(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を詳しく説明する。本発明では、二色性色素が吸着配向しているポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子の少なくとも一方の面に、接着剤層を介して透明樹脂からなる保護膜を貼合し、偏光板とする。この接着剤層は、光カチオン硬化性成分(A)、光カチオン重合開始剤(B)、及び部分ケン化されたポリビニルアルコール系樹脂(C)を含有する光硬化性接着剤から形成する。具体的には、この光硬化性接着剤を紫外線照射により硬化させて、接着剤層を形成する。得られる偏光板には、他の光学層を積層して積層光学部材とすることができる。偏光板の製造に用いられる光硬化性接着剤、偏光子、及び保護膜、並びに、その偏光板に他の光学層を積層して製造される積層光学部材について、順を追って説明を進めていくこととする。
【0019】
[光硬化性接着剤]
光硬化性接着剤は、光カチオン硬化性成分(A)100重量部に対し、光カチオン重合開始剤(B)を1〜10重量部、及びケン化度が20モル%以上50モル%以下であり、水/メタノールの重量比50/50の混合溶媒に5重量%濃度で溶解させた溶液のB型粘度計により測定される粘度が5mPa・sec以下である部分ケン化されたポリビニルアルコール系樹脂(C)を 0.1〜20重量部含有する。以下、この(C)成分を単に「部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂(C)」と呼ぶことがある。また、光カチオン硬化性成分(A)は、分子内に脂環式環を有するとともにエポキシ基を2個有するジエポキシ化合物(A1)50〜90重量%と、分子内に芳香環を有しない脂肪族エポキシ化合物及びオキセタン化合物からなる群より選ばれる反応性脂肪族化合物(A2)10〜50重量%とを含有する。もちろん、これら(A1)及び(A2)の合計が100重量%を超えることはない。
【0020】
光カチオン硬化性成分(A)全体のうち、ジエポキシ化合物(A1)の含有量を50重量以上とすることにより、偏光子と保護膜との間の接着力を高めることができる。一方、その量が90重量%を上回ると、以下に述べる反応性脂肪族化合物(A2)の量が相対的に少なくなって、本発明で企図する光硬化性接着剤の偏光子と保護膜との間の接着力向上が難しくなる。ジエポキシ化合物(A1)は、光カチオン硬化性成分(A)の全体量を基準に、60重量%以上、とりわけ70重量%以上含有させることが、一層好ましい。
【0021】
また、光カチオン硬化性成分(A)全体のうち、反応性脂肪族化合物(A2)を10重量%以上とすることで、偏光子と保護膜との間の接着力を高めることができる。一方、その量が50重量%を上回ると、偏光子と保護膜との間の接着力が十分でなくなる。偏光子と保護膜との間の接着力より好ましい値とするうえでは、光カチオン硬化性成分(A)における反応性脂肪族化合物(A2)の量を25重量%以下とすることが、一層好ましい。
【0022】
光カチオン硬化性成分(A)100重量部あたり、光カチオン重合開始剤(B)を1重量部以上配合することにより、光カチオン硬化性成分(A)を十分に硬化させることができ、得られる偏光板に高い機械強度と接着強度を与える。一方、その量が多くなると、硬化物である接着剤層中にイオン性化合物が増加することで接着剤層の吸湿性が高くなり、偏光板の耐久性能を低下させる可能性がある。そこで、光カチオン重合開始剤(B)の量は、光カチオン硬化性成分(A)100重量部あたり10重量部以下とする。光カチオン重合開始剤(B)の配合量は、光カチオン硬化性成分(A)100重量部あたり2重量部以上とするのが好ましく、また6重量部以下とするのが好ましい。
【0023】
また、光カチオン硬化性成分(A)100重量部あたり、部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂(C)を 0.1重量部以上配合することで、偏光子と保護膜の接着力を高めることができる。一方、部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂(C)の量が多くなると、光カチオン硬化性成分(A)及び光カチオン重合開始剤(B)の量が相対的に少なくなるので、却って偏光子と保護膜の接着力を弱めることになる。そこで、部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂(C)の配合量は、光カチオン硬化性成分(A)100重量部あたり20重量部以下とする。部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂(C)の配合量は、光カチオン硬化性成分(A)100重量部あたり、 0.5重量部以上とするのが好ましく、また10重量部以下とするのが好ましい。
【0024】
(光カチオン硬化性成分)
光硬化性接着剤の主成分であり、重合硬化により接着力を与える光カチオン硬化性成分(A)は、(A1)分子内に脂環式環を有するとともにエポキシ基を2個有するジエポキシ化合物と、(A2)分子内に芳香環を有しない脂肪族エポキシ化合物及びオキセタン化合物からなる群より選ばれる反応性脂肪族化合物を含有する。
【0025】
分子内に脂環式環を有するとともにエポキシ基を2個有するジエポキシ化合物(A1)において、エポキシ基は、脂環式環に直接結合していてもよいし、脂環式環とは別の部位に存在していてもよい。
【0026】
脂環式環に直接結合するエポキシ基を分子内に2個有する化合物は、脂環式ジエポキシ化合物とも呼ばれる。ここで、脂環式環に直接結合するエポキシ基とは、次式(I)に示すように、脂環式環を構成する2個の炭素原子(通常は隣り合う炭素原子)を橋かけでつなぐ酸素原子−O−を意味し、次式(I)中のpは2〜5の整数を表す。
【0028】
上記式(I)における (CH
2)
p 中の水素原子を1個又は複数個取り除いた形の基が他の化学構造に結合しており、そのような脂環式環に直接結合するエポキシ基を分子内に2個有する化合物が、脂環式ジエポキシ化合物となりうる。脂環式環を形成する (CH
2)
p 中の1個又は複数個の水素原子は、メチル基やエチル基のような直鎖状アルキル基で適宜置換されていてもよい。なかでも、エポキシシクロペンタン環〔上記式(I)においてp=3のもの〕や、エポキシシクロヘキサン環〔上記式(I)においてp=4のもの〕を有する脂環式ジエポキシ化合物は、優れた接着性を与えることから好ましく用いられる。以下に、脂環式ジエポキシ化合物の具体的な例を掲げる。ここでは、まず化合物名を挙げ、その後それぞれに対応する化学式を示すこととし、化合物名とそれに対応する化学式には同じ符号を付す。
【0029】
A:3,4−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、
B:3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、
C:エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、
D:ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル) アジペート、
E:ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル) アジペート、
F:ジエチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、
G:エチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、
H:2,3,14,15−ジエポキシ−7,11,18,21−テトラオキサトリスピロ[5.2.2.5.2.2]ヘンイコサン、
I:3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−8,9−エポキシ−1,5−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、
J:ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、
K:ジシクロペンタジエンジオキサイドなど。
【0031】
また、分子内に脂環式環を有するとともに、その脂環式環とは別の部位にエポキシ基を2個有する化合物は、典型的には、脂環式ジオールのジグリシジルエーテルである。例えば、シクロヘキサンジオールを代表例とするシクロアルカンジオールのジグリシジルエーテルであることもできるが、芳香族ジエポキシ化合物の芳香環が水素添加されている化合物であることもできる。後者は、芳香族ジエポキシ化合物の原料である芳香族ジヒドロキシ化合物を、触媒の存在下及び加圧下で選択的に水素化反応を行って得られる2価アルコールを原料とし、それに、硫酸、三フッ化ホウ素、又は四塩化錫のような酸性触媒の存在下、エピクロロヒドリンを反応させてクロロヒドリンエーテルを製造し、得られるクロロヒドリンエーテルをアルカリで分子内閉環させる2段法によって製造することができる。芳香族ジエポキシ化合物しては、例えば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェールFのジグリシジルエーテル、及びビスフェノールSのジグリシジルエーテルのような、ビスフェノール型エポキシ化合物などが挙げられる。これら芳香族ジエポキシ化合物の核水添物が、分子内に脂環式環を有するとともにエポキシ基を2個有するジエポキシ化合物(A1)となるが、それらのなかでは、水素化したビスフェノールAのグリシジルエーテルが好ましい。
【0032】
次に、反応性脂肪族化合物(A2)について、説明する。反応性脂肪族化合物(A2)は、分子内に芳香環を有しない脂肪族エポキシ化合物又はオキセタン化合物である。これらのうち、分子内に芳香環を有しない脂肪族エポキシ化合物は、脂肪族炭素原子に結合するオキシラン環(3員の環状エーテル)を分子内に少なくとも1個有する化合物である。例えば、ブチルグリシジルエーテルや2−エチルヘキシルジルエーテルのような単官能のエポキシ化合物、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルやペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルのような3官能以上のエポキシ化合物もこれに該当するが、典型的には、脂肪族炭素原子に結合するオキシラン環を分子内に2個有する脂肪族ジエポキシ化合物が好ましい。かかる好適な脂肪族ジエポキシ化合物は、例えば、次式(II)で表すことができる。
【0034】
式中のYは、炭素数2〜9のアルキレン基、間にエーテル結合を有する総炭素数4〜9のアルキレン基、又は脂環構造を有する炭素数6〜18の2価の炭化水素基である。
【0035】
上記式(II)で示される分子内に芳香環を有しない脂肪族エポキシ化合物は、具体的には、アルカンジオールのジグリシジルエーテル、繰り返し数4程度までのオリゴアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、又は脂環式ジオールのジグリシジルエーテルである。
【0036】
式(II)で示される脂肪族ジエポキシ化合物となり得るジオール(グリコール)の具体例を、以下に掲げる。アルカンジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、3,5−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオールなどがある。オリゴアルキレングリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどがある。
【0037】
これら脂肪族ジエポキシ化合物のなかでも、アルカンジオールのジグリシジルエーテルが好ましく、とりわけ入手が容易などの理由から好ましいものを挙げると、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルがある。この化合物は、上記式(II)において、−Y−が−(CH
2)
4−、すなわち1,4−ブタンジイルのものである。
【0038】
反応性脂肪族化合物(A2)のうち、オキセタン化合物は、分子内に4員環エーテルであるオキセタン環を有する化合物であるが、特にオキセタン環と水酸基とを有する化合物が好ましい。好ましいオキセタン化合物として、以下の式(III) で示されるオキセタンアルコール化合物を挙げることができ、ここにR
1 は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。
【0040】
上記の式(III) で示されるオキセタンアルコール化合物の具体例を挙げると、3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−メチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−プロピルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−ブチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−ペンチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−ヘキシルオキセタンなどがある。
【0041】
これらのオキセタンアルコール化合物のうち、入手が容易などの理由から、3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタン〔式(III)において、R
1=−C
2H
5である化合物〕が好ましい。
【0042】
反応性脂肪族化合物(A2)は、分子内に芳香環を有しない脂肪族エポキシ化合物とオキセタン化合物のうちいずれか一方のみであってもよいし、両方であってもよい。これらの両成分を併用する場合は、いずれか一方のみを使用する場合と比較して、接着強度が高くなりやすいため好ましい。分子内に芳香環を有しない脂肪族エポキシ化合物とオキセタン化合物の配合比は特には限定されないが、通常、重量比で分子内に芳香環を有しない脂肪族エポキシ化合物:オキセタン化合物=10:1〜1:5の範囲内である。
【0043】
