(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953363
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物
(51)【国際特許分類】
B63B 15/00 20060101AFI20160707BHJP
B63B 25/16 20060101ALI20160707BHJP
B63B 11/00 20060101ALI20160707BHJP
B63B 11/04 20060101ALI20160707BHJP
B63B 13/00 20060101ALI20160707BHJP
B63H 21/38 20060101ALI20160707BHJP
B63B 35/44 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
B63B15/00 Z
B63B25/16 101Z
B63B11/00 Z
B63B11/04 B
B63B11/04 Z
B63B13/00 Z
B63H21/38 C
B63B35/44 B
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-261652(P2014-261652)
(22)【出願日】2014年12月25日
(65)【公開番号】特開2016-120814(P2016-120814A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2016年4月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】三井造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】中田 崇
【審査官】
中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−519210(JP,A)
【文献】
特表2013−540958(JP,A)
【文献】
特表2010−513134(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/000638(WO,A1)
【文献】
国際公開第2005/091932(WO,A2)
【文献】
特表2009−541113(JP,A)
【文献】
特表2013−508202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B,B63H
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貨物区画と該貨物区画の後方に機関室を有し、かつ、居住区の一部又は全部を上甲板上に設けた、液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物において、
前記貨物区画の後方で、かつ、前記機関室の上側の一部または全部に貨物機器室を配置して、前記居住区を前記貨物機器室の後方に設けると共に、
前記貨物機器室の後方に、コファーダム、空所、燃料油タンク、水タンクのうちのいずれか1つ以上を配設した区画を設け、この区画の後方に前記居住区を設けていることを特徴とする液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物。
【請求項2】
貨物区画と該貨物区画の後方に機関室を有し、かつ、居住区の一部又は全部を上甲板上に設けた、液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物において、
前記貨物区画の後方で、かつ、前記機関室の上側の一部または全部に貨物機器室を配置して、前記居住区を前記貨物機器室の後方に設けると共に、
前記貨物機器室の後方に、前記機関室の一部を上甲板より上に突設して設けた機関室突設部を配置し、この機関室突設部の後方に前記居住区を設けていることを特徴とする液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物。
【請求項3】
貨物区画と該貨物区画の後方に機関室を有し、かつ、居住区の一部又は全部を上甲板上に設けた、液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物において、
前記貨物区画の後方で、かつ、前記機関室の上側の一部または全部に貨物機器室を配置して、前記居住区を前記貨物機器室の後方に設けると共に、
前記貨物機器室の後方に、前記機関室とは別の区画となる機械室若しくは倉庫のいずれか一方又は両方を配置する区画を配置し、この区画の後方に前記居住区を設けていることを特徴とする液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物。
