【文献】
DUNN, J. G. et al.,PYROLYSIS OF ARSENOPYRITE FOR GOLD RECOVERY BY CYANIDATION,Minerals Engineering,1995年,vol.8, No.4/5,p. 459-471
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
黄鉄鉱を含有する金鉱石を準備する工程1、及び、当該金鉱石を非酸化性雰囲気下で450℃以上に加熱し、当該金鉱石中の黄鉄鉱を硫化鉄(II)及び単体硫黄に熱分解する工程2を含み、酸化焙焼工程を含まない前処理と、
前処理工程後の金鉱石を、ハロゲン化物イオン及び鉄イオンを含有する金浸出液に酸化剤の供給下で接触させて、当該鉱石中の金成分を浸出する工程3と、
を含む金の浸出方法。
工程2で発生する硫化鉄(II)及び単体硫黄は冷却して共に固体状で回収し、一緒に金浸出液に接触させることで金の浸出工程を実施する請求項1〜4の何れか一項に記載の金の浸出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開2009−235525号公報(特許文献2)に記載の方法は、毒性の高いシアン、チオ尿素、チオ硫酸、ハロゲンガスといった薬品を使用することなく金を容易に浸出できるので、硫化銅鉱中の金の浸出には極めて実用性が高いが、これを黄鉄鉱に適用した場合には、金浸出速度が不十分である。
【0007】
そのため、特開2010−235999号公報(特許文献3)に記載されるような酸素を供給して行う酸化焙焼を利用した前処理を行うことで予め硫黄を除き、鉄の浸出を容易にする方法も考えられる。
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載の方法も含めて硫化鉱物を酸化焙焼する方法を採用すると、2CuS+2O
2→2CuO+SO
2や、2CuFeS
2+6O
2→CuO+4SO
2+Fe
2O
3、及び4FeS
2+11O
2→2Fe
2O
3+8SO
2のような化学反応が優先的に起こるので、環境汚染物質として知られる二酸化硫黄(SO
2)が発生するという問題が避けられない。
【0009】
また、特許文献4は、貴金属を湿式法で回収する方法では問題があることに鑑みて、貴金属を乾式処理により回収することを前提としたプロセスであり、貴金属を湿式で浸出処理することは想定されていない(特許文献4の段落0007〜0008、0078等参照)。また、湿式処理によってどのような効果が得られるのかも何ら示唆されていない。
【0010】
いずれにしても黄鉄鉱を熱反応により前処理する方法は、硫黄分を除くことで酸に可溶な鉄を生成することができるが、熱反応あるいは鉄の溶解時に有害なガスが発生する。しかも浸出―除去されるのは黄鉄鉱であり、原料の金品位の向上には資するものの金の製錬は別途行う必要がある。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、黄鉄鉱を含有する金鉱石からの金の浸出方法において、毒性の高いシアン、チオ尿素、チオ硫
酸といった薬品を使用することなく、更には二酸化硫黄の発生を抑制しながらも金の浸出速度を向上し、効率的な金の浸出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討したところ、黄鉄鉱に対して非酸化性雰囲気で硫化鉄(II)に熱分解する前処理を行った上で、ハロゲン化物イオン及び三価の鉄イオンを含有する金浸出液を用いて金浸出を行うと、酸化硫黄の発生を抑制しながらも、金浸出速度が飛躍的に向上することを見出した。
【0013】
本発明は上記知見を基礎として完成したものであり、一側面において、黄鉄鉱を含有する金鉱石を準備する工程1、及び、当該金鉱石を非酸化性雰囲気下で450℃以上に加熱し、当該金鉱石中の黄鉄鉱を硫化鉄(II)及び単体硫黄に熱分解する工程2を含み、酸化焙焼工程を含まない前処理と、
前処理工程後の金鉱石を、ハロゲン化物イオン及び鉄イオンを含有する金浸出液に酸化剤の供給下で接触させて、当該鉱石中の金成分を浸出する工程3と、
