特許第5955183号(P5955183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 田中貴金属工業株式会社の特許一覧

特許5955183半導体素子のダイボンド接合構造及び半導体素子のダイボンド接合方法
<>
  • 特許5955183-半導体素子のダイボンド接合構造及び半導体素子のダイボンド接合方法 図000004
  • 特許5955183-半導体素子のダイボンド接合構造及び半導体素子のダイボンド接合方法 図000005
  • 特許5955183-半導体素子のダイボンド接合構造及び半導体素子のダイボンド接合方法 図000006
  • 特許5955183-半導体素子のダイボンド接合構造及び半導体素子のダイボンド接合方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955183
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】半導体素子のダイボンド接合構造及び半導体素子のダイボンド接合方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/52 20060101AFI20160707BHJP
【FI】
   H01L21/52 B
   H01L21/52 D
   H01L21/52 E
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-213041(P2012-213041)
(22)【出願日】2012年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-67917(P2014-67917A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】小柏 俊典
(72)【発明者】
【氏名】栗田 昌昭
(72)【発明者】
【氏名】宮入 正幸
【審査官】 井上 弘亘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−003884(JP,A)
【文献】 特開2006−202944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された銅又は銅合金からなる配線と半導体素子とを接合材を介するダイボンディングで接合して形成されるダイボンド接合構造において、
前記配線と接合材との間に、配線側に形成されたルテニウムからなる厚さ5〜200nmの第1バリア層と、
前記第1バリア層上に形成されたタンタルからなる厚さ5〜200nmの第2バリア層と、を備え
前記接合材は、Au−Sn系ろう材、Au−Si系ろう材、Au−Ge系ろう材のいずれかのろう材、又は、純度99.9質量%以上の銀粉末又は金粉末による焼結組織を有し、バルク材の密度に対して0.45〜0.95倍の密度を有するもの、のいずれかよりなることを特徴とする半導体素子のダイボンド接合構造。
【請求項2】
基板上に形成された銅又は銅合金からなる配線へ半導体素子をダイボンド接合する方法において、
基板上の配線側にルテニウムからなる厚さ5〜200nmの第1バリア層、及び、前記第1バリア層上にタンタルからなる厚さ5〜200nmの第2バリア層を形成し、
基板上に接合材を介して前記半導体素子を載置し、加熱して接合する方法であって、
前記接合材として、Au−Sn系ろう材、Au−Si系ろう材、Au−Ge系ろう材のいずれかのろう材を用い、
前記ろう材を基板上又は半導体素子に融着して固定し、半導体素子を載置して加熱・接合する半導体素子のダイボンド接合方法。
【請求項3】
基板上に形成された銅又は銅合金からなる配線へ半導体素子をダイボンド接合する方法において、
基板上の配線側にルテニウムからなる厚さ5〜200nmの第1バリア層、及び、前記第1バリア層上にタンタルからなる厚さ5〜200nmの第2バリア層を形成し、
基板上に接合材を介して前記半導体素子を載置し、加熱して接合する方法であって、
前記接合材として、純度99.9質量%以上、平均粒径0.01μm〜1.0μmである銀粉末、金粉末のいずれかよりなる金属粒子が有機溶剤に分散する金属ペーストを用い、
前記金属ペーストを基板上の配線又は半導体素子のいずれかに塗布した後に、半導体素子を基板に載置し、一方向又は双方向から加圧しながら加熱して接合する半導体素子のダイボンド接合方法。