【請求項4】
貨物区画と該貨物区画の後方に機関室を有し、かつ、居住区の一部又は全部を上甲板上に設けた、液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物において、
前記貨物区画の後方で、かつ、前記機関室の上側の一部または全部に貨物機器室を配置すると共に、
前記貨物機器室の下側で前記機関室の上部に、コファーダム、空所、燃料油タンク、水タンクのうちのいずれか1つ以上を配設した機関室上部区画を設けていることを特徴とする液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物。
【請求項5】
前記居住区を前記貨物区画の前方に設けていることを特徴とする請求項4に記載の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物。
【請求項6】
前記居住区を前記貨物機器室の後方に設けていることを特徴とする請求項4に記載の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物。
【請求項7】
前記貨物機器室の後方に、コファーダム、空所、燃料油タンク、水タンクのうちのいずれか1つ以上を配設した区画を設け、この区画の後方に前記居住区を設けていることを特徴とする請求項6に記載の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物。
【請求項8】
前記貨物機器室の後方に、前記機関室の一部を上甲板より上に突設して設けた機関室突設部を配置し、この機関室突設部の後方に前記居住区を設けていることを特徴とする請求項6に記載の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物。
【請求項9】
前記貨物機器室の後方に、前記機関室とは別の区画となる機械室若しくは倉庫のいずれか一方又は両方を配置する区画を配置し、この区画の後方に前記居住区を設けていることを特徴とする請求項6に記載の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物。
【請求項10】
前記貨物機器室の下側の前記機関室の前部に、コファーダム、空所、燃料油タンク、水タンク、燃料油移送ポンプ、バラストポンプ、バラスト水処理装置のうちのいずれか1つ以上を備えた機関室前部区画を設けていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物。
【請求項11】
前記貨物機器室の上側にデッキタンク若しくは液化ガス燃料タンクを設けていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物。
【請求項12】
前記貨物機器室の内部に、主機に導かれる燃料ガス配管のフランジ又は弁を設けていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物。
【請求項13】
当該浮体構造物が、液化ガス貯蔵設備を備えた液化ガス運搬船、液化ガス燃料タンクを備えた船舶、液化ガス燃料タンクを備えた浮体構造物、又は、液化ガス貯蔵設備を有する浮体構造物のいずれかであることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物に関し、より詳細には、液化ガスを一時的に貯蔵する設備と貨物機器室を備えて構成される、液化ガス運搬船、液化ガス燃料タンクを備えた船舶、液化ガス燃料タンクを備えた浮体構造物、又は、液化ガス貯蔵設備を有する浮体構造物等の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
液化ガス運搬船のうちの液化天然ガス運搬船(LNG船)では、貨物である天然ガスの自然蒸発によって生じる蒸発ガスを燃料として使用するために、燃料ガス配管が、貨物機器室から居住区の横を通って機関室の後方まで敷設されており、この燃料ガス配管により、蒸発ガスは貨物区画の後方に設けられた機関室内の主機に導かれている。
【0003】
最近は、この蒸発ガスの燃料利用に関して、LNG船の主機として二元燃料の低速ディーゼル機関を使用する技術が注目されてきており、この場合には、燃料となる天然ガスを300bar〜400bar程度まで高圧化して主機に供給する必要がある。そのため、従来船の配置では、機関室から遠く離れた貨物機器室に設置された燃料供給装置から高圧配管を機関室まで敷設することになる。
【0004】
