特許第5953057号(P5953057)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953057
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】プラズマ処理方法及びプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20160630BHJP
   H01L 21/318 20060101ALI20160630BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20160630BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   H01L21/316 A
   H01L21/318 A
   H01L21/31 C
   H05H1/46 B
【請求項の数】10
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2012-23038(P2012-23038)
(22)【出願日】2012年2月6日
(65)【公開番号】特開2013-161960(P2013-161960A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100107559
【弁理士】
【氏名又は名称】星宮 勝美
(74)【代理人】
【識別番号】100166257
【弁理士】
【氏名又は名称】城澤 達哉
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】宮原 準弥
(72)【発明者】
【氏名】藤野 豊
【審査官】 正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−301784(JP,A)
【文献】 特開2009−205921(JP,A)
【文献】 特開2007−273637(JP,A)
【文献】 特開2007−048982(JP,A)
【文献】 特開2004−186531(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/125470(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/125471(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/087094(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/007745(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/150971(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
H01L 21/31
H01L 21/318
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の経路に分配されたマイクロ波により処理容器内にプラズマを生成させて被処理体を処理するプラズマ処理装置を用い、前記被処理体の表面に薄膜を形成するプラズマ処理方法であって、
前記複数の経路に分配されたマイクロ波によりプラズマを着火するときのマイクロ波のパワーの合計が前記被処理体の面積当たり1W/cm以下であり、かつ、前記薄膜の膜厚が1nm以下であることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項2】
複数の経路に分配されたマイクロ波により処理容器内にプラズマを生成させて被処理体を処理するプラズマ処理装置を用い、前記被処理体の表面に薄膜を形成するプラズマ処理方法であって、
前記被処理体の径が300mm以上であり、
前記複数の経路に分配されたマイクロ波によりプラズマを着火するときのマイクロ波のパワーの合計が700W以下であり、かつ、前記薄膜の膜厚が1nm以下であることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項3】
前記プラズマにより被処理体を処理する処理温度が、100℃以下である請求項1又は2に記載のプラズマ処理方法。
【請求項4】
前記薄膜が、前記被処理体の表面のシリコンが酸化されたシリコン酸化膜である請求項1から3のいずれか1項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項5】
前記薄膜が、前記被処理体の表面のシリコンが窒化されたシリコン窒化膜である請求項1から3のいずれか1項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項6】
前記プラズマ処理装置は、被処理体を収容する前記処理容器と、
前記処理容器の内部に配置され、前記被処理体を載置する載置面を有する載置台と、
前記処理容器内に処理ガスを供給するガス供給機構と、
前記マイクロ波を生成すると共に、該マイクロ波を複数の経路に分配して出力するマイクロ波出力部と、
前記マイクロ波出力部から出力されたマイクロ波を前記処理容器内に導入するアンテナ部と、
前記マイクロ波出力部と前記処理容器内との間のインピーダンスを整合させるチューナと、
前記処理容器の上部に配置され、複数の開口部を有する導電性部材と、
前記複数の開口部に嵌合し、前記処理容器内に前記マイクロ波を透過させて導入させる複数のマイクロ波透過窓と、
を備え、
前記複数のマイクロ波透過窓からそれぞれ前記処理容器内に導入した前記複数の経路に分配されたマイクロ波によって前記プラズマを生成するものである請求項1から5のいずれか1項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項7】
前記複数の経路に分配されたマイクロ波により前記プラズマを着火するときの前記マイクロ波のパワーの合計は、前記プラズマにより被処理体を処理するときの前記マイクロ波のパワーの合計よりも大きく、
前記複数の経路に分配されたマイクロ波により前記プラズマを着火するときには前記インピーダンスの整合を行わず、前記プラズマにより被処理体を処理するときに前記インピーダンスの整合を行う請求項6に記載のプラズマ処理方法。
【請求項8】
前記マイクロ波出力部から、前記複数の経路に分配されたマイクロ波を、前記プラズマを着火させる第1のパワーで供給して前記プラズマを着火するステップと、
前記マイクロ波のパワーを前記第1のパワーよりも低い第2のパワーに変更するステップと、
前記第2のパワーの状態で前記インピーダンスの整合を行うステップと、
を含む請求項6に記載のプラズマ処理方法。
【請求項9】
前記複数のマイクロ波透過窓は、前記導電性部材における中央部分に配置された1つの中心マイクロ波透過窓と、前記中心マイクロ波透過窓を囲むように、前記中央部分よりも外側に配置された少なくとも6つの外側マイクロ波透過窓とを有している請求項6から8のいずれか1項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項10】
複数の経路に分配されたマイクロ波により処理容器内にプラズマを生成させて被処理体の表面に薄膜を形成するプラズマ処理装置であって、
被処理体を収容する処理容器と、
前記処理容器の内部に配置され、前記被処理体を載置する載置面を有する載置台と、
前記処理容器内に処理ガスを供給するガス供給機構と、
前記マイクロ波を生成すると共に、該マイクロ波を複数の経路に分配して出力するマイクロ波出力部と、
前記マイクロ波出力部から出力されたマイクロ波を前記処理容器内に導入するアンテナ部と、
前記マイクロ波出力部と前記処理容器内との間のインピーダンスを整合させるチューナと、
前記処理容器の上部に配置され、複数の開口部を有する導電性部材と、
前記複数の開口部に嵌合し、前記処理容器内に前記マイクロ波を透過させて導入させる複数のマイクロ波透過窓と、
前記処理容器内で前記複数の経路に分配されたマイクロ波によりプラズマを着火するときのマイクロ波のパワーの合計が、前記被処理体の面積当たり1W/cm以下となるように、前記複数のマイクロ波透過窓から、それぞれ前記処理容器内にマイクロ波を導入することにより、前記薄膜の膜厚を1nm以下に制御する制御部と、
を備えたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを用いて被処理体にシリコン酸化膜(SiO膜)、シリコン窒化膜(SiN膜)などの薄膜を形成するプラズマ処理方法及びこれに用いるプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造過程では、プラズマを用いて、被処理体に対して例えば酸化処理、窒化処理等の成膜処理が行われている。最近では、次世代以降のデバイス開発に向けて、微細化への対応が益々求められており、成膜処理においても、極薄膜を均一な厚みで形成する技術への要求が高まっている。
【0003】
半導体ウエハ上への薄膜形成に関する従来技術として、特許文献1では、複数のスロットを有する平面アンテナを用いて処理容器内にマイクロ波を導入してプラズマを生成させるスロットアンテナ方式のプラズマ処理装置を用いて、シリコン酸化膜を形成する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2002/058130(図8など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されたプラズマ処理方法では、概ね1.6nm程度の薄いシリコン酸化膜を形成できると考えられる。しかし、今後、次世代以降のデバイス開発においては、さらに薄い膜厚で薄膜を形成することが期待される。
【0006】
従って、本発明は、プラズマを利用して、被処理体の表面に、例えば厚さ1nm以下の薄膜を、膜厚をコントロールしながら形成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプラズマ処理方法は、複数のマイクロ波により処理容器内にプラズマを生成させて被処理体を処理するプラズマ処理装置を用い、前記被処理体の表面に薄膜を形成する方法である。
