(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953153
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/42 20060101AFI20160707BHJP
G01N 27/62 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
H01J49/42
G01N27/62 E
【請求項の数】15
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-164301(P2012-164301)
(22)【出願日】2012年7月25日
(65)【公開番号】特開2014-26751(P2014-26751A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】皆田 晋介
(72)【発明者】
【氏名】安田 博幸
【審査官】
遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−526027(JP,A)
【文献】
特開2009−266445(JP,A)
【文献】
特開2010−092630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/40−49/48
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧と高周波電圧が印加され特定のプリカーサイオンを選別する第1の質量分析部と、前記プリカーサイオンを解離させるための電極を有する衝突室と、前記プリカーサイオンの解離により生成された複数のプロダクトイオンから所望のイオンのみを選別する第2の質量分析部と、第2の質量分析部で選別されたプロダクトイオンを検出する検出部と、を有する質量分析装置において、
第1の測定対象イオンから第2の測定対象イオンへと切り替えるタイミングであって前記第2の測定対象のイオンに対して所定の電圧を印加する前に、Mathieu線図不安定化領域より算出した不安定化電圧を印加することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の質量分析部、前記衝突室、前記第2の質量分析部はそれぞれ4本のポール状の電極備えていることを特徴とする質量分析装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記衝突室内電極に印加される高周波電圧を前記プロダクトイオンのCutoff電圧値以上とすることを特徴とする質量分析装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記衝突室内電極に印加される直流電圧を、前記プロダクトイオンの不安定化電圧とすることを特徴とする質量分析装置。
【請求項5】
請求項2において、
前記第1の質量分析部に印加される高周波電圧を、プリカーサイオンの不安定化電圧値とすることを特徴とする質量分析装置。
【請求項6】
請求項2において、
第1の質量分析部に印加される直流電圧を、プリカーサイオンの不安定化電圧値以上とすることで、衝突室内への前記プリカーサイオンの混入を防止することを特徴とする質量分析装置。
【請求項7】
請求項3において、
前記衝突室内電極後段にさらに別電極を配置し、該別電極に不安定化電圧を印加することを特徴とする質量分析装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記別電極は、4本のポール状電極であることを特徴とする質量分析装置。
【請求項9】
請求項3において、
第2の質量分析部の前段に別電極を配置し、該別電極に不安定化電圧を印加することを特徴とする質量分析装置。
【請求項10】
請求項9において
前記別電極は、4本のポール状電極であることを特徴とする質量分析装置。
【請求項11】
請求項5において、
第1の質量分析部の後段に別電極を配置し、該別電極に不安定化電圧を印加することを特徴とする質量分析装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記別電極は、4本のポール状電極であることを特徴とする質量分析装置。
【請求項13】
請求項5において、
第2の質量分析部の前段に別電極を配置し、該別電極に不安定化電圧を印加することを特徴とする質量分析装置。
【請求項14】
請求項13において、
前記別電極は、4本のポール状電極であることを特徴とする質量分析装置。
【請求項15】
請求項3において、