以上のジエポキシ化合物(A1)及び反応性脂肪族化合物(A2)に加え、これらの量的割合が上で説明した範囲内となり、かつこれら2成分の機能を阻害しない範囲で、他の光カチオン硬化性成分を配合してもよい。他の光カチオン硬化性成分として、上のジエポキシ化合物(A1)及び反応性脂肪族化合物(A2)に該当しない単官能エポキシ化合物や、単官能ビニルエーテル化合物などを挙げることができる。(A1)及び(A2)に該当しないエポキシ化合物には、脂環式環に直接結合するエポキシ基を分子内に1個だけ有する化合物や、芳香族エポキシ化合物などが包含される。
【0044】
単官能エポキシ化合物の具体例を挙げると、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、n−ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシオクタデカン、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、 p−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、1−ビニル−3,4−エポキシシクロヘキサン、α−ピネンオキサイドなどがある。これらは、必要に応じて2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0045】
単官能ビニルエーテルの具体例を挙げると、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンメタノールモノビニルエーテル、ジシクロペンタジエンビニルエーテル、アリルビニルエーテル、ノルボルネニルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリシクロデカンビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、エチルオキセタンメチルビニルエーテルなどがある。これらも、必要に応じて2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0046】
(光カチオン重合開始剤)
本発明では、以上説明した光カチオン硬化性成分(A)を活性エネルギー線の照射によるカチオン重合で硬化させて接着剤層を形成することから、光硬化性接着剤には、光カチオン重合開始剤(B)を配合する。光カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、又は電子線の如き活性エネルギー線の照射によって、カチオン種又はルイス酸を発生し、光カチオン硬化性成分(A)の重合反応を開始するものである。光カチオン重合開始剤は光で触媒的に作用するため、光カチオン硬化性成分(A)に混合しても保存安定性や作業性に優れる。活性エネルギー線の照射によりカチオン種又はルイス酸を生じる化合物として、例えば、芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩のようなオニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、鉄−アレーン錯体などを挙げることができる。
【0047】
芳香族ヨードニウム塩は、ジアリールヨードニウムカチオンを有する化合物であり、そのジアリールヨードニウムカチオンとして、典型的にはジフェニルヨードニウムカチオンを挙げることができる。芳香族スルホニウム塩は、トリアリールスルホニウムカチオンを有する化合物であり、そのトリアリールスルホニウムカチオンとして、典型的にはトリフェニルスルホニウムカチオンや4,4′−ビス(ジフェニルスルホニオ)ジフェニルスルフィドカチオンなどを挙げることができる。芳香族ジアゾニウム塩は、ジアゾニウムカチオンを有する化合物であり、そのジアゾニウムカチオンとして、典型的にはベンゼンジアゾニウムカチオンを挙げることができる。また、鉄−アレーン錯体は、典型的にはシクロペンタジエニル鉄(II)アレーンカチオン錯塩である。
【0048】
上に示したカチオンは、アニオン(陰イオン)と対になって光カチオン重合開始剤を構成する。光カチオン重合開始剤を構成するアニオンの例を挙げると、ヘキサフルオロホスフェートアニオンPF
6-、ヘキサフルオロアンチモネートアニオンSbF
6-、ペンタフルオロヒドロキシアンチモネートアニオンSbF
5(OH)
-、ヘキサフルオロアーセネートアニオンAsF
6-、テトラフルオロボレートアニオンBF
4-、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンB(C
6F
5)
4-などがある。
【0049】
これらの光カチオン重合開始剤の中でも、特に芳香族スルホニウム塩は、300nm付近の波長領域でも紫外線吸収特性を有することから、硬化性に優れ、良好な機械強度や接着強度を有する硬化物を与えることができるため、好ましく用いられる。
【0050】
光カチオン重合開始剤は、各種のものが市販されている。市販品の例を挙げると、サンアプロ(株)から販売されている“CPI”シリーズ、米国ユニオンカーバイド社から販売されている“CYRACURE UVI”シリーズ、(株)ADEKAから販売されている“アデカオプトマーSP”シリーズ、ドイツBASF社から販売されている“IRGACURE”シリーズ(ただし、カチオン系光重合開始剤に分類されるもの)、三新化学工業(株)から販売されている“サンエイドSI”シリーズ、ダイセル・サイテック(株)から販売されている“UVACURE 1590”などがある。
【0051】
(ポリビニルアルコール系樹脂)
ポリビニルアルコール系樹脂(C)は、偏光子などポリビニルアルコール系樹脂からなる部材との接着性を向上させる目的で配合される。本発明では、酢酸ビニルに代表されるビニルエステル系単量体を重合して得られるポリビニルエステル系樹脂を部分ケン化して得られたポリビニルアルコール系樹脂が用いられる。このような部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルアルコール構造単位とビニルエステル構造単位を有している。
【0052】
ポリビニルアルコール系樹脂は、ケン化度が20モル%以上、50モル%以下の範囲内にある、いわゆる低ケン化度のものを採用する。ケン化度が20モル%を下回ると、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光子との接着性が悪化しやすくなる。一方、ケン化度が50モル%を上回ると、光カチオン硬化性成分(A)との相溶性が低下して溶解しにくくなる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、好ましくは32〜42モル%の範囲内である。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、 JIS K 6726:1994「ポリビニルアルコール試験方法」に準拠して測定することができる。
【0053】
