特許第5955504号(P5955504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5955504窒素ガスを用いた亜鉛ターゲットの反応性スパッタにより形成される薄膜半導体材料
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955504
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】窒素ガスを用いた亜鉛ターゲットの反応性スパッタにより形成される薄膜半導体材料
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20160707BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20160707BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20160707BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   C23C14/06 K
   C23C14/08 C
   C23C14/58 A
   H01L21/363
【請求項の数】12
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2010-506380(P2010-506380)
(86)(22)【出願日】2008年4月8日
(65)【公表番号】特表2010-525176(P2010-525176A)
(43)【公表日】2010年7月22日
(86)【国際出願番号】US2008059638
(87)【国際公開番号】WO2008134204
(87)【国際公開日】20081106
【審査請求日】2011年4月7日
【審判番号】不服2014-22621(P2014-22621/J1)
【審判請求日】2014年11月6日
(31)【優先権主張番号】60/914,582
(32)【優先日】2007年4月27日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】11/829,037
(32)【優先日】2007年7月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390040660
【氏名又は名称】アプライド マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS,INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100101502
【弁理士】
【氏名又は名称】安齋 嘉章
(72)【発明者】
【氏名】イエ ヤン
【合議体】
【審判長】 真々田 忠博
【審判官】 後藤 政博
【審判官】 中澤 登
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−290794(JP,A)
【文献】 特開平9−228028(JP,A)
【文献】 特開2006−144053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 - 14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングチャンバに亜鉛ターゲットを配置し、
酸素含有ガス及び窒素含有ガスを含むスパッタリングガスをチャンバに流し、
ターゲットにバイアスを印加し、
亜鉛、酸素及び窒素を含むアモルファス酸窒化物半導体層を基板上に堆積することを含
むスパッタリング方法。
【請求項2】
酸素含有ガス及び窒素含有ガスを、10:1〜100:1の窒素含有ガス:酸素含有ガ
スの流量比でチャンバに流す請求項1記載の方法。
【請求項3】
流量比が20:1である請求項2記載の方法。
【請求項4】
堆積された半導体層をアニールすることを更に含む請求項1記載の方法。
【請求項5】
亜鉛がアルミニウムでドープされる請求項4記載の方法。
【請求項6】
酸素含有ガスが酸素であり、窒素含有ガスが窒素である請求項1記載の方法。
【請求項7】
窒素含有ガス及び酸素含有ガスが、NOとNとの組み合わせを含む請求項1記載の
方法。
【請求項8】
堆積を25℃〜50℃の温度範囲内で行う請求項1記載の方法。
【請求項9】
亜鉛を含む金属ターゲットを有するスパッタリングチャンバに、窒素含有ガス及び酸素
含有ガスを流し、
亜鉛、酸素及び窒素を含むアモルファス酸窒化物半導体層を基板上にスパッタ堆積する
ことを含むスパッタリング方法。
【請求項10】
亜鉛、酸素及び窒素を含むアモルファス酸窒化物半導体膜。
【請求項11】
100オーム/スクエア〜1x10オーム/スクエアのシート抵抗を含み、0.00
1〜30Ωcmの抵抗率を含み、30cm/Vsを越える移動度を含み、80%にのぼ
る透過率を含み、3.1eV〜1.2eVの傾斜バンドギャップエネルギーを含み、XP
Sの測定で窒化物ピーク及び亜硝酸塩ピークを含み、XPSで403eVの結合エネルギ
ー及び2.7原子百分率〜5.6原子百分率の濃度を有する亜硝酸塩ピークを含み、XP
