特許第5955853号(P5955853)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955853
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】ブリリアントブラック顔料
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/40 20060101AFI20160707BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20160707BHJP
   C09D 11/037 20140101ALI20160707BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20160707BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20160707BHJP
   C09D 5/29 20060101ALI20160707BHJP
   A61K 8/26 20060101ALI20160707BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20160707BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20160707BHJP
   D21H 21/28 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   C09C1/40
   C09C3/06
   C09D11/037
   C09D11/322
   C09D7/12
   C09D5/29
   A61K8/26
   A61Q1/10
   C08K3/32
   D21H21/28 Z
【請求項の数】24
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-542392(P2013-542392)
(86)(22)【出願日】2011年11月14日
(65)【公表番号】特表2014-503626(P2014-503626A)
(43)【公表日】2014年2月13日
(86)【国際出願番号】EP2011005730
(87)【国際公開番号】WO2012076110
(87)【国際公開日】20120614
【審査請求日】2014年11月10日
(31)【優先権主張番号】10015471.5
(32)【優先日】2010年12月9日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】清水 海万
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 富美子
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 幸隆
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−174002(JP,A)
【文献】 特開昭62−115071(JP,A)
【文献】 特表2011−516688(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0255442(US,A1)
【文献】 国際公開第2005/028566(WO,A1)
【文献】 特開平09−077512(JP,A)
【文献】 特開2002−249315(JP,A)
【文献】 特開2005−307155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/40
C09C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも85のアスペクト比を示すフレーク状酸化アルミニウム基材粒子と、ヘマタイト及び/又は針鉄鉱で構成される第1の層及びマグネタイトで構成される第2の層からこの順に成り基材上にある層状構造を含むコーティングとを含む、ブリリアントブラック顔料。
【請求項2】
基材粒子がAl、又は5重量%までのTiOを含有するAlでできている、請求項1に記載のブリリアントブラック顔料。
【請求項3】
基材粒子が50nm以上200nm以下の平均厚さを有する、請求項1又は2に記載のブリリアントブラック顔料。
【請求項4】
基材粒子が20μm未満の平均粒子直径を有する、請求項1から3の何れか一項に記載のブリリアントブラック顔料。
【請求項5】
平均粒子直径が16μm未満である、請求項4に記載のブリリアントブラック顔料。
【請求項6】
マグネタイトで構成される層の厚さがヘマタイト及び/又は針鉄鉱で構成される層の厚さよりも大きい、請求項1から5の何れか一項に記載のブリリアントブラック顔料。
【請求項7】
ヘマタイト及び/又は針鉄鉱で構成される層が基材上に直接位置する、請求項1から6の何れか一項に記載のブリリアントブラック顔料。
【請求項8】
基材とヘマタイト及び/又は針鉄鉱で構成される層との間に位置する少なくとも1つの誘電性コーティングが存在する、請求項1から6の何れか一項に記載のブリリアントブラック顔料。
【請求項9】
マグネタイト層の上に無色の誘電層をさらに含む、請求項1から8の何れか一項に記載のブリリアントブラック顔料。
【請求項10】
無色の誘電層がマグネタイト層の上に直接位置する酸化ケイ素水和物層である、請求項9に記載のブリリアントブラック顔料。
【請求項11】
マグネタイト層にアルミニウム化合物がドープされている、請求項1から10の何れか一項に記載のブリリアントブラック顔料。
【請求項12】
アルミニウム化合物が酸化物及び/又は酸化物の水和物である、請求項11に記載のブリリアントブラック顔料。
【請求項13】
アルミニウム化合物の含量がマグネタイト層の重量を基準として0.1重量%以上5重量%未満である、請求項11又は12に記載のブリリアントブラック顔料。
【請求項14】
濃い黒のボディカラー、及び場合により青の干渉色を示す、請求項9から13の何れか一項に記載のブリリアントブラック顔料。
【請求項15】
以下のステップ:
(a)少なくとも85のアスペクト比を示し、場合により少なくとも1つの誘電性コーティングでコーティングされている、フレーク状酸化アルミニウム基材粒子を水中に分散させるステップと、
(b)2以上以下のpHにて水溶性鉄(III)化合物を加え、そのpH値を一定に保ち、それによりヘマタイト及び/又は針鉄鉱で構成される層を基材粒子の表面上に析出させるステップと、
(c)pHを5.5以上7.5以下の値に上昇させ、そのpH値を一定に保ちながら、水溶性鉄(II)化合物及び水溶性鉄(III)化合物を加え、場合によりアルミニウム化合物の水溶液も加え、それによりステップ(b)で前コーティングした基材粒子の表面上に、場合によりアルミニウム化合物がドープされた、マグネタイト層を直接析出させるステップと、
(d)得られる生成物を場合により洗浄及びろ過するステップと、
(e)>100℃から<180℃までの範囲の温度で乾燥させるステップと
を含む、請求項1から14の何れか一項に記載の顔料の製造方法。
【請求項16】
不活性ガス雰囲気中で実行される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(c)を行った後及びステップ(e)を行う前に、さらなるステップにおいて、マグネタイト層上に少なくとも1つの無色の誘電層をコーティングする、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
マグネタイト層上にコーティングされる誘電層が酸化ケイ素水和物層である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
