(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5952020
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】TEM試料作製方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20160630BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
G01N1/28 F
G01N1/28 G
H01J37/317 D
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-27692(P2012-27692)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-164346(P2013-164346A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100119552
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 公秀
(74)【代理人】
【識別番号】100138771
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 将明
(74)【代理人】
【識別番号】100154863
【弁理士】
【氏名又は名称】久原 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀和
(72)【発明者】
【氏名】中谷 郁子
【審査官】
田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−174571(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0074496(US,A1)
【文献】
特開平07−333120(JP,A)
【文献】
米国特許第05656811(US,A)
【文献】
特開2001−319954(JP,A)
【文献】
特開2000−035391(JP,A)
【文献】
米国特許第06417512(US,B1)
【文献】
特開2011−185845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/28
H01J 37/20−37/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄片試料の内部にある所望の観察対象に近い側面を集束イオンビーム鏡筒に対向させるように前記薄片試料を試料ホルダに設置する工程と、
前記観察対象を有し、厚み方向が前記薄片試料の厚み方向と略平行な薄膜部を作製するために前記薄膜部に隣接する側面の領域に集束イオンビームでエッチング加工する加工領域を設定する工程と、
前記集束イオンビーム鏡筒から前記加工領域に前記集束イオンビームを照射することにより前記薄片試料の側面から表面にまたがる部分をエッチング加工する工程と、を有し、
前記加工領域は、前記表面側の第一の照射領域と、前記薄膜部側の第二の照射領域とからなり、
前記集束イオンビームの照射量は、前記第一の照射領域よりも前記第二の照射領域のほうが大きいTEM試料作製方法。
【請求項2】
前記第二の照射領域の前記集束イオンビームの照射量は、前記第一の照射領域の前記集束イオンビームの照射量の2倍から10倍である請求項1に記載のTEM試料作製方法。
【請求項3】
前記エッチング加工する工程において、前記表面と前記薄膜部に連接し、前記側面に略平行な底面を形成する請求項1または2に記載のTEM試料作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビームによるエッチング加工によりTEM試料を作製する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より半導体デバイスの欠陥解析などを目的とし、試料内の微小領域を観察する手法として、TEM観察が知られている。TEM観察では透過電子像を取得するための試料準備として、試料の一部に電子線が透過できる厚さの薄膜部を有するTEM試料を作製する必要がある。
【0003】
近年ではTEM試料を作製する手法として、集束イオンビームによるTEM試料作製方法が用いられている。この方法では、試料内部の所望の観察領域を含む部分を残すように周辺部分をエッチング加工する。そして、残された部分を電子線が透過できる厚さになるまでエッチング加工し薄膜部を形成する。これにより、所望の観察領域を含む部分についてピンポイントでTEM試料を作製することができる。
【0004】
しかしながら、TEM試料を作製する際に薄膜部の厚さが小さくなると内部応力により薄膜部が湾曲してしまう問題があった。このような問題を解決する手法として、湾曲部分にスリットを入れて薄膜部を応力から解放させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−35391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、観察対象となるデバイス構造や欠陥のサイズが小さくなっている。そのため、TEM観察では観察対象のみを正確に観察するために、例えば膜厚が50nm以下のように極めて小さい薄膜部を有するTEM試料が必要となる。この場合、上記の従来技術のようにスリットを入れても薄膜部が歪み湾曲してしまうという課題があった。