Sで395eVの結合エネルギー及び4.0原子百分率〜6.6原子百分率の濃度を有す
る窒化物ピークを含む請求項10記載のアモルファス酸窒化物半導体膜。
【請求項12】
亜鉛を含み、5cm/Vsを越える移動度を有するアモルファス酸窒化物半導体膜。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
(発明の分野)
本発明の実施形態は概して、低温及び高温両方の温度条件下で窒素含有ガスを用いた亜鉛スパッタリングターゲットの反応性スパッタにより形成される、高移動度の薄膜半導体材料に関する。
【0002】
(関連技術の説明)
半導体層の電子移動度は、デバイスの速度及びデバイスを流れる電流に極めて大きな影響を与える。電子移動度が高ければ高いほど同じ電圧下でのデバイスの速度は速くなり、ソース・ドレイン間の電流は高くなる。近年、液晶ディスプレイ(LCD)、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ及び量子ドットディスプレイを駆動するためのバックプレーン用の電界効果型薄膜トランジスタ(TFT)や太陽電池パネルを組み立てるための半導体層には、アモルファスシリコン及びポリシリコンが採用されている。アモルファスシリコンは、約1cm/Vsの電子移動度を有し得る。低温ポリシリコンは、50cm/Vsを越える電子移動度を有し得るが、その電子移動度を達成するにはレーザーアニーリング等の複雑な工程段階を必要とする。従って、50cm/Vsより高い電子移動度を備えたポリシリコンを製造するコストは極めて高く、大面積基板への利用には適していない。
【0003】
電界効果型トランジスタ(FET)においては、ソース電極とドレイン電極との間のチャネルが半導体材料により形成されている。ゲート電極への電圧供給がない限り、ソース電極とドレイン電極との間に電圧が加えられても、ソース電極とドレイン電極との間に電流は流れない。ゲート電極に電圧をかけるにつれ、半導体層内部の可動電子が、ゲート誘電体層と半導体層との間の界面に極めて近い領域に蓄積される。半導体層は導電性となり、ソース電極とドレイン電極との間の電圧が低くても、電極がソース・ドレイン電極間をスムーズに流れる。半導体材料の高い移動度は、半導体中の可動電子がゲート電極によって作り出される電界により敏感であることを示しており、半導体チャネルの導電性はより高くなる。ゲート端子及びソース端子に印加される電圧の影響を受ける、半導体チャネルを流れる電流は、半導体材料によって決定される。半導体材料の移動度が高ければ高いほど、FETに電流を流すのに必要な電圧が少なくなる。
【0004】
TFTにおいて望ましい移動度を達成するために、アモルファスシリコンが水素パッシベーションを利用することがある。アモルファスシリコンは、最高約350℃での化学気相蒸着(CVD)により堆積することができる。水素パッシベーションによりアモルファスシリコンは望ましい移動度を達成することができるものの、ゲート電極電圧下及びデバイスそれ自体により生じる比較的高い温度下では時間と共にTFTのしきい電圧が変化する等、不安定となる可能性がある。
【0005】
従って、処理温度が高いガラス基板上だけでなく、プラスチック基板及びその他のフレキシブル基板の上でも十分に高い移動度を有する安定した半導体材料が当該分野において必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は概して、半導体膜及びこの半導体膜の堆積に使用する反応性スパッタ法を含む。スパッタリングターゲットは亜鉛を含んでいてよく、アルミニウム又はその他の金属でドープしてもよい。亜鉛ターゲットは、窒素含有ガス及び酸素含有ガスをチャンバに導入することにより反応的にスパッタすることができる。窒素含有ガスの量は、典型的で酸化亜鉛に特徴的なピーク(XRDでの測定による酸化亜鉛(002)ピーク等)を有さない膜構造によって求めることができる。窒素含有ガスの流量は、膜がアモルファス(すなわち、XRDで測定した場合にはっきりとしたピークがない)となる又は窒化亜鉛若しくは酸窒化亜鉛の弱いピークを有するものとなるように選択される。窒素含有ガスの流量は、酸素含有ガスの流量よりはるかに大きくなり得る。酸素含有ガスの量は、膜構造の転換点に基づいたものであってよい。酸素含有ガスの量は、XRDによる測定で酸化亜鉛(002)のピークを出現させるのに必要な量より少なくなるように選択される。工程を簡略化するために、酸素含有ガスの流量を、窒素含有ガスを使用しない堆積で得られた測定値に基づいて膜透過率、DC電圧変化又は膜導電性から求めることもできるが、これは膜透過率、DC電圧変化又は膜導電性が膜構造に関係してるからである。形成した膜をアモルファス構造又はあるレベルの結晶構造に調整してもよい。反応性スパッタは、室温前後から数百度にのぼる温度で行われる。堆積後、半導体膜をアニールすることにより、膜の移動度を更に改善してもよい。
【0007】