【請求項4】
接合時の加熱温度は、80〜300℃の温度である請求項3記載の半導体素子のダイボンド接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子を基板に接合する際に適用される接合構造に関する。また、半導体素子を基板にダイボンド接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種半導体素子の基板へのダイボンド接合においては、半導体素子又は基板上の配線のいずれかに接合材を接着して半導体素子を基板に載置し、その後接合材に応じた接合温度に加熱して接合を行っている。この接合部材としては、従来からAuSn系ろう材等のろう材を用いたものが広く知られている。また、近年、接合後の冷却時に生じる熱応力による半導体素子の特性変動を防止のために接合温度の低温化が要求されていることを背景として、接合材として金、銀等の導電性金属からなる金属粉末を有機溶剤に分散させた金属ペーストを使用するダイボンド法が知られている(特許文献1、2)。金属ペーストは、取り扱い性が良好であり、微細な配線にも対応可能であることから近年より広く利用されつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−26480号公報
【特許文献2】特開2002−158390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のろう材又は金属ペーストを接合材とするダイボンド接合法は、接合材の適切な選択、加熱温度設定等の加工条件の最適化により十分な接合強度を得ることができ、耐久性も良好なものとされている。
【0005】
しかし、半導体デバイスの製造プロセスへのダイボンディング適用例が増えるに従い、接合不良の問題が徐々に指摘されている。本発明者等の検討によると、いわゆるパワーデバイスと称される電力変換・制御用の半導体デバイスのような、高温環境下で高負荷を受けるような半導体デバイスにおいて接合欠陥が見られる傾向が特にある。この接合欠陥は、接合部(接合材)におけるクラック等の損傷や接合部の剥離等であり、接合直後に見られるものではなく、デバイスの使用過程において生じる経時的に生じる変化である。
【0006】
本発明は、上記課題を背景とするものであり、半導体デバイス、特に、パワーデバイス等の高温環境下で使用されるものについて、接合欠陥の生じ難いダイボンド接合構造を提供する。また、この接合構造形成のためのダイボンディング法についても提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、まず、従来のダイボンド接合において生じる接合欠陥の発生原因について検討した。そして、この発生原因として、高温環境下における、基板上の配線を構成する銅(Cu)の拡散にあることに着目した。銅が接合材に拡散した場合、接合材がろう材(例えば、Au−Snろう材)の場合、銅は主にろう材合金の粒界を拡散経路として広がる。そして、粒界における強度低下が生じ低応力でも割れが生じ易くなる。また、銅拡散により接合材の組成変動により、配線と接合材との接合面での剥離にまでも生じさせる。
【0008】
また、接合材として金属ペーストが使用される場合、銅拡散による影響はより深刻なものとなる。これは、金属ペーストにより形成される接合部の材料組織は、金属粉末の焼結組織であり、わずかであるが接合部内に金属粉末表面が露出された空隙を有する多孔質であることによる。このような多孔質の焼結組織は、結合した金属粉末同士は強固に結合していることから本来の機械的強度に問題はなく、欠陥のおそれはない。しかし、銅拡散が生じうる場合、結晶粒界に加え金属粉末表面でも銅拡散が生じる。このとき、金属粉末表面の銅は酸化して酸化物を形成する。金属ペーストにより形成される焼結組織を有する接合部は、接合後も金属粉末間の結合が生じ得るが、金属粉末表面に酸化物が形成されるとこの結合を阻害しボイド発生の要因となる。
【0009】
このように、接合部の欠陥防止に当たっては、基板上の配線の構成金属である銅が接合部に拡散することを抑制することが必要となる。そこで、本発明者等は、効果的な銅拡散抑制の手段を検討することとし、その結果、配線と接合材との間にバリア層となる金属薄膜を備える接合構造を適用することとした。そして、最も有効なバリア層としてルテニウム(Ru)とタンタル(Ta)とからなる2層構造のバリア層に想到した。
