(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
オキシメチレン単位を主たる構成成分とし、コモノマー単位としてオキシアルキレン単位を線状ポリアセタール共重合体の構成単位に占める割合として0.4モル%以上0.9モル%以下含有し、ヘテロポリ酸、イソポリ酸又はこれらの酸性塩から選ばれた少なくとも一種を重合触媒として製造された(A)線状ポリアセタール共重合体100重量部に対し、
(b1)トリオキサン、(b2)1分子中に環状エーテル単位を3以上4以下有する化合物及び(b3)1分子中に環状エーテル単位を1個有する化合物の共重合体である、(B)分岐又は架橋構造を有するポリアセタール共重合体0.1重量部以上2重量部以下を配合する工程を含む、ポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
(A)線状ポリアセタール共重合体を製造する際の触媒失活において、失活剤としてアルカリ金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩又はカルボン酸塩を使用して溶融混錬処理する、請求項1に記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、POM樹脂とも称され、機械的特性、熱的特性、電気的特性、摺動性、成形性等において優れた特性を持っており、主に構造材料や機構部品等として電気機器、自動車部品、精密機械部品等に広く使用されている。しかし、ポリアセタール樹脂が利用される分野の拡大に伴い、要求特性は益々高度化、複合化、特殊化する傾向にある。
【0003】
その一例として、ポリアセタール樹脂が本来有する優れた成形性や表面状態等を維持しつつ、剛性、表面硬度、摺動特性等を一層向上させた材料の要求がある。このような要求に対し、剛性を向上させるための手段として、ポリアセタール樹脂に繊維状フィラーを充填する方法が一般的であるが、この方法では成形品の外観不良や摺動特性の低下等の問題がある。
【0004】
剛性を高めるため、トリオキサン(a)99.5〜97.5重量%と単官能環状エーテル化合物及び単官能環状ホルマール化合物から選ばれた化合物(b)0.5〜2.5重量%を共重合して得られ、メルトインデックスが1〜50g/minの線状ポリアセタール樹脂(A)99.9〜90重量部に、トリオキサン(a)99.49〜95.0重量%、単官能環状エーテル化合物及び単官能環状ホルマール化合物から選ばれた化合物(b)0.5〜4.0重量%及び官能基数が3乃至4の多官能グリシジルエーテル化合物(c)0.01〜1.0重量%を共重合して得られ、メルトインデックスが0.1〜10g/minの分岐又は架橋ポリアセタール樹脂(B)0.1〜10重量部を配合してなり、線状ポリアセタール樹脂(A)のメルトインデックスと分岐又は架橋ポリアセタール樹脂(B)のメルトインデックスとの比率が0.02≦MI
B/MI
A≦1.5(MI
Aは線状ポリアセタール樹脂(A)のメルトインデックス、MI
Bは分岐又は架橋ポリアセタール樹脂(B)のメルトインデックス)の関係を満足するように線状ポリアセタール樹脂(A)と分岐又は架橋ポリアセタール樹脂(B)が選択されたポリアセタール樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のポリアセタール樹脂組成物は、高剛性、寸法安定性及びクリープ特性において優れる。
【0005】
また、摺動特性を高めるため、ポリアセタール樹脂(A)100重量部に対して、トリオキサン(a)100重量部、1分子中に環状エーテル単位を2個以上有する化合物(b)0.0005〜2重量部及び1分子中に環状エーテル単位を1個有する化合物(c)0〜20重量部を共重合して得られ、総末端基量が15〜150mmol/kgであるポリアセタール共重合体(B)0.01〜100重量部を配合してなるポリアセタール樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載のポリアセタール樹脂組成物は、剛性、表面硬度及び摺動特性において優れる。また、特許文献2に記載のポリアセタール樹脂組成物は、(B)成分の総末端基量を一定量以下に抑えているため、適切な靱性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0014】
<ポリアセタール樹脂組成物の製造方法>
ポリアセタール樹脂組成物は、コモノマー単位としてオキシアルキレン単位を一定割合で含み、ヘテロポリ酸を重合触媒として共重合された線状ポリアセタール共重合体と、分岐又は架橋構造を有する3官能又は4官能のポリアセタール共重合体とを所定の重量比で含む。
【0015】
〔(A)線状ポリアセタール共重合体〕
