(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態は、センサレスかつモデルフリーの振動制御法を用いた能動型防振装置によって前述の課題を解決する。本発明の実施形態では、まず制振装置として電磁気アクチュエータを用いることでセンサレス化を行う。すなわち、電磁気アクチュエータで発生する逆起電圧とマグネットに対するコイルの相対速度とが比例関係にあることを利用し、逆起電圧から制振対象構造物に対するアクチュエータの相対速度を得ることによりセンサレス化を実現させる。次に、アクチュエータモデルのみを用いてカルマンフィルタを設計し、制振対象構造物の取り付け点の状態を含めたアクチュエータの状態量を推定する。最後に、カルマンフィルタにより推定された状態量を用いて、制振対象構造物のアクチュエータ取り付け点での直接速度フィードバックを実現させる制御入力をアクチュエータで作用させる。
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明するが、「1.制御系設計」について説明したのち、「2.ばね−質量系モデルへの適用」にて、アクチュエータを含めた2自由度系モデルに対し本発明の手法を適用し、閉ループ系の周波数応答関数(Frequency Response Function: FRF)を評価することにより制振効果を検証するとともに、制御系のロバスト性を考察する。さらに、「3.有限要素モデルへの適用」にて、一般構造物への適用可能性を検証するため、片持ち平板を対象構造物としたFEモデルに対し本発明の手法を適用し、多自由度系モデルにおいても制振効果が得られることを示す。
【0011】
1.制御系設計
《センサレス化》
電磁気アクチュエータを用いたセンサレス化手法に関する従来研究から、本研究が関連するセンサレス化の原理について簡便に説明する。
図1は電磁気アクチュエータの機械的モデルを示し、
図2はその電気等価回路を示す。
図1に示すように、本例の能動型防振装置は、制振対象構造物1の振動を電磁気アクチュエータ2により抑制するものであり、電磁気アクチュエータ2は、図示する上下方向に振動する慣性マス21と、慣性マス21に対して固定されたコイル22と、制振対象構造物1に設けられたマグネット(永久磁石)23とを備える。
【0012】
なお、
図1及び
図2における各記号は、慣性マス3を含むアクチュエータ2の質量m
0、アクチュエータ2の剛性k
0、アクチュエータ2の減衰係数c
0、コイル22(=慣性マス21)の変位x
0、マグネット23(=制振対象構造物1)の変位x
1、抵抗R、アクチュエータ2で発生する逆起電圧E、アクチュエータ2への入力電圧V
s、アクチュエータ2に加わる電圧V
c、アクチュエータ2を流れる電流I
c、コイル22のインピーダンスZ
c*をそれぞれ表す。なお、Z
c*はコイルの抵抗およびインダクタンスを用いて表されることもある。
【0013】
ここで、逆起電圧E(t)と、マグネット23に対するコイル22の相対速度Sx
rel(t)(=dx
rel/dt)は、比例定数K
aを用いると、下記式1のような関係が成り立つ。なお、マグネット23に対するコイル22の相対速度Sx
rel(t)は、
図1に示す実システムでは制振対象構造物1に対するアクチュエータ2の相対速度に対応する。(なお、xドットの微分記号は日本国電子出願の仕様により明細書の本文中で使用できないため記号Sを用いるが、イメージデータによる数式においてはxドットを用いることもある。)
【数2】
【0014】
逆起電圧E(t)を直接計測し、式1を用いれば相対速度Sx
rel(t)が得られるが、入力電圧V
sが作用している場合に、逆起電圧E(t)はコイル22内で発生するため直接計測できない。そこで、
図2に示したアクチュエータの電気等価回路より次のような関係を導く。
【数3】
【0015】
これら式1及び式2より、相対速度Sx
rel(t)は、以下のように求めることができる。
【数4】
【0016】
このように相対速度Sx
rel(t)を式3から得ることにより、相対速度検出に関するセンサレス化が可能になる。すなわち、上記式3においてアクチュエータ2に加わる電圧V
c、コイル22のインピーダンスZ
c*、比例定数K