【0008】
本発明のプラズマ処理方法は、前記複数のマイクロ波によりプラズマを着火するときのマイクロ波のパワーの合計が前記被処理体の面積当たり1W/cm以下であり、かつ、前記薄膜の膜厚が1nm以下であってもよい。あるいは、本発明のプラズマ処理方法は、前記被処理体の径が300mm以上であり、前記複数のマイクロ波によりプラズマを着火するときのマイクロ波のパワーの合計が700W以下であり、かつ、前記薄膜の膜厚が1nm以下であってもよい。
【0009】
また、本発明のプラズマ処理方法は、前記プラズマにより被処理体を処理する処理温度が、100℃以下である。
【0010】
また、本発明のプラズマ処理方法は、前記薄膜が、前記被処理体の表面のシリコンが酸化されたシリコン酸化膜であってもよいし、シリコン窒化膜であってもよい。
【0011】
また、本発明のプラズマ処理方法において、前記プラズマ処理装置は、被処理体を収容する前記処理容器と、前記処理容器の内部に配置され、前記被処理体を載置する載置面を有する載置台と、前記処理容器内に処理ガスを供給するガス供給機構と、前記マイクロ波を生成すると共に、該マイクロ波を複数の経路に分配して出力するマイクロ波出力部と、前記マイクロ波出力部から出力されたマイクロ波を前記処理容器内に導入するアンテナ部と、前記マイクロ波出力部と前記処理容器内との間のインピーダンスを整合させるチューナと、前記処理容器の上部に配置され、複数の開口部を有する導電性部材と、前記複数の開口部に嵌合し、前記処理容器内に前記マイクロ波を透過させて導入させる複数のマイクロ波透過窓と、を備えていてもよい。そして、本発明のプラズマ処理方法は、前記複数のマイクロ波透過窓からそれぞれ前記処理容器内に導入した前記複数のマイクロ波によって前記プラズマを生成するものであってもよい。
【0012】
また、本発明のプラズマ処理方法において、前記複数のマイクロ波により前記プラズマを着火するときの前記マイクロ波のパワーの合計は、前記プラズマにより被処理体を処理するときの前記マイクロ波のパワーの合計よりも大きくてもよい。この場合、前記複数のマイクロ波により前記プラズマを着火するときには前記インピーダンスの整合を行わず、前記プラズマにより被処理体を処理するときに前記インピーダンスの整合を行ってもよい。
【0013】
また、本発明のプラズマ処理方法は、前記マイクロ波出力部から、前記複数のマイクロ波を、前記プラズマを着火させる第1のパワーで供給して前記プラズマを着火するステップと、前記マイクロ波のパワーを前記第1のパワーよりも低い第2のパワーに変更するステップと、前記第2のパワーの状態で前記インピーダンスの整合を行うステップと、を含んでいてもよい。
【0014】
また、本発明のプラズマ処理方法において、前記複数のマイクロ波透過窓は、前記導電性部材における中央部分に配置された1つの中心マイクロ波透過窓と、前記中心マイクロ波透過窓を囲むように、前記中央部分よりも外側に配置された少なくとも6つの外側マイクロ波透過窓とを有していてもよい。
【0015】
本発明のプラズマ処理装置は、複数のマイクロ波により処理容器内にプラズマを生成させて被処理体の表面に薄膜を形成するプラズマ処理装置である。このプラズマ処理装置は、被処理体を収容する処理容器と、前記処理容器の内部に配置され、前記被処理体を載置する載置面を有する載置台と、前記処理容器内に処理ガスを供給するガス供給機構と、前記マイクロ波を生成すると共に、該マイクロ波を複数の経路に分配して出力するマイクロ波出力部と、前記マイクロ波出力部から出力されたマイクロ波を前記処理容器内に導入するアンテナ部と、前記マイクロ波出力部と前記処理容器内との間のインピーダンスを整合させるチューナと、前記処理容器の上部に配置され、複数の開口部を有する導電性部材と、前記複数の開口部に嵌合し、前記処理容器内に前記マイクロ波を透過させて導入させる複数のマイクロ波透過窓と、前記処理容器内で前記複数のマイクロ波によりプラズマを着火するときのマイクロ波のパワーの合計が、前記被処理体の面積当たり1W/cm以下となるように、前記複数のマイクロ波透過窓から、それぞれ前記処理容器内にマイクロ波を導入することにより、前記薄膜の膜厚を1nm以下に制御する制御部と、を備えている。
【発明の効果】
【0016】
本発明のプラズマ処理方法によれば、被処理体の表面に、例えば1nm以下の膜厚の薄膜を制御性よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態で用いるプラズマ処理装置の概略の構成を示す断面図である。
図2図1に示した制御部の構成を示す説明図である。
図3図1に示したマイクロ波導入装置の構成を示す説明図である。
図4図3に示したマイクロ波導入機構を示す断面図である。
図5図4に示したマイクロ波導入機構のアンテナ部を示す斜視図である。
図6図4に示したマイクロ波導入機構の平面アンテナを示す平面図である。
図7図1に示した処理容器の天井部の底面図である。
図8図1に示したマイクロ波導入装置における複数のマイクロ波透過板の配置を示す説明図である
図9】比較例のプラズマ処理装置の構成を模式的に示す断面図である。
図10図1に示したプラズマ処理装置における圧力と着火時パワーの関係を表すパッシェン(Paschen)カーブである。
図11】異なる処理温度でプラズマ酸化処理をした場合のシリコン酸化膜の膜厚と処理時間との関係を示す特性図である。
図12A図1に示したプラズマ処理装置で酸素プラズマを着火させる際のインピーダンス整合の手順とプラズマ発光との関係を示す特性図である。
図12B図1に示したプラズマ処理装置で酸素プラズマを着火させる際のインピーダンス整合の別の手順とプラズマ発光との関係を示す特性図である。
図13A図1に示したプラズマ処理装置で酸素プラズマを着火させる際のインピーダンス整合の手順を示すタイミングチャートである。
図13B図1に示したプラズマ処理装置で酸素プラズマを着火させる際のインピーダンス整合の別の手順を示すタイミングチャートである。
図14】プラズマ処理によって形成されたシリコン酸化膜の膜厚とプロセス時間との関係を示す特性図である。
図15】プラズマ処理によって形成されたシリコン窒化膜の膜厚とプロセス時間との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1および図2を参照して、本発明の実施の形態のプラズマ処理方法に用いるプラズマ処理装置の構成例について説明する。図1は、本実施の形態で用いるプラズマ処理装置の概略の構成を示す断面図である。図2は、図1に示した制御部の構成を示す説明図である。本実施の形態で用いるプラズマ処理装置1は、連続する複数の動作を伴って、例えば半導体デバイス製造用の半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ」と記す。)Wに対して、プラズマ酸化処理、プラズマ窒化処理などの成膜処理を施す装置である。
【0019】
プラズマ処理装置1は、被処理体であるウエハWを収容する処理容器2と、処理容器2の内部に配置され、ウエハWを載置する載置面21aを有する載置台21と、処理容器2内にガスを供給するガス供給機構3と、処理容器2内を減圧排気する排気装置4と、処理容器2内にプラズマを生成させるためのマイクロ波を発生させると共に、処理容器2内にマイクロ波を導入するマイクロ波導入装置5と、これらプラズマ処理装置1の各構成部を制御する制御部8とを備えている。なお、処理容器2内にガスを供給する手段としては、ガス供給機構3の代りに、プラズマ処理装置1の構成には含まれない外部のガス供給機構を使用してもよい。
【0020】
処理容器2は、例えば略円筒形状をなしている。処理容器2は、例えばアルミニウムおよびその合金等の金属材料によって形成されている。マイクロ波導入装置5は、処理容器2の上部に設けられ、処理容器2内に電磁波(マイクロ波)を導入してプラズマを生成するプラズマ生成手段として機能する。マイクロ波導入装置5の構成については、後で詳しく説明する。
【0021】
処理容器2は、板状の天井部11および底部13と、天井部11と底部13とを連結する側壁部12とを有している。天井部11は、複数の開口部を有している。側壁部12は、処理容器2に隣接する図示しない搬送室との間でウエハWの搬入出を行うための搬入出口12aを有している。処理容器2と図示しない搬送室との間には、ゲートバルブGが配置されている。ゲートバルブGは、搬入出口12aを開閉する機能を有している。ゲートバルブGは、閉状態で処理容器2を気密にシールすると共に、開状態で処理容器2と図示しない搬送室との間でウエハWの移送を可能にする。
【0022】
底部13は、複数(図1では2つ)の排気口13aを有している。プラズマ処理装置1は、更に、排気口13aと排気装置4とを接続する排気管14を備えている。排気装置4は、APCバルブと、処理容器2の内部空間を所定の真空度まで高速に減圧することが可能な高速真空ポンプとを有している。このような高速真空ポンプとしては、例えばターボ分子ポンプ等がある。排気装置4の高速真空ポンプを作動させることによって、処理容器2は、その内部空間が所定の真空度、例えば0.133Paまで減圧される。
【0023】
プラズマ処理装置1は、更に、処理容器2内において載置台21を支持する支持部材22と、支持部材22と処理容器2の底部13との間に設けられた絶縁材料よりなる絶縁部材23とを備えている。載置台21は、被処理体であるウエハWを水平に載置するためのものである。支持部材22は、底部13の中央から処理容器2の内部空間に向かって延びる円筒状の形状を有している。載置台21および支持部材22は、例えばAlN等によって形成されている。
【0024】
プラズマ処理装置1は、更に、載置台21に高周波電力を供給する高周波バイアス電源25と、載置台21と高周波バイアス電源25との間に設けられた整合器24とを備えている。高周波バイアス電源25は、ウエハWにイオンを引き込むために、載置台21に高周波電力を供給する。