(A)線状ポリアセタール共重合体は、オキシメチレン単位を主たる構成成分とし、コモノマー単位としてオキシアルキレン単位を(A)線状ポリアセタール共重合体の構成単位に占める割合として0.4モル%以上0.9モル%以下含有する。本実施形態において、線状ポリアセタール共重合体とは、オキシメチレンモノマー単位からなるポリマー鎖中にオキシアルキレンモノマー単位がランダムに挿入された線状の重合体をいう。以下、(A)線状ポリアセタール共重合体を「(A)成分」ともいう。
【0016】
(A)成分は、基体樹脂として位置づけられる。(A)成分は、オキシメチレン単位(−CH
2O−)を主たる構成単位とし、オキシメチレン基以外に他のコモノマー単位を有するポリアセタールコポリマーである。
【0017】
(A)成分の主原料として、(a1)トリオキサンが広く用いられる。トリオキサンとは、ホルムアルデヒドの環状三量体をいい、一般的には酸性触媒の存在下でホルムアルデヒド水溶液を反応させることによって得られ、これを蒸留等の方法で精製して用いられる。(a1)トリオキサンは、水、メタノール、蟻酸等の不純物を極力含まないものが好ましい。
【0018】
(A)成分において、コモノマー単位にはオキシアルキレン単位(例えば、オキシエチレン基(−CH
2CH
2O−)、オキシブチレン基(−CH
2CH
2CH
2CH
2O−)等)が含まれる。
【0019】
コモノマー単位の割合は、線状ポリアセタール共重合体の構成単位に占める割合として0.4モル%以上0.9モル%以下である。コモノマー単位の割合が低すぎると、ホルムアルデヒドの放出量が増加する可能性があり、好ましくない。また、コモノマー単位の割合が高すぎると、(B)成分と好適な割合で混合しても、十分な剛性を得られない可能性があるため、好ましくない。具体的には、コモノマー単位の割合が高すぎると、ISO178に準拠する試験片の曲げ弾性率が2700MPa未満である可能性がある。
【0020】
オキシアルキレン単位の炭素数は特に限定されるものではないが、2以上4以下であることがより好ましい。
【0021】
コモノマーの例として、(a2)単官能環状エーテル化合物及び単官能環状ホルマール化合物から選択される1種以上の化合物が挙げられる。本実施形態において、単官能環状エーテル化合物とは、環状エーテル単位を1分子中に1個有する化合物をいい、単官能環状ホルマール化合物とは、環状ホルマール単位を1分子中に1個有する化合物をいう。具体的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、スチレンオキシド、オキセタン、3,3−ビス(クロルメチル)オキセタン、テトラヒドロフラン、トリオキセパン、1,3−ジオキソラン、エチレングリコールホルマール、プロピレングリコールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、トリエチレングリコールホルマール、1,4−ブタンジオールホルマール、1,5−ペンタンジオールホルマール、1,6−ヘキサンジオールホルマール等が挙げられる。
【0022】
(A)成分のメルトインデックス(「MI」ともいう。)は、特に限定されるものでないが、強度、成形性の点を考慮すると、7g/10min以上20g/10min以下であることが好ましく、9g/10min以上15g/10min以下であることがより好ましい。本実施形態では、メルトインデックスを分子量に対応する特性値としている。MIが低いほど分子量が高いことを示し、MIが高いほど分子量が低いことを示す。メルトインデックスが小さすぎると、流動性が低下し、成形性に問題が生じる可能性がある。また、メルトインデックスが大きすぎると、強度の低下を招く可能性がある。なお、本実施形態において、メルトインデックスとは、ASTM D−1238にしたがい、190℃、荷重2160gの条件下で測定された値をいうものとする。
【0023】
(A)成分は、3成分で構成されたターポリマー等であってよい。ポリアセタールコポリマーは、ランダムコポリマーの他、ブロックコポリマー等であってもよい。
【0024】
[(A)成分の製造方法]
(A)成分を製造するにあたり、重合装置は特に限定されるものではなく、公知の装置が使用され、バッチ式、連続式等、いずれの方法も可能である。
【0025】
(A)成分は、一般的には適量の分子量調整剤を添加して、カチオン重合触媒を用いて塊状重合を行う等の方法で得られる。分子量調整剤としては、メチラール、メトキシメチラール、ジメトキシメチラール、トリメトキシメチラール、オキシメチレンジ−n−ブチルエーテル等のアルコキシ基を有する低分子量アセタール化合物、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール類等が例示される。
【0026】