【0007】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、膜厚が小さい薄膜部を有するTEM試料の作製において、薄膜部が湾曲することのないTEM試料を作製することができるTEM試料作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明に係るTEM試料作製方法は、薄片試料の内部にある所望の観察対象に近い側面を集束イオンビーム鏡筒に対向させるように薄片試料を試料ホルダに設置する工程と、観察対象を有し、厚み方向が薄片試料の厚み方向と略平行な薄膜部を作製するために薄膜部に隣接する側面の領域に集束イオンビームでエッチング加工する加工領域を設定する工程と、集束イオンビーム鏡筒から加工領域に集束イオンビームを照射することにより薄片試料の側面から表面にまたがる部分をエッチング加工する工程と、を有
し、加工領域は、表面側の第一の照射領域と、薄膜部側の第二の照射領域とからなり、集束イオンビームの照射量は、第一の照射領域よりも第二の照射領域のほうが大きい。
【0010】
この方法によれば、薄片試料の観察対象に近い側面からエッチング加工するので、当該側面と反対の測面からエッチング加工する場合に比べて少ないエッチング量で薄膜部を作製することができる。従って、エッチング量を少なくすることができるので、エッチングを施していない薄片試料の部分により薄膜部が強力に支持され、薄膜部の湾曲を防ぐことができる。
また、一般に集束イオンビームのエッチングレートは、平面を加工する場合に比べて角部を加工する場合のほうがで大きい。そのため、TEM試料作製方法において、加工領域全体を同じ照射量の集束イオンビームで加工すると表面に接する部分が角部に相当するため、当該部分が大きくエッチングされてしまう。すると、必要以上に薄片試料をエッチング加工してしまうことになり、薄膜部を支持する強度が低下してしまい、薄膜部が湾曲してしまう。そこで、表面に接する部分の照射量を小さくすることで薄片試料を過度にエッチングすることなく薄膜部を作製することができる。
また、本発明に係るTEM試料作製方法におけるエッチング加工する工程は、表面と薄膜部に連接し、側面に略平行な底面を形成する。
【0011】
TEM観察では薄膜部に対し垂直方向に、すなわち、薄膜部の膜厚方向に電子ビームを照射し透過させる。そのため、TEM試料作製では電子ビームの光路を遮蔽しないよう薄膜部を露出させるようにエッチング加工を行う。このとき、表面と薄膜部に連接し、側面に略平行な底面を形成することで、TEM観察時に電子ビームを遮蔽せず、かつ、薄片試料のエッチング量を最小限に抑えることができ、薄膜部の湾曲を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るTEM試料作製方法によれば、薄膜部を湾曲させることなくTEM試料を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る実施形態の集束イオンビーム装置の構成図である。
【
図2】本発明に係る実施形態のTEM試料作製の説明図である。
【
図3】本発明に係る実施形態のTEM試料作製の説明図である。
【
図4】本発明に係る実施形態のTEM試料作製の説明図である。
【
図5】本発明に係る実施形態のTEM試料作製のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るTEM試料作製方法の実施形態について説明する。
本実施形態のTEM試料作製を行う集束イオンビーム装置は、
図1に示すように、FIB鏡筒2と、試料室3を備えている。試料室3内に収容された試料7にFIB鏡筒2からイオンビーム9を照射することができる。
【0015】
集束イオンビーム装置はさらに、二次電子検出器4を備えている。二次電子検出器4は、イオンビーム9の照射により試料7から発生した二次電子を検出することができる。
集束イオンビーム装置はさらに、試料7を載置する試料台6を備える。試料台6を傾斜させることにより試料7へのイオンビーム9の入射角度を変更することができる。試料台6の移動は試料台制御部16により制御される。
【0016】
集束イオンビーム装置は、さらに、FIB制御部13と、像形成部14と、表示部17を備える。FIB制御部13はFIB鏡筒2からのイオンビーム9の照射を制御する。像形成部14は、FIB制御部13のイオンビーム9を走査させる信号と、二次電子検出器4で検出した二次電子の信号とからSIM像を形成する。表示部17はSIM像を表示することができる。
【0017】
集束イオンビーム装置は、さらに、入力部10と、制御部11を備える。オペレータは装置制御に関する条件、例えばイオンビーム9の照射条件、を入力部10に入力する。入力部10は、入力された情報を制御部11に送信する。制御部11は、FIB制御部13、像形成部14、試料台制御部16または表示部17に制御信号を送信し、装置の動作を制御する。
【0018】
装置の制御について、例えば、オペレータは表示部17に表示されたSIM像に基づいて、イオンビーム9の照射領域を設定する。オペレータは表示部17に表示された観察像上に照射領域を設定する加工枠を入力部10により入力する。さらに、オペレータは加工開始の指示を入力部10に入力すると、制御部11からFIB制御部13に照射領域と加工開始の信号が送信され、FIB制御部13からイオンビーム9が試料7の指定された照射領域に照射される。これによりオペレータが入力した照射領域にイオンビーム9を照射することができる。
【0019】