ポリビニルアルコール系樹脂(C)は、その平均重合度が 300〜4,000、さらには400〜3,000、とりわけ500〜2,000の範囲内にあることが好ましい。平均重合度が300を下回ると、接着剤硬化物の凝集力が小さくなり、接着力が低下しやすくなる。平均重合度が 4,000を超えると、粘度が高くなりすぎて接着面への塗工性が悪化しやすくなる。平均重合度も、上記の JIS K 6726:1994に準拠して測定することができる。
【0054】
ポリビニルアルコール系樹脂(C)は、特に、以下の式(IV)で示される構造単位からなる、実質的にポリ酢酸ビニルの部分ケン化物であるのが好ましく、ここにm及びnは、いずれも1以上の整数を表す。
【0056】
ポリビニルアルコール系樹脂は、各種のものが市販されているので、それらの中から、本発明で部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂(C)として規定する条件を満たすものを選択して使用すればよい。市販されているものの例を挙げると、(株)クラレから販売されている“LM-10HD”、“LM-15”、“LM-20”及び“LM-25”、日本合成化学工業(株)から販売されている“ゴーセファイマー L-5407”及び“ゴーセファイマー L-7514”など(以上いずれも商品名)がある。
【0057】
(光硬化性接着剤に配合しうるその他の成分)
光硬化性接着剤は、以上説明した光カチオン硬化性成分(A)、光カチオン重合開始剤(B)及びポリビニルアルコール系樹脂(C)に加え、他の成分を含んでいてもよい。配合しうる他の成分の例を挙げると、光増感剤、光増感助剤、熱カチオン重合開始剤、連鎖移動剤、熱可塑性樹脂、流動調整剤、消泡剤、レベリング剤、有機溶剤などがある。偏光子に貼合される保護膜の種類によっては、光増感剤、さらには光増感助剤を配合するのが好ましいことがある。
【0058】
光増感剤は、光カチオン重合開始剤(B)が示す極大吸収波長よりも長い波長に極大吸収を示し、光カチオン重合開始剤(B)による重合開始反応を促進させる化合物である。このような光増感剤としては、アントラセン系化合物が好ましく使用される。光増感剤となりうるアントラセン系化合物として、9,10−ジメトキシアントラセン、9,10−ジエトキシアントラセン、9,10−ジプロポキシアントラセン、9,10−ジイソプロポキシアントラセン、9,10−ジブトキシアントラセン、9,10−ジペンチルオキシアントラセン、9,10−ジヘキシルオキシアントラセンなどが挙げられる。
【0059】
光増感助剤は、光増感剤の作用を一層促進させる化合物である。このような光増感助剤としては、ナフタレン系化合物が好ましく使用される。光増感助剤となりうるナフタレン系化合物として、1,4−ジメトキシナフタレン、1−エトキシ−4−メトキシナフタレン、1,4−ジエトキシナフタレン、1,4−ジプロポキシナフタレン、1,4−ジブトキシナフタレンなどが挙げられる。
【0060】
これら他の成分を配合する場合、その量は、光硬化性接着剤の主成分である光カチオン硬化性成分(A)100重量部に対して、例えば、それぞれ10重量部以下の範囲から、配合目的に合わせて適宜選択すればよい。
【0061】
(光硬化性接着剤の調製)
光硬化性接着剤は、これまでに説明した光カチオン硬化性成分(A)及び光カチオン重合開始剤(B)、また必要に応じてその他の成分を混合することにより、調製することができる。混合の際、必要に応じて30〜50℃程度で加温し、攪拌機にて均一になるまで攪拌を行う。攪拌時間は特に限定されないが、通常5〜20分程度である。
【0062】
[偏光子]
偏光子は、自然光を直線偏光に変換する機能を有するフィルムであり、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたもので構成される。ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂は、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニル及びこれと共重合可能な他の単量体の共重合体であってもよい。酢酸ビニルに共重合される他の単量体として、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常、85〜100モル%、好ましくは98〜100モル%の範囲である。ポリビニルアルコール系樹脂は、変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなども使用することができる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1,000〜10,000、好ましくは1,500〜5,000の範囲である。
【0063】
このようなポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光子の原反フィルムとして用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂の製膜は、公知の方法で行うことができる。ポリビニルアルコール系樹脂の原反フィルムは、その厚みを例えば、20〜100μm 程度である。
【0064】
上述の偏光子は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色し、その二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程を経て、製造される。
【0065】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一軸延伸は、二色性色素による染色の前に行ってもよいし、二色性色素による染色と同時に行ってもよいし、二色性色素による染色の後で行ってもよい。一軸延伸を二色性色素による染色の後で行う場合、この一軸延伸は、ホウ酸処理の前に行ってもよいし、ホウ酸処理中に行ってもよい。また、これらの複数の段階で一軸延伸を行うこともできる。一軸延伸するには、周速度の異なるロール間で一軸に延伸してもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸してもよい。さらに、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、水等の溶剤を用いてポリビニルアルコール系樹脂を膨潤させた状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常3〜8倍程度である。
【0066】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの二色性色素による染色は、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、二色性色素を含有する水溶液に浸漬する方法により行うことができる。二色性色素として、具体的にはヨウ素又は二色性有機染料が用いられる。
【0067】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は通常、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は通常、水100重量部あたり0.01〜0.5重量部程度であり、ヨウ化カリウムの含有量は通常、水100重量部あたり0.5〜10 重量部程度である。この水溶液の温度は、通常20〜40℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常30〜300秒程度である。
