特許第5954316号(P5954316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5954316
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】強化用ガラス板
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/089 20060101AFI20160707BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20160707BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20160707BHJP
   C03B 27/012 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   C03C3/089
   C03C3/091
   C03C3/093
   C03B27/012
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-502341(P2013-502341)
(86)(22)【出願日】2012年2月27日
(86)【国際出願番号】JP2012054821
(87)【国際公開番号】WO2012118029
(87)【国際公開日】20120907
【審査請求日】2014年9月1日
(31)【優先権主張番号】特願2011-41772(P2011-41772)
(32)【優先日】2011年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100121393
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】小池 章夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 節郎
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−119048(JP,A)
【文献】 特開平07−069669(JP,A)
【文献】 特開平02−221137(JP,A)
【文献】 特開2006−175877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記酸化物基準の質量百分率表示で、
SiO2 55〜85%、
23 2〜8%、
MgO 0.1〜12%、
CaO 0.1〜8%、
Na2O 0〜13%、
MgO+CaO+SrO+ZnO 3〜16%、
Li2O+Na2O+K2O 0〜12%、
Al23 0〜3%、
Fe23 0.01〜0.5%、
を含有し、加熱および急冷することによって強化加工を可能としたことを特徴とする強化用ガラス板。
【請求項2】
50〜350℃における平均線膨張係数が80×10-7/℃未満であることを特徴とする請求項1に記載の強化用ガラス板。
【請求項3】
室温での密度が2.50g/cm3未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の強化用ガラス板。
【請求項4】
MgOの含有量が2.0%以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の強化用ガラス板。
【請求項5】
Al23の含有量が1.0%以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の強化用ガラス板。
【請求項6】
SiO2の含有量が74.4%以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の強化用ガラス板。
【請求項7】
真空中におけるクラック・イニシエーション・ロードが1500gf以上であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の強化用ガラス板。
【請求項8】
ガラス転移点と屈伏点の中間の温度における熱膨張係数が250×10-7/℃以上であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の強化用ガラス板。
【請求項9】
ガラス転移点と屈伏点の中間の温度における熱膨張係数を、50〜350℃における平均線熱膨張係数で除した値が4.0以上であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の強化用ガラス板。
【請求項10】
50〜350℃における平均線膨張係数が、30×10-7/℃以上、80×10-7/℃未満であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の強化用ガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温の膨張係数を大きくすることなく、従来のソーダライムガラス並みか、それ以上の強化が可能なガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
