特許第5953237号(P5953237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5953237-有機電界発光素子 図000027
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953237
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】有機電界発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20160707BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20160707BHJP
   C07D 487/04 20060101ALN20160707BHJP
【FI】
   H05B33/14 B
   H05B33/22 B
   H05B33/22 D
   C09K11/06 690
   C09K11/06 660
   !C07D487/04 137
【請求項の数】4
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2012-545735(P2012-545735)
(86)(22)【出願日】2011年11月21日
(86)【国際出願番号】JP2011076772
(87)【国際公開番号】WO2012070519
(87)【国際公開日】20120531
【審査請求日】2014年9月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-262167(P2010-262167)
(32)【優先日】2010年11月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】古森 正樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 敏浩
(72)【発明者】
【氏名】浅利 徹
(72)【発明者】
【氏名】石山 貴也
(72)【発明者】
【氏名】松本 めぐみ
【審査官】 横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−091355(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/113726(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/116377(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/056746(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
C09K 11/06
C07D 487/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、陽極、燐光発光層を含む複数の有機層及び陰極が積層されてなる有機電界発光素子において、燐光発光層、正孔輸送層、電子輸送層及び正孔阻止層からなる群れから選ばれる少なくとも一つの有機層中に、一般式(1)で表されるインドロカルバゾール化合物を含有することを特徴とする有機電界発光素子。
【化1】
式(1)中、環Iは隣接環と任意の位置で縮合する式(1a)で表される芳香族炭化水素環を示し、環IIは隣接環と任意の位置で縮合する式(1b)で表される複素環を表す。Xはそれぞれ独立して窒素又はC−Yを表すが、少なくとも1つは窒素である。Yはそれぞれ独立して水素、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数3〜11のシクロアルキル基を表す。式(1b)中、Aは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜11のシクロアルキル基又は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基を表す。但し、Y又はAのうち、少なくとも1つは炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数3〜11のシクロアルキル基である。一般式(1)及び式(1a)中、Rはそれぞれ独立して水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜11のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基又は炭素数3〜12の芳香族複素環基を表す。
【請求項2】
一般式(1)で表されるインドロカルバゾール化合物が、一般式(2)で表されるインドロカルバゾール化合物である請求項1に記載の有機電界発光素子。
【化2】
ここで、環I、環II、A、及びRは一般式(1)と同意である。Xはそれぞれ独立して窒素又はCHを表すが、少なくとも1つは窒素である。Yはそれぞれ独立して水素、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数3〜11のシクロアルキル基を表す。但し、Yの少なくとも1つは炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数3〜11のシクロアルキル基である。
【請求項3】
一般式(2)で表されるインドロカルバゾール化合物が、一般式(3)〜(6)のいずれかで表されるインドロカルバゾール化合物である請求項2に記載の有機電界発光素子。
【化3】
式(3)〜(6)中、A、及びRは一般式(1)と同意であり、X及びYは一般式(2)と同意である。
【請求項4】
インドロカルバゾール化合物を含む有機層が、燐光発光ドーパントを含有する発光層であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインドロカルバゾール化合物を含有する有機電界発光素子に関するものであり、詳しくは、有機化合物からなる発光層に電界をかけて光を放出する薄膜型デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、有機電界発光素子(以下、有機EL素子という)は、その最も簡単な構造としては発光層及び該層を挟んだ一対の対向電極から構成されている。すなわち、有機EL素子では、両電極間に電界が印加されると、陰極から電子が注入され、陽極から正孔が注入され、これらが発光層において再結合し、光を放出する現象を利用する。
