(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記上下方向に沿った平面状に配列した前記複数の超電導素子からなる組を複数並べて全体の前記超電導素子を立体的に配置したことを特徴とする請求項3記載の超電導限流器。
電流値が一定範囲内の通電時には超電導状態にあり、電流値が前記範囲を超える事故電流の通電時には常電導状態となる超電導素子を備える超電導限流器の前記超電導素子を冷却する方法において、
冷媒容器内の液体冷媒中で、前記複数の超電導素子の中で臨界電流が最小の超電導素子を他の何れかの超電導素子の上側に配置し、前記臨界電流が最小の超電導素子の下側に配置された超電導素子から生じた気泡によって前記臨界電流が最小の超電導素子を冷却することを特徴とする超電導限流器内の超電導素子の冷却方法。
前記臨界電流が最小の超電導素子の表面の液体冷媒が膜沸騰状態であるときに当該臨界電流が最小の超電導素子を冷却することを特徴とする請求項6に記載の超電導限流器内の超電導素子の冷却方法。
前記液体冷媒中で、前記複数の超電導素子の中で臨界電流が小さいものほど上側となるように配置することを特徴とする請求項6又は7に記載の超電導限流器内の超電導素子の冷却方法。
前記上下方向に沿った平面状に配列した前記複数の超電導素子からなる組を複数並べて全体の前記超電導素子を立体的に配置することを特徴とする請求項9記載の超電導限流器内の超電導素子の冷却方法。
前記冷媒容器内に設けられ、上下が開放された素子カバーの内側に、前記複数の超電導素子を配置することを特徴とする請求項6から10のいずれか一項に記載の超電導限流器内の超電導素子の冷却方法。
【背景技術】
【0002】
限流器は、電力系統などに導入する機器である。この限流器を導入することで、短絡事故等の事故電流を抑制し、接続された機器の被害低減を図ることが可能となる。
従前の限流器は常電導のリアクトル型のものが一般的だが、近年は、電流経路に超電導素子を介在させ、規定電流の範囲で通電されている時には超電導状態を維持し、超電導素子の臨界電流を超える事故電流の発生時には、常電導状態となってその抵抗により事故電流を抑制する超電導限流器が提案されている。
【0003】
限流器に用いられる超電導素子は、極低温状態を維持するために液体ヘリウム、液体窒素等の液体冷媒に浸漬した状態で冷却されているが、事故電流の発生時には、超電導素子が常電導状態となって急激に素子温度が上昇する。
限流器は一般に事故電流の遮断器と併用され、事故電流が発生すると遮断器が作動するまでの間(0.1[s]程度)、限流器が事故電流を低減させなければならない。そして、遮断器が事故電流を遮断した際に、限流器では超電導素子を速やかに冷却しなければ、素子寿命が著しく短くなり、限流器としての寿命も短くなる。
特に、複数の超電導素子を備える場合には、臨界電流の値が最も小さい超電導素子が最も長時間の発熱を行う傾向にあり、他の超電導素子よりも寿命が短くなり、結果的に装置全体の寿命を顕著に短くすることになる。
このため、超電導限流器においては、超電導素子の発熱時に速やかに冷却することが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、熱発生源としての半導体素子と液体冷媒とを収容する冷媒容器と、当該冷媒容器の内部を冷媒供給側と素子配置領域側とに分離する隔壁と、当該隔壁から半導体素子に向かって延びるノズル状の冷媒噴出口と、冷媒噴出口の出口近傍において冷媒の流れを乱す乱れ形成部材とを備える冷却構造が開示されている。
この冷却構造では、冷媒の供給圧により冷媒噴出口から液体冷媒を半導体素子に向かって噴出し、その際、乱れ形成部材が冷媒の流れを乱すことにより、半導体素子の平面全体でなるべく均一に核沸騰を生じさせることにより冷却の高効率化を図っている。
【0005】
また、特許文献2には、熱発生源としての半導体素子と液体冷媒とを収容する冷媒容器と、当該冷媒容器の内壁と外壁との間に設けられた冷却パイプと、冷媒容器の内壁から半導体素子側に向かって延出された気泡をトラップする複数の突起部とを備える冷却構造が開示されている。
この冷却構造では、半導体素子の温度上昇により発生する冷媒の気泡を突起部によって内壁側に捕集し、当該気泡を積極的に冷却することで冷却の高効率化を図っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の冷却構造は、温度上昇が比較的緩やかな半導体素子の冷却を前提とすることから、素子の表面に核沸騰が生じた場合しか想定されていない。
