【文献】
Y. Xu, P. J. Sellin, A. Lohstroh, W. Jie, T. Wang, C. Mills, P. Veeramani, and M. Veale,Comparison of the x-ray spectroscopy response and charge transport properties of semi-insulating In/Al doped CdZnTe crystals,Journal of Applied Physics,2009年,105,083101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
化合物半導体を用いた硬X線やγ線の検出器の開発が従来行われているが、その中でもテルル化カドミウム(CdTe)やテルル化亜鉛カドミウム(CdZnTe)が近年の結晶開発における技術革新により有力なデバイスとして注目されている。
CdTeやCdZnTeは、原子番号が比較的大きい元素からなるので放射線の検出効率が高く、半導体検出素子を小型かつ高性能にすることができる。
また、CdTeやCdZnTeは、放射線を直接電流に変換するので、ヨウ化ナトリウム(NaI)に代表されるルミネッセンスを介した間接的な動作機構のシンチレータ検出器に比べ、検出効率およびエネルギー分解能において優れている。
【0003】
また、CdTeやCdZnTeは、バンドギャップが大きく熱の影響を受けにくいため、室温動作が可能で、動作させるために冷却装置が必要なシリコン・ゲルマニウム(Si・Ge)検出器に比べ、装置を小型化できフィールド操作性に優れている。
特にCdZnTeは、ZnのドープによりCdTeよりもバンドギャップが大きく、動作時の漏れ電流が小さい。このため、CdZnTeを用いて製造した放射線検出素子は、CdTeを用いて製造したものよりも高いバイアス電流を印加し、エネルギー分解能を高めることが可能となる(特許文献1〜3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のCdZnTeを用いた放射線検出素子は、他の材料を用いた素子よりは高性能とはいえ、電荷収集効率が依然として低かった。すなわち、移動する間にトラップされてしまうキャリアの割合が高く、エネルギー分解能が充分ではなかった。
また、従来のCdZnTeを用いた放射線検出素子は、CdTeを用いたものより少ないとはいえ、高電圧印加時の漏れ電流が依然として大きかった。このため、漏れ電流を減らすために素子の構造を、例えば一方の主面の電極を白金(Pt)で形成し、他方の主面の電極をインジウム(In)で形成したショットキー型とする必要があった。しかし、ショットキー型の放射線検出素子は、使用中にポラリゼーションと呼ばれる時間経過と共にエネルギー分解能が低下する現象を発生させてしまう虞がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、高いエネルギー分解能を維持する放射線検出素子を製造可能な放射線検出素子用化合物半導体結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、0.2重量ppm以上2.6重量ppm以下のインジウムを不純物として含むテルル化亜鉛カドミウムからなり、電子の移動度μと電子の寿命τとの積μτ(e)が7.85E−04cm
2/V以上であり
、100Vの電圧を印加したときの抵抗率が1.2E+11Ωcm以上であ
り、バイアス電圧印加開始時のリーク電流値aに対する、バイアス電圧印加開始から60秒経過後のリーク電流の変化量bの比b/aが56%以下であることを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の放射線検出素子用化合物半導体結晶において、組成がCd
1−XZn
XTeで表され、Xの値が0.02以上0.10以下であることを特徴としている。
【0010】
請求項
3に記載の発明は、請求項
1または2に記載の放射線検出素子用化合物半導体結晶において、250Vの電圧を印加したときのエネルギー分解能が6.3%以下であることを特徴としている。
【0011】
請求項
4に記載の発明は、放射線検出素子において、請求項1
から3の何れか一項に記載の放射線検出素子用化合物半導体結晶で形成された基板と、前記基板表面に形成された金属電極と、を備えたことを特徴としている。
【0012】
