特許第5953753号(P5953753)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953753
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】非線形顕微鏡及び非線形観察方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/06 20060101AFI20160707BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20160707BHJP
   G01N 21/65 20060101ALI20160707BHJP
   G02F 1/39 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   G02B21/06
   G02B21/36
   G01N21/65
   G02F1/39
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-3956(P2012-3956)
(22)【出願日】2012年1月12日
(65)【公開番号】特開2013-142854(P2013-142854A)
(43)【公開日】2013年7月22日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100072718
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 史旺
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】福武 直樹
【審査官】 殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/099269(WO,A1)
【文献】 特開2006−023387(JP,A)
【文献】 特開2009−058578(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/121523(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 21/00 − 21/36
G01N 21/62 − 21/74
G02F 1/00 − 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から供給される照明光を被観察物上に集光し、その集光点にてコヒーレントな非線形光学過程を生起させる照明光学系と、
前記集光点における前記非線形光学過程で発生したコヒーレントな信号光を検出する検出光学系と
を備える非線形顕微鏡において、
前記非線形光学過程のタイプ、前記非線形光学過程の使用波長、前記非線形光学過程の照明タイプ、前記照明光学系の対物レンズのNA、前記検出光学系の対物レンズのNAのいずれかの設定が変更可能であって、
変更された設定において算出された前記非線形顕微鏡のコヒーレント伝達関数の伝達域の形状を示す画像の情報を表示装置に出力する算出手段をさらに備える
ことを特徴とする非線形顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の非線形顕微鏡において、
前記算出手段は、
前記コヒーレント伝達関数を算出するための演算式を予め記憶している
ことを特徴とする非線形顕微鏡。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の非線形顕微鏡において、
前記被観察物の被観察面を前記集光点で走査しながら前記信号光の検出を繰り返すことにより、前記被観察面の画像を取得する制御手段を更に備えた
ことを特徴とする非線形顕微鏡。
【請求項4】
請求項に記載の非線形顕微鏡において、
前記被観察面の画像を前記コヒーレント伝達関数に基づき先鋭化する先鋭化手段を更に備えた
ことを特徴とする非線形顕微鏡。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の非線形顕微鏡において、
前記非線形光学過程のタイプは、
高調波(SHG)、和周波(SFG)、差周波(DFG)、第調波(THG)、コヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)、コヒーレントストークスラマン散乱(CSRS)、三次の誘導ラマンロス(SRL)、三次の誘導ラマンゲイン(SRG)のうち少なくとも2つの間で切り替えが可能である
ことを特徴とする非線形顕微鏡。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の非線形顕微鏡において、
前記非線形光学過程の照明タイプは、透過型と反射型との間で切り替えが可能である
ことを特徴とする非線形顕微鏡。
【請求項7】
光源から供給される照明光を被観察物上に集光し、その集光点にてコヒーレントな非線形光学過程を生起させる照明手順と、
前記集光点における前記非線形光学過程で発生したコヒーレントな信号光を検出する検出手順と
を含む非線形観察方法において、
前記非線形光学過程のタイプ、前記非線形光学過程の使用波長、前記非線形光学過程の照明タイプ、前記照明光学系の対物レンズのNA、前記検出光学系の対物レンズのNAのいずれかの設定が変更可能であって、
変更された設定において算出された前記非線形顕微鏡のコヒーレント伝達関数の伝達域の形状を示す画像の情報を表示装置に出力する算出手順をさらに含む