そのため、従来船のように主機に蒸気タービンを使用している場合であれば、燃料に天然ガスを使用しても、ボイラに供給する天然ガスの圧力は低圧で済むため、万一、燃料ガス配管が破損したとしても、この天然ガスの漏出による危険性はガス爆発の危険のみを考慮すればよかったが、高圧化された天然ガスの漏出となるとガス爆発の危険に加えて、高圧でのガス噴出による乗組員の負傷も懸念されるようになる。
【0005】
このガス漏出に対する対策として、燃料ガス配管に覆いを設けたり、燃料ガス配管を従来同様の暴露状態で設置する場合にはより厳しい防食対策が求められたりすることから、本質的な危険性回避を達成することが難しくなるだけでなく、船のコストが上昇することにもなる。
【0006】
また、天然ガス等の液化ガスの高圧化のための機器類として、大型電気機器を使用する必要が生じるため、大型電気機器への動力供給用の電気配線の増設が必要になり、この電線導設が難しく、コスト高となる。
【0007】
また、この液化ガスの高圧化のための大型電気機器を設けるためには、貨物機器室における設置スペースが必要になり、貨物機器室を広げる必要が生じる。更に、複数の港に出入港できるようにするためは、従来船の設備に、新たな荷役設備、別の用途の新たな船楼、新たな大型艤装品を追加して設ける必要が生じてきている。
【0008】
しかしながら、MOSS型LNG船では、球形の貨物タンクの上側が上甲板上に大きく突出しているため、上甲板上に自由に設備を設けることができる場所が少なく、貨物機器室、荷役用マニホールド等の荷役設備、その他大型艤装品を設けるための場所は、上甲板上では限られており、設置場所が限定されてしまう。
【0009】
従来の液化ガス運搬船では、貨物機器室は、まれには、小型の船においては船首部の最前端の液化ガス貯蔵設備であるホールドスペースよりも前方に配置する事があるが、一般的には、
図11及び
図12に例示するように、液化ガス運搬船1Xの貨物機器室12は、防爆対策等が求められる貨物区画R1を徒に広げないように、貨物タンク11同士の間に設けられている。また、荷役用マニホールド13が貨物区画R1の貨物タンク11同士の間に設けられ、居住区8及び機関室5は貨物区画R1の後方に設けられている。
【0010】
また、この例として、MOSS型の球形の貨物タンクを搭載しているLNG船の場合で、貨物機械室(貨物機器室)を貨物区画の上甲板上で、最後方の貨物タンクとその前方の貨物タンクとの間に設け、この前方の貨物タンクとさらにその前方の貨物タンクとの間にローデイングマニホールド(荷役用マニホールド)を設けたLNG船が図示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0011】
そのため、従来船の機関室の上に居住区を設ける配置を維持した状態で、貨物区画の前方又は後方の上甲板上に、従来船よりも大きな貨物機器室を設けようとすると、少なくとも、この貨物機器室の長さ分だけ、LNG船の長さを長くする必要が生じるので、LNG船の価格が大きく上昇してしまうことになる。
【0012】
また、荷役用マニホールドの場所に関しては、港がある程度限定される場合には、設置場所が1カ所に限定されることが多い為、貨物機器室と荷役用マニホールドと舷梯を貨物タンク間に設置することが可能であるが、港が限定できない場合には、複数の荷役用マニホールドを設ける必要性が生じ、設置場所の確保が重要になる。また、貨物タンクの数が少なくなった場合には、そもそも設置可能な場所が減少してしまうので、この設置場所の確保はより重要な問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−301372号公報(段落〔0002〕及び〔0025〕、
図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物において、高圧の燃料ガス配管からの高圧ガスの漏洩による危険性を軽減しつつ、新たな荷役設備、新たな船楼、新たな大型艤装品を追加して配置できる場所を確保できる液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記のような目的を達成するための本発明の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物は、貨物区画と該貨物区画の後方に機関室を有し、かつ、居住区の一部又は全部を上甲板上に設けた、液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物において、前記貨物区画の後方で、かつ、前記機関室の上側の一部または全部に貨物機器室を
配置して、前記居住区を前記貨物機器室の後方に設けると共に、前記貨物機器室の後方に、コファーダム、空所、燃料油タンク、水タンクのうちのいずれか1つ以上を配設した区画を設け、この区画の後方に前記居住区を設けている構成とされる。なお、この機関室の上側の一部又は全部に貨物機器室を配置するとは、機関室の天井の一部が貨物機器室の床になる場合と機関室の天井の全部が貨物機器室の床になる場合とを示している。