【0010】
即ち、本発明は、基板上に形成された銅又は銅合金からなる配線と半導体素子とを接合材を介するダイボンディングで接合して形成されるダイボンド接合構造において、前記配線と接合材との間に、配線側に形成されたルテニウムからなる第1バリア層と、前記第1バリア層上に形成されたタンタルからなる第2バリア層と、を備えることを特徴とする半導体素子のダイボンド接合構造である。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の基本的な形態は図1(a)に示すように、基板上の配線と接合材との間に2つのバリア層を形成する接合構造である。従って、基板やその配線、及び、接合材と半導体素子については、従来と同様のものが適用される。
【0012】
第1、第2のバリア層として、ルテニウムとタンタルを適用するのは、本発者等の検討から、これらの金属薄膜の組み合わせが銅の拡散抑制に最も効果的だからである。例えば、ルテニウムと同じ貴金属に分類される白金、パラジウムを適用してもかかる銅拡散防止作用はない。また、バリア層は2層構造にすることが必要であり、ルテニウム膜のみ又はタンタル膜のみの単層では十分な効果を発揮しない。更に、第1、第2のバリア層の構成を逆にする場合、即ち、配線側にタンタル膜をその上にルテニウム膜を形成しても十分な効果はない。
【0013】
第1、第2のバリア層の膜厚は、第1バリア層の厚さは5〜200nmであり、第2バリア層の厚さは5〜200nmとするのが好ましい。薄すぎるとバリア層としての銅拡散抑制効果を発揮しない。また、厚すぎるとバリア層形成コスト上昇のため好ましくない。各層のより好適な膜厚は、第1バリア層の厚さを10〜100nmとし、第2バリア層の厚さを10〜100nmとする。また、第1バリア層の厚さと第2バリア層の厚さとの関係としては、第2バリア層の厚さが第1バリア層の厚さの0.5倍〜1.5倍とするのが好ましい。
【0014】
上記したように、本発明にかかる接合構造は、配線と接合材との間にバリア層を設置した点を特徴とし、それ以外の構成については、従来と同様のものが適用される。
【0015】
基板及びその配線について、基板は、半導体デバイスで通常用いられるシリコンの他、パワーデバイス用基板として適用されるSiC等のセラミックス基板等が適用され、特に限定されることはない。また、本発明は配線を構成する銅の拡散抑制を目的とするものであるから、配線は、銅又は銅合金からなることが前提となる。但し、その形状、寸法、厚さ等は限定されることはない。配線材料としては、純銅や無酸素銅の他、銅合金としてAl−Cu、Al−Si−Cu等の合金が適用できる。
【0016】
基板へ配線を形成するにあたって、安定的な接合強度を得る目的で基板と配線との間に下地層として、チタン(Ti)やタングステン(W)、モリブデン(Mo)、亜鉛(Zn)等の金属薄膜を形成する場合があるが、このような下地層を備えていても良い(図1(b))。また、配線表面については、バリア層形成前に自然酸化膜が形成されている場合があるが、配線と第1バリア層との間にかかる自然酸化膜が存在していても良い。更に、配線の表面にニッケル膜(無電解ニッケル膜)が形成される場合がある。このニッケル膜は、腐食防止等のために形成されるものであり、バリア層としての効果は期待できない。そのため、かかるニッケル膜を備える配線が形成された基板にも本発明の接合構造は有効である(図1(c))。尚、上記の下地層と無電解ニッケル膜は、同時に存在していても良い。
【0017】
基板上の配線と半導体素子とを接合する接合材についても基本的に従来と同様の構成が適用される。また、接合材の形状、寸法、厚さについては特に限定されるものはなく、ダイボンドする半導体素子に応じて設定される。接合材としては、Au−Sn系ろう材の他、Au−Si系ろう材、Au−Ge系ろう材等のろう材が適用されることがあるが、これらの接合材の欠陥防止に本発明は有用である。
【0018】
但し、本発明が特にその結果を発揮するのは、接合材として金属ペーストにより形成される場合である。上述のように、配線からの銅の拡散による影響は、金属ペーストにより形成される接合材の方が大きいからである。ここで、金属ペーストをにより形成される接合材は、金属ペーストを構成する純度99.9質量%以上の金粉末、銀粉末の焼結組織を有するものである。この焼結組織は、金属粉末が相互に点接触或いはネッキングして形成する多孔質組織を呈し、構成金属のバルク材の密度に対して0.45〜0.95倍の密度を有する。
