特許第5956246号(P5956246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5956246
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】固体電解質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20160714BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20160714BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20160714BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20160714BHJP
【FI】
   H01B1/06 A
   H01B13/00 Z
   !H01M10/0562
   !H01M10/052
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-110639(P2012-110639)
(22)【出願日】2012年5月14日
(65)【公開番号】特開2013-237628(P2013-237628A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年3月30日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年3月9日に日本化学会第92春季年会講演予稿集(講演番号2F1−42)にて発表 平成24年3月26日に日本化学会第92春季年会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】犬丸 啓
(72)【発明者】
【氏名】花岡 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 裕之
(72)【発明者】
【氏名】對尾 良則
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−282815(JP,A)
【文献】 特開平11−260398(JP,A)
【文献】 特開2013−004217(JP,A)
【文献】 米国特許第4233377(US,A)
【文献】 神田大輝、山中昭司、犬丸啓、甲斐裕之,6核モリブデンクラスター化合物のイオン伝導特性,第49回セラミックス基礎科学討論会講演要旨集,日本,2011年 1月11日,第70頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06、13/00
H01M 10/052
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン及び硫黄を含むシェブレル相化合物にピリジンが配位された配位化合物に、リチウムイオンが導入されて構成された、非晶質構造を有する材料を含み、
前記材料の電子伝導度は、真空又はアルゴン雰囲気において、20℃で3.7×10−7S/cm以下であることを特徴とする固体電解質。
【請求項2】
モリブデン及び硫黄を含むシェブレル相化合物にピリジンが配位された配位化合物に、リチウムイオンが導入されて構成された、非晶質構造を有する材料を含む固体電解質の製造方法であって、
前記配位化合物をブチルリチウム/ヘキサン混合液に浸漬することにより、前記配位化合物に前記リチウムイオンを導入する工程を備えていることを特徴とする固体電解質の製造方法。
【請求項3】
モリブデン及び硫黄を含むシェブレル相化合物にピリジンが配位された配位化合物に、リチウムイオンが導入されて構成された、非晶質構造を有する材料を含む固体電解質の製造方法であって、
前記配位化合物をナフタレン/リチウム/テトラヒドロフラン混合液に浸漬することにより、前記配位化合物に前記リチウムイオンを導入する工程を備えていることを特徴とする固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質及びその製造方法に関し、特に、電気自動車、ハイブリッド自動車及び電子機器等に用いられるリチウムイオン電池に利用可能な固体電解質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低減を目的として、自動車において、モータで駆動する電気自動車や、モータとエンジンとを組み合わせて駆動するハイブリッド自動車等の研究開発が活発に行われている。このような自動車には、車体の軽量化のみならず、モータの高出力化及び小型化、さらには電池の改良が求められる。特に、電池の改良には、エネルギー密度の向上はもちろんのこと、安全性の向上が重要である。このことは、自動車のみならず、携帯電話、デジタルカメラ及びパソコン等の電子機器も同様である。
【0003】
例えば、現在ではリチウムイオン電池が主流となりつつあるが、このリチウムイオン電池では、非水系電解質溶液が、正極と負極との間にセパレータと共に含有されており、この非水系電解質溶液は、耐熱性が低くて、摂氏数百度程度で分解する。このため、電池が発熱して発火するという懸念がある。
【0004】
そこで、上記のような非水系電解質溶液に代わる、耐熱性が高く且つイオン伝導性を有する固体電解質の研究開発も進められている。
【0005】