マグネタイトで構成される層がヘマタイト及び/又は針鉄鉱で構成される層よりも大きい厚さで基材粒子上に付けられる、請求項15から18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
インク、塗料、ニス、コーティング組成物、プラスチック、箔、紙、セラミック、ガラス、化粧品、もしくは医薬製剤の着色のための、レーザーマーキングのための、または顔料調製物の着色のための、請求項1から14の何れか一項に記載の顔料の使用。
【請求項21】
インクが印刷インクである、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
塗料又はコーティング組成物が自動車用塗料又は自動車用コーティング組成物である、請求項20に記載の使用。
【請求項23】
化粧品配合物がマスカラ配合物、アイライナー配合物、又はアイペンシルコール配合物である、請求項20に記載の使用。
【請求項24】
請求項1から14の何れか一項に記載の顔料を含む製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明なフレーク状の酸化アルミニウム基材と、ヘマタイト層及びマグネタイト層から成る層状構造並びに場合によりその上のさらなる無色の誘電層を含むコーティングとを含むブリリアントブラック(brilliant black)顔料に関し、前記顔料の製造方法並びにそれらの使用に関する。
【0002】
本発明のブリリアントブラック顔料は、強い光沢を示し場合によりその強い光沢にもかかわらず干渉色をほとんど示さない濃い黒色が、価値のある純粋な黒色の設計において強く望まれる、装飾(decorative)、化粧品、及び自動車用途において特に有用である。当然、任意の種類の有色顔料と混合してもよいそれらの色特性、又はそれらがさらに示す磁気特性のいずれかが、重要となる可能性がある他の分野においても、特に印刷インクにおいて、それらを使用することができる。
【0003】
魅力的な色を有する有色顔料に加えて、濃い黒の吸収色並びに強い光沢を示す黒色顔料が長い間望まれてきた。伝統的に、カーボンブラック顔料は自動車用途、印刷用途、並びに化粧品用途などにおいて大いに使用されてきた。
【0004】
あいにく、カーボンブラック吸収顔料は光沢を示さず、対応する製品の光沢のある黒色の外観を得るためには光沢性顔料と混合しなければならず、それによって黒色が弱められる。加えて、一方では化粧品におけるカーボンブラック顔料の使用は、潜在的なユーザーにとって健康上のリスクとなる可能性があるため、大きく制限されてきた。
【0005】
したがって、カーボンブラックを含有しない光沢性黒色顔料によって非光沢性カーボンブラック顔料を置き換える試みがなされてきた。
【0006】
US3,926,659は、TiO若しくはZrO又はそれらの水和物で場合によりコーティングされているマイカ顔料を開示しており、その上には均一な(uniform)鉄含有層を有し、これはα酸化鉄(ヘマタイト、Fe)又はマグネタイト(Fe)であってもよい。これらの顔料の色特性はTiO又はZrO層によって作り出される干渉色に主に起因し、これはその上にα酸化鉄層を付けることによってわずかにシフトする。それらのボディカラー(body colour)は、α酸化鉄層の層厚さに依存し、暖色系の赤褐色の色相である。マグネタイト層がTiO又はZrO層上に作られる場合、下層によって作り出される干渉色は薄い黒色マグネタイト層によって強調されるか又は厚いマグネタイト層によって重ね合わされる(superimposed)。厚いマグネタイト層を有する顔料はそれらの光沢を失い、これはマグネタイト層がその結晶構造に起因して粗いと言われるためである。
【0007】
このタイプの顔料は、良好な隠蔽力並びに魅力的な光沢を併せ持つ強い黒の吸収色を示すという要件を満たしていない。
【0008】
DE 100 65 761 A1においてフレーク状磁性粒子が記載され、これは多層であり、Al又はAl及びSiOの混合相を含むコアと、アモルファスSiOの中間層と、鉄を含有するシェルとを含有し、シェルはとりわけマグネタイト又はヘマタイトを含有する。これらの粒子は、水溶液中の核酸又はタンパク質を単離するために核酸又はタンパク質と反応することができる無機又は有機カップリング剤でコーティングされている。これらの顔料は、水中での懸濁及び水溶性ケイ酸塩化合物(silicatic compound)の添加によってアルミニウム粉末から作られるので、そのコアは均質の(homogeneous)組成ではなく、それよりもむしろアルミニウム及びケイ素の混合酸化物であり、場合によって残りはアルミニウム金属である。加えて、コア材料は少なくとも部分的に分解するため、粒子の板状形状及びその滑らかな表面は、得られる顔料において維持されないことがある。さらに、製造方法の制御が難しく、これは水中でのアルミニウム粉末の反応が本質的に発熱性が高いためであり、その後の鉄化合物との反応もまた危険だからである(テルミット法)。これらの顔料の色特性は記載されておらず、前記の意図された目的について何ら役割を果たさない。
【0009】
DE 3617430では、板状の有色顔料が記載され、これはマイカ、ガラス、金属、又はグラファイト、特に金属酸化物層で前コーティングされていてもよいマイカの板状基材で構成され、緻密なFe(II)含有層を基材上に直接又は金属酸化物層上に含む。さらなる被覆層も可能である。Fe(II)含有層はFeであってもよく、高密度で緻密であると記載され、これはこれらの顔料の特定の製造方法に起因する。得られる顔料は有色の干渉色を併せ持つ黒いボディカラーを示す。
【0010】
US 7,303,622は、微細な基材粒子及び粗い基材粒子の基材混合物に基づき、Feのコーティング、その上の無色の低屈折コーティング、並びに場合により表面の一部のみを被覆するその上の吸収性の高屈折率材料、並びに場合により保護層であるさらなる層を有する、光沢性の黒色干渉顔料を開示している。好ましい基材として、様々な粒径範囲のマイカ(顔料の分級によって得られる分画)が使用される。得られる顔料混合物は黒いボディカラー並びに強い光沢を示すと言われている。
【0011】
この顔料混合物はさらに、顕著なゴニオクロマティシティ(goniochromaticity)(角度依存性の干渉色)を作り出さないと言われている。
【0012】
後者の2つの先行技術文献による顔料はいくらか光沢性の黒色の外観を示す。しかし、悪影響を及ぼす干渉色又はカラーフロップを随意で全く持たないことが可能であり、容易に制御可能で還元ステップ又は高温を伴わない経済的方法によって製造することができる、先行技術の顔料よりもさらにより強い光沢を示す濃い黒色顔料が依然として必要とされている。
【0013】
したがって、本発明の狙いは、上記の要件を満たし、先行技術に記載の顔料の有害な効果を持たず、還元ステップを伴わない簡単なウェット(湿式)コーティング法において製造することができる顔料を提供すること、これらの顔料の経済的な製造方法並びにそれらの使用を提供することである。
【0014】
本発明の目的は、少なくとも85のアスペクト比を示すフレーク状酸化アルミニウム基材粒子と、ヘマタイト及び/又は針鉄鉱で構成される第1の層及びマグネタイトで構成される第2の層からこの順に成り基材上にある層状構造を含むコーティングとを含む、ブリリアントブラック顔料によって実現される。
【0015】
加えて、本発明の目的は、以下のステップ:
(a)少なくとも85のアスペクト比を示し、場合により少なくとも1つの誘電性コーティングでコーティングされている、フレーク状酸化アルミニウム基材粒子を水中に分散させるステップと、
(b)2と4の間のpHにて水溶性鉄(III)化合物を加え、そのpH値を一定に保ち、それによりヘマタイト及び/又は針鉄鉱で構成される層を基材粒子の表面上に析出させるステップと、