請求項
5に記載の発明は、放射線検出器において、請求項
4に記載の放射線検出素子を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の放射線検出素子用化合物半導体結晶は、電子の移動度μと電子の寿命τとの積μτ(e)が7.85E−04cm
2/V以上と従来に比べ高いので、この結晶を用いて放射線検出素子を製造すれば、電荷収集効率が高まり、受けた放射線をより正確に電気信号に変換することができる。また、本発明の放射線検出素子用化合物半導体結晶は、抵抗率が高いので電圧を印加した際の漏れ電流が少なく、放射線検出素子をショットキー構造にすることなく高い電圧を印加することができる。
従って、本発明の放射線検出素子用化合物半導体結晶によれば、エネルギー分解能の高い放射線検出素子を製造することができる。
【0018】
また、本発明の放射線検出素子用化合物半導体結晶の製造方法によれば、第2熱処理温度を200℃以上420℃以下とすることにより、キャリアのμτ積が7.85E−04cm
2/V以上の、放射線検出素子の素材として有用な化合物半導体結晶を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
〔放射線検出器の構成〕
まず、本実施形態の放射線検出器の概略構成について説明する。
図1に示すように、本実施形態の放射線検出器1は、放射線検出素子2、コンデンサ3、増幅器4、マルチチャンネルアナライザ(MCA)5等で構成されている。放射線検出素子2は、その一方の電極(共通電極7)がグランドに接続(接地)され、他方の電極(ピクセル電極8)が負電位に接続されることにより所定のバイアス電圧が印加されている。また、他方の電極は、コンデンサ3、増幅器4を介してMCA5に接続されている。
【0022】
放射線検出素子2の基板6は、II−VI族化合物半導体であるテルル化亜鉛カドミウム(CdZnTe(CdTe中のCdの一部をZnで置き換えたもの))の結晶で形成されている。このCdZnTeが放射線(硬X線やγ線)を受けると電子を放出し、この電子がバイアス電圧により電離電流となる。本実施形態の放射線検出器1は、放射線検出素子2の電離電流をコンデンサ3、増幅器4を経てパルス信号に変換する。そして、パルス信号をMCA5が解析することにより、放射線のスペクトルが得られる。
【0023】
〔放射線検出素子の構成〕
次に、上記放射線検出素子2の具体的構成について説明する。
図2に示すように、本実施形態の放射線検出素子2は、基板6、共通電極7、ピクセル電極8等で構成されている。
基板6は、薄い板状に形成されており、共通電極7およびピクセル電極8が形成される主面は、(111)面となっている。結晶方位[111]は、CdZnTeにおける極性軸であるため、基板6の表面のうち一方の主面(以下A面)6a側の表面組成はCdの割合が高く、他方の主面(以下B面)6b側の表面組成はTeの割合が高くなっている。
【0024】
共通電極7は、基板6のB面6b全体を覆うように形成されている。ピクセル電極8は、基板6のA面6aに複数設けられるとともに、マトリクス状(図では縦横4列)に配列されている。共通電極7およびピクセル電極8は共に白金(Pt)で薄膜状に形成されている。すなわち、基板6と共通電極1、基板6とピクセル電極8は共にオーミック接触している。以下、共通電極7とピクセル電極8を区別しない場合は、両電極を合わせてPt電極7,8と称する。
また、
図3に示すように、基板6の表層(ここではA面側)であって、その表面にPt電極7,8(ここではピクセル電極8)の形成された部位、すなわち、基板のバルク結晶61とPt電極7,8との間には、主にTeの酸化物とPtからなる中間層62が形成されている。
【0025】
〔電気炉の構成〕
次に、上記化合物半導体結晶を製造するための電気炉の構成について説明する。
図4に示すように、本実施形態の基板6の材料として用いられている化合物半導体結晶を製造する電気炉9は、本体91、ヒーター92a〜92i、石英アンプル93等で構成されている。
本体91は、円筒状の本体上部91aと本体上部91aよりも幅の狭い円筒状の本体下部91bからなり、本体上部91aの内部空間と本体下部91bの内部空間は連通している。
ヒーター92a〜92iは、本体91の内壁に配置されている。第1〜第6ヒーター92a〜92fは本体上部91aの内壁に配置され、第7〜第9ヒーター92g〜92iは本体下部91bの内壁に環状に設けられている。各ヒーター92a〜92iはそれぞれ独立して加熱温度を設定可能となっている。
