(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動分析装置の測定精度は、例えば、試料や試薬の反応容器への分注量(分注精度)や試薬・標準液の均一性・安定性など、複数の性能支配因子の組合せによって決まってくるものである。したがって、測定結果に異常が生じた場合には、異常を生じる原因となる因子(原因因子)を特定し、その因子の状態を改善することにより、測定結果の異常を改善して測定精度の低下を抑制することが必要である。
【0006】
しかしながら、上記従来技術では、測定結果に異常が生じていることは判定できるが、その原因因子の特定については言及されていない。特に、臨床検査用の自動分析装置では、異常が生じた場合に、多数の分析対象試料に対してオペレータが原因因子を迅速に特定し、その状態を改善することは非常に困難であり、この点については改善の余地が残されている。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、測定結果の異常を検出するとともに原因因子を特定することにより、測定精度の低下を抑制することができるデータ処理装置及びそれを用いた自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、複数の測定項目の測定値の時間変化の近似式と近似式を規定するパラメータとを測定項目毎に記憶する近似式記憶部と、前記複数の測定項目の測定精度
に影響を与える
異常の原因となり得るとして予め定めた因子を各測定項目と
それぞれ対応させて記憶する因子記憶部と、前記近似式と前記近似式のパラメータとに基づいて、前記測定項目の測定値の異常の有無を判定する異常判定部と、予め設定した測定対象の順に前記異常判定部の判定結果を参照し、同じ測定項目について複数連続で測定値が異常と判定されている場合に、その測定項目に対応して前記因子記憶部に記憶された因子を
当該測定項目の異常発生の原因の因子である異常因子とし
て判定する因子判定部と、前記因子判定部の判定結果に基づいて、前記異常因子をオペレータに報知する報知部とを備えたものとする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、測定結果の異常を検出するとともに原因因子を特定することにより、測定精度の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態に係るデータ処理装置を備えた自動分析装置の概略構成図であり、
図2は自動分析装置の詳細を分析部とともに示す図である。
【0013】
図1において、自動分析装置は、試料に対する各種処理及び測定を実施する分析部102と、分析部102の各構成や自動分析装置全体の動作の制御や、分析部102からの情報を処理を行う制御部100とを備えている。
【0014】
分析部102は、試料を収容した試料容器16が周方向に並べて配置され回転可能に設けられた円形ディスク17を有する試料ディスク1と、試薬を収容した試薬容器18が周方向に並べて配置され回転可能に設けられた円形ディスク19が保冷庫20内に配置された試薬ディクス3と、試料と試薬とを混合して反応させる反応容器21が周方向に並べて配置され駆動機構23により回転可能に設けられた反応容器ホルダ22が反応槽4内に配置された反応ディスク3と、支承軸28により回動可能に支持されたアーム29の先端部に設けられたプローブ27により、試料容器16に収容された試料を反応容器21に分注する試料分注機構5と、支承軸25により回動可能に支持されたアーム26の先端部に設けられたプローブ24により、試薬容器18に収容された試薬を反応容器21に分注する試薬分注機構6と、攪拌機構コントローラ15により制御される圧電素子ドライバ14からの信号に基づいて反応容器21に収容された試料と試薬の混合液(反応液)を振動により攪拌する攪拌子31を有する攪拌機構7と、反応容器21に収容された反応液の吸光度を測定する測光機構(測定部)8と、上下駆動機構34によって上下方向に駆動可能に設けられたノズル33から吐出される洗浄液により、測定の終了した反応容器21を洗浄する洗浄機構9と、自動分析装置の全体の動作を制御する制御装置100とを概略備えている。
【0015】
図2において、制御装置100は、試料の測定に用いる設定情報の設定画面や測定結果などを表示する表示部10と、測定指示や設定情報などの入力を行う入力部11と、設定情報や測定結果、測定に用いるプログラム等を記憶する記憶部12と、異常判定処理における測定値の異常の有無の判定や、因子判定処理における異常因子の判定を行う因子判定部103と、各種情報を音声や光等によりオペレータに報知する報知部101と、分析部102に接続され、表示部10、入力部11および記憶部12を含む制御装置100と分析部102とを制御することにより、自動分析装置全体の動作を制御する制御部13とを備えている。