(c)pHを5.5から7.5までの値に上昇させ、そのpH値を一定に保ちながら、水溶性鉄(II)化合物及び水溶性鉄(III)化合物を加え、場合によりアルミニウム化合物の水溶液も加え、それによりステップ(b)で前コーティングした基材粒子の表面上に、場合によりアルミニウム化合物がドープ(dope)された、マグネタイト層を直接析出させるステップと、
(d)得られる生成物を場合により洗浄及びろ過するステップと、
(e)>100℃から<180℃までの範囲の温度で乾燥させるステップと
を含む、そのようなブリリアントブラック顔料の製造方法によって実現される。
【0016】
さらに、本発明の目的は、インク、塗料、ニス、コーティング組成物、プラスチック、箔(foils)、紙、セラミック、ガラス、化粧品、及び医薬製剤の着色(pigmenting)のための、レーザーマーキングのための、並びに多様な溶媒内容物(diverse solvent contents)の顔料調製物の着色のための前記顔料の使用によっても実現される。
【0017】
本発明の第1の目的は、少なくとも85のアスペクト比を示すフレーク状酸化アルミニウム基材粒子を含み、ヘマタイト及び/又は針鉄鉱で構成される第1の層及びマグネタイトで構成される第2の層からこの順に成り基材上にある層状構造を含むコーティングを含む、ブリリアントブラック顔料を提供することによって実現される。
【0018】
本発明の意味におけるフレーク状酸化アルミニウム基材は、共に微粒子の(particulate)基材の主表面(major surfaces)をなし互いに平行に位置する上面及び下面を有する微粒子の基材である。これらの基材粒子は透明であり均質な組成である。
【0019】
本発明の意味における平行とは、幾何学的意味において厳密に平行であることだけでなく、主表面が滑らかで平面状(planar)であるという意味において、及び幾何学的に平行な表面と比較したずれの角度が15°を超えない点において実質的に平行であることも意味する。長さ及び幅において主表面が延在する範囲(extension)がフレーク状粒子の最大寸法(粒径)をなす。
【0020】
主表面間の差の長さ(length difference)はフレーク状基材の厚さをなす。一般に、本発明のフレーク状基材の厚さはその粒径よりもはるかに小さい。本発明によれば、粒径と厚さとの間の比である基材粒子のアスペクト比は少なくとも85、好ましくは≧100であるが、200までであってもよい。これは少なくとも、基材粒子自体の平均粒径及び平均厚さとの間の比に適用されるが、好ましくは各々の単一の基材粒子の粒径と厚さとの間の実際の比に適用される。
【0021】
顔料の粒径(粒子の直径)は様々な方法によって、例えば市販の装置(例えばイギリスのMalvern Instruments Ltd.の製品であるMalvern Mastersizer 2000、APA200)を用いたレーザー回折法によって測定してもよい。この方法の利点は、実際の粒径に加えて、顔料分画又は顔料混合物内の粒径分布も標準手順(SOP)によって測定できることである。単一の顔料粒子の粒径並びに厚さを決定するために、SEM(走査電子顕微鏡)画像を有利に使用でき、ここで各粒子の厚さ及び粒径を直接測定してもよい。
【0022】
フレーク状基材が可視光を実質的に、すなわち入射する可視光線の少なくとも90%までを透過する場合に、本発明の意味においてフレーク状基材は透明である。
【0023】
本発明によるブリリアントブラック顔料の基材はそれらの組成が均質である、すなわちそれらは基材中の各位置で、単一の化合物であれ、化合物の混合物であれ、混合酸化物であれ、同一の材料で構成されている。特に、単一の基材粒子内において異なる材料の特別な領域または勾配は存在しない。
【0024】
完全に滑らかで平面状の表面を示し組成が均質であるフレーク状基材粒子は通常、マイカ、タルク、又は他のフィロケイ酸塩(phyllosilicates)などの一般的な天然基材粒子を用いて得ることはできない。後者の材料は、材料の外表面が平面状及び滑らかではなく、層のまとまり(layer package)の内部に段が現れているような状態で、互いに重ねられて層をなしたいくつかの層で構成されている。
【0025】
したがって、本発明で使用される基材粒子は、Al、又は基材の重量を基準として5重量%までのTiOを含有するAl(以下で共に二酸化アルミニウムフレークと呼ぶ)などの酸化アルミニウムで構成される、合成によって製造される基材材料である。それらは好ましくは単結晶の形態で存在する。これらの顔料は、粒子の厚さ並びに外表面の滑らかさを正確に制御することにより、及びさらに最終的な粒子の厚さのばらつき及び粒径の偏差を制御することによっても製造することができ、後者は本発明によるブリリアントブラック顔料の製造において非常に重要である。
【0026】
本発明の顔料に採用される二酸化アルミニウムフレークは50と250nmの間、好ましくは100と200nmの間、最も好ましくは130と170nmの間の平均厚さを有する。基材粒子の厚さの偏差は好ましくは10%を超えず、対応する基材粒子の製造方法によって制御することができる。
【0027】
本発明によれば、基材粒子の平均直径は、基材の最大寸法(すなわち粒径)に相当し、20μm未満、通常5と19μmの間、特に16μm未満、特に5と15μmの間である。10から15μmまでのD50値が好ましい。狭い粒径分布は特に有利である。粒径分布はプロセスパラメーターによって、並びに場合により実行される粉砕及び/又は分級プロセスによって制御してもよい。
【0028】
基材粒子の直径(粒径)と基材粒子の厚さとの間の比(アスペクト比)は、本発明による顔料の光学特性にとって極めて重要である。干渉に加えていくらかの吸収がある場合、干渉顔料の干渉層の厚さが干渉色並びに隠蔽力を決定することが当技術分野において知られている。一方で、干渉顔料の粒径は顔料の光沢に強く影響することが知られている。滑らかな表面を有する大きい顔料は強い光沢を示すが、一つ一つの顔料として観察されることがあり、これは不利となる可能性があるのに対して、小さい粒径は通常は弱い光沢を生じるが、対応するコーティング中で一つ一つの粒子として観察されない。
【0029】
本発明による顔料に使用される二酸化アルミニウムフレークは、二酸化アルミニウム又は少量のTiOを含有する二酸化アルミニウムでできているので、それらはマイカ、ガラスなどの通常使用される顔料基材よりも実質的に高い屈折率を示す。加えて、それらは極めて滑らかで均一な表面を示す。したがって、その後の層と協働して顔料の望ましい光学特性をもたらす有用な干渉挙動を可能にするのに、より小さい基材厚さで十分である。加えて、上記のように、顔料の粒径は光沢と一つ一つの粒子の可視性との間のバランスを保持しなければならない。したがって、得られる顔料の望ましい輝きのある黒い外観は、本発明で使用される二酸化アルミニウムフレークのアスペクト比が上記の少なくとも85である場合に実現される可能性があることが現在明らかになっている。これは、対応するコーティング中で一つ一つの粒子として見えなくなる比較的小さい粒径を用いることによっても実現することができる。しかしながら、反射性の高い基材表面及びその上に付けられた干渉層の高い反射性に起因して、得られる黒色顔料の強い光沢が、非常に望ましい良好な隠蔽力とも併せて実現され得る。
【0030】
ヘマタイト及び/又は針鉄鉱で構成される第1の層及びマグネタイトで構成される第2の層から成り、後者が前者の上にある層状構造を含むコーティングは、基材の2つの主表面上のみのコーティングであってもよいが、好ましくは、透明フレーク状基材の外表面のすべてがヘマタイト/針鉄鉱−マグネタイトの層状構造でコーティングされるように透明基材をカプセル化する。言うまでもないことであるが、ヘマタイト/針鉄鉱−マグネタイトの層状構造は基材表面の一つ一つの点で同じ厚さを示す必要はなく、層状構造によって又は少なくとも上記のヘマタイト/針鉄鉱層によって完全にはコーティングされていない、比較的小さい基材表面領域がいくらかあることさえも可能である。この種の制限は技術的な製造の局面に起因し、本発明の意図を害するものではない。