ことを特徴とする非線形観察方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形顕微鏡及び非線形観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共焦点顕微鏡は、光源から射出した照明光を被検物に向けて集光する照射光学系と、被検物から射出した光を、照射光の集光点と共役な位置に配置された共焦点絞り(ピンホール部材)を介して検出する検出光学系とを備える(特許文献1などを参照)。
【0003】
この構成では、照明光の集光点とは異なる高さの層から射出した光の大部分はピンホール部材で阻止されるので、照射光学系の焦点を所望の高さの層に合わせ、照明光のスポットで被検物上を二次元走査しながら検出を繰り返せば、その層の画像(断面画像)を取得することができる。
【0004】
さらに、被検物に対する集光点の高さを変化させながら断面画像の取得を繰り返し、各高さ位置で取得した断面画像を合成すれば、被検物の三次元画像を取得することもできる。なお、通常の共焦点顕微鏡において信号光として検出されるのは、照射光の強度に対して線形な強度で被検物から発せられる蛍光である。
【0005】
それに対し、近年になると、コヒーレントな非線形光学過程を利用した非線形顕微鏡の開発が盛んに行われるようになった(例えば、特許文献2を参照。)。非線形顕微鏡において信号光として検出されるのは、照明光の強度に対して非線形な強度で被検物から発せられる光である。
【0006】
この非線形顕微鏡は、照明光として比較的長い波長の光(近赤外線)を用いることができるので、被検物の深部観察が可能である。また、非線形光学過程は対物レンズの焦点近傍の微小領域でしか生起しないので、非線形顕微鏡の分解能は、線形顕微鏡の分解能と比して格段に高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−279085号公報
【特許文献2】特開2009−47435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非線形顕微鏡の性能は経験的に知られているものの、それを定量的に表わした例はほとんどない。
【0009】
そこで本発明は、性能の評価機能を備えた非線形顕微鏡及び非線形観察方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明を例示する非線形顕微鏡は、光源から供給される照明光を被観察物上に集光し、その集光点にてコヒーレントな非線形光学過程を生起させる照明光学系と、前記集光点における前記非線形光学過程で発生したコヒーレントな信号光を検出する検出光学系とを備える非線形顕微鏡において、前記非線形光学過程のタイプ、前記非線形光学過程の使用波長、前記非線形光学過程の照明タイプ、前記照明光学系の対物レンズのNA、前記検出光学系の対物レンズのNAのいずれかの設定が変更可能であって、変更された設定において算出された前記非線形顕微鏡のコヒーレント伝達関数の伝達域の形状を示す画像の情報を表示装置に出力する算出手段をさらに備える。
【0011】
本発明を例示する非線形観察方法は、光源から供給される照明光を被観察物上に集光し、その集光点にてコヒーレントな非線形光学過程を生起させる照明手順と、前記集光点における前記非線形光学過程で発生したコヒーレントな信号光を検出する検出手順とを含む非線形観察方法において、前記非線形光学過程のタイプ、前記非線形光学過程の使用波長、前記非線形光学過程の照明タイプ、前記照明光学系の対物レンズのNA、前記検出光学系の対物レンズのNAのいずれかの設定が変更可能であって、変更された設定において算出された前記非線形顕微鏡のコヒーレント伝達関数の伝達域の形状を示す画像の情報を表示装置に出力する算出手順をさらに含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、性能の評価機能を備えた非線形顕微鏡及び非線形観察方法が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の非線形顕微鏡の構成図である。
図2】タイプの異なる複数の非線形光学過程の各々をdouble-sided Feynman diagramで表したものである。
図3】SRL、SRGにおける信号検出方法を説明する図である。
図4】典型的な3次元瞳関数を説明する図である。
図5】二値化CTFを非線形光学過程のタイプ毎に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態として非線形顕微鏡を説明する。
【0015】
図1は、本実施形態の非線形顕微鏡の構成図である。図1の上部は、非線形顕微鏡の光源側の構成を示す図であり、図1の下部は、非線形顕微鏡の試料側の構成を示す図である。
【0016】
図1の上部に示すとおり本実施形態の非線形顕微鏡には、レーザ光源11と、レンズ121と、ビームスプリッタ122と、光パラメトリック発振器(OPO)125−1、125−2と、電気光学変調器(EOM)126−1、126−2と、全反射ミラー123、127A、127B、127Cと、光路長差調整機構128と、ビームスプリッタ129とが備えられる。
【0017】
図1の下部に示すとおり本実施形態の非線形顕微鏡には、ダイクロイックミラー14と、光スキャナ15と、リレー光学系(レンズ16A、16B)と、対物レンズ切り替え機構19と、透過型のステージ100と、対物レンズ切り替え機構20と、全反射ミラー21と、フィルタ切り替え機構22t、22rと、集光レンズ25t、25rと、ピンホールマスク26t、26rと、光検出器27t、27rと、ロックインアンプ23t、23rと、制御部28と、演算部29とが備えられる。
【0018】