前記高周波電圧は、プロダクトイオンのCutoff電圧の1.3倍以上であり、2.0倍未満とすることを特徴とする質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料分離手段と質量分析手段とを備えた質量分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置は、試料分子をイオン化し、生成したイオンを電場または磁場により質量電荷比に分離し、その量を検出器にて計測する機器である。そして検出された質量スペクトルから化合物を分析する方法である。
【0003】
質量分析の測定の一つに、MS/MS分析という手法が知られている。これは、特定のイオンを選択し、選択されたイオンをガスとの衝突等によってフラグメント化し、フラグメント化されたイオンから再度特定のイオンを選択することでバックグラウンドの少ないデータを得る方法である。MS/MS型質量分析装置として、質量分離部に四重極電場を生成し、この電場内でイオンを振動運動させることによりイオンを検出する3連四重極型と呼ばれる装置がある。
【0004】
この3連四重極質量分析装置を
図1に示す。3連四重極質量分析装置は、試料導入部1、イオン源部2、質量分離部3、検出器4で構成され、液体クロマトグラフ(LC)やガスクロマトグラフ(GC)等から試料導入部1に測定試料を導入し、測定試料をイオン源部2にてイオン化する。質量分離部3は、それぞれ4本の相対する円柱(ポール)状電極から成る3段の四重極電極で構成される。一段目四重極電極(Q1)11、三段目四重極電極(Q3)13はイオンを選択するマスフィルタとして機能し、二段目四重極電極(Q2)12は衝突室5(コリジョンセル)内に配置される。そして、検出器4にてイオン量に応じた検出信号を出力する。
【0005】
使用者は、入力部101より測定条件を設定し、測定対象イオンを設定する。測定対象イオンは制御部102にて設定電圧に変換され、高周波電圧/直流電圧発生部103を制御して各電極に直流電圧Uと高周波電圧Vを印加する。検出部4にて測定された検出信号は制御部102に送られ、入力部101に測定結果が表示される。
【0006】
一段目四重極電極(Q1) 11には、直流電圧と高周波電圧が印加される。発生する電場の作用により、イオン源2で生成された各種イオンの中で測定対象とする特定の質量電荷比を有するイオンのみプリカーサイオン(Precursor ion)として通過する。
【0007】
二段目四重極電極(Q2) 12は衝突誘起解離(CID:Collision-induced dissociation)を起こすことを目的とし、コリジョンセル5内に収納されており、前記コリジョンセル5内には例えば窒素(N2)等のCIDガス6が導入されている。通常、二段目四重極電極 (Q2) 12では、一般的に高周波電圧のみが印加され、イオンの解離に必要なエネルギーをイオンに与える。二段目四重極電極(Q2)12に入射したプリカーサイオンは、CIDガス6との衝突によりプロダクトイオン(Production ion)となる。プリカーサイオンから質量電荷比の異なる複数種のプロダクトイオンが生成され、三段目四重極電極 (Q3) 13へ導入される。
【0008】
三段目四重極電極 (Q3) 13には一段目四重極電極 (Q1) 11と同様に、直流電圧と高周波電圧が印加され、発生する電場の作用により、コリジョンセル5で生成された各種イオンの中で測定対象とする特定の質量電荷比を有するプロダクトイオンのみが検出器に到達する。
【0009】
上記電極に印加する電圧について説明する。四重極型質量分析装置は一段目四重極電極(Q1)11、三段目四重極電極(Q3)13の相対するポール状電極にそれぞれ、(1)式を印加することで、入射イオンの内、特定のイオンのみが通過出来、検出器4へ到達することが可能となる。
【0010】
【数1】
【0011】
四重極質量分析装置は、特定のイオンに対する±(直流+高周波電圧)の値を、
図2に示すマシュー(Mathieu)線図の安定領域をもとに定めることが出来る(特許文献1)。
図2の縦軸aと横軸qはそれぞれ(2)(3)式より求められる。
【0012】
【数2】
【0013】
【数3】
ただし、mはイオンの質量、eはイオンの電荷量、r0は四重極電極の内半径、(4)は高周波電圧の角周波数である。
【0014】
【数4】
【0015】
次に、複雑な試料中に含まれる特定成分を特異的に定量する方法としてMRM(Multiple Reaction Monitoring)と呼ばれる手法がある。
【0016】
一段目四重極電極(Q1)11を目的のプリカーサイオンの質量電荷比に固定し、さらに二段目四重極電極(Q2)12にてCID反応を行い、CIDにより得られる特徴的なプロダクトイオンを三段目四重極電極(Q3)13で質量固定して測定を行う方法である。CID反応後のイオンを選択するため、MS導入前の試料前処理の簡素化を図ることが可能となる。MRMはSIM(Selected Ion
Monitoring)に比べ、絶対的な感度は低下するが、選択性が飛躍的に向上し、夾雑イオンなどのノイズが非常に小さくすることが可能なため、SIMよりも高感度な測定が可能となる。
【0017】