【0031】
本発明の目的のために、ヘマタイト及び/又は針鉄鉱で構成される層はこれ以降「ヘマタイト層」と呼ばれる。その実際の組成は、その調製に使用される析出条件に依存する。本発明による方法において与えられる条件では、ヘマタイト層の組成は好ましくは純粋なヘマタイト(αFe、酸化第二鉄)又は針鉄鉱(αFeO(OH)、水和酸化第二鉄)を含有するヘマタイトのいずれかであることが明らかになっている。通常、針鉄鉱の含量はヘマタイトの含量よりも少ない。
【0032】
マグネタイトで構成される層はこれ以降「マグネタイト層」と呼ばれ、本発明による方法によって製造される場合、純粋なマグネタイト(Fe)又は非常に少量のマグヘマイト(γFe)を含有するマグネタイトで構成される。
【0033】
本発明の顔料の光学特性について、層状構造内のマグネタイト層の厚さがヘマタイト層の厚さよりも大きいことが非常に重要である。実際、マグネタイト層の厚さはヘマタイト層の厚さよりもはるかに大きい。典型的には、層状構造内のマグネタイト層の厚さはヘマタイト層の厚さの少なくとも10倍である。
【0034】
ヘマタイト層は(場合により前コーティングした)基材粒子上に、単分子層から始まり約5nmの上限を有する非常に小さい層厚さでコーティングされるにすぎない。通常、ヘマタイト層の厚さは0.1から3.5nmまで、好ましくは0.1から2.5nmまでの範囲内である。本発明によれば、ヘマタイト層は、下側のヘマタイト層の上にコーティングしようとするマグネタイト層のためのバインダーとして作用することもある。
【0035】
さらに、本発明による、特に基材粒子として使用される二酸化アルミニウムフレークに関して、又はそれらが有する可能性のある前コーティングに関して、これらの粒子の通常得られる外表面は多くの場合、本発明によるFeの直接コーティングに使用されるようなやや低い酸性から中性のpH値において酸化鉄で直接コーティングされるのに特に有用ではない。
【0036】
したがって、薄いヘマタイト層は、加えて基材粒子の表面を活性化するための手段としても作用することがあり、基材上に直接又は前コーティングされた基材上にコーティングされるが、なぜならこれは二酸化アルミニウムフレーク又は前コーティングとして作用する誘電層の上に首尾良く直接析出する可能性があり、活性化した表面自体をもたらし、これはその後のマグネタイト層の析出にとって有利だからである。さらに、基材粒子の非常に滑らかで平面状の表面は、緻密で均一であるが超薄のヘマタイト層を析出させることによって維持することができる。
【0037】
加えて、下側にある基材がAl結晶を含有するか又はAl結晶で構成されるので、その後のヘマタイト層は下側にある基材に存在するのと同じ結晶構造で、すなわちコランダム結晶構造で結晶を形成することができ、これは緻密なヘマタイト層の形成にとって有利である。そのような場合、Al結晶を含有するか又は実質的にAl結晶で構成される基材上のヘマタイト層の成長は、固体基材上での結晶層のエピタキシャル結晶成長プロセスと同様である。
【0038】
なおさらに、ヘマタイト層の存在は、酸化剤を用いない析出の手順によってその上に緻密で平面状の実質的に結晶性のFeの層を直接形成させるのにも有利に役立つ。
【0039】
Fe層はヘマタイト層を出発物質として用いる還元プロセスで形成できることが先行技術で知られていた。この還元プロセスに従えば、得られる層の凹凸が予測されるべきであり、なぜなら前のヘマタイト層の層厚さにわたって一定ではない還元(勾配)が起こる可能性があるからである。さらに、先行技術の析出法を用いる場合、Feの小さい微結晶及び層のややゆるい結晶構造が、酸化剤の存在下でFe(II)化合物を用いてやや高い(8から11)pH値においてFeを析出させる場合に生じ、最終的に非光沢性の顔料をもたらす。
【0040】
それとは反対に、本発明による顔料は強い光沢並びに輝きのある黒い外観を示し、これは基材の並びにマグネタイト層の干渉及び吸収挙動に実質的に起因する。加えて、本発明による顔料の輝きのある黒い外観に悪影響を及ぼさない、層のまとまり(layer package)の唯一有用な干渉色は弱い青の干渉であり、これは青みがかった濃い黒の色の印象がやはり価値のある黒色の印象だからであるということが明らかになっている。したがって、濃い黒の吸収色に加えて本顔料の弱い青の干渉色だけが許容される。
【0041】
そのため、上記のように、基材粒子の層厚さだけでなく、マグネタイト層の層厚さも調整しなければならない(ヘマタイト層は非常に薄いため、それ自体は顔料の干渉に寄与しないが、他の層及び基材とそれぞれ組み合わせた場合にのみ寄与する)。
【0042】
したがって、本発明による顔料の層状構造のマグネタイト層は、少なくとも50nmから約250nmまで、特に80nmから180nmまでの厚さで存在する。これは得られる顔料の弱い青みがかった干渉色が実現されるように調整される(マグネタイト層の析出プロセスにおける既知の手段によって制御することができる)。
【0043】
マグネタイト層は高密度で結晶性の構造を示す。マグネタイト層もまた滑らか、高密度、及び平面状であるように、基材粒子の滑らかさを維持することができる。マグネタイト層は2.0を超える高い屈折率(約2.4)を示す。弱い青みがかった干渉色に加えて、マグネタイト層はその吸収によって、黒いボディカラー及び強い光沢をも、得られる顔料に与える。
【0044】
加えて、マグネタイト層に少なくとも1つのアルミニウム化合物をドープすることが好ましく、これは好ましくは酸化アルミニウム及び/又は酸化アルミニウム水和物である。ドーピングは、マグネタイト層がヘマタイトで前コーティングされた基材粒子上に析出する間に適宜のアルミニウム化合物を加えることによって達成される。有用なアルミニウム化合物は、例えば硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、又は硝酸アルミニウムである。
【0045】
マグネタイト層のAlドーピングは、マグネタイト層の光学的挙動に寄与し、マグネタイト層上でのその後の層の析出を容易にする(存在する場合)。
【0046】
酸化アルミニウム及び/又は酸化アルミニウム水和物は、上記のように、マグネタイトコーティングの重量を基準として好ましくは0.1と5重量%未満の間の含量でマグネタイトコーティング中に存在する。それらは鉄成分との混合酸化物を形成せず、なぜならそれらの含量はあまりにも少なすぎるからである。その代わりに、それらは酸化アルミニウム及び/又は酸化アルミニウム水和物自体として、例えばAl又はAlOOHとしてマグネタイトコーティング中に存在する。
【0047】
マグネタイト層にAl成分がドープされている場合は、その後の誘電層をマグネタイト層上にはるかに容易にコーティングできるという事実に加えて、得られる顔料の艶(gloss)がそれによってさらに改善される場合がある。
【0048】
したがって、上記に開示されたマグネタイト層にアルミニウム化合物をドープする本発明の実施形態が好ましい。
【0049】
最も好ましいのは、ブリリアントブラック顔料の基材材料が上記で規定された二酸化アルミニウムフレークであり、前コーティングがなく基材上に直接単一の層状構造のみを有し基材をカプセル化している、それによって層状構造が第1のヘマタイト層及び上記で規定されたAl成分をドープした第2のマグネタイト層で構成され、マグネタイト層の上に少なくとも1つの無色の誘電層が続く、本発明の実施形態である。
【0050】
しかしながら、本発明の顔料の色特性を改変するために、及び/又は基材粒子の表面特性を改善するために、及び/又は様々な媒体中の顔料の適用特性(application properties)を改善するために、それぞれ採用されるさらなるコーティング若しくは層があってもよい。