なお、ステージ100は、透過型のステージであって、透明な容器である培養容器10を支持している。培養容器10の内部には、生体細胞を含んだ透明な培養液が収容されている。この生体細胞に含まれる分子(タンパク質、脂質など)が、非線形顕微鏡の観察対象物となる。
【0019】
レーザ光源11は、パルスレーザ光を発振するパルスレーザ光源であって、レーザ光源が発振するパルスレーザ光のパルス形状は、適切な形状に設定されている。この設定により、後述する光スポットの中心部分(高密度スポット)のエネルギー密度は、観察対象物に非線形光学過程を生起させるのに適したエネルギー密度となる。このレーザ光源11から射出したパルスレーザ光は、レンズ121へ入射する。
【0020】
レンズ121へ入射したパルスレーザ光は、径の太い平行光束となり、ビームスプリッタ122へ入射し、ビームスプリッタ122を透過するパルスレーザ光Lと、ビームスプリッタ122を反射するパルスレーザ光Lとに分岐される(なお、図1では、互いに同じ光周波数を有した光に対して互いに同じ符号を付している。)。
【0021】
ビームスプリッタ122を透過したパルスレーザ光Lは、OPO125−1、EOM126−1、全反射ミラー127A、光路長差調整機構128、全反射ミラー127Bを順に介してビームスプリッタ129へ入射する。また、ビームスプリッタ122を反射したパルスレーザ光Lは、全反射ミラー123、OPO125−2、EOM126−2、全反射ミラー127Cを順に介してビームスプリッタ129へ入射する。
【0022】
以下、OPO125−1を経由するパルスレーザ光Lを「パルスレーザ光L1」とし、OPO125−2を経由するパルスレーザ光Lを「パルスレーザ光L2」とする。
【0023】
パルスレーザ光L1の単独光路へ配置されたOPO125−1は、入射したパルスレーザ光L1の光周波数を変換することにより、パルスレーザ光L1の光周波数を所定の周波数ωに設定する。なお、OPO125−1の出力周波数ωは、制御部28によって適宜に切り替えられる。
【0024】
パルスレーザ光L2の単独光路へ配置されたOPO125−2は、入射したパルスレーザ光L2の光周波数を変換することにより、パルスレーザ光L2の光周波数をωとは異なる周波数ωに設定する。なお、OPO125−2の出力周波数ωは、制御部28によって適宜に切り替えられる(以下、ω>ωとする。)。
【0025】
パルスレーザ光L1の単独光路へ配置されたEOM126−1は、入射したパルスレーザ光L1の強度を時間方向にかけて所定の周波数でパルス変調する。このEOM126−1の変調周波数は、パルスレーザ光L1の繰り返し周波数よりも低い値に設定される。なお、EOM126−1の変調機能は、制御部28によって適当なタイミングでオン/オフされ、EOM126−1の変調機能がオフされた状態では、パルスレーザ光L1は無変調状態となる。また、EOM126−1の出力強度をゼロに設定すれば、パルスレーザ光L1をオフすることができる。
【0026】
パルスレーザ光L2の単独光路へ配置されたEOM126−2は、入射したパルスレーザ光L2の強度を時間方向にかけて所定の周波数で変調する。このEOM126−2の変調周波数は、パルスレーザ光L2の繰り返し周波数よりも低い値に設定される。なお、EOM126−2の変調機能は、制御部28によって適当なタイミングでオン/オフされ、EOM126−2の変調機能がオフされた状態では、パルスレーザ光L2は無変調状態となる。また、EOM126−2の出力強度をゼロに設定すれば、パルスレーザ光L2をオフすることができる。
【0027】
光路長差調整機構128は、パルスレーザ光L1、L2の光路長差を調整するための機構である。両者の光路長差は、パルスレーザ光L1の何れかのパルスがビームスプリッタ129へ入射するタイミングと、パルスレーザ光L2の何れかのパルスがビームスプリッタ129へ入射するタイミングとが合致するように予め調整されている。
【0028】
ビームスプリッタ129へ入射したパルスレーザ光L1、L2は、互いの光路を統合し、ダイクロイックミラー14へ向かう。これらのパルスレーザ光L1、L2は、ダイクロイックミラー14を透過し、光スキャナ15、レンズ16A、16Bを順に介して対物レンズ切り替え機構19の有効対物レンズへ入射する。
【0029】
対物レンズ切り替え機構19は、NAの異なる複数の対物レンズを備えており、それらの対物レンズのうち1つを選択的に光路へ設定する。ここでは、対物レンズ切り替え機構19が光路へ設定している対物レンズを「有効対物レンズ」と称している。対物レンズ切り替え機構19の切り替え位置は、制御部28によって制御される。
【0030】
対物レンズ切り替え機構19の有効対物レンズへ入射したパルスレーザ光L1、L2は集光し、培養容器10の観察対象面10A上に光スポットを形成する。その光スポットの中心部分(高密度スポット)では、非線形光学過程が生起し、信号光が発生する。
【0031】
培養容器10で発生した信号光のうち、対物レンズ切り替え機構20の有効対物レンズの側へ射出したもの(透過信号光)は、対物レンズ切り替え機構20の有効対物レンズへ入射する。
【0032】
対物レンズ切り替え機構20は、NAの異なる複数の対物レンズを備えており、それらの対物レンズのうち1つを選択的に光路へ設定する。ここでは、対物レンズ切り替え機構20が光路へ設定している対物レンズを「有効対物レンズ」と称している。対物レンズ切り替え機構20の切り替え位置は、制御部28によって制御される。
【0033】
対物レンズ切り替え機構20の有効対物レンズへ入射した信号光は、全反射ミラー21を介してフィルタ切り替え機構22tの有効フィルタへ入射する。
【0034】
なお、フィルタ切り替え機構22tは、パスバンドの異なる複数のフィルタを備えており、それらのフィルタのうち1つを選択的に光路へ設定する。ここでは、フィルタ切り替え機構22tが光路へ設定しているフィルタを「有効フィルタ」と称している。フィルタ切り替え機構22tの切り替え位置は、制御部28によって制御される。