【0016】
この構成によれば、燃料ガスを移送するための設備が格納された貨物機器室を、貨物タンク同士の間から、燃料ガスを使用する主機や発電設備が納められた機関室の直上に移設したので、天然ガス等の液化ガスを燃料として使用するために設けられる燃料ガス配管を、貨物機器室から一度外に出てから直下の機関室へ導く構成だけでなく、貨物機器室からその直下にある機関室へ直ちに導く構成を採用することもできる。
【0017】
その結果、貨物機器室から機関室の主機に至る高圧の燃料ガス配管の敷設長さを短くすることができるので、燃料ガスの漏洩の可能性が低くなり、高圧の燃料ガスの漏洩による爆発及び人体への受傷や危険性を軽減することができる。しかも、防食対策の範囲も小さくなり、動力供給電線などの電線導設も容易になる。
【0018】
また、居住区の横を高圧の燃料ガス配管が通らない構成のため、ガス漏洩時に、危険な燃料ガスが居住区に侵入して爆発したり、高圧の燃料ガスが直接乗組員を負傷させたりする可能性を著しく低下させることができる。
【0019】
それと共に、貨物タンク間に貨物機器室を設けるためのスペースを確保する必要がなくなるので、貨物タンク間に他の設備を設置することが可能となり、追加の荷役用マニホールドなどの追加の荷役設備、別の用途の追加の船楼、追加の大型艤装品を設置する場所を確保することができるようになる。
【0021】
さらに、居住区を貨物機器室の後方に設けている構成によれば、貨物機器室の移動に伴い、居住区を貨物機器室より後方に移動して設置するという比較的簡単な配置変更で済むことになる。特に、船首部に居住区を設ける場所が無い場合は、船の長さを長くすること無く居住区を配置することが可能になる。また、貨物区画の上甲板上に貨物機器室の設置場所を確保できず且つ船首部にも居住区の設置場所を確保できないという場合には、この配置が有効となる。
【0022】
更に、上記の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物において、前記貨物機器室の後方に、コファーダム、空所、燃料油タンク、水タンクのうちのいずれか1つ以上を配設した区画を設け、この区画の後方に前記居住区を設けて構成すると、この区画の介在により貨物機器室と居住区を隣接させずに済むので、貨物機器室においてガス漏洩が発生した場合でも、居住区内にその漏洩したガスが侵入する危険性を減少できる。
【0023】
あるいは、上記のような目的を達成するための本発明の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物は、貨物区画と該貨物区画の後方に機関室を有し、かつ、居住区の一部又は全部を上甲板上に設けた、液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物において、前記貨物区画の後方で、かつ、前記機関室の上側の一部または全部に貨物機器室を配置して、前記居住区を前記貨物機器室の後方に設けると共に、前記貨物機器室の後方に、前記機関室の一部を上甲板より上に突設して設けた機関室突設部を配置し、この機関室突設部の後方に前記居住区を設けている構成とされる。この機関室突設部の介在により貨物機器室と居住区を隣接させずに済むので、貨物機器室においてガス漏洩が発生した場合でも、居住区内にその漏洩したガスが侵入する危険性を減少できる。
【0024】
あるいは、上記のような目的を達成するための本発明の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物は、貨物区画と該貨物区画の後方に機関室を有し、かつ、居住区の一部又は全部を上甲板上に設けた、液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物において、前記貨物区画の後方で、かつ、前記機関室の上側の一部または全部に貨物機器室を配置して、前記居住区を前記貨物機器室の後方に設けると共に、前記貨物機器室の後方に、前記機関室とは別の区画となる機械室若しくは倉庫のいずれか一方又は両方を配置する区画を配置し、この区画の後方に前記居住区を設けている構成とされる。この区画の介在により貨物機器室と居住区を隣接させずに済むので、貨物機器室においてガス漏洩が発生した場合でも、居住区内にその漏洩したガスが侵入する危険性を減少できる。なお、この機械室には、空気調整装置(エアコン)や油圧機器などが配置される。