【0068】
一方、二色性色素として二色性有機染料を用いる場合は、通常、水溶性の二色性有機染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性有機染料の含有量は、通常水100重量部あたり、1×10
-3〜1重量部程度である。この水溶液は、硫酸ナトリウムなどの無機塩を染色助剤として含有していてもよい。この水溶液の温度は、通常20〜80℃程度である。また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常30〜300秒程度である。
【0069】
二色性色素による染色後のホウ酸処理は、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液に浸漬することにより行われる。ホウ酸水溶液におけるホウ酸の含有量は通常、水100重量部あたり2〜15重量部程度であり、好ましくは5〜12重量部程度である。二色性色素としてヨウ素を用いる場合には、このホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有するのが好ましい。ホウ酸水溶液におけるヨウ化カリウムの含有量は通常、水100重量部あたり2〜20重量部程度であり、好ましくは5〜15重量部程度である。ホウ酸水溶液への浸漬時間は、通常60〜1,200 秒程度であり、好ましくは150〜600秒程度、さらに好ましくは200〜400秒程度である。ホウ酸水溶液の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50〜85℃である。
【0070】
ホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、通常、水洗処理される。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬することにより行われる。水洗後は乾燥処理が施されて、偏光子が得られる。水洗処理における水の温度は、通常5〜40℃程度であり、浸漬時間は、通常2〜120秒程度である。水洗後に行われる乾燥処理は、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行われる。乾燥温度は、通常40〜100℃程度であり、好ましくは50〜80℃程度である。乾燥処理の時間は、通常120〜600秒程度である。
【0071】
かくして得られるポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子の厚さは、10〜40μm 程度とすることができる。
【0072】
[保護膜]
保護膜は、上で説明したポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子が、先述のとおり、物理的な強度に乏しいことから、それを補う目的で、偏光子の表面に設けられる。偏光子に、先に説明した光硬化性接着剤を介して保護膜を貼合し、光硬化性接着剤を硬化させて偏光板とする。保護膜は、従来から偏光板の保護膜として最も広く用いられているトリアセチルセルロースをはじめとするアセチルセルロース系樹脂フィルムや、トリアセチルセルロースよりも透湿度の低い樹脂フィルムで構成することができる。なお、トリアセチルセルロースの透湿度は、概ね400g/m
2/24hr程度である。
【0073】
本発明の一つの好ましい形態では、偏光子の少なくとも一方の面に貼合される保護膜がアセチルセルロース系樹脂フィルムで構成される。アセチルセルロース系樹脂は、セルロースにおける水酸基の少なくとも一部が酢酸エステル化されている樹脂であり、一部が酢酸エステル化され、一部が他の酸でエステル化されている混合エステルであってもよい。アセチルセルロース系樹脂として、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどを挙げることができる。
【0074】
アセチルセルロース系樹脂には、紫外線吸収剤が配合されていてもよい。偏光子の一方の面、具体的には、液晶セルに貼合される偏光板の液晶セルから遠い側となる面、すなわち視認側又はバックライト側となる面には、紫外線吸収剤が配合された樹脂フィルムを保護膜として貼合することが多い。紫外線吸収剤として、サリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニ
ッケル錯塩系化合物などが知られている。
【0075】
偏光子の一方の面に、紫外線吸収剤が配合されているアセチルセルロース系樹脂からなる保護膜を貼合し、偏光子の他方の面には、紫外線吸収剤が配合されていないアセチルセルロース系樹脂からなり、位相差が付与された位相差フィルムを貼合する形態も有効である。
【0076】
本発明のもう一つの好ましい形態では、偏光子の少なくとも一方の面に貼合される保護膜が、トリアセチルセルロースより透湿度の低い樹脂フィルムで構成される。このような樹脂フィルムとして、例えば、透湿度が300g/m
2/24hr以下の樹脂フィルムを挙げることができる。具体的には、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、鎖状ポリオレフィン系樹脂などが、これに該当する。
【0077】
非晶性ポリオレフィン系樹脂は、ノルボルネンやテトラシクロドデセン(別名ジメタノオクタヒドロナフタレン)、あるいはそれらに置換基が結合した化合物の如き、環状オレフィンの重合単位を有する重合体であり、環状オレフィンに鎖状ポリオレフィン及び/又は芳香族ビニル化合物を共重合させた共重合体であってもよい。環状オレフィンの単独重合体あるいは2種以上の環状オレフィンの共重合体の場合は、開環重合によって二重結合が残るので、そこに水素添加されたものが、非晶性ポリオレフィン系樹脂として一般的に用いられる。なかでも、熱可塑性ノルボルネン系樹脂が代表的である。
【0078】
ポリエステル系樹脂は、二塩基酸と二価アルコールとの縮合重合によって得られる重合体であり、ポリエチレンテレフタレートが代表的である。アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルを主な単量体とする重合体であり、メタクリル酸メチルの単独重合体のほか、メタクリル酸メチルと、アクリル酸メチルのようなアクリル酸エステルや芳香族ビニル化合物などとの共重合体であってもよい。ポリカーボネート系樹脂は、主鎖にカーボネート結合(−O−CO−O−)を持つ重合体であり、ビスフェノールAとホスゲンとの縮合重合によって得られるものが代表的である。鎖状ポリオレフィン系樹脂は、エチレンやプロピレンの如き鎖状ポリオレフィンを主な単量体とする重合体であり、単独重合体や共重合体であることができる。なかでも、プロピレンの単独重合体や、プロピレンに少量のエチレンが共重合されている共重合体が代表的である。
【0079】