このような固体電解質として、特許文献1には、非晶質LiS−P、ガラスセラミックス及びLiAlTiPOが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、Liイオン伝導性に優れた固体電解質材料として、LiS−Pの他に、LiS−SiS、LiS−GeS及びLiSAl等が開示されている。さらに、結晶構造が安定なシェブレル相化合物であるMoを正極活物質として用いることが開示されている。
【0007】
また、非特許文献1には、オキソニウムイオンを含む(HO)MoCl14・6HOが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−40282号公報
【特許文献2】特開2010−282815号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】F.W.Koknat、外3名,“CONVENIENT SYNTHESIS OF THE HEXANUCLEAR MOLYBDENUM(II) HALIDES Mo6Cl12 AND Mo6Br12・2H2O”,(英国),INORG.NUCL.CHEM.LETTERS,Pergamon Press Ltd.,1980年,第16巻,p.307−310
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1に記載のモリブデン塩化物クラスターの骨格を有する材料は、その結晶構造が層状の構造であるため、その層間をプロトン及びLiイオンが通過できることが知られている。このため、それは、高いイオン伝導性を有する良好な固体電解質を得るための材料として期待できる。また、特許文献2に記載の正極活物質として用いられたシェブレル相化合物は、Moの八面体構造を基本構造とした層状構造を有しており、上記と同様に高いイオン伝導性を有する。このため、シェブレル相化合物は、優れた固体電解質としても利用可能であると考えられる。
【0011】
但し、優れた固体電解質であるためには、イオン伝導性を有する他に、固体電解質内における電子の通過を抑制できる、すなわち、電子伝導性が小さいことが必要である。
【0012】
上記文献には、電子伝導性に関しての記載はないが、特に、Mo等のシェブレル相化合物は、ユニット間のMo−S結合により高い電子伝導性を有することが知られている。このため、Mo等のシェブレル相化合物は、高いイオン伝導性を有するにもかかわらず、固体電解質として利用することは困難である。
【0013】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電子伝導性が小さい良好な固体電解質を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために、本発明は、固体電解質をシェブレル相化合物にピリジンを配位させた配位化合物を含む構成とする。
【0015】
具体的に、本発明に係る固体電解質は、モリブデン及び硫黄を含むシェブレル相化合物にピリジンが配位された配位化合物に、リチウムイオンが導入されて構成された、非晶質構造を有する材料を含み、該材料の電子伝導度は、真空又はアルゴン雰囲気において、20℃で3.7×10−7S/cm以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明者の実験・研究によれば、シェブレル相化合物にピリジンを配位することにより、その電子伝導性を低減することが可能となる。さらに、そのような配位化合物にリチウムイオンを導入することにより、リチウムイオンの伝導性を有し且つ電子伝導性が低い固体電解質を得ることができる。このような固体電解質は、例えばリチウムイオン電池に利用することができ、その場合、非水系液体電解質を用いる場合と異なり、セパレータを設ける必要が無くなる。さらに、非水系液体電解質よりも耐熱性が高いため、発熱及び発火を防ぐことができる。
【0018】
本発明の固体電解質の製造方法は、モリブデン及び硫黄を含むシェブレル相化合物にピリジンが配位された配位化合物に、リチウムイオンが導入されて構成された、非晶質構造を有する材料を含む固体電解質の製造方法であって、配位化合物をブチルリチウム/ヘキサン混合液に浸漬することにより、配位化合物にリチウムイオンを導入する工程を備えていることを特徴とする。また、その工程の代わりに、配位化合物をナフタレン/リチウム/テトラヒドロフラン混合液に浸漬することにより、配位化合物にリチウムイオンを導入する工程を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る固体電解質及びその製造方法によると、電子伝導性が低い良好な固体電解質を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】シェブレル相化合物にピリジンが配位された配位化合物の結晶格子を示す図である。
図2】本発明の実施例1及び実施例2に係る化合物のX線回折法による分析結果を示す図である。
図3】(a)は本発明の実施例1に係る化合物の赤外分光法による分析結果を示す図であり、(b)は本発明の実施例2に係る化合物の赤外分光法による分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものでない。
【0022】
本発明に係る固体電解質は、モリブデン(Mo)及び硫黄(S)を含むシェブレル相化合物にピリジン(py)が配位された配位化合物に、リチウム(Li)イオンが導入されて構成された材料を含むことを特徴とする。
【0023】
