(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板上に塗布されたポジ型のフォトレジストにレーザ光を走査しながら照射して露光し、その後フォトレジストを現像して、基板上に所望の凹凸パターンを有する微細構造体を製造する方法では、形成されるパターンの高さあるいは斜面形状は、フォトレジストに与えられる露光量(レーザ光量)と現像時のフォトレジストの溶解特性によって変化する。したがって、形成しようとするパターンの高さ及び斜面形状に応じて露光量(レーザ光量)が調整される。
【0006】
ポジ型のフォトレジストは一般に、光が照射されるとベースポリマから脱離基が脱離し、この脱離基が水酸基と結合しアルカリ可溶物に変化する。この状態で現像を行うと、アルカリ可溶物が現像液に溶けて、露光量に応じてフォトレジストが除去され、所望の凹凸パターンを得ることができる。
【0007】
理論的には、露光量が大きくなる程、露光深さが深くなり、得られるパターンは凹部が深く、凸部が高くなる傾向がある。
しかしながら、露光量が過大になると、フォトレジスト内においてレーザ光の焦点部及びその近傍の温度上昇によって、脱離した脱離基がベースポリマに再結合してフォトレジストが部分的にアルカリ不溶物に戻る現象が生じる。そのため、ある一定値以上の露光量でフォトレジストを露光しても、それ以上露光深さを深くすることができず、得られるパターンの凸部の高さをそれ以上大きくすることができない。また、露光量が過大では、レーザ光の焦点部及びその近傍である凸部の頭頂部に不要な窪みが生じるなど、得られるパターン形状が設計通りのものとはならなくなる場合がある。
具体的には、従来の方法では、凸部の高さが20μm以上では、所望の高さ及び形状の凸部を安定的に形成することが難しい傾向がある。
【0008】
レーザ走査による露光を行うものではないが、本発明の関連技術としては、特許文献3がある。
特許文献3には、マスク露光法においてレジスト感光閾値未満の露光量にて複数回露光を行い、複数回合計の露光によりレジスト感光閾値を超える露光量とした後に現像することで、回折光による形状崩れの影響を低減し、設計通りのパターンを形成する方法が開示されている(請求項1)。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、レーザ走査によるフォトレジストの露光工程とフォトレジストの現像工程とを有し、凸部の高さが比較的大きく、例えば20μm以上であっても、所望のパターンを安定的に得ることが可能な微細構造体とその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の微細構造体の製造方法は、
表面に凹凸パターンを有する微細構造体の製造方法であって、
基板上にポジ型のフォトレジストを塗布する塗布工程と、
前記フォトレジストに対してレーザ光を走査しながら照射して前記フォトレジストを露光する露光工程と、
前記フォトレジストを現像する現像工程とを備え、
前記露光工程において、同一箇所に対して同一パターンで複数回の露光を行うものである。
【0011】
本発明の微細構造体の製造方法において、
前記フォトレジストに対して、同一のレーザ装置を用い、レーザ光量の条件のみを変えて1回の露光を行い、現像後に得られる前記凹凸パターンの凸部の最大高さをパターン高さとして求め、レーザ光量とパターン高さとの関係を示すレジスト感度曲線を取得し、当該レジスト感度曲線から求められるパターン高さが最大となる最小のレーザ光量をX
maxとしたとき、
前記露光工程において、同一箇所に対して実施する複数回の露光のレーザ光量を、各回それぞれX
max未満とし、かつ、複数回の露光のレーザ光量の合計をX
max以上とすることが好ましい。
【0012】
複数回の露光において、レーザパワーのみを変え、走査速度、レーザ光強度分布(対物レンズ開口数)、及びレーザ光走査ピッチ等のその他のレーザ光照射条件を同一とした場合、レーザ光量はレーザパワーに対応する。
【0013】
本発明の微細構造体の製造方法において、
前記フォトレジストに対して、同一のレーザ装置を用い、レーザパワーの条件のみを変えて1回の露光を行い、現像後に得られる前記凹凸パターンの凸部の最大高さをパターン高さとして求め、レーザパワーとパターン高さとの関係を示すレジスト感度曲線を取得し、当該レジスト感度曲線から求められるパターン高さが最大となる最小のレーザパワーをY