【0035】
フィルタ切り替え機構22tの有効フィルタを通過した透過信号光Lrは、集光レンズ25tにより集光され、ピンホールマスク26tのピンホール近傍に向かう。ピンホールマスク26tを通過した透過信号光Ltは、光検出器27tへ入射し、電気信号へと変換される。この電気信号は、ロックインアンプ23tを介して制御部28へと入力される。
【0036】
ロックインアンプ23tは、制御部28によってEOM126−1又はEOM126−2と同期制御され、光検出器27tから出力される電気信号のうち、EOM126−1又はEOM126−2の変調周波数と同じ周波数で変化する成分を抽出する。なお、ロックインアンプ23tのロックイン機能は、制御部28によって適当なタイミングでオン/オフされる。
【0037】
培養容器10で発生した信号光のうち、対物レンズ切り替え機構19の有効対物レンズの側へ射出したもの(反射信号光)は、対物レンズ切り替え機構19の有効対物レンズへ入射する。
【0038】
対物レンズ切り替え機構19の有効対物レンズへ入射した反射信号光は、レンズ16B、16A、光スキャナ15を順に介してダイクロイックミラー14へ入射する。この反射信号光は、フィルタ切り替え機構22rの有効フィルタへ入射する。
【0039】
フィルタ切り替え機構22rは、パスバンドの異なる複数のフィルタを備えており、それらのフィルタのうち1つを選択的に光路へ設定する。ここでは、フィルタ切り替え機構22rが光路へ設定しているフィルタを「有効フィルタ」と称している。フィルタ切り替え機構22rの切り替え位置は、制御部28によって制御される。
【0040】
フィルタ切り替え機構22rの有効フィルタを通過した反射信号光Lrは、集光レンズ25rにより集光され、ピンホールマスク26rのピンホール近傍に向かう。ピンホールマスク26rを通過した反射信号光Lrは、光検出器27rへ入射し、電気信号へと変換される。この電気信号は、ロックインアンプ23rを介して制御部28へと入力される。
【0041】
ロックインアンプ23rは、制御部28によってEOM126−1又はEOM126−2と同期制御され、光検出器27rから出力される電気信号のうち、EOM126−1又はEOM126−2の変調周波数と同じ周波数で変化する成分を抽出する。なお、ロックインアンプ23rのロックイン機能は、制御部28によって適当なタイミングでオン/オフされる。
【0042】
光スキャナ15は、1対のガルバノメータミラーなどを配置した光スキャナであって、光スキャナ15が駆動されると前述した光スポットは観察対象面10A上を移動する。
【0043】
制御部28は、光スキャナ15を駆動して光スポットで観察対象面10A上を二次元走査すると共に、光スポットが各走査位置にあるときに光検出器27rを駆動することにより、反射信号光の強度の観察対象面10A上の分布(反射観察画像)を取得することができる。さらに、制御部28は、培養容器10を光軸方向にシフトさせながら反射観察画像の取得を繰り返すことにより、3次元の反射観察画像を取得する。この反射観察画像は、演算部29を介して不図示のモニタに表示される。
【0044】
演算部29は、反射観察画像の表示に先立ち、その反射観察画像に関する分解能を算出する処理(分解能算出処理)と、反射観察画像を先鋭化する処理(先鋭化処理)とを実行する(詳細は後述)。
【0045】
また、制御部28は、ステージ100を光軸と垂直な方向(xy方向)に移動させることにより光スポットで観察対象面10A上を二次元走査すると共に、光スポットが各走査位置にあるときに光検出器27tを駆動することにより、透過信号光の強度の観察対象面10A上の分布(透過観察画像)を取得することができる。さらに、制御部28は、培養容器10を光軸方向にシフトさせながら透過観察画像の取得を繰り返すことにより、3次元の透過観察画像を取得する。この透過観察画像は、演算部29を介して不図示のモニタに表示される。
【0046】
演算部29は、透過観察画像の表示に先立ち、透過観察画像に関する分解能を算出する処理(分解能算出処理)と、透過観察画像を先鋭化する処理(先鋭化処理)とを実行する(詳細は後述)。
【0047】
なお、制御部28は、ユーザからの指示に応じて、駆動対象となる光検出器を光検出器27r、27tの間で切り替えると共に、駆動対象となる機構を光スキャナ15とステージ100との間で切り替えることにより、非線形顕微鏡が取得する観察画像を、透過観察画像と反射観察画像との間で切り替える。このように、非線形顕微鏡が取得する観察画像を透過観察画像と反射観察画像との間で切り替えることは、非線形顕微鏡の照明タイプを透過型と反射型との間で切り替えることに相当する。
【0048】
また、制御部28は、ユーザからの指示に応じて、パルスレーザ光L1の光周波数ωとパルスレーザ光L2の光周波数ωとの組み合わせを切り替えることにより、非線形光学過程の使用波長を切り替える。
【0049】
また、制御部28は、ユーザからの指示に応じて、パルスレーザ光L1、L2のオン/オフ状態と、EOM126−1、126−2の変調機能のオン/オフ状態と、ロックインアンプ23t、23rのロックイン機能のオン/オフ状態と、フィルタ切り替え機構22t、22rの設定位置との組み合わせを切り替えることにより、観察に利用される非線形光学過程のタイプを切り替える。切り替え可能な非線形光学過程のタイプは、例えば、以下のタイプ(A)〜(H)である。
【0050】