本明細書において、シェブレル相化合物とは、MMo(Mは金属元素であり、x≧0である。)で示される化合物をいう。すなわち、Moもシェブレル相化合物といい、Moに例えばLiイオンが導入されたLiMoもシェブレル相化合物という。また、本明細書において、これらのシェブレル相化合物に、配位子としてpyが配位した化合物を配位化合物という。
【0024】
シェブレル相化合物は、Moにより構成された八面体を基本構造とし、この構造同士が規則的に結合して安定的な結晶構造を示す。このような規則的に結合した基本構造同士の間にはイオン伝導パスが形成されており、本発明ではLiイオンが導入されているため、特にLiイオンの伝導性が高い固体電解質を得ることができる。
【0025】
さらに、本発明に係る固体電解質では、シェブレル相化合物にピリジンが配位されており、これにより、電子伝導性に起因するシェブレル相化合物のMo−S結合を低減することによって電子伝導性を低減できる。このため、ピリジンの配位数を増加することにより、電子伝導性をより低減することができる。
【0026】
具体的に、図1に示すように、1分子のシェブレル相化合物当たりMo原子を6つ含み、これらの全てにピリジンが配位結合することにより、電子伝導性を0に極めて近い値にまで低減することができる。なお、このとき、シェブレル相化合物の安定な結晶構造は崩れて非晶質構造となる。
【0027】
本発明に係る固体電解質の製造方法は、上記のようにピリジン(py)が配位され、且つ、リチウムが導入された配位化合物を合成できれば、特にその方法は限られない。
【0028】
例えば、Moで示されるシェブレル相化合物の合成は、MoCl12等のMoを含む化合物と、NaSH等のSを含む化合物とを反応させることにより可能となる。また、上記のような化合物を用いてシェブレル相化合物を合成する際に、又は合成した後にピリジンをシェブレル相化合物に常法により配位させる。これにより、Mo(py)(0<y≦6)が生成されるが、この合成に用いる材料により他の分子が含まれていてもよく、例えば(NaS)Mo(py)(x≧0、0<y≦6)が合成されてもよい。このようにすると、シェブレル相化合物のユニット間の結合を無くして、隙間構造を形成することにより、電子伝導性を低減できると考えられる。なお、Moに配位されるpyの分子数は特に限定されないが、その数が多いほど固体電解質の電子伝導性を低減できる。
【0029】
この後に、Liイオンを導入して(NaS)LiMo(py)(x≧0、0<y≦6、z>0)を生成する。Liイオンの導入方法は特に限定されないが、例えばブチルリチウム溶液等のリチウムを含む溶液に上記のように合成した化合物を浸漬することにより、リチウムイオンを化合物に導入できる。
【0030】
このようにして得られた材料を用いて、本発明に係る固体電解質を製造することができる。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明に係る固体電解質及びその製造方法について詳細に説明するための実施例を示す。本実施例では、固体電解質を構成する材料として(NaS)LiMo(py)を製造し、その材料におけるピリジンの配位数と電子伝導性の関係について検討した。まず、pyの配位数が異なる2種類(低py数及び高py数)の(NaS)LiMo(py)の製造方法について、それぞれ実施例1及び実施例2として説明する。なお、本実施例で示す化学式中のx、y、zは、特に定めていない場合、x≧0、y>0、z>0である。
【0032】
(実施例1)
<MoCl12の合成方法>
アルゴン雰囲気のドライボックス中で、1.093g(4mmol)のMoCl(シグマアルドリッチ社製)と、1.727g(18mmol)の金属Mo粉末(レアメタリック社製)とをメノウ乳鉢を用いて混合した。これに、予め粉砕した0.195g(3.3mmol)のNaCl(マナック社製)をさらに加えて混合し、混合物を石英管(φ=15mm)に真空封入した。これを電気炉に入れ、6〜8時間かけて720℃まで加熱し、12時間焼成した。その後、石英管中の焼成物を取り出し、大気中においてメノウ乳鉢を用いて磨り潰した。これを10mlのエタノール(ナカライテスク社製)に溶かし、20時間激しく撹拌した。撹拌した後に、その溶液をテフロン(登録商標,以下同じ。)フィルタにより濾過し、濾液に15mlの36%濃塩酸(ナカライテスク社製)を加えた。これにより、溶液中に白い沈殿物が生じ、これをブフナー漏斗を用いて濾過することによって除去した。続いて、得られた濾液を撹拌しながらヒーター(ホットプレート)で加熱して濃縮した。その濾液中に沈殿が5ml程度生じた後に、その濾液を水冷し放置することにより、黄色針状結晶を得た。この結晶を濃塩酸を用いて洗浄した後に、大気中で乾燥することにより、(HO)[MoCl14]6HOを得た。得られた(HO)[MoCl14]6HOをパイレックス(登録商標)管に入れ、真空ラインを用いて300℃で2時間加熱することによりMoCl12を得た。
【0033】
<NaSHの合成方法>
次に、NaSH(HO)(シグマアルドリッチ社製)を120℃で3時間真空乾燥することにより、NaSHを得た。
【0034】
<(NaS)LiMo(py)(低py数:以下、y〜2と示す。)の製造方法>