を含む金の浸出方法である。
【0014】
本発明に係る金の浸出方法の一実施形態においては、金浸出液が塩化物イオン及び臭化物イオンを含有する。
【0015】
本発明に係る金の浸出方法の別の一実施形態においては、工程3における金の浸出は酸化還元電位(参照電極は銀/塩化銀)を550mV以上に保持する条件下で行われる。
【0016】
本発明に係る金の浸出方法の更に別の一実施形態においては、工程2における熱分解は前記金鉱石を600〜750℃で5〜60分保持する条件下で行われる。
【0017】
本発明に係る金の浸出方法の更に別の一実施形態においては、金鉱石中の黄鉄鉱の含有量が5〜80質量%である。
【0018】
本発明に係る金の浸出方法の更に別の一実施形態においては、工程2で発生する気体状の単体硫黄は金鉱石から固気分離により除去される。
【0019】
本発明に係る金の浸出方法の更に別の一実施形態においては、工程2で発生する硫化鉄(II)及び単体硫黄は冷却して共に固体状で回収し、一緒に金浸出液に接触させることで金の浸出工程を実施する。
【0020】
本発明に係る金の浸出方法の更に別の一実施形態においては、金浸出液のpHを1.9以下に保持して金の浸出工程を実施する。
【発明の効果】
【0021】
黄鉄鉱を含有する金鉱石に対して、本発明に係る前処理方法を施した後に特定の金浸出液を用いて金浸出を行うことにより、有害な酸化硫黄の発生を抑制しながらも飛躍的に改善された金浸出速度を得ることができる。すなわち、本発明によれば、安全性及び環境保全性に優れた極めて実用性の高い金の浸出方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1. 前処理工程
本発明に係る金鉱石の前処理方法の一実施形態においては、黄鉄鉱を含有する金鉱石を準備する工程1と、当該金鉱石を非酸化性雰囲気下で450℃以上に加熱し、当該金鉱石中の黄鉄鉱を硫化鉄(II)及び単体硫黄に熱分解する工程2とを含み、酸化焙焼工程を含まない。
【0025】
(1)工程1
工程1では黄鉄鉱を含有する金鉱石を準備する。というのは、本発明では難溶性で金浸出率の低い黄鉄鉱中の金の浸出率を高めることを目的とするからである。しかしながら、それ以外の要件、例えば、鉱石中の金の濃度の大小は問わない。本発明の処理対象となる金鉱石は、浮遊選鉱や比重選別といった慣用の選鉱処理を経たものとすることもできる。粉砕摩鉱して鉱石の粒径を小さくし、金浸出液が鉱石内部の金に接触しやすいようにすることもできる。金鉱石中の金濃度は典型的には0.1〜100質量ppm程度であり、より典型的には1〜20質量ppm程度である。
【0026】
金鉱石は黄鉄鉱を含有する他、黄銅鉱、方鉛鉱、閃亜鉛鉱、硫砒鉄鉱、輝安鉱、磁硫鉄鉱などを含有していてもよいが、本発明の典型的な実施形態においては黄鉄鉱が3質量%以上含まれる金鉱石を使用し、本発明のより典型的な実施形態においては黄鉄鉱が30質量%以上含まれる金鉱石を使用する。このような金鉱石を使用することで、本発明による前処理の効果が顕著に発揮される。金鉱石の黄鉄鉱の含有量には特に上限はなく、100質量%でもよいが、典型的には80質量%以下である。
【0027】
また、本発明においては、酸化焙焼工程を含まないことも特徴の一つである。従来技術では酸素や空気の存在下で酸化焙焼していたため、硫化鉱物中の硫黄が酸素と結合して酸化硫黄を生じさせていた。本発明においてはそのような酸化焙焼工程を実施しない。
【0028】
(2)工程2
工程2では当該金鉱石を非酸化性雰囲気下で450℃以上に加熱し、当該金鉱石中の黄鉄鉱を硫化鉄(II)及び単体硫黄に熱分解する。このときの化学反応は次式:FeS
2→FeS+Sで表される。理論的には酸化硫黄の発生はないが、完全に酸素を遮断することは現実的には困難なケースもある。また、実操業においては、酸化硫黄が発生しても実質的な悪影響を与えない程度であれば、これを処理するための硫酸製造設備も不要であり、非酸化性雰囲気と呼んで差し支えない。そこで、本発明においては非酸化性雰囲気の中には不可避的に混入する程度の酸素が反応系に存在することは許容されている。例えば、黄鉄鉱に対する酸素供給量のモル比が酸素:黄鉄鉱=1:5以下であれば許容され、1:10以下であればより好ましい。当該熱分解を経た後の金鉱石は、後述する金浸出液に対する溶解性が格段に向上する。熱分解を経ない場合に比べて、金の浸出率が約10倍も上昇し得る。本発明で行う熱分解法では黄鉄鉱(FeS