本実施形態では、ヘテロポリ酸、イソポリ酸又はこれらの酸性塩を重合触媒とする。それらは、有機溶剤等で予め希釈して用いることもできる。本実施形態では、ヘテロポリ酸、イソポリ酸又はこれらの酸性塩を重合触媒にすることで、後に説明する(B)成分と併用することで、高い剛性、高い靱性を有しつつ、ホルムアルデヒド発生量をできる限り低く抑えたポリアセタール樹脂組成物を提供できる。
【0027】
特に、靱性においては、6kJ/m
2以上という高いシャルピー衝撃強さ(ノッチ付、23℃)を実現できる。なお、本実施形態において、シャルピー衝撃強さとは、ISO179/1eAにしたがい、射出成型により作成したノッチ付きシャルピー試験片における、23℃でのシャルピー衝撃試験値をいうものとする。
【0028】
加えて、ホルムアルデヒド発生量においては、他の重合触媒に比べ、ホルムアルデヒド発生量を低く抑えることができる。
【0029】
重合触媒として、ヘテロポリ酸、イソポリ酸又はこれらの酸性塩から選ばれる少なくとも一種を含む化合物が挙げられる。ヘテロポリ酸とは、異種の酸素酸が脱水縮合して生成するポリ酸をいい、中心に特定の異種元素が存在し、酸素原子を共有して縮合酸基が縮合してできる単核又は複核の錯イオンを有する。イソポリ酸とは、イソ多重酸、同核縮合酸、同種多重酸とも称され、V価又はVI価の単一種類の金属を有する無機酸素酸の縮合体から成る高分子量の無機酸素酸をいう。
【0030】
(ヘテロポリ酸又はその酸性塩)
まず、ヘテロポリ酸又はその酸性塩について詳しく説明する。ヘテロポリ酸又はその酸性塩は、一般式(1)で表すことができる。
H
x[M
m・M’
nO
l]・yH
2O ・・・(1)
【0031】
本発明の重合触媒として特に有効なヘテロポリ酸は、上記の組成式中の中心元素MがP及び/又はSiから選ばれた少なくとも一種の元素であり、配位元素M’がW、Mo、Vより選ばれる一種以上の元素である場合である。重合活性の観点から、配位元素M’はW又はMoであることがより好ましい。また、一般式(1)において、lは10〜100であり、mは1〜10であり、nは6〜40であり、xは1以上であり、yは0〜50である。
【0032】
また、一般式(1)におけるH
xが各種金属等に置換された酸性塩も本発明の触媒として用いることができる。
【0033】
ヘテロポリ酸の具体例として、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブドタングステン酸、リンモリブドバナジン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、リンタングストバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイモリブドタングステン酸、ケイモリブドタングステントバナジン酸等が挙げられる。特に、重合活性の観点から、ヘテロポリ酸は、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸、リンタングステン酸から選択されることが好ましい。
【0034】
(イソポリ酸又はその酸性塩)
続いて、イソポリ酸又はその酸性塩について詳しく説明する。イソポリ酸又はその酸性塩は、一般式(2)又は一般式(3)で表すことができる。
xM
I2O・pM
V2O
6・yH
2O ・・・(2)
xM
I2O・pM
VI2O
6・yH
2O ・・・(3)
【0035】
一般式(2)及び(3)において、M
Iは水素であるが、一部が金属で置換されていてもよい。M
Vは周期律表V族のV、Nb、Taより選ばれる一種以上の元素を示す。M
VIは周期律表VI族のCr、Mo、W、Uより選ばれる一種以上の元素を示す。p及びxは1以上であり、yは0〜50である。
【0036】
イソポリ酸は、イソポリ酸塩溶液をイオン交換樹脂で処理する方法のほか、イソポリ酸塩の濃縮溶液に鉱酸を加えてエーテル抽出する方法等、各種の方法により調製される。なお、本発明では、イソポリ酸に限らず、イソポリ酸の酸性塩も重合触媒として用いることができる。イソポリ酸塩は上記一般式(2)、(3)のいずれであってもよいが、重合活性の観点から、一般式(3)のイソポリ酸又はその酸性塩であることが好ましい。
【0037】
好適なイソポリ酸の具体例として、パラタングステン酸、メタタングステン酸等に例示されるイソポリタングステン酸、パラモリブデン酸、メタモリブデン酸等に例示されるイソポリモリブデン酸、メタポリバナジウム酸、イソポリバナジウム酸等が挙げられる。中でも、重合活性の観点から、イソポリタングステン酸であることが好ましい。
【0038】
(溶剤)