石英アンプル93は、円筒状のるつぼ収納部93aとるつぼ収納部93aの下部から下方に向かって延びる管状のリザーバ部93bからなる。石英アンプル93は、本体91内に配置され、リザーバ部93bが本体下部91b内に挿入される。そして、るつぼ収納部93aが第1〜第5ヒーター92a〜92eに囲まれ、リザーバ部93bが第6〜第9ヒーター92f〜92iに囲まれている。
【0026】
〔化合物半導体結晶の製造方法〕
次に、上記化合物半導体結晶の製造方法について説明する。
本実施形態の基板6の材料として用いられている化合物半導体結晶であるCdZnTeの単結晶インゴットは、結晶成長工程、第1,第2熱処理工程を経て製造される。
まず、結晶成長工程では、CdZnTeの融液から単結晶を成長させる。ここでは垂直温度勾配凝固(VGF)法により行う。具体的には、まず、るつぼに原料(Cd,Te,Zn,In)を入れる。このとき、原料全体におけるZnの含有率が1〜5at%、すなわち、製造される単結晶インゴットの組成がCd
1−XZn
XTe(X=0.02〜0.1)となるように、また、Inの濃度が0.2〜2.6wtppmとなるように、それぞれの量を調節しておく。そして、石英アンプル93のリザーバ部93bにCdを入れ、原料の入ったるつぼを石英アンプル93内に載置する。そして、石英アンプルを真空封止し、ヒーター91a〜91iにより石英アンプル93を加熱して、るつぼに入った原料を融解させるとともにリザーバ部93aのCdを揮発させる。このとき、第7,第8ヒーター92g,92hの温度を調節することによりCdの蒸気圧を加減する。
【0027】
るつぼの原料が融解したら、第1〜第6ヒーター92a〜92fの温度を、第6ヒーター92fから上方のヒーターに向かうほど低くなるように調節し、融液の上端から下端にかけて温度勾配が生じるようにすることにより、最も温度が低くなる融液の表層部にCdZnTeの単結晶を成長させる。そして、温度勾配をつけたまま全てのヒーターの加熱温度を徐々に下げていくことにより単結晶を下方に向かって所定の長さまで成長させていく。
【0028】
結晶成長工程の終了後は、第1熱処理工程に移る。第1熱処理工程では、まず、成長したCdZnTe単結晶を石英アンプル内に保持したまま、各ヒーター92a〜92iの温度を調整することにより、炉内温度を上記単結晶の成長終了時の温度から920〜970℃(第1熱処理温度:好ましくは930〜960℃、より好ましくは940〜950℃)に低下させる。そして、その状態でCdZnTe単結晶を15〜25時間(第1熱処理時間:好ましくは18〜23時間、より好ましくは19〜21時間)熱処理(アニール)する。
【0029】
第1熱処理工程の終了後は、第2熱処理工程に移る。第2熱処理工程では、炉内温度を第1熱処理温度から200〜420℃(第2熱処理温度:好ましくは220〜380℃、より好ましくは250〜350℃)に低下させる。そして、その状態でCdZnTe単結晶を24〜120時間(第2熱処理時間:好ましくは36〜100時間、より好ましくは48〜96時間)熱処理する。
以上の各工程を経ることにより、本実施形態の基板6を形成する化合物半導体結晶が製造される。
【0030】
〔放射線検出素子の製造方法〕
次に、上記放射線検出素子の製造方法について説明する。
本実施形態の放射線検出素子2は、基板製造工程、電極形成工程、ダイシング工程を経て製造される。
はじめに行われる基板製造工程は、切断工程、研磨工程からなる。
切断工程では、CdZnTeの単結晶インゴットを結晶面(111)に沿って切断することにより薄い円盤状のウエハー(基板6)を切り出す。
切断工程の後は、研磨工程に移る。研磨工程では、切り出したウエハーの切断面をアルミナ粉末等の研磨剤を用いて物理的に鏡面研磨する。研磨工程は複数回繰り返してもよい。
【0031】
基板製造工程の後は電極形成工程に移る。電極形成工程は、電極パターン形成工程、めっき工程からなる。
電極パターン形成工程では、まず、基板製造工程で製造されたウエハーをメタノールに浸漬し、室温で30秒間超音波洗浄することにより、ウエハーに付着した異物を除去する。そして、ウエハーの表面にフォトレジストを塗布し、ピクセル電極パターンが描かれたフォトマスクを用いてフォトレジストを露光する。そして、現像することにより感光したフォトレジストを除去する。そして、ウエハーを1容量%の臭素を混合したメタノール(ブロメタ液)に浸漬し、室温で3分間ウエハーの研磨面をエッチングして基板6の表面から加工変質層を除去する。そして、メタノールを用いてウエハーからブロメタ液を除去し、純水を用いてウエハーからメタノールを除去して電極パターン形成工程を終了する。