(A)第高調波(SHG):光周波数ωの照明光を照射し、光周波数ωs=2ωの信号光を検出する非線形光学過程。このSHGをdouble-sided Feynman diagramで表したのが図2(A)である。よって、このSHGを利用するためには、光周波数がωであるパルスレーザ光L1をオンし、光周波数がωであるパルスレーザ光L2をオフし、EOM126−1、126−2の双方の変調機能をオフし、ロックインアンプ23t、23rの双方のロックイン機能をオフし、パスバンドがωs=2ωであるフィルタをフィルタ切り替え機構22t、22rの有効フィルタに設定すればよい。
【0051】
(B)和周波(SFG):周波数ω、ωの照明光を照射し、周波数ωs=(ω+ω)の信号光を検出する非線形光学過程。このSFGをdouble-sided Feynman diagramで表したのが図2(B)である。よって、このSFGを利用するためには、光周波数がωであるパルスレーザ光L1と、光周波数がωであるパルスレーザ光L2との双方をオンし、EOM126−1、126−2の双方の変調機能をオフし、ロックインアンプ23t、23rの双方のロックイン機能をオフし、パスバンドがωs=(ω+ω)であるフィルタをフィルタ切り替え機構22t、22rの有効フィルタに設定すればよい。
【0052】
(C)差周波(DFG):周波数ω、ωの照明光を照射し、周波数ωs=(ω−ω)の信号光を検出する非線形光学過程(但し、ω>ω)。このDFGをdouble-sided Feynman diagramで表したのが図2(C)である。よって、このDFGを利用するためには、光周波数がωであるパルスレーザ光L1と、光周波数がωであるパルスレーザ光L2との双方をオンし、EOM126−1、126−2の双方の変調機能をオフし、ロックインアンプ23t、23rの双方のロックイン機能をオフし、パスバンドがωs=(ω−ω)であるフィルタをフィルタ切り替え機構22t、22rの有効フィルタに設定すればよい。
【0053】
(D)第調波(THG):周波数ωの照明光を照射し、周波数ωs=3ωの信号光を検出する非線形光学過程。このTHGをdouble-sided Feynman diagramで表したのが図2(D)である。よって、このTHGを利用するためには、光周波数がωであるパルスレーザ光L1をオンし、光周波数がωであるパルスレーザ光L2をオフし、EOM126−1、126−2の双方の変調機能をオフし、ロックインアンプ23t、23rの双方のロックイン機能をオフし、パスバンドがωs=3ωであるフィルタをフィルタ切り替え機構22t、22rの有効フィルタに設定すればよい。
【0054】
(E)コヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS):周波数ω、ωの照明光を照射し、周波数ωs=(2ω−ω)の信号光を検出する非線形光学過程(ω>ω)。このCARSをdouble-sided Feynman diagramで表したのが図2(E)である。よって、このCARSを利用するためには、光周波数がωであるパルスレーザ光L1と、光周波数がωであるパルスレーザ光L2との双方をオンし、EOM126−1、126−2の双方の変調機能をオフし、ロックインアンプ23t、23rの双方のロックイン機能をオフし、パスバンドがωs=(2ω−ω)であるフィルタをフィルタ切り替え機構22t、22rの有効フィルタに設定すればよい。
【0055】
(F)コヒーレントストークスラマン散乱(CSRS):周波数ω、ωの照明光を照射し、周波数ωs=(2ω−ω)の信号光を検出する非線形光学過程(但し、ω>ω、2ω>ω)。このCSRSをdouble-sided Feynman diagramで表したのが図2(F)である。よって、このCSRSを利用するためには、光周波数がωであるパルスレーザ光L1と、光周波数がωであるパルスレーザ光L2との双方をオンし、EOM126−1、126−2の双方の変調機能をオフし、ロックインアンプ23t、23rの双方のロックイン機能をオフし、パスバンドがωs=(2ω−ω)であるフィルタをフィルタ切り替え機構22t、22rの有効フィルタに設定すればよい。
【0056】
(G)三次の誘導ラマンロス(SRL):周波数ω、ωの照明光を照射し、周波数ωs=ωの信号光を検出する非線形光学過程(但し、ω>ω)。このSRLをdouble-sided Feynman diagramで表したのが図2(G)である。よって、このSRLを利用するためには、光周波数がωであるパルスレーザ光L1と、光周波数がωであるパルスレーザ光L2との双方をオンし、EOM126−1の変調機能をオフし、EOM126−2の変調機能をオンし、ロックインアンプ23t、23rの双方のロックイン機能をオンし、パスバンドがωs=ωであるフィルタをフィルタ切り替え機構22t、22rの有効フィルタに設定すればよい。
【0057】
すなわち、SRLでは、信号光の光周波数ωsが一方のパルスレーザ光L1の光周波数ωと等しいので、両者を分離するために、図3(A)に示すとおり他方のパルスレーザ光L2を時間変調すると共に、光周波数がωである信号光を、変調周波数と同じ周波数でロックイン検出(復調)する。
【0058】
(H)三次の誘導ラマンゲイン(SRG):周波数ω、ωの照明光を照射し、周波数ωs=ωの信号光(ラマンゲイン)を検出する非線形光学過程(但し、ω>ω)。このSRGをdouble-sided Feynman diagramで表したのが図2(H)である。よって、このSRGを利用するためには、光周波数がωであるパルスレーザ光L1と、光周波数がωであるパルスレーザ光L2との双方をオンし、EOM126−1の変調機能をオンし、EOM126−2の変調機能をオフし、ロックインアンプ23t、23rの双方のロックイン機能をオンし、パスバンドがωs=ωであるフィルタをフィルタ切り替え機構22t、22rの有効フィルタに設定すればよい。
【0059】