あるいは、上記のような目的を達成するための本発明の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物は、貨物区画と該貨物区画の後方に機関室を有し、かつ、居住区の一部又は全部を上甲板上に設けた、液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物において、 前記貨物区画の後方で、かつ、前記機関室の上側の一部または全部に貨物機器室を配置すると共に、前記貨物機器室の下側で前記機関室の上部に、コファーダム、空所、燃料油タンク、水タンクのうちのいずれか1つ以上を配設した機関室上部区画を設けている構成とされる。この構成により、貨物機器室と機関室との間に空隙を設けることができるので、貨物機器室においてガス漏洩が発生した場合でも、機関室内にその漏洩したガスが侵入する危険性を減少することができる。
上記の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物において、前記居住区を前記貨物区画の前方に設けて構成すると、この構成により、居住区の上に航海船橋を設けることができるようになり、この貨物区画前方の居住区に航海船橋を設けた場合には、貨物タンクを球形のMOSS型タンクで形成した場合のように大型構造物が上甲板上に突出している浮体構造物において問題となる前方視界を容易に確保できるようになる。
【0025】
上記の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物において、前記貨物機器室の下側の前記機関室の前部に、コファーダム、空所、燃料油タンク、水タンク、燃料油移送ポンプ、バラストポンプ、バラスト水処理装置のうちのいずれか1つ以上を備えた機関室前部区画を設けて構成すると、この構成により、機関室と貨物区画との間に空隙を設けることができ、貨物機器室からの燃料ガス配管をこの機関室前部区画に配設することにより、貨物機器室においてガス漏洩が発生した場合でも、機関室内にその漏洩したガスが侵入する危険性を減少することができる。
【0027】
上記の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物において、前記貨物機器室の上側にデッキタンク若しくは液化ガス燃料タンクを設けて構成すると、この構成により、貨物機器室の上側を有効利用でき、液化ガス燃料タンクを設けた場合は、液化ガス燃料タンクと貨物機器室の機器類との間の燃料ガス配管を短くできる。
【0028】
上記の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物において、前記貨物機器室の内部に、主機に導かれる燃料ガス配管のフランジ又は弁を設けて構成すると、この構成により燃料ガスの漏洩が起こりやすいフランジの部分や弁の部分が貨物機器室の内部に収納されるので、機関室内に燃料ガスが漏洩する危険性及び貨物機器室から機関室へと繋ぐ暴露配管において燃料ガスが漏洩する危険性を低くする事ができる。
【0029】
そして、上記の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物としては、液化ガス貯蔵設備を備えた液化ガス運搬船、液化ガス燃料タンクを備えた船舶、液化ガス燃料タンクを備えた浮体構造物、又は、液化ガス貯蔵設備を有する浮体構造物を想定できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物によれば、貨物機器室を機関室の上側に配置することによって、貨物機器室が貨物タンク同士の間から最後端の貨物タンクの後方に移動することになり、天然ガス等の液化ガスを燃料として使用するために使用される、貨物機器室から機関室の主機に至る高圧の燃料ガス配管において、その敷設長さを短くすることができるので、高圧ガスの漏洩による危険性を軽減することができる。
【0031】
それと共に、従来技術の貨物タンク間の貨物機器室の配置から、貨物機器室を貨物区画の後方に移動することにより、本発明の構成では、貨物タンク間のスペースに貨物機器室を収めるという制約を無くすことができ、貨物機器室を大きくできる上に、貨物タンク間の貨物機器室があったスペースが空くので、追加の荷役用マニホールドなどの追加の荷役設備、追加の船楼、追加の大型艤装品を設置する場所を確保することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に係る第1の実施の形態の液化ガス運搬船の構成を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図1の液化ガス運搬船の構成を模式的に示す平面図である。
【
図3】本発明に係る第2の実施の形態の液化ガス運搬船の構成を模式的に示す側面図である。
【
図4】
図3の液化ガス運搬船の構成を模式的に示す平面図である。
【
図5】本発明に係る第3の実施の形態の液化ガス運搬船の構成を模式的に示す側面図である。