2)がヘマタイト(Fe
2O
3)へ変化しないため、金の浸出率が不十分であると思われたことから、このような結果が得られたことは極めて驚くべき事であった。
【0029】
熱分解を実施する際の非酸化性雰囲気としては、アンモニア、一酸化炭素、硫化水素などの還元性雰囲気の他、アルゴンやヘリウムのような希ガス雰囲気、窒素雰囲気や二酸化炭素雰囲気等の不活性雰囲気が挙げられるが、予想外の反応が生じるのを防止する観点では不活性雰囲気が好ましい。もしくは熱分解に使用した排ガスを循環して使用してもよい。雰囲気中に酸素が含まれると金鉱石が酸化焙焼されて二酸化硫黄が発生するので、環境に対する影響が懸念されるため、本発明では採用しない。
【0030】
熱分解時、金鉱石の温度を450℃以上に保持する必要がある。これは、450℃未満では黄鉄鉱の熱分解が進行しにくいからである。好ましくは、熱分解は金鉱石の温度を550℃以上に保持して実施するのが好ましく、650℃以上に保持して実施するのがより好ましい。また、熱分解は保持温度を5分以上継続するのが好ましく、30分以上継続するのがより好ましい。熱分解反応を十分に進行させるためである。但し、金鉱石の温度を過剰に高くすると昇温に必要なエネルギーと処理時間が大きくなるおそれがあるので、保持温度は800℃以下とするのが好ましく、750℃以下とするのがより好ましい。同様に、保持温度を維持する時間も120分以下とするのが好ましく、60分以下とするのがより好ましい。
【0031】
熱分解を実施するための加熱炉の種類には特に制限はないが、例えば管状炉、ロータリーキルンを使用することができる。
【0032】
熱分解によって発生する単体硫黄は、高温の炉内でガス化しているので、金鉱石から固気分離可能である。そして、雰囲気ガスと共に排気系へと送ることが可能である。しかしながら、単体硫黄を排気系に送った時、温度の低下と共に硫黄が析出してガス道の閉塞等の不具合を生じさせるため、湿式スクラバーなどで回収することが望ましい。別法としては、ガス化した単体硫黄を工程2で発生する硫化鉄(II)と共に冷却して共に固体状で回収し、これらを一緒に金浸出工程に送ることも可能である。金の浸出工程で単体硫黄は金の浸出を阻害することなく浸出残渣として分離される。この場合、湿式スクラバーが不要になるため、経済的に有利になる。
【0033】
2. 金浸出工程
本発明に係る金浸出方法の一実施形態においては、前処理工程後の金鉱石を、ハロゲン化物イオン及び鉄イオンを含有する金浸出液に酸化剤の供給下で接触させて、当該鉱石中の金成分を浸出する工程3を実施する。
【0034】
金の浸出は、溶出した金がハロゲン化物イオンと反応し、金のハロゲン錯体を生成することにより進行する。
【0035】
金浸出液中のハロゲン化物イオンとしては塩化物イオンのみでも構わないが、塩化物イオンに加え、臭化物イオンを含有することが好ましい。臭化物イオンを併用することで、より低電位の状態で錯体を形成するため、金の浸出効率の向上を図ることができる。
【0036】
また、金浸出と同時に前処理で生成した硫化鉄の溶解も進行する。そのため元鉱石では黄鉄鉱に内包されていた金も浸出液と接触し溶解する。鉄イオンは酸化剤の供給下で酸化した3価の鉄イオン又は当初より3価の鉄イオンが、金を酸化する働きならびに酸との反応によって生じた硫化水素を直ちに酸化して硫黄にする働きをする。硫化鉄が溶解した時に発生するFe
2+も酸化剤の供給下Fe
3+に酸化される。
【0037】
金浸出液は銅イオンを含有することが好ましい。銅イオンは直接反応に関与しないが、銅イオンが存在することで鉄イオンの酸化速度が速くなるからである。
【0038】
浸出液と金鉱石の接触方法としては特に制限はなく、撒布や浸漬などの方法があるが、反応効率の観点から、浸出液中に残渣を浸漬し、撹拌する方法が好ましい。