【0051】
このために、ヘマタイト層及びマグネタイト層から成る層状構造で基材粒子をコーティングする前に、上記で規定された二酸化アルミニウムフレークは少なくとも1つの誘電性コーティングで前コーティングされてもよい。
【0052】
そのような前コーティングはとりわけ、基材粒子の表面特性を改善するために、基材粒子の厚さを所望の程度に合わせるために、又は上記の本発明による層状構造をコーティングするためのコーティングプロセスを容易にするために、付けてもよい。一方で、本発明のブリリアントブラック顔料の干渉色を改変することはそのような前コーティングの主な意図ではく、なぜなら層状構造内のマグネタイト層は得られる顔料に黒いボディカラー及び青みがかった干渉色自体もたらすことになり、さらに、入射光の大部分、すなわち少なくともその70%を吸収することになるからである。したがって、存在する場合、前コーティングの厚さは中程度、前コーティングに使用される材料に応じて好ましくは0.1から50nmまでの範囲内であろう。
【0053】
前コーティング用の材料として、誘電材料、特に干渉顔料の製造に一般的に使用される誘電材料を使用する。それらの材料は高屈折率(≧1.8)又は低屈折率(<1.8)であってもよく、チタン、鉄、クロム、亜鉛、ジルコニウム、スズ、若しくはケイ素の酸化物及び/又は水和酸化物を単独で又はそれらの混合物で含んでいてもよい。
【0054】
そのような誘電性前コーティングを基材に付ける場合、前記誘電性前コーティングは基材と上記の層状構造の第1の層(ヘマタイト層)との間に位置する。
【0055】
当然、前コーティングは、それ自体多層であってもよいが、このように複雑な層構造は高価であり経済的な意味において効果的ではない。
【0056】
好ましくは、ヘマタイト層及びマグネタイト層から成る層状構造を付ける前に前コーティングは存在しない。したがって、上記で規定されるヘマタイト層及びマグネタイト層から成る層状構造が基材上に直接位置しており、特に基材を完全にカプセル化している、本発明のブリリアントブラック顔料が好ましい。
【0057】
前コーティングとは対照的に、ヘマタイト/マグネタイトの層状構造の上にある少なくとも1つの誘電層が好ましくは本発明による顔料中に存在する。この場合、誘電層はマグネタイト層の上に直接位置している。
【0058】
これらの誘電層用の材料として、誘電性の金属酸化物又は金属酸化物の水和物が本発明において一般に使用される。それらは或る状況下で有色である可能性もあるが、有利には、誘電層は無色の誘電層であり、並びに無色の金属酸化物若しくは金属酸化物の水和物、又はそれらの混合物、例えばSn、Ce、Si、Zr、及びAlの酸化物又は水和物、例えば酸化スズ、酸化セリウム、二酸化ケイ素、二酸化ジルコニウム、及び二酸化アルミニウム、又はそれらの水和物などで構成される。
【0059】
ヘマタイト/マグネタイトの層状構造に加えて採用されるこれらの誘電層の厚さは、それらが使用される目的に依存する。
【0060】
新規のブリリアントブラック顔料の干渉色を改変しなければならない場合、マグネタイト層の上の誘電層の厚さは20と100nmの間で有利に調整される。特に酸化ケイ素水和物層は、下側にある顔料(基材及び場合により下側にある前コーティングと組み合わせた、マグネタイト層)によって生成される青みがかった干渉色を弱めるのに非常に有用である。
【0061】
したがって、本発明の好ましい実施形態において、マグネタイト層の上に少なくとも1つの無色の誘電層がある。好ましくは、この誘電層は無色の低屈折率誘電材料で構成される。マグネタイト層の上に直接位置する酸化ケイ素水和物の単一の誘電層が最も好ましい。
【0062】
酸化ケイ素水和物は、高密度なアモルファス構造を有する誘電材料であり、したがって、下側にあるマグネタイト層を保護するために、並びに所望の層厚さが当業者の知識によって調整される場合はマグネタイト層の弱い青みがかった干渉色を弱めるために、非常に有用である。このために、酸化ケイ素水和物層は或る厚さを有する必要があり、これは通常の後コーティングの厚さよりもはるかに厚く、後者もとりわけ二酸化ケイ素又はその水和物で構成されていてもよい。
【0063】
しかしながら、酸化ケイ素水和物層は純粋な保護層(後コーティング)としても使用できる。したがって、本発明による顔料においてマグネタイト層の上に位置する酸化ケイ素水和物層の厚さは5から100nmまで、特に5から50nmまで、最も好ましくは5から30nmまでの範囲内である。
【0064】
本顔料のマグネタイト層の上に位置する酸化ケイ素水和物層が後コーティングというよりもむしろ干渉層として作用する場合、その層厚さは下側にある顔料の干渉色を強めるよりもむしろ弱めるように有利に調整される。得られる顔料は濃い黒のボディカラー、弱い又は非常に弱い青みがかった干渉色、並びに優れた光沢を示す。
【0065】
さらに、本発明によるブリリアントブラック顔料は、酸化ケイ素水和物層とは異なって又はそれに加えて、いわゆる後コーティングをさらに付けることによってそれらの用途の要件に適合する可能性もある。この場合、同様に誘電層も使用してもよい。それらは、より良好な分散性、耐光堅牢度などを様々な種類の効果顔料(effect pigment)に与えることが知られており、当技術分野においてよく知られている。無機誘電性化合物に基づくいわゆる後コーティングは、一般に20nm未満の厚さを有し、特に1と15nmの間、好ましくは2と10nmの間である。このタイプの誘電層はそれ自体顔料系全体に対して何ら干渉作用を与えないことになる。ここでは、特に二酸化ケイ素(ここでは他の後コーティングを有する層状の系において)、酸化アルミニウム、酸化セリウム、及び/又は酸化スズなどの非常に薄い層が、単一成分として、又は混合物の形態のいずれでも使用される。このために、上記の異なる材料のいくつかの非常に薄い誘電層も、順に重ねて多くの場合に使用される。
【0066】
当然、無色の誘電層、並びに適用特性を改善するための層を本発明の一実施形態において共に使用してもよい。特に、上記のブリリアントブラック顔料、すなわち層状のヘマタイト/針鉄鉱−マグネタイト構造及びその上の酸化ケイ素水和物層を有する二酸化アルミニウムフレークから成る顔料は、それぞれの適用媒体(application media)におけるより良好な適用特性をそれらに与えるために無機の後コーティングをさらに備えてもよい。
【0067】
上記の後コーティング用の無機誘電層に加えて、又はその代わりに、有機材料、例えば様々な有機シラン、有機チタン酸塩、有機ジルコン酸塩の薄いコーティングも、様々な適用媒体におけるそれらの適用性能を改善するために本発明の顔料の表面に付けてもよい。そのようなコーティングは効果顔料の技術分野において知られており、したがって、それらを付けることは当業者の通常の技術の範囲内である。
【0068】
有機性であれ無機性であれ、効果顔料のいわゆる「後処理」に関する例は、上記のように本発明で採用してもよく、以下の文献:EP 0 632 109、US 5,759,255、DE 43 17 019、DE 39 29 423、DE 32 35 017、EP 0 492 223、EP 0 342 533、EP 0 268 918、EP 0 141 174、EP 0 764 191、WO 98/13426、又はEP 0 465 805で見いだすことができ、その内容は参照により本発明に含まれることになろう。
【0069】
本発明のさらなる目的は、信頼性があり、経済的であり、容易に制御可能であり、還元ステップを伴わない、上記のブリリアントブラック顔料の製造方法である。
【0070】
したがって、以下のステップ:
(a)場合により少なくとも1つの誘電性コーティングでコーティングされている、少なくとも85のアスペクト比を示すフレーク状酸化アルミニウム基材粒子を水中に分散させるステップと、