重合反応を均一に行うため、不揮発性のプロトン酸は、重合に悪影響のない不活性な溶剤で希釈して、トリオキサン及び/又はコモノマーに添加して使用することが好ましい。不活性な溶媒として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の炭素数1〜10の低分子量カルボン酸と、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、1−へキサノール等の炭素数1〜10の低分子量のアルコールが縮合して得られるエステル;アセトン、2−ブタノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、3−へキサノン、メチルイソブチルケトン、メチル−t−ブチルケトン等の炭素数1〜10の低分子量のケトン類が好ましく挙げられるが、これらに限定されるものではない。工業的な入手しやすさ等も勘案すると、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン等が最も好適である。重合触媒は、上記不活性溶媒に、好適には濃度1〜30重量/重量%で溶解されるが、これに限定されるものではない。また、トリオキサン、コモノマー、分子量調節剤等のいずれか一種又は複数種の一部量又は全量
に、不揮発性のプロトン酸の所定量を予め混合し、この溶液を重合系に添加して重合を行う方法も好ましい。
【0039】
重合触媒の量は特に限定されるものでないが、全モノマーの合計に対して0.1ppm以上50ppm以下であることが好ましく、0.1ppm以上10ppm以下であることがより好ましい。
【0040】
重合温度は65℃以上135℃以下に保つことが好ましい。
【0041】
続いて、塩基性化合物の添加による重合触媒の失活について説明する。
【0042】
(塩基性化合物)
塩基性化合物の種類、添加方法は、特に限定されるものでないが、粗ポリアセタール共重合体を洗浄することなく、粗ポリアセタール共重合体に対して塩基性化合物をそのまま添加し溶融混錬することで、重合触媒の失活及び粗ポリアセタール共重合体の不安定末端の安定化に供することができる点で、塩基性化合物は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩又はその水和物、アミノ基又は置換アミノ基を有するトリアジン環含有化合物、から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
更には、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩又はその水和物を使用した場合に、最終的に得られる分岐ポリマーを含んだ組成物において、そのホルムアルデヒド発生量は特に低い値となり、より好ましい。具体的には、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム又はステアリン酸カルシウムから選択される少なくとも一種を含むことがより好ましい。
【0043】
本発明において、上記の塩基性化合物は、一種類であってもよいし、複数を組み合わせて使用してもよく、それらの水和物や混合物、複塩等の状態であっても構わない。
【0044】
かかる重合方法及び失活方法の後、必要に応じて更に未反応モノマーの分離回収、乾燥等を従来公知の方法にて行う。
【0045】
〔(B)分岐又は架橋構造を有するポリアセタール共重合体〕
(B)分岐又は架橋構造を有するポリアセタール共重合体は、(b1)トリオキサンと、(b2)1分子中に環状エーテル単位を3以上4以下有する化合物と、(b3)1分子中に環状エーテル単位を1個有する化合物との共重合体である。以下、(B)分岐又は架橋構造を有するポリアセタール共重合体を「(B)成分」ともいう。
【0046】
[(b1)トリオキサン]
(b1)トリオキサンは、(A)成分で説明したトリオキサンと同じであり、ホルムアルデヒドの環状三量体である。(b1)トリオキサンについてもまた、不純物を極力含まないことが好ましい。
【0047】
[(b2)1分子中に環状エーテル単位を3以上4以下有する化合物]
(b2)1分子中に環状エーテル単位を3以上4以下有する化合物とは、1分子中に、エポキシ単位、グリシジル単位、1,3−ジオキソラン単位、1,4−ブタンジオールホルマール単位、ジエチレングリコールホルマール単位及び1,3,6−トリオキセパン単位等からなる群から選択される環状エーテル単位を3以上4以下有する化合物の総称をいう。環状エーテル単位の個数が2であると、十分な剛性を得られない可能性がある。具体的には、ISO178に準拠する試験片の曲げ弾性率が2700MPa未満である可能性がある。一方、環状エーテル単位の個数が多すぎると、靭性が低下する可能性がある。
【0048】