【0039】
塩化物イオンの供給源としては、特に制限はないが、例えば塩化水素、塩酸、塩化金属及び塩素ガス等が挙げられ、経済性や安全性を考慮すれば塩化金属の形態で供給するのが好ましい。塩化金属としては、例えば塩化銅(塩化第一銅、塩化第二銅)、塩化鉄(塩化第一鉄、塩化第二鉄)、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム)の塩化物、アルカリ土類金属(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム)の塩化物が挙げられ、経済性や入手容易性の観点から、塩化ナトリウムが好ましい。また、銅イオン及び鉄イオンの供給源としても利用できることから、塩化銅及び塩化鉄を利用することも好ましい。
【0040】
臭化物イオンの供給源としては、特に制限はないが、例えば臭化水素、臭化水素酸、臭化金属及び臭素ガス等が挙げられ、経済性や安全性を考慮すれば臭化金属の形態で供給するのが好ましい。臭化金属としては、例えば臭化銅(臭化第一銅、臭化第二銅)、臭化鉄(臭化第一鉄、臭化第二鉄)、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム)の臭化物、アルカリ土類金属(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム)の臭化物が挙げられ、経済性や入手容易性の観点から、臭化ナトリウムが好ましい。また、銅イオン及び鉄イオンの供給源としても利用できることから、臭化銅及び臭化鉄を利用することも好ましい。
【0041】
銅イオン及び鉄イオンは、これらの塩の形態で供給するのが通常であり、例えばハロゲン化塩の形態で供給することができる。塩化物イオン及び/又は臭化物イオンの供給源としても利用できる観点から銅イオンは塩化銅及び/又は臭化銅、鉄イオンは塩化鉄及び/又は臭化鉄として供給されるのが好ましい。塩化銅及び塩化鉄としては酸化力の観点から塩化第二銅(CuCl
2)及び塩化第二鉄(FeCl
3)を使用するのがそれぞれ望ましいが、塩化第一銅(CuCl)及び塩化第二鉄(FeCl
2)を使用しても浸出液に酸化剤を供給することで、塩化第二銅(CuCl
2)及び塩化第二鉄(FeCl
3)にそれぞれ酸化されるため、大差はない。
【0042】
工程3で使用する金浸出液中の塩化物イオンの濃度は、30g/L〜180g/Lであることがより好ましい。工程3で使用する金浸出液中の臭化物イオンの濃度は、反応速度や溶解度の観点から、1g/L〜100g/Lであることが好ましく、経済性の観点から、10g/L〜40g/Lであることがより好ましい。そして、金浸出液中の塩化物イオンと臭化物イオンの合計濃度は、80g/L〜200g/Lであることが好ましい。
【0043】
工程3の開始時における浸出液の酸化還元電位(vs Ag/AgCl)は、金浸出を促進する観点から550mV以上とするのが好ましく、600mV以上とするのがより好ましい。
【0044】
また、金の浸出速度を高める観点から、金浸出液のpHは2.0以下に維持するのが好ましいが、鉄の酸化速度は高いpHの方が促進されるため、金浸出液のpHは0.5〜1.9に維持するのがより好ましい。金浸出液の温度は、金の浸出速度を高める観点から45℃以上とするのが好ましく、60℃以上とするのがより好ましいが、高すぎると浸出液の蒸発や加熱コストの上昇あるので、95℃以下とするのが好ましく、85℃以下とするのがより好ましい。
【0045】
従って、本発明の好適な実施形態においては、工程3における金浸出液として、塩化物イオン及び臭化物イオンの両方を含有するように選択することを条件に、塩酸及び臭素酸の少なくとも一方と、塩化第二銅及び臭化第二銅の少なくとも一方と、塩化第二鉄及び臭化第二鉄の少なくとも一方と、塩化ナトリウム及び臭化ナトリウムの少なくとも一方とを含む混合液を使用することができる。
【0046】