maxとしたとき、
前記露光工程において、同一箇所に対して実施する複数回の露光のレーザパワーを、各回それぞれY
max未満とし、かつ、複数回の露光のレーザパワーの合計をY
max以上とするようにしてもよい。
【0014】
本発明の微細構造体は、上記の本発明の製造方法により製造されたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、レーザ走査によるフォトレジストの露光工程とフォトレジストの現像工程とを有し、凸部の高さが比較的大きく、例えば20μm以上であっても、所望のパターンを安定的に得ることが可能な微細構造体とその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の微細構造体の製造方法では、表面に凹凸パターンを有する微細構造体を製造する。
凹凸パターンのパターン形状は特に限定されない。
凹凸パターンにおける凸部のパターンは、ドーム状、プリズム状、円柱状、及び角柱状等、任意である。
【0019】
本発明の微細構造体の製造方法は、フォトレジストの塗布工程と、フォトレジストの露光工程と、フォトレジストの現像工程とを有する。
【0020】
<塗布工程>
塗布工程では、基板上にポジ型のフォトレジストを塗布する。
フォトレジストの塗布膜の膜厚は特に限定されない。
本発明は特に、高さ20μm以上の凸部を含む凹凸パターンを有する微細構造体に好ましく適用できる。
ドーム状、プリズム状、円柱状、及び角柱状等の形状を有する高さ20μm以上の凸部を含む凹凸パターンを有する微細構造体を製造する場合、フォトレジストの塗布膜の膜厚は、例えば30〜50μmが好ましい。
【0021】
使用するポジ型のフォトレジストは特に制限されず、形成するパターン形状に応じて選定することができる。
凸部が傾斜角90度未満の直斜面あるいはドーム状のような緩斜面を有する場合、後記レジスト感度曲線の傾きが比較的小さいものを選択することが好ましい。これは、凸部が傾斜角90度未満の直斜面あるいはドーム状のような緩斜面を有する場合、レジスト感度曲線の傾きが比較的大きいレジストを用いると、パターン深さに応じて露光量を変化させるステップ幅を小さくしようとしても、レジスト感度曲線の傾きが大きいのでステップ幅が大きくなり、傾斜角90度未満の直斜面あるいはドーム状のような緩斜面が滑らかに形成できず段差を生じる場合があるためである。
【0022】
塗布膜に対しては、次の露光工程を実施する前に、70〜110℃のベーキング処理を施すことが好ましい。
【0023】
<露光工程>
露光工程では、上記塗布工程で塗布されたフォトレジストに対してレーザ光を走査しながら照射して、フォトレジストを露光する。
この工程では、同一箇所に対して同一パターンで複数回の露光を行う。
【0024】
「発明が解決しようとする課題」の項で述べたように、フォトレジストに照射されるレーザ光量を増加させることで、得られる凸部の高さが大きくなる傾向があるが、フォトレジストに照射されるレーザ光量が過大になると、フォトレジスト内においてレーザ光の焦点部及びその近傍の温度上昇によって、脱離した脱離基がベースポリマに再結合してフォトレジストがアルカリ不溶物に戻る現象が生じ、所望の高さ及び形状の凸部を安定的に形成することが難しくなる。
【0025】
本発明では、同一箇所に対して同一パターンで複数回の露光を行うことで、トータルの露光量を低減することなく、1回で露光を行う場合よりも、1回あたりの露光量を低減することができる。そのため、1回当たりのフォトレジストに与えられる熱量を低減することができ、脱離した脱離基がベースポリマに再結合してフォトレジストがアルカリ不溶物に戻ることを抑制することができる。その結果、従来の方法では難しかった高さ20μm以上の凸部についても、所望の高さ及び形状の凸部を安定的に形成することができる。
【0026】
本発明の製造方法では、同一箇所に対して同一パターンで複数回の露光を行うことで、1回あたりの露光量を大きくすることなく、トータルの露光量を大きくし、1回の露光では実現が難しい高さを有するパターンを形成することも可能である。
本発明者は例えば、後記実施例1に示すように、高さ40μmのパターンの形成に成功している。
【0027】
脱離した脱離基がベースポリマに再結合してフォトレジストがアルカリ不溶物に戻る現象を安定的に抑制するには、