【0025】
図示しないが、プラズマ処理装置1は、更に、載置台21を加熱または冷却する温度制御機構を備えている。温度制御機構は、例えば、ウエハWの温度を、25℃(室温)〜900℃の範囲内で制御する。また、載置台21は、載置面21aに対して突没可能に設けられた複数の支持ピンを有している。複数の支持ピンは、任意の昇降機構により上下に変位し、上昇位置において、図示しない搬送室との間でウエハWの受け渡しを行うことができるように構成されている。
【0026】
プラズマ処理装置1は、更に、処理容器2の天井部11に設けられたガス導入部15を備えている。ガス導入部15は、円筒形状をなす複数のノズル16を有している。ノズル16は、その下面に形成されたガス孔16aを有している。ノズル16の配置については、後で説明する。
【0027】
ガス供給機構3は、ガス供給源31を含むガス供給装置3aと、ガス供給源31とガス導入部15とを接続する配管32とを有している。なお、図1では、1つのガス供給源31を図示しているが、ガス供給装置3aは、使用されるガスの種類に応じて複数のガス供給源を含んでいてもよい。
【0028】
ガス供給源31は、例えば、プラズマ生成用の希ガスや、酸化処理や窒化処理に使用される処理ガス等のガス供給源として用いられる。なお、プラズマ生成用の希ガスとしては、例えば、Ar、Kr、Xe、He等が使用される。酸化処理に使用される処理ガスとしては、例えば、酸素ガス、オゾンガス等の酸化性ガスが使用される。窒化処理に使用される処理ガスとしては、例えば、窒素ガス、NHガス等が使用される。なお、希ガスは酸化処理用の処理ガスや、窒化処理用の処理ガスと共に使用される場合もある。
【0029】
図示しないが、ガス供給装置3aは、更に、配管32の途中に設けられたマスフローコントローラおよび開閉バルブを含んでいる。処理容器2内に供給されるガスの種類や、これらのガスの流量等は、マスフローコントローラおよび開閉バルブによって制御される。
【0030】
プラズマ処理装置1の各構成部は、それぞれ制御部8に接続されて、制御部8によって制御される。制御部8は、典型的にはコンピュータである。図2に示した例では、制御部8は、CPUを備えたプロセスコントローラ81と、このプロセスコントローラ81に接続されたユーザーインターフェース82および記憶部83とを備えている。
【0031】
プロセスコントローラ81は、プラズマ処理装置1において、例えば温度、圧力、ガス流量、バイアス印加用の高周波電力、マイクロ波出力等のプロセス条件に関係する各構成部(例えば、高周波バイアス電源25、ガス供給装置3a、排気装置4、マイクロ波導入装置5等)を統括して制御する制御手段である。
【0032】
ユーザーインターフェース82は、工程管理者がプラズマ処理装置1を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードやタッチパネル、プラズマ処理装置1の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等を有している。
【0033】
記憶部83には、プラズマ処理装置1で実行される各種処理をプロセスコントローラ81の制御によって実現するための制御プログラム(ソフトウエア)や、処理条件データ等が記録されたレシピ等が保存されている。プロセスコントローラ81は、ユーザーインターフェース82からの指示等、必要に応じて、任意の制御プログラムやレシピを記憶部83から呼び出して実行する。これにより、プロセスコントローラ81による制御下で、プラズマ処理装置1の処理容器2内において所望の処理が行われる。
【0034】
上記の制御プログラムおよびレシピは、例えば、CD−ROM、ハードディスク、フレキシブルディスク、フラッシュメモリ、DVD、ブルーレイディスク等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納された状態のものを利用することができる。また、上記のレシピは、他の装置から、例えば専用回線を介して随時伝送させてオンラインで利用することも可能である。
【0035】
次に、図1図3ないし図6を参照して、マイクロ波導入装置5の構成について詳しく説明する。図3は、マイクロ波導入装置5の構成を示す説明図である。図4は、図3に示したマイクロ波導入機構を示す断面図である。図5は、図4に示したマイクロ波導入機構のアンテナ部を示す斜視図である。図6は、図4に示したマイクロ波導入機構の平面アンテナを示す平面図である。
【0036】
前述のように、マイクロ波導入装置5は、処理容器2の上部に設けられ、処理容器2内に電磁波(マイクロ波)を導入してプラズマを生成するプラズマ生成手段として機能する。図1および図3に示したように、マイクロ波導入装置5は、処理容器2の上部に配置され、複数の開口部を有する導電性部材である天井部11と、マイクロ波を生成すると共に、マイクロ波を複数の経路に分配して出力するマイクロ波出力部50と、マイクロ波出力部50から出力されたマイクロ波を処理容器2に導入するアンテナユニット60とを有している。本実施の形態では、処理容器2の天井部11は、マイクロ波導入装置5の導電性部材を兼ねている。
【0037】
マイクロ波出力部50は、電源部51と、マイクロ波発振器52と、マイクロ波発振器52によって発振されたマイクロ波を増幅するアンプ53と、アンプ53によって増幅されたマイクロ波を複数の経路に分配する分配器54とを有している。マイクロ波発振器52は、所定の周波数(例えば、860MHz)でマイクロ波を発振(例えば、PLL発振)させる。なお、マイクロ波の周波数は、860MHzに限らず、2.45GHz、8.35GHz、5.8GHz、1.98GHz等であってもよい。分配器54は、入力側と出力側のインピーダンスを整合させながらマイクロ波を分配する。
【0038】
アンテナユニット60は、複数のアンテナモジュール61を含んでいる。複数のアンテナモジュール61は、それぞれ、分配器54によって分配されたマイクロ波を処理容器2内に導入する。本実施の形態では、複数のアンテナモジュール61の構成は全て同一である。各アンテナモジュール61は、分配されたマイクロ波を主に増幅して出力するアンプ部62と、アンプ部62から出力されたマイクロ波を処理容器2内に導入するマイクロ波導入機構63とを有している。
【0039】
アンプ部62は、マイクロ波の位相を変化させる位相器62Aと、メインアンプ62Cに入力されるマイクロ波の電力レベルを調整する可変ゲインアンプ62Bと、ソリッドステートアンプとして構成されたメインアンプ62Cと、後述するマイクロ波導入機構63のアンテナ部で反射されてメインアンプ62Cに向かう反射マイクロ波を分離するアイソレータ62Dとを含んでいる。
【0040】
位相器62Aは、マイクロ波の位相を変化させて、マイクロ波の放射特性を変化させることができるように構成されている。位相器62Aは、例えば、アンテナモジュール61毎にマイクロ波の位相を調整することによって、マイクロ波の指向性を制御してプラズマの分布を変化させることに用いられる。なお、このような放射特性の調整を行わない場合には、位相器62Aを設けなくてもよい。
【0041】
可変ゲインアンプ62Bは、個々のアンテナモジュール61のばらつきの調整や、プラズマ強度の調整のために用いられる。例えば、可変ゲインアンプ62Bをアンテナモジュール61毎に変化させることによって、処理容器2内全体のプラズマの分布を調整することができる。
【0042】
図示しないが、メインアンプ62Cは、例えば、入力整合回路、半導体増幅素子、出力整合回路および高Q共振回路を含んでいる。半導体増幅素子としては、例えば、E級動作が可能なGaAsHEMT、GaNHEMT、LD(Laterally Diffused)−MOSが用いられる。
【0043】
アイソレータ62Dは、サーキュレータとダミーロード(同軸終端器)とを有している。サーキュレータは、後述するマイクロ波導入機構63のアンテナ部で反射された反射マイクロ波をダミーロードへ導くものである。ダミーロードは、サーキュレータによって導かれた反射マイクロ波を熱に変換するものである。なお、前述のように、本実施の形態では、複数のアンテナモジュール61が設けられており、複数のアンテナモジュール61の各々のマイクロ波導入機構63によって処理容器2内に複数のマイクロ波を導入できる。そのため、個々のアイソレータ62Dは小型のものでもよく、アイソレータ62Dをメインアンプ62Cに隣接して設けることができる。
【0044】
図1に示したように、複数のマイクロ波導入機構63は、天井部11に設けられている。図4に示したように、マイクロ波導入機構63は、インピーダンスを整合させるチューナ64と、増幅されたマイクロ波を処理容器2内に放射するアンテナ部65と、金属材料よりなり、図4における上下方向に延びる円筒状の形状を有する本体容器66と、本体容器66内において本体容器66が延びる方向と同じ方向に延びる内側導体67とを有している。本体容器66および内側導体67は、同軸管を構成している。本体容器66は、この同軸管の外側導体を構成している。内側導体67は、棒状または筒状の形状を有している。本体容器66の内周面と内側導体67の外周面との間の空間は、マイクロ波伝送路68を形成する。
【0045】
図示しないが、アンテナモジュール61は、更に、本体容器66の基端側(上端側)に設けられた給電変換部を有している。給電変換部は、同軸ケーブルを介してメインアンプ62Cに接続されている。アイソレータ62Dは、同軸ケーブルの途中に設けられている。
【0046】
アンテナ部65は、本体容器66における給電変換部とは反対側に設けられている。後で説明するように、本体容器66におけるアンテナ部65よりも基端側の部分は、チューナ64によるインピーダンス調整範囲となっている。
【0047】
