【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、まず、従来のダイボンド接合において生じる接合欠陥の発生原因について検討した。そして、この発生原因として、高温環境下における、基板上の配線を構成する銅(Cu)の拡散にあることに着目した。銅が接合材に拡散した場合、接合材がろう材(例えば、Au−Snろう材)の場合、銅は主にろう材合金の粒界を拡散経路として広がる。そして、粒界における強度低下が生じ低応力でも割れが生じ易くなる。また、銅拡散により接合材の組成変動により、配線と接合材との接合面での剥離にまでも生じさせる。
【0008】
また、接合材として金属ペーストが使用される場合、銅拡散による影響はより深刻なものとなる。これは、金属ペーストにより形成される接合部の材料組織は、金属粉末の焼結組織であり、わずかであるが接合部内に金属粉末表面が露出された空隙を有する多孔質であることによる。このような多孔質の焼結組織は、結合した金属粉末同士は強固に結合していることから本来の機械的強度に問題はなく、欠陥のおそれはない。しかし、銅拡散が生じうる場合、結晶粒界に加え金属粉末表面でも銅拡散が生じる。このとき、金属粉末表面の銅は酸化して酸化物を形成する。金属ペーストにより形成される焼結組織を有する接合部は、接合後も金属粉末間の結合が生じ得るが、金属粉末表面に酸化物が形成されるとこの結合を阻害しボイド発生の要因となる。
【0009】
このように、接合部の欠陥防止に当たっては、基板上の配線の構成金属である銅が接合部に拡散することを抑制することが必要となる。そこで、本発明者等は、効果的な銅拡散抑制の手段を検討することとし、その結果、配線と接合材との間にバリア層となる金属薄膜を備える接合構造を適用することとした。そして、最も有効なバリア層としてルテニウム(Ru)とタンタル(Ta)とからなる2層構造のバリア層に想到した。
【0010】
即ち、本発明は、基板上に形成された銅又は銅合金からなる配線と半導体素子とを接合材を介するダイボンディングで接合して形成されるダイボンド接合構造において、前記配線と接合材との間に、配線側に形成されたルテニウムからなる第1バリア層と、前記第1バリア層上に形成されたタンタルからなる第2バリア層と、を備えることを特徴とする半導体素子のダイボンド接合構造である。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の基本的な形態は
図1(a)に示すように、基板上の配線と接合材との間に2つのバリア層を形成する接合構造である。従って、基板やその配線、及び、接合材と半導体素子については、従来と同様のものが適用される。
【0012】
第1、第2のバリア層として、ルテニウムとタンタルを適用するのは、本発者等の検討から、これらの金属薄膜の組み合わせが銅の拡散抑制に最も効果的だからである。例えば、ルテニウムと同じ貴金属に分類される白金、パラジウムを適用してもかかる銅拡散防止作用はない。また、バリア層は2層構造にすることが必要であり、ルテニウム膜のみ又はタンタル膜のみの単層では十分な効果を発揮しない。更に、第1、第2のバリア層の構成を逆にする場合、即ち、配線側にタンタル膜をその上にルテニウム膜を形成しても十分な効果はない。
【0013】
第1、第2のバリア層の膜厚は、第1バリア層の厚さは5〜200nmであり、第2バリア層の厚さは5〜200nmとするのが好ましい。薄すぎるとバリア層としての銅拡散抑制効果を発揮しない。また、厚すぎるとバリア層形成コスト上昇のため好ましくない。各層のより好適な膜厚は、第1バリア層の厚さを10〜100nmとし、第2バリア層の厚さを10〜100nmとする。また、第1バリア層の厚さと第2バリア層の厚さとの関係としては、第2バリア層の厚さが第1バリア層の厚さの0.5倍〜1.5倍とするのが好ましい。
【0014】
上記したように、本発明にかかる接合構造は、配線と接合材との間にバリア層を設置した点を特徴とし、それ以外の構成については、従来と同様のものが適用される。
【0015】