フォトレジストに対して、同一のレーザ装置を用い、レーザ光量の条件のみを変えて1回の露光を行い、現像後に得られる凹凸パターンの凸部の最大高さをパターン高さとして求め、レーザ光量とパターン高さとの関係を示すレジスト感度曲線を取得し、このレジスト感度曲線から求められるパターン高さが最大となる最小のレーザ光量をX
maxとしたとき、
露光工程において、同一箇所に対して実施する複数回の露光のレーザ光量を、各回それぞれX
max未満とし、かつ、複数回の露光のレーザ光量の合計をX
max以上とすることが好ましい。
【0028】
同一箇所に対して実施する複数回の露光において、各回のレーザ光量が上記規定を充足すれば、各回のレーザ光量は同一でも非同一でもよい。
【0029】
脱離した脱離基がベースポリマに再結合してフォトレジストがアルカリ不溶物に戻る現象を安定的に抑制するには、複数回の露光のレーザ光量は、各回それぞれX
maxの70%以下とすることがより好ましい。
また、1回あたりのレーザ光量を小さく設定し過ぎて、露光回数が増えると、トータルの露光時間が長くなり、高コストとなる。したがって、複数回の露光のレーザ光量は、各回それぞれX
maxの30%以上とすることがより好ましい。
【0030】
各回の露光のレーザ光量は、X
maxの30〜70%の範囲内でなるべく高い値に設定することが特に好ましい。各回の露光のレーザ光量は、X
maxの50〜70%の範囲内とすることがより好ましく、X
maxの60〜70%の範囲内とすることが特に好ましい。
このように各回の露光のレーザ光量を設定することで、脱離した脱離基がベースポリマに再結合してフォトレジストがアルカリ不溶物に戻る現象を安定的に抑制しつつ、なるべく少ない露光回数で所望のトータルの露光量を確保し、所望の高さ及び形状の凹凸を、良好にかつ低コストに形成することができる。
【0031】
複数回の露光において、レーザパワーのみを変え、走査速度、レーザ光強度分布(対物レンズ開口数)、及びレーザ光走査のグリッド間隔等のその他のレーザ照射条件を同一とした場合、レーザ光量はレーザパワーに対応する。
【0032】
フォトレジストに対して、同一のレーザ装置を用い、レーザパワーの条件のみを変えて1回の露光を行い、現像後に得られる凹凸パターンの凸部の最大高さをパターン高さとして求め、レーザパワーとパターン高さとの関係を示すレジスト感度曲線を取得し、このレジスト感度曲線から求められるパターン高さが最大となる最小のレーザパワーをY
maxとしたとき、
露光工程において、同一箇所に対して実施する複数回の露光のレーザパワーを、各回それぞれY
max未満とし、かつ、複数回の露光のレーザパワーの合計をY
max以上とするようにしてもよい。
【0033】
この場合、同一箇所に対して実施する複数回の露光において、各回のレーザパワーが上記規定を充足すれば、各回のレーザパワーは同一でも非同一でもよい。
同一箇所に対して実施する複数回の露光のレーザパワーの条件を、各回それぞれY
maxの30〜70%とすることが好ましい。
各回の露光のレーザパワーは、Y
maxの30〜70%の範囲内でなるべく高い値に設定することが特に好ましい。各回の露光のレーザパワーは、Y
maxの50〜70%の範囲内とすることがより好ましく、Y
maxの60〜70%の範囲内とすることが特に好ましい。
【0034】
レジスト感度曲線の具体的な測定例については、後記[実施例]の予備実験で示す
図1を参照されたい。この測定例では、Y
maxは240mWである。したがって、この例では、複数回の露光のレーザパワーを、各回それぞれ240mW未満とし、かつ、複数回の露光のレーザパワーの合計を240mW以上とすることが好ましい。
複数回の露光のレーザパワーは、各回それぞれ240mWの30〜70%の範囲内でなるべく高い値に設定することが特に好ましい。
後記実施例1では、各回の露光のレーザパワーをY
maxの30〜70%の範囲内で上限に近い160mW(約66.7%)に設定している。
【0035】
用いるレーザの種類は特に制限なく、用いるフォトレジストの種類に応じて、選定される。
例えば、Ar
+レーザ(351nm、364nm、458nm、488nm)、Kr
+レーザ(351nm、406nm、413nm)、He−Cdレーザ(352nm、442nm)、半導体励起固体パルスレーザ(355nm、473nm)、及び半導体レーザ(375nm、405nm、445nm、488nm)等を用いることができる。()内は発振波長である。
【0036】