図4および図5に示したように、アンテナ部65は、内側導体67の下端部に接続された平面アンテナ71と、平面アンテナ71の上面側に配置されたマイクロ波遅波材72と、平面アンテナ71の下面側に配置されたマイクロ波透過板73とを有している。マイクロ波透過板73の下面は、処理容器2の内部空間に露出している。マイクロ波透過板73は、本体容器66を介して、マイクロ波導入装置5の導電性部材である天井部11の開口部に嵌合している。マイクロ波透過板73は、本発明におけるマイクロ波透過窓に対応する。
【0048】
平面アンテナ71は、円板形状を有している。また、平面アンテナ71は、平面アンテナ71を貫通するように形成されたスロット71aを有している。図5および図6に示した例では、4つのスロット71aが設けられており、各スロット71aは、4つに均等に分割された円弧形状を有している。なお、スロット71aの数は、4つに限らず、5つ以上であってもよいし、1つ以上3つ以下であってもよい。
【0049】
マイクロ波遅波材72は、真空よりも大きい誘電率を有する材料によって形成されている。マイクロ波遅波材72を形成する材料としては、例えば、石英、セラミックス、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等のフッ素系樹脂、ポリイミド樹脂等を用いることができる。マイクロ波は、真空中ではその波長が長くなる。マイクロ波遅波材72は、マイクロ波の波長を短くしてプラズマを調整する機能を有している。また、マイクロ波の位相は、マイクロ波遅波材72の厚みによって変化する。そのため、マイクロ波遅波材72の厚みによってマイクロ波の位相を調整することにより、平面アンテナ71が定在波の腹の位置になるように調整することができる。これにより、平面アンテナ71における反射波を抑制することができると共に、平面アンテナ71から放射されるマイクロ波の放射エネルギーを大きくすることができる。つまり、これにより、マイクロ波のパワーを効率よく処理容器2内に導入することができる。
【0050】
マイクロ波透過板73は、誘電体材料によって形成されている。マイクロ波透過板73を形成する誘電体材料としては、例えば石英やセラミックス等が用いられる。マイクロ波透過板73は、マイクロ波をTEモードで効率的に放射することができるような形状をなしている。図5に示した例では、マイクロ波透過板73は、直方体形状を有している。なお、マイクロ波透過板73の形状は、直方体形状に限らず、例えば円柱形状、五角形柱形状、六角形柱形状、八角形柱形状であってもよい。
【0051】
上記のように構成されたマイクロ波導入機構63では、メインアンプ62Cで増幅されたマイクロ波は、本体容器66の内周面と内側導体67の外周面との間(マイクロ波伝送路68)を通って平面アンテナ71に達し、平面アンテナ71のスロット71aからマイクロ波透過板73を透過して処理容器2の内部空間に放射される。
【0052】
チューナ64は、スラグチューナを構成している。具体的には、図4に示したように、チューナ64は、本体容器66のアンテナ部65よりも基端部側(上端部側)の部分に配置された2つのスラグ74A,74Bと、2つのスラグ74A,74Bを動作させるアクチュエータ75と、このアクチュエータ75を制御するチューナコントローラ76とを有している。
【0053】
スラグ74A,74Bは、板状且つ環状の形状を有し、本体容器66の内周面と内側導体67の外周面との間に配置されている。また、スラグ74A,74Bは、誘電体材料によって形成されている。スラグ74A,74Bを形成する誘電体材料としては、例えば、比誘電率が10の高純度アルミナを用いることができる。高純度アルミナは、通常、スラグを形成する材料として用いられている石英(比誘電率3.88)やテフロン(登録商標)(比誘電率2.03)よりも比誘電率が大きいため、スラグ74A,74Bの厚みを小さくすることができる。また、高純度アルミナは、石英やテフロン(登録商標)に比べて、誘電正接(tanδ)が小さく、マイクロ波の損失を小さくすることができるという特徴を有している。高純度アルミナは、更に、歪みが小さいという特徴と、熱に強いという特徴も有している。高純度アルミナとしては、純度99.9%以上のアルミナ焼結体であることが好ましい。また、高純度アルミナとして、単結晶アルミナ(サファイア)を用いてもよい。
【0054】
チューナ64は、チューナコントローラ76からの指令に基づいて、アクチュエータ75によって、スラグ74A,74Bを上下方向に移動させる。これにより、チューナ64は、インピーダンスを調整する。例えば、チューナコントローラ76は、終端部のインピーダンスが50Ωになるように、スラグ74A,74Bの位置を調整する。
【0055】
本実施の形態では、メインアンプ62C、チューナ64および平面アンテナ71は、互いに近接して配置されている。特に、チューナ64および平面アンテナ71は、集中定数回路を構成し、且つ共振器として機能する。平面アンテナ71の取り付け部分には、インピーダンス不整合が存在する。本実施の形態では、チューナ64によって、プラズマを含めて高精度でチューニングすることができ、平面アンテナ71における反射の影響を解消することができる。また、チューナ64によって、平面アンテナ71に至るまでのインピーダンス不整合を高精度で解消することができ、実質的に不整合部分をプラズマ空間とすることができる。これにより、チューナ64によって、高精度のプラズマ制御が可能になる。
【0056】
次に、図7および図8を参照して、マイクロ波透過板73の配置について説明する。図7は、図1に示した処理容器2の天井部11の底面図である。図8は、本実施の形態における複数のマイクロ波透過板73の配置を示す説明図である。なお、図7では、本体容器66の図示を省略している。また、以下の説明では、マイクロ波透過板73は、円柱形状を有するものとする。
【0057】
マイクロ波導入装置5は、複数のマイクロ波透過板73を含んでいる。前述のように、マイクロ波透過板73は、本発明におけるマイクロ波透過窓に対応する。複数のマイクロ波透過板73は、マイクロ波導入装置5の導電性部材である天井部11の複数の開口部に嵌合した状態で、載置台21の載置面21aに平行な1つの仮想の平面上に配置されている。また、複数のマイクロ波透過板73は、上記仮想の平面において、その中心点間の距離が互いに等しいか、ほぼ等しい3つのマイクロ波透過板73を含んでいる。なお、中心点間の距離がほぼ等しいというのは、マイクロ波透過板73の形状精度やアンテナモジュール61(マイクロ波導入機構63)の組み立て精度等の観点から、マイクロ波透過板73の位置は、所望の位置からわずかにずれていてもよいことを意味する。
【0058】
本実施の形態では、複数のマイクロ波透過板73は、六方最密配置になるように配置された7つのマイクロ波透過板73からなるものである。具体的には、複数のマイクロ波透過板73は、その中心点がそれぞれ正六角形の頂点に一致またはほぼ一致するように配置された6つのマイクロ波透過板73A〜73Fと、その中心点が正六角形の中心に一致またはほぼ一致するように配置された1つのマイクロ波透過板73Gからなるものである。図8において、符号P〜Pは、それぞれ、マイクロ波透過板73A〜73Gの中心点を示している。なお、頂点または中心点にほぼ一致するというのは、マイクロ波透過板73の形状精度やアンテナモジュール61(マイクロ波導入機構63)の組み立て精度等の観点から、マイクロ波透過板73の中心点は、上記の頂点または中心からわずかにずれていてもよいことを意味する。
【0059】
図7に示したように、マイクロ波透過板73Gは、天井部11における中央部分に配置されている。6つのマイクロ波透過板73A〜73Fは、マイクロ波透過板73Gを囲むように、天井部11の中央部分よりも外側に配置されている。従って、マイクロ波透過板73Gは、本発明における中心マイクロ波透過窓に対応し、マイクロ波透過板73A〜73Fは、本発明における外側マイクロ波透過窓に対応する。なお、本実施の形態において、「天井部11における中央部分」というのは、「天井部11の平面形状における中央部分」を意味する。
【0060】
マイクロ波透過板73A〜73Gは、以下の第1および第2の条件を満たしながら配置されている。第1の条件は、マイクロ波透過板73A〜73Gの中心点P〜Pのうち、互いに隣接する3つの中心点を結ぶことによって平面状に6個の正三角形が形成されるというものである。第2の条件は、これら6個の正三角形によって仮想の正六角形が形成されるというものである。図8に示したように、マイクロ波透過板73A〜73Fの中心点P〜Pを、マイクロ波透過板73Gを囲むように結ぶと、上記の仮想の正六角形が形成される。
【0061】
なお、図8において、符号Wは、ウエハWの平面形状を、複数のマイクロ波透過板73が配置された仮想の平面に投影して形成された図形(以下、単にウエハWの平面形状と記す。)を示している。図8に示した例では、ウエハWの平面形状は円形である。本実施の形態では、マイクロ波透過板73A〜73Fの中心点P〜Pの基準となる正六角形の外縁は、ウエハWの平面形状を包含している。マイクロ波透過板73Gの中心点Pは、ウエハWの平面形状(円)の中心点に一致またはほぼ一致している。マイクロ波透過板73A〜73Fの中心点P〜Pは、ウエハWの平面形状に対する同心円の円周上において、均等またはほぼ均等の間隔で配置されている。
【0062】
本実施の形態では、全てのマイクロ波透過板73において、互いに隣接する任意の3つのマイクロ波透過板73の中心点間の距離は、互いに等しいか、ほぼ等しくなる。以下、これについて、マイクロ波透過板73A,73B,73Gを例にとって説明する。図8に示したように、マイクロ波透過板73A,73Bの中心点P,Pは、正六角形の隣接する2つの頂点に一致している。また、マイクロ波透過板73Gの中心点Pは、正六角形の中心点に一致している。図8に示したように、中心点P,P,Pを結んで描いた図形は、正三角形になる。従って、中心点P,P,P間の距離は互いに等しくなる。
【0063】
上記のマイクロ波透過板73A,73B,73Gについての説明は、互いに隣接する3つのマイクロ波透過板73の組み合わせのいずれについても当てはまる。従って、本実施の形態では、全てのマイクロ波透過板73において、互いに隣接する任意の3つのマイクロ波透過板73の中心点間の距離は、互いに等しいか、ほぼ等しくなる。