強化ガラスは、ガラスの課題である割れやすいという欠点を改善し、従来から車両用や建築用として用いられている。本発明でいう強化ガラスとは、熱強化または物理強化と呼ばれるガラスの熱収縮を利用した強化ガラスのことであり、乗用車、トラック、バス、鉄道、船舶、航空機等の車両や乗物の窓に使用される強化ガラス、ヘッドライトおよびテールライトに使用される強化ガラス、ビルや住宅の窓、ドア、およびショーウインド等に使用される強化ガラス、パーテーション、デスクトップ、本棚、およびショーケース等の家具や事務用品に使用される強化ガラス、調理器具等の家庭電化製品に使用される強化ガラスを指す。
【0003】
車両用や建築用の強化ガラスは、フロート法により製造されたガラス板を、軟化点または屈伏点温度付近まで昇温し、その後表面にエアーを吹き付けて急冷する熱強化法にて製造される。
この方法では、冷却時のガラスの熱収縮を利用しており、ガラス表面が先に冷却され収縮した後で内部が収縮するため、ガラス表面に圧縮応力が残留し、ガラスの強度が向上する。また、強化ガラスは、表面に圧縮応力が残留しているため、傷の進展を抑制する効果があり、耐擦傷性を改善する効果がある。
近年、高層ビルや車両向けのガラスとして強化ガラスを用いる際、ガラス自身の重量を軽くすることが求められてきている。ガラスの軽量化は、密度を小さくすることによって達成されるが、一般的に強化用ガラス板として使用されるフロート法により製造されたソーダライムシリカガラスでは室温にて約2.5g/cmであり、またシリカガラスであっても約2.2g/cmであり、低密度化には限界があった。
【0004】
一方、ガラスの軽量化は、ガラスの厚みの薄肉化によっても達成されるが、薄肉化したガラスでは強度が低下するという問題があった。また、ガラスの強化においては、冷却時のガラス表面と内部との温度差を利用して強化しているため、2.8mm以下の薄いガラスでは温度差がつきにくいため本質的な強化が難しかった。
また、強化されるガラス板としては、風冷強化が開始される屈伏点付近の温度と、歪が凍結される歪点付近の温度差が大きいことが、強化が進みやすく望まれるが、このようなガラスは低温から熱膨張率が大きいため、用途により熱膨張率が小さいことが望まれる場合には適さなかった。
これら課題に対し、以下特許文献1には、低密度でありながら従来のソーダライムガラス並みに強化が容易で、耐擦傷性に優れた強化ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本特開平9−124338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、低密度でありながら従来のソーダライムガラス並みに強化が可能なガラスについては開示しているが、薄いガラス板の強化については開示されておらず、また熱膨張率の小さなガラスについても開示されていない。
本発明は、熱膨張係数が小さく、物理強化による発生応力が高く、薄くても十分強化が可能な強化用ガラス板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記酸化物基準の質量百分率表示で、
SiO2 55〜85%、
23 2〜%、
MgO 0.1〜12%、
CaO 0.1〜%、
Na2O 0〜13%、
MgO+CaO+SrO+ZnO 3〜16%、
Li2O+Na2O+K2O 0〜12%、
Al23 0〜3%、
Fe23 0.01〜0.5%、
を含有し、加熱および急冷することによって強化加工を可能としたことを特徴とする強化用ガラス板である
【0009】
また、本発明は、50〜350℃の平均線熱膨張係数が80×10-7/℃未満であることを特徴とする強化用ガラス板である。
また、本発明は、室温での密度が2.50g/cm3未満であることを特徴とする強化用ガラス板である。
また、本発明は、50〜350℃の平均線熱膨張係数が、30×10-7/℃以上、80×10-7/℃未満であることを特徴とする強化用ガラス板である。
また、本発明は、真空中におけるクラック・イニシエーション・ロード(crack initiation load)が1500gf以上であることを特徴とする強化用ガラス板である。ここで、クラック・イニシエーション・ロードとは、後述するが、ビッカース硬度試験機にて、ガラス板面にビッカース圧子を押し込んだ際、クラック発生確率が100%となるビッカース荷重で最も低い荷重をクラック・イニシエーション・ロードとする。
また、本発明は、ガラス転移点(Glass Transition Temperature)と屈伏点(Sag Temperature)の中間の温度における熱膨張係数が250×10-7/℃以上であることを特徴とする強化用ガラス板である。