膜の酸素含有量が25%以上であっても、膜がXRDによる測定ではっきりとした酸化亜鉛のピークを示さないことがある。一実施形態において、膜はZnのピークを有さない。別の実施形態においては、XRDによる測定でZnのピークが1つ以上存在する。膜は、亜鉛、酸素、窒素及び膜にドープさせるその他の金属種(アルミニウム等)を含み得る。膜は、XPSで測定した場合、窒化物又は亜硝酸塩の結合を有し得る。膜は、約400nm〜約1000nmの光吸収端及び約3.1eV〜約1.2eVのバンドギャップを有し得る。半導体膜は膜構造に基づいて形成されることから、半導体膜を異なる処理温度、異なる電力下で異なる製品プラットフォームさえ用いて形成してもよい。
【0008】
一実施形態において、スパッタ法を開示する。本方法は、スパッタリングチャンバに亜鉛ターゲットを配置し、酸素含有ガス及び窒素含有ガスを含むスパッタリングガスをチャンバに流し、ターゲットにバイアスを印加し、亜鉛、酸素及び窒素を含む半導体層を基板上に堆積することを含む。
【0009】
別の実施形態において、スパッタ法を開示する。本方法は、窒素含有ガス及び酸素含有ガスを、亜鉛を含む金属ターゲットを有するスパッタリングチャンバに流し、亜鉛、酸素及び窒素を含む半導体層を基板上にスパッタ堆積することを含む。
【0010】
別の実施形態において、亜鉛、酸素及び窒素を含む半導体膜を開示する。別の実施形態において、亜鉛を含み且つ約5cm/Vsを越える移動度を有する半導体膜を開示する。別の実施形態において、X線回折を用いた測定でZnの第1のピーク(2θで約31.5°、考えられ得る(222)結晶方位を有する)とZnの第2のピーク(2θで約39°、考えられ得る(411)結晶方位を有する)を有する半導体膜を開示する。図3Fに示されるように、その他のZnピーク(2θで約36.7°、考えられ得る(400)結晶方位を有する)が観察されることもある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明の上記の構成が詳細に理解されるように、上記で簡単に要約した本発明のより具体的な説明を実施形態を参照して行う。実施形態の一部は添付図面に図示されている。しかしながら、添付図面は本発明の典型的な実施形態しか図示しておらず、本発明はその他の同等に効果的な実施形態も含み得ることから、本発明の範囲を限定すると解釈されないことに留意すべきである。
図1】本発明の一実施形態による半導体膜の堆積に使用し得るスパッタリングチャンバの概略断面図である。
図2A】〜
図2E】酸素ガス流量の関数として亜鉛及び酸化亜鉛のピーク形成を示す膜についてのXRDグラフである。
図3A】〜
図3F】本発明の一実施形態による、様々な窒素ガス流量での半導体膜の形成を示すXRDグラフである。
【0012】
円滑な理解のために、可能な限り、図に共通する同一の要素は同一の参照番号を用いて表した。一実施形態において開示の要素は、特に記載することなく、他の実施形態で便宜上利用可能である。
【詳細な説明】
【0013】
本発明は、概して、半導体膜及びこの半導体膜の堆積に使用する反応性スパッタ法を含む。スパッタリングターゲットは亜鉛を含み得る。一実施形態において、ターゲットは、純度99.990原子百分率以上、好ましくは99.995原子百分率以上で亜鉛を含む。別の実施形態において、ターゲットは、1種以上のドープ金属でドープされた亜鉛を含む。例えば、ターゲットは、約1原子百分率〜約20原子百分率のアルミニウムでドープされた亜鉛を含む。亜鉛ターゲットは、窒素含有ガス、酸素含有ガス及びアルゴンをチャンバに導入することにより、反応的にスパッタすることができる。窒素含有ガスの量は、酸素含有ガスの量及びアルゴンガスの量より著しく多くてよい。酸素含有ガスの量は、窒素含有ガスを使用しない堆積から得た測定値に基づく膜構造の転換点、膜透過率、DC電圧変化又は膜導電性を踏まえたものであってよい。反応性スパッタは、室温前後から最高数百度の基板温度で行うことができる。堆積後、半導体膜をアニールすることにより、膜の移動度を更に改善してもよい。以下ではターゲットバイアスをDCと記載しているが、ACバイアスも同様に使用し得ると理解すべきである。
【0014】
反応性スパッタ法を実例を挙げて説明する。本方法を、大面積基板を処理するためのPVDチャンバ(カリフォルニア州サンタクララのアプライドマテリアルズ社の子会社であるAKT社から入手可能な4300PVDチャンバ等)において実践してもよいが、本方法により形成される半導体膜はその膜構造及び組成によって決定されることから、本発明の反応性スパッタ法は、大面積円形基板を処理するように構成されたシステム及びその他の製造業者によって製造されたシステム(ロール・ツー・ロールプロセスプラットフォームを含む)を含む、その他のシステム構成でも有用であると理解すべきである。本発明を以下ではPVDによる堆積として説明しているが、化学気相蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)又はスピンオン法を含むその他の方法を利用して本発明の膜を堆積してもよいと理解すべきである。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態によるPVDチャンバ100の概略断面図である。チャンバ100は、真空ポンプ114により排気される。チャンバ100において、基板102はターゲット104の反対側に配置される。基板は、チャンバ100内のサセプタ106上に配置される。サセプタ106は、アクチュエータ112により、矢印Aで図示されるように上昇及び下降させられる。サセプタ106を上昇させることにより基板102を処理位置にまで持ち上げ、下降させることにより基板102をチャンバ100から取り出すことことができる。サセプタ106が下降位置にある場合、昇降ピン108により基板102をサセプタ106より上に持ち上げる。接地ストラップ110は、処理中、サセプタ106を接地する。処理中、サセプタ106を上昇させることにより、均一な堆積を促す。