(b)2と4の間のpHにて水溶性鉄(III)化合物を加え、そのpH値を一定に保ち、それによりヘマタイト及び/又は針鉄鉱で構成される層を基材粒子の表面上に析出させるステップと、
(c)pHを5.5から7.5までの値に上昇させ、pH値を一定に保ちながら、水溶性鉄(II)化合物及び水溶性鉄(III)化合物を加え、場合によりアルミニウム化合物の水溶液も加え、それによりステップ(b)で前コーティングした基材粒子の表面上に、場合によりアルミニウム化合物がドープされた、マグネタイト層を直接析出させるステップと、
(d)得られる生成物を場合により洗浄及びろ過するステップと、
(e)>100℃から<180℃までの範囲の温度で乾燥させるステップと
を含む方法が提供される。
【0071】
フレーク状酸化アルミニウム基材粒子として、好ましくは、上記のAl、又は少ない含量のTiOを含有するAlで構成される、合成による基材が採用される。どちらもここでは二酸化アルミニウムフレークと呼ぶ。
【0072】
既に前に述べたように、これらのフレークは形状、厚さ、厚さの偏差、表面の滑らかさ、平面状の表面、及び粒径分布を良好に制御しながら製造することができる。これらの条件をより良好に満たすことができるほど、得られる顔料の品質及び信頼性はそれらの色特性に関してより良好となり得る。
【0073】
例えば、上記の二酸化アルミニウムフレークはEP 763 573 A2に記載の方法によって製造してもよく、それが好ましい。これらの基材フレークは少量の二酸化チタンを含有し、誘電性コーティング又はヘマタイト/マグネタイト層状構造を用いた次のコーティング手順をより容易にする。さらに、上記の特許出願に示される限界の範囲内で二酸化チタンの量を変動させることによって、並びに所望のフレーク状酸化アルミニウムの最終熱処理の温度を変動させることによって、粒子の粒径及び厚さを制御してもよく、このデータは粒子のアスペクト比の基本をなす。経験から言って、酸化チタンの量が多いほど、及び最終熱処理の温度が高いほど、より高いアスペクト比を有するより大きい粒子をもたらす。しかし、c軸と垂直な面が板状に成長する六方晶系の微細板状粒子の形態である酸化アルミニウム(JP-A 39362/1992に記載されている)も、本発明の顔料における透明基材粒子として有用であろう。
【0074】
上記のような基材粒子は、既に上に述べたように場合により少なくとも1つの誘電性コーティングで前コーティングしてもよい。このために、真珠光沢顔料及び効果顔料の技術分野において一般に知られている手順を採用してもよい。特に、ウェット化学コーティングの手順が好ましく、特に好ましいのは無機の出発物質を使用するウェット化学コーティング法であり、なぜならこれらのプロセスは取り扱い及び制御するのが容易であり、それ自体がカプセル化された基材粒子をもたらすからである。
【0075】
一般に、基材粒子を誘電層(特に誘電性の金属酸化物又は金属酸化物の水和物の層)でコーティングするためのウェットコーティング法は、以下のように行われる:基材粒子を水中に懸濁させ、加水分解に適しており金属酸化物又は金属酸化物の水和物が二次析出することなく微小板(platelet)の上に直接析出するように選択されるpH値において、1つ又は複数の加水分解性金属塩を加える。pH値は、塩基及び/又は酸を通常は同時に計量添加することによって一定に保たれる。その後、顔料は分離、洗浄、及び乾燥され、必要に応じてか焼され、存在する特定のコーティングに関してか焼温度を最適化することが可能である。一般に、か焼温度は250と1000℃の間、好ましくは350と900℃の間である。必要に応じて、及び前コーティングがいくつかの層で構成されるべき場合には、個々の層を付けた後、さらなる層を析出によって付けるために再び懸濁させる前に、顔料を分離、乾燥、及び必要に応じてか焼することができる。
【0076】
本発明による顔料の製造方法において、か焼ステップは基材表面上に場合により存在する前コーティングにのみ適用され、層状のヘマタイト/マグネタイト構造並びに前記ヘマタイト/マグネタイト層状構造上にコーティングされるすべての誘電層については完全に省略される。これは、か焼ステップにおいて一般に用いられる高温をかけることによってマグネタイト層が破壊されることになるという事実による。
【0077】
完全性のために、誘電性の前コーティングのコーティングは、流動層反応器中で気相コーティングによって行うこともでき、気相コーティングでは例えば、真珠光沢顔料を調製するためにEP 0 045 851及びEP 0 106 235で提案されている技術を適宜に利用することが可能である。しかし上記のウェットコーティング法が明らかに好ましい。
【0078】
上記のウェット化学法を用いて、例えば、二酸化ケイ素層又は酸化ケイ素水和物層による透明基材粒子のコーティングは以下に記載の手順によって成し遂げることができる:ケイ酸カリウム又はケイ酸ナトリウム溶液を、コーティングしようとする材料の懸濁液中に計り入れ、約50〜100℃に加熱する。HCl、HNO、又はHSOなどの希薄鉱酸を同時に添加することにより、pH値を約6〜9で一定に保つ。SiOの所望の層厚さに達したらすぐ、ケイ酸塩溶液の添加を終了する。続いてそのバッチを約0.5時間撹拌する。二酸化ケイ素を得るべきか又は酸化ケイ素水和物を得るべきかに応じて、得られる層の乾燥及び/又はか焼は中程度の温度又はより高温、好ましくは約120℃以上で示される。
【0079】
真珠光沢顔料の製造におけるフレーク状基材粒子のウェット化学コーティングの方法は、例えば以下の文献:DE 14 67 468、DE 19 59 988、DE 20 09 566、DE 22 14 545、DE 22 15 191 、DE 22 44 298、DE 23 13 331 、DE 25 22 572、DE 31 37 808、DE 31 37 809、DE 31 51 343、DE 31 51 354、DE 31 51 355、DE 32 11 602、及びDE 32 35 017に記載されている。
【0080】
前コーティングの有無にかかわらず、本発明によるヘマタイト/マグネタイト層状構造による上記の二酸化アルミニウムフレークのコーティングについて、好ましくは以下の手順を適用する:
基材粒子を水中に懸濁させる。好ましくは、懸濁液を75℃から85℃の温度に加熱する。得られる懸濁液のpH値を2と4の間の値に調整し、一定に保つ。その後、pH値をなお一定に保ちながら、水溶性鉄(III)化合物を懸濁液中にゆっくりと計り入れる。可溶性鉄(III)化合物の添加を完了し、それによりヘマタイト及び/又は針鉄鉱で構成される薄層が基材粒子の表面上に析出した後、pHを5.5と7.5の間の値に上昇させ一定に保ち、水溶性鉄(II)化合物並びにさらなる水溶性鉄(III)化合物を1つずつ又は混合物として(後者が好ましい)、懸濁液に添加する。アルミニウム化合物が、マグネタイト層に取り込まれるべき場合(これが好ましい)では、pHを好ましくは6.5と7.5の間の値に調整し一定に保つ。次いで、pH値を一定に保ちながら、鉄(II)及び鉄(III)化合物の前若しくは後に、又は好ましくはそれらと同時に、アルミニウム化合物の水溶液を懸濁液にゆっくりと計り入れる。pH値をなお一定に保ちながら、懸濁液を好ましくはさらに0.5時間撹拌し続ける。
【0081】
最初の及び二番目の水溶性鉄(III)化合物は同じ又は異なる化合物であってもよい。好ましくは、同じ水溶性化合物を最初の並びに二番目の鉄(III)化合物の添加に使用する。最初の鉄(III)化合物の添加量は、この鉄(III)化合物を用いることにより非常に薄いヘマタイト層のみを基材粒子の表面上に析出させることができるように選択する。得られる層厚さは上記のように分子数個分の層から約5nmの範囲である。それとは反対に、鉄(II)化合物並びに鉄(II)化合物と共に添加される二番目の鉄(III)化合物の量は、マグネタイトを前コーティング済みの基材粒子の表面上に直接析出させることができるように、鉄(II)イオンと鉄(III)イオンとの間の比が9:1と9.7:0.3の間であるように選択される。先に比較的大きく過剰な鉄(II)化合物が存在しているが、鉄(ll)化合物はプロセス条件に起因して部分的に鉄(III)酸化物に転化され、マグネタイトの直接的な析出を生じさせることに言及しなければならない。