工程3の金浸出工程は酸化剤を供給しながら実施することで、酸化還元電位を管理する。酸化剤を添加しなければ途中で酸化還元電位が低下してしまい、浸出反応が進行しない。酸化剤としては特に制限はないが、例えば酸素、空気、塩素、臭素、及び過酸化水素などが挙げられる。極端に高い酸化還元電位をもつ酸化剤は必要なく、空気で十分である。経済性や安全性の観点からも空気が好ましい。
【0047】
前処理を実施した後、金浸出工程3を実施する前に、金鉱石中の不純物を除去するための各種処理を行うことも可能である。例えば、単体硫黄は、前処理後の金鉱石を単体硫黄が溶融するのに十分な温度に加熱し、瀘別して金と単体硫黄を分離することが可能である。硫化鉄(FeS)は、前処理後の金鉱石を硫酸や塩酸等の各種鉱酸のほか、硫酸鉄や塩化鉄等のFe
3+塩の水溶液に接触させて鉄分を浸出し、その後に固液分離することにより除去可能である。
【0048】
金の浸出反応後、固液分離することによって得られた金溶解液から、金を回収することができる。金の回収方法としては特に制限はないが、活性炭吸着、電解採取、溶媒抽出、還元、セメンテーション及びイオン交換などを利用することができる。S成分は浸出後液中で硫酸塩、硫化物及び単体イオウなどの形態で存在するが、これらは溶媒抽出によって金と分離可能である。
【0049】
また、浸出反応の途中で金を回収することで浸出反応液中の金濃度を低下させ、金の浸出率を高めることも有効な手法である。これは例えば、浸出反応中の金浸出液に活性炭あるいは活性炭と硝酸鉛を投入することで行うことができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例で用いた金属の分析方法は、ICP−AESにて行った。但し、金の分析では、灰吹法にて試料中の金を析出させた後、ICP−AESにて定量分析を行った。
【0051】
<比較例1>
黄鉄鉱精鉱(パプアニューギニア国産)を準備した。この黄鉄鉱精鉱中の黄鉄鉱の含有量をXRDと化学分析により算定したところ、17質量%であった。黄鉄鉱精鉱をボールミルで粉砕摩鉱して、累積重量粒度の分布曲線において累積重量が80%となる粒径(d80)を24μmに調整した。d80は、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所社型式SALD2100)で3回測定したときの平均値とした。次いで、摩鉱後の黄鉄鉱精鉱(200g)に対して、表1に記載の組成を有する塩酸酸性の金浸出液を用いてパルプ濃度100g/Lとし、液温85℃で90時間浸出処理を行った。浸出処理中は空気の吹き込み(精鉱1Lに対して0.1L/min)及び撹拌を継続し、酸化還元電位(ORP:vs Ag/AgCl)を530mV以上に維持した。また、浸出中は、金浸出液のpHが1.0〜1.1を維持するように塩酸を適宜添加した。
【0052】
【表1】
【0053】
浸出試験中、定期的に浸出残渣のサンプルを採取し、残渣中のAu品位を測定した。
図1に、当該試験の結果から得られた、浸出時間と残渣中のAu品位の関係を示す(
図1中、「FeS
2熱分解無し」のプロット参照)。この結果から、当初は約6g/tであった残渣中のAu品位が0.9g/tにまで低下するのに90時間要していることが分かる。
【0054】
<実施例1>
比較例1と同じ摩鉱後の黄鉄鉱精鉱(1.5kg)を管状炉に装入し、窒素雰囲気下で1時間かけて700℃まで昇温(昇温速度=10℃/min)した後、1時間加熱した。室温まで放冷後、加熱処理前後のXRD解析により、元鉱中に含まれていたFeS
2のピークが消失し、FeSのピークが生じたことを確認した。熱処理により生じた単体硫黄は特に除去操作を施さなかった。
次いで、熱処理後の黄鉄鉱精鉱に対して、比較例1と同じ組成を有する塩酸酸性の金浸出液を用いてパルプ濃度100g/Lとし、液温85℃で18時間浸出処理を行った。浸出処理中は空気の吹き込み(精鉱1Lに対して0.1L/min)及び撹拌を継続し、酸化還元電位(ORP:vs Ag/AgCl)を400mV以上に維持した。また、浸出中は、金浸出液のpHが1.0〜1.1を維持するように塩酸を適宜添加した。
【0055】
