特許第5955735号(P5955735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955735
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】ベンゾトリアゾール化合物
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/333 20060101AFI20160707BHJP
   C07D 249/20 20060101ALI20160707BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20160707BHJP
   C08F 220/12 20060101ALN20160707BHJP
【FI】
   C08G65/333
   C07D249/20 502
   C07D249/20CSP
   C08F290/06
   !C08F220/12
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-225862(P2012-225862)
(22)【出願日】2012年10月11日
(65)【公開番号】特開2014-77076(P2014-77076A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100143856
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 廣己
(72)【発明者】
【氏名】日渡 謙一郎
【審査官】 井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−142778(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/108347(WO,A1)
【文献】 特開2012−025811(JP,A)
【文献】 特開平10−251591(JP,A)
【文献】 特開2009−013337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G65/00−67/04
C08F283/01
C08F290/00−290/14
C08F299/00−299/08
C08F6/00−246/00
C08C19/00−19/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール化合物。
【化1】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表わし、R3は炭素数1〜4のアルキレン基を表わし、R4は直接結合又は炭素数3〜10の二塩基酸からカルボキシル基を除いた残基を表わし、R5は水素原子又はメチル基を表わし、a及びcはa+cが2〜1000となる0〜1000の数を表わし、bは0又は1の数を表わす。但し、cが0の数の場合、bは0の数を表わす。)
【請求項2】
請求項1に記載のベンゾトリアゾール化合物と他のラジカル重合性化合物を乳化重合して得られる乳化重合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に乳化重合に好適に使用できる、ラジカル反応が可能で親水性基を有する新規ベンゾトリアゾール化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール化合物は、高分子材料等の光照射による劣化を防止するために用いられる紫外線吸収剤として有用である。2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール化合物の多くは、低分子量の化合物であることから、高分子材料を加熱加工する際の揮散や、加工後の高分子材料からのブリード等の欠点があった。このため、高分子材料に2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール化合物を結合させ、揮散やブリードを防止することを目的として、ラジカル反応性基を有する2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール化合物(例えば、特許文献1〜4を参照)が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−38411号公報
【特許文献2】特開昭63−185969号公報
【特許文献3】特開平2−142778号公報
【特許文献4】特表2002−514662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの化合物は、乳化重合時の水への分散性が不十分であることから高分子材料に均一に結合されず、紫外線の吸収効果が十分発揮できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく、水への分散性に優れたベンゾトリアゾール化合物について種々検討を進めた結果、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール化合物を提供するものである。
【0006】
【化1】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表わし、R3は炭素数1〜4のアルキレン基を表わし、R4は直接結合又は炭素数3〜10の二塩基酸からカルボキシル基を除いた残基を表わし、R5は水素原子又はメチル基を表わし、a及びcはa+cが2〜1000となる0〜1000の数を表わし、bは0又は1の数を表わす。但し、cが0の数の場合、bは0の数を表わす。)
【0007】