本実施形態のTEM試料作製方法は、
図2(a)に示すようにウエハ状の試料7の一部をイオンビーム9で加工することで、薄片試料21を作製することができる。
図2(b)は薄片試料21周辺の拡大図である。イオンビーム9を試料7に照射し、薄片試料21を残すように加工溝22を形成する。この段階においては、薄片試料21の膜厚は電子ビームを透過させない程度の膜厚である。
【0020】
次に
図5のフローチャートの薄片試料設置S1を行う。薄片試料21を試料7から切り離し、
図3(a)に示すように薄片試料21を試料ホルダ31に設置する。この際、所望の観察対象32がFIB鏡筒2側にくるように薄片試料21を試料ホルダ31に設置する。すなわち、観察対象32に近い側面21aにイオンビーム9を照射できるように薄片試料21を配置する。イオンビーム9の照射方向9aに対し、薄片試料21の膜厚方向21dが垂直になるように配置する。
【0021】
次にイオンビーム9を照射するための加工領域設定S2を行う。加工領域設定では、表示部17に表示されたSIM像上に加工領域と、イオンビーム9の照射量(ドーズ量)を設定する。
【0022】
図3(b)はイオンビーム9の照射方向9aから見たSIM像33である。SIM像33上に加工領域34、35、36、37を設定する。側面21a上に観察対象32を挟むように加工領域34、36を設定する。加工領域34、36の長手方向は薄片試料21の厚み方向に対し垂直な方向である。そして加工領域34、36に接し、表面21b、裏面21cに接する位置に加工領域35、37をそれぞれ設置する。
【0023】
ここで、加工領域34、36の長手方向の長さは、観察対象32のTEM像を観察するに際し必要な長さとする。加工領域34、36の長手方向の長さが不用に長いと、薄片試料21を余分にエッチング加工することになり、薄膜部21eを支持する力が弱くなって薄膜部21eが湾曲してしまうからである。
【0024】
また、加工領域34、35、36、37は、薄片試料21の膜厚方向21dと平行な膜厚方向を有する薄膜部21eが残るように設定する。これにより観察対象32のTEM像を観察するに際し、電子ビームの光路を遮蔽しないように薄膜部21eを露出させることができる。
そして、加工領域34、36の単位面積当たりのドーズ量が加工領域35、37に照射する単位面積当たりのドーズ量の2倍から10倍になるように設定する。
【0025】
一般に集束イオンビームのエッチングレートは試料への入射角度によって異なる。試料に対し入射角度を0度付近にして入射する場合のエッチングレートは、入射角度を45度付近にして入射する場合のエッチングレートに比べて2倍大きく、また、入射角度を90度付近にして入射する場合のエッチングレートに比べて10倍大きい。
【0026】
TEM試料作製においては、加工領域35の表面21b側、または加工領域37の裏面21c側からエッチング加工を行う。このとき、イオンビーム9の薄片試料21に対する入射角度はほぼ0度である。そして、加工領域35の表面21b側から加工領域34側に向けて加工を進めていく過程において、薄片試料21に対する入射角度は0度から45度の範囲で変化する。イオンビーム9の入射角度は加工により形成された断面との角度によって決まり、当該断面の角度は加工中に変化するためである。
【0027】
一方、加工領域34、36においては、薄片試料21に対するイオンビーム9の入射角度はほぼ90度である。従って、加工領域34、36と加工領域35、37とでは、イオンビーム9の入射角度が異なりエッチングレートが異なる。加工領域34、35、36、37でほぼ一定のエッチング量になるように、上記のようにそれぞれのドーズ量を設定する。
【0028】
次に加工領域34、35、36、37にイオンビーム9を照射するエッチング加工S3を施す。これにより
図4に示すような形状のTEM試料を作製することができる。
すなわち、観察対象32を有する薄膜部21eを露出させることができる。観察対象32を含む部分のみを薄膜化しているため、薄片試料21のエッチング加工を施していない部分により薄膜部21eを強力に支持することができる。よって、薄膜部21eの膜厚が小さくなっても薄膜部21eが湾曲することはない。
【0029】
また、加工領域34、35、36、37へのイオンビーム9のドーズ量を制御することによりエッチング加工で形成された底部21fは、側面21aとほぼ平行な面となる。これにより薄片試料21の膜厚方向21dに平行な方向から薄片部21eに電子ビームを照射しTEM観察する際においても、電子ビームの光路を遮蔽することがなく、かつ、薄片試料21のエッチング量を最小限に抑えた形状を形成することができる。
【0030】
本実施形態において、薄片試料21の膜厚は10μmであり、薄膜部21eの膜厚は50nmである。このように膜厚の小さい薄膜部21eを有するTEM試料であっても、薄片試料21のエッチング加工量を抑えることにより、薄膜部21eを湾曲させることなく作製することができる。
【符号の説明】
【0031】
2…FIB鏡筒
3…試料室
4…二次電子検出器
6…試料台
7…試料
9…イオンビーム
9a…照射方向
10…入力部
11…制御部
13…FIB制御部
14…像形成部
16…試料台制御部
17…表示部
21…薄片試料
21a…側面
21b…表面
21c…裏面
21d…膜厚方向
21e…薄膜部
21f…エッチング加工で形成された底面
22…加工溝
31…試料ホルダ
32…観察対象
33…SIM像
34…加工領域
35…加工領域
36…加工領域
37…加工領域
S1…薄片試料設置
S2…加工領域設定
S3…エッチング加工