MRM測定では、予めユーザが設定した測定項目に基づき、測定対象とするプリカーサイオンとプロダクトイオン毎に順次測定が実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平8-77963号公報
【特許文献2】特開平7-201304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、MRM測定において、コリジョンセル内に現在測定対象とするプリカーサイオンから生成されたプロダクトイオンが残留した状態で、次測定対象とするプリカーサイオンがコリジョンセル内に導入され、現測定と次測定のプロダクトイオンが混在する場合がある。
【0020】
これが、MS/MS分析においてクロストークと呼ばれる現象であり、クロストークがあると目的成分の定量性が悪化する。
【0021】
このクロストークを防止するため、コリジョンセル内のイオンが全て排出される迄測定を実施しない休止期間を設ける方法や、コリジョンセル内の電圧を、例えば0Vのような測定対象外電圧に変化させる等の方法でコリジョンセル内のイオンを強制的に排出するといった方法がある。しかし、測定休止期間を設けた場合、休止期間は測定において無駄な時間であり、測定のスループットを低下させることになる。また、休止期間が短い場合、次にデータの収集を行う検出期間の開始時点において検出器に入射するイオン量が未だ十分には回復していない場合があり、このような状況になると、検出期間の初期に測定感度が低下することになる。また、例えば0Vのような測定対象外電圧に変化させた場合、0V変化後、次の測定対象イオンに対応した電圧を印加した場合、特に高周波電圧は、オーバーシュート(アンダーシュート)やリンギングを発生し、電圧変化後の電圧が安定する迄の待ち時間(セトリング時間)が必要となり、セトリング時間の経過後にその印加電圧に対するイオンの検出を行うことになる。したがって、セトリング時間が長い程、測定の時間間隔が大きくなり、時間分解能が低下することになり、スループットは低下する。
【0022】
特許文献2に記載の質量分析装置では、プリカーサイオンの質量電荷比を切り替える休止期間中に、コリジョンセルの入口側や出口側のレンズ電極にパルス電圧を印加し、これによりコリジョンセル内に一時的に形成される電場の作用でイオンをレンズ電極に誘引して衝突させるようにしている。
【0023】
ただし、コリジョンセル内に多量のイオンが残留している状態でレンズ電極にイオン除去用のパルス電圧を印加すると、レンズ電極に衝突するイオン量が多く、レンズ電極が汚染される。また、構造が複雑になり、装置価格の増大や制御対象の増加により、制御が複雑化することになる。
【0024】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、MRM測定を行う際、スループットを低下させることなく、測定試料切替時のコリジョンセル内に残存するイオンにより発生するクロストークの影響を除去するための質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の質量分析装置は、測定対象のイオンに対して所定の電圧を印加する前に、Mathieu線図不安定化領域より算出した不安定化電圧を印加する。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、コリジョンセルで発生するクロストークの影響を除去し、かつセトリング時間の短縮が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】3連四重極型質量分析装置の全体構成図である。
【
図3】本装置のユーザ設定項目の読み込みフローチャートである。
【
図4】本発明のExhaust Voltageの設定フローチャートである。
【
図5】本発明の比較例であり、0Vに変化させた場合のクロストーク除去法説明図である。
【
図6】Exhaust Voltageを使用した場合のクロストーク除去法説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0029】
図3に示すように、予め装置使用者は測定を行う際にグラフィックユーザインターフェース(GUI)より、各測定条件を決定するファイルを作成する。測定条件の設定内容としては、測定スケジュール、装置条件の設定、チャンネル数の設定、チャンネル条件項目の設定、スキャンモード条件の決定、キャリブレーションファイル指定等である。
【0030】
設定項目が多岐に及ぶことから、ファイル構造を以下の4種類に分割する。Sample Table File(301)、Data Acquisition File(302)、Method File(303)、Calibration File(304)の4種類のファイルである。
【0031】