【0064】
図4に示したように、マイクロ波導入機構63は、マイクロ波透過板73を含んだ一体構造をなしている。本実施の形態では、複数のマイクロ波導入機構63は、7つのマイクロ波導入機構63からなるものである。各マイクロ波導入機構63は、図7および図8に示したマイクロ波透過板73が配置された位置に対応して配置されている。また、図7に示したように、ガス導入部15の複数のノズル16は、マイクロ波透過板73A〜73Fとマイクロ波透過板73Gとの間において、マイクロ波透過板73Gの周囲を囲むように配置されている。
【0065】
次に、プラズマ処理装置1におけるプラズマ処理の手順の一例について説明する。ここでは、処理ガスとして酸素を含有するガスを使用して、ウエハWの表面に対してプラズマ酸化処理を施す場合を例に挙げて、プラズマ処理の手順について説明する。まず、例えばユーザーインターフェース82から、プラズマ処理装置1においてプラズマ酸化処理を行うように、プロセスコントローラ81に指令が入力される。次に、プロセスコントローラ81は、この指令を受けて、記憶部83またはコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に保存されたレシピを読み出す。次に、レシピに基づく条件によってプラズマ酸化処理が実行されるように、プロセスコントローラ81からプラズマ処理装置1の各エンドデバイス(例えば、高周波バイアス電源25、ガス供給装置3a、排気装置4、マイクロ波導入装置5等)に制御信号が送出される。
【0066】
次に、ゲートバルブGが開状態にされて、図示しない搬送装置によって、ウエハWが、ゲートバルブGおよび搬入出口12aを通って処理容器2内に搬入される。ウエハWは、載置台21の載置面21aに載置される。次に、ゲートバルブGが閉状態にされて、排気装置4によって、処理容器2内が減圧排気される。次に、ガス供給機構3によって、所定の流量の希ガスおよび酸素含有ガスが、ガス導入部15を介して処理容器2内に導入される。処理容器2の内部空間は、排気量およびガス供給量を調整することによって、所定の圧力に調整される。
【0067】
次に、マイクロ波出力部50において、処理容器2内に導入するマイクロ波を発生させる。マイクロ波出力部50の分配器54から出力された複数のマイクロ波は、アンテナユニット60の複数のアンテナモジュール61に入力され、各アンテナモジュール61によって、処理容器2内に導入される。各アンテナモジュール61では、マイクロ波は、アンプ部62およびマイクロ波導入機構63を伝搬する。マイクロ波導入機構63のアンテナ部65に到達したマイクロ波は、平面アンテナ71のスロット71aから、マイクロ波透過板73を透過して、処理容器2内におけるウエハWの上方の空間に放射される。このようにして、各アンテナモジュール61から、それぞれ別々にマイクロ波が処理容器2内に導入される。
【0068】
上記のように複数の部位から処理容器2内に導入されたマイクロ波は、それぞれ処理容器2内に電磁界を形成する。これにより、処理容器2内に導入された希ガスや酸素含有ガス等の処理ガスをプラズマ化する。そして、プラズマ中の活性種、例えばラジカルやイオンの作用によって、ウエハWのシリコン表面が酸化されてシリコン酸化膜SiOの薄膜が形成される。
【0069】
プロセスコントローラ81からプラズマ処理装置1の各エンドデバイスにプラズマ処理を終了させる制御信号が送出されると、マイクロ波の発生が停止されると共に、希ガスおよび酸素含有ガスの供給が停止されて、ウエハWに対するプラズマ処理が終了する。次に、ゲートバルブGが開状態にされて、図示しない搬送装置によって、ウエハWが搬出される。
【0070】
なお、酸素含有ガスの代りに窒素含有ガスを使用することにより、ウエハWに対して窒化処理を施し、シリコン窒化膜SiNの薄膜を形成することができる。
【0071】
プラズマ処理装置1では、互いに隣接するマイクロ波透過板73の中心点間距離が、互いに等しいかほぼ等しくなるように設定される。隣接する複数のマイクロ波透過板73の中心点間距離が異なるように配置されていると、各マイクロ波透過板73に基づくマイクロ波プラズマの密度分布が全て同一の場合、プラズマ密度に偏りが生じ、ウエハWの面内での処理の均一性を保つことが困難になる。これに対し、プラズマ処理装置1では、互いに隣接するマイクロ波透過板73の中心点間距離が、互いに等しいかほぼ等しくなるように設定されることから、マイクロ波プラズマの密度分布を均一化することが容易になる。このように、プラズマ処理装置1では、簡単な構成で、マイクロ波プラズマの密度分布を均一化することが可能になり、ウエハWの面内での処理の均一性が得られる。
【0072】
また、プラズマ処理装置1では、マイクロ波透過板73Gは、天井部11における中央部分に配置され、6つのマイクロ波透過板73A〜73Fは、マイクロ波透過板73Gを囲むように、天井部11の中央部分よりも外側に配置されている。これにより、プラズマ処理装置1では、広い領域にわたって、マイクロ波プラズマの密度分布を均一化することが可能になる。また、プラズマ処理装置1では、複数のアンテナモジュール61の構成は全て同一である。これにより、プラズマ処理装置1では、各アンテナモジュール61において同様のプラズマ発生条件を用いることができ、マイクロ波プラズマの密度分布の調整が容易になる。なお、正六角形の内側に対応する領域の下方におけるプラズマ密度は、正六角形の外側に対応する領域の下方におけるプラズマ密度よりも大きくなる。本実施の形態では、図8を参照して説明したように、マイクロ波透過板73A〜73Fの中心点の基準となる正六角形の外縁は、ウエハWの平面形状を包含している。これにより、プラズマ処理装置1では、プラズマ密度が大きい領域にウエハWを配置することができる。
【0073】
[第1の実施の形態]
次に、プラズマ処理装置1を用いて行われる本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理方法について説明する。本実施の形態のプラズマ処理方法は、プラズマ処理装置1の処理容器2内で複数のマイクロ波によりプラズマを生成させて被処理体であるウエハWを処理し、例えばウエハWの表面のシリコンを酸化してシリコン酸化膜を形成する。なお、本明細書において、複数のマイクロ波によりプラズマを着火させるときの複数のマイクロ波パワーの合計を「着火時総パワー」、前記プラズマでウエハWを処理するときの複数のマイクロ波パワーの合計を「プロセス時総パワー」とする。また、1つのマイクロ波からプラズマを着火させるときのマイクロ波パワーを「着火時パワー」、1つのマイクロ波から生成したプラズマでウエハWを処理するときのマイクロ波パワーを「プロセス時パワー」とする。
【0074】
本実施の形態では、処理容器2内に複数のマイクロ波によりプラズマを生成させる複数マイクロ波方式のプラズマ処理装置1を用い、厚さ1nm(10オングストローム)以下、好ましくは0.5〜1nmの範囲内の極薄膜を形成するために、低いマイクロ波パワーでプラズマ酸化処理を行う。具体的には、本実施の形態のプラズマ処理方法では、着火時総パワーを、ウエハWの面積当たり1W/cm以下、好ましくは0.8W/cm以下、より好ましくは0.6W/cm以下とする。例えば、300mm径のウエハWを被処理体とする場合、着火時総パワーを700W以下、好ましくは560W以下、より好ましくは420W以下とする。
【0075】
本実施の形態のプラズマ処理方法で、着火時総パワーを上記のように規定する理由は以下のとおりである。一般に、マイクロ波透過板73が小径であるプラズマ処理装置1において、着火時総パワーは、プロセス時総パワーに比べて、2〜3倍程度大きい値となる。従って、着火時総パワーがウエハWの面積当たり1W/cm以下であれば、プロセス時総パワーは概ねウエハWの面積当たり1W/cm以下となり、低パワーでのプラズマ処理が可能になる。
【0076】
これに対し、大径のマイクロ波透過板を用いる単一マイクロ波方式のプラズマ処理装置では、着火時パワーが1W/cm以下では、プラズマの着火が困難であり、また、極力低いパワーで着火させる場合には、安定したプラズマを維持する観点からも、概してプロセス時パワーと着火時パワーがほぼ等しい値になる場合が多い。
【0077】
ここで、本実施の形態のプラズマ処理方法の特徴をより明確にするため、比較例のプラズマ処理方法に用いるプラズマ処理装置について説明する。図9は、処理容器内で一つのマイクロ波からプラズマを生成させる単一マイクロ波方式のプラズマ処理装置501の構成を模式的に示す断面図である。プラズマ処理装置501は、処理容器502、載置台521および支持部材522を備えている。処理容器502、載置台521および支持部材522の構成は、図1に示した処理容器2、載置台21および支持部材22の構成と同じである。
【0078】
プラズマ処理装置501は、図1および図3に示したマイクロ波導入装置5の代りに、マイクロ波導入装置505を備えている。マイクロ波導入装置505は、処理容器502の上部に設けられる。マイクロ波導入装置505としては、マイクロ波透過板573を1個だけ含む既知の構成のマイクロ波導入装置を用いることができる。マイクロ波透過板573は、例えば円板形状を有している。マイクロ波透過板573の平面形状の直径は、ウエハWの直径よりも大きく、例えば460mmである。
【0079】
プラズマ処理装置501におけるその他の構成は、プラズマ処理装置1と同じである。
【0080】
プラズマ処理装置501では、マイクロ波透過板573の数が1個であることから、マイクロ波透過板573の平面形状をウエハWの平面形状よりも大きくする必要がある。マイクロ波透過板573の面積が大きくなると、プラズマを安定的に着火および放電させるために必要なマイクロ波のパワーも大きくなる。例えば、マイクロ波透過板573が円板形状を有し、マイクロ波透過板573の平面形状の直径が約500mmの場合、プラズマを安定的に着火および放電させるために必要なマイクロ波のパワー(着火時パワー及びプロセス時パワー)の最小値は1000Wである。