【0003】
近年、有機薄膜を用いた有機EL素子の開発が行われるようになった。特に、発光効率を高めるため、電極からキャリアー注入の効率向上を目的として電極の種類の最適化を行い、芳香族ジアミンからなる正孔輸送層と8-ヒドロキシキノリンアルミニウム錯体(以下、Alq3という)からなる発光層とを電極間に薄膜として設けた素子の開発により、従来のアントラセン等の単結晶を用いた素子と比較して大幅な発光効率の改善がなされたことから、自発光・高速応答性といった特徴を持つ高性能フラットパネルへの実用化を目指して進められてきた。
【0004】
また、素子の発光効率を上げる試みとして、蛍光ではなく燐光を用いることも検討されている。上記の芳香族ジアミンからなる正孔輸送層とAlq3からなる発光層とを設けた素子をはじめとした多くの素子が蛍光発光を利用したものであったが、燐光発光を用いる、すなわち、三重項励起状態からの発光を利用することにより、従来の蛍光(一重項)を用いた素子と比べて、3〜4倍程度の効率向上が期待される。この目的のためにクマリン誘導体やベンゾフェノン誘導体を発光層とすることが検討されてきたが、極めて低い輝度しか得られなかった。また、三重項状態を利用する試みとして、ユーロピウム錯体を用いることが検討されてきたが、これも高効率の発光には至らなかった。近年では、特許文献1に挙げられるように発光の高効率化や長寿命化を目的にイリジウム錯体等の有機金属錯体を中心に燐光発光ドーパント材料の研究が多数行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003-515897号公報
【特許文献2】特開2001-313178号公報
【特許文献3】特開平11-162650号公報
【特許文献4】特開平11-176578号公報
【特許文献5】WO2008/056746号公報
【0006】
高い発光効率を得るには、前記ドーパント材料と同時に、使用するホスト材料が重要になる。ホスト材料として提案されている代表的なものとして、特許文献2で紹介されているカルバゾール化合物の4,4'-ビス(9-カルバゾリル)ビフェニル(以下、CBPという)が挙げられる。CBPはトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム錯体(以下、Ir(ppy)3という)に代表される緑色燐光発光材料のホスト材料として使用した場合、CBPは正孔を流し易く電子を流しにくい特性上、電荷注入バランスが崩れ、過剰の正孔は電子輸送層側に流出し、結果としてIr(ppy)3からの発光効率が低下する。
【0007】
前述のように、有機EL素子で高い発光効率を得るには、高い三重項励起エネルギーを有し、かつ両電荷(正孔・電子)注入輸送特性においてバランスがとれたホスト材料が必要である。更に、電気化学的に安定であり、高い耐熱性と共に優れたアモルファス安定性を備える化合物が望まれており、更なる改良が求められている。
【0008】
特許文献3においては、正孔輸送材料として以下に示すようなインドロカルバゾール化合物が開示されている。
【0009】
【0010】
特許文献4においては、正孔輸送材料として以下に示すようなインドロカルバゾール化合物が開示されている。
【0011】
しかしながら、これらはインドロカルバゾール骨格を有する化合物を正孔輸送材料としての使用を推奨するものの、蛍光発光素子においての実施例のみであり、燐光発光素子用材料としての使用を開示するものではない。
【0012】
特許文献5にはホスト材料として以下に示すようなインドロカルバゾール化合物が開示され、これを使用した有機EL素子は発光効率を改善し、高い駆動安定性を有するものとなることを開示する。
【発明の概要】
【0013】
有機EL素子をフラットパネルディスプレイ等の表示素子に応用するためには、素子の発光効率を改善すると同時に駆動時の安定性を十分に確保する必要がある。本発明は、上記現状に鑑み、高効率かつ高い駆動安定性を有した実用上有用な有機EL素子及びそれに適する化合物を提供することを目的とする。
【0014】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定構造のインドロカルバゾール骨格を有する化合物を有機EL素子として用いることで優れた特性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、基板上に、陽極、燐光発光層を含む複数の有機層及び陰極が積層されてなる有機電界発光素子において、燐光発光層、正孔輸送層、電子輸送層及び正孔阻止層からなる群れから選ばれる少なくとも一つの有機層中に、一般式(1)で表されるインドロカルバゾール化合物を含有することを特徴とする有機電界発光素子に関する。
【0016】
【0017】
式(1)中、環Iは隣接環と任意の位置で縮合する式(1a)で表される芳香族炭化水素環を示し、環IIは隣接環と任意の位置で縮合する式(1b)で表される複素環を表す。Xはそれぞれ独立して窒素又はC−Yを表すが、少なくとも1つは窒素である。Yはそれぞれ独立して水素、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数3〜11のシクロアルキル基を表す。式(1b)中、Aは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜11のシクロアルキル基又は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基を表す。但し、Y又はAのうち、少なくとも1つは炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数3〜11のシクロアルキル基である。一般式(1)及び式(1a)中、Rはそれぞれ独立して水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜11のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基又は炭素数3〜12の芳香族複素環基を表す。