【0016】
ターゲット104は1つ以上のターゲット104を含み得る。一実施形態において、ターゲット104は、大面積スパッタリングターゲット104を含む。別の実施形態において、ターゲット104は複数のタイルを含む。更に別の実施形態において、ターゲット104は複数のターゲットストリップを含む。更に別の実施形態において、ターゲット104は1つ以上の円筒状の回転ターゲットを含む。ターゲット104は、接着層(図示せず)によりバッキングプレート116に接着される。1つ以上のマグネトロン118を、バッキングプレート116の背後に配置する。マグネトロン118はバッキングプレート116全体を、直線運動又は二次元経路でもって走査する。チャンバ壁は、暗部シールド120及びチャンバシールド122により堆積から保護される。
【0017】
基板102全体への均一なスパッタ堆積を促すために、アノード124をターゲット104と基板102との間に配置する。一実施形態において、アノード124は、アーク溶射したアルミニウムで被覆されたビードブラストステンレススチールである。一実施形態において、アノード124の一端は、ブラケット130によりチャンバ壁に取り付けられる。アノード124がターゲット104とは反対に帯電することにより、荷電イオンが、典型的には接地電位にあるチャンバ壁ではなくターゲットに引き付けられる。アノード124をターゲット104と基板102との間に設置することによりプラズマがより均一となり、堆積が促進される。剥落を軽減するために、冷却液を1つ以上のアノード124に流してもよい。アノード124の膨張及び収縮の程度を軽減することにより、アノード124からの材料の剥落が軽減される。小型の基板、それに伴って処理チャンバが小型の場合は、接地経路としては、また均一なプラズマ分布をもたらすにはチャンバ壁で十分なため、処理空間全体に及ぶアノード124は必要ない。
【0018】
反応性スパッタの場合、反応性ガスをチャンバ100に供給するのが有益である。ターゲット104と基板102との間に、1本以上のガス導入管126もチャンバ100を横断してわたされる。小型の基板、それに伴って処理チャンバが小型の場合は、慣用のガス導入手段でも均一なガス分配が可能なことから、処理空間全体に及ぶガス導入管126は必要ない。ガス導入管126は、スパッタリングガスをパスパネル132から導入する。ガス導入管126を、1つ以上の継手128でアノード124に連結してもよい。継手128を熱伝導性材料で形成することにより、ガス導入管126を伝導的に冷却してもよい。加えて、継手128も電導性とすることにより、ガス導入管126を接地させ、アノードとして機能させてもよい。
【0019】
反応性スパッタ法は、亜鉛スパッタリングターゲットをスパッタリングチャンバ内において基板の反対側に配置することを含む。亜鉛スパッタリングターゲットは、実質的に、亜鉛又は亜鉛とドープ元素とを含む。使用し得る適切なドーパントには、Al、Sn、Ga、Ca、Si、Ti、Cu、Ge、In、Ni、Mn、Cr、V、Mg、Si、Al及びSiCが含まれる。一実施形態において、ドーパントはアルミニウムを含む。その一方で、基板は、プラスチック、紙、ポリマー、ガラス、ステンレススチール及びこれらの組み合わせを含む。基板がプラスチックの場合、反応性スパッタは約180℃未満の温度で行われる。
【0020】
スパッタ処理中、アルゴン、窒素含有ガス及び酸素含有ガスをチャンバに供給することにより、亜鉛ターゲットを反応的にスパッタする。スパッタ中、B、CO、CH及びこれらの組み合わせ等の追加の添加物もチャンバに供給することができる。一実施形態において、窒素含有ガスはNを含む。別の実施形態において、窒素含有ガスはNO、NH又はこれらの組み合わせを含む。一実施形態において、酸素含有ガスはOを含む。別の実施形態において、酸素含有ガスはNOを含む。窒素含有ガスの窒素及び酸素含有ガスの酸素がスパッタリングターゲットの亜鉛と反応することにより、亜鉛、酸素及び窒素を含む半導体材料が基板上に形成される。一実施形態において、窒素含有ガス及び酸素含有ガスは、NO及びN等のガスの組み合わせを含む。
【0021】
半導体膜を形成するための望ましい酸素流量を求めるためには、亜鉛を完全に酸化して酸化亜鉛を形成するには不十分な酸素量となるように酸素量を選択する。亜鉛の酸化の程度は透過率に影響する。例えば、亜鉛を完全に酸化させると、透過率が約80%を超えてしまう。望ましい酸素流量を求めるための1つのやり方は、窒素ガスを使用せずにアルゴンガスと酸素ガスを用いて反応性スパッタ法を行うことである。異なる酸素流量で実験を行い、可視波長における光透過率を測定する。望ましい酸素流量は、膜が、達成し得る最高透明度を獲得する直前のものである。表1は、様々な酸素流量でもって反応的にスパッタ堆積された酸化亜鉛の光透過率を示す。一実施形態において、好ましい最高透過率は80%である。その他の実施形態において、ガラスによる吸収又は光の緩衝が含まれるなら、最高透過率は80%にならない。異なるDCターゲット電力、異なる基板温度又はNO等の異なる酸素含有ガスさえ使用する場合、実験は有用である。