さらにもう一つの好ましい形態では、偏光子の一方の面に前記接着剤層を介して、アセチルセルロース系樹脂からなる保護膜が貼合され、偏光子の他方の面に同じく前記接着剤層を介して、上記のような透湿度の低い透明樹脂からなる保護膜が貼合される。
【0080】
これらの保護膜は、偏光子に貼合される面とは反対側の面に、ハードコート処理、反射防止処理、防眩処理、帯電防止処理、又は防汚処理等の、各種の表面処理を施すことができる。
【0081】
[偏光板の製造方法]
偏光子と保護膜は、接着剤を介して接着される。偏光子と保護膜の接着にあたっては、上で説明した光硬化性接着剤の塗布層を、偏光子と保護膜の貼合面の一方又は両方に形成し、その塗布層を介して偏光子と保護膜を貼合する。接着剤の塗布層を形成する前に、偏光子と保護膜の貼合面の一方又は両方に対して、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、プライマー処理、アンカーコーティング処理のような易接着処理を施してもよい。そして、未硬化の光硬化性接着剤の塗布層に活性エネルギー線を照射して硬化させ、保護膜を偏光子の上に固着させる。
【0082】
塗布層の形成には、例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式が利用できる。また、偏光子と保護膜を両者の貼合面が内側となるように連続的に供給しながら、その間に接着剤を流延させる方式を採用することもできる。各塗工方式には、それぞれ最適な粘度範囲があるため、溶剤を用いて光硬化性接着剤の粘度調整を行うことも有用な技術である。このための溶剤には、偏光子の光学性能を低下させることなく、光硬化性接着剤を良好に溶解するものが用いられるが、その種類に特別な限定はない。例えば、トルエンに代表される炭化水素類、酢酸エチルに代表されるエステル類などの有機溶剤が使用できる。接着剤層の厚さは、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm 以下である。接着剤層が厚くなると、接着剤の反応率が低下し、偏光板の耐湿熱性が悪化する傾向にある。
【0083】
光硬化性接着剤の塗布層を硬化させるために用いる活性エネルギー線光源は、紫外線、電子線、X線などを発生するものであればよい。特に波長400nm以下に発光分布を有する光源が好ましく、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどを挙げることができる。
【0084】
光硬化性接着剤への活性エネルギー線照射強度は、目的とする組成物毎に決定されるものであって特に限定されないが、光カチオン重合開始剤の活性化に有効な波長領域の光照射強度が0.1〜100mW/cm
2となるようにすることが好ましい。光照射強度が小さすぎると、反応時間が長くなりすぎ、一方でその光照射強度が大きすぎると、ランプから輻射される熱及び光硬化性接着剤の重合時の発熱により、光硬化性接着剤の黄変や偏光子の劣化を生じる可能性がある。光硬化性接着剤への光照射時間も、硬化する組成物毎に制御されるものであって、やはり特に限定されないが、光照射強度と光照射時間の積として表される積算光量が10〜5,000mJ/cm
2となるように設定されることが好ましい。積算光量が小さすぎると、開始剤由来の活性種の発生が十分でなく、得られる接着剤層の硬化が不十分となる可能性があり、一方でその積算光量が大きすぎると、光照射時間が非常に長くなって生産性向上には不利になりやすい。
【0085】
偏光子の両面に保護膜を貼合する場合、活性エネルギー線の照射はどちらの保護膜側から行ってもよい。例えば、一方の保護膜が紫外線吸収剤を含有し、他方の保護膜が紫外線吸収剤を含有しない場合には、紫外線吸収剤を含有しない保護膜側から活性エネルギー線を照射することが好ましい。このように照射することで、照射される活性エネルギー線を有効に利用し、硬化速度を高めることができる。
【0086】
本発明では、上述した光硬化性接着剤を用いることにより、偏光子と保護膜との間の接着性を高めることができる。そのため、偏光子と保護膜との間の180度はく離試験による接着強さが0.5N/25mm 以上となるようにすることができる。ここで、180度はく離試験は、後述する実施例にも示すとおり、JIS K 6854-2:1999 「接着剤−はく離接着強さ試験方法−第2部:180度はく離」に準じて行われる。
【0087】
[積層光学部材]
本発明の偏光板は、偏光板以外の光学機能を有する光学層を積層して、積層光学部材とすることができる。典型的には、偏光板の保護膜に、接着剤や粘着剤を介して光学層を積層貼着することにより、積層光学部材とされるが、その他、例えば、偏光子の一方の面に本発明に従って光硬化性接着剤を介して保護膜を貼合し、偏光子の他方の面に接着剤又は粘着剤を介して光学層を積層貼着することもできる。後者の場合、偏光子と光学層を貼着するための接着剤として、本発明で規定する光硬化性接着剤を用いれば、その光学層は、同時に本発明で規定する保護膜ともなりうる。
【0088】
偏光板に積層される光学層の例を挙げると、液晶セルの背面側に配置される偏光板に対しては、その偏光板の液晶セルに面する側とは反対側に積層される、集光板、輝度向上フィルム、反射層、半透過反射層、光拡散層などがある。また、液晶セルの前面側に配置される偏光板及び液晶セルの背面側に配置される偏光板のいずれに対しても、その偏光板の液晶セルに面する側に積層される位相差フィルムなどがある。
【0089】
集光板は、光路制御等を目的に用いられるもので、プリズムアレイシートやレンズアレイシート、あるいはドット付設シートなどであってもよい。
【0090】
輝度向上フィルムは、液晶表示装置における輝度の向上を目的に用いられる。具体的には、屈折率の異方性が互いに異なる薄膜フィルムを複数枚積層して反射率に異方性が生じるように設計された反射型偏光分離シート、コレステリック液晶ポリマーの配向フィルムやその配向液晶層をフィルム基材上に支持した円偏光分離シートなどが挙げられる。
【0091】
反射層、半透過反射層、又は光拡散層は、偏光板を反射型の光学部材、半透過型の光学部材、又は拡散型の光学部材とするためにそれぞれ設けられる。偏光板を含む反射型の光学部材は、視認側からの入射光を反射させて表示するタイプの液晶表示装置に用いられ、バックライト等の光源を省略できるため、液晶表示装置を薄型化しやすい。偏光板を含む半透過型の光学部材は、明所では反射型として、暗所ではバックライトからの光で表示するタイプの液晶表示装置に用いられる。また、偏光板を含む拡散型の光学部材は、光拡散性を付与してモアレ等の表示不良を抑制した液晶表示装置に用いられる。
【0092】
これらの反射層、半透過反射層及び光拡散層の形成方法について説明する。反射型の光学部材を構成する反射層は、例えば、偏光子上の保護膜の上に、アルミニウム等の金属からなる箔や蒸着膜を付設することにより形成することができる。半透過型の光学部材を構成する半透過反射層は、前記の反射層をハーフミラーとしたり、パール顔料などを含有して光透過性を示す反射板を偏光板に接着したりすることで形成できる。また、拡散型の光学部材を構成する光拡散層は、例えば、偏光板上の保護膜にマット処理を施す方法、微粒子含有の樹脂を塗布する方法、微粒子含有のフィルムを接着する方法などにより、微細凹凸構造を有する表面層として形成できる。微粒子を含有した樹脂層やフィルムは、入射光及びその反射光が微粒子含有層を透過する際に拡散され、明暗ムラを抑制しうるなどの利点を有する。表面微細凹凸構造を形成するために配合する微粒子は、例えば、平均粒径が0.1〜30μmであるシリカ、酸化アルミニウム、酸化チタン、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモンの如き無機系微粒子、架橋又は非架橋のポリマーの如き有機系微粒子などであることができる。