【0018】
一般式(1)で表されるインドロカルバゾール化合物の中でも、下記一般式(2)で表されるインドロカルバゾール化合物が、好ましい化合物として挙げられる。
【0019】
【0020】
一般式(2)中、環I、環II、A、Y及びRは一般式(1)と同意である。Xはそれぞれ独立して窒素又はCHを表すが、少なくとも1つは窒素である。但し、Yの少なくとも1つは炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数3〜11のシクロアルキル基である。
【0021】
一般式(2)で表されるインドロカルバゾール化合物の中でも、下記一般式(3)〜(6)で表されるインドロカルバゾール化合物が、より好ましい化合物として挙げられる。
【0022】
【0023】
一般式(3)〜(6)中、A及びRは一般式(1)と同意であり、X及びYは一般式(2)と同意である。
【0024】
また、上記有機電界発光素子は上記インドロカルバゾール化合物と燐光発光ドーパントを含有する発光層を有することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】有機EL素子の一構造例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の有機電界発光素子は、前記一般式(1)で表されるインドロカルバゾール化合物(以下、一般式(1)で表される化合物又はインドロカルバゾール化合物ともいう)を含有する。
【0027】
一般式(1)において、環Iは隣接環と任意の位置で縮合する式(1a)で表される芳香族炭化水素環を示し、環IIは隣接環と任意の位置で縮合する式(1b)で表される複素環を表す。
【0028】
一般式(1)で表されるインドロカルバゾール骨格において、式(1a)で表される芳香族炭化水素環は2つの隣接環と任意の位置で縮合することができるが、構造的に縮合できない位置がある。式(1a)で表される芳香族炭化水素環は、6つの辺を有するが、隣接する2つの辺で2つの隣接環と縮合することはない。また、式(1b)で表される複素環は2つの隣接環と任意の位置で縮合することができるが、構造的に縮合できない位置がある。すなわち、式(1b)で表される複素環は、5つの辺を有するが、隣接する2つの辺で2つの隣接環と縮合することはなく、また、窒素原子を含む辺で隣接環と縮合することはない。したがって、インドロカルバゾール骨格の種類は限られる。
【0029】
一般式(1)において、インドロカルバゾール骨格は以下の形態で表されるものが好ましい。この例から、インドロカルバゾール骨格中の芳香族炭化水素環及び複素環の好ましい縮合位置が理解される。
【0030】
【0031】
一般式(1)において、Xはそれぞれ独立して窒素又はC−Yを表すが、少なくとも1つは窒素である。好ましくは1〜4個が窒素であり、より好ましくは1〜3個が窒素である。
【0032】
上記Yはそれぞれ独立して水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜11のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基又は炭素数3〜12の芳香族複素環基を表す。好ましくは水素、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数3〜11のシクロアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基である。
【0033】
一般式(1)のXを含む6員環基において、3位及び5位のXがC−Yであり、2位、4位及び6位のXが窒素又はCHであり、少なくとも1つが窒素であることが好ましい。そして、少なくとも1つのYが炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数3〜11のシクロアルキル基であることが好ましい。また、式(1b)のAは炭素数6〜30の芳香族炭化水素基又は5環以上の縮合複素環を含まない炭素数3〜30の芳香族複素環基であることが好ましい。
【0034】
アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、又はオクチル基等の炭素数1〜8のアルキル基が挙げられる。上記アルキル基は直鎖であっても、分岐していても構わない。
【0035】
シクロアルキル基の具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、又はメチルシクロヘキシル基が挙げられ、好ましくはシクロペンチル基、又はメチルシクロヘキシル基が挙げられる。
【0036】
芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基の具体例としては、ベンゼン、ペンタレン、インデン、ナフタレン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、チオフェン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、イソインドール、インダゾール、プリン、イソキノリン、イミダゾール、ナフチリジン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、シンノリン、キノリン、プテリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェナジン、カルボリン、インドール、カルバゾール、フラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、オキサトレン、ジベンゾフラン、チオフェン、チオキサンテン、チアントレン、フェノキサチイン、チオナフテン、イソチアナフテン、チオフテン、チオファントレン、又はジベンゾチオフェンから1つの水素を取って生じる1価の基が挙げられる。
【0037】
一般式(1)、式(1b)において、Aは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜11のシクロアルキル基、炭素数6〜30の芳香族炭化水素基又は炭素数3〜30の芳香族複素環基を表す。好ましくは炭素数6〜30の芳香族炭化水素基又は炭素数3〜30の芳香族複素環基であり、より好ましくは炭素数6〜18の芳香族炭化水素基又は炭素数3〜18の芳香族複素環基である。ここで、芳香族複素環基は5環以上の縮合複素環を含まない。