【0019】
次に、本発明に係る接合構造を利用する半導体素子のダイボンド接合方法について説明する。このダイボンド方法は、基板上に形成された銅又は銅合金からなる配線へ半導体素子をダイボンド接合する方法において、基板上の配線側にルテニウムからなる第1バリア層、及び、前記第1バリア層上にタンタルからなる第2バリア層を形成し、基板上に接合材を介して前記半導体素子を載置して、加熱して接合するものである。
【0020】
基板及び配線については、上述の通り、従来と同様のものが適用され、本発明で特に規定する事項はない。また、基板上への下地層形成や配線上への無電解ニッケル膜形成がある場合にも本発明は有用であるが、その形成工程の有無や条件についても特に限定されることはない。
【0021】
各バリア層の形成方法については、一般的な薄膜形成技術が適用可能である。物理的蒸着方法として、真空蒸着法、スパッタリング法等が挙げられ、化学的蒸着法として、CVD法等が適用できる。これらの方法は、膜厚調整も容易であり、必要な膜厚のバリア層を形成することができる。尚、バリア層の密着性を保つため、バリア層膜形成工程においては、雰囲気中の酸素濃度を50ppm以下とするのが好ましい。また、同時に基板を100℃〜200℃程度に加熱することも有効である。
【0022】
第1、第2バリア層形成後の工程は、従来のダイボンド方法と同様であり、接合材を介して半導体素子を基板に載置して加熱して接合する。このとき、接合材として、Au−Snろう材等のろう材を使用する場合、適宜に成形されたろう材を基板上或いは半導体素子に融着・固定し、その後半導体素子を載置して加熱・接合する。接合温度においては、ろう材の融点を考慮して設定できる。
【0023】
また、ダイボンド接合に有用な接合材として金属ペーストが挙げられる。この金属ペーストは、純度99.9質量%以上、平均粒径0.01μm〜1.0μmである銀粉末、金粉末のいずれかよりなる金属粒子を有機溶剤に分散させたものである。この金属ペーストを構成する金属粉末について、純度として99.9質量%以上の高純度を要求するのは、純度が低いと粉末の硬度が上昇し、ダイボンドの際の接合部形成時に塑性変形が生じ難くなること、更には不純物が表面酸化層を形成し粉末間の結合を阻害するからである。また、金属粉末の平均粒径については、1.0μmを超える粒径の金属粉では、ダイボンドの際の再配列が生じたときに好ましい粒子相互の近接状態を発現させ難くなるからである。一方、0.01μmを下限とするのはこの粒径未満の粒径では、ペーストとしたときに凝集しやすく、取扱いが困難となることを考慮するものである。金属粉末の構成金属を金、銀のいずれかとするのは、これらの金属は導電性が良好で軟質だからである。
【0024】
金属ペーストは、上記の金属粉末を有機溶剤に分散して形成される。この有機溶剤としては、エステルアルコール、ターピネオール、パインオイル、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、カルビトールが好ましい。例えば、好ましいエステルアルコール系の有機溶剤として、2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンタイソブチレート(C1224)を挙げることができる。本溶剤は、比較的低温で乾燥させることができるからである。
【0025】
金属ペースト中の金属粉末の含有量は、70〜99質量%であるものが好ましい。70質量%未満では接合に必要な金属が不足し緻密な接合部を形成することができない。また、99質量%を超えるとペーストの粘性が高くなりすぎ取扱い性に支障が生じるからである。
【0026】
尚、この金属ペーストは、上記有機溶剤に加えて、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、アルキッド樹脂から選択される一種以上を含有していても良い。これらの樹脂等を更に加えると金属ペースト中の金属粉の凝集が防止されてより均質となり、接合部が形成できる。尚、アクリル系樹脂としては、メタクリル酸メチル重合体を、セルロース系樹脂としては、エチルセルロースを、アルキッド樹脂としては、無水フタル酸樹脂を、それぞれ挙げることができる。そして、これらの中でも特にエチルセルロースが好ましい。