すなわち、SRGでは、信号光の光周波数ωsが一方のパルスレーザ光L2の光周波数ωと等しいので、両者を分離するために、図3(B)に示すとおり他方のパルスレーザ光L1を時間変調すると共に、光周波数がωである信号光を、変調周波数と同じ周波数でロックイン検出(復調)する。
【0060】
<double-sided Feynman diagram>
ここで、double-sided Feynman diagram(図2)を簡単に説明する。
【0061】
double-sided Feynman diagram(図2)における1対の平行な線分は、非線形光学過程を生起させる分子の状態(分極状態)を表現している。分極状態とは、2つの状態が量子力学的に重なり合った状態で、1対の平行な線分は一方の状態と他方の状態とを表している。線分に向かう矢印は、分子が吸収する光を表しており、線分から離れる矢印は、分子から放出される光を表している。励起光の吸収や放出を表す矢印が線分に交わるたびに状態が遷移していき、分極状態が変化していく。左上の波線の矢印は、最終的に発する信号光を表しており、信号光を発した結果、分子の状態は分極状態からある終状態(定常状態)へと移行する。矢印に添えられた記号ωは、その励起光の周波数を意味する。
【0062】
<演算部29が予め記憶する演算式>
ここで、演算部29が予め記憶する演算式を説明する。
【0063】
演算部29が予め記憶する演算式は、非線形顕微鏡のコヒーレント伝達関数(CTF)を算出するための下記の演算式である。
【0064】
【数1】
なお、演算式中の各演算記号は、以下のとおり定義される。
【0065】
【数2】
また、演算式中のPs(f’)は、信号光の3次元瞳関数(信号光を導光する有効対物レンズの3次元瞳関数)である。また、f’は空間周波数であって、z方向(光軸方向)の空間周波数fz’と、x方向の空間周波数fx’と、y方向の空間周波数fy’とからなる。
【0066】
また、演算式中のPR1(f’)、PR2(f’)、…は、double-sided Feynman diagramにおいて右上向き実線矢印で表される光周波数を有した光の3次元瞳関数(光を導光する有効対物レンズの3次元瞳関数)である(順不同)。
【0067】
また、演算式中のPL1(f’)、PL2(f’)、…は、double-sided Feynman diagramの左上向き実線矢印で表される光周波数を有した光の3次元瞳関数(光を導光する有効対物レンズの3次元瞳関数)である(順不同)。
【0068】
したがって、この演算式は、非線形光学過程のタイプがSHG(図2(A))である場合には、以下の演算式(A)となり、非線形光学過程のタイプがSFG(図2(B))である場合には、以下の演算式(B)となり、非線形光学過程のタイプがDFG(図2(C))である場合には、以下の演算式(C)となり、非線形光学過程のタイプがTHG(図2(D))である場合には、以下の演算式(D)となり、非線形光学過程のタイプがCARS(図3(E))である場合には、以下の演算式(E)となり、非線形光学過程のタイプがCSRS(図3(F))である場合には、以下の演算式(F)となり、非線形光学過程のタイプがSRL(図3(G))である場合には、以下の演算式(G)となり、非線形光学過程のタイプがSRG(図3(H))である場合には、以下の演算式(H)となる。なお、これらの演算式(A)〜(H)における添え字nは、double-sided Feynman diagramにおける添え字nに対応している。
【0069】
【数3】
また、或る光の3次元瞳関数P(f’)は、その光を導光する有効対物レンズのNAと、その光の波長λと、その光の媒質の屈折率n(nは、λに依存するので、以下、「n(λ)」と表す。)とによって決まり、典型的には、値が1となる範囲と値が0となる範囲とを有した関数であって、値が1となる範囲を図示すると、図4に示すような部分球殻状となる。この部分球殻の曲率半径は、n(λ)/λに一致し、部分球殻の縁から原点に向かう線分とfz’軸との成す角度をθとおくと、sinθはNA/n(λ)に一致する。
【0070】
因みに、図4に示したのは、照明タイプが透過型である場合の信号光の3次元瞳関数Ps(f’)の例である。照明タイプが反射型の場合、信号光の3次元瞳関数Ps(f’)は、図4の関数をfx’−fy’平面に関して反転させたものとなる。
【0071】
<演算部29による分解能算出処理>
次に、演算部29による分解能算出処理を説明する。
【0072】
分解能算出処理は、制御部28からの指示に応じて実行される。制御部28は、非線形顕微鏡の設定内容(非線形光学過程のタイプと、非線形光学過程の使用波長と、有効対物レンズのNAと、照明タイプとの組み合わせ)が変更されたか否かを判別し、変更された場合に分解能算出処理の実行指示を演算部29へ与える。なお、演算部29には、実行指示と共に、非線形顕微鏡の設定内容(非線形光学過程のタイプと、非線形光学過程の使用波長と、有効対物レンズのNAと、照明タイプとの組み合わせ)の情報が与えられる。
【0073】
実行指示が与えられると、演算部29は、演算式(A)〜(H)の中の1つを非線形光学過程のタイプに応じて選択する。
【0074】
次に、演算部29は、選択した演算式に必要な3次元瞳関数、すなわち、P(f’)、P(f’)の少なくとも1つと、Ps(f’)とを作成する。なお、その作成は、使用波長及びNA及び照明タイプに基づき行われる。
【0075】
次に、演算部29は、作成した3次元瞳関数をその演算式へ当てはめることにより、非線形顕微鏡のCTF(f’)を算出する。
【0076】
次に、演算部29は、算出したCTF(f’)のfx’−fz’平面における分布を二値化処理することにより、二値化CTFを取得する。この二値化CTFは、観察対象面から光検出器の側へと伝達可能な構造のfz’方向の空間周波数域(伝達域)を示す。