また、本発明は、ガラス転移点と屈伏点の中間の温度における熱膨張係数を、50〜350℃における平均線熱膨張係数で除した値が4.0以上であることを特徴とする強化用ガラス板である。
上記した数値範囲を示す「〜」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用され、特段の定めがない限り、以下本明細書において「〜」は、同様の意味をもって使用される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低密度かつ耐擦傷性に優れ、物理強化による表面圧縮応力が高く、50〜350℃における熱膨張係数が小さい強化用ガラス板および強化ガラス板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のガラス板は、50〜350℃の平均線熱膨張係数が100×10−7/℃未満である。平均線熱膨張係数が100×10−7/℃以上の場合、強化ガラスの使用用途に応じて種々の問題が発生する場合がある。例えば、ガラス板の製造工程において、温度差による寸法変化が大きくなり、不良が発生しやすくなる。また、低温から急激に温度が上昇した場合に、ガラス表面に引張応力が発生し、割れが発生しやすくなる。平均線熱膨張係数の好ましい範囲は、90×10−7/℃未満である。ディスプレイをはじめとする電子用途など、加熱工程での寸法変化を小さく抑えたい用途においては、80×10−7/℃未満であることがより好ましく、75×10−7/℃未満であることが特に好ましい。
また、本発明のガラス板は、50〜350℃の平均線熱膨張係数が30×10−7/℃以上であることが好ましい。30×10−7/℃未満では、風冷強化により発生する応力が大きくなりにくいおそれがある。より好ましくは60×10−7/℃以上、特に好ましくは70×10−7/℃以上である。
【0012】
本発明のガラス板は、室温での密度が2.50g/cm未満である。2.50g/cm以上では、ガラス自体が重くなる。また、密度の小さいガラスは熱伝導率が小さくなりやすいことから、熱強化時に応力が入りやすい。好ましくは2.46g/cm未満、より好ましくは2.43g/cm未満、さらに好ましくは2.40g/cm未満である。
以下、本発明のガラス板の各成分の組成の範囲について説明する。
本発明のガラス板は、SiOの含有量が55重量%以上である。55重量%未満ではガラスの密度が大きくなる、熱膨張係数が大きくなる、耐擦傷性が悪化する、等の不具合が生じる。好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。また、本発明のガラス板は、SiOの含有量が85質量%以下である。SiOの含有量が85質量%を超えると、粘性が高くなりガラスが溶解しにくくなる。好ましくは80質量%以下である。
本発明のガラスは、Bの含有量が2質量%以上である。本発明者らは、ガラスに特定の量のBを含有させた場合、室温での熱膨張係数があまり大きくならずに、ガラス転移温度以上での熱膨張係数が大きくなること、さらに歪点と屈伏点の温度差が大きくなることを見出した。これにより、室温での熱膨張係数が大きくなくても、従来のソーダライムガラス以上に強化が可能なガラス板を得ることができる。
【0013】
そのような効果が得られる機構としては、風冷強化の際に、強化開始温度と歪点の温度差を大きくすることができ、かつ温度差によって生じる応力を大きくすることができるためと考えられる。Bの含有量は5質量%以上であることがより好ましく、8重量%以上であることが特に好ましい。また、本願発明のガラス板は、Bの含有量が12質量%以下である。12質量%を超えると、ガラスが分相しやすくなり、ガラスの化学的耐久性が劣化する、等の問題が発生する。また、ガラスの溶解時にアルカリホウ酸が揮発し、均質なガラスが得られにくくなる。好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。
本発明のガラス板は、MgOの含有量が0.1質量%以上である。MgOはガラスの熱膨張係数を適度に維持するために必要であり、またガラスの耐擦傷性を向上させる。好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上である。また、本発明のガラス板は、MgOの含有量が12質量%以下である。MgOの含有量が12質量%を超えると、ガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎる。好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下である。
【0014】