【0016】
記憶部12は、設定情報や測定結果、測定に用いるプログラム、分析パラメータ、各試薬容器の分析可能回数、最大分析可能回数、キャリブレーション結果等を記憶する機能の他に、試料に対する複数の測定項目の測定値の時間変化の近似式と近似式を規定するパラメータとを測定項目毎に記憶する機能の近似式記憶部12aと、各測定項目の測定精度に影響を与えるとして予め定めた因子を各測定項目と対応させて記憶する機能の因子記憶部12bとを有している。
【0017】
自動分析装置では、分析装置、分析項目ごとの試薬、試薬を構成するための標準液、および試薬の状態をチェックするために測定する精度管理試料などが必要であり、これらの状態や精度の組み合わせにより最終的な分析性能が決まってくる。分析性能を直接左右する分析装置内部の因子としては、例えば試料サンプリング機構、試薬分注機構、攪拌機構、光学系、反応容器、恒温槽、などが挙げられる。また、自動分析装置内部以外の因子としては試料、試薬、標準液、精度管理試料の液性、成分などが挙げられる。
【0018】
判定部103は、近似式記憶部12aに記憶された近似式と近似式のパラメータとに基づいて、測定項目の測定値の異常の有無を判定する異常判定部103aと、予め設定した測定対象の順に異常判定部の判定結果を参照し、同じ測定項目について複数連続で測定値が異常と判定されている場合に、その測定項目に対応して因子記憶部12bに記憶された因子を異常因子とし判定する因子判定部103bとを有している。
【0019】
以上のように構成した自動分析装置における分析処理では、まず、制御部13によって試料ディスク1の円形ディスク17が回転制御され、分析される試料の順番に従って測定対象試料が収容された試料容器16が試料分注プローブ5による試料分注位置まで搬送され、試料分注プローブ5により試料の分注位置まで搬送された反応容器21に分注される。続いて、円形ディスク19が回転制御され、分析される試料に分注する試薬が収容された試薬容器18が試薬分注プローブ6による試薬分注位置まで搬送され、試薬分注プローブ6により試薬の分注位置まで搬送された反応容器21に分注される。次に、反応容器21は、攪拌機構7に搬送されて攪拌される。その後、試薬分注位置での試薬(その他の試薬)の分注と攪拌とが交互に実施される。
【0020】
反応容器21に試料および試薬が分注され攪拌された混合液(反応液)は、光源からの光束を通過することにより吸光度を測定する測光機構(測定部)8により測定され、測定結果(吸光度)は制御部13を介して記憶部12に記憶される。また、測定結果は、制御部13において対象試料の濃度情報に変換されて記憶部12に記憶されるとともに、測定結果として表示部10に表示される。また、制御部13では、反応液の吸光度にもとづいた異常判定処理と因子判定処理を実施する。測定の終了した反応容器21は、洗浄機構9の位置(洗浄位置)まで移動され、洗浄処理を施されて、次の分析に用いられる。
【0021】
図3は、本実施の形態に係る自動分析装置による分析処理を示すフローチャートである。
【0022】
図3に示すように、入力部11等により分析開始が指示されると、制御装置100の制御部13は、まず、記憶部12の近似式記憶部12aから測定項目に対応して記憶された近似式を選択して読み出す(ステップS301)。次に、分析部102で測定対象の試料の分析処理において吸光度を測定する吸光度測定処理を行い(ステップS302)、吸光度の測定結果を記憶部12に記憶する(ステップS303)。続いて、吸光度の測定値の数は近似式から近似パラメータを算出するのに必要な数が得られたかどうかを判定し(ステップS304)、判定結果がNOの場合には、測定値の数が必要数に達し、ステップS304での判定結果がYESになるまでステップS302,S303の処理を繰り返す。ステップS304での判定結果がYESの場合は、測定結果から近似式を規定するパラメータ(近似パラメータ)を算出して近似式記憶部12aに記憶する(ステップS305)。
【0023】
次に、異常判定処理に用いる閾値を記憶部12から読み出し(ステップS306)、近似パラメータが記憶部12から読み込んだ閾値を超えた場合に異常を判定する異常判定処理を実施し(ステップS307)、異常判定結果を記憶部12や表示部10に出力する(ステップS308)。
【0024】