【0038】
アルキル基又はシクロアルキル基の具体例は上記Yで説明したアルキル基又はシクロアルキル基と同様である。
【0039】
Aが芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基である場合の具体例としては、ベンゼン、ペンタレン、インデン、ナフタレン、アズレン、ヘプタレン、オクタレン、インダセン、アセナフチレン、フェナレン、フェナンスレン、アントラセン、トリンデン、フルオランテン、アセフェナントリレン、アセアントリレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、テトラフェン、テトラセン、プレイアデン、ピセン、ペリレン、ペンタフェン、ペンタセン、テトラフェニレン、コラントリレン、ヘリセン、ヘキサフェン、ルビセン、コロネン、トリナフチレン、ヘプタフェン、ピラントレン、フラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、キサンテン、オキサトレン、ジベンゾフラン、ペリキサンテノキサンテン、チオフェン、チオキサンテン、チアントレン、フェノキサチイン、チオナフテン、イソチアナフテン、チオフテン、チオファントレン、ジベンゾチオフェン、ピロール、ピラゾール、テルラゾール、セレナゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、フラザン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、インドリジン、インドール、イソインドール、インダゾール、プリン、キノリジン、イソキノリン、カルバゾール、イミダゾール、ナフチリジン、フタラジン、キナゾリン、ベンゾジアゼピン、キノキサリン、シンノリン、キノリン、プテリジン、フェナントリジン、アクリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェナジン、カルボリン、フェノテルラジン、フェノセレナジン、フェノチアジン、フェノキサジン、アンチリジン、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾイソチアゾール又はこれら芳香環が複数連結された芳香族化合物等から水素を除いて生じる1価の基が挙げられる。好ましくはベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、イソインドール、インダゾール、プリン、イソキノリン、イミダゾール、ナフチリジン、フタラジン、キナゾリン、ベンゾジアゼピン、キノキサリン、シンノリン、キノリン、プテリジン、フェナントリジン、アクリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェナジン、カルボリン、インドール、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン又はこれら芳香環が複数連結された芳香族化合物から水素を除いて生じる1価の基が挙げられる。
【0040】
なお、芳香環が複数連結された芳香族化合物から生じる基である場合、連結される数は2〜10が好ましく、より好ましくは2〜7であり、連結される芳香環は同一であっても異なっていても良い。その場合、窒素と結合するZの結合位置は限定されず、連結された芳香環の末端部の環であっても中央部の環であってもよい。ここで、芳香環は芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を総称する意味である。また、連結された芳香環に少なくとも1つの複素環が含まれる場合は芳香族複素環に含める。
【0041】
ここで、芳香環が複数連結されて生じる1価の基は、例えば、下記式で表わされる。
【0042】
【0043】
式(15)〜(17)中、Ar1〜Ar6は、置換又は無置換の芳香環を示す。
【0044】
上記芳香環が複数連結されて生じる基の具体例としては、例えばビフェニル、ターフェニル、ビピリジン、ビピリミジン、ビトリアジン、ターピリジン、ビストリアジルベンゼン、ジカルバゾリルベンゼン、カルバゾリルビフェニル、ジカルバゾリルビフェニル、フェニルターフェニル、カルバゾリルターフェニル、ビナフタレン、フェニルピリジン、フェニルカルバゾール、ジフェニルカルバゾール、ジフェニルピリジン、フェニルピリミジン、ジフェニルピリミジン、フェニルトリアジン、ジフェニルトリアジン、フェニルナフタレン、ジフェニルナフタレン等から水素を除いて生じる1価の基が挙げられる。
【0045】
ここで、芳香族複素環基は、5環以上の縮合複素環を含まない。芳香族複素環基中に縮合複素環を含む場合は、4環までの縮合芳香族複素環に限られる。
【0046】
上記芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基は置換基を有しても良く、これらが置換基を有する場合、置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数1〜2のアルコキシ基、アセチル基、炭素数6〜18の2級アミノ基、炭素数6〜18の2級ホスファニル基、炭素数3〜18のシリル基である。好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基又は炭素数6〜15の2級アミノ基である。
【0047】
Aが芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基であって、置換基を有する場合、置換基の総数は1〜10である。好ましくは1〜6であり、より好ましくは1〜4である。また、2つ以上の置換基を有する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0048】
一般式(1)において、Y又はAのうち少なくとも1つはアルキル基又はシクロアルキル基であるが、Yがアルキル基又はシクロアルキル基であることが好ましく、2つのYがアルキル基又はシクロアルキル基であることがより好ましい。
【0049】