aは既知であるからアクチュエータ2を流れる電流I
cを計測すれば、制振対象構造物1に対するアクチュエータ2の相対速度Sx
rel、つまり従来加速度センサにて検出していた制振対象構造物の加速度を、加速度センサを設けることなく求めることができる。
【0017】
《カルマンフィルタ設計》
本例の能動型防振装置では、モデルフリー制御を実現するため、アクチュエータモデルのみを用いたカルマンフィルタを設計し、状態量を推定する。つまり、制振対象構造物のモデルを用いることなく、アクチュエータモデルのみを用いたモデルフリーの制御方法を採用する。本例のアクチュエータのモデルを
図3に示す。同図に示すように、アクチュエータは1自由度系モデルで表され、各記号はそれぞれアクチュエータの質量m
0,アクチュエータの剛性k
0,アクチュエータの減衰係数c
0であり、Fは電磁気アクチュエータの発生力、すなわち制御入力を示す。またx
0はアクチュエータの質量の変位,x
1は制振対象構造物への取り付け点の変位を表す。
【0018】
上述したセンサレス化の手法により相対速度Sx
rel(t)が得られるとして、カルマンフィルタを設計する。
図3より、アクチュエータの運動方程式は下記式4で表される。
【数5】
【0019】
ただし、Kaは推力定数(F=KaI)である。ここで、下記式5とおく。
【数6】
【0020】
この式5の関係を用いると、式4から下記式6が得られる。
【数7】
【0021】
以上より、カルマンフィルタ設計のための状態方程式は以下の式7のようになる。
【数8】
【0022】
ここで、上記式7におけるx
a,y
a,A
a,B
a,G
a,C
a,D
a,H
aは以下のとおりである。
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【0023】
これより、制振対象構造物のアクチュエータの取り付け点の状態を含めたアクチュエータの状態量は、カルマンフィルタにより推定が可能になる。カルマンフィルタは以下のように構成される。
【数13】
【数14】
【0024】
上記式13において、誤差共分散行列は、システム雑音および観測雑音のパワースペクトル密度W,Vを用い、以下のリカッチ方程式の正定対称な解として得られる。
【数15】
【0025】
《疑似直接速度フィードバック制御則》
さて、直接速度フィードバック(Direct Velocity Feedback : 以下、DVFBともいう)に基づき、制振対象構造物1のアクチュエータ2の取り付け点に仮想上の固定点から減衰を等価的に付与させる機能をもつ制御ロジックを考える。ここで、モデルフリーという条件で構造物を制振させるため、モード数によらずシステムの安定条件を満たすコントローラを設計でき、またフィードバックゲインを容易に変更できる疑似的なDVFB制御を採用する。さらに、閉ループ系の極配置を調節するパラメータε
1,ε
2を導入した制御ロジックを提案し、これにより制御性能とアクチュエータのモデル化誤差に対するロバスト安定性とのトレードオフに関し、バランスを図れることを示す。
【0026】
以上の制御ロジックについて、アクチュエータ2を含めた2自由度系モデルを用いて説明する。モデルを
図4に示す。同図の各記号は、それぞれアクチュエータの質量m
0,アクチュエータの剛性k
0,アクチュエータの減衰係数c
0であり、Fは電磁気アクチュエータの制御入力である。また、それぞれ制振対象構造物の質量m
1,剛性k
1,減衰係数c
1であり、wは外乱入力、x
0はアクチュエータの質量の変位、x
1は制振対象構造物の変位、つまり制振対象構造物へのアクチュエータの取り付け点の変位を表す。
図4より、制振対象構造物の運動方程式は下記式15となる。
【数16】
【0027】
ここで、下記式16とおくと、上記式15は下記式17となり、フィードバックゲインK
fbにより減衰を自由に付与することができる。ただし、ε
c及びε
kは式18のとおりであり、ε
1,ε
2は調整パラメータである。
【数17】
【数18】
【数19】
【0028】
上記式17およびアクチュエータの運動方程式より、x
1とx
0の間の伝達関数は下記式19となる。
【数20】
【0029】
このため、閉ループ系の外乱に対する対象構造物の伝達関数の極は、ε