続いて、予め設定した測定対象の順に異常判定処理の判定結果を参照し、同じ測定項目について複数連続で測定値が異常と判定されている場合に、その測定項目に対応して因子記憶部12bに記憶された因子を異常因子とし判定する因子判定処理を行う(ステップS309)。そして、測定結果の異常の因子と判定されたものがあるかどうかを判定し(ステップS310)、判定結果がYESの場合には、異常因子の情報を報知部101や表示部10によりオペレータに報知し(ステップS311)、処理を終了する。また、ステップS310での判定結果がNOの場合には処理を終了する。
【0025】
この分析処理は、各試料に対する分析の各測定項目について実施される。
【0026】
図3のステップS301において、記憶部12の近似式記憶部12aから測定項目に対応して記憶された近似式を選択して読み出す場合は、吸光度の時間変化を表す複数の近似式の中から、検査項目に対応した近似式を選択する。検査項目ごとに最も適した近似式をテーブルとして記憶しておき、テーブルを利用して検査項目に対応した近似式を選択する。
【0027】
また、ステップS302の吸光度測定処理において、吸光度は、1回の測定または複数回の測定平均の吸光度データを、測光機構8より入力する。試薬と検体との反応に伴う色調変化に吸光度が大きく変化する波長(主波長)の光と、吸光度が殆ど変化しない波長(副波長)の光の2波長光を用いる測定方式を用いており、主波長光の吸光度と、副波長光の吸光度との差を、吸光度データとして出力する。
【0028】
ステップS304の近似パラメータの算出では、ステップS301において選択した近似式によって表される吸光度の時間変化と、実際の吸光度の時間変化がなるべく小さくなるように数式中のパラメータ(近似パラメータ)の値を算出する。具体的には、計測し記憶された吸光度データと、近似式により算出される、吸光度が計測された時点と同じ時点における吸光度との二乗誤差がなるべく小さくなるように数式中のパラメータ値を定める。パラメータ値の算出には既存の最小二乗計算方法が使用可能であるが、様々な形式の数式に対応可能な方法としては、例えば最急降下法により、二乗誤差が最小となるパラメータ値を算出する。複数の試薬を用いる反応では、主たる吸光度変化をもたらす試薬(通常は最終の試薬)を添加した後、吸光度の大きな変化が開始する。この場合には、主たる吸光度変化をもたらす試薬が添加された後のデータのみを、パラメータ値算出に用いる。
【0029】
図4は、近似パラメータの設定画面を示す図である。
【0030】
図4において、設定画面400には、因子(キー情報)を選択する因子設定部401と、その因子が測定精度にそれぞれ影響を与えるとして判定するための近時パラメータの閾値を設定する閾値設定部402と、設定を無効にするキャンセルボタン404と、設定を記憶して有効にする決定(OK)ボタン403とを備えている。表示部10に表示された設定画面400を入力部11等により操作し、キー情報を因子設定ボタン401で設定し、閾値設定部402の各数値を入力することにより、近似パラメータの設定を行う。
【0031】
図5は、測定結果表示画面への測定結果の表示条件を設定するデータ参照画面の概略を示す図である。
【0032】
図5において、データ参照画面500は、データ(測定結果)の並べ替え選択条件設定部501と、表示する項目の選択条件設定部502と、表示対象の分析装置の選択設定部503と、1列に表示するデータ数の選択設定部504と、設定した条件に基づいてデータを抽出し表示部10に表示する開始ボタン505とを備えている。並べ替え選択条件設定部501の設定条件としては、検体ID順、セル番号順、分析測定時間順、分析項目ごとの分析順、などがある。
図5では、検体並べ替え選択条件として検体ID順を選択し、分析装置は1台目を選択し、1例に表示するデータ数を33とした場合を示している。
【0033】
図6〜
図9は、
図5に示した設定画面において表示の開始が指示された場合に表示部10に表示される測定結果表示画面の一例を示す図である。
【0034】
図6は、異常因子として検体単位が判定された場合を示す図である。
【0035】
図6において、測定結果表示画面600は、検体ID表示部601と、分析項目表示部602と、異常判定の判定結果表示部603とを有している。
【0036】
判定結果表示部603には、各検体IDの各分析項目について反応過程の測定値の経時変化が画像表示されている。また、各判定結果は、その状態に合わせて表示状態を変えて表示しており、一例として、判定結果が基準値範囲外データと判定された場合には表示例604の表示、判定結果が参考データと判定された場合には表示例605の表示、判定結果が異常判定データと判定された場合には表示例606の表示、判定結果が装置アラームと判定された場合には表示例607の表示、判定結果が異常判定と装置アラームの両方を含むと判定された場合には表示例608の表示とする場合を示す。
【0037】
図7は、異常因子として試薬分注機構が判定された場合を示す図である。
【0038】