また、環状エーテル単位としてはグリシジル単位が好ましく、トリグリシジルエーテル化合物及びテトラグリシジルエーテル化合物が好ましい化合物として挙げられる。その例としては、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの化合物は単独で又は2種以上を併用して(a)トリオキサンとの共重合に供することができる。
【0049】
(b2)1分子中に環状エーテル単位を3以上4以下有する化合物の共重合量は特に限定されるものでないが、目的とする特性を有するポリアセタール樹脂組成物を好適に得ることを踏まえると、共重合量は、(b1)トリオキサン100重量部に対して0.01重量部以上1重量部以下であることが好ましく、0.05重量部以上0.5重量部以下であることがより好ましく、0.1重量部以上0.3重量部以下であることがさらに好ましい。
【0050】
[(b3)1分子中に環状エーテル単位を1個有する化合物]
(b3)1分子中に環状エーテル単位を1個有する化合物は、(B)成分を製造する際の重合反応を安定化させると共に、生成した(B)成分の熱安定性を高められる点で好適である。
【0051】
(b3)1分子中に環状エーテル単位を1個有する化合物としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、スチレンオキシド、オキセタン、3,3−ビス(クロルメチル)オキセタン、テトラヒドロフラン、トリオキセパン、1,3−ジオキソラン、エチレングリコールホルマール、プロピレングリコールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、トリエチレングリコールホルマール、1,4−ブタンジオールホルマール、1,5−ペンタンジオールホルマール、1,6−ヘキサンジオールホルマール等が挙げられる。中でも、エチレンオキシド、1,3−ジオキソラン、1,4−ブタンジオールホルマール、ジエチレングリコールホルマールが好ましい。
【0052】
(B)成分における(b3)1分子中に環状エーテル単位を1個有する化合物の共重合量は特に限定されるものでないが、(b1)トリオキサン100重量部に対して20重量部以下であることが好ましく、0.05重量部以上15重量部以下であることがより好ましく、0.1重量部以上10重量部以下であることがさらに好ましい。
【0053】
[メルトインデックス]
(B)成分のメルトインデックスは、特に限定されるものでないが、強度の点を考慮すると、0.2g/10min以上3g/10min以下であることが好ましく、0.5g/10min以上1.5g/10min以下であることがより好ましい。メルトインデックスが小さすぎると、靱性が低下する可能性がある。また、メルトインデックスが大きすぎると、剛性が低下する可能性がある。
【0054】
[(B)成分の製造方法]
(B)成分を製造するにあたり、重合装置は特に限定されるものではなく、公知の装置が使用され、バッチ式、連続式等、いずれの方法も可能である。また、重合温度は65℃以上135℃以下に保つことが好ましい。
【0055】
(A)成分の製造とは異なり、(B)成分の製造において、重合触媒の種類は特に限定されるものではない。重合触媒として、カチオン重合触媒が挙げられ、カチオン重合触媒は、従来公知のもので足りる。カチオン重合触媒は、有機溶剤等で予め希釈して用いることもできる。
【0056】
重合後の失活は従来公知の方法で行う。例えば、重合反応後、重合機より排出される生成反応物、重合機中の反応生成物に塩基性化合物又はその水溶液等を加えて行うこともできる。
【0057】
重合触媒を中和し失活するための塩基性化合物は、特に限定されるものでない。重合方法及び失活方法の後、必要に応じて更に、洗浄、未反応モノマーの分離回収、乾燥等を従来公知の方法にて行う。
【0058】
〔その他の成分〕
ポリアセタール樹脂組成物は、必要に応じて他の成分を含有するものであってもよい。例えば、安定剤として、ヒンダードフェノール系化合物、窒素含有化合物、アルカリ或いはアルカリ土類金属の水酸化物、無機塩、カルボン酸塩等のいずれか1種又は2種以上を挙げることができる。
【0059】
また、本発明の目的・効果を阻害しない限り、必要に応じて、熱可塑性樹脂に対する一般的な添加剤、例えば染料、顔料等の着色剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、或いは、有機高分子材料、無機または有機の繊維状、粉体状、板状の充填剤等を1種又は2種以上添加することができる。
【0060】
〔ポリアセタール樹脂組成物の調製〕
ポリアセタール樹脂組成物の調製は、従来の樹脂組成物調製法として一般に用いられている公知の方法により容易に調製される。例えば、各成分を混合した後、押出機により練り込み押出してペレットを得る。
【0061】