1,ε
2の影響を受ける。したがって、ε
1,ε
2の値を調整することにより、安定度の高い極配置が可能になると考えられる。また、ε
1=ε
2=0とすると、見かけ上、式17から減衰のみが理想的に付与されたシステムとなるが、x
1とx
0の間の伝達関数は、上記式19から原点に極を有するため、式19において分母が0になって発散するため実際には制御不能となる。一方、ε
1,ε
2をともに正の実数又は正の実部をもつ共役複素数として与えれば、式19の伝達関数は安定となる。以上のことから、本例のように制御則にε
1,ε
2を導入することには本質的に意義があり、制御性能およびロバスト安定性の指標にしたがって適切にε
1,ε
2を与えることが重要である。
【0030】
以上より、制御入力電流Iは以下の式20のようになる。なお、K及びxはそれぞれ下記式21,22のとおりである。
【数21】
【数22】
【数23】
【0031】
《制御系の構成》
センサレス・モデルフリーの疑似的DVFB制御を実現するために、上述したとおりカルマンフィルタを導入するとともに、上述したとおりフィードバックコントローラーを導出した。これらを用いて制御系を構成すると
図5のようになる。同図において、P(s)は任意の制振対象構造物、zは評価応答で制振対象構造物の変位、yは観測出力で制振対象構造物に対するアクチュエータの相対速度、uは制御入力、wは外乱入力である。これにより、センサレス・モデルフリーの疑似的DVFB制御が実現できる。
【0032】
2.ばね−質量系モデルへの適用
次に、アクチュエータ2を含めた2自由度系モデルに対し本手法を適用し、ε
1,ε
2の設定による制振効果およびロバスト性との関係を評価する。
【0033】
《システムの定式化》
制振対象構造物1の諸元を表1に示す。アクチュエータ特性による制振効果の影響を考察するため、固有振動数の異なる2つのアクチュエータA,Bを用いる。それぞれのアクチュエータA,Bの諸元を表2に示す。アクチュエータAの固有振動数は制振対象構造物のそれより十分低く、アクチュエータBでは十分高く選定し、それぞれのアクチュエータA,Bの質量は制振対象構造物よりも十分小さく選定した。
【表1】
【表2】
【0034】
図4に示した2自由度系モデルの状態方程式は次の式23のようになる。
【数24】
【数25】
【数26】
【数27】
【0035】
また、Cz,Cyは、それぞれ評価応答(制振対象構造物の変位)、観測出力(制振対象構造物に対するアクチュエータの相対速度)を抽出するための出力行列であり、Ms,Ks,Csは、それぞれアクチュエータを含めた2自由度系モデルの質量行列,剛性行列,減衰行列である。Csは、比例粘性行列を仮定する。行列B
1s,B
2sは、それぞれ制御入力、外乱入力に関する係数行列である。そして、x
d=(x
1,x
0)
Tは、この2自由度系モデルの変位ベクトルである。上述の評価応答とは、フィードバック制御時に評価対象とする応答のことで、制御ロジックには関与しない。
【0036】
《シミュレーション結果》
(1)アクチュエータ特性による制振性能の比較
表3に示すパラメータを用いて、制御系設計を行った。表2に示した固有振動数の異なる2種類のアクチュエータA,Bを用いたときの制振対象構造物のコンプライアンス(x
1/w)を
図6に、それぞれのアクチュエータA,Bを用いたときのカルマンフィルタにより推定された制振対象構造物のコンプライアンスを
図7に、それぞれのアクチュエータA,Bを用いたときの開ループ系の制振対象構造物およびアクチュエータのコンプライアンス(x
1/w,x
0/w)を
図8に示す。
【0037】
図6において、w/o controlの点線はアクチュエータを作動させない場合の振動伝達レベル(dB)を示し、with controlの実線はアクチュエータを作動させた場合の振動伝達レベル(dB)を示す。
図6より、アクチュエータAを用いた場合、疑似的DVFB制御により理想的に減衰が付与されており、十分な制振効果が得られている。一方、アクチュエータBを用いた場合、制振効果が著しく低下している。これは
図7に示したカルマンフィルタによる推定精度がアクチュエータAを用いたときと比べ極めて低いからである。