また、本発明は、上記ベンゾトリアゾール化合物と他のラジカル重合性化合物を乳化重合して得られる乳化重合物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の効果は、ラジカル反応性基を有し、水分散性が良好な、ベンゾトリアゾール化合物を提供したことにある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1で製造した本発明のベンゾトリアゾール化合物である化合物A1の1H−NMRチャートである。
図2図2は、実施例2で製造した本発明のベンゾトリアゾール化合物である化合物A2の1H−NMRチャートである。
図3図3は、実施例1で製造した本発明のベンゾトリアゾール化合物である化合物A1のUVチャート(0.1%エタノール溶液にて測定)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の前記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール化合物について説明する。
前記一般式(1)において、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表わす。炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、sec−ペンチル基、t−ペンチル基、イソペンチル基等が挙げられる。R1としては、原料の入手が容易であり、紫外線吸収効果が大きいことから、水素原子、メチル基、t−ブチル基、t−ペンチル基が好ましく、メチル基、t−ブチル基が更に好ましく、t−ブチル基が最も好ましい。R2としては、原料の入手が容易であり、紫外線吸収効果が大きいことから、メチル基、t−ブチル基、t−ペンチル基が好ましく、メチル基、t−ブチル基が更に好ましく、メチル基が最も好ましい。R3は炭素数1〜4のアルキレン基を表わす。炭素数1〜4のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、メチルメチレン基、プロピレン基、1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基、エチルメチレン基、ブチレン基、2−メチルプロピレン基等が挙げられる。R3としては、原料の入手が容易であり、副反応が少ないことから、エチレン基が好ましい。
【0011】
4は直接結合又は炭素数3〜10の二塩基酸からカルボキシル基を除いた残基を表わす。炭素数3〜10の二塩基酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。酸無水物を使用することが製造上有利であることから、R4としては、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸からカルボキシル基を除いた残基が好ましく、コハク酸からカルボキシル基を除いた残基が更に好ましい。
【0012】
5は水素原子又はメチル基を表わし、本発明のベンゾトリアゾール化合物の保存安定性が良好であることから、R5はメチル基が好ましい。
【0013】
前記一般式(1)において、a及びcはa+cが2〜1000となる0〜1000の数を表わし、bは0又は1の数を表わす。但し、cが0の数の場合はbは0の数を表わす。水分散性の点からは、a+cは大きい数であることが好ましいが、あまりにも大きい場合には、分子内に占めるベンゾトリアゾール部分の割合が少なくなり本発明のベンゾトリアゾール化合物の紫外線吸収効果が低下することから、a+cは、3〜60の数であることが好ましく、4〜30の数であることが更に好ましく、5〜15の数であることが最も好ましい。なお、製造が容易であることから、aは0の数であることが好ましい。
【0014】
本発明のベンゾトリアゾール化合物のうち、b及びcが0の数である化合物、即ち、下記一般式(2)で表わされる化合物は、下記の反応式で示すように一般式(3)で表わされる化合物の水酸基にエチレンオキシドを付加して一般式(4)で表される化合物とし、一般式(5)で表わされる酸クロライド化合物でエステル化することにより得ることができる。
【0015】
【化2】
(式中、aは2〜1000の数を表わし、R1、R2、R3及びR5は前記一般式(1)と同義である。)
【0016】
【化3】
(式中、aは2〜1000の数を表わし、R1、R2、R3及びR5は前記一般式(1)と同義である。)
【0017】
前記一般式(3)で表わされる化合物は、上記特許文献3(特開平2−142778号公報)に記載のベンゾトリアゾール化合物の製造方法により得ることができる。一般式(3)で表わされる化合物へのエチレンオキシドの付加は、公知の方法によればよく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を触媒として、80〜150℃で反応させればよい。前記一般式(4)で表わされる化合物と前記一般式(5)で表わされる酸クロライド化合物との反応は、ピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の塩基性溶媒中で反応させればよい。
【0018】
本発明のベンゾトリアゾール化合物のうち、aが0の数であり、bが1の数である化合物、即ち、下記一般式(6)で表わされる化合物は、下記の反応式で示すように一般式(3)で表わされる化合物に一般式(7)で表わされる酸無水物を反応させて一般式(8)で表わされる化合物とし、一般式(8)で表わされる化合物のカルボキシル基を、カルボン酸クロライド基に変換して一般式(9)で表わされる化合物とし、一般式(9)で表わされる化合物と一般式(10)で表わされる化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0019】
【化4】
(式中、cは2〜1000の数を表わし、R1〜R5は前記一般式(1)と同義である。)
【0020】
【化5】
(式中、cは2〜1000の数を表わし、R1〜R5は前記一般式(1)と同義である。)
【0021】