Sample Table File(301)は測定対象イオンをリスト化したファイルであり、一段目四重極電極(Q1)11、三段目四重極電極(Q3)13のMSフィルタにおいて実施する質量分離のリストである。すなわち、Sample Table File(301)は測定スケジュールを決定するファイルであり、複数のサンプルの連続測定に対応するために、測定シーケンスの設定を行うファイルである。
【0032】
Sample Table File(301)の各サンプルの測定条件を指定するファイルがData Acquisition File(302)である。
【0033】
Data Acquisition File(302)内には各チャンネルの条件ファイルとしてMethod File(303)と各チャンネルの質量補正を行うCalibration File(304)が存在する。各チャンネル内で指定するスキャンモードの内容及び極性内容をCalibration File(304)が参照し、一段目四重極電極(Q1)11及び三段目四重極電極(Q3)13に最適なキャリブレーション内容を使用する。
【0034】
以上の各ファイルより、全電極に印加する電圧のスケジュールファイル(Voltage Schedule File(305))が作成される。3連四重極質量分析装置は、このVoltage Schedule File(305)を読み込み、各電極に電圧を随時印加する。
【0035】
次に、測定対象イオンを切り替える際に、第一の測定対象イオン電圧と第二の測定対象イオンの間に挿入され、コリジョンセル内からプロダクトイオンを排出するExhaust Voltage(Ve)について説明する。
【0036】
一般的に、3連四重極質量分析装置において三段目四重極電極(Q3)13に印加される直流電圧及び高周波電圧から直流電圧を除去した高周波電圧のみが二段目四重極電極(Q2)12に印加される。これは、二段目四重極電極(Q2)12と三段目四重極電極(Q3)13間の電圧の振幅ズレがなくなること、Q2内のイオン捕捉ポテンシャルが最適化出来ること、また必要とされる電源数を減らすことが出来るからである。測定はマシュー線図の頂点付近に該当するように実施するため、前記マシュー線図よりq=0.706の高周波電圧が二段目四重極電極12(Q2)に印加される。高周波電圧は、q=0.908を超えると直流電圧aの値に関わらずイオンは通過することが出来なくなる。この通過出来なくなる高周波電圧は、Cutoff電圧と呼ばれる。
【0037】
本質量分析システムは
図4に示すように、予め使用者が設定した各ファイルより測定情報を読出し、第一の測定対象イオンと第二の測定対象イオンの間に、このExhaust VoltageをVoltage Schedule File(305)に自動的に挿入する。
【0038】
ステップS401で、本質量分析システムは第一の測定対象イオン(M1)を読み出す。次に、ステップS402で第一の測定対象イオンに対応する電圧(V1)を装置設定値より算出し、Voltage Schedule File(305)に記載する(ステップS403)。
【0039】
次にステップS404として、第二の測定対象イオン(M2)を読み出し、ステップS405で、第二の測定対象イオンに対応する電圧(V2)を装置設定値より算出する。そして、ステップS406で第二の測定対象イオンの不安定化電圧(Ve2)を算出し、ステップS407でVoltage Schedule File(305)に記載する。ステップS408で、ステップS405で算出した測定電圧をVoltage Schedule File(305)に記載する。以降の測定対象イオンが設定されている場合、ステップ404からステップS408の動作を順次繰り返し、同様にVoltage Schedule File(305)に記載する。
【0040】
図5、
図6記載の電圧は二段目四重極電極(Q2)12に印加される電圧の時間変化である。MRM測定において、一段目四重極電極(Q1)11にて第一の測定対象イオン(M1’)から第二の測定対象イオン(M2’)に設定を切り替え、三段目四重極電極13(Q3)における質量分離対象イオンをM1に固定した場合、二段目四重極電極12(Q2)には、M1に該当する電圧値V1が印加される。
【0041】
時間t1迄、第一の測定対象イオン(M1’)から生成されるプロダクトイオンM1を測定し、時間t2から第二の測定対象イオン(M2’)より生成される同プロダクトイオンM1を測定する。
【0042】
図5は、本発明の比較例であり、クロストーク除去のため二段目四重極電極に0Vを印加し、コリジョンセル(衝突室)内に残留するイオンを排出した場合である。二段目四重極電極印加電圧は0Vに変動し、その後再度測定対象とするプロダクトイオンの電圧値V1へ変化させる。この時、電圧変動はΔV1であり、その電圧変動幅に比例したオーバーシュート及びリンギングが発生する。この時のセトリング時間をts1とする。
【0043】