【0081】
一方、プラズマ処理装置1では、複数のマイクロ波透過板73が設けられることから、プラズマ処理装置501のマイクロ波透過板573に比べて、マイクロ波透過板73の面積を小さくすることができる。なお、プラズマ処理装置1のマイクロ波透過板73が円柱形状を有している場合、マイクロ波透過板73の平面形状の直径は、例えば90〜200mmの範囲内、好ましくは90〜150mmの範囲内とすることができる。その結果、プラズマ処理装置1では、プラズマ処理装置501を用いる場合に比べて、プラズマを安定的に着火および放電維持させるために必要なマイクロ波のパワーを小さくすることができる。これにより、プラズマ処理装置1では、低パワーのマイクロ波によるプラズマ着火及び放電維持が可能になり、厚さ1nm以下の薄膜を、膜厚を制御しながら形成するプラズマ処理に適している。
【0082】
<プラズマ酸化処理の条件>
次に、プラズマ処理装置1を用いて、1nm以下の膜厚のシリコン酸化膜を形成するための主要な条件として、処理ガスの種類と流量、処理圧力、マイクロ波パワー、処理温度、酸化レート、処理時間、インピーダンス整合手順を挙げて詳細に説明する。なお、これらの条件は、制御部8の記憶部83にレシピとして保存されている。そして、プロセスコントローラ81がそのレシピを読み出してプラズマ処理装置1の各構成部へ制御信号を送出することにより、所望の条件でプラズマ酸化処理が行われる。
【0083】
<処理ガスの種類と流量>
プラズマ酸化処理の処理ガスとしては、プラズマ生成用の希ガスと酸素含有ガスを用いることが好ましい。希ガスとしては、例えば、Ar、Kr、Xe、He等を使用することができる。酸素含有ガスとしては、例えば、Oガス、オゾンガス等を使用することができる。これらの中でも、希ガスとしてはArガスが、酸素含有ガスとしてはOガスが、それぞれ好ましい。処理容器2内における全処理ガスに対する酸素含有ガスの体積流量比率(酸素含有ガス流量/全処理ガス流量の百分率)は、酸化力を適度に調節して厚さ1nm以下の薄膜の形成を容易にする観点から、例えば0.1〜5%の範囲内とすることが好ましく、0.5〜3%の範囲内とすることがより好ましい。プラズマ酸化処理では、希ガスの流量は、例えば100〜10000mL/min(sccm)の範囲内から、上記流量比になるように設定することが好ましい。酸素含有ガスの流量は、例えば0.1〜500mL/min(sccm)の範囲内から、上記流量比になるように設定することが好ましい。
【0084】
<マイクロ波パワー>
プラズマ処理装置1を用いるプラズマ処理において、マイクロ波としては860MHzのマイクロ波を用いることが好ましい。また、着火時総パワーは、厚さ1nm以下の薄膜の形成を容易にする観点から、ウエハWの面積当たり1W/cm以下、好ましくは0.5〜1W/cmの範囲内とする。例えば、300mm径のウエハWを被処理体とする場合、着火時総パワーを700W以下、好ましくは350〜700Wの範囲内とすることができる。着火時総パワーが1W/cmもしくは700Wを超えると、プラズマ着火直後の酸化レートが高くなり、厚さ1nm以下の薄膜の形成が困難になるか、あるいは、膜厚の制御性が著しく悪化する。着火時総パワーの下限は、安定したプラズマを生成させる観点から、ウエハWの面積当たり0.5W/cm以上とすることが好ましい。なお、プラズマ処理装置1では、7つのマイクロ波透過板73からマイクロ波を導入するため、1つのマイクロ波透過板73から導入されるマイクロ波の着火時パワーは、100W以下とすることができる。
【0085】
また、プラズマ処理装置1を用いるプラズマ処理において、プロセス時総パワーは、着火時総パワーよりも小さくすることが可能であり、例えば着火時総パワーの1/3〜1/2程度とすることができる。例えば、プラズマ処理装置1で、300mm径のウエハWを処理する場合、着火時総パワーを420〜700W(ウエハWの面積あたり0.6〜1W/cm)の範囲内とすると、プロセス時総パワーを140〜350W(ウエハWの面積あたり0.2〜0.5W/cm)の範囲内とすることができる。なお、プラズマ処理装置1では、7つのマイクロ波透過板73からマイクロ波を導入するため、1つのマイクロ波透過板73から導入されるマイクロ波のプロセス時パワーは、50W以下とすることができる。また、条件によっては、着火時総パワーをそのままプロセス時総パワーとすることや、着火時総パワーよりも高いプロセス時総パワーを設定することも可能である。
【0086】
これに対し、比較例のプラズマ処理装置501の場合は、上述のとおり、300mm径のウエハWを処理する場合、着火時パワー及びプロセス時パワーの最小値は1000W(1.42W/cm)であり、この値以下では安定したプラズマの着火及び放電維持は困難である。従って、プラズマ処理装置501では、プラズマ処理装置1に比べると、プラズマ酸化処理における酸化レートが高くなり、厚さ1nm以下の薄膜の形成は困難である。
【0087】
<処理圧力>
処理圧力は、着火時総パワーを下げて厚さ1nm以下の薄膜の形成を容易にする観点から、例えば30〜600Paの範囲内が好ましく、80〜300Pa以下の範囲内がより好ましい。ここで、図10は、プラズマ処理装置1の1つのマイクロ波透過板73を用いてArガス100%のプラズマを着火させる場合における圧力と着火時パワーの関係を表すパッシェン(Paschen)カーブである。ここでは、マイクロ波透過板73の径が90mmである場合と、150mmである場合とを比較している。このパッシェンカーブから、マイクロ波透過板73が小径である90mm径の方が150mm径に比べて着火時パワーが小さくてよいことが理解される。なお、比較例の単一マイクロ波方式のプラズマ処理装置501では、上記のとおり大型のマイクロ波透過板573を用いるため、さらに大きな着火時パワーが必要になる。
【0088】
また、同じ大きさのマイクロ波透過板73を用いる場合でも、着火時パワーを小さくできる圧力範囲が存在することがわかる。図10の例では、マイクロ波透過板73が90mm径である場合、例えば30〜600Paの範囲内で着火時パワーがほぼ100Wを下回っている。また、マイクロ波透過板73が150mm径である場合、例えば80〜300Paの範囲内で着火時パワーがほぼ100Wを下回っている。
【0089】
<処理温度>
ウエハWの処理温度は、酸化レートを下げて厚さ1nm以下の薄膜の形成を容易にする観点から、例えば室温(30℃)〜200℃の範囲内とすることが好ましく、100℃以下に設定することがより好ましい。なお、処理温度は載置台21の温度を意味し、室温(30℃)は加熱しないことを意味する。
【0090】
ここで、図11は、異なる処理温度でウエハW表面のシリコンに対してプラズマ酸化処理をした場合のシリコン酸化膜の膜厚と処理時間との関係を示す特性図である。図11の縦軸は、プラズマ処理によって形成されたシリコン酸化膜の膜厚を示し、横軸はプロセス時間を示している。なお、図11の縦軸は、エリプソメーターによって測定した膜厚である。本明細書においては、特に注記しない限り、膜厚はエリプソメーターにより測定された値を意味する。
【0091】
実験は、条件a〜cで実施した。条件a,bは、7個のマイクロ波透過板73を含むプラズマ処理装置1を使用し、条件aでは処理温度を室温(30℃)、条件bでは処理温度を500℃とした。条件cは、比較のため、単一マイクロ波方式のプラズマ処理装置501を使用し、処理温度を300℃とした。
【0092】
プラズマ処理装置1を用いるプラズマ酸化処理の温度以外の条件は以下の通りである。マイクロ波透過板73とウエハWとの間の間隔(ギャップ)を85mmに固定した。1つのマイクロ波透過板73から導入されるマイクロ波のパワーを着火時パワー60W、プロセス時パワー20Wとした。処理容器2内の圧力は133Paとした。プラズマ生成用の希ガスとして990sccm(mL/min)のArを用い、酸素含有ガスとして10sccm(mL/min)のOを用いた。
【0093】
プラズマ処理装置501を用いるプラズマ酸化処理の条件cは以下の通りである。まず、処理温度(載置台521の設定温度)を300℃とした。マイクロ波透過板573とウエハWとの間の間隔(ギャップ)を85mmとし、マイクロ波の着火時パワーを1000W、プロセス時パワーを1000Wとした。処理容器502内の圧力は133Paとした。プラズマ生成用の希ガスとして1980sccm(mL/min)のArを用い、酸素含有ガスとして20sccm(mL/min)のOを用いた。
【0094】
図11より、複数のマイクロ波でプラズマを生成させるプラズマ処理装置1を用いた条件aでは、単一マイクロ波方式のプラズマ処理装置501を用いた条件cに比べ、同じプロセス時間でも形成されるシリコン酸化膜を大幅に薄膜化できている。なお、同じプラズマ処理装置1を用いた条件bでは、条件aに比べると、酸化レートが大きく、厚さ1nm以下の薄膜形成における制御性が条件aでの処理に比べ低下している。これは処理温度が500℃の高温であるためと考えられる。しかし、図11より、処理温度が100℃以下であれば、膜厚の制御性よく厚さ1nm以下のシリコン酸化膜を形成することが十分に可能であると考えられる。
【0095】
<酸化レート>
本実施の形態のプラズマ処理方法は、厚さ1nm以下の薄膜の形成を容易にする観点から、例えば、プラズマ着火のためのマイクロ波の供給を開始(パワーON)してから30秒間における平均酸化レートを0.03nm/秒以下とすることが好ましく、0.005〜0.03nm/秒とすることがより好ましい。マイクロ波の供給開始から30秒間における平均酸化レートを0.03nm/sec以下にすることによって、短い処理時間でも膜厚の制御性が高まり、1nm以下、好ましくは0.5〜1nm以下の任意の厚みで薄膜を形成できる。
【0096】
<処理時間>