一方、事故電流の発生時には、超電導素子は、液体窒素温度(77K)から室温(300K)まで加熱される。そのため、超電導素子の表面は膜沸騰状態となる。このような超電導限流器に特許文献1の冷却構造を適用しても、膜沸騰状態では超電導素子の表面は液体冷媒の気化ガスに覆われるため、冷媒噴出口からの液体冷媒が超電導素子の表面に届かず、冷却を十分に行うことが困難であった。
また、特許文献1に記載の冷却構造は、内部に隔壁を設け、当該隔壁には冷媒噴出口を形成する等の特殊構造の冷却容器が必要であり、全体の構成の複雑化、装置コストの上昇等が生じるという問題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載の冷却構造の場合も、気泡の捕集という核沸騰を前提とする冷却手法であるため、素子の平面全体的に気化した冷媒が張り付いたように発生する膜沸騰の発生時には効果的に冷却を行うことが出来なかった。
また、特許文献2に記載の冷却構造の場合も、内壁と外壁との間に冷却パイプを設け、内壁には突起部を有する等の特殊構造の冷却容器が必要であり、全体の構成の複雑化、装置コストの上昇等が生じるという問題があった。
【0009】
本発明は、超電導素子の表面に膜沸騰が発生した場合に効果的な冷却を行う超電導限流器及び超電導限流器内の超電導素子の冷却方法の提供を図ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、電流値が一定範囲内の通電時には超電導状態にあり、電流値が前記範囲を超える事故電流の通電時には常電導状態となる超電導素子を備える超電導限流器において、液体冷媒及び複数の前記超電導素子を収容する冷媒容器と、前記冷媒容器内の液体冷媒を冷却する冷却手段とを備え、前記液体冷媒中で、前記複数の超電導素子の中で臨界電流が最小の超電導素子を他の何れかの超電導素子の上側に配置したことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、電流値が一定範囲内の通電時には超電導状態にあり、電流値が前記範囲を超える事故電流の通電時には常電導状態となる超電導素子を備える超電導限流器の前記超電導素子を冷却する方法において、冷媒容器内の液体冷媒中で、前記複数の超電導素子の中で臨界電流が最小の超電導素子を他の何れかの超電導素子の上側に配置し、前記臨界電流が最小の超電導素子の下側に配置された超電導素子から生じた気泡によって前記臨界電流が最小の超電導素子を冷却することを特徴とする。
上記超電導限流器内の超電導素子の冷却方法において、臨界電流が最小の超電導素子の表面の液体冷媒が膜沸騰状態であるときに当該臨界電流が最小の超電導素子を冷却しても良い。
【0012】
また、超電導限流器又は超電導限流器内の超電導素子の冷却方法の発明において、前記液体冷媒中で、前記複数の超電導素子の中で臨界電流が小さいものほど上側となるように配置するものとしても良い。
【0013】
また、超電導限流器又は超電導限流器内の超電導素子の冷却方法の発明において、上下方向に沿った平面状に前記複数の超電導素子を配列し、上下に隣接して並んだ二つの超電導素子からなる組み合わせが、いずれも、上側が下側よりも臨界電流が小さいものとなるように配置するものとしても良い。
【0014】
また、超電導限流器又は超電導限流器内の超電導素子の冷却方法の発明において、前記上下方向に沿った平面状に配列した前記複数の超電導素子からなる組を複数並べて全体の前記超電導素子を立体的に配置するものとしても良い。
【0015】
また、超電導限流器又は超電導限流器内の超電導素子の冷却方法の発明において、上下が開放された、前記複数の超電導素子を囲繞する素子カバーを前記冷媒容器内に配置するものとしても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、冷媒容器内の液体冷媒中で、複数の超電導素子の中で臨界電流が最小の超電導素子を他の何れかの超電導素子の上側に配置する。そして、事故電流の発生により急激な温度上昇が生じた各超電導素子は膜沸騰状態となる。これにより、各超電導素子の表面から生じる液体冷媒の気化ガスが上方に放出され、他の超電導素子の上側に配置された臨界電流が最小の超電導素子は、上昇する気化ガスに曝される。