【
図6】
図5の液化ガス運搬船の構成を模式的に示す平面図である。
【
図7】本発明に係る第4の実施の形態の液化ガス運搬船の構成を模式的に示す側面図である。
【
図8】
図7の液化ガス運搬船の構成を模式的に示す平面図である。
【
図9】本発明に係る第5の実施の形態の液化ガス運搬船の構成を模式的に示す側面図である。
【
図10】
図9の液化ガス運搬船の構成を模式的に示す平面図である。
【
図11】従来技術の液化ガス運搬船の構成を模式的に示す側面図である。
【
図12】
図11の液化ガス運搬船の構成を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る実施の形態の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物について、図面を参照しながら説明する。この液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物としては、液化ガス運搬船、液化ガス燃料タンクを備えた船舶、液化ガス燃料タンクを備えた浮体構造物、又は、液化ガス貯蔵設備を有する浮体構造物等があるが、ここでは、液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物として、MOSS型の球形ガスタンクを備えた液化ガス運搬船を例にして説明する。
【0034】
しかし、本発明はこの液化ガス運搬船に限定されず、それ以外の液化ガス運搬船、液化ガス燃料タンクを備えた船舶、液化ガス燃料タンクを備えた浮体構造物、又は、液化ガス貯蔵設備を有する浮体構造物等の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物にも適用可能である。
【0035】
なお、液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物が、液化ガス運搬船、液化ガス燃料タンクを備えた船舶の場合には、通常時は航海しているが、液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物が、液化ガス燃料タンクを備えた浮体構造物、又は、液化ガス貯蔵設備を有する浮体構造物である場合には、洋上設置場所まで行く時のみ自力航行によって航海することになる。
【0036】
また、本発明においては、液化ガスタンクや液化ガス燃料タンクは、MOSS型の球形の貨物タンクのみでなく、それ以外の自立方形タンクや船体構造と一体型のタンクであってもよい。
【0037】
そして、
図1及び
図2に示すように、本発明の係る第1の実施の形態の液化ガス運搬船1Aは、船底2と船側3と上甲板4によって、船体の周囲を形成され、貨物タンク11を有する貨物区画R1と、この貨物区画R1の後方、言い換えれば、船体の船尾側に機関室5が設けられており、この機関室5から後方に延びるプロペラシャフトにプロペラ6が配置され、その後ろに舵7が設けられている。
【0038】
また、航海船橋8aを備えた居住区8の一部または全部(
図1及び
図2の構成では全部)が、船首部の上甲板4の上に設けられる。また、船尾の機関室5の上に、機関室5内のエンジンで発生する排気ガスを大気中に放出するための煙突9が設けられる。
【0039】
また、貨物区画R1には、液化ガスを貯蔵するために、貨物タンク11が設けられるが、ここでは、MOSS型タンクと呼ばれる球形の液化ガスタンクで形成されており、この貨物タンク11の一部が上甲板4より上に突出して、船体の前後方向に一列に数個(ここでは4個)並んで設けられている。
【0040】
更に、船尾側の貨物機器室12や機関室5と船首側の航海船橋8aとを繋ぐ通行路17を、暴露仕様の通路又は閉囲区画の通路として構成して、上甲板4より上部に設ける。つまり、船首部(表)の航海船橋8aと船尾側(艫)の貨物機器室12や機関室5とを例えば閉囲区画に構成された全天候型天空歩路となる通行路17で接続して、航海船橋8aと貨物機器室12等の間を常に往来可能とする。なお、ここでは、この通行路17を船体中央で、かつ、貨物タンク11の上部に設けているが、この通行路17を船体右舷または左舷側の貨物タンク11の横側に設けてもよい。
【0041】
さらに、第1の実施の形態の液化ガス運搬船1Aにおいては、居住区8は、貨物区画R1の前方に、つまり、最前列の貨物タンク11より前方に設けられる。この構成で、居住区8の上に航海船橋8aを設けて構成すると、航海船橋8aが最前の位置の貨物タンク11よりも前方に配置されることになるので、貨物タンク11が航海船橋8aからの前方見通しの邪魔にならなくなり、前方視界を良好に確保できるようになるので、操船性が向上する。特に、貨物タンク11を球形のMOSS型タンクのように大型構造物が上甲板4上に突出している場合では、この背が高い大型構造物のために視界確保が困難となるので、この構成を採用することの効果が大きくなる。また、この航海船橋8aにはドジャー8bを設けて、出入港などの船体の側方の監視を容易にする。