【0022】
【表1】
【0023】
望ましい酸素ガス流量を求めるための別の方法とは、上述したように窒素供給がゼロ又は低量の条件下で反応性スパッタ行うことにより酸化亜鉛を形成し、次にシート抵抗を測定することである。約100オーム/スクエア〜1.0x10オーム/スクエアのシート抵抗を生じさせる酸素流量が望ましい酸素流量である。
【0024】
望ましい酸素流量を求めるための更に別のやり方とは、XRD膜構造測定を行うことである。図2A〜2Eは、酸素ガス流量の関数として亜鉛及び酸化亜鉛のピークの形成を示す膜についてのXRDグラフである。図2A〜2Eに示される各膜は、アルゴン流量600sccm/m、1000W及び様々な酸素流量で堆積された。
【0025】
図2Aは、スパッタ中に酸素ガスを供給しない場合に形成された膜のXRDグラフを示す。様々な強度を有する亜鉛ピークが幾つか生じた。亜鉛(002)ピークが2θ(すなわち、入射X線と回折計の検出装置との間の角度)で約35.5〜37、強度約625カウントで示されている。亜鉛(100)ピークは、約38〜40、強度約450カウントで示されている。亜鉛(101)ピークは、約42.5〜44、強度約1050カウントで示されている。亜鉛(102)ピークは、約53〜55、強度約325カウントで示されている。亜鉛(103)ピークは、約69.5〜70、強度約300で示されている。亜鉛(110)ピークは、約70〜71、強度約275カウントで示されている。亜鉛(002):亜鉛(100):亜鉛(101):亜鉛(102):亜鉛(103):亜鉛(110)のピーク高さ比は、約2.27:1.64:3.82:1.182:1.091:1である。全てのピークは、相を同定するためのInternational Center for Diffraction Data(ICDD)PDF2データベース(2004年改訂)を用いて標識される。
【0026】
酸素ガスを流量50sccm/mで供給すると、亜鉛ピークの強度は図2Bに示されるように低下する。亜鉛(002)ピークは約500カウントに低下する。亜鉛(100)ピークは約375カウントに低下する。亜鉛(101)ピークは約750カウントに低下する。亜鉛(102)ピークは約250カウントに低下する。亜鉛(110)ピークは約225カウントに低下し、亜鉛(103)ピークは存在しない。亜鉛(002):亜鉛(100):亜鉛(101):亜鉛(102):亜鉛(110)のピーク高さ比は約2.22:1.67:3.33:1.11:1である。
【0027】
酸素ガスを流量100sccm/mで供給すると、図2Cに示されるように、約375カウントに低下した亜鉛(101)ピークを除いて、全ての亜鉛ピークが消失する。図2Dに示されるように、酸素ガスを150sccm/mで供給すると亜鉛ピークは完全に消失するが、酸化亜鉛(002)ピークが約33.5〜35、強度約950カウントで現れる。酸素流量を200sccm/mにまで上げると、図2Eに示されるように、酸化亜鉛(002)ピークの強度が約1000カウントにまで上昇する。
【0028】
XRDデータによると、供給する酸素の量は約150sccm/mで未満であるべきであるが、これは150sccm/mで強い酸化亜鉛ピークが現れるからである。酸素の流量はチャンバのサイズに比例すると理解すべきである。即ち、チャンバのサイズが上がると酸素流量も上昇する。同様に、チャンバのサイズが下がると酸素流量も低下する。
【0029】
望ましい窒素流量を求めるために、XRD膜構造測定を行う。図3A〜3Fは、本発明の一実施形態による、様々な窒素ガス流量での半導体膜の形成を示すためのXRDグラフである。図3A〜3Fに示される各膜は、アルゴン流量600sccm/m、2000W、酸素流量100sccm/m及び様々な窒素流量で堆積された。
【0030】
図3Aは、窒素を使用せずに堆積した膜のXRDグラフである。グラフには、約35〜約37の、約575カウントの強度を有する酸化亜鉛(101)及び亜鉛(002)のピーク、約38〜40の、約380カウントの強度を有する亜鉛(100)のピーク、約42.5〜44の、約700カウントの強度を有する亜鉛(101)のピークを含む幾つかの強いピークが現れている。約35.5〜37の、約390カウントの強度を有する酸化亜鉛(002)、約53〜55の、約275カウントの強度を有する亜鉛(102)、約69.5〜70の、約225カウントの強度を有する亜鉛(103)の小さいピーク及び約70〜71の、約225カウントの強度を有する亜鉛(110)のピークも存在する。酸化亜鉛(101):亜鉛(002):亜鉛(100):亜鉛(101):酸化亜鉛(002):亜鉛(102):亜鉛(103):亜鉛(110)のピーク高さ比は、約2.55:2.55:1.24:3.11:1.73:1.22:1:1である。