膜沸騰状態にある超電導素子は、その表面において気化ガスが膜状に張り付いた状態で発生することから冷却効率が低減する。このような状態の超電導素子に対して下方から上昇する気化ガスの気泡及び当該気泡による液流に曝されると、その素子表面で発生した気化ガスの剥離を促し、液体冷媒に接するので臨界電流が最小の超電導素子の冷却効率が改善される。
このため、最も寿命が短い臨界電流が最小の超電導素子の寿命を延長することが出来、超電導限流器全体の長寿命化を実現することが可能となる。
また、超電導素子の配置によりその冷却効率の向上を実現するので、冷却のための特殊構造や特別な構成を不要とし、超電導限流器全体の構成の簡易化、コストの低減を図ることが可能である。
【0017】
また、液体冷媒中で、複数の超電導素子の中で臨界電流が小さいものほど上側となるように配置した場合には、臨界電流が小さい超電導素子が複数含まれる場合でもこれら全体を他の超電導素子からの気化ガスによって冷却して長寿命化を図ることが出来るので、超電導限流器のさらなる長寿命化を実現することが可能となる。
【0018】
また、平面状に並ぶ複数の超電導素子における上下に隣接して並んだ二つの超電導素子からなる、いずれの組み合わせも、上側が下側よりも臨界電流が小さいものとなるように配置した場合には、平面状に並んだ複数の超電導素子の上側に位置するものほど臨界電流が小さくなるように各超電導素子が分布する配置となるので、超電導限流器の効果的な長寿命化を実現することが可能となる。
また、平面状に配列した複数の超電導素子の組を複数並べて全体の超電導素子を立体的に配置した場合には、下方に配置された複数の超電導素子から発生する気化ガスの流れを複合的に上方の超電導素子にもたらすことができ、臨界電流が小さい超電導素子を長寿命化して、超電導限流器のさらなる長寿命化を実現することが可能となる。
【0019】
また、複数の超電導素子が素子カバーにより囲繞される配置とした場合には、下方に配置された超電導素子から発生する気化ガスの流れを拡散させることなく上方の超電導素子に導くことができ、臨界電流が小さい超電導素子を長寿命化して、超電導限流器のさらなる長寿命化を実現することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第一の実施形態]
以下、本発明の第一の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
この第一の実施形態では、外部から電源供給が行われる保護対象機器に対し、電源供給経路の途中に設けられ、電源供給側で発生した事故電流を低減するための超電導限流器10及び当該超電導限流器10内の超電導素子71,72の冷却方法について説明する。
図1は超電導限流器10の垂直平面に沿った断面図である。
【0022】
この超電導限流器10は、真空断熱された内側容器21と外側容器22とを有し、液体冷媒である液体窒素60と後述する二つの超電導素子71,72とを収容する冷媒容器20と、冷媒容器20の上部開口を閉塞可能な蓋体30と、内側容器21内の液体窒素60を冷却する冷却手段としての冷凍機40とを備えている。
そして、この超電導限流器10は、二つの超電導素子71,72に対して超電導素子71,72のどちらの臨界電流も超えない範囲で通電されている時には超電導状態を維持し、どちらか一方でも臨界電流を超える過大な事故電流が通電された時には常電導状態となって電気抵抗を発生することで、保護対象機器への過大な電流の通電を防止する。
以下、超電導限流器10の各部について説明する。
【0023】
[冷媒容器]
冷媒容器20は、内側容器21と外側容器22とからなり、これら相互間が真空断熱された二重壁面構造の有底容器である。
内側容器21は、上下方向に沿った円筒状であって、下端部が閉塞されて底部をなし、上端部が開放されている。
外側容器22は、内側容器21と同様に上下方向に沿った円筒状であって、下端部が閉塞されて底部をなし、上端部が開放されている。そして、この外側容器22は、内側容器21よりに一回り大きく形成され、内側容器21を内側に格納している。さらに、内側容器21の外周面及び底部下面と外側容器22の内周面及び底部上面とが相互に隙間空間を形成するように、内側容器21と外側容器22の上端部同士が接合されて一体化されている。また、内側容器21と外側容器22の互いの隙間空間は真空引きが行われ、真空断熱されている。
また、内側容器21と外側容器22との隙間空間には、円筒部及び底部の全域に渡って、アルミニウムを蒸着させたポリエステルフィルムが積層されてなるスーパーインシュレーション材23が介在し、外部からの輻射熱の遮断を図っている。