Rはそれぞれ独立して水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜11のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基又は炭素数3〜12の芳香族複素環基を表す。好ましくは水素、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は炭素数5〜12の芳香族複素環基である。
【0050】
アルキル基、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基の具体例は上記Yを構成するアルキル基、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基と同様である。
【0051】
一般式(2)において、Xはそれぞれ独立して窒素又はメチンを表すが、少なくとも1つは窒素である。
【0052】
一般式(2)において、Yはそれぞれ独立して水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜11のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基又は炭素数3〜12の芳香族複素環基を表す。好ましくはYは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜11のシクロアルキル基である。
【0053】
アルキル基、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基の具体例は上記Yを構成するアルキル基、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基と同様である。
【0054】
式(1b)において、Aは炭素数6〜30の芳香族炭化水素基又は炭素数3〜30の芳香族複素環基を表す。好ましくは炭素数6〜18の芳香族炭化水素基又は炭素数3〜18の芳香族複素環基である。ここで、芳香族複素環基は5環以上の縮合複素環を含まない。
【0055】
芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基の具体例は上記Aを構成する香族炭化水素基又は芳香族複素環基と同様である。
【0056】
一般式(3)〜(6)において、A、Y、R、及びXは一般式(2)と同意である。
【0057】
一般式(1)〜(6)で表されるインドロカルバゾール化合物は、目的とする化合物の構造に応じて原料を選択し、公知の手法を用いて合成することができる。
【0058】
例えば、式(3)で表されるインドロカルバゾール化合物を与える骨格(IC−1)は、Synlett,2005,No.1,p42-48に示される合成例を参考にして以下の反応式により合成することができる。
【0059】
【0060】
また、式(4)で表されるインドロカルバゾール化合物を与える骨格(IC−2)は、Archiv der Pharmazie (Weinheim, Germany) 1987, 320(3), p280-2に示される合成例を参考にして以下の反応式により合成することができる。
【0061】
【0062】
更に、式(5)及び式(6)で表されるインドロカルバゾール化合物を与える骨格(IC−3)は、The Journal of Organic Chemistry,2007,72(15)5886並びに、Tetrahedron, 1999, 55, p2371に示される合成例を参考にして以下の反応式により合成することができる。
【0063】
【0064】
前述の反応式で得られる各インドロカルバゾール化合物の窒素に結合する水素を、例えばウルマン反応などのカップリング反応により、対応する置換基に置換させることで、一般式(1)で表される化合物を合成することができる。
【0065】
別の観点からは、一般式(1)の化合物は特許文献5で知られた化合物にアルキル基を置換させたものであるので、特許文献5で知られた合成法により上記骨格を形成し、この窒素に結合する水素を、アルキル置換ピリジルのようなアルキル置換複素環基と置換することにより合成することができる。また、特許文献5で知られた化合物の窒素置換複素環基にアルキル基を置換させることによっても合成することができる。
【0066】
一般式(1)で表されるインドロカルバゾール化合物の具体例を以下に示すが、本発明の有機電界発光素子用材料はこれらに限定されない。
【0067】



【0068】
上記一般式(1)で表されるインドロカルバゾール化合物は、基板上に、陽極、複数の有機層及び陰極が積層されてなる有機EL素子の少なくとも1つの有機層に含有させることにより、優れた有機電界発光素子を与える。含有させる有機層としては、発光層、正孔輸送層、電子輸送層又は正孔阻止層が適する。より好ましくは、燐光発光ドーパントを含有する発光層のホスト材料として含有させることがよい。
【0069】
次に、本発明の有機EL素子について説明する。
【0070】
本発明の有機EL素子は、基板上に積層された陽極と陰極の間に、少なくとも一つの発光層を有する有機層を有し、且つ少なくとも一つの有機層は、上記インドロカルバゾール化合物を含む。有利には、燐光発光ドーパントと共に本発明の有機電界発光素子用材料を発光層中に含む。
【0071】
次に、本発明の有機EL素子の構造について、図面を参照しながら説明するが、本発明の有機EL素子の構造は何ら図示のものに限定されるものではない。
【0072】
図1は本発明に用いられる一般的な有機EL素子の構造例を示す断面図であり、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を各々表わす。本発明の有機EL素子では発光層と隣接して励起子阻止層を有してもよく、また、発光層と正孔注入層との間に電子阻止層を有しても良い。励起子阻止層は発光層の陽極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。本発明の有機EL素子では、基板、陽極、発光層及び陰極を必須の層として有するが、必須の層以外の層に、正孔注入輸送層、電子注入輸送層を有することがよく、更に発光層と電子注入輸送層の間に正孔阻止層を有することがよい。なお、正孔注入輸送層は、正孔注入層と正孔輸送層のいずれか又は両者を意味し、電子注入輸送層は、電子注入層と電子輸送層のいずれか又は両者を意味する。