次に、アルゴン雰囲気のドライボックス中で、上記のようにして得られた1.0g(1mmol)のMoCl12と、0.67g(12mmol)のNaSHとを50mlのナスフラスコに入れた。さらに、その中に0.41g(6mmol)のNaOEt(東京化成工業社製)を入れた。ここに、15mlのエタノールと4mlのピリジン(片山化学工業社製)をさらに加えた後に、ナスフラスコに冷却管を取り付けた。ナスフラスコ及び冷却管内をアルゴン雰囲気で密封した状態で大気中にそれらを取り出し、2日間還流を行った。還流後のナスフラスコ内の混合液をテフロンフィルタを用いて濾過し、これにより得られた固体を三角フラスコに入れた。ここに、30mlのメタノール(ナカライテスク社製)を加えて2日間撹拌した後に、その溶液を濾過して、得られた生成物を真空乾燥することにより、約1.0gの(NaS)Mo(py)(y〜2)を得た。
【0035】
次に、60mgの(NaS)Mo(py)(y〜2)に2mlのブチルリチウム/ヘキサン溶液(関東化学社製)を加え、これを1日放置した。その後、その溶液をテフロンフィルタを用いて濾過することにより、(NaS)LiMo(py)(y〜2)を得た。
【0036】
(実施例2)
<(NaS)LiMo(py)(高py数:以下、y〜4と示す。)の製造方法>
上記の実施例1において合成された150mgの(NaS)Mo(py)(y〜2)を、アルゴン雰囲気のドライボックス中で50mlのナスフラスコに入れ、そこに5mlのピリジンを加えた。その後、ナスフラスコに冷却管を取り付け、ナスフラスコ及び冷却管内をアルゴン雰囲気で密封した状態で大気中にそれらを取り出し、10時間還流を行った。その後、室温にまで冷却し、約半日間撹拌した。これにより得られた混合液を濾過することにより、(NaS)Mo(py)(y〜4)を得た。
【0037】
次に、実施例1と同様に、ブチルリチウム/ヘキサン溶液と反応させることにより、(NaS)LiMo(py)(y〜4)を得た。
【0038】
なお、実施例1及び実施例2では、上記の方法でLiイオンを導入したが、100mg〜200mgの(NaS)Mo(py)(y〜2)に10mlのナフタレン−Li/THF溶液を加え、これを1日放置した後に、濾過及び無水ヘキサンによる洗浄を行うことによってLiイオンを導入してもよい。ナフタレン−Li/THF溶液は、128mg(1mmol)のナフタレンと、7mg(1mmol)のLi金属と、10mlのTHFとを混合することにより得られる。これらの工程は、アルゴン雰囲気のドライボックス中で行う。
【0039】
(化合物の分析)
上記のようにして得られた実施例1の(NaS)LiMo(py)(y〜2)、及び実施例2の(NaS)LiMo(py)(y〜4)の構造を検討するために、それぞれに対してX線回折(X-ray diffraction:XRD)を行った。その結果を図2に示す。
【0040】
図2に示すように、XRDにおいて、実施例1及び実施例2の化合物では鋭いピークが見られなかった。このため、これらの化合物は非晶質構造を有することが確認できた。
【0041】
次に、実施例1及び実施例2の化合物に対して、赤外分光法(infrared spectroscopy:IR法)を用いて、構造分析を行った。その結果を図3に示す。
【0042】
図3(a)に示すように、実施例1の化合物のIRスペクトルにおいて、C=C及びC=Nの環伸縮による吸収である1300cm−1〜1700cm−1にピークが見られる。また、図3(b)に示すように、実施例2の化合物も1300cm−1〜1700cm−1にピークが見られる。これにより、実施例1及び実施例2の化合物の両方にピリジンが配位されていることが確認できた。
【0043】
(各元素の定量分析)
次に、実施例1及び実施例2の化合物に対して、X線光電子分光法(X-ray photoelectron spectroscopy:XPS法)を用いて、それらの構成元素の定量分析を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示すように、実施例1と実施例2を比較すると、実施例2の方が窒素原子(N)の割合が大きくなっており、ピリジンがより多く配位していることが確認できた。
【0046】
(電子伝導度の測定)
次に、実施例1及び実施例2の化合物を含む固体電解質の電子伝導性を評価するために、実施例1及び実施例2の化合物の電子伝導度を測定した。この測定のために、まず、それぞれの化合物からなるペレットを白金板で挟み、それらの白金板を直流電源に接続し、直流電流を流した。このときの、実施例1及び実施例2の化合物による直流抵抗を測定して、それぞれの化合物の電子伝導度を評価した。なお、白金板及び実施例1及び実施例2の化合物からなるペレットは、真空又はアルゴン雰囲気下で20℃の条件下に置いて、測定した。この条件における実施例1及び実施例2の化合物の電子伝導度を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
表2に示すように、真空及びアルゴン雰囲気下で20℃の条件下では、実施例1の化合物の電子伝導度は、それぞれ3.7×10−7S/cm及び1.1×10−7S/cmと極めて低く、固体電解質として用いるのに良好であることが示された。また、ピリジンの配位数をより多くした実施例2の化合物の電子伝導度は、真空及びアルゴン雰囲気下で共に測定限界値の5.0×10−9S/cm以下であり、実施例1の化合物よりもさらに低い値であった。すなわち、実施例2の化合物も固体電解質として用いるのに良好であることが示された。
【0049】
この結果から、シェブレル相化合物にピリジンを配位することにより、電子伝導度を低減することが可能となり、より良好な固体電解質を得ることができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、電気自動車やハイブリッド自動車、電子機器等に利用可能なリチウムイオン電池等に用いられる固体電解質に有用である。
図1
図3
図2