【0031】
反応性スパッタ中に窒素を流量300sccm/mで供給すると、図3Bに示されるように、亜鉛及び酸化亜鉛のピークが、酸化亜鉛がもはや存在しなくなるほど大幅に低下した。窒素流量を500sccm/mでにまで上げると、図3Cに示されるように、亜鉛及び酸化亜鉛のピークの全てが低下して、膜はアモルファス構造となる。
【0032】
窒素流量を1000sccm/mにまで上げると、図3Dに示されるように、2つの新しいピークが現れる。第1のピークZn(222)は、約31〜33、強度約2050カウントで形成された。第2のピークZn(411)は、約35〜42、強度約1850カウントで形成された。Zn(222):Zn(411)のピーク高さ比は約1.11:1である。窒素ガス流量を1250sccm/mにまで上げると、図3Eに示されるように、Zn(222)ピークは約2500カウントにまで強まり、Zn(411)のピークは約2600カウントにまで強まる。Zn(222):Zn(411)のピーク高さ比は約0.96:1である。窒素流量を2500sccm/mにまで上げると、図3Fに示されるように、Zn(222)ピーク及びZn(411)ピークが約2350カウントと2050カウントにそれぞれ減弱するが、新しいピークZn(400)が、約36〜37.5、強度約1700カウントで現れる。Zn(222):Zn(411):Zn(400)のピーク高さ比は、約1.38:1.21:1である。
【0033】
XRDデータによると、供給する窒素の量は約300sccm/mを越えるべきであるが、これは300sccm/mで酸化亜鉛ピークが大きく低下し、実質的に酸化亜鉛が膜中に存在しないからである。窒素の流量はチャンバのサイズに比例すると理解すべきである。即ち、チャンバのサイズが上がると窒素流量も上昇する。同様に、チャンバのサイズが下がると窒素流量も低下する。
【0034】
従って、上で求めた酸素流量と窒素流量とを組み合わせると、本願に記載の新規の半導体膜は、約2:1を越える窒素:酸素流量比で堆積されることになる。一実施形態において、窒素:酸素の流量比は10:1〜約50:1である。更に別の実施形態において、窒素:酸素の流量比は20:1である。
【0035】
半導体材料を形成するためには、上述したように、窒素含有ガスの流量が酸素含有ガスの流量よりもはるかに多くなる。堆積される半導体材料は、アモルファスシリコンより高い移動度を有する。表2は、本発明の一実施形態による、窒素ガス流量の関数としての移動度を示す。
【0036】
【表2】
【0037】
酸素流量0sccmの条件下で堆積された膜は、どの窒素ガス流量であっても移動度が5cm/Vs未満であった。酸素流量25sccm/mの条件下で堆積された膜は、窒素流量1500sccm/mで約8cm/Vsの移動度を有し、窒素流量2500sccm/mで約15cm/Vsの移動度を有していた。酸素流量200sccm/mの条件下で堆積された膜は、窒素流量1500sccm/mで約1cm/Vsの移動度を有し、窒素流量2500sccm/mで約10cm/Vsの移動度を有していた。酸素流量250sccm/mでの条件下で堆積された膜は、窒素流量500sccm/mで約5cm/Vsの移動度を有し、窒素流量1500sccm/mで約2cm/Vsの移動度を有し、窒素流量2500sccm/mで約12cm/Vsの移動度を有する。
【0038】
酸素流量50sccm/m〜150sccm/mで堆積された膜では、その移動度が、酸素流量25sccm/m以下で堆積された膜及び酸素流量200sccm/m以上で堆積された膜より著しく上昇した。加えて、酸素流量50sccm/m〜150sccm/mで堆積された膜は、アモルファスシリコンよりはるかに高い移動度を有する。窒素流量1000sccm/m〜2500sccm/mでは、殆どの場合、膜の移動度は22cm/Vsより高かった。約1cm/Vsの移動度を有するアモルファスシリコンと比較すると、亜鉛、酸素及び窒素を含有する半導体膜は移動度が大きく改善されている。このため、約10:1〜約50:1の窒素:酸素ガス流量比では、アモルファスシリコンの移動度の20倍、ポリシリコンの移動度の2倍を越える移動度を有する半導体膜が得られる。表は特定の窒素ガス流量及び酸素ガス流量を示しているが、酸素ガス及び窒素ガスの流量はチャンバのサイズに相対的なものであることから、異なるチャンバのサイズに合わせて流量を変えることが可能であると理解すべきである。
【0039】
表3は、本発明の一実施形態による、窒素ガス流量の関数としてのシート抵抗、キャリア濃度及び抵抗率を示す。約10:1〜約50:1の窒素ガス:酸素ガス流量比の場合、亜鉛、酸素及び窒素を含む半導体層のシート抵抗は、約100オーム/スクエア〜約10000オーム/スクエアとなる。窒素流量及び酸素流量の両方が上昇すると、電子キャリア濃度が低下する。この結果、抵抗率が上昇する。
【0040】
【表3】
【0041】
アニーリングも、亜鉛、酸素及び窒素を含有する半導体膜の移動度を著しく上昇させる。表4は、本発明の一実施形態による、アニーリング後の窒素ガス流量の関数としての移動度を示す。アニーリング後、移動度は90cm/Vsを越える。アニーリングは、窒素雰囲気中で約400℃にて約5分間行われる。
【0042】
【表4】
