製オートグラフ(AG−10kN)を用い、90°ピール試験(クロスヘッド速度=10mm/min)により測定した。
【0036】
図8は、前述のように、銅箔表面の樹脂被覆に用いた有機微粒子液の濃度と、銅箔の表面に塗布された活物質層との密着力の関係を示すが、表面の樹脂被覆を行うことで、活物質層と銅箔との密着性が高まっていることが分かる。これは、活物質層に含まれる結着材樹脂が、銅箔表面の樹脂被覆層と強く密着するためである。特に、微粒子液の濃度は1wt%や2wt%では、比較例と大きな差はないが、濃度が3wt%を超えると急激に密着力が向上し、5wt%以上では密着力が徐々に飽和し、大きな変化はなく安定している。
【0037】
〔電池特性評価〕
試験極に負極と、対極と参照極にリチウム、セパレータにはポリオレフィン製の微孔膜、電解液に1.3mol/LのLiPF
6を含むエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合溶液にビニレンカーボネート(VC)を1重量%添加した電解液を用いて評価用セルを構成し、充放電特性を調べた。なお、充放電特性の評価は、初回の放電容量および30サイクルの充電・放電後の放電容量を測定し、初回放電容量に対する30サイクルの充電・放電後の放電容量の割合を百分率で求め、容量維持率とした。
【0038】
上記条件で電池特性の確認を行った結果、未処理品銅箔を用いた場合、初期電池容量(=360mAh/g)に対し、30サイクル目で25%まで容量低下が確認された。一方、2.5wt%のスチレンブタジエン系ラテックス分散液によって表面の樹脂被覆を施した銅箔を用いた場合、初期電池容量(=350mAh/g)に対し、15%の容量低下が確認され、表面が樹脂被覆された銅箔を用いることで良好な充放電サイクル特性が得られた。更に2.5wt%のラテックス分散液に導電性炭素としてカーボンナノチューブ(保土ヶ谷化学社製NT-7K)を10.7ppm添加し、上記と同様な銅箔表面被覆処理を施した結果、初期電池容量(=355mAh/g)に対し、6%の容量低下が確認され、非常に良好な充放電サイクル特性が得られた。
〔産業上の利用可能性〕
【0039】
本発明に係る表面が樹脂被覆された金属箔は、リチウムイオン二次電池の電極の集電体として用いることができる。また、絶縁層の表面に、本発明に係る表面が樹脂被覆された金属箔を貼ることで、樹脂の絶縁層と金属箔とが高密着で積層された高周波向けの基板を得ることができる。
【0040】
他に、本発明に係る表面が樹脂被覆された金属箔は、アルミニウムと銅との間の接続界面を有する端子に用いることができる。つまり、アルミニウムや銅の表面に本発明に係る樹脂被覆を行った後にアルミニウムと銅を接合させると、アルミニウムと銅の表面の凹部は樹脂微粒子で埋められているため、界面に隙間が生じにくくなり、毛細管現象によって界面に水が入ることが起きにくくなる。そのため、界面に水が入ってアルミニウムの腐食が発生することを防止できる。
【0041】
絶縁樹脂と金属との密着性を高めるために、樹脂コートを行う前に、部分絶縁が必要な金属の表面に、本発明に係る金属箔の表面に樹脂被覆を行うことができる。特に、樹脂被覆合金条のFコート(登録商標)において、合金条の上に樹脂を被覆する際に、本発明に係る金属箔の表面への樹脂被覆方法を適用することで、樹脂被覆が剥がれにくい合金条を得ることができる。
【0042】
フレキシブルプリント基板において、本発明に係る表面が樹脂被覆された金属箔を用いれば、絶縁体と金属箔との密着性を高めることができる。そのため、折り曲げ時に絶縁体から金属箔が剥離することがなく、折り曲げ特性が向上する。
【0043】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しえることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
特に、本発明は、金属箔にのみ限定されるわけではなく、金属薄板材を含む金属の表面を有する金属板材全般を含む。