本実施の形態のプラズマ処理方法において、処理時間は、1nm以下の所望の厚みでシリコン酸化膜の形成が可能であれば特に制限はないが、上記酸化レートを考慮すると、プラズマ着火のためのマイクロ波パワーの供給を開始(パワーON)する時点を基準に、例えば10〜100秒の範囲内とすることが好ましい。
【0097】
<インピーダンス整合手順>
次に、本実施の形態のプラズマ処理方法におけるインピーダンス整合手順について、図12A,12B及び図13A及び図13Bを参照しながら説明する。本実施の形態のプラズマ処理方法では、複数のマイクロ波によりプラズマを着火するときにはインピーダンス整合を行わず、複数のマイクロ波により生成したプラズマによりウエハWを処理するときにインピーダンス整合を行うことが好ましい。なお、プラズマ処理装置1において、インピーダンス整合は、チューナ64の2つのスラグ74A,74Bを上下に変位させることにより行われる(図4参照)。
【0098】
図12A及び図12Bは、それぞれ、プラズマ処理装置1の一つのマイクロ波透過板73からマイクロ波を導入し、酸素プラズマを着火させる際のインピーダンス整合の手順とプラズマ発光との関係を示している。図12A図12Bの縦軸は、発光分光分析(OES)による波長777nmにおける酸素ラジカルの発光強度比を示し、横軸は、マイクロ波の設定パワーを示している。図12A及び図12B中の四角のプロット(マッチングあり)は、圧力133Paで処理ガスとしてOガスを1体積%含有するArガスとOガスとの混合ガスを用い、インピーダンス整合を行ってプラズマを生成させた場合の設定パワーと発光強度との関係を示している。図12A及び図12B中のひし形のプロット(マッチングなし)は、圧力133Paで処理ガスとしてOガスを1体積%含有するArガスとOガスとの混合ガスを用い、インピーダンス整合を行わずプラズマを生成させた場合の設定パワーと発光強度との関係を示している。
【0099】
また、図13A及び図13Bは、それぞれ、プラズマ処理装置1の一つのマイクロ波透過板73からマイクロ波を導入し、酸素プラズマを着火させる際のインピーダンス整合の手順を示すタイミングチャートである。図13A及び図13Bにおいて、横軸は時間を示し、t1は処理ガス導入開始、t2はマイクロ波導入によるプラズマ着火、t3はプロセス時パワーへの切り替え、t4はプロセス終了(マイクロ波停止)、t5は処理ガス供給停止、のタイミングを示している。なお、図13A及び図13Bに示すタイミングチャートでは、処理ガスとしてArガスとOガスを同時に処理容器2内に導入してプラズマを着火しているが、例えばArガスを先に処理容器2内に導入してプラズマを着火し、後からOガスの導入を行うようにしてもよい。
【0100】
図12A及び図13Aは、プラズマ着火と同時に、インピーダンス整合を開始させる方法(以下、方法Aと記す)を示している。この場合の発光強度の変化を図12A中に太い矢印で示している。具体的には、方法Aの場合は、着火時パワー100Wでプラズマを着火させ(時点t2)、同時に着火時パワーでインピーダンス整合を開始し、インピーダンス整合をしながら、プロセス時パワー50Wに移行する(時点t3)。
【0101】
一方、図12B及び図13Bは、プラズマ着火と同時には、インピーダンス整合を開始せず、プロセスに移行するときに、インピーダンス整合を開始する方法(以下、方法Bと記す)を示している。この場合の発光強度の変化を図12B中に太い矢印で示している。方法Bでは、着火時パワー100Wでプラズマを着火させ(時点t2)、着火後、インピーダンス整合を行うことなくプロセス時パワー50Wに移行し(時点t3)、プロセス時パワーでインピーダンス整合を開始する。
【0102】
図12A図12Bから、インピーダンス整合を行うタイミングの違いによって、着火時パワー及びプロセス時パワーが同じでも、方法Bでは方法Aに比べ、酸素ラジカルの発光を大幅に抑制できていることが理解される。すなわち、方法Bでは、着火時パワーでインピーダンス整合を行わないことによって、プラズマ着火時において、プラズマ中の酸化活性種である酸素ラジカルの生成量を方法Aよりも大幅に抑制できている。
【0103】
図12A及び図12Bは、一つのマイクロ波によりプラズマを生成させた場合について示したものであるが、プラズマ処理装置1によって複数のマイクロ波でプラズマを生成させた場合も、同様に、方法Bでは方法Aよりも、プラズマ着火時においてプラズマ中の酸化活性種である酸素ラジカルの生成量を大幅に抑制できる。従って、方法Bの手順を採用することによって、方法Aの手順に比べ、プラズマ処理装置1を用いる薄膜(シリコン酸化膜)の形成において、プラズマ着火時の酸化を抑制することができ、膜厚の制御性が良好になり、一層の薄膜化が可能になる。このことを確認した実験結果について、図14を参照しながら説明する。
【0104】
図14は、プラズマ処理によって形成されたシリコン酸化膜の膜厚とプロセス時間との関係を示す特性図である。図14の縦軸は、プラズマ処理によって形成されたシリコン酸化膜の膜厚を示し、横軸はプロセス時間を示している。実験は、下記の条件1〜4で実施した。条件1〜3は、7個のマイクロ波透過板73を備えたプラズマ処理装置1を使用し、条件4は、比較のため、単一マイクロ波方式のプラズマ処理装置501を使用した。なお、シリコン酸化膜の膜厚の測定には、エリプソメーターを使用した。
【0105】
<条件1>
プラズマ生成方式:複数マイクロ波
着火時総パワー:420W
プロセス時総パワー:140W
着火時パワー:60W
プロセス時パワー:20W
インピーダンス整合:方法B
<条件2>
プラズマ生成方式:複数マイクロ波
着火時総パワー:700W
プロセス時総パワー:350W
着火時パワー:100W
プロセス時パワー:50W
インピーダンス整合:方法B
<条件3>
プラズマ生成方式:複数マイクロ波
着火時総パワー:700W
プロセス時総パワー:350W
着火時パワー:100W
プロセス時パワー:50W
インピーダンス整合:方法A
<条件4>
プラズマ生成方式:単一マイクロ波
着火時パワー:1000W
プロセス時パワー:1000W
インピーダンス整合:方法A
【0106】
プラズマ処理装置1を用いるプラズマ酸化処理の他の条件は以下の通りである。マイクロ波透過板73とウエハWとの間の間隔(ギャップ)を85mmに固定した。処理容器2内の圧力は133Paとした。プラズマ生成用の希ガスとして990sccm(mL/min)のArを用い、酸素含有ガスとして10sccm(mL/min)のOを用いた。また、処理温度を30℃とした。
【0107】
プラズマ処理装置501を用いるプラズマ酸化処理の他の条件は以下の通りである。マイクロ波透過板573とウエハWとの間の間隔(ギャップ)を85mmとした。プラズマ生成用の希ガスとして1980sccm(mL/min)のArを用い、酸素含有ガスとして20sccm(mL/min)のOを用いた。また、処理温度を300℃とした。
【0108】
図14より、複数のマイクロ波でプラズマを生成させるプラズマ処理装置1を用いた条件1〜3では、単一マイクロ波方式のプラズマ処理装置501を用いた条件4に比べ、着火時総パワー及びプロセス時総パワーの両方が小さいため、同じプロセス時間でも形成されるシリコン酸化膜を大幅に薄膜化できている。特に、インピーダンス整合を方法Bで行った条件1及び条件2では、プロセス開始(プロセス時間0)から20秒経過後でもシリコン酸化膜の膜厚は1nm以下であり、インピーダンス整合を方法Aで行った条件3に比べても良好な結果が得られた。一方、条件4では、酸化レートが大きすぎるため、シリコン酸化膜の膜厚を1nm以下に制御することは現実的に不可能である。
【0109】
図14において、プロセス時間0は、方法A、方法Bともに、マイクロ波パワーをオン(ON)してプラズマを着火してから、5秒間かけて安定化させた後、プロセス時パワーに切り替え(図13A,13Bの時点t3)、さらにプロセス時パワーで5秒間かけて安定化させた時点を意味する。従って、図14において、プロセス時間0は、方法A,方法Bともに、マイクロ波パワーのオン(ON)から約10秒程度経過している。このため、図14の条件1〜3では、プロセス時間0であっても、すでに0.9nm程度のシリコン酸化膜の膜厚が計測されている。このように、プロセス時間0までに形成される膜厚を考慮すると、条件1〜3では、プロセス時間0から20秒経過後までの平均酸化レートは、明らかに0.005nm/sec程度である。条件1〜3では、このような低酸化レートのプラズマ処理が可能であり、特に、インピーダンス整合を方法Bで行った条件1及び条件2では、プロセス時間0に至るまでの着火直後のプラズマによる酸化を効果的に抑制できるため、シリコン酸化膜の膜厚を1nm以下の任意の膜厚で制御性良く形成できる。
【0110】
以上、本実施の形態のプラズマ処理方法によれば、被処理体であるウエハWの表面に、1nm以下の膜厚のシリコン酸化膜を、膜厚の制御性よく形成することができる。
【0111】
[第2の実施の形態]
次に、プラズマ処理装置1を用いて行われる本発明の第2の実施の形態に係るプラズマ処理方法について説明する。本実施の形態のプラズマ処理方法は、プラズマ処理装置1の処理容器2内に複数のマイクロ波によりプラズマを生成させて被処理体であるウエハWを処理し、例えばウエハWの表面のシリコンを窒化してシリコン窒化膜を形成する。
【0112】
本実施の形態では、処理容器2内に複数のマイクロ波によりプラズマを生成させる方式のプラズマ処理装置1を用い、厚さ1nm(10オングストローム)以下、好ましくは0.5〜1nmの範囲内の極薄膜を形成するために、低いマイクロ波パワーでプラズマ窒化処理を行う。具体的には、本実施の形態のプラズマ処理方法では、着火時総パワーを、ウエハWの面積当たり1W/cm以下、好ましくは0.8W/cm以下、より好ましくは0.6W/cm以下とする。例えば、300mm径のウエハWを被処理体とする場合、着火時総パワーを700W以下、好ましくは560W以下、より好ましくは420W以下とする。
【0113】
本実施の形態のプラズマ処理方法で、着火時総パワーを上記のように規定する理由は、第1の実施の形態と同様である。
【0114】
<プラズマ窒化処理の条件>