【0043】
ドーパントの量も、亜鉛、窒素及び酸素を含有する半導体膜の移動度に影響を与える。表5は、1.0重量%のアルミニウム又は1.5重量%のアルミニウムがドープされた亜鉛スパッタリングターゲットを反応的にスパッタする場合の、様々な窒素流量での移動度、シート抵抗、キャリア濃度及び抵抗率を示す。
【0044】
【表5】
【0045】
サセプタの温度も、半導体膜の移動度に影響を与える。表6は、30℃、50℃及び95℃で亜鉛スパッタリングターゲットをスパッタした場合の、様々な窒素流量での移動度、シート抵抗、キャリア濃度及び抵抗率を示す。表6から見て取れるように、反応性スパッタにより、アモルファスシリコン及びポリシリコンより高い移動度を有する半導体膜が、室温に近い温度を含む、400℃よりはるかに低い温度で効果的に形成される。従って、アニーリングをしなくとも、半導体膜はアモルファスシリコンよりも高い移動度を有する。
【0046】
【表6】
【0047】
本明細書中において、電力を特定の値で記載しているが、スパッタリングターゲットに印加する電力はターゲットの面積に比例すると理解すべきである。従って、一般に、約10W/cm〜約100W/cmの電力値で望ましい結果が得られる。表7は、窒素ガス流量が1500sccm/m及び2500sccm/mの場合の、印加したDC電力が移動度、キャリア濃度及び抵抗率に与える影響を示す。約1000W〜2000Wの電力レベルでは、アモルファスシリコンよりはるかに高い移動度を有する半導体膜が形成される。
【0048】
【表7】
【0049】
上述の堆積技法に従って堆積された膜は、亜鉛、窒素及び酸素を有する三元化合物半導体材料(ZnN等)を含む。一実施形態においては、三元化合物半導体材料にドープを施す(ZnN:Al等)。三元半導体化合物は、高い電子移動度及び高い電子キャリア密度を有する酸化亜鉛とは対照的に、室温で堆積された場合に高い移動度及び低い電子キャリア密度を有する。一実施形態において、三元化合物は、30cm/Vcmより高い移動度及び1.0e+19#/ccより低い電子キャリア密度を有する。膜を約400℃でアニールすると、膜の結晶方位及び組成を変えることなく、膜の移動度が100cm/Vsより高く上昇し、電子キャリア密度は1.0e+18#/ccより低くなる。たとえ膜がアモルファス化合物であったり配向が不十分な結晶化合物であっても、三元化合物では高い移動度と低い電子密度が得られる。
【0050】
三元化合物の光学バンドギャップもまた、酸化亜鉛と比較すると改善される。酸化亜鉛は、典型的には約3.2eVのバンドギャップを有する。その一方で、亜鉛、窒素及び酸素を有する三元化合物は、約3.1eV〜約1.2eVのバンドギャップを有する。窒素対酸素流量比、電力密度、圧力、アニーリング及び堆積温度等の堆積パラメータを変化させることにより、バンドギャップを調節することができる。バンドギャップが低いことから、三元化合物は、光起電装置及びその他の電子デバイスに有用である。極めて高い処理温度(600℃等)で、三元化合物の膜をp型又はn型の半導体材料に転化してもよい。化合物の構造及び化学組成を根本的に変化させることなく、アニーリング又はプラズマ処理に微調整を加えてもよい。微調整することにより、化合物の特性を、その化合物を使用するデバイスの性能要件に合わせることができる。
【0051】
三元化合物は、薄膜トランジスタ(TFT)素子における透明半導体層、光起電装置若しくはソーラーパネルにおける化合物層又はセンサデバイスにおける化合物層として有用である。三元化合物は非常に安定している。以下の表8は、酸化ケイ素層及びガラス基板の上に堆積された、本発明の三元化合物を有する構造体の原子組成を示す。三元化合物は、アルミニウムをドープした亜鉛スパッタリングターゲットを用いて、酸素、アルゴン及び窒素の雰囲気中でスパッタ堆積された。表8は、1:12:30の酸素:アルゴン:窒素流量比及び50℃で堆積された構造体の原子組成の結果を示す。表9は、堆積から1週間後の同じ膜を示す。表10は、堆積から2週間後の同じ膜を示す。
【0052】
【表8】
【0053】
【表9】
【0054】
【表10】
【0055】
表8、9及び10から見て取れるように、三元化合物は、厚さ約850オングストロームの膜として堆積された。天然のパッシベーション層が、三元化合物層の上に深さ約25オングストロームで形成される。その後、層は約62原子百分率〜約71原子百分率の亜鉛濃度、約18原子百分率〜約26原子百分率の酸素濃度、約4.0原子百分率〜約6.1原子百分率の窒化物濃度及び約2.7原子百分率〜約4.7原子百分率の亜硝酸塩濃度を2週間にわたって維持した。
【0056】
膜をアニールしても、膜の組成はアニールしていない膜と実質的に同じままである。表11、12及び13はそれぞれ、表8、9及び10のアニールした三元化合物の組成を示す。
【0057】
【表11】
【0058】
【表12】
【0059】
【表13】
【0060】
アニールしていない膜と同様に、表11、12及び13は、三元化合物層の上に天然のパッシベーション層が深さ約25オングストロームで形成されることを示す。三元化合物層は、約825オングストローム〜約850オングストロームの厚さを有し、約62原子百分率〜約68原子百分率の亜鉛濃度、約18原子百分率〜約25原子百分率の酸素濃度、約5.0原子百分率〜約6.3原子百分率の窒化物濃度及び3.0原子百分率〜約4.9原子百分率の亜硝酸塩濃度も2週間にわたって有する。