【0073】
なお、図1とは逆の構造、すなわち、基板1上に陰極7、電子輸送層6、発光層5、正孔輸送層4、陽極2の順に積層することも可能であり、この場合も、必要により層を追加したり、省略したりすることが可能である。
【0074】
−基板−
本発明の有機EL素子は、基板に支持されていることが好ましい。この基板については、特に制限はなく、従来から有機EL素子に慣用されているものであればよく、例えば、ガラス、透明プラスチック、石英などからなるものを用いることができる。
【0075】
−陽極−
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In23−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。更に膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0076】
−陰極−
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が、透明又は半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0077】
また、陰極に上記金属を1〜20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に作製することで、透明又は半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0078】
−発光層−
発光層は燐光発光層であり、燐光発光ドーパントとホスト材料を含む。燐光発光ドーパント材料としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金及び金から選ばれる少なくとも一つの金属を含む有機金属錯体を含有するものがよい。かかる有機金属錯体は、前記先行技術文献等で公知であり、これらが選択されて使用可能である。
【0079】
好ましい燐光発光ドーパントとしては、Ir等の貴金属元素を中心金属として有するIr(ppy)3等の錯体類、(Bt)2Iracac等の錯体類、(Btp)Ptacac等の錯体類が挙げられる。これらの錯体類の具体例を以下に示すが、下記の化合物に限定されない。
【0080】

【0081】
前記燐光発光ドーパントが発光層中に含有される量は、2〜40重量%、好ましくは5〜30重量%の範囲にあることがよい。
【0082】
発光層におけるホスト材料としては、前記一般式(1)で表されるインドロカルバゾール化合物を用いることが好ましい。しかし、該インドロカルバゾール化合物を発光層以外の他の何れかの有機層に使用する場合は、発光層に使用する材料はインドロカルバゾール化合物以外の他のホスト材料であってもよい。また、インドロカルバゾール化合物と他のホスト材料を併用してもよい。更に、公知のホスト材料を複数種類併用して用いてもよい。
【0083】
使用できる公知のホスト化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高いガラス転移温度を有する化合物であることが好ましい。
【0084】
このような他のホスト材料は、多数の特許文献等により知られているので、それらから選択することができる。ホスト材料の具体例としては、特に限定されるものではないが、インドール誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリデン系化合物、ポルフィリン系化合物、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8―キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾール誘導体の金属錯体に代表される各種金属錯体、ポリシラン系化合物、ポリ(N-ビニルカルバゾール)誘導体、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等の高分子化合物等が挙げられる。
【0085】
−注入層−
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、正孔注入層と電子注入層があり、陽極と発光層又は正孔輸送層の間、及び陰極と発光層又は電子輸送層との間に存在させてもよい。注入層は必要に応じて設けることができる。
【0086】
−正孔阻止層−
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
【0087】
正孔阻止層には一般式(1)で表されるインドロカルバゾール化合物を用いることが好ましいが、インドロカルバゾール化合物を他の何れかの有機層に使用する場合は、公知の正孔阻止層材料を用いてもよい。また、正孔阻止層材料としては、後述する電子輸送層の材料を必要に応じて用いることができる。
【0088】
−電子阻止層−
電子阻止層とは、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料から成り、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔が再結合する確率を向上させることができる。
【0089】
電子阻止層の材料としては、本発明に係る一般式(1)で表されるインドロカルバゾール化合物を用いることができるが、他の材料として、後述する正孔輸送層の材料を必要に応じて用いることもできる。電子阻止層の膜厚は好ましくは3〜100nmであり、より好ましくは5〜30nmである。
【0090】
−励起子阻止層−
励起子阻止層とは、発光層内で正孔と電子が再結合することにより生じた励起子が電荷輸送層に拡散することを阻止するための層であり、本層の挿入により励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。励起子阻止層は発光層に隣接して陽極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。
【0091】
励起子阻止層の材料としては、一般式(1)で表されるインドロカルバゾール化合物を用いることができるが、他の材料として、例えば、1,3−ジカルバゾリルベンゼン(mCP)や、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−フェニルフェノラトアルミニウム(III)(BAlq)が挙げられる。