浸出試験中、定期的に浸出残渣のサンプルを採取し、残渣中のAu品位を測定した。
図1に、当該試験の結果から得られた、浸出時間と残渣中のAu品位の関係を示す(
図1中、「FeS
2熱分解有り」のプロット参照)。この結果から、当初は約6g/tであった残渣中のAu品位が僅か12時間で0.6g/tにまで低下したことが分かる。
【0056】
<熱分解条件が与えるXRDにおけるFeS
2及びFeSのピーク変化>
実施例1で使用した摩鉱後の黄鉄鉱精鉱(1.5kg)に対して、表1に記載のように保持温度及び保持時間を変化させたときのXRD解析におけるFeS
2及びFeSの回折強度変化を調査した。実験は管状炉を使用し、窒素雰囲気下で行った。熱分解により生成する単体硫黄は蒸発させて窒素気流により除いた。昇温速度はすべて10℃/minとした。冷却は室温になるまで放冷した。XRD解析はリガク社製型式RINT2200 ultimateを使用した。FeS
2は2θ=32.98°と56.15°、FeSは2θ=43.67°と33.78°に特徴的なピークをもつのでこれらの入射角に着目した。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2の結果から、600℃以上に加熱すれば黄鉄鉱由来のピークは確実に消失することが分かり、これは結晶性黄鉄鉱が熱分解されたことを示し、保持温度及び保持時間はそれぞれ650℃以上で60分以上の条件とすると明瞭なFeSのピークが出現することから最も好ましいことが分かる
【0059】
<実施例2>
比較例1と同じ摩鉱後の黄鉄鉱精鉱(1.5kg)を管状炉に装入し、窒素雰囲気下で1時間かけて700℃まで昇温(昇温速度=10℃/min)した後、1時間加熱した。室温まで放冷後、熱処理後の黄鉄鉱精鉱に対して、表3に記載の組成を有する塩酸酸性の金浸出液を用いてパルプ濃度100g/Lとし、液温85℃で浸出処理を行った。浸出処理中は空気の吹き込み(精鉱1Lに対して0.1L/min)及び撹拌を継続し、酸化還元電位(ORP:vs Ag/AgCl)を600mV以上に維持した。ただしNaBrに関してはNaBrを添加せず、他の成分は同じ条件でも浸出を行った。一定の時間ごとにサンプリングを行い液中の金の濃度を定量した。また、浸出中は、金浸出液のpHが1.0〜1.1を維持するように塩酸を適宜添加した。
【0060】
<比較例2>
比較例1と同じ摩鉱後の黄鉄鉱精鉱(1.5kg)を実施例3と同じ組成を有する塩酸酸性の金浸出液を用いてパルプ濃度100g/Lとし、液温85℃で浸出処理を行った。浸出処理中は空気の吹き込み(精鉱1Lに対して0.1L/min)及び撹拌を継続し、酸化還元電位(ORP:vs Ag/AgCl)を600mV以上に維持した。ただしNaBrに関しては実施例2と同じくNaBrを添加せず、他の成分は同じ条件でも浸出を行った。一定の時間ごとにサンプリングを行い液中の金の濃度を定量した。また、浸出中は、金浸出液のpHが1.0〜1.1を維持するように塩酸を適宜添加した。
【0061】
【表3】
【0062】
表4に実施例2と比較例2の金の浸出時間と浸出率を示す。
【0063】
【表4】
【0064】
上述のように黄鉄鉱を含む金鉱石を塩化浴でFe
3+とCu
2+により浸出する(表4、比較例2)と金の浸出速度は不十分である。しかしながら本発明によれば実施例2の結果から判るように金の浸出速度が大きく改善し、さらに浸出液が臭化物イオンを含まない場合でも短時間で比較的高い金の浸出率を得ることが出来ることが判る。
【0065】
<実施例3:熱分解の生じる温度>
実施例1で使用した摩鉱後の黄鉄鉱精鉱に対し、窒素雰囲気下での熱分析(セイコー社製型式TG/DTA6300)により、各温度における重量変化と吸熱−発熱を調査した。昇温速度は毎分20℃とした。結果を
図2に示す。450℃で質量の減少が始まり、同時に発熱が見られることから黄鉄鉱の分解が始まっていることが判る。窒素雰囲気下では最低でも450℃まで昇温しなければ黄鉄鉱の熱分解は生じない。ただし、上述したXRD解析の結果からみると、450℃付近では熱分解に長時間を要すると考えられ、600℃以上での加熱処理が望ましい。