【0061】
窒素対酸素の流量比を上げることにより、三元化合物中で生成される窒化物の量も上昇する。表14、15及び16はそれぞれ、1:12:50の酸素:アルゴン:窒素流量比、50℃での堆積時及び堆積から1週間後の三元化合物の組成を示す。
【0062】
【表14】
【0063】
【表15】
【0064】
【表16】
【0065】
表14、15及び16から見て取れるように、三元化合物層の上には天然のパッシベーション層が深さ約25オングストロームで形成される。三元化合物層は、約700オングストローム〜約750オングストロームの厚さを有し、また約65原子百分率〜約70原子百分率の亜鉛濃度、約17原子百分率〜約20原子百分率の酸素濃度、約5.7原子百分率〜約6.4原子百分率の窒化物濃度及び約3.4原子百分率〜約5.1原子百分率の亜硝酸塩濃度を1週間後に有する。2週間後、亜鉛濃度は約55原子百分率〜約68原子百分率に変化し、酸素濃度は約17原子百分率〜約42原子百分率に変化し、窒化物濃度は約0.4原子百分率〜約6.4原子百分率に変化し、亜硝酸塩濃度は約0.2原子百分率〜約4.5原子百分率に変化する。
【0066】
膜をアニールしても、膜の組成はアニールしていない膜と実質的に同じままである。表17、18及び19はそれぞれ、表14、15及び16のアニールした三元化合物の組成を示す。
【0067】
【表17】
【0068】
【表18】
【0069】
【表19】
【0070】
表17、18及び19から見て取れるように、三元化合物層の上には天然のパッシベーション層が深さ約25オングストローム〜約50オングストロームで形成される。2週間後、三元化合物層は約700オングストローム〜約725オングストロームの厚さを有し、また約65原子百分率〜約72原子百分率の亜鉛濃度、約16原子百分率〜約20原子百分率の酸素濃度、約5.6原子百分率〜約6.6原子百分率の窒化物濃度及び約3.8原子百分率〜約5.6原子百分率の亜硝酸塩濃度も有する。
【0071】
通常、三元化合物層は、構造体における最上位層ではない。むしろ、三元化合物層は、窒化ケイ素、酸化ケイ素、炭化ケイ素又はその他の有機パッシベーション層等の別の層によってパッシベートされる。上の表は、高い窒素ガス流量で形成された三元化合物層が、パッシベーション層をその上に堆積しなくても少なくとも2週間も持つことを示す。一実施形態において、アニールすることなく高い窒素ガス流量で形成した三元化合物層は、パッシベーション層をその上に堆積しなくても3週間も持つ。別の実施形態において、高い窒素ガス流量と400℃のアニーリングにより形成された三元化合物層は、パッシベーション層をその上に堆積しなくても4週間も持つ。
【0072】
亜硝酸塩及び窒化物成分の両方が三元化合物内に存在していることから、窒化物及び亜硝酸塩の両方について、ピークがX線光電子分光法(XPS)測定で見られる。亜硝酸塩ピークは、約399〜約404eVの結合エネルギー、強度約5500〜約12000で存在し、窒化物ピークは約393〜約396eV、強度約5500〜約12000で存在する。XPSで測定した窒化物ピークの亜硝酸塩ピークに対する比は、約3:5〜約5:3の範囲内におさまる。窒化物(NO)のピークは、膜の酸素及び窒素を膜のものとは異なる化学的な状態にする、試料のスパッタに負うところのアーチファクトである。
【0073】
三元化合物は約3.1eV〜約1.2eVのバンドギャップを有し、これは約400nm〜約1000nmに等しい。このため、三元化合物は光の可視域をカバーするに十分な低さのバンドギャップを有しており、太陽光線の利用に有用である。バンドギャップエネルギーを、供給する酸素の量に応じて微調整してもよい。より多い量の酸素を供給することにより、バンドギャップは増大する。酸素流量へのバンドギャップの依存性は、大きな流量状況において窒素流量とはほぼ無関係である。堆積中、三元化合物膜についてのバンドギャップエネルギーを傾斜型にして膜全体のバンドギャップを微調整してもよい。例えば、三元化合物層の表面近くのバンドギャップエネルギーを高くし、次に三元化合物層の厚さ全体のバンドギャップエネルギーを調節するのが望ましい。アルゴン及び窒素の供給量に対してバランスのとれた酸素量を制御することにより、堆積中、三元化合物のバンドギャップエネルギー分布を制御する。
【0074】
窒素の流量が酸素の流量よりはるかに大きい窒素及び酸素の雰囲気中で亜鉛ターゲットを反応性スパッタすることにより、アモルファスシリコンより大きい移動度を有する安定した半導体膜が形成される。本願に記載の半導体膜は、反応性スパッタ以外のその他の方法で形成してもよいと理解すべきである。
【0075】
上記は本発明の実施形態を対象としているが、本発明の基本的な範囲から逸脱することなく本発明のその他及び更に別の実施形態を創作することができ、本発明の範囲は以下の特許請求の範囲に基づいて定められる。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F