【0024】
[蓋体]
内側容器21と外側容器22の接合部(冷媒容器20の上端面)は水平に平滑化されており、このリング状の平滑面(上端面)上に円板状の蓋体30が載置装備されている。
この蓋体30は、保守点検による冷媒容器20内へのアクセスができるように、冷媒容器20からの着脱が可能な状態で取り付けられている。例えば、蓋体30と冷媒容器20の相互間の凹凸形状による嵌合構造或いはボルト止め等周知の方法で蓋体30が冷媒容器20に対して固定される。
なお、この蓋体30は、冷凍機40を垂下支持するので、ある程度強度を有する材料から形成されていることが好ましい。具体的には、FRP(Fiber Reinforced Plastics)やステンレス鋼等を蓋体30の材料として用いることができる。
また、この蓋体30も冷媒容器20と同様に中空の内部が真空断熱された二重壁面構造として断熱性を高めても良い。
【0025】
[冷凍機]
冷凍機40は、蓄冷式のいわゆるGM冷凍機であり、蓄冷材を内部に保有するディスプレーサ容器を上下に往復させるシリンダ部41と、ディスプレーサ容器に上下の移動動作を付与するモータを駆動源とするクランク機構が格納された駆動部42と、シリンダ部41において最も低温となる低温伝達部43に設けられた熱交換部材としての熱交換器44とを備えている。
また、上記冷凍機40には、図示しないコンプレッサ等が接続され、その内部に対して冷媒ガスの吸排気が行われるようになっている。
【0026】
[超電導素子]
二つの超電導素子71,72は、同一寸法、同一構造であり、超電導体を有する短冊状の平板であり、通電方向に沿って直列に接続されている。また、直列接続された二つの超電導素子71,72の両端部は、それぞれ、蓋体30を上下に貫通して保持された電流リード91,92に個別に接続されている。即ち、いずれか一方の電流リード91又は92から二つの超電導素子71,72を介して他方の電流リード92又は91に事故電流が通電されるようになっている。
各超電導素子71,72を構成する超電導体には、液体窒素温度以上で超電導状態となるRE系超電導体(RE:希土類元素)を用いることができる。RE系超電導体としては、例えば化学式YBa
2Cu
3O
7-yで表されるイットリウム系超電導体(以下、Y系超電導体)が代表的である。RE系超電導体の場合には、短冊状の平板以外に、テープ状の金属基板上に中間層を介してRE系超電導体が形成されたテープ状の超電導線を用いてもよい。また、金属マトリクス中に超電導体が形成されているテープ状の超電導線でもよい。超電導体には、ビスマス系超電導体、例えば化学式Bi
2Sr
2CaCu
2O
8+δ(Bi2212), Bi
2Sr
2Ca
2Cu
3O
10+δ(Bi2223)を適用できる。なお、化学式中のδは酸素不定比量を示す。
【0027】
上記二つの超電導素子71,72は、冷媒容器20において液体窒素60の規定液面高さの液面61より低位置において、いずれも長手方向が上下方向に沿った状態で、その平板面が鉛直上下方向に沿うように図示しない枠体により保持されている。
上記二つの超電導素子71,72は、その超電導状態を維持することが可能な臨界電流の値にバラつきがあるものが使用される。そして、臨界電流が小さい方の超電導素子71が、臨界電流が大きな超電導素子72より上方となるように配置されている。
具体的には、一方の超電導素子71は臨界電流の値が100[A]、他方の超電導素子72は臨界電流の値が120[A]のものが使用される。なお、この臨界電流の数値は一例であって、上側に配置される超電導素子71が下側の超電導素子72よりも臨界電流が小さくなるという条件を満たせば、臨界電流が他の値のものを組み合わせても良い。
【0028】
ここで、超電導素子の寿命について説明する。
図2は一般的な超電導素子を100℃(摂氏100度)で継続的に加熱した場合の加熱時間と電極との接触抵抗値との対応関係を示す。超電導素子における電極との接触抵抗値は、超電導素子の劣化の指標となる特性値であり、
図2では超電導素子の当初の抵抗値に対する増加率を百分率で示している。そして、この接触抵抗値が100パーセントに達すると超電導素子の寿命とされる。
図示のように、超電導素子は、加熱時間が長くなるほど接触抵抗が増加する傾向を示す。
【0029】
図3には臨界電流が大きい超電導素子と臨界電流が小さい超電導素子とをそれぞれ単独で配置して200[A]の電流を0.1[s]で通電した場合(以下の記載では、この通電を「限流動作」という)の特性を示している。