【0027】
金属ペーストの塗布工程は特に限られるものはなく、例えば、スピンコート法、スクリーン印刷法、メタルマスク印刷法、インクジェット法等、配線又は半導体素子の被接合部に対応させて種々の方法を用いることができる。
【0028】
金属ペーストを塗布後、半導体素子を基板に載置し、加熱及び加圧して接合する。加熱及び加圧により、ペースト中の金属粒子同士、及び、被接合部材の接合面と金属粒子との間に、互いに点接触した近接状態が形成され、接合部としての形状が安定する。この加熱温度は、80〜300℃とするのが好ましい。80℃未満では点接触が生じないからである。一方、300℃を超える温度とすると、加熱時に基板の変形や熱影響が生じる等、構成部材への損傷が生ずる恐れがある。そして、接合時の加圧は、0.5MPa〜50MPaとするのが好ましい。0.5MPaより低い領域では被接合面全体に金属ペーストを密着させることが出来ないこと、50MPaより高い領域では接合状態の更なる改善が見られないからである。
【0029】
また、金属ペーストを用いるダイボンド方法においては、加熱に加えて超音波を印加しても良い。加熱又は加熱と超音波との組合せにより、金属粉末の塑性変形及び結合を促進し、より強固な接合部を形成することができる。超音波を印加する場合、その条件は、振幅0.5〜5μmとし、印加時間を0.5〜3秒とするのが好ましい。過大な超音波印加は接合部材を損傷させるからである。ダイボンド工程における上記加熱及び超音波印加は、その目的から少なくとも接合部に対して行なえばよいが、接合部材全体に行っても良い。加熱の方法としては、接合部材を加圧する際の工具からの伝熱を利用するのが簡易である。同様に、超音波の印加は、接合部材を加圧する工具から超音波発振させるのが簡易であるが、超音波接合後に80〜300℃で一定時間加熱することで押圧により生じた歪み除去、再結晶組織へと安定化させることも良い。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように本発明に係るダイボンド接合構造を適用することで、配線から接合材への銅の拡散が抑制され接合材の欠陥発生を防止することができる。この接合部は、高温下でも接合部が安定していることから、本発明は、パワーデバイス等についてのダイボンディングに特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る接合構造の態様を説明する図。
図2】第1実施形態のNo.5の試験片を高温加熱した後に行ったAES分析結果。
図3】第1実施形態のNo.11の試験片を高温加熱した後に行ったAES分析結果。
図4】第1実施形態のNo.15の試験片を高温加熱した後に行ったAES分析結果。
【発明を実施するための形態】
【0032】
第1実施形態:ここでは、2層のバリア層による銅の拡散抑制効果を確認するための予備試験を行った。この予備試験は、基板上に形成した銅薄膜の上に各種のバリア層となる金属薄膜を形成し、これを加熱して金属薄膜表面へ銅拡散が生じるかを確認するものである。
【0033】
Si基板にTi薄膜(50nm)とCu薄膜(100nm)をそれぞれスパッタリング法により形成した試験片(寸法2mm角、厚み0.5mm)を用意し、これにNi、Pd、Pt、Ru、Taの各種金属を単層又は複数層形成した。そして、その上にAu薄膜又はAg薄膜(200nm)を形成した。各金属薄膜はスパッタリング法(室温)で形成した。そして、この試験片を200℃、300℃で300時間加熱し、最表面であるAu表面の色彩変化の有無を検討し、色彩変化が生じた場合はCu拡散が生じたと判断した。この評価結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
この試験の結果から、バリア層として効果を有する組み合わせは、ルテニウム(第1バリア層)とタンタル(第2バリア層)の組み合わせのみといえる。他の金属(Ni、Pd、Pt)では300℃での銅拡散の抑制効果は殆どないといえる。また、ルテニウム単層、タンタル単層のバリア層は、200℃の加熱で変色がなかったことからある程度は効果があるといえるが、300℃加熱では全く効果がなかったことから、2層構造のバリア層を採用するのが必要であるといえる。更に、No.19の結果との対比から、ルテニウム、タンタルの2種を用いるとしても、配線側にルテニウムを接合材側にタンタルを配することが必要であり、その逆は効果が低いことが確認できた。