【0093】
積層光学部材は、反射拡散両用の偏光板であってもよい。反射拡散両用の偏光板は、例えば、偏光板を含む上記した拡散型光学部材の微細凹凸構造面に、その凹凸構造が反映された反射層を設けるなどの方法により作製できる。微細凹凸構造を有する反射層は、入射光を乱反射により拡散させ、指向性やギラツキを防止し、明暗のムラを抑制しうるなどの利点を有する。表面微細凹凸構造を反映させた反射層は、例えば、真空蒸着、イオンプレーティング、又はスパッタリングの如き蒸着やメッキなどの方法により、金属を微細凹凸構造の表面に直接付設することで形成できる。
【0094】
光学層として作用する位相差フィルムは、液晶セルによる位相差の補償等を目的として使用される。位相差板の例としては、各種プラスチックの延伸フィルム等からなる複屈折性フィルム、ディスコティック液晶やネマチック液晶が配向固定されたフィルム、基材フィルム上に上記の液晶層が形成されたものなどが挙げられる。基材フィルム上に液晶層を形成する場合、基材フィルムとして、トリアセチルセルロースなどのセルロースアセテート系樹脂フィルムが好ましく用いられる。
【0095】
複屈折性フィルムを形成するプラスチックとしては、例えば、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリプロピレンのような鎖状ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリアリレート、ポリアミドなどが挙げられる。延伸フィルムは、一軸や二軸等の適宜な方式で処理したものであることができる。なお、位相差フィルムは、広帯域化など光学特性の制御を目的として、2枚以上を組み合わせて使用してもよい。
【0096】
積層光学部材は、偏光板以外の光学層として位相差フィルムを液晶表示装置に適用したとき、有効に光学補償が行えることから、好ましい。位相差フィルムの位相差値(面内及び厚み方向)は、適用される液晶セルに応じて、最適なものを選べばよい。
【0097】
積層光学部材は、偏光板と、上述した各種の光学層から使用目的に応じて選択される1層又は2層以上とを組み合わせ、2層又は3層以上の積層体とすることができる。その場合、積層光学部材を形成する各種光学層は、接着剤や粘着剤を用いて偏光板と一体化されるが、そのために用いる接着剤や粘着剤は、接着剤層や粘着剤層が良好に形成されるものであれば特に限定はない。接着作業の簡便性や光学歪の発生防止などの観点から、粘着剤(感圧接着剤とも呼ばれる)を使用することが好ましい。積層光学部材の液晶セルに貼合される面にも、通常は粘着剤層が設けられる。
【0098】
上記の各種光学層と偏光板を一体化させる粘着剤には、アクリル系重合体や、シリコーン系重合体、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどをベースポリマーとするものを用いることができる。なかでも、アクリル系粘着剤のように、透明性に優れ、適度な濡れ性や凝集力を保持し、基材との接着性にも優れ、さらに耐候性や耐熱性などを有し、加熱や加湿の条件下で浮きや剥がれ等のはく離問題を生じないものを選択して用いることが好ましい。アクリル系粘着剤においては、メチル基やエチル基やブチル基等の炭素数が20以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸のアルキルエステルと、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどからなる官能基含有アクリル系モノマーとを、ガラス転移温度が好ましくは25℃以下、さらに好ましくは0℃以下となるように配合した、重量平均分子量が10万以上のアクリル系共重合体が、ベースポリマーとして有用である。
【0099】
偏光板又は積層光学部材への粘着剤層の形成は、例えば、トルエンや酢酸エチルなどの有機溶媒に粘着剤組成物を溶解又は分散させて10〜40重量%の溶液を調製し、これを目的のフィルム(偏光板又は積層光学部材)の対象面に直接塗工する方式や、予めプロテクトフィルム上に粘着剤層を形成しておき、それを目的のフィルム(偏光板又は積層光学部材)の対象面に移着する方式などにより、行うことができる。粘着剤層の厚さは、その接着力などに応じて決定されるが、1〜50μm 程度の範囲が適当である。
【0100】
また、粘着剤層には必要に応じて、ガラス繊維やガラスビーズ、樹脂ビーズ、金属粉やその他の無機粉末などからなる充填剤、顔料や着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが配合されていてもよい。紫外線吸収剤には、サリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などがある。
【0101】
積層光学部材は、液晶セルの片側又は両側に、上記した粘着剤層を介して配置することができる。用いる液晶セルは任意であり、例えば、薄膜トランジスタ型に代表されるアクティブマトリクス駆動型のもの、スーパーツイステッドネマチック型に代表される単純マトリクス駆動型のものなど、種々の液晶セルを使用して液晶表示装置を形成することができる。
【実施例】
【0102】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ない限り重量基準である。また、以下の例で用いた光カチオン硬化性成分、光カチオン重合開始剤及びポリビニルアルコール系樹脂は、それぞれ次のとおりであり、以下、それぞれの冒頭に付した記号で表示することがある。
【0103】
(A)光カチオン硬化性成分
(A1)分子内に脂環式環を有するジエポキシ化合物
(a1) 3,4−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート:ダイセル化学工業(株)から入手した商品名“セロキサイド 2021P”。
【0104】
(A2)反応性脂肪族化合物
(a21) 1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル:ナガセケムケックス(株)から入手した商品名“デナコール EX-121”。
(a22) 3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタン:東亞合成(株)から入手した商品名“アロンオキセタン OXT-101”
【0105】
ここに示した3種類の光カチオン硬化性成分は、それぞれ次式の構造を有する化合物である。
【0106】
【化6】
【0107】
(B)光カチオン重合開始剤
(b1) トリアリールスルホニウム塩系光カチオン重合開始剤の50%プロピレンカーボネート溶液:サンアプロ(株)から入手した商品名“CPI-100P”。