基板及びその配線について、基板は、半導体デバイスで通常用いられるシリコンの他、パワーデバイス用基板として適用されるSiC等のセラミックス基板等が適用され、特に限定されることはない。また、本発明は配線を構成する銅の拡散抑制を目的とするものであるから、配線は、銅又は銅合金からなることが前提となる。但し、その形状、寸法、厚さ等は限定されることはない。配線材料としては、純銅や無酸素銅の他、銅合金としてAl−Cu、Al−Si−Cu等の合金が適用できる。
【0016】
基板へ配線を形成するにあたって、安定的な接合強度を得る目的で基板と配線との間に下地層として、チタン(Ti)やタングステン(W)、モリブデン(Mo)、亜鉛(Zn)等の金属薄膜を形成する場合があるが、このような下地層を備えていても良い(
図1(b))。また、配線表面については、バリア層形成前に自然酸化膜が形成されている場合があるが、配線と第1バリア層との間にかかる自然酸化膜が存在していても良い。更に、配線の表面にニッケル膜(無電解ニッケル膜)が形成される場合がある。このニッケル膜は、腐食防止等のために形成されるものであり、バリア層としての効果は期待できない。そのため、かかるニッケル膜を備える配線が形成された基板にも本発明の接合構造は有効である(
図1(c))。尚、上記の下地層と無電解ニッケル膜は、同時に存在していても良い。
【0017】
基板上の配線と半導体素子とを接合する接合材についても基本的に従来と同様の構成が適用される。また、接合材の形状、寸法、厚さについては特に限定されるものはなく、ダイボンドする半導体素子に応じて設定される。接合材としては、Au−Sn系ろう材の他、Au−Si系ろう材、Au−Ge系ろう材等のろう材が適用されることがあるが、これらの接合材の欠陥防止に本発明は有用である。
【0018】
但し、本発明が特にその結果を発揮するのは、接合材として金属ペーストにより形成される場合である。上述のように、配線からの銅の拡散による影響は、金属ペーストにより形成される接合材の方が大きいからである。ここで、金属ペーストをにより形成される接合材は、金属ペーストを構成する純度99.9質量%以上の金粉末、銀粉末の焼結組織を有するものである。この焼結組織は、金属粉末が相互に点接触或いはネッキングして形成する多孔質組織を呈し、構成金属のバルク材の密度に対して0.45〜0.95倍の密度を有する。
【0019】
次に、本発明に係る接合構造を利用する半導体素子のダイボンド接合方法について説明する。このダイボンド方法は、基板上に形成された銅又は銅合金からなる配線へ半導体素子をダイボンド接合する方法において、基板上の配線側にルテニウムからなる第1バリア層、及び、前記第1バリア層上にタンタルからなる第2バリア層を形成し、基板上に接合材を介して前記半導体素子を載置して、加熱して接合するものである。
【0020】
基板及び配線については、上述の通り、従来と同様のものが適用され、本発明で特に規定する事項はない。また、基板上への下地層形成や配線上への無電解ニッケル膜形成がある場合にも本発明は有用であるが、その形成工程の有無や条件についても特に限定されることはない。
【0021】
各バリア層の形成方法については、一般的な薄膜形成技術が適用可能である。物理的蒸着方法として、真空蒸着法、スパッタリング法等が挙げられ、化学的蒸着法として、CVD法等が適用できる。これらの方法は、膜厚調整も容易であり、必要な膜厚のバリア層を形成することができる。尚、バリア層の密着性を保つため、バリア層膜形成工程においては、雰囲気中の酸素濃度を50ppm以下とするのが好ましい。また、同時に基板を100℃〜200℃程度に加熱することも有効である。
【0022】
第1、第2バリア層形成後の工程は、従来のダイボンド方法と同様であり、接合材を介して半導体素子を基板に載置して加熱して接合する。このとき、接合材として、Au−Snろう材等のろう材を使用する場合、適宜に成形されたろう材を基板上或いは半導体素子に融着・固定し、その後半導体素子を載置して加熱・接合する。接合温度においては、ろう材の融点を考慮して設定できる。
【0023】