【0036】
また、上記の予備試験後の試験片(No.5、No.11、No.15)の300℃加熱後について、オージェ電子分光分析(AES)を行った。AES分析では、最表面からスパッタリングしながらの分析を行い、深さ方向の元素分布を調査した。この結果を図2図4に示す。各図には、金属元素のスペクトルのみを記載している。変色の見られたNo.5(Ni、Pdをバリア層とするもの)、No.11(Ruのみをバリア層とするもの)は、最表面からCuが検出されていることから、その拡散が確認された。一方、Ru/Taの2層バリア層を有するNo.15については、Cuの拡散は見られずに、各層毎に構成金属のスペクトルが明瞭に確認できた。この分析結果からも2層バリア層の効果が確認された。
【0037】
尚、図2のNo.5に対するAESの結果から、配線表面にNi膜を形成した場合、Cuと共にNiも接合材に拡散することが確認された。このNiの拡散が接合強度に悪影響を与えるかは定かではないが、少なくともバリア層としての効果は期待できない。この点、No.18の結果からわかるように、配線上にNiがあってもRu/Taの2層バリア層を形成することでその拡散を抑制できることがわかる。
【0038】
第2実施形態:ここでは、実際のデバイス製造のためのダイボンディングを想定し、セラミック基板上の銅配線に金属ペースト(金粉末)を用いてSiチップのダイボンド接合を行い、高温加熱後の接合強度を確認した。
【0039】
使用した金属ペーストは、湿式還元法により製造された純度99.9質量%の金粉末(平均粒径:0.3μm)に、有機溶剤としてエステルアルコール(2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンタイソブチレート(C1224))に混合したもの(金属粉末の含有量90質量%)を用いた。
【0040】
一方、SiCセラミック基板上に銅箔(0.15mm)を接合した厚さ0.6mmのDBC基板(Direct Bonding Copper基板)を用意し。そして、基板上の銅箔表面にRu(100nm)及びTa(100nm)の2層のバリア層をスパッタリングで形成した。また、被接合部材としてSiチップ(2mm角)を用意した。Siチップには表面に、Ti(50nm)、Pt(50nm)、Au(200nm)のスパッタ膜を予め形成している。
【0041】
このDBC基板の銅箔上に上記金属ペーストを塗布後にSiチップを載置し、5MPaで加圧したところで1℃/分で150℃まで昇温、10分保持した後に20MPaに昇圧し1℃/分で300℃まで昇温、10分保持して接合した。接合後の接合部について、密度を測定したところ17.5g/cmであった。これは、バルク材の金の密度(19.3g/cm)に対して0.91倍である。
【0042】
比較例1:上記の実施形態に対し、基板の銅箔にバリア層を形成しない状態で金属ペーストを塗布し、同様にダイボンド接合した。
【0043】
比較例2、3:第2実施形態に対し、基板上にルテニウム単層(比較例2)、ニッケルと白金の2層膜(比較例3)を形成した後に金属ペーストを塗布し、同様にダイボンド接合した。
【0044】
そして、実施形態、比較例共にダイボンディングしたSiチップ付DBC基板について、300℃で200時間加熱処理を行い、処理後の試験片についてボンディングテスタを用いて接合部のシェア強度を測定した。この測定結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
この強度評価において、剥離はいずれも接合材とバリア層との接合界面近傍の接合材内部で生じた。そして、表2から、好適なバリア層を備える接合構造においては、バリア層のないものに対して2倍以上の接合強度を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係るルテニウム/タンタル2層構造のバリア層を有するダイボンド接合構造を適用することで、配線中の銅の拡散を抑制することができる。これにより、接合材の欠陥発生を防止することができる。本発明は、半導体チップ等のダイボンディング、フリップチップ接合等へ適用することができ、特に、高温環境下で使用されるパワーデバイスのボンディングに有用である。
図1
図2
図3
図4