次に、プラズマ処理装置1を用いて、1nm以下の膜厚のシリコン窒化膜を形成するための主要な条件として、処理ガスの種類と流量、処理圧力、マイクロ波パワー、処理温度、窒化レート、処理時間、インピーダンス整合手順を挙げて詳細に説明する。なお、これらの条件は、制御部8の記憶部83にレシピとして保存されている。そして、プロセスコントローラ81がそのレシピを読み出してプラズマ処理装置1の各構成部へ制御信号を送出することにより、所望の条件でプラズマ窒化処理が行われる。
【0115】
<処理ガスの種類と流量>
プラズマ窒化処理の処理ガスとしては、プラズマ生成用の希ガスと窒素含有ガスを用いることが好ましい。希ガスとしては、例えば、Ar、Kr、Xe、He等を使用することができる。窒素含有ガスとしては、例えば、窒素ガス、NHガス等が使用される。これらの中でも、希ガスとしてはArガスが、窒素含有ガスとしてはNガスが、それぞれ好ましい。処理容器2内における全処理ガスに対する窒素含有ガスの体積流量比率(窒素含有ガス流量/全処理ガス流量の百分率)は、窒化力を適度に調節して厚さ1nm以下の薄膜の形成を容易にする観点から、5〜25%の範囲内とすることが好ましく、10〜20%の範囲内とすることがより好ましい。プラズマ窒化処理では、例えば希ガスの流量は、100〜10000mL/min(sccm)の範囲内から、上記流量比になるように設定することが好ましい。窒素含有ガスの流量は5〜2500mL/min(sccm)の範囲内から、上記流量比になるように設定することが好ましい。
【0116】
<マイクロ波パワー>
プラズマ処理装置1を用いるプラズマ処理において、着火時総パワーは、厚さ1nm以下の薄膜の形成を容易にする観点から、ウエハWの面積当たり1W/cm以下、好ましくは0.5〜1W/cmの範囲内とする。例えば、300mm径のウエハWを被処理体とする場合、着火時総パワーを700W以下、好ましくは350〜700Wの範囲内とすることができる。着火時総パワーが1W/cmもしくは700Wを超えると、プラズマ着火直後の窒化レートが高くなり、厚さ1nm以下の薄膜の形成が困難になるか、あるいは、膜厚の制御性が著しく悪化する。着火時総パワーの下限は、安定したプラズマを生成させる観点から、ウエハWの面積当たり0.5W/cm以上とすることが好ましい。なお、プラズマ処理装置1では、7つのマイクロ波透過板73からマイクロ波を導入するため、1つのマイクロ波透過板73から導入されるマイクロ波の着火時パワーは、100W以下とすることができる。
【0117】
また、プラズマ処理装置1を用いるプラズマ処理において、プロセス時総パワーは、着火時総パワーよりも小さくすることが可能であり、例えば着火時総パワーの1/3〜1/2程度とすることができる。例えば、プラズマ処理装置1で、300mm径のウエハWを処理する場合、着火時総パワーを420〜700W(ウエハWの面積あたり0.6〜1W/cm)の範囲内とすると、プロセス時総パワーを140〜350W(ウエハWの面積あたり0.2〜0.5W/cm)の範囲内とすることができる。なお、プラズマ処理装置1では、7つのマイクロ波透過板73からマイクロ波を導入するため、1つのマイクロ波透過板73から導入されるマイクロ波のプロセス時パワーは、50W以下とすることができる。また、条件によっては、着火時総パワーをそのままプロセス時総パワーとすることや、着火時総パワーよりも高いプロセス時総パワーを設定することも可能である。

【0118】
これに対し、第1の実施の形態で説明した比較例のプラズマ処理装置501の場合は、上述のとおり、300mm径のウエハWを処理する場合、着火時パワー及びプロセス時パワーの最小値は1000W(1.42W/cm)であり、この値以下では安定したプラズマの着火及び放電維持は困難である。従って、プラズマ処理装置501では、プラズマ処理装置1に比べると、プラズマ窒化処理における窒化レートが高くなり、厚さ1nm以下の薄膜の形成は困難である。
【0119】
<処理圧力>
処理圧力は、着火時総パワーを下げて厚さ1nm以下の薄膜の形成を容易にする観点から、例えば10〜600Paの範囲内が好ましく、20〜300Pa以下の範囲内がより好ましい。
【0120】
<処理温度>
ウエハWの処理温度は、窒化レートを下げて厚さ1nm以下の薄膜の形成を容易にする観点から、例えば室温(30℃)〜200℃の範囲内とすることが好ましく、100℃以下に設定することがより好ましい。なお、処理温度は載置台21の温度を意味し、室温(30℃)は加熱しないことを意味する。
【0121】
<窒化レート>
本実施の形態のプラズマ処理方法は、厚さ1nm以下の薄膜の形成を容易にする観点から、例えばプラズマ着火のためのマイクロ波の供給を開始(パワーON)してから30秒間における平均窒化レートが0.05nm/秒以下であることが好ましく、0.005〜0.05nm/秒であることがより好ましい。マイクロ波の供給開始から30秒間における平均窒化レートを0.05nm/sec以下にすることによって、短い処理時間でも膜厚の制御性が高まり、1nm以下、好ましくは0.5〜1nm以下の任意の厚みで薄膜を形成できる。
【0122】
<処理時間>
本実施の形態のプラズマ処理方法において、処理時間は、1nm以下の所望の厚みでシリコン窒化膜の形成が可能であれば特に制限はないが、上記窒化レートを考慮すると、プラズマ着火のためのマイクロ波パワーの供給を開始(パワーON)する時点を基準に、例えば10〜100秒の範囲内とすることが好ましい。
【0123】
<インピーダンス整合手順>
本実施の形態のプラズマ処理方法におけるインピーダンス整合手順は、第1の実施の形態におけるインピーダンス整合手順と同様である。本実施の形態においても、方法Bを採用することによって、方法Aに比べ、プラズマ処理装置1を用いる薄膜(シリコン窒化膜)の形成において、プラズマ着火時の窒化を抑制することができ、膜厚の制御性が良好になり、一層の薄膜化が可能になる。
【0124】
次に、本実施の形態のプラズマ処理方法の効果を示す実験結果について、図15を参照して説明する。図15は、プラズマ処理によって形成されたシリコン窒化膜の膜厚とプロセス時間との関係を示す特性図である。図15の縦軸は、プラズマ処理によって形成されたシリコン窒化膜の膜厚を示し、横軸はプロセス時間を示している。実験は、7個のマイクロ波透過板73を備えたプラズマ処理装置1を使用して以下の条件で実施した。マイクロ波透過板73とウエハWとの間の間隔(ギャップ)は85mmに固定した。着火時総パワーは700W、プロセス時総パワーは350W、着火時パワーは100W、プロセス時パワーは50Wに設定した。処理容器2内の圧力は20Paとした。プラズマ生成用の希ガスとして1000sccm(mL/min)のArを用い、窒素含有ガスとして20sccm(mL/min)のNを用いた。また、処理温度を30℃とした。インピーダンス整合は、プラズマ着火と同時には、インピーダンス整合を開始せず、プロセスに移行するときに、インピーダンス整合を開始する方法B(第1の実施の形態を参照)により実施した。シリコン窒化膜の膜厚の測定には、エリプソメーターを使用した。
【0125】
図15より、複数のマイクロ波でプラズマを生成させるプラズマ処理装置1を用い、着火時総パワー及びプロセス時総パワーの両方を小さく抑えてプラズマ処理を行うことにより、プロセス開始(プロセス時間0)から10秒経過後でもシリコン窒化膜の膜厚を1nm以下にコントロールできることが確認できた。
【0126】
また、図15において、プロセス時間0は、マイクロ波パワーをオン(ON)してプラズマを着火してから、5秒間かけて安定化させた後、プロセス時パワーに切り替え、さらにプロセス時パワーで5秒間かけて安定化させた時点を意味する。従って、図15において、プロセス時間0は、マイクロ波パワーのオン(ON)から約10秒程度経過している。このため、図15では、プロセス時間0であっても、すでに0.5nm程度のシリコン窒化膜の膜厚が計測されている。このように、プロセス時間0までに形成される膜厚を考慮すると、プロセス時間0から10秒経過後までの平均窒化レートは、明らかに0.05nm/sec程度である。また、インピーダンス整合を方法Bで行うことによって、プロセス時間0に至るまでの着火直後のプラズマによる窒化を効果的に抑制できている。
【0127】
以上、本実施の形態のプラズマ処理方法によれば、被処理体であるウエハWの表面に、1nm以下の膜厚のシリコン窒化膜を、膜厚の制御性よく形成することができる。
【0128】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、本発明のプラズマ処理方法は、半導体ウエハを被処理体とする場合に限らず、例えば太陽電池パネルの基板やフラットパネルディスプレイ用基板を被処理体とする場合にも適用できる。
【0129】
また、上記実施の形態では、ウエハWの表面のシリコンをプラズマ酸化処理又はプラズマ窒化処理する場合を例に挙げたが、処理対象はシリコンに限るものではない。例えば、プラズマ酸化処理の対象は、シリコン窒化膜(SiN膜)でもよいし、プラズマ窒化処理の対象は、シリコン酸化膜(SiO膜)でもよく、さらに別の種類の膜でもよい。
【符号の説明】
【0130】
1…プラズマ処理装置、2…処理容器、3…ガス供給機構、4…排気装置、5…マイクロ波導入装置、8…制御部、14…排気管、15…ガス導入部、16…ノズル、21…載置台、21a…載置面、24…整合器、25…高周波バイアス電源、50…マイクロ波出力部、51…電源部、52…マイクロ波発振器、53…アンプ、54…分配器、60…アンテナユニット、61…アンテナモジュール、62…アンプ部、63…マイクロ波導入機構、64…チューナ、65…アンテナ部、66…本体容器、67…内側導体、71…平面アンテナ、71a…スロット、72…マイクロ波遅波材、73…マイクロ波透過板、81…プロセスコントローラ、82…ユーザーインターフェース、83…記憶部、W…半導体ウエハ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14
図15