【0077】
次に、演算部29は、取得した二値化CTFを、非線形顕微鏡の分解能として不図示のモニタへ表示する。
【0078】
図5(A)は、非線形光学過程のタイプがSHGであったときの二値化CTFであり、図5(B)は、非線形光学過程のタイプがDFGであったときの二値化CTFであり、図5(C)は、非線形光学過程のタイプがTHGであったときの二値化CTFであり、図5(D)は、非線形光学過程のタイプがCARS又はCSRSであったときの二値化CTFであり、図5(E)は、非線形光学過程のタイプがSRG又はSRLであったときの二値化CTFである。
【0079】
図5(A)〜(E)の各々の横軸は、fz’軸であり、縦軸は、fx’fy’方向である。これらの図5(A)〜(E)において明るい領域が伝達域であり、暗い領域が非伝達域である。fz’方向の伝達域の幅が広いほどz方向の観察分解能は高いとみなすことができ、fx’方向の伝達域の幅が広いほどxy方向の観察分解能は高いとみなすことができる(対物レンズは回転対称な形状をしているのでx方向の特性はそのままy方向の特性にも当てはまるので。)。
【0080】
また、図5(A)〜(E)の各々は、次の条件下で取得されたものである。
【0081】
(1)照明タイプは透過型である。
【0082】
(2)観察対象面の両側の有効対物レンズのNAは共に0.9である。
【0083】
(3)有効対物レンズの媒質は共に空気(ドライタイプ)である。
【0084】
(4)CARSとCSRSとSRGとSRLで使用される2種類のパルスレーザ光L1、L2の光周波数の差はきわめて小さい(パルスレーザ光L2の波長をλとした)。
【0085】
(5)DFGで使用されるパルスレーザ光L2の波長はDFGで使用されるパルスレーザ光L1の波長の約2倍である(パルスレーザ光L2の波長をλとした)。
【0086】
ここで、図5(A)〜(E)に示すとおり、非線形光学過程のタイプが異なると、他の条件が仮に同じであったとしても、伝達域の形状(つまり分解能)は異なる。例えば、非線形光学過程のタイプがTHGである場合は、原点における二値化CTFが0であるため、THGでは観察対象面の構造のDC成分を分解できないが、他のタイプである場合は、原点における二値化CTFが1であるため、他のタイプでは観察対象面の構造のDC成分を分解できることがわかる。
【0087】
また、図5(A)〜(E)には非線形光学過程のタイプの相違しか表さなかったが、非線形光学過程の使用波長と、有効対物レンズのNAと、照明タイプとの組み合わせが異なれば、非線形光学過程のタイプが仮に同じであったとしても、伝達域の形状(つまり分解能)は異なる。
【0088】
したがって、ユーザは、非線形顕微鏡の設定内容に応じて変化する分解能を、モニタ上で適宜に確認することができる。
【0089】
なお、演算部29は、二値化CTFと共に、信号光の明るさの目安をモニタへ表示してもよい。信号光の明るさの目安は、非線形光学過程の感受率χ(3)によって決まるものであり、非線形光学過程のタイプと、非線形光学過程の使用波長と、有効対物レンズのNAと、照明タイプと、観察対象物のタイプとの組み合わせに基づき算出することができる。なお、観察対象物のタイプは、制御部28がユーザに入力させればよい。
【0090】
<演算部29による先鋭化処理>
次に、演算部29による先鋭化処理を説明する。
【0091】
先鋭化処理は、制御部28からの指示に応じて実行される。制御部28は、3次元の観察画像(3次元の反射観察画像又は3次元の透過観察画像)を取得する度に、先鋭化処理の実行指示を演算部29へ与える。なお、演算部29には、その実行指示と共に、分解能算出処理で算出したCTF(f’)の情報が与えられる。
【0092】
実行指示が与えられると、演算部29は、3次元の観察画像I(x、y、z)をフーリエ変換することにより、フーリエスペクトルF( f’)を取得する(なお、前述したとおり、f’は、fx’、fy’、fz’からなる。)。
【0093】
また、演算部29は、CTF(f’)の自己相関関数R(f’)を算出する。自己相関関数R(f’)のカットオフ周波数の絶対値は、CTF(f’)のカットオフ周波数の絶対値よりも大きい。ここでは、自己相関関数R(f’)のカットオフ周波数を−fa’〜fa’と表す。
【0094】
次に、演算部29は、フーリエスペクトルF(f’)のカットオフ周波数を、自己相関関数R(f’)のカットオフ周波数に一致させるために、フーリエスペクトルF(f’)のうち、カットオフ周波数−fa’〜fa’から外れた範囲の値をゼロに置換する。以下、置換後のフーリエスペクトルF(f’)を、「フーリエスペクトルG(f’)」と称す。
【0095】
次に、演算部29は、フーリエスペクトルG(f’)の周波数操作を行い、フーリエスペクトルG(f’)の立ち上がり(カットオフ周波数の近傍)を緩やかにする。以下、周波数操作後のフーリエスペクトルG(f’)を、「フーリエスペクトルH(f’)」と称す。
【0096】
次に、演算部29は、フーリエスペクトルH(f’)を自己相関関数R(f’)で除算し、除算後のフーリエスペクトルH(f’)を逆フーリエ変換することにより、先鋭化後の観察画像I (x、y、z)を取得する。
【0097】
次に、演算部29は、先鋭化後の観察画像I (x、y、z)を、不図示のモニタへ表示する。
【0098】
したがって、ユーザは、非線形顕微鏡が取得した観察画像を、鮮明な画像として観察することができる。
【0099】
<実施形態の効果>