また、ダイボンド接合に有用な接合材として金属ペーストが挙げられる。この金属ペーストは、純度99.9質量%以上、平均粒径0.01μm〜1.0μmである銀粉末、金粉末のいずれかよりなる金属粒子を有機溶剤に分散させたものである。この金属ペーストを構成する金属粉末について、純度として99.9質量%以上の高純度を要求するのは、純度が低いと粉末の硬度が上昇し、ダイボンドの際の接合部形成時に塑性変形が生じ難くなること、更には不純物が表面酸化層を形成し粉末間の結合を阻害するからである。また、金属粉末の平均粒径については、1.0μmを超える粒径の金属粉では、ダイボンドの際の再配列が生じたときに好ましい粒子相互の近接状態を発現させ難くなるからである。一方、0.01μmを下限とするのはこの粒径未満の粒径では、ペーストとしたときに凝集しやすく、取扱いが困難となることを考慮するものである。金属粉末の構成金属を金、銀のいずれかとするのは、これらの金属は導電性が良好で軟質だからである。
【0024】
金属ペーストは、上記の金属粉末を有機溶剤に分散して形成される。この有機溶剤としては、エステルアルコール、ターピネオール、パインオイル、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、カルビトールが好ましい。例えば、好ましいエステルアルコール系の有機溶剤として、2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンタイソブチレート(C
12H
24O
3)を挙げることができる。本溶剤は、比較的低温で乾燥させることができるからである。
【0025】
金属ペースト中の金属粉末の含有量は、70〜99質量%であるものが好ましい。70質量%未満では接合に必要な金属が不足し緻密な接合部を形成することができない。また、99質量%を超えるとペーストの粘性が高くなりすぎ取扱い性に支障が生じるからである。
【0026】
尚、この金属ペーストは、上記有機溶剤に加えて、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、アルキッド樹脂から選択される一種以上を含有していても良い。これらの樹脂等を更に加えると金属ペースト中の金属粉の凝集が防止されてより均質となり、接合部が形成できる。尚、アクリル系樹脂としては、メタクリル酸メチル重合体を、セルロース系樹脂としては、エチルセルロースを、アルキッド樹脂としては、無水フタル酸樹脂を、それぞれ挙げることができる。そして、これらの中でも特にエチルセルロースが好ましい。
【0027】
金属ペーストの塗布工程は特に限られるものはなく、例えば、スピンコート法、スクリーン印刷法、メタルマスク印刷法、インクジェット法等、配線又は半導体素子の被接合部に対応させて種々の方法を用いることができる。
【0028】
金属ペーストを塗布後、半導体素子を基板に載置し、加熱及び加圧して接合する。加熱及び加圧により、ペースト中の金属粒子同士、及び、被接合部材の接合面と金属粒子との間に、互いに点接触した近接状態が形成され、接合部としての形状が安定する。この加熱温度は、80〜300℃とするのが好ましい。80℃未満では点接触が生じないからである。一方、300℃を超える温度とすると、加熱時に基板の変形や熱影響が生じる等、構成部材への損傷が生ずる恐れがある。そして、接合時の加圧は、0.5MPa〜50MPaとするのが好ましい。0.5MPaより低い領域では被接合面全体に金属ペーストを密着させることが出来ないこと、50MPaより高い領域では接合状態の更なる改善が見られないからである。
【0029】
また、金属ペーストを用いるダイボンド方法においては、加熱に加えて超音波を印加しても良い。加熱又は加熱と超音波との組合せにより、金属粉末の塑性変形及び結合を促進し、より強固な接合部を形成することができる。超音波を印加する場合、その条件は、振幅0.5〜5μmとし、印加時間を0.5〜3秒とするのが好ましい。過大な超音波印加は接合部材を損傷させるからである。ダイボンド工程における上記加熱及び超音波印加は、その目的から少なくとも接合部に対して行なえばよいが、接合部材全体に行っても良い。加熱の方法としては、接合部材を加圧する際の工具からの伝熱を利用するのが簡易である。同様に、超音波の印加は、接合部材を加圧する工具から超音波発振させるのが簡易であるが、超音波接合後に80〜300℃で一定時間加熱することで押圧により生じた歪み除去、再結晶組織へと安定化させることも良い。