(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5953882
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】循環冷却水の水質管理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20060101AFI20160707BHJP
C02F 5/00 20060101ALI20160707BHJP
C02F 5/10 20060101ALI20160707BHJP
C02F 5/08 20060101ALI20160707BHJP
F28G 13/00 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
C02F1/00 T
C02F1/00 K
C02F1/00 V
C02F5/00 610G
C02F5/00 620B
C02F5/10 620A
C02F5/10 620B
C02F5/10 620C
C02F5/10 620D
C02F5/10 620E
C02F5/10 620F
C02F5/08 F
F28G13/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-80584(P2012-80584)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-208568(P2013-208568A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2014年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和久
(72)【発明者】
【氏名】村野 靖
【審査官】
小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−523225(JP,A)
【文献】
特開2011−045861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00
C02F 5/00− 5/14
F28F11/00−19/06
F28G 1/00−15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補給水の少なくとも一部にリン酸を含有した回収水を用いる循環冷却水の水質管理方法において、
冷却水中のリン酸濃度が20〜25mgPO43−/Lとなるように濃縮を管理し、スケール防止ポリマーを10〜20mg/L添加し、冷却水のpHを7.0〜7.5に管理し、冷却水中のカルシウム硬度を1500mgCaCO3/L以下、Cl−濃度を2500mg/L以下、SO42−濃度を2500mg/L以下とする循環冷却水の水質管理方法であって、
該スケール防止ポリマーが、2−ヒドロキシ−3−アリルオキシ−1−プロパンスルホン酸、マレイン酸、及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のモノマーが重合するか、又はこれらとアクリル酸及び/又はメタクリル酸とが共重合してなるホモポリマー又はコポリマーであることを特徴とする循環冷却水の水質管理方法。
【請求項2】
請求項1において、回収水中のリン酸濃度が3〜7mgPO43−/Lであることを特徴とする循環冷却水の水質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環冷却水の水質管理方法に係り、特に補給水の少なくとも一部に回収水を用いた水質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
開放型循環冷却水系では、水の蒸発、飛散に見合った量で補給水を水系に供給する。
【0003】
水の有効利用を図るために、補給水の少なくとも一部として回収水を用いることが行われている(例えば特許文献1の0009段落、特許文献2の0007段落)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−224455
【特許文献2】特開2008−249275
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
都市排水処理水や工場排水処理水などからの回収水にはリン酸成分が含まれている。このリン酸成分は、防食作用を有する反面、リン酸カルシウム系スケールを生成させる。
【0006】
本発明は、回収水中のリン酸成分を水系部材の防食に利用すると共に、水系におけるスケール析出を抑制することができる循環冷却水の水質管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の循環冷却水の水質管理方法は、補給水の少なくとも一部にリン酸を含有した回収水を用いる循環冷却水の水質管理方法において、冷却水中のリン酸濃度が20〜25mgPO
43−/Lとなるように濃縮を管理し、スケール防止ポリマーを10〜20mg/L添加し、冷却水のpHを7.0〜7.5に管理し、冷却水中のカルシウム硬度を1500mgCaCO
3/L以下、Cl
−濃度を2500mg/L以下、SO
42−濃度を2500mg/L以下とする
循環冷却水の水質管理方法であって、該スケール防止ポリマーが、2−ヒドロキシ−3−アリルオキシ−1−プロパンスルホン酸、マレイン酸、及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のモノマーが重合するか、又はこれらとアクリル酸及び/又はメタクリル酸とが共重合してなるホモポリマー又はコポリマーであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、回収水由来のリン酸によって水系部材の防食を図ることができると共に、スケール防止ポリマーの添加、pH管理及びカルシウム硬度、Cl
−、SO
42−の濃度管理によりスケールを防止(抑制を含む。)することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0011】
本発明は、
図1に示されるような開放型循環冷却水系において補給水の少なくとも一部として回収水を用いる場合に適用する。
【0012】