本発明のガラス板は、CaOの含有量が0.1質量%以上である。CaOはガラスの熱膨張係数を適度に維持するために必要である。好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。本発明のガラス板は、CaOの含有量が12質量%以下である。CaOの含有量が12質量%を超えると、ガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎる。好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下である。
本発明のガラス板は、NaOの含有量が13質量%以下である。NaOの含有量が13質量%を超えると、歪点と屈伏点の温度差が小さくなり、強化応力が小さくなる。また、熱膨張係数が大きくなり過ぎることも問題となる。好ましくは12.5質量%以下、より好ましくは12質量%以下である。また、NaOはガラスの密度が低くても、熱膨張係数が大きくなる成分であるため、熱膨張係数を調整する目的でガラス組成中に含有させることができる。NaOの含有量が2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることが、より好ましい。
【0015】
本発明のガラス板は、MgO、CaO、SrO、ZnOの総和、MgO+CaO+SrO+ZnOが3質量%以上である。3質量%未満では、ガラスの高温での溶解性と適度な熱膨張係数を維持するためにLiO、NaO、KO等のアルカリを組成中に多量に添加する必要があり、その結果、歪点と屈伏点の温度差が小さくなり、強化応力が小さくなる。また、熱膨張係数が大きくなり過ぎることも問題となる。好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上である。また、本発明のガラス板は、MgO+CaO+SrO+ZnOが16質量%以下である。MgO+CaO+SrO+ZnOが16質量%を超えるとガラスの密度が大きくなり、また熱膨張係数が大きくなり過ぎる。好ましくは14質量%以下、より好ましくは12質量%以下、さらに好ましくは11質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。ここにおいて、MgO+CaO+SrO+ZnOを上記範囲で含むとは、MgO、CaO、SrO、およびZnOからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを意味し、必ずしも、MgO、CaO、SrO、およびZnOのすべてを含むことは意味しない。
【0016】
本発明のガラス板は、Alの含有量が3質量%以下である。Alの含有量が3質量%を超えると、ガラス転移温度以上での熱膨張係数が大きくなりにくく、応力を大きくすることが困難になる恐れがある。好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。
本発明のガラス板は、KOの含有量が10質量%以下であることが好ましい。KOの含有量が10質量%を超えると、歪点と屈伏点の温度差が小さくなり、強化応力が小さくなる。また、熱膨張係数が大きくなり過ぎることも問題となる。より好ましくは8質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。また、KOは、含有しなくてもよいが、ガラスの高温での溶解性と適度な熱膨張係数を維持するためには含有した方が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1質量%以上である。
本発明のガラス板は、SrOを含有してもよい。SrOを含有させることにより、ガラスの高温での溶解性と熱膨張係数を調整することができる。SrOを含有させる場合は、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上である。本発明のガラス板は、SrOの含有量が10質量%以下であることが好ましい。SrOの含有量が10質量%を超えると、ガラスの密度が大きくなり、ガラスの重量が大きくなる。より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下である。
【0017】
本発明のガラス板は、BaOを含有してもよい。BaOを含有させることにより、ガラスの高温での溶解性と熱膨張係数を調整することができる。一方、BaOを含有すると、ガラスの密度が大きくなり、ガラスの重量が大きくなりやすい。また、ガラスが脆くなるため、クラック・イニシエーション・ロードが低くなり、傷つきやすくなりやすい。そのため、BaOの含有量は6質量%以下であることが好ましく、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。特にクラック・イニシエーション・ロードを高くするためには、BaOは1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