(B)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して0.1重量部以上2重量部以下である。(B)成分の含有量が少なすぎると、十分な剛性を有するポリアセタール樹脂組成物を得られない可能性があるため、好ましくない。(B)成分の含有量が多すぎると、十分な靱性を有するポリアセタール樹脂組成物を得られない可能性があるため、好ましくない。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【0063】
<(A)線状ポリアセタール共重合体の調製>
【表1】
メルトインデックス測定装置:Melt Indexer L202型(タカラサーミスタ社製)を用い、荷重2.16kg、温度190℃でのメルトインデックスを測定した。
【0064】
〔共重合体No.A1−1〜A1−5〕
重合反応装置として連続式二軸重合機を用いた。この重合機は、外側に加熱用又は冷却用の媒体を通すためのジャケットが付いており、その内部には撹拌、推進用の多数のバドルを付した2本の回転軸が長手方向に設けられている。この二軸重合機のジャケットに80℃の熱媒を通し、2本の回転軸を一定の速度で回転させながら、その一端に、連鎖移動剤としてのメチラール1200ppmを連続的に供給し、トリオキサンとコモノマーとしての1,3−ジオキソランの混合液とを、表1に示した量で連続添加して、上記混合液に、表1に示す重合触媒を0.3重量部含むギ酸メチル溶液を、全モノマーに対して表1に示した量で連続添加して共重合を行なった。表1において、重合触媒の添加量は全モノマーの合計に対する重量比率(単位:ppm)である。その後、重合機の他端に設けられた吐出口から粗ポリアセタール共重合体を排出するとともに、重合触媒を失活させるため、表1に示した失活剤を添加した。表1において、失活剤の量は粗ポリアセタール共重合体対する重量比率(単位:ppm)である。次いで、酸化防止剤としてとしてトリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェール)プロピオネート〕0.3重量部を添加し、ベント付き2軸押出機を用いて温度220℃、ベント部の真空度5mmHgで溶融混練して押し出した。上記の工程を経て、線状ポリアセタール共重合体を得た。
【0065】
〔共重合体No.2A−1〕
触媒として三フッ化ホウ素をガス状で使用し、重合機の他端に設けられた吐出口から粗ポリアセタール共重合体を排出するところまでは、上記No.A1−1〜A1−5と同様に行った。排出された反応生成物は速やかに破砕機に通しながら、トリエチルアミンを0.05重量%含有する60℃の水溶液に加え触媒を失活させた。さらに、分離、洗浄、乾燥することで、粗ポリアセタール共重合体を得た。次いで、この粗ポリアセタール共重合体100重量部に対して、トリエチルアミン5重量%水溶液を3重量%、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕を0.3重量%添加し、2軸押出機にて210℃で溶融混練し不安定部分を除去し、共重合体No.A2−1に係る線状ポリアセタール共重合体を得た。
【0066】
<(B)分岐・架橋状ポリアセタール共重合体の調製>
〔共重合体No.B1(3官能)〕
原料の組成が、(b1)トリオキサン98.9重量部、(b2)トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(TMPTGE)0.2重量部及び(b3)1,3−ジオキソラン1.1重量部であること以外は、共重合体No.A2−1と同様の手法にて共重合体No.B1に係る分岐・架橋状ポリアセタール共重合体を得た。このとき、共重合体No.B1に係る分岐・架橋状ポリアセタール共重合体のメルトインデックスは、1.1g/10minであった。
【0067】
〔共重合体No.B2(4官能)〕
(b2)成分がトリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(TMPTGE)ではなく、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル(PETGE)であったこと以外は、共重合体No.B1と同様の手法にて共重合体No.B2に係る分岐・架橋状ポリアセタール共重合体を得た。このとき、共重合体No.B2に係る分岐・架橋状ポリアセタール共重合体のメルトインデックスは、1.3g/10minであった。
【0068】
〔共重合体No.B3(2官能)〕
(b2)成分がトリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(TMPTGE)ではなく、ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDGE)であったこと以外は、共重合体No.B1と同様の手法にて共重合体No.B3に係る分岐・架橋状ポリアセタール共重合体を得た。このとき、共重合体No.B3に係る分岐・架橋状ポリアセタール共重合体のメルトインデックスは、1.2g/10minであった。