【0042】
また、この前方視界の観点から、航海船橋を船尾側に配置する場合に比べて、船首側では、航海船橋8aの高さを低くすることができ、また、船尾側に配置する上部構造物を高くする必要がなくなるので、船全体の高さを低く抑えることできる。その結果、エアドラフトが小さくなるので、液化ガス運搬船1Aが航行できる範囲が拡大して、この液化ガス運搬船1Aの汎用性を高めることができる。例えば、エアドラフトが低くなることにより、2港以上の重要な港(例えば、フランスのモントアール港や、アメリカ合衆国のエバレット港等)に入港が可能となる。
【0043】
さらに、貨物機器室12が、貨物区画R1の後方、つまり、最後端の貨物タンク11より後方で、かつ、機関室5の上側の一部または全部(
図1及び
図2では一部)に、つまり、機関室5の直上に貨物機器室12が配置される。言い換えれば、貨物機器室12の直下の全部が機関室5になるように構成される。なお、この貨物機器室12は、煙突9よりも前方に設けられる。
【0044】
これにより、燃料ガスを移送する為の設備が格納された貨物機器室12を、従来技術における貨物タンク11同士の間の配置から、本発明では、燃料ガスを使用する主機や発電設備が納められた機関室5の直上に移設したので、貨物機器室12から出た燃料ガス配管を、貨物機器室から一度外に出てから直下の機関室へ導かれる構成だけでなく、直下にある機関室5へ直ちに導く構成を採用することもできる。
【0045】
これにより、液化ガスを燃料として使用するための貨物機器室12から機関室5の主機に至る高圧の燃料ガス配管の敷設長さを短くすることができるようになる。この燃料ガス配管の長さが短くなることにより、その分、高圧ガスの漏洩の可能性が低くなり、高圧ガスの漏洩による危険性を軽減することができる。しかも、防食対策の範囲も小さくなり、電力供給電線などの電線導設も容易になる。
【0046】
また、居住区8の横を高圧の燃料ガス配管が通らなくなるため、万一のガス漏洩時においても、危険な燃料ガスが居住区8に侵入したり、高圧の燃料ガスが直接乗組員を負傷させたりする可能性を著しく低下させることができる。
【0047】
それと共に、貨物タンク11同士の間に貨物機器室12を設けるためのスペースを確保する必要がなくなるので、貨物タンク11間に他の設備を設置することが可能となり、追加の荷役設備、追加の船楼、追加の大型艤装品を設置する場所を確保することができるようになる。
【0048】
これにより、貨物タンク11同士の間で荷役用マニホールド13や舷梯など艤装品の設置できる場所が広がる。つまり、荷役用マニホールド13を両舷においてそれぞれ1箇所だけでなく、2箇所以上で、かつ、貨物タンク11間の全部の箇所までの任意の場所に配置することができるようになる。
【0049】
さらに、船尾側の機関室5の上に設けられる貨物機器室12の高さが低くて済むので、貨物機器室12の防振対策のための鋼材が不要となり、その分載荷重量を増加できる。さらに、この船尾の上部構造物の高さが低くなることで、係留中の風圧力による影響が少なくなるので、係留用艤装品を小さくすることができ、その分載荷重量を増加できる。また、煙突高さも低くなるので、煙突9の使用材料を減少でき、その分載荷重量を増加できる。
【0050】
また、この貨物機器室12の上側にデッキタンク(図示しない)若しくは液化ガス燃料タンク11aを設けて構成すると、この構成により、貨物機器室12の上側を有効利用でき、液化ガス燃料タンク11aと貨物機器室12の機器類との間の燃料ガス配管を短くできる。
【0051】
また、貨物機器室12の内部に、主機に導かれる燃料ガス配管のフランジ又は弁を設けて構成すると、高圧の燃料ガス配管が乗組員が通行するような外部に露出することが無くなり、燃料ガス配管からのガス漏洩により受傷の危険性を減少でき、安全性を増すことができる。
【0052】
次に、
図3及び
図4を参照して、本発明の係る第2の実施の形態の液化ガス運搬船1Bについて説明する。この液化ガス運搬船1Bは、居住区8が貨物機器室12の後方に設けて構成される点が、第1の実施の形態の液化ガス運搬船1Aと異なる。この液化ガス運搬船1Bの構成によれば、貨物機器室12の移動に伴い、居住区8を貨物機器室12より後方に移動して設置するという比較的簡単な配置変更で済む。特に、船首部に居住区を設ける場所が無い場合は、船の長さを長くすること無く居住区を配置することが可能になる。また、貨物区画の上甲板4上に貨物機器室の設置場所を確保できず且つ船首部にも居住区の設置場所を確保できないという場合には、この配置が有効となる。