前記一般式(3)で表わされる化合物と前記一般式(7)で表わされる酸無水物との反応は、トリエチルアミン等の塩基触媒、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の酸触媒を用いることにより反応することができる。前記一般式(8)で表わされる化合物は、塩化チオニル、三塩化リン等を用いることにより、カルボキシル基をカルボン酸クロライド基に変換できる。前記一般式(9)で表わされる化合物と前記一般式(10)で表わされる化合物の反応は、ピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の塩基性溶媒中で行えばよい。
【0022】
本発明のベンゾトリアゾール化合物のうち、a+cが2〜1000となる1〜1000の数であり、bが1の数である化合物、即ち、下記一般式(12)で表わされる化合物は、下記の反応式で示すように一般式(4)で表わされる化合物に二塩基酸の酸無水物を反応させて一般式(13)で表わされる化合物とし、一般式(13)で表わされる化合物のカルボキシル基を、カルボン酸クロライド基に変換して一般式(14)で表わされる化合物とし、一般式(14)で表わされる化合物と一般式(11)で表わされる化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0023】
【化6】
(式中、a及びcはa+cは2〜1000となる1〜1000の数を表わし、R1〜R5は一般式(1)と同義である。)
【0024】
【化7】
(式中、a及びcはa+cは2〜1000となる1〜1000の数を表わし、R1〜R5は一般式(1)と同義である。)
【0025】
前記一般式(4)で表わされる化合物と前記一般式(7)で表わされる酸無水物との反応は、トリエチルアミン等の塩基触媒、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の酸触媒を用いることにより反応することができる。前記一般式(13)で表わされる化合物は、塩化チオニル、三塩化リン等を用いることにより、カルボキシル基をカルボン酸クロライド基に変換できる。前記一般式(14)で表わされる化合物と前記一般式(11)で表わされる化合物を反応は、ピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の塩基性溶媒中で行えばよい。
【0026】
本発明のベンゾトリアゾール化合物は、ラジカル反応性基を有しており、他のラジカル反応性化合物と反応することが可能である。反応方式に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合の何れでも反応可能であるが、水への分散性に優れていることから、乳化重合で反応させることが好ましい。
【0027】
本発明の乳化重合物は、本発明のベンゾトリアゾール化合物と本発明のベンゾトリアゾール化合物以外の他のラジカル重合性化合物を乳化重合して得られるものである。尚、乳化重合の反応条件は公知の方法によればよく特に制限されない。
【0028】
本発明の乳化重合物に用いられるラジカル重合性化合物に特に制限はなく、アクリレート系エマルション、スチレン系エマルション、酢酸ビニル系エマルション、SBR(スチレン/ブタジエン)エマルション、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)エマルション、BR(ブタジエン)エマルション、IR(イソプレン)エマルション、NBR(アクリロニトリル/ブタジエン)エマルション等のいずれでもよい。
【0029】
本発明の乳化重合物において、本発明のベンゾトリアゾール化合物の使用量は、通常の使用量の範囲で任意に使用することができるが、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、好ましくは0.001〜10質量部、より好ましくは0.05〜7質量部、更に好ましくは0.01〜5質量部添加して使用することができる。
【0030】
本発明の乳化重合物に用いられる乳化剤に特に制限はなく、アルキルサルフェート、アルカンスルフォネート、アルキルベンゼンスルフォネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート等のアニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンアルケニルフェニルエーテルスルフォネート、2−ポリオキシエチレン(1−アリロキシ−3−アルキロキシ)プロピルエーテルスルフォネート、2−ポリオキシエチレン(1−アリロキシ−3−アルキルフェノキシ)プロピルエーテルスルフォネート等のアニオン系反応性乳化剤;ポリオキシエチレンアルケニルフェニルエーテル、2−ポリオキシエチレン(1−アリロキシ−3−アルキロキシ)プロピルエーテル、2−ポリオキシエチレン{1−アリロキシ−3−(4−アルキルフェノキシ)プロピルエーテル等のノニオン系反応性乳化剤等のいずれでもよく、乳化剤の使用量はラジカル反応性化合物100質量部に対して、0.05〜10質量部、より好ましくは0.1〜7質量部、更に好ましくは0.5〜5質量部添加して使用することができる。
【0031】
得られた乳化重合物は、各種プラスチック製品、塗料、接着剤、粘着剤、インク、フィルム、コーティング剤、紙塗工剤、サイズ剤、シーラー等に使用することができるが、他の物質に塗布する用途や他の物質の塗布を補助する用途である、塗料、接着剤、粘着剤、コーティング剤や、紙塗工剤、シーラー等に使用することが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。尚、特に限定のない限り、実施例中の「部」や「%」は質量基準によるものである。
【0033】
〔実施例1〕