以上、本実施形態の非線形顕微鏡は、光源(レーザ光源11)から供給される照明光を被観察物(培養容器10)上に集光し、その集光点にてコヒーレントな非線形光学過程を生起させる照明光学系(レンズ121、ビームスプリッタ122、全反射ミラー127A、光路長差調整機構128、全反射ミラー127B、123、127C、ビームスプリッタ129、ダイクロイックミラー14、レンズ16A、16B、対物レンズ切り替え機構19の有効対物レンズなど)と、集光点における非線形光学過程で発生したコヒーレントな信号光を検出する検出光学系(対物レンズ切り替え機構20の有効対物レンズ20、全反射ミラー21、集光レンズ25t、25r、光検出器27t、27rなど)とを備える非線形顕微鏡において、非線形顕微鏡のコヒーレント伝達関数を算出する算出手段(演算部29)とを備える。
【0100】
したがって、本実施形態の非線形顕微鏡は、非線形顕微鏡の性能を定量的に評価することができる。
【0101】
また、算出手段(演算部29)は、コヒーレント伝達関数を算出するための演算式(式(A)〜(H))を予め記憶しているので、非線形顕微鏡の性能評価を高速に行うことができる。
【0102】
また、算出手段(演算部29)は、コヒーレント伝達関数の算出に、非線形光学過程のタイプ、非線形光学過程の使用波長、照明タイプ、照明光学系の対物レンズのNA、検出光学系の対物レンズのNA、のうち少なくとも1つを加味するので、非線形顕微鏡の性能評価を高精度に行うことができる。
【0103】
また、算出手段(演算部29)は、非線形光学過程のタイプ、前記非線形光学過程の使用波長、前記照明光学系の照明タイプ、 前記照明光学系の対物レンズのNA、前記検出光学系の対物レンズのNA、のうち少なくとも1つが変更される度に算出を行うので、非線形顕微鏡の設定内容の変化に対処することができる。
【0104】
また、本実施形態の非線形顕微鏡では、算出手段が算出したコヒーレント伝達関数に関する情報をユーザへ提示する提示手段(モニタ)を更に備えるので、ユーザは、非線形顕微鏡の性能を目で認識することができる。
【0105】
また、提示手段(モニタ)は、算出手段(演算部29)が算出したコヒーレント伝達関数の二値化画像(二値化CTF)をユーザへ提示するので、ユーザは、非線形顕微鏡の性能を直感的に認識することができる。
【0106】
また、本実施形態の非線形顕微鏡は、被観察物の被観察面を集光点で走査しながら信号光の検出を繰り返すことにより、被観察面の画像を取得する制御手段(ステージ100、光スキャナ15)を更に備えているので、被観察物の画像(透過観察画像又は反射観察画像)を高い分解能で取得することができる。
【0107】
また、本実施形態の非線形顕微鏡は、被観察面の画像をコヒーレント伝達関数に基づき先鋭化する先鋭化手段(演算部29)を更に備えるので、コヒーレント伝達関数を有効に利用することができる。
【0108】
また、本実施形態の非線形顕微鏡では、非線形光学過程のタイプは、第高調波(SHG)、和周波(SFG)、差周波(DFG)、第調波(THG)、コヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)、コヒーレントストークスラマン散乱(CSRS)、三次の誘導ラマンロス(SRL)、三次の誘導ラマンゲイン(SRG)のうち少なくとも2つの間で切り替えが可能であるので、タイプの異なる複数の非線形光学過程により同一の被観察面を観察することができる。
【0109】
[第1実施形態の補足]
なお、第1実施形態の演算部29は、fx’−fz’平面における二値化CTFをモニタへ表示したが、他の平面における二値化CTFをモニタへ表示してもよいことは言うまでもない。或いは、複数の平面における二値化CTFをモニタへ表示してもよい。
【0110】
また、第1実施形態の演算部29は、二値化CTFをモニタへ表示したが、二値化前のCTFをモニタへ表示してもよい。また、その場合、CTF値の分布を階調の分布や色相の分布などで表現してもよい。
【0111】
また、第1実施形態の非線形顕微鏡は、共焦点ピンホール(ピンホールマスク26t、26r)を備えているが、省略することも可能である。但し、その場合の先鋭化処理では、CTF(f’)を使用する代わりに、以下の関数H(f’)を使用することが望ましい。
【0112】
この関数H(f’)は、CTF(f’)を算出するための演算式においてPs(f’)をデルタ関数δ(f’)に置き換えた演算式によって算出される関数のことである。
【0113】
また、第1実施形態の演算部29の一部又は全部の機能は、非線形顕微鏡にハードウエアとして搭載されてもよいし、非線形顕微鏡のソフトウエアとして搭載されてもよい。また、ソフトウエアとして実現する場合、そのソフトウエアは、インターネットや記憶媒体を介して非線形顕微鏡のコンピュータへインストールされたものであってもよい。
【0114】
また、第1実施形態で説明したコヒーレント伝達関数(CTF)は、以下のとおり定義される。
【0115】
【数4】
なお、この式における演算記号Fは、フーリエ変換を意味する。
【0116】
また、第1実施形態では、非線形顕微鏡の照明タイプを反射型に設定する場合には非線形顕微鏡をレーザスキャン型として動作させたが、ステージスキャン型として動作させてもよい。その場合には、光スキャナ15は不要である。
【符号の説明】
【0117】
11…レーザ光源、122、129…ビームスプリッタ、125−1、125−2…光パラメトリック発振器(OPO)、126−1、126−2…電気光学変調器(EOM)、14…ダイクロイックミラー、15…光スキャナ、16A…レンズ、16B…レンズ16、19、20…対物レンズ切り替え機構、100…ステージ、22t、22r…フィルタ切り替え機構、25t、25t…集光レンズ、26r、26t…ピンホールマスク、27r、27t…光検出器、23t、23r…ロックインアンプ、28…制御部、29…演算部
図1
図2
図3
図4
図5