図3上段に示した、臨界電流Icが大きい超電導素子(Ic=120[A])の場合には、上記の通電により60℃(摂氏60度)まで素子温度が上昇し、通常温度に戻るまでの時間が12[s]であり、寿命となるまでの限流動作の耐用回数はおよそ2700回であった。
一方、
図3下段に示した、臨界電流Icが小さい超電導素子(Ic=100[A])の場合には、上記の通電により100℃(摂氏100度)まで素子温度が上昇し、所定温度に戻るまでの時間が15[s]であり、寿命となるまでの限流動作の耐用回数はおよそ700回であった。
超電導限流器では、複数ある超電導素子の一つでも寿命を迎えれば装置としての寿命となるので、臨界電流が大きい超電導素子と臨界電流が小さい超電導素子とを上下の差を設けずに水平に並べて配置した場合には、超電導限流器の寿命は、限流動作700回までとなる。
【0030】
これに対して、発明の実施形態である超電導限流器10では、冷媒容器20の液体窒素内における臨界電流が小さい超電導素子71(Ic=100[A])と臨界電流が大きい超電導素子72(Ic=120[A])との配置に特徴を有している。
即ち、実施形態たる超電導限流器10(実施例1とする)は、臨界電流が小さい超電導素子71(Ic=100[A])を臨界電流が大きい超電導素子72(Ic=120[A])の上方に配置している。
以下、上記実施例1と、冷媒容器の液体窒素内において臨界電流が大きい超電導素子(Ic=120[A])を臨界電流が小さい超電導素子(Ic=100[A])の上方に配置した比較例1とについて、
図4によりその特性を比較する。
【0031】
比較例1では、上方に配置された臨界電流が大きい超電導素子の寿命が限流動作3100回となり、単一での素子配置の場合と比べて400回ほど寿命が延びているが、下方に配置された臨界電流が小さい超電導素子の寿命は限流動作700回のままであるため、超電導限流器の装置寿命は従前と同じ700回となる。
これに対して、実施例1では、下方に配置された臨界電流が大きい超電導素子72の寿命は限流動作2700回となり、単一での素子配置の場合と変わらないが、上方に配置された臨界電流が小さい超電導素子71の寿命が限流動作800回となり、単一での素子配置の場合と比べて100回ほど寿命が延びているため、超電導限流器10の装置寿命もおよそ限流動作800回となり、長寿命化を実現している。
【0032】
超電導素子は、周囲の極低温状態の液体窒素により冷却されているが、事故電流のような臨界電流を大きく超える電流が超電導素子に流れると、超電導素子は超電導状態から常電導状態に遷移し、電気抵抗が高くなることにより急激に発熱する。その結果、液体窒素に対して超電導素子は非常に高温となり、液体窒素が核沸騰状態を超えて膜沸騰状態となる。
膜沸騰状態が発生すると、超電導素子の表面が液体窒素よりも冷却効率が低い窒素ガスに覆われるので、超電導素子の冷却に時間を要する状態となる。
しかし、上下に超電導素子71,72を並べて配置した場合には、
図5に示すように、事故電流の発生時にそれぞれの超電導素子71,72において膜沸騰が生じ、下側の超電導素子72からの窒素ガスが気泡となって上昇し、上側の超電導素子71の周囲を通過する。その際、気泡及び気泡の上昇による液流が上側の超電導素子71の表面に発生した膜沸騰状態の窒素ガスの剥離を促すため、上側の超電導素子71の表面が液体窒素と接触する状態に戻すことができ、冷却効率の低下が抑制される。これにより、上側の超電導素子71は、単一で配置された場合や他の超電導素子と水平に並んで配置された場合に比べて速やかに冷却され、長寿命化が図られるようになっている。
従って、超電導限流器10は、装置全体の寿命を決定する臨界電流が小さい方の超電導素子71の長寿命化に伴い、超電導限流器10そのものの長寿命化も実現している。
【0033】
[第二の実施形態]
本発明の第二の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。この第二の実施形態である超電導限流器は、前述した第一の実施形態の超電導限流器10と比較して、超電導素子の個体数とその配置が異なっており、その他の構成(冷媒容器20、蓋体30、液体窒素60、冷凍機40、電流リード91,92等)は同一なので、ここでは、主に、超電導素子について説明する。
【0034】
第二の実施形態である超電導限流器では、