【0092】
−正孔輸送層−
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、正孔輸送層は単層又は複数層設けることができる。
【0093】
正孔輸送材料としては、正孔の注入又は輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。正孔輸送層には一般式(1)で表されるインドロカルバゾール化合物を用いることが好ましいが、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。使用できる公知の正孔輸送材料としては例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物を用いることが好ましく、芳香族第3級アミン化合物を用いることがより好ましい。
【0094】
−電子輸送層−
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、電子輸送層は単層又は複数層設けることができる。
【0095】
電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる場合もある)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。電子輸送層には本発明に係る一般式(1)で表される材料を用いることが好ましいが、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。更に、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例によって更に詳しく説明するが、本発明は勿論、これらの実施例に限定されるものではなく、その要旨を越えない限りにおいて、種々の形態で実施することが可能である。なお、化合物1−6、1−8、1−12、3−6、2−3、3−3、及び4−2を使用した例は、参考例であると理解される。
【0097】
実施例1
膜厚110 nmのITOからなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度4.0×10-5 Paで積層させた。まず、ITO上に銅フタロシアニン(CuPC)を25 nmの厚さに形成した。次に、正孔輸送層として4,4'-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)を40 nmの厚さに形成した。次に、正孔輸送層上に、ホスト材料としての化合物(1−1)と、燐光発光ドーパントとしてのトリス(2‐フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)とを異なる蒸着源から、共蒸着し、40 nmの厚さに発光層を形成した。発光層中のIr(ppy)3の濃度は10.0 wt%であった。次に、電子輸送層としてトリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(III)(Alq3)を20 nmの厚さに形成した。更に、電子輸送層上に、電子注入層としてフッ化リチウム(LiF)を1.0 nmの厚さに形成した。最後に、電子注入層上に、電極としてアルミニウム(Al)を70 nmの厚さに形成し、有機EL素子を作製した。
【0098】
得られた有機EL素子に外部電源を接続し直流電圧を印加したところ、表1のような発光特性を有することが確認された。表1において、輝度、電圧及び発光効率は、10mA/cm2での値を示す。素子発光スペクトルの極大波長は520 nmであり、Ir(ppy)3からの発光が得られていることがわかった。
【0099】
実施例2
発光層のホスト材料として、化合物(1−2)を用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0100】
実施例3
発光層のホスト材料として、化合物(1−6)を用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0101】
実施例4
発光層のホスト材料として、化合物(1−8)を用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0102】
実施例5
発光層のホスト材料として、化合物(1−9)を用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0103】
実施例6
発光層のホスト材料として、化合物(2−3)を用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0104】
実施例7
発光層のホスト材料として、化合物(2−4)を用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0105】
実施例8
発光層のホスト材料として、化合物(3−1)を用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0106】
実施例9
発光層のホスト材料として、化合物(3−3)を用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0107】
実施例10
発光層のホスト材料として、化合物(3−6)を用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0108】
実施例11
発光層のホスト材料として、化合物(4−2)を用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0109】
実施例12
発光層のホスト材料として、化合物(4−3)を用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0110】
比較例1
発光層のホスト材料として、CBPを用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0111】
比較例2
発光層のホスト材料として、下記化合物H−1を用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0112】