図6は、クロストーク除去のため、二段目四重極電極(Q2)12にExhaust Voltageを印加した場合である。Exhaust Voltageは
図2のマシュー線図の測定対象電圧V1の約1.3倍(=0.908/0.706)であり、電圧変動はΔV2になる。
【0044】
ΔV2はΔV1の約0.3倍であることから、電圧変動幅が0Vに変化させた場合(
図5に示す比較例)に比べ、相対的に小さくなる。一般的に、電圧を変動させた場合、変動電圧幅(ΔV)が小さくなるほど、オーバーシュート(アンダーシュート)及びリンギングは小さくなるため、セトリング時間を短縮出来る。すなわち、セトリング時間は、ts1>ts2となることから、Exhaust Voltageを用いてクロストークを除去した場合の方が、0Vに変動させた場合よりもスループットを向上できる。
【0045】
また、三段目四重極電極(Q3)13における質量分離対象イオン(プロダクトイオン)をM1からM2に変更した場合も同様に、プロダクトイオン(M2)のCutoff電圧値以上を印加することで影響を除去することが出来る。
【0046】
Exhaust VoltageはCutoff電圧値以上であれば、コリジョンセル内から残留イオンを除去することが可能であるが、2.0倍を超えた場合、0Vへ変化させた場合と電圧変動が同等となるため、Exhaust Voltageは1.3倍以上かつ2.0倍未満とした方が良い。
【0047】
Exhaust Voltageは、自動的にVoltage Schedule File(305)に記載されるが、使用者から直接確認出来るようにしても良く、セトリング時間の最適化を目的に、使用者が設定値を変更しても良い。
【実施例2】
【0048】
実施例1において、二段目四重極電極(Q2) 12に印加する電圧を高周波電圧としたが、直流電圧も併せて印加可能な構造とした場合、マシュー線図の不安定化領域にすることで、同様にプロダクトイオンを排除することが出来る。
【0049】
共振回路等を用いて高周波電圧を発生させた場合、一般的に高周波電圧を変動させる場合の方が直流電圧を変動させる場合よりもセトリング時間が長くなる。また、高周波電圧を上昇させることが技術的に困難な場合もある。このような場合、直流電圧によるa値を変化させる方が容易であり、セトリング時間を短縮出来る。
【0050】
前記マシュー線図より、高周波電圧の値をq=0.706で一定とした場合、直流電圧の値aを0.237以上とすることで、コリジョンセル(衝突室)内から残留イオンを排除することが可能である。
【0051】
これは、高周波電圧と組み合わせて変化させても良く、セトリング時間短縮の最適化のために、印加される直流電圧と高周波電圧をマシュー線図不安定領域に変化させれば良い。
【実施例3】
【0052】
実施例2に示す二段目四重極電極(Q2) 12に直流電圧と高周波電圧を印加した場合と同様に、一段目四重極電極(Q1) 11の直流電圧と高周波電圧を不安定領域に変動させることで、一段目四重極電極(Q1) 11を通過してコリジョンセル(衝突室)に導入されるプリカーサイオンが排除されるため、クロストークの影響を低減することが出来る。
【0053】
これは、二段目四重極電極(Q2) 12に導入されるプリカーサイオンがなくなることで、プロダクトイオンが生成出来なくなり、クロストークの影響を除去することが可能となる。
【0054】
実施例1、2と同様に、直流電圧、高周波電圧単体でも良く、組み合わせてマシュー線図不安定領域に変動させても良い。
【実施例4】
【0055】
実施例1に示したコリジョンセル内のイオンを排出する方法として、二段目四重極電極(Q2) 12後段に例えば四重極電極のような別電極を配置しても良い。また、コリジョンセル外の、三段目四重極電極(Q3) 13前段に例えば四重極電極のような別電極を配置して電圧を印加しても良い。
【0056】
また、実施例3に示すコリジョンセルに導入されるプリカーサイオンを排除するために、一段目四重極電極(Q1) 11後段に、例えば四重極電極のような別電極を配置しても良く、二段目四重極電極(Q2) 12前段に、例えば四重極電極のような別電極を配置しても良い。
【0057】
上記、別電極に印加する電圧は、一段目四重極電極(Q1) 11、二段目四重極電極(Q2) 12、三段目四重極電極(Q3) 13とは別個の電源により、不安定化電圧値の電圧を一時的に印加しても良い。
【符号の説明】
【0058】
1 試料導入部
2 イオン源部
3 質量分離部
4 検出部
5 衝突室
6 CIDガス
11 一段目四重極電極(Q1)
12 二段目四重極電極(Q2)
13 三段目四重極電極(Q3)
101 入力部
102 制御部
103 高周波電圧/直流電圧発生部
301 Sample Table File
302 Data Acquisition File
303 Method File
304 Calibration File
305 Voltage Schedule File