図6に示すように、九つの超電導素子81〜89が使用される。
各超電導素子81〜89は、超電導材料からなる短冊状の平板であり、各々の長手方向が上下方向に沿った状態で、それぞれの平板面が同一の垂直平面に沿って配列された状態で保持される。
さらに、各超電導素子81〜89は、配線によって、電気的に並列接続された三つの超電導素子81,82,83からなる第一の素子群と三つの超電導素子84,85,86からなる第二の素子群と三つの超電導素子87,88,89からなる第三の素子群とが通電方向に三つ並んで電気的に直列に接続された状態となっている。そして、その一端部の配線は電流リード91に接続され、他端部の配線は電流リード92に接続される(
図6では電流リード91,92は図示を省略している)。
【0035】
また、各超電導素子81〜89の空間的な配置としては、各超電導素子81〜89が行方向と列方向のそれぞれに沿って並び、平面状に配置されている。即ち、第一の素子群を構成する三つの超電導素子81,82,83(
図6における素子位置A,B,C)と第二の素子群を構成する三つの超電導素子84,85,86(
図6における素子位置D,E,F)と第三の素子群を構成する三つの超電導素子87,88,89(
図6における素子位置G,H,I)とがいずれも水平方向に沿って並び、各素子群の左端の超電導素子81,84,87と、各素子群の中央の超電導素子82,85,88と、各素子群の右端の超電導素子83,86,89とがそれぞれ鉛直上下方向に沿って並ぶように配置されている。
【0036】
そして、各超電導素子81〜89は、
図7に示すように、その臨界電流の数値にバラつきがあるものが使用される。これら超電導素子81〜89は、上下に隣接して並ぶ二つの超電導素子の全ての組み合わせについて、上側の超電導素子の臨界電流が下側の超電導素子の臨界電流よりも小さくなるように配置されている。
具体的には、上段の並びの超電導素子81,82,83は、それぞれ臨界電流値が90,95,100[A]であり、中段の並びの超電導素子84,85,86は、それぞれ臨界電流値が105,110,115[A]であり、下段の並びの超電導素子87,88,89は、それぞれ臨界電流値が115,120,120[A]となっている。
また、超電導素子81〜89の中で最も臨界電流が小さい超電導素子81(Ic=90[A])は全体の中で最も上の並びに位置し、最も臨界電流が大きい超電導素子88,89(Ic=120[A])は全体の中で最も下の並びに位置している。
【0037】
ここで、素子位置A〜Iに超電導素子81〜89の順番で配置した
図6の例(実施例2とする)について、各超電導素子81〜89の寿命の変化を
図7に示す。また、素子位置A〜Iに超電導素子89〜81の順に配置した比較例2について、各超電導素子89〜81の寿命の変化を
図8に示す。なお、この比較例2の各超電導素子81〜89は、上下に隣接して並ぶ二つの超電導素子の全ての組み合わせについて、上側の超電導素子の臨界電流が下側の超電導素子の臨界電流よりも大きくなるように配置されることになる。
【0038】
実施例2も比較例2も、下段の並びの超電導素子は他の超電導素子からの窒素ガスの気泡に曝されないので、単独での配置の場合と同じ寿命となる。
また、実施例2も比較例2も、中段及び上段の並びの超電導素子は下方の他の超電導素子からの窒素ガスの気泡に曝されるので、単独での配置の場合よりも長寿命化が図られる。
しかし、比較例2の場合には、最も臨界電流の小さい超電導素子81及び二番目、三番目に小さい超電導素子82,83が下段の並びに位置し、これらの長寿命化を図ることが出来ないので、超電導限流器の長寿命化も図ることが出来ない。
一方、実施例2の場合には、寿命が短くなりがちな超電導素子81〜86について全て長寿命化を図ることができるので、超電導限流器についてより効果的な長寿命化を実現することが可能である。
【0039】
なお、上記第二の実施形態である超電導限流器では九個の超電導素子を平面状に配列する場合を例示したが、平面状に並べることができ、上下に隣接して並ぶ二つの超電導素子の全ての組み合わせについて、上側の超電導素子の臨界電流が下側の超電導素子の臨界電流よりも小さくなるように配置することが可能であれば、その個体数は任意に変更可能である。
【0040】
また、上記第二の実施形態である超電導限流器では、その配線について並列接続された複数の超電導素子からなる素子群を直列接続した場合を例示しているが、その接続方法はこれに限るものではない。例えば、直列接続された複数の超電導素子からなる素子群を並列接続で束ねても良い。