撹拌装置及び温度計を備えたガラス製反応容器に、2−(2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−メチルフェニル)−5−(2−ヒドロキシエチル)ベンゾトリアゾール6.5g(20mmol)、無水コハク酸2.1g(21mmol)、触媒としてp−トルエンスルホン酸40mg及び溶媒としてトルエン50gを仕込み、80℃で2時間加熱撹拌し反応させた。次いで、塩素化剤として塩化チオニル63g(250mmol)及び触媒としてN,N−ジメチルホルムアミド100mgを添加し50℃で30分間加熱攪拌し反応させた後、過剰の塩化チオニルを減圧により除去した。この後、ポリエチレングリコール400モノメタクリレート9.6g(24mmol)とトリエチルアミン2.53g(25mmol)の混合溶液を40℃で、30分かけて滴下し、更に40℃で1時間撹拌を続けた。トルエン50gを仕込み、水洗により副生成物を除去した後、減圧してトルエンと水を除去し、本発明の化合物A1を得た。なお、2−(2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−メチルフェニル)−5−(2−ヒドロキシエチル)ベンゾトリアゾールは、上記特許文献3(特開平2−142778号公報)に記載の方法により製造した。化合物A1は、前記一般式(1)においてR1がt−ブチル基、R2及びR5がメチル基、R3がエチレン基、R4がコハク酸からカルボキシル基を除いた残基、aが0、bが1、cが10の数である化合物である。化合物A1の同定は、1H−NMR及びUVスペクトルにより行った。1H−NMRによる同定結果を〔図1〕に示し、UVスペクトルによる同定結果を〔図3〕に示す。
【0034】
〔実施例2〕
攪拌機、温度計及び窒素導入管を備えた金属製加圧反応装置に、2−(2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−メチルフェニル)−5−(2−ヒドロキシエチル)ベンゾトリアゾール38g(0.1モル)、触媒として水酸化カリウム0.2g、溶媒としてグライム50gを仕込んだ。130℃でエチレンオキサイド44g(1mol)をフィードし、フィード終了後、130℃で2時間熟成した。反応物を、撹拌装置及び温度計を備えたガラス製反応容器に移し、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体3gを加えて80℃で3時間攪拌して、t−ブチル基を脱離させた。酸性物質の吸着剤(協和化学工業製、商品名:キョーワード500SH)を10g加え、80℃で1時間攪拌した後、ろ過して吸着剤を除去した。撹拌装置、温度計を備えたガラス製反応容器に、このろ液及びピリジン50gを仕込み、30℃でメタクリル酸クロライド15.6g(0.15モル)を加えて、30℃で1時間撹拌を続けた。トルエン100gを仕込み、水洗した後、減圧して溶媒及び水を除去し、本発明の化合物A2を得た。化合物A2は、一般式(1)においてR1がt−ブチル基、R2及びR5がメチル基、R3がエチレン基、aが10、b及びcが0の数である化合物である。化合物A2の同定は、1H−NMR及びUVスペクトルにより行った。1H−NMRによる同定結果を〔図2〕に示す。尚、UVスペクトルによる同定結果については、化合物A1と実質的に同様であるため省略した。
【0035】
比較化合物として、下記の比較の化合物B1、B2及びB3、乳化剤として、下記の乳化剤Cを用意した。尚、比較の化合物B2は、上記特許文献3(特開平2−142778号公報)の実施例1に準じて製造したものであり、また比較の化合物B3は、上記特許文献4(特表2002−514662号公報)の実施例1に準じて製造したものである。
【0036】
【化8】
【0037】
【化9】
【0038】
【化10】
【0039】
【化11】
【0040】
〔実施例3〜6及び比較例1〜4〕
実施例の化合物A1及びA2、比較の化合物B1〜B3、乳化剤C、重合性モノマーとしてアクリル酸ブチル、アクリル酸メチル又はアクリル酸を用いて、〔表1〕に示す質量比にて配合し実施例3〜6及び比較例1〜4のモノマー溶液を調製し、下記の乳化重合方法にて乳化重合を行い乳化重合物を得た。各乳化重合物は下記の方法にて光沢保持率を測定した。結果を〔表1〕に示す。なお、光沢保持率が高いほど、紫外線吸収効果が優れ、長期間維持されることを示す。
【0041】
〔乳化重合方法〕
撹拌機及び温度計および窒素導入管を備えたガラス製反応容器に、脱イオン水120gを仕込み、系内を窒素ガスで置換した。モノマー溶液10gと過硫酸アンモニウム0.08gとを添加した後60℃に昇温し、モノマー溶液90gを2時間かけて滴下し、滴下終了後、更に60℃で2時間撹拌して熟成し乳化重合物を得た。
【0042】
〔光沢保持率〕
上記乳化重合物を、50mm×70mmのガラス板に厚さ1mmになるように塗布し、12時間風乾後、100℃恒温槽で1時間乾燥したものを試験片とした。各試験片の光沢を測定した後、促進耐候性試験を行い、促進耐候性試験後の各試験片の光沢を測定した。この促進耐候性試験前の光沢に対する促進耐候性試験後の光沢の100分率を光沢保持率とした。
光沢の測定 使用機器:精密光沢計(村上色彩技術研究所製、型式:GM26D)、測定角:60°
促進耐候性試験 使用機器:サンシャインウエザオメーター(スガ試験機製、型式:WEL−SUN−HCH−B)、試験条件:温度:63±3℃、サイクル:120分中18分降雨、試験時間:2,000時間
【0043】
【表1】
【0044】
上記〔表1〕の結果から、実施例3〜6の試験片は光沢保持率が高く、本発明のベンゾトリアゾール化合物を使用した乳化重合物から得られる塗膜が、厳しい自然環境の条件下においても長期間、優れた紫外線吸収効果を維持できることを示している。これは、本発明のベンゾトリアゾール化合物が、ラジカル重合性基により他のモノマーと反応して塗膜を形成しているだけでなく、乳化重合において、反応系で分散することにより塗膜中に均一に存在するためと考えられる。
図1
図2
図3