図7において、calculatedの点線は計算値、estimatedの実線はカルマンフィルタによる推定値をそれぞれ示す。
【0038】
図8より、アクチュエータAでは制振対象とする共振時において、制振対象構造物に対するアクチュエータの相対速度が大きく、アクチュエータBではこれが小さいことがわかる。これに対応して、制振対象とする共振時のカルマンフィルタによる推定精度は、前者では高く、後者では低くなる。以上のことから、制振対象構造物より十分に低い固有振動数を有するアクチュエータを用いることが望ましい。なお、アクチュエータAを用いたときの制振対象構造物のコンプライアンスは、共振ピークが1つしか現れていないが、実際には2つの固有振動数を有し、低周波数にあるもう1つの共振ピークは、見かけ上、有意に現れない。
【0039】
(2)ε
1,ε
2の設定による制振性能の影響
上述のアクチュエータAを用いた場合について検討する。ε
1=ε
2=εとし、εの値による制振性能の影響を確認する。ε=1,ε=400のときの制振対象構造物のコンプライアンスを
図9に示す。同図(a)では、共振ピークが理想的に減衰されているが、同図(b)では減衰効果が低減していることに加え、固有振動数が低くなっている。これは上記式17からεの値を大きくしたことに起因している。これより、制振性能のみに着目した場合、εの値は小さい方が望ましいことがわかる。ただし、極が原点に近いと、アクチュエータのモデル化誤差等がある場合、閉ループ系が不安定になることもあると考えられ、適切なεの値を選ぶ必要がある。
【0040】
(3)ロバスト安定性
ロバスト安定性を確認するため、アクチュエータのモデル化誤差および観測出力誤差を与え、閉ループ系の特性を調べる。表4に誤差を与えたときのアクチュエータのパラメータおよび表2に示した値に対する変動の割合を示す。このとき、表3に示した条件で設計した制御系では、閉ループ系は不安定となった。これは、カルマンフィルタをアクチュエータのモデルのみを用いて設計しているため、アクチュエータのモデル化誤差が直接、状態量推定精度の低下に寄与してしまうからである。
【0041】
次に、安定余裕を大きくするため、εの値を大きくすることを検討する。いま、εの値を400とし、アクチュエータAを用いたときの制振対象構造物のコンプライアンスを
図10に示す。そして、ε=1,ε=400としたときの複素平面上に示された閉ループ系の極を
図11に示す。
図11において、○印はε=400,×印はε=1の場合の極をそれぞれ示す。
図10より、アクチュエータのモデル化誤差やセンサレス化による相対速度の検出誤差がある場合においても閉ループ系は安定であり、制振効果も十分に得られている。また、
図11より、ε=1のときは極の実部が正となり、不安定となっていたが、ε=400としたときは全ての極の実部が負になり安定となっていることがわかる。
【0042】
以上の結果から、次のことが明らかになった。すなわち、εの値を小さく選定した制御系では、より理想的な減衰が付与されたシステムとなり、制振性能は向上するが、アクチュエータのモデル化誤差に対するロバスト安定性は低くなる。一方、εの値を大きく選定したときには、達成される制振性能は制限されるが、アクチュエータのモデル化誤差に対するロバスト安定性は向上する。したがって、モデル化精度に応じて、適切なεの値を選定することにより、それに応じた制振効果が実システムにおいても期待できる。
【0043】
3.有限要素モデルへの適用
《制振対象構造物》
制振対象構造物を
図12に示す。材質はアルミニウム、寸法は300mm(長さ)×200mm(幅)×20mm(厚さ)、拘束条件は片端固定とした。加振点、応答点およびアクチュエータの配置点はP点とした。有限要素法(FEM)でモデル化し、ヘキサソリッド要素(メッシュサイズ10mm、節点数7005、要素数1200)とし、ソルバーにはANSYS11.0を使用した。また、アクチュエータは表2に示したアクチュエータAを用いた。
【0044】
《システムの定式化》
制振対象構造物であるn自由度システムの運動方程式、およびアクチュエータの運動方程式を次の式27,28として記述する。
【数28】
【数29】
【0045】
ここで、M
s,K
s,C
sは、それぞれ制振対象構造物の質量行列、剛性行列、減衰行列である。C