図7において、測定結果表示画面700は、
図5に示したデータ参照画面500において、並べ替えをセル番号順、分析装置を1台目、データの列表示数を20として設定した場合の表示例を示しており、セル番号表示部701と、判定結果表示部702とを有している。
【0039】
判定結果表示部702には、反応容器について反応過程の測定値の経時変化が画像表示されている。また、測定表示画面600(
図6参照)と同様に、各判定結果は、その状態に合わせて表示状態を変えて表示している。
【0040】
図8は、異常因子として反応容器単位が判定された場合を示す図である。
【0041】
図8において、測定結果表示画面800は、
図5に示したデータ参照画面500において、分析測定時間順、分析装置を1台目、データの列表示数を20として設定した場合の表示例を示しており、分析測定時間表示部801と、判定結果表示部702とを有している。
【0042】
判定結果表示部802には、反応容器について反応過程の測定値の経時変化が画像表示されている。また、測定表示画面600(
図6参照)と同様に、各判定結果は、その状態に合わせて表示状態を変えて表示している。
【0043】
図9は、異常因子として試薬容器単位が判定された場合を示す図である。
【0044】
図9において、測定結果表示画面900は、
図5に示したデータ参照画面500において、分析項目順、分析装置を1台目、データの列表示数を20として設定した場合の表示例を示しており、分析項目名称表示部901と、測定時間表示部902と、判定結果表示部903とを有している。
【0045】
判定結果表示部903には、反応容器について反応過程の測定値の経時変化が画像表示されている。また、測定表示画面600(
図6参照)と同様に、各判定結果は、その状態に合わせて表示状態を変えて表示している。
【0046】
図10は、因子判定処理における判定結果表示画面の一例を示す図である。
【0047】
図10において、判定結果表示画面200は、キー情報表示部201と、スコアー表示部202と、解析結果コメント表示部203とを有している。
図9に示した、測定結果表示画面900に表示された判定結果からは、1−Aユニットで測定されたASTの反応過程状況を時系列に表示されており、10:26−58の列の10列目から以降が異常判定データで表示されているため、1-AユニットのAST試薬に起因した異常が発生していると判定することができる。つまり、因子判定処理において、予め設定した測定対象の順として、反応容器順に異常判定処理の判定結果を参照し、同じ測定時間について複数連続で測定値が異常と判定されており、その測定項目に対応して因子記憶部12bに記憶された因子として1−AユニットのAST試薬を異常因子とし判定する。
【0048】
以上のように構成した本実施の形態の動作を説明する。
【0049】
自動分析装置の測定精度は、例えば、試料や試薬の反応容器への分注量(分注精度)や試薬・標準液の均一性・安定性など、複数の性能支配因子の組合せによって決まってくるものである。したがって、測定結果に異常が生じた場合には、異常を生じる原因となる因子(原因因子)を特定し、その因子の状態を改善することにより、測定結果の異常を改善して測定精度の低下を抑制することが必要である。しかしながら、従来技術における自動分析装置では、測定結果に異常が生じていることは判定できるが、その原因因子の特定については言及されていない。特に、臨床検査用の自動分析装置では、異常が生じた場合に、多数の分析対象試料に対してオペレータが原因因子を迅速に特定し、その状態を改善することは非常に困難であり、この点については改善の余地が残されていた。
【0050】
これに対して、本実施の形態におけるデータ処理装置及びそれを用いた自動分析装置においては、複数の測定項目の測定値の時間変化の近似式と近似式を規定するパラメータとを測定項目毎に記憶する近似式記憶部と、複数の測定項目の測定精度にそれぞれ影響を与えるとして予め定めた因子を各測定項目と対応させて記憶する因子記憶部と、近似式と近似式のパラメータとに基づいて、測定項目の測定値の異常の有無を判定する異常判定部と、予め設定した測定対象の順に異常判定部の判定結果を参照し、同じ測定項目について複数連続で測定値が異常と判定されている場合に、その測定項目に対応して因子記憶部に記憶された因子を異常因子とし判定する因子判定部と、因子判定部の判定結果に基づいて、異常因子をオペレータに報知する報知部とを備えるように構成したので、測定結果の異常を検出するとともに原因因子を特定することにより、測定精度の低下を抑制することができる。また、従来よりも多くの検査項目における日常の検査データからの装置の異常原因を究明することが可能になり、装置の性能維持、稼働率向上に貢献することができる。