本発明のガラス板は、ZnOを含有してもよい。ZnOを含有させることにより、ガラスのヤング率を上げることができる。一方、ZnOを含有すると、ガラスの失透性が悪化し、フロート成形などの連続ガラス板成形が難しくなりやすい。そのため、ZnOの含有量は3質量%以下が好ましく、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0018】
本発明のガラス板は、SnOを含有してもよい。SnOを含有させることにより、ガラスのヤング率を上げ、さらにガラスの清澄性を改善することができる。一方、SnOを含有させると、ガラスの失透性が悪化し、フロート成形などの連続ガラス板成形が難しくなりやすい。そのため、SnOの含有量は3質量%以下が好ましく、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
本発明のガラス板は、LiOを含有してもよい。LiOを含有させる場合、その含有量は6質量%以下であることが好ましい。LiOの含有量が6質量%を超えると、歪点と屈伏点の温度差が小さくなり、強化応力が小さくなる。また、ガラスの失透性が悪化し、フロート成形などの連続ガラス板成形が難しくなりやすい。より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくは1.5質量%以下である。
【0019】
本発明のガラス板は、LiOおよび/またはKOを含む場合、LiO、NaO、KOの総和(LiO+NaO+KO)は、16質量%以下であることが好ましい。16質量%を超えると、歪点と屈伏点の温度差が小さくなるため、強化応力が小さくなる恐れがある。また、熱膨張係数が大きくなり過ぎることも問題となる。より好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下である。
本発明のガラス板は、Feを含有してもよい。Feを含有させる場合、Feの含有量はFe換算で0.01質量%以上であることが好ましい。Feは熱線を吸収する成分であることから、溶融ガラスの熱対流を促してガラスの均質性を向上させる、また溶融窯の底煉瓦の高温化を防ぐことで窯寿命を延ばす等の効果があるため、大型窯を用いる板ガラスの溶融プロセスでは組成中に含まれていることが好ましい。Feの含有量は、Fe換算にて0.01質量%未満では大型窯での製造が難しくなるおそれがある。より好ましくは、0.02質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上である。一方、本発明のガラス板は、Feの含有量がFe換算で1.0質量%以下であることが好ましい。1.0質量%を超える場合は、着色により車両用や建築用のガラスとして使用しにくくなる。より好ましくは0.5質量%以下である。
【0020】
本発明のガラス板は実質的に上記成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲で他の成分を合計10質量%まで含有してもよい。上記他の成分としては、例えば、BaO、ZrO、TiO、Y、CeOなどを含有してもよい。また、ガラスの溶融の際の清澄剤として、SO、塩化物、フッ化物、ハロゲン、SnO、Sb、Asなどを適宜含有してもよい。さらに、色味の調整のため、Ni、Co、Cr、Mn、V、Se、Au、Ag、Cdなどを含有してもよい。
本発明のガラス板は、ヒ素やアンチモンを実質的に含まないことが好ましい。ヒ素やアンチモンは毒性があることから、環境への影響を防ぐために、ガラス中に含まれない方が好ましい。本発明において、実質的に含有しないとは、0.01質量%未満のことを示す。
【0021】
本発明のガラス板は、ガラス転移点が700℃以下であることが好ましい。ガラス板に強化加工(例えば、風冷強化加工)を施して強化ガラス板を製造する場合には、ガラス板を、そのガラス転移点以上の温度に加熱し、急冷するが、ガラス転移点が700℃を超えると、強化加工のために高温にする必要があるため、強化加工の際、ガラス板を保持する部材等、周辺部材が高温下に晒されるため、周辺部材の寿命が著しく低下する、あるいは耐熱性に優れた高価な部材が必要となる、等の問題が発生する恐れがある。より好ましくは650℃以下である。また、ガラス転移点は400℃以上であることが好ましい。ガラス転移点が400℃未満だと、強化加工の際に加熱・急冷による温度差がつけにくいため、強化応力が小さくなる恐れがある。より好ましくは450℃以上、さらに好ましくは500℃以上である。
【0022】
本発明のガラス板は、屈伏点が640℃以上であることが好ましい。640℃未満だと、強化開始温度が低くなり、強化応力が小さくなるおそれがある。より好ましくは660℃以上である。また、本発明のガラス板は、屈伏点が750℃以下であることが好ましい。屈伏点が750℃を超えると、強化加工のために高温にする必要があるため、ガラスを保持する部材等、周辺部材が高温下に晒されるため、周辺部材の寿命が著しく低下する、あるいは耐熱性に優れた高価な部材が必要となる、等の問題が発生する恐れがある。より好ましくは700℃以下である。