【0032】
電極パターン形成工程の後はめっき工程に移る。めっき工程では、ウエハーを塩化白金酸(IV)六水和物水溶液に塩酸を混合しためっき液に浸漬することで、ウエハーの研磨面6a,6bのうちフォトレジストの除去された箇所にPtを析出させPt層を形成する。このPt層が所定の膜厚まで成長したものがPt電極7,8となる。Pt電極7,8が形成された後は、不要になったフォトレジストを除去し、純水を用いてウエハーを洗浄する。そして、ウエハーおよびPt電極7,8に窒素ガスを噴きつけることによりウエハーおよびPt電極7,8を乾燥させて電極形成工程を終了する。
【0033】
電極形成工程の後はダイシング工程に移る。ダイシング工程では、研磨面6a,6bにPt電極7,8が形成されたウエハーを切断して複数の基板6に分割するとともに、個々の放射線検出素子2をウエハーから切り出す。
以上の各工程を経ることにより、CdZnTe結晶で形成された基板6の表面にTeの酸化物を含む中間層62を介してPt電極7,8が形成されてなる放射線検出素子2が製造される。
【0034】
次に、上記放射線検出素子における製造の具体例と特性について説明する。
説明に先立ち、Znの割合や、Inの濃度、熱処理温度、熱処理時間がそれぞれ異なる3つの放射線検出素子のサンプル(実施例1〜3)を製造し、各サンプルの特性(I−V特性、放射線検出特性、μτ積、I−t特性)を調べた。
【0035】
<実施例1>
ここで、各サンプルの具体的な製造方法について説明する。
まず、1.75at%のZnを含有するCdZnTeの融液から、0.3重量ppmのInを不純物として含むCdZnTeの単結晶インゴット(組成式Cd
0.965Zn
0.035Te)を成長させた。そして、成長したCdZnTe単結晶を石英アンプル内に保持したまま、炉内温度を1110℃から940℃に降温して第1熱処理工程の熱処理を20時間行った。その後、炉内温度を380℃に降温して第2熱処理工程の熱処理を24時間行なった。熱処理中のアンプル内のCd蒸気圧は第1、第2熱処理工程共に1.3atmとなるようにリザーバ温度を調整した。そして、熱処理した単結晶インゴットから切り出した基板にPt電極を形成し、寸法が4mm×4mm×1.4mmtとなるようダイシングして、実施例1のサンプルを製造した。
【0036】
<実施例2>
また、2.5at%のZnを含有するCdZnTeの融液から成長させた2.0重量ppmのInを不純物として含むCdZnTeの単結晶インゴット(組成式Cd
0.95Zn
0.05Te)を成長させた。そして、成長したCdZnTe単結晶を石英アンプル内に保持したまま、炉内温度を1113℃から950℃に降温して第1熱処理工程の熱処理を20時間行った。その後、炉内温度を250℃に降温して第2熱処理工程の熱処理を96時間行なった。熱処理中のアンプル内のCd蒸気圧は1.3atmとなるようにリザーバ温度を調整した。そして、実施例1と同様に、基板の切り出し、Pt電極の形成、ダイシングを行って、実施例2のサンプルを作成した。
【0037】
<実施例3>
さらに、2.5at%のZnを含有するCdZnTeの融液から成長させた2.0重量ppmのInを不純物として含むCdZnTeの単結晶インゴット(組成式Cd
0.95Zn
0.05Te)を成長させた。そして、成長したCdZnTe単結晶を石英アンプル内に保持したまま、炉内温度を1115℃から960℃に降温して第1熱処理工程の熱処理を20時間行った。その後、炉内温度を230℃に降温して第2熱処理工程の熱処理を48時間行なった。第1,第2該熱処理工程実施中のアンプル内のCd蒸気圧は1.3atmとなるようにリザーバ温度を調整した。そして、実施例1,2と同様に、基板の切り出し、Pt電極の形成、ダイシングを行って、実施例3のサンプルを作成した。
【0038】
〔抵抗率〕
次に、上記のようにして製造した各サンプルの特性について説明する。
まず、各サンプルのI−V特性を調べた。具体的にはサンプル毎に電源および電流計を接続した回路をそれぞれ構成し
、各サンプルに0〜1000Vの電圧を印加したときの漏れ電流を計測した。