回収水としては、都市排水処理水や工場排水処理水などからの回収水が例示されるが、これに限定されるものではない。この回収水中のリン酸濃度としては3〜7mgPO
43−/L特に4〜6mgPO
43−/L程度であることが好ましい。
【0013】
図1は、後述の実施例で用いた循環冷却水系のフロー図であり、冷却塔1のピット1aの水が送水ポンプ2、配管3、流量計4、熱交換器5、配管6を介して冷却塔1内の上部の散水ノズル7から充填材8に散水され、蒸発潜熱によって冷却され、ピット1aに落下する。
【0014】
ピット1aに対し、補給水配管10及びボールタップ11を介して補給水が供給可能とされている。
【0015】
ピット1a内の水の電気伝導率を電気伝導率計20で測定し、カルシウム硬度、Cl
−濃度及びSO
42−濃度をそれぞれカルシウム硬度計21、Cl
−イオンセンサ22及びSO
42−イオンセンサ23で測定し、制御器(図示略)によってブローポンプ25を制御する。水系内のポリマー濃度が所定範囲となるように薬注ポンプ26を制御する。水系内のポリマー濃度は、薬注量とブロー量及び飛散損失量から演算する。符号27はスケール防止ポリマー水溶液のタンクを示す。
【0016】
また、pH計30によってピット1a内の水のpHを測定し、このpHが7.0〜7.5の範囲となるように硫酸タンク31内の硫酸を薬注ポンプ32によってピット1aに薬注する。なお、
図1は試験装置であるので、配管3から配管40に冷却水を分取し、流量調整バルブ41を介して試験容器42に通水し、試験容器42内のテストピース(図示略)と接触させた後、配管43を介して配管6へ戻すラインも設けてある。
【0017】
本発明では、冷却水中のリン酸濃度を20〜25mgPO
43−/Lとなるように、またカルシウム硬度が1500mgCaCO
3/L以下、Cl
−濃度が2500mg/L以下、SO
42−濃度が2500mg/L以下となるように濃縮管理する。即ち、前記各センサで検出されるこれらの値が上記上限値を超えない範囲でなるべく高濃縮倍率にて運転し、これによりリン酸濃度を20mgPO
43−/L以上とする。また、カルシウム硬度、Cl
−濃度、SO
42−濃度のいずれか1項目でも上記の上限値を超えるならば、ブローポンプ25を作動させてブローを行い、補給水を導入する。
【0018】
なお、高濃縮倍率運転を行ってもリン酸濃度が20mgPO
43−/Lに達しないときには、リン酸系スケール防止剤を添加する。
【0019】
前述のように、pH7.0〜7.5となるように硫酸を薬注する。pHが7.0を下回るときにはアルカリ剤を添加する。
【0020】
また、リン酸カルシウム系スケール生成を抑制するために、スケール防止ポリマー(ポリマー系スケール防止剤)を添加する。ポリマー系スケール防止剤としては、2−ヒドロキシ−3−アリルオキシ−1−プロパンスルホン酸(HAPS)、マレイン酸、及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のモノマーが重合するか、又はこれらとアクリル酸(AA)及び/又はメタクリル酸(MA)とが共重合してなる、平均分子量5,000〜20,000程度のホモポリマー又はコポリマーが好適である。
【0021】
冷却水系を上記のように管理することにより、回収水由来のリン酸を利用して水系部材の防食を図ることができると共に、スケール付着も抑制される。
【実施例】
【0022】
[実施例1]
図1に示す試験装置において、下記水質の合成補給水を用い、下記条件で濃縮管理を行った。また、試験期間中、冷却水の一部を容器42に流し、容器42内に収容しておいた鉄製テストピースと接触させ、テストピースの腐食減量から腐食速度を測定した。
<補給水>
栃木県野木町の水道水に対し、オルソリン酸を5mg/L添加すると共に、CaCl
2をカルシウム硬度300mg/LasCaCO
3となるように、NaClを塩化物イオン濃度500mg/Lとなるように、Na
2SO
4を硫酸イオン濃度500mg/Lとなるように、それぞれ添加したもの。
<濃縮倍数>
濃縮倍数は2、3、4、5又は6倍とした。
<pH>
硫酸によりpH7.0〜7.5に調整した。
<ポリマー>
AA/HAPS系ポリマー(重量平均分子量10,000)及びAA/AMPS系ポリマー(重量平均分子量10,000)を12mg−solid/L添加した。
【0023】
試験終了時のテストピース(鉄)の腐食速度を
図3に示す。濃縮倍数を管理し、リン濃度を20〜25mg/L維持することで防食効果は良好となった。一方、リン濃度が少ない場合(現状処理)や、過剰な場合腐食速度は高くなり、高塩類濃度水系では効果は不十分となることがわかった。
【0024】
[試験例1]
高熱負荷試験装置(
図2)を用い、伝熱面への付着速度を測定した。
図2において、タンク50内に下記水質の補給水相当供試水(以下、補給水という。)を供給し、この補給水をポンプ51によって試験槽52に循環供給し、試験槽52に試験片として鉄製チューブ(外径30mm、長さ300mm)53に電熱ヒータ54を挿入したものを収容した。水温は30℃とし、電熱ヒータ54によりチューブ53の表面温度を80℃とした。滞留時間は80hrになるように連続供給した。試験期間は48hrとし、48時間後にチューブを引き上げ付着量を測定した。比較例として従来周知であるN=2相当水(pH8.0、カルシウム硬度500mg/L、T−PO
4 10mg/L)での評価も併せて実施した。
【0025】
<補給水相当供試水>
純水に対し5%Mアルカリ溶液(重炭酸Na溶液)を、Mアルカリ度が100mg/LasCaCO
3となるように添加し、AA/HAPSポリマー(80/20、分子量5,000)及びAA/AMPS系ポリマー(80/20、分子量10,000)を12mg−solid/L添加し、オルソリン酸をリン濃度が20mgPO
4/Lとなるように添加し、CaCl
2をカルシウム硬度1,200mg/LasCaCO
3となるように添加し、NaClを塩化物イオン濃度2500mg/Lとなるように添加し、Na
2SO
4を硫酸イオン濃度1000mg/Lとなるように添加し、硫酸によってpH7.0〜8.0に調整したもの。
【0026】
付着速度測定結果を
図4に示す。
図4の通り、pH7.8以上では多くのスケールの付着が認められるものの、pH7.5以下とすることで付着は軽微となり、従来処理より付着量は軽微となる。
【符号の説明】
【0027】
1 冷却塔
5 熱交換器
11 ボールタップ
25 ブローポンプ