【0082】
加えて、マグネタイト層を生成させるために使用される鉄(II)化合物及び鉄(III)化合物の量は、得られるマグネタイト層の層厚さがヘマタイト層の層厚さよりも大きくなるように選択する。好ましくは、マグネタイト層の得られる層厚さがヘマタイト層の層厚さの少なくとも10倍であるように、量を選択する。ヘマタイト層の密度はマグネタイト層の密度に非常に類似しているので(5.24g/cm対5.17g/cm)、約およそ5×10−3gのヘマタイト又はマグネタイトが、1mのそれぞれの基材上に約1nmの層厚さのいずれかの材料をコーティングするために必要であるという経験則が適用される。
【0083】
一般に、以下の水溶性鉄化合物:FeSO、FeCl、Fe(NH(SO2、Fe(NO、Fe(SO、FeCl、FeNH(SO、又はFe(NOを使用してもよく;FeSO及びFe(NOが特に好ましい。
【0084】
さらに詳細には、水溶性鉄(II)化合物として、好ましくはFeSO7HOを使用してもよい。水溶性鉄(III)化合物として、好ましくはFe(NO9HOを使用する。
【0085】
既に前に述べたように、アルミニウム化合物がドーピング材料としてマグネタイト層中に含まれることは本発明の磁性顔料にとって大いに有利である。そのようなAlドーピングは上記のようにさらなる誘電層でマグネタイト層をオーバーコートする容易性を改善し、加えてマグネタイト層の安定性及び緻密さを高める。有用なAl化合物は、AlCl及びAl(SOなどの水溶性Al塩、特にAl(SO16HO又はポリ塩化アルミニウム溶液(PAC)である。この化合物は、上記のような鉄(II)及び鉄(III)化合物と適宜の比で単純に混合し、次いで少なくともヘマタイト層で既に前コーティングされた基材粒子の懸濁液にゆっくりと適用してもよい。Al化合物を添加するための条件は上記の通りである。
【0086】
マグネタイト層の析出が完了した後、得られる顔料を分離し、場合により洗浄、及び乾燥する。乾燥は100℃を超え180℃未満までの範囲の温度、特に110℃から140℃の温度で行われる。乾燥ステップの時間は0.5と12時間の間である。
【0087】
その後、場合により、得られる顔料はその粒径分布をさらに限定するために分級されてもよい。
【0088】
好ましくは、上記のプロセスは不活性ガス雰囲気中で、例えば窒素、アルゴン、又は同様のものを使用して実行される。
【0089】
場合により前コーティングされた基材粒子上にヘマタイト/マグネタイト層状構造がコーティングされた後、200℃を超える温度でのか焼ステップを行わないことが、得られる顔料の色特性に極めて重要である。
【0090】
本発明による顔料は、上記の方法によって得られ、光沢性の黒いボディカラー及び弱い又は非常に弱い青みがかった干渉色を示す。無色の誘電層、好ましくは低屈折率層、特に酸化ケイ素水和物で構成されるものがマグネタイト層の上に位置する場合、弱い青みがかった干渉色はよりいっそう弱められることがある。
【0091】
したがって、本発明のさらなる実施形態において、ブリリアントブラック顔料はヘマタイト/マグネタイト層状構造の上、すなわちマグネタイト層の上に少なくとも1つのさらなる誘電層を含有し、この誘電層(複数可)は下側にある顔料の干渉色を弱めることが可能である。
【0092】
このために、ヘマタイト/マグネタイト層状構造を基材粒子上に付けたら、少なくとも1つのさらなる誘電層をマグネタイト層上にコーティングする。これらのさらなる誘電層(複数可)のコーティングは、好ましくは上記の乾燥ステップの前に成し遂げられてもよいが、中間の乾燥ステップも可能である。場合により、前コーティングされた基材粒子上に各誘電層をコーティングした後に洗浄及び/又はろ過ステップを実行してもよい。
【0093】
誘電層の材料は、好ましくは誘電性の金属酸化物及び/又は金属酸化物の水和物から選択される。好ましくは、マグネタイト層上に1つの誘電層(それ自体によって干渉色を作り出す又は抑制することが可能である)のみが付けられている場合、その単一の誘電層は好ましくは無色、低屈折率の誘電性材料で構成される。最も好ましいのは、マグネタイト層の上に直接位置する酸化ケイ素水和物の単一の誘電層を付けることである。
【0094】
マグネタイト層の上の低屈折率誘電層の厚さに応じて、下側にある顔料によって生成される干渉色は弱められる。得られる顔料は濃い黒いボディカラー、ほんのわずかに青みがかった干渉色、高い隠蔽力、並びに強い光沢を示す。角度依存性の干渉色(カラーフロップ)は観察することができないことがある。
【0095】
誘電層を付けること、特に酸化ケイ素水和物の無色の低屈折率の誘電層を付けることに関する詳細は、先に記載されている。
【0096】
次に、さらなる誘電層を、顔料の適用媒体に関して保護層として働きいわゆる後コーティング層であり、得られる顔料に干渉色を与えること又は干渉色を弱めることができない第1の誘電層の上に付けてもよい。これらの無機誘電層並びにその上に付けることもできる有機保護層は、先にある程度記載されている。
【0097】
上記の特性を有する本発明のブリリアントブラック顔料は、濃い黒色及び高い光沢を特によりどころとする適用媒体での使用、特に自動車用途、化粧品用途、又は印刷媒体に役立つ。当然、それらは黒色顔料が一般に有用であるさらなる用途において適用されてもよい。
【0098】
したがって、本発明の1つの目的は、インク、塗料、ニス、コーティング組成物、プラスチック、箔、紙、セラミック、ガラス、化粧品、及び医薬製剤の着色のための、レーザーマーキングのための、並びに多様な溶媒内容物の顔料調製物の着色のための、本発明によるブリリアントブラック顔料の使用によって解決される。
【0099】
特に好ましいのは、化粧品配合物、印刷インク、及び自動車用塗料、又は自動車用ラッカーなどの自動車用コーティング組成物におけるそれらの使用である。
【0100】
印刷インクとしては、ブリリアントブラックの実際の粒径に応じて、印刷作業に通常使用されるあらゆる種類の印刷インクを挙げることができ、ほんの数例を挙げるならば、スクリーン印刷インク、凹版印刷インクなどのグラビア印刷インク、オフセット印刷インク、フレキソ印刷インク、並びにインクジェット印刷インクが挙げられる。本発明によるブリリアントブラック顔料は小さい粒径を示すので、それらは大きい顔料を使用するべき場合には有用ではないグラビア印刷プロセスなどのプロセスを含めた、ほとんどすべての一般的な印刷プロセスにおいて有利に使用できる。
【0101】
それらの優れた光沢及び黒さのおかげで、本発明の顔料は化粧品用途、装飾用化粧品の分野において及びパーソナルケア製品用両方において特に有用である。吸収顔料、染料、及び/又は他の効果顔料と共に本発明による顔料を使用すると、様々な適用媒体中、例えばマスカラ、アイライナー、及びアイペンシルコール用の化粧品配合物中でそれらによって特別な効果を実現することができる。これらの媒体中で、それらは同等の黒さにおいてこれまで使用された黒マイカ顔料よりも良好な艶及び隠蔽力を示す。
【0102】
このために、本発明によるブリリアントブラック顔料を配合物中で化粧品原料及び任意の種類の補助剤と組み合わせてもよい。これらには、とりわけ油、脂肪、ワックス、塗膜形成剤(film former)、保存料、及び補助剤、例えば増粘剤、レオロジー添加剤、及び/又は表面活性補助剤などが挙げられる。
【0103】
さらなる本発明の目的は、本発明の顔料を含有する製品によっても解決される。一般に、本発明の顔料は、本顔料の特性(すなわちそれらの色特性若しくはそれらの磁気特性(これも本顔料が示す)、又はその両方)のうち1つを利用することができる任意の製品に適用してもよい。