【0053】
次に、
図5及び
図6を参照して、本発明の係る第3の実施の形態の液化ガス運搬船1Cについて説明する。この液化ガス運搬船1Cは、貨物機器室12と居住区8の間に、区画14が設けられて構成される点が、第2の実施の形態の液化ガス運搬船1Bと異なる。
【0054】
この区画14は、コファーダム、空所、燃料油タンク、水タンクのうちのいずれか1つ以上を配設した区画として設けたり、若しくは、機関室5の一部を上甲板4より上に突設して設けた機関室突設部としたり、機関室5とは別の区画となる機械室若しくは倉庫のいずれか一方又は両方を配置する区画としたりして構成する。なお、この機械室には、空気調整装置(エアコン)や油圧機器などが配置される。
【0055】
これにより、この区画14により、貨物機器室12と居住区8を、隣接させずに済むので、貨物機器室12においてガス漏洩が発生した場合でも、居住区8内にその漏洩したガスが侵入する危険性を減少できる。
【0056】
次に、
図7及び
図8を参照して、本発明の係る第4の実施の形態の液化ガス運搬船1Dについて説明する。この液化ガス運搬船1Dは、貨物機器室12の下側の機関室5の前部に、コファーダム、空所、燃料油タンク、水タンク、燃料油移送ポンプ、バラストポンプ、バラスト水処理装置のうちのいずれか1つ以上を備えた機関室前部区画15を設けて構成される点が、第2の実施の形態の液化ガス運搬船1Bと異なる。
【0057】
この構成により、機関室5と貨物区画R1との間に空隙を設けることができ、貨物機器室12からの燃料ガス配管をこの機関室前部区画15に配設することにより、貨物機器室12においてガス漏洩が発生した場合でも、機関室5内にその漏洩したガスが侵入する危険性を減少することができる。
【0058】
次に、
図9及び
図10を参照して、本発明の係る第5の実施の形態の液化ガス運搬船1Eについて説明する。この液化ガス運搬船1Eは、貨物機器室12の下側で機関室5の上部に、コファーダム、空所、燃料油タンク、水タンクのうちのいずれか1つ以上を備えた機関室上部区画16を設けて構成される点が、第2の実施の形態の液化ガス運搬船1Bと異なる。
【0059】
この構成により、貨物機器室12と機関室5との間に空隙を設けることができるので、貨物機器室12においてガス漏洩が発生した場合でも、機関室5内にその漏洩したガスが侵入する危険性を減少することができる。
【0060】
上記の構成の液化ガス運搬船1A〜1Eによれば、貨物機器室12を機関室5の上側に配置することによって、貨物機器室12が貨物タンク11同士の間から最後端の貨物タンク11の後方に移動することになり、天然ガス等の液化ガスを燃料として使用するために使用される、貨物機器室12から機関室5の主機に至る高圧の燃料ガス配管において、その敷設長さを短くすることができるので、高圧の燃料ガスの漏洩による危険性を軽減することができる。
【0061】
それと共に、貨物機器室12の移動により、貨物タンク11同士の間のスペースに収めるという制約を無くして貨物機器室12を大きくすることができる上に、貨物タンク11間の貨物機器室12があったスペースが空くので、追加の荷役用マニホールド等の追加の荷役設備、別の用途の追加の船楼、追加の大型艤装品を設置する場所を確保することができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物によれば、液化ガスを燃料として使用するために使用される、貨物機器室から機関室の主機に至る高圧の燃料ガス配管の敷設長さを短くすることができるので、高圧ガスの漏洩による危険性を軽減することができ、それと共に、貨物機器室に対して貨物タンク同士の間のスペースに収めるという制約を無くして貨物機器室を大きくすることができる上に、貨物タンク間の貨物機器室があったスペースが空いて、追加の荷役設備、追加の船楼、追加の大型艤装品を設置する場所を確保することができるようになるので、液化ガス貯蔵設備を備えた液化ガス運搬船、液化ガス燃料タンクを備えた船舶、液化ガス燃料タンクを備えた浮体構造物、又は、液化ガス貯蔵設備を有する浮体構造物等の液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物に利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1A〜1E、1X 液化ガス運搬船(液化ガス貯蔵設備を備えた浮体構造物)
2 船底
3 船側
4 上甲板
5 機関室
6 プロペラ
7 舵
8 居住区
8a 航海船橋
9 煙突
11 貨物タンク
11a 液化ガス燃料タンク
12 貨物機器室
13 荷役用マニホールド
14 区画
15 機関室前部区画
16 機関室上部区画
17 通行路
R1 貨物区画