【0041】
また、上下方向に隣接する超電導素子の並び方向は、
図9に示すように、鉛直上下方向に対して幾分傾斜した配置としても良い。
即ち、超電導素子の平板面の水平方向の中心線と鉛直上下方向の中心線との交点を超電導素子の中心gとした場合に、上下方向に隣接する二つの超電導素子(例えば、83と86とする)の中心g,g同士を結ぶ線分の鉛直上下方向に対する傾斜角θが70°(度)以下の範囲内であれば(0°≦θ≦ 70°)、下方の超電導素子86から生じた窒素ガスの気泡を上方の超電導素子83に曝すことが出来る。
この時、二つの超電導素子83,86の鉛直上下方向の中心間距離をL、各素子の中心の水平方向のズレをδとする場合、θ=tan
-1(δ/L)により、上下方向に隣接する二つの超電導素子の全ての組み合わせについて、次式(1)又は(2)が成立するように配置することができる。
【0042】
0°≦ tan
-1(δ/L) ≦ 70° …(1)
0 ≦ δ ≦L・tan70° …(2)
但し、δ≦αとする。
α:臨界電流を超えたときに超電導素子から生じる気泡の水平方向の到達距離
【0043】
上記の範囲で各超電導素子81〜89を鉛直上下方向に傾斜する配置としても良い。
なお、
図9では右側への傾斜のみを図示しているが左側への傾斜についても同じ数値範囲で傾斜させることが可能である。
【0044】
また、平面状に配列した複数の超電導素子からなる組を複数用意して、互いに平行に配置することにより全ての超電導素子を立体的に配置しても良い。例えば、
図6に示す九つの超電導素子81〜89からなる組を二つ以上用意し、これらを平行且つ高さを合わせて平面に交差する方向、例えば水平方向に並ぶように配置することにより立体配置を実現することも可能である。
これにより、下方に配置された複数の超電導素子から発生する気化ガスの流れを複合的に上方の超電導素子にもたらすことができ、臨界電流が小さい超電導素子の長寿命化及び超電導限流器の長寿命化を実現することが可能である。
【0045】
[その他]
前述した超電導素子71,72,81〜89は、その姿勢や向きを変更することが可能である。
例えば、各超電導素子71,72の長手方向が鉛直上下方向に沿うように配置した場合を例示したが、
図10に示すように、これらの長手方向が水平方向に沿うように配置しても良い。超電導素子81〜89についても同様である。
また、各超電導素子71,72の長手方向が水平方向に沿うように配置した場合には、それらの平板面が水平となる向きで配置しても良い。
【0046】
また、
図6では各超電導素子81〜89の長手方向が鉛直上下方向に沿うように配置した場合を例示したが、
図11に示すように、これらの長手方向が水平方向に沿うように配置しても良い。
また、各超電導素子81〜89の長手方向が水平方向に沿うように配置した場合には、それらの平板面が水平となる向きで配置しても良い。
【0047】
また、
図6では超電導素子81,82,83と超電導素子84,85,86と超電導素子87,88,89とがそれぞれ並列であって、これら三組の超電導素子が直列となるに接続されているが、接続の方法も任意である。例えば、
図12に示すように、各超電導素子81〜89を直列に接続しても良い。
【0048】
また、
図12では、超電導素子81〜89を流れる電流の向きが同一方向に配置した、誘導型の場合を例示したが、無誘導型の配置としてもよい。例えば、
図13に示すように、超電導素子81〜89を超電導材料の薄膜を使用した薄膜素子とすると共に、超電導素子81〜89を直列に接続する。そして、三つの超電導素子81,82,83を水平に並べ、その下側で折り返して逆方向に三つの超電導素子84,85,86を水平に並べ、さらにその下側で折り返して逆方向に三つの超電導素子87,88,89を水平に並べる配置としても良い。この場合、これら三組の超電導素子を流れる電流の向きが組ごとに交互に逆向きになり、無誘導型の配置となる。
【0049】
また、無誘導型の配置としては、
図13の場合に限られない。例えば、
図14に示すように、超電導素子81,82,83を超電導線材(
図13の超電導素子よりも長尺な素子)を用いた素子とすると共に、超電導素子81〜83を直列に接続する。そして、超電導素子81を水平に配置し、その下側で折り返して逆方向に超電導素子82を水平に配置し、さらにその下側で折り返して逆方向に超電導素子83を水平に配置しても良い。この場合、これら三つの超電導素子を流れる電流の向きがそれぞれ交互に逆向きになり、無誘導型の配置となる。