本発明のガラス板は、ガラス転移点と屈伏点の中間の温度における熱膨張係数が250×10−7/℃以上であることが好ましい。250×10−7/℃未満だと、強化応力が小さくなるおそれがある。好ましくは300×10−7/℃以上、より好ましくは350×10−7/℃以上、さらに好ましくは380×10−7/℃以上である。ここにおいて、ガラス転移点と屈伏点の中間の温度における熱膨張係数とは、強化用ガラス板のガラス転移点の温度をTg(℃)とし、その屈伏点の温度をTs(℃)としたとき、(Ts+Tg)/2の温度における熱膨張係数をいう。
【0023】
本発明のガラス板は、ガラス転移点と屈伏点の中間の温度における熱膨張係数(α)を、50〜350℃の平均線熱膨張係数(α)で除した値(α/α)が、4.0以上であることが好ましい。すなわち、4.0未満だと強化応力が小さくなるおそれがある。好ましくは5.0以上である。より小さい熱膨張係数のガラスにおいて強化応力を大きくするには、6.0以上とすることがより好ましく、7.0以上とすることがさらに好ましい。
熱膨張係数、ガラス転移点、屈伏点は以下の要領で測定する。
直径5mm、長さ20mmの円柱状サンプルを作成し、熱膨張計を用いて5℃/分の昇温速度で測定し、50〜350℃における平均線膨張係数α、ガラス転移点、屈伏点、ガラス転移点と屈伏点の中間の温度における熱膨張係数αを求める。
本発明のガラス板は、板厚が1.3mm以上であることが好ましい。1.3mm未満だと、強化応力が大きくならないおそれがある。より好ましくは、1.6mm以上、さらに好ましくは1.9mm以上である。
【0024】
本発明のガラス板は、フロート法、フュージョン法、ダウンロード法、およびロールアウト法などのガラス板成形方法のうち、いずれかの方法によって製造される。フロート法では、1.3mm以上の板厚の板ガラスを大面積で大量生産することが容易であり、かつ板厚偏差を小さくしやすいため、より好ましい。
次に、ガラスの耐擦傷性について説明する。耐擦傷性に優れたガラスは、ビッカース硬度が高く、クラック・イニシエーション・ロードが高いなどの特徴を有する。加熱し、次いで急冷するという強化加工によって製造される強化ガラスでは、ガラスの耐擦傷性はガラスの熱履歴に依存し、その強化工程によって大きく差が生じる。通常の風冷強化ガラスの製造工程では、均等に配置されたノズルから加熱されたガラスに対し風を吹き付けて急冷するため、ノズルの直下とそれ以外の部分で耐擦傷性に差が生じる。
したがって、本発明のガラス板の耐擦傷性は、強化前の徐冷ガラス板、具体的には、ガラス転移点から30℃程度高い温度にて1時間以上保持した後、毎分1℃の冷却速度にて室温まで徐冷したガラス板を使用して評価した。
【0025】
本発明のガラス板は、ビッカース硬度が450以上であることが好ましい。ビッカース硬度が450未満であると、物体との接触により凹みができやすく、また傷も発生しやすい。より好ましくは500以上、特に好ましくは520以上である。
本発明のガラス板は、真空中におけるクラック・イニシエーション・ロードが1500gf以上であることが好ましい。クラック・イニシエーション・ロードは、クラック発生確率が50%となる荷重を示す。クラック発生確率は、4か所のビッカース圧痕の頂点全てからクラックが発生する確率であり、全ての頂点からクラックが発生した場合、クラック数が4となり、発生確率は100%に相当する。クラック・イニシエーション・ロードが低いと、物体との接触によりクラックが発生しやすく、また強度が低下しやすい。より好ましくは1600gf以上、さらに好ましくは1800gf以上、特に好ましくは2000gf以上である。
【0026】
真空中におけるクラック・イニシエーション・ロードは以下の要領で測定する。ビッカース硬度試験機により、真空中にてガラス表面にビッカース圧子を15秒間押し込んだ後、ビッカース圧子を外し、圧痕部分を観察する。通常のガラスでは、圧痕の4つのコーナーよりクラックが発生するが、4つのコーナーのうち、1つのコーナーにのみクラックが見られる場合にはクラック発生確率が25%、2つのコーナーにのみクラックが見られる場合には50%、3つのコーナーにのみクラックが見られる場合には75%、4つのコーナー全てにクラックが見られる場合には100%とし、複数の試験片についてクラック発生確率を測定する。その後、横軸にクラック発生荷重、縦軸にクラック発生確率をプロットし、クラック発生確率が50%となるビッカース荷重を求め、クラック・イニシエーション・ロードとする。この値は大きいほど、クラックが発生せず、破壊しにくいことを示す。
【0027】
本発明のガラス板からなる強化用ガラス板は、ヤング率が60GPa以上であることが好ましい。60GPa以上であると、より破壊強度が高くなりやすいという効果がある。より好ましくは65GPa以上、さらに好ましくは70GPa以上、特に好ましくは75GPa以上である。