図5は実施例1の結果を示したものである。そして、プロットした各点を結んで曲線を描き、100Vにおける接線の傾き(抵抗率)を求めた。その結果、実施例1では1.2E+11Ω・cm、実施例2では3.1E+11Ω・cm、実施例3では5.5E+11Ω・cm、という数値がそれぞれ得られた。これらの数値は、実施例1〜3のサンプルが、バイアス電圧を印加した際の漏れ電流を少なくできることを示している。漏れ電流が少なければその分だけバイアス電圧を高めることができるので、放射線検出器のエネルギー分解能を高めることができるということになる。
【0039】
〔半値幅〕
次に、各サンプルの放射線検出特性を調べた。具体的には、サンプル毎に
図1に示したような放射線検出器を構成し、各放射線検出器を用いて250Vのバイアス電圧を印加したときのコバルト(Co−57)の放射線スペクトルを計測した。
図6は実施例1の結果を示したものである。そして、このスペクトルからピークの半値幅Hを計測した。その結果、実施例1では5.5%、実施例2では4.6%、実施例3では6.3%、という数値がそれぞれ得られた。これらの数値は、実施例1〜3のサンプルが高いエネルギー分解能を有することを示している。
【0040】
〔μτ積〕
次に、各サンプルのμτ積を調べた。具体的には、各サンプルを用いて構成した放射線検出器を用いて2段階の異なるバイアス電圧(100V,200V)を印加したときのコバルト(Co−57)の放射線スペクトルを計測した。
図7は実施例1の結果を示したものである。そして、各スペクトルのピーク位置を測定し、所定の計算式を用いて電子のμτ積を求めた。その結果、実施例1では1.16E−03cm
2/V、実施例2では2.40E−03cm
2/V、実施例3では7.85E−04cm
2/V、という数値がそれぞれ得られた。これらの数値は、実施例1〜3のサンプルがキャリアを電極で捕集しやすく、高いエネルギー分解能を有することを示している。
【0041】
〔安定性〕
次に、各サンプルのI−t特性を調べた。具体的には、各サンプルに所定のバイアス電圧を印加し続け、時間経過に伴う電流値の推移を計測した。
図8は実施例1の結果を示したものである。そして、バイアス電圧印加開始から所定時間
(ここでは60秒間)
経過後の電流の低下量(b)を測定し、
バイアス電圧印加開始時の電流値aとの比(b/a:安定性)を求めた。その結果、実施例1では56%、実施例2では−4%、実施例3では5%、という数値がそれぞれ得られた。これらの数値は、実施例1〜3のサンプルが時間経過に伴うエネルギー分解能の低下を起こしにくいことを示している。
【0042】
実施例のサンプルにおいて上記のような優れた特性が得られたのは、材料となるインゴットを熱処理する際の条件を最適化(温度を200℃〜420℃、時間を24時間から96時間に限定)したことにより、結晶内の不純物であるInが活性化されて、結晶の格子サイトを占有するInの割合が従来よりも増加したためと思われる。
【0043】
このように、本実施形態の放射線検出素子用化合物半導体結晶は、電子の移動度μと電子の寿命τとの積μτ(e)が7.85E−04cm
2/V以上と従来に比べ高いので、この結晶を用いて放射線検出素子を製造すれば、電荷収集効率が高まり、受けた放射線をより正確に電気信号に変換することができる。また、本発明の放射線検出素子用化合物半導体結晶は、抵抗率が高いので電圧を印加した際の漏れ電流が少なく、放射線検出素子をショットキー構造にすることなく高い電圧を印加することができる。
従って、本発明の放射線検出素子用化合物半導体結晶によれば、エネルギー分解能の高い放射線検出素子を製造することができる。
【0044】
また、本実施形態の放射線検出素子用化合物半導体結晶の製造方法によれば、第2熱処理温度を200℃以上420℃以下とすることにより、電子のμτ積が7,85E−04cm
2/V以上の、放射線検出素子の素材として有用な化合物半導体結晶を製造することができる。
【0045】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、本実施形態では、VGF法で結晶を成長させたが、単結晶を成長させることが可能であれば、THM法、ブリッジマン法その他の方法であってもよい。また、本実施形態ではインゴットの状態で熱処理を行ったが、インゴットをウエハーにスライスしてから行ってもよい。
【0046】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。