【0108】
(C)ポリビニルアルコール系樹脂
(c1) ケン化度33〜38モル%の低ケン化度ポリビニルアルコール:(株)クラレから入手した商品名“LM-25”。
(c2) ケン化度34〜41モル%の低ケン化度ポリビニルアルコール:日本合成化学工業(株)から入手、商品名“ゴーセファイマー L-5407”。
(c3) ポリ酢酸ビニル:日本合成化学工業(株)から入手した商品名“ゴーセラン
L-301”(ケン化度0モル%)。
(c4) ケン化度34〜38モル%の低ケン化度ポリビニルアルコール:日本合成化学工業(株)から入手した商品名“ゴーセファイマー L-7514”。
(c5) ケン化度98.5モル%の高ケン化度ポリビニルアルコール:日本合成化学工業(株)から入手した商品名“ゴーセファイマー Z-100”。
【0109】
[実施例1〜9及び比較例1〜5]
(1)光硬化性接着剤液の調製
光カチオン硬化性成分を表1に示す割合(合計100部)で配合し、さらに上に示した光カチオン重合開始剤(b1)を固形分として 2.25部及びポリビニルアルコール系樹脂(c1)〜(c5)をそれぞれ表1に示す割合で配合した後、室温で12時間攪拌して、光硬化性接着剤液を調製した。
【0110】
【表1】
【0111】
(2)ポリビニルアルコール系樹脂溶液の粘度
水47.5g及びエタノール47.5gの混合溶媒に、先に示したポリビニルアルコール系樹脂(c1)〜(c5)それぞれを 5.0g配合して、ポリビニルアルコール系樹脂の5%濃度溶液を作製し、室温で12時間攪拌した。それぞれの溶液につき、ブルックフィールド社製のB型粘度計を用いて、温度25℃における粘度を測定した。その結果を表2に示した。
【0112】
(3)ポリビニルアルコール系樹脂の光硬化性接着剤液中での溶解性
上の(1)で調製した接着剤液を目視で観察し、以下の基準で評価し、その結果を表2に示した。
○:ポリビニルアルコール系樹脂の溶け残りがない。
×:ポリビニルアルコール系樹脂が溶け残っている。
【0113】
(4)偏光板の作製
コニカミノルタオプト(株)から入手した紫外線吸収剤を含む厚さ80μm のトリアセチルセルロースフィルム〔商品名“コニカタック KC8UX2MW ”〕の表面にコロナ放電処理を施し、そのコロナ放電処理面に、上記の(1)で調製したそれぞれの接着剤液を硬化後の膜厚が約4μm となるように、バーコーターを用いて塗工した。その接着剤層に、厚さ28μm のポリビニルアルコール−ヨウ素系偏光子を貼合した。また、コニカミノルタオプト(株)から入手したアセチルセルロース系樹脂からなる厚さ40μm の位相差フィルム〔商品名“N-TAC KC4FR-1 ”〕の表面にコロナ放電処理を施し、そのコロナ放電処理面に、上と同じ接着剤液を硬化後の膜厚が約4μm となるように、バーコーターを用いて塗工した。その接着剤層に、上で作製したトリアセチルセルロースフィルムが片面に貼合された偏光子の偏光子側を貼合し、積層物を作製した。この積層物のアセチルセルロース系位相差フィルム側から、ベルトコンベア付き紫外線照射装置(ランプはフュージョンUVシステムズ社製の“Dバルブ”使用)を用いて積算光量が250mJ/cm
2 となるように紫外線を照射し、接着剤を硬化させた。こうして、偏光子の両面に保護膜が貼合された偏光板を作製した。
【0114】
(5)180度はく離試験
上記(4)で作製した偏光板を200mm×25mmの大きさに裁断して、ポリビニルアルコール−ヨウ素系偏光子と、アセチルセルロース系位相差フィルム“N-TAC KC4FR-1 ”との間との間のはく離強さを求めた。まず、アセチルセルロース系位相差フィルムの露出面にアクリル系の粘着剤層を設け、その粘着剤層をガラス板に貼った。そして、偏光子と粘着剤側の保護フィルム(アセチルセルロース系位相差フィルム“N-TAC KC4FR-1 ”)の間にカッターの刃を入れ、長さ方向に端から30mm剥がして、その剥がした部分を試験機のつかみ部でつかんだ。次に、この状態の試験片を、温度23℃、相対湿度55%の雰囲気中、JIS K 6854-2:1999 「接着剤−はく離接着強さ試験方法−第2部:180度はく離」に準じて、つかみ移動速度300mm/分で180度はく離試験を行い、つかみ部の30mmを除く170mmの長さにわたる平均はく離力を求めた。この結果を表2に示した。このときのはく離強さは、アセチルセルロース系位相差フィルム“N-TAC KC4FR-1 ”とポリビニルアルコール−ヨウ素系偏光子との間の値なので、表2には、「N−TAC/PVA」と表示した。
【0115】
(6)カッター試験
上記(4)で作製した偏光板を常温で1時間放置した後、偏光子とアセチルセルロース系位相差フィルム“N-TAC KC4FR-1 ”との間にカッターの刃を入れ、刃を押し進めようとしたときの刃の入り方を以下の基準で評価し、結果を表2に示した。
A:カッターの刃が偏光子と位相差フィルムとの間に1mm未満入る。
B:カッターの刃が偏光子と位相差フィルムとの間に1〜3mm入る。
C:カッターの刃が偏光子と位相差フィルムとの間に3mmを超えて入る。
【0116】
【表2】
【0117】
表1に示す組成及び表2に示す結果から、光カチオン硬化性成分(A)に光カチオン重合開始剤(B)だけを配合して接着剤を構成した比較例1及び2は、偏光子と保護膜との間の接着力が十分でなかった。比較例3は、光カチオン硬化性成分(A)に、光カチオン重合開始剤(B)とともに酢酸ビニルを配合して接着剤を構成したものであり、酢酸ビニルは光カチオン硬化性成分(A)に対する溶解性は良好であるものの、それを配合した接着剤の偏光子と保護膜に対する接着力が十分でなかった。比較例4は、光カチオン硬化性成分(A)に、光カチオン重合開始剤(B)とともにケン化度34〜38モル%のポリビニルアルコールを配合して接着剤を構成したものであり、このポリビニルアルコールは、光カチオン硬化性成分(A)に対する溶解性は良好であったが、水/メタノールの重量比50/50の混合溶媒に5%濃度で溶解させた溶液の粘度が、6.0mPa・sec と大きかった。そのためか、このポリビニルアルコールを配合した接着剤の偏光子と保護膜に対する接着力が十分でなかった。5%溶液の粘度が大きかったことから、おそらく、接着性を発現するのに最適なポリマー鎖でなかったものと推定した。比較例5は、光カチオン硬化性成分(A)に、光カチオン重合開始剤(B)とともにケン化度 98.5モル%のポリビニルアルコールを配合して接着剤を構成したものであり、このポリビニルアルコールは、光カチオン硬化性成分(A)に対する溶解性が小さかった。そのため、この例では偏光板の作製を行わなかった。
【0118】
これに対し、光カチオン硬化性成分(A)に、光カチオン重合開始剤(B)とともに、ケン化度が33〜41モル%の範囲にあり、かつ、水/メタノールの重量比50/50の混合溶媒に5%濃度で溶解させた溶液の粘度が5mPa・sec以下であるポリビニルアルコール(c1)又は(c2)を所定量配合して接着剤を構成した実施例1〜9は、偏光子と保護膜との間の接着力(はく離強さ)が高かった。ここで用いたポリビニルアルコール(c1)及び(c2)は、光カチオン硬化性成分(A)に対する溶解性も良好であった。