sは、比例粘性行列を仮定する。m
0,k
0,c
0は、それぞれアクチュエータの質量、剛性、減衰係数である。x
s,x
rel,I,wは、それぞれ制振対象構造物の変位ベクトル、制振対象構造物に対するアクチュエータの相対変位、電流、外乱である。b
1,b
2はそれぞれ制御入力、外乱に関する係数行列であり、制振対象構造物の節点および力の入力方向を定義する。
【0046】
次に、下記式29のモード座標変換を用いて対象構造物のモデルをr次に低次元化する。低次元化されたモデルの状態方程式は次の式30のようになる。ただし、Φは質量正規固有モード行列である。また、式30におけるq,z,A,B
1,B
2,C
xはそれぞれ次の式31〜35のとおりである。
【数30】
【数31】
【数32】
【数33】
【数34】
【数35】
【数36】
【0048】
式36において、φ
i,Ω
i,ζ
i(i=1,…,r)はそれぞれ固有モードベクトル、固有角振動数、モード減衰比である。いま、観測出力は相対速度であるので出力行列C
yは下記式37となり、評価応答を制振対象構造物におけるアクチュエータ取り付け点の変位とし、出力行列C
zは下記式38となる。
【数38】
【数39】
【0049】
《シミュレーション結果》
アクチュエータAに対し、表3に示したパラメータを与え、制御系を構成した。ただし、K
fbの値のみ300とした。非制御時および制御時における制振対象構造物のコンプライアンス(x
1/w)を
図13に示す。同図より、疑似的DVFB制御により理想的に減衰が付与されており、十分な制振効果が得られていることがわかる。
【表3】
【0050】
カルマンフィルタにより推定された制振対象構造物のコンプライアンスを
図14に、制振対象構造物とアクチュエータの開ループ系のコンプライアンス(x
1/w,x
0/w)を
図15に示す。これらの結果より2自由度系モデルと同様、カルマンフィルタにより良好な状態推定が実現されており、また開ループ特性より、制御帯域において、制振対象構造物に対するアクチュエータの相対速度が有意に生じていると考えられる。
【0051】
次に、ロバスト安定性を確認するため、表4に示したアクチュエータのモデル化誤差および観測出力誤差を与えた。εの値を400とし、アクチュエータAを用いたときの制振対象構造物のコンプライアンスを
図16に示す。同図より、2自由度系モデルと同様、アクチュエータと観測出力に誤差を与えた場合も閉ループ系は安定であり、良好な制振効果が達成されていることがわかる。以上の結果から、本例の制御手法は任意の多自由度構造物に対して、制御効果を発揮することが期待できる。
【表4】
【0052】
4.結論
本例によれば、センサレス・モデルフリー・疑似的DVFB制御手法を用いた能動型防振装置を提供することができる。そして、アクチュエータを含めた2自由度系モデルおよびFEMモデルを対象とした振動抑制に本例の手法を適用することで、以下の効果を奏する。
【0053】
1)センサレス・モデルフリー・疑似的DVFB制御系の制御ロジックの構築を行ったところ、センサレス化およびモデルフリー制御を実現すべく、アクチュエータモデルのみを用いて設計したカルマンフィルタによる状態量推定から疑似的DVFB制御を実現するロジックを導出することができた。
【0054】
2)アクチュエータを含めた2自由度系モデルに対し、本例の制御手法による制振効果を検証したところ、制振対象構造物よりも低い固有振動数を有するアクチュエータを用いることにより、制振対象とする共振時にアクチュエータと制振対象構造物の間には有意な相対速度を有し、同時にカルマンフィルタによる状態量の推定精度が高く、望ましい制振効果が得られることを確認した。
【0055】
3)同モデルに対し、ロバスト安定性を調べるため、モデル化誤差および観測出力誤差を与えシミュレーションを行ったところ、これらの誤差に対し、制御パラメータであるε
1,ε
2の値を調節することにより、制御性能およびロバスト安定性のトレードオフに関するバランスが図られることが明らかになった。
【0056】
4)有限要素法(FEM)を用いた平板構造物の多自由度系モデルに本例の制御手法を適用しても、上記と同様の制振効果が得られることを確認した。