【0069】
<実施例及び比較例>
【表2】
【0070】
<実施例及び比較例>
〔ポリアセタール樹脂組成物の調製〕
<(A)線状ポリアセタール共重合体の調製>及び<(B)分岐・架橋状ポリアセタール共重合体の調製>で得た(A)成分及び(b)成分を表2に記載の割合で配合し、二軸押出機にて210℃で溶融混練し、実施例及び比較例に係るペレット状のポリアセタール樹脂組成物を得た。
【0071】
〔評価〕
実施例及び比較例に係るペレット状のポリアセタール樹脂組成物を評価するため、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強さ及びホルムアルデヒド発生量を測定した。
【0072】
[曲げ弾性率]
射出成形機(住友重機械工業(株)製「SE100DU」)を用い、シリンダー温度:205℃、金型温度:90℃の条件で実施例及び比較例におけるペレットから試験片(4mm×10mm×80mm)を成形した。その後、ISO178に準拠して、試験片の曲げ弾性率を測定した。結果を表3に示す。
【0073】
[シャルピー衝撃強さ]
上記射出成形機を用い、実施例及び比較例におけるペレットからISO179/IeAにしたがったノッチ付きシャルピー試験片を成形した。そして、ISO179/IeAにしたがい、23℃でのシャルピー衝撃試験値を測定した。結果を表3に示す。
【0074】
[ホルムアルデヒド発生量の評価]
実施例及び比較例におけるペレットを200℃に保ったシリンダーに充填して、5分間で溶融後、溶融物をシリンダーから密閉容器内に押出した。この密閉容器に窒素ガスを流し、出てきた窒素ガスに含まれるホルムアルデヒドを水に溶かして捕集し、水中のホルムアルデヒド濃度を測定することにより、溶融物から放出されたホルムアルデヒドの重量を求めた。このホルムアルデヒド重量を溶融物の重量で除してホルムアルデヒド発生量(単位ppm)とした。結果を表3に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
(A)成分と(B)成分とを好適な割合で含むポリアセタール樹脂組成物を用いると、剛性、靱性のいずれにも優れ、かつ、ホルムアルデヒド発生量を低く抑えられる(実施例)。
【0077】
一方、(B)成分を製造するに際し、重合触媒がヘテロポリ酸でないと、(A)成分と好適な割合で混合しても、シャルピー衝撃強さ(ノッチ付、23℃)が6kJ/m
2未満であり、十分な靱性を得られないことに加え、重合触媒がヘテロポリ酸である場合に比べてホルムアルデヒドを多く発生することが確認された(比較例1)。
【0078】
また、(B)成分に含まれる(b2)1分子中に環状エーテル単位を3以上4以下有する化合物について、化合物に含まれる環状エーテル単位が1分子中に2個であると、(A)成分と好適な割合で混合しても、ISO178に準拠する試験片の曲げ弾性率が2700MPa未満であり、十分な剛性を得られないことが確認された(比較例2)。
【0079】
また、(A)成分に含まれるコモノマー単位(オキシアルキレン単位)の割合が線状ポリアセタール共重合体の構成単位に占める割合として0.9モル%を超えると、(B)成分と好適な割合で混合しても、ISO178に準拠する試験片の曲げ弾性率が2700MPa未満であり、十分な剛性を得られないことが確認された(比較例3)。
【0080】
また、(B)成分の含有量が(A)成分100重量部対して2重量部を超えていると、(A)成分及び(B)成分に係る共重合体の構造が好適であっても、シャルピー衝撃強さ(ノッチ付、23℃)が6kJ/m
2未満であり、十分な靱性を得られないことが確認された(比較例4)。
【0081】
また、(B)成分の含有量が(A)成分100重量部対して0.1重量部未満であると、(A)成分及び(B)成分に係る共重合体の構造が好適であっても、ISO178に準拠する試験片の曲げ弾性率が2700MPa未満であり、十分な剛性を得られないことが確認された(比較例5)。
【解決手段】本発明の製造方法は、オキシメチレン単位を主たる構成成分とし、コモノマー単位としてオキシアルキレン単位を線状ポリアセタール共重合体の構成単位に占める割合として0.4モル%以上0.9モル%以下含有し、ヘテロポリ酸等を重合触媒として共重合された(A)線状ポリアセタール共重合体100重量部に対し、(b1)トリオキサン、(b2)1分子中に環状エーテル単位を3以上4以下有する化合物及び(b3)1分子中に環状エーテル単位を1個有する化合物の共重合体である、(B)分岐又は架橋構造を有するポリアセタール共重合体0.1重量部以上2重量部以下を配合する工程を含む。