本発明のガラス板からなる強化用ガラス板は、光弾性定数が3.5×10−7cm/kg以下であることが好ましい。3.5×10−7cm/kgを超えると、ディスプレイのカバーガラスに用いた際や、偏光により輝度を調整するような場合において、色ムラが発生しやすくなるおそれがある。より好ましくは3.2×10−7cm/kg以下である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1、表2の質量%で示すガラス組成となるように、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等、一般的に使用されるガラス原料を適宜選択し、ガラスとして300gとなるように秤量および混合した。その後、混合物を白金るつぼに入れ、1600℃の抵抗加熱式電気炉に投入し、3時間溶融し、脱泡、均質化した後、型材に流し込み、ガラス転移点から約30℃高い温度にて1時間以上保持した後、毎分1℃の冷却速度にて室温まで徐冷し、サンプル用の徐冷ガラスを作製した。
JIS R 3103−3:2001に基づき、作製したガラスから、直径5mm、長さ20mmの円柱状サンプルを作製し、熱膨張計(ブルカー・エイエックスエス社製、TD5010SA)を用いて5℃/分の昇温速度で測定し、ガラス転移点を求めた。また、同じ測定データから、屈伏点を求めた。
【0029】
JIS R 1618:2002に基づき、作製したガラスについて、ガラス転移点の測定と同様に熱膨張計(ブルカー・エイエックスエス社製、TD5010SA)を用いて5℃/分の昇温速度で測定し、50〜350℃における平均線膨張係数αを求めた。また、同じ測定データから、ガラス転移点と屈伏点の中間の温度における熱膨張係数αを求めた。
作製したガラスから、4cm×4cmのガラス板の両面が平行になるように研磨し、厚さを約10mmとしたサンプルを作製し、アルキメデス法により密度を、また超音波パルス法によりヤング率を求めた。
作製したガラスから、約20mm×約20mm×厚さ約1mmで、上下面が鏡面加工されたサンプルを作製し、研磨加工後、上記徐冷条件にて乾燥窒素雰囲気下にて再度徐冷を行った。耐擦傷性、破損の評価のため、得られた徐冷ガラス板表面に真空中にてビッカース硬度計の圧子を押し込み、クラック・イニシエーション・ロードを求めた。また、ビッカース硬度は100gfでの圧痕から求めた。
【0030】
得られた物性値を表1、2に示す。例1〜、および例〜11は実施例、例3および例6〜8は参考例、例4および例5は比較例である。例5は通常の窓ガラス板に用いられるソーダライムシリカガラスと同じ組成である。
例1〜5のガラスについて、風冷強化のしやすさを評価するため、加熱・急冷により発生する応力を測定した。先ず、例1〜5の徐冷ガラスから、寸法が直径20mm、厚さ5mmで、全面が鏡面である円板を作製した。作製した円板を用いて、円板圧縮法により光弾性定数を求めた。次いで、円板状のサンプルを1個ずつ白金るつぼ内に白金製のワイヤーを用いて吊るし、ガラス転移点から125℃高い温度にて10分間保持した。この際使用した白金るつぼは、直径約6cm、高さ約10cmの筒状であり、ガラスはるつぼ内部のほぼ中心に位置するようにした。加熱後、ガラスをるつぼごと取り出し、大気中でるつぼごと急冷することにより、ガラスを急冷した。作製した急冷ガラスのレターデーションを歪検査機(東芝社製)により測定した。また、レターデーション値を前記光弾性定数にて除して、発生応力を求めた。得られた結果を表1に示す。例6〜11のガラスについては、得られたガラスの物性値から計算によって発生応力を推定した。
【0031】
例1および例6〜9は、通常の窓ガラス板に用いられるソーダライムシリカガラスと同じ組成である例5より50〜350℃における平均線膨張係数αが小さいにもかかわらず、加熱・急冷による発生応力は高くなった。また、例2および例10の熱膨張係数αは、例5の2/3程度であったが、加熱・急冷による発生応力は例5と同等であった。また、例3および例11の熱膨張係数αは、例5の半分程度であったが、加熱・急冷による発生応力は例5を2/3にした数値より大きかった。また、例1〜3および例6〜11は、例5に比較して低密度かつ耐擦傷性にすぐれていた。例4は、低密度であるが、耐擦傷性に劣っており、また加熱・急冷による発生応力も低かった。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のガラス板は、乗用車、トラック、バス、鉄道、船舶、航空機等の車両の窓向け強化ガラス、ヘッドライトおよびテールライト向け強化ガラス、ビルや住宅の窓、ドア、ショーウインド等の建築向け強化ガラス、パーテーション、デスクトップ、本棚、ショーケース等の家具や事務用品等向け強化ガラス、調理器具等の家庭電化製品向け強化ガラスに用いられる。
なお、2011年2月28日に出願された日本特許出願2011−041772号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の開示として取り入れるものである。