【0104】
特に、本発明の顔料は、装飾用製品、化粧品配合物、自動車のラッカー、又は印刷インクにおいて非常に有利に使用でき、これらにおいてはそれらの傑出した光学特性が非常に望ましい。
【0105】
言うまでもないことであるが、本発明によるブリリアントブラック顔料は、有機並びに無機の着色剤及び顔料、特に任意の種類の効果顔料と混合して使用してもよい。有機の顔料及び着色剤は、例えばモノアゾ顔料、ジアゾ顔料、多環式顔料、カチオン性、アニオン性、又は非イオン性着色剤である。無機の着色剤及び顔料は、例えば白色顔料、有色顔料、さらには黒色顔料、又は効果顔料である。好適な効果顔料の例は、金属効果顔料、真珠光沢顔料、又は干渉顔料であり、これらは一般にマイカ、ガラス、Al、Fe、SiOなどの単層又は多層コーティングされた微小板に基づく。これらの顔料の構造及び特定の特性についての例は、とりわけRD 471001又はRD 472005に開示され、その開示は本発明の明細書に参照により含まれることになろう。
【0106】
加えて、本発明のブリリアントブラック顔料と混合して使用してもよいさらなる着色剤は、任意の種類の発光性の着色剤及び/又は顔料、並びにホログラフィック顔料、又はLCP(液晶ポリマーに基づく顔料)である。
【0107】
本発明による顔料は、一般に使用及び市販される顔料及びフィラーと、任意の所望の混合比で使用してもよい。本顔料を他の顔料及び着色剤と共に使用するにあたっての制限は、混合物が本発明による顔料の色特性を大きく阻害する又は制限することになる場合にのみ設けられる。
【0108】
本発明は以下の例においてより詳細に説明されるが、これらに限定されるべきではない。
【0109】
例1:
100gの二酸化アルミニウムフレーク(少量のTiOを含むAl、平均厚さ150nm、D5014μm)を脱イオン水中に懸濁させる。懸濁液を撹拌しながら80℃に加熱する。窒素ガスを反応容器中にゆっくりと加える。酸性化合物(HCl、約17.5wt.%)を懸濁液中に計り入れることによってpH値を3.0に調整し一定に保つ。pH値をなお一定に保ちながら、Fe(NO溶液(100ml、100ml脱イオン水中5.06gのFe(NO9HO)を懸濁液に添加する。次いで塩基性組成物(NaOH、約30wt.%)を懸濁液へ添加することによってpH値を約7.0に上昇させる。pH値を一定に保ちながら、Al成分、及びFe(II)及びFe(III)成分の水溶液(2000ml、2000ml脱イオン水中720.4gのFeSO7HO、4.5gのAl(SO16HO、及び45.1gのFe(NO9HO)を懸濁液中にゆっくりと計り入れ、次いでこれを撹拌しながらさらに30分間置く。その後、pHをなお一定に保ちながら水ガラス溶液(約38.5g、SiOとして26%)を添加する。懸濁液を約2時間置き、次いで得られる顔料をろ過により分離し、脱イオン水で洗浄する。
【0110】
最終的に、得られる顔料を約120℃の温度で乾燥させふるいにかける。
【0111】
得られる顔料は、鮮やかな光沢並びに高い隠蔽力と共に、輝きのある黒の粉末の色を示す。
【0112】
粉末の色は、Minolta CR−300装置(Konica Minolta Holdings,Inc.の製品)を用いて測定する。得られるL値は47.03であり、a値は0.9であり、b値は−1.02であり、彩度は1.36である。
【0113】
ラッカーカードは以下のように準備される:例1による0.5gの顔料を9.5gの標準NC−アクリラートラッカー(Merck KGaAからカタログにより入手可能)と混合する。得られる混合物をバーコーター(No.20)により通常の黒/白の帯状紙片上にコーティングし乾燥させる。得られる色特性は、上記のようにMinolta装置を用いて測定される。L値は28.41と決定され、a値は0.59であり、b値は−1.06であり、彩度は1.21と決定される。
【0114】
例2:
酸化ケイ素水和物層がマグネタイト層上に付けられないこと以外は例1の手順を繰り返す。
【0115】
例1及び2について使用される対応する量は表1から引用することができる。
【0116】
【表1】
【0117】
Minolta 300装置によって測定される例1及び2による顔料の色の値を以下で表2に列挙する。加えて、市販の黒マイカ顔料[TiO及びFeでコーティングされたマイカ(Iriodin(登録商標)600、Merck KGaAの製品)]も比較のために測定する。
【0118】
【表2】
【0119】
黒さ(C値)に関して、本発明による顔料はマイカ黒に匹敵するが、a値及びb値によって実証されるやや青みがかった干渉色を示す。この干渉色は例1においてマグネタイト層上に付ける酸化ケイ素水和物層によって実質的に弱められる。Minolta 300装置によって測定されるL値は光沢よりもむしろ明るさを表すので、さらなるドローダウン(draw down)ラッカーカードを上記のように調製し、各試料の光沢をHunter Associates laboratory,Inc.製のModel D25 Optical Sensorを用いてHunter Lab系において評価する。
【0120】
得られるHunter Lab値を以下の表3に列挙し、ここでLは光沢を表し、a値及びb値も光沢角度(lustre angle)で測定される:
【0121】
【表3】
【0122】
表3で分かるように、本発明の例1及び例2による顔料の光沢値は、マイカ黒の値よりもはるかに良い。例1とマイカ黒のa値、b値、及びc値は同等であるが、例2はやや青みがかった干渉色を示す。このわずかな干渉にもかかわらず、人を引きつける光沢が非常に印象的であるので、例1及び例2による顔料は特に化粧品用途において非常に重要となる。
【0123】
さらに、化粧品、自動車、及び印刷用途を含めた様々な用途において、顔料の隠蔽力は非常に重要となり、なぜならそれはとりわけ、適用媒体中で濃い黒の色効果を得るのに必要な顔料の濃度を決定するからである。
【0124】
本発明の顔料の隠蔽力はドローダウンカードの白部分と黒部分との間の明るさLの差を計算することによって評価できる。隠蔽力が高いほど、Minolta CR−300によって測定されるドローダウンカードの白部分と黒部分との間のL差が小さくなる。結果を以下の表4に列挙する:
【0125】
【表4】
【0126】
表4で分かるように、例1及び2による顔料の隠蔽力はマイカ黒の隠蔽力よりも高い。
【0127】
比較例2、3、及び4:
さらなる比較のために、様々な基材粒子を用いて比較例2から4を行う。このために、暗い青みがかった干渉色を得るようにFe層のコーティング量を調整し、さらに外側の酸化ケイ素水和物層の存在を変更させる以外は、例1の手順を繰り返す。
【0128】
詳細は以下の表5に列挙する:
【0129】
【表5】
【0130】
Minolta 300によって測定した色特性は以下の通りである:
【0131】
【表6】
【0132】
上記で説明したHunter Lab値を用いて測定した光沢に関して、以下のデータが測定される:
【0133】
【表7】
【0134】
表8において、比較例の各々の隠蔽力は上記の方法に従って計算する:
【0135】
【表8】
【0136】
結果として、比較例による顔料はどれも、本発明の顔料が満たすような魅力的な黒さ、弱い干渉色、高い光沢、及び高い隠蔽力についてのすべての要件を満たさない。
【0137】
本発明によるアスペクト比を満たさない二酸化アルミニウムフレークに基づく顔料は、同じ粒径を有するマイカ顔料よりも高い光沢を示すが、酸化ケイ素水和物層でさらにコーティングされているかどうかにかかわらず強すぎる干渉色を示す。一方で黒マイカ顔料は、良好な黒さ及び弱い干渉色をもたらすが、十分な光沢をもたらさない。本発明による顔料と比較した場合、比較例による顔料はどれも十分な隠蔽力を示さない。