<現像工程>
現像工程では、露光後のフォトレジストを現像する。
フォトレジストの露光は、公知方法により実施することができる。現像液としては特に制限なく、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)等のアルカリ現像液を用いることができる。
【0037】
本発明の微細構造体は、上記の本発明の製造方法により製造されたものである。
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、レーザ走査によるフォトレジストの露光工程とフォトレジストの現像工程とを有し、凸部の高さが比較的大きく、例えば20μm以上であっても、所望のパターンを安定的に得ることが可能な微細構造体とその製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明に係る実施例について説明する。
【0040】
(予備実験)
以下のようにして、直径80μm高さ40μmのドーム型レンズパターンを作製した。
厚み6mmのガラス基板の表面に、ポジ型のフォトレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ社製のレジストAZP4400)を50μmの厚さで塗布した。
次に、ホットプレートを用い、熱源から9mmのクリアランスを取り、上記のフォトレジストに対して、温度95℃90分間のベーキング処理を施した。
【0041】
次に、上記のフォトレジストに対してレーザ光を走査しながら照射し、異なる複数の露光条件でフォトレジストを露光した。この実験では、レーザパワーを変え、それ以外の条件は同一として、複数の条件で露光を実施した。いずれも露光回数は1回とした。
この工程において用いたレーザ装置は、対物レンズのNA0.7、レーザ光波長413nm、レーザ光走査速度1.6μm/msec、レーザ光走査ピッチ100μmの設定とした。
【0042】
露光後、アルカリ現像液、具体的にはテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)3.8%水溶液に、10分間基板を浸漬して、現像を行った。以上のようにしてレジストパターンを形成した。
【0043】
レーザパワーを変えて1回の露光を行ったときのレジスト感度曲線を求めた。得られたレジスト感度曲線を
図1に示す。
図中縦軸の「パターン高さ」は、得られたパターン高さの最大値である。
【0044】
この予備実験においては、レーザパワーが240mWまではレーザパワーが上がるにつれてパターン高さは高くなり、240mWのパターン高さは21μmであった。しかしながら、これ以上レーザパワーを上げてもネガポジ反転が生じることに起因して、パターン高さは伸びず、レーザパワーが300mWではパターン高さは最大値より小さくなった。
この予備実験においては、レジスト感度曲線から求められるパターン高さが最大となる最小のレーザパワーY
maxは240mWであった。
【0045】
図1は、得られたパターン高さの最大値をプロットしたものであるが、設計上最も高くなるはずのパターン中央部の高さをプロットした場合、高出力側では、パターンの頭頂部に不要な窪みが生じるため、パターン高さの低下はより顕著であった(後記比較例1の結果を示す
図3を参照)。
【0046】
(実施例1)
露光条件を下記に変える以外は予備実験と同様にして、レジストパターンを形成した。その後、得られたレジストパターン面にニッケルを蒸着し、電気メッキを行って、微細構造体(スタンパ)を製造した。
露光条件:レーザパワー160mWで同一箇所に対して4回露光。
【0047】
得られたレジストパターンの走査型電子顕微鏡(SEM)による表面写真を
図2に示す。
図2に示すように、表面に直径80μm高さ40μmの設計通りの形状のドーム型レンズパターンを有する微細構造体を製造することができた。
【0048】
(比較例1)
露光条件を下記に変える以外は実施例1と同様にして、レジストパターン及び微細構造体(スタンパ)を製造した。
露光条件:レーザパワー240mWで同一箇所に対して2回露光。
【0049】
得られたレジストパターンの走査型電子顕微鏡(SEM)による表面写真を
図3に示す。
得られたレンズパターンは、全体的に設計よりも高さが低く、最大高さは20μmであった。しかも、凸部の頭頂部には不要な窪みが見られ、きれいなドーム状の凸部を形成することができなかった。