図13,
図14の例のように、超電導素子や超電導線材をミアンダ型の無誘導型の配置とすることで、
図12の構成に比べて、素子群のインダクタンスが減少し、超電導限流器10を定格通電させたときの発生電圧を抑制することができる。
【0050】
また、超電導素子を短冊状ではなく、容易に変形させることが可能なワイヤ譲渡した場合には、超電導素子により任意の形状を形成しても良い。例えば、
図15に示す、支持プレート110の上面に沿って、超電導素子101〜106を渦を巻くようにコイル状に取り付けた超電導素子ユニット100を、二つ以上用意してそれらを上下に重ねて配置しても良い。なお、支持プレート110の上面において、超電導素子101〜106がコイル状に配置される部分111は、網状或いは無数のスリットや小孔が形成されており、表裏に気泡が通過可能となっている。
この場合、少なくとも、上下に複数配置される超電導素子ユニット100に取り付けられた全ての超電導素子の中で、臨界電流の値が最も小さい超電導素子が取り付けられた超電導素子ユニット100の下側に一つ以上の他の超電導素子ユニット100が配置されていることが望ましく、臨界電流の値が最も小さい超電導素子が取り付けられた超電導素子ユニット100が最も上側に配置されればより望ましい。
これにより、最も臨界電流が小さい超電導素子の素子寿命を延長することができ、装置全体の長寿命化を図ることが可能である。
なお、超電導素子ユニットの個体数は、二以上であれば任意であり、一つの超電導素子ユニット100に設けられる超電導素子の個体数は一以上であれば任意である。
また、超電導素子ユニット100の超電導素子の形状としては、
図16に示すような無誘導巻きの形状としても良い。即ち、その中央部で折り返したワイヤ状の超電導素子101をコイル状に巻くことにより、その一端部から他端部にかけて通電すると、中央部の折り返し部分を境界として隣接するワイヤ状の超電導素子に互いに逆向きに電流が流れることになる。これにより素子群のインダクタンスが減少し、超電導限流器10を定格通電させたときの発生電圧を抑制することができる。
また、このように無誘導巻きの形状とした場合にも
図15のように複数のワイヤ状の超電導素子をコイル状に巻いてもよい。
【0051】
また、上述した超電導素子71,72,81〜89の臨界電流の値はいずれもその一例であって、前述した素子配置と臨界電流の大小の条件を満たすものであれば任意に変更可能である。
また、上記の実施形態では、複数の超電導素子の一部を水平方向の平面上に並べた構成を示したが、平面上に並べる超電導素子の個体数や配列の方向は上記の構成に限られず、
図9で示すような、他の超電導素子から生じる気泡の到達位置に臨界電流の値が小さい超電導素子を配置するのが好ましい。複数の超電導素子の配置は、臨界電流の値が小さいものほど上となることが望ましいが、少なくとも、最も臨界電流が小さい超電導素子の下側に一つ以上の他の超電導素子が配置されていれば、最も臨界電流が小さい超電導素子の素子寿命を延長することができ、装置全体の長寿命化を図ることが可能である。
【0052】
また、
図17に示すように、冷媒容器20の液体窒素60内において、各超電導素子71,72,81〜89を囲繞する、上下が開放された筒状又は枠状の素子カバー93を設けても良い。
図17では超電導素子71,72を囲繞する場合を図示しているが超電導素子81〜89についてもこれら全体を素子カバー93で囲繞しても良い。
かかる素子カバー93により、事故電流の発生時に下側の超電導素子で発生した窒素ガスの気泡の拡散を抑えて上方に向かわせることができ、上方の超電導素子を効果的に気泡及びこれによる液流に曝すことができ、より効率的な冷却を行うことが可能である。
なお、上下が開放して窒素ガスの気泡の拡散を押さえることが可能であれば、筒状又は枠状以外の形態により超電導素子71,72を囲繞しても良い。
【0053】
また、超電導素子が短冊状である場合を例示したが、これに限らず、例えば、棒状、ワイヤー状、シート状、その他の任意の形状としても良い。
また、各超電導素子を構成する超電導体は例示のものに限定されず、他の超電導材料からなる超電導素子を使用しても良い。但し、その場合には新たに選択した超電導材料による超電導状態を維持することか可能な温度まで冷却可能な冷凍機及び液体冷媒を適宜選択することが望ましい。