比較例3
発光層のホスト材料として、下記化合物H−2を用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0113】
比較例4
発光層のホスト材料として、下記化合物H−3を用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0114】
実施例2〜12及び比較例1〜4で作成した有機EL素子の素子発光スペクトルの極大波長はいずれも520 nmであり、Ir(ppy)3からの発光が得られていることがわかった。ホスト材料として使用した化合物と発光特性ならびに寿命特性を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
表1より、一般式(1)で表されるインドロカルバゾール化合物を用いた有機EL素子は、燐光ホストとして一般的に知られているCBPを用いた場合に対して良好な発光特性を示すことが判る。また、分子中に芳香族複素環基を持たない化合物であるH−1及びH−2を用いた場合に対して、良好な発光特性を示すことが判る。更に分子中にアルキル基を持たないH−3を用いた場合と比較して、良好な発光特性を示すことが判る。以上より、上記インドロカルバゾール化合物を用いた有機EL素子の優位性は明らかである。
【0117】
実施例13
膜厚110 nmのITOからなる陽極が形成されたガラス基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)・ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS):(エイチ・シー・シュタルク株式会社製、商品名:クレビオスPCH8000)をスピンコート法で25 nmの厚さに成膜した。次いで、ホスト材料としての化合物(1−2)と、燐光発光ドーパントとしてのトリス(2‐フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)をホスト材料に対して10.0wt%加えたテトラヒドロフラン(THF)1wt%溶液を用い、スピンコート法で40 nmの発光層を形成した。電子輸送層としてトリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(III)(Alq3)を真空蒸着法にて、20 nmの厚さに形成した。更に、電子輸送層上に、電子注入層としてフッ化リチウム(LiF)を真空蒸着法にて、1.0 nmの厚さに形成した。最後に、電子注入層上に、電極としてアルミニウム(Al)薄膜を真空蒸着法にて、70 nmの厚さに形成し、有機EL素子を作製した。
【0118】
得られた有機EL素子に外部電源を接続し直流電圧を印加したところ、表2のような発光特性を有することが確認された。表2において、電流効率は、20mA/cm2での値を示す。素子発光スペクトルの極大波長は520 nmであり、Ir(ppy)3からの発光が得られていることがわかった。
【0119】
実施例14
発光層のホスト材料として、化合物(1−6)を用いた以外は実施例13と同様にして有機EL素子を作製した。
【0120】
実施例15
発光層のホスト材料として、化合物(1−12)を用いた以外は実施例13と同様にして有機EL素子を作製した。
【0121】
実施例16
発光層のホスト材料として、化合物(3−7)を用いた以外は実施例13と同様にして有機EL素子を作製した。
【0122】
比較例5
発光層のホスト材料として、下記化合物H−2を用いた以外は実施例13と同様にして有機EL素子を作製した。
【0123】
比較例6
発光層のホスト材料として、下記化合物H−3を用いた以外は実施例13と同様にして有機EL素子を作製した。
【0124】
実施例14〜16及び比較例5〜6で作成した有機EL素子の素子発光スペクトルの極大波長はいずれも520 nmであり、Ir(ppy)3からの発光が得られていることがわかった。ホスト材料として使用した化合物と発光特性ならびに寿命特性を表2に示す。
【0125】
【表2】
【0126】
表2より、一般式(1)で表されるインドロカルバゾール化合物を用いた有機EL素子は、分子中に芳香族複素環基を有しない化合物であるH−2を用いた場合と比較して、良好な発光特性を示すことが判る。また、分子中にアルキル基を有しない化合物であるH−3を用いた場合に対して良好な発光特性を示し、一般式(1)で表されるインドロカルバゾール化合物を用いた有機EL素子の優位性は明らかである。
【産業上の利用の可能性】
【0127】
本発明の有機電界発光素子において使用されるインドロカルバゾール化合物は、インドロカルバゾール骨格の窒素が少なくとも1つの含窒素六員環で置換され、更にアルキル基又はシクロアルキル基を有することを特徴としている。上記インドロカルバゾール化合物は良好な正孔と電子の注入輸送特性を示し、かつ高い耐久性を有すると考えられる。これを用いた有機EL素子は駆動電圧が低く、特に、発光層中にこのインドロカルバゾール化合物を含む場合、両電荷のバランスが良好になることから再結合確率が向上し、また、高い最低励起三重項状態のエネルギーを有しているために、ドーパントからホスト分子への三重項励起エネルギーの移動を効果的に抑えることができるなどの特徴を有し、そのため、優れた発光特性を与えると考えられる。加えて、アルキル基又はシクロアルキル基を有することにより良好なアモルファス特性と高い熱安定性を示し、また電気化学的に安定であることから、駆動寿命が長く、耐久性の高い有機EL素子を実現すると考えられる。更に、アルキル基又はシクロアルキル基を有することにより、溶解性が向上することからドライプロセスのみならずウエットプロセスにも好適に適用でき、様々な成膜方法での素子の作製が可能になると考えられる。
【0128】
本発明による有機EL素子は、発光特性、駆動寿命ならびに耐久性において、実用上満足できるレベルにあり、フラットパネルディスプレイ(携帯電話表示素子、車載表示素子、OAコンピュータ表示素子やテレビ等)、面発光体としての特徴を生かした光源(照明、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板や標識灯等への応用において、その技術的価値は大きいものである。
図1