【実施例】
【0031】
以下に、本発明に係る固体電解質及びその製造方法について詳細に説明するための実施例を示す。本実施例では、固体電解質を構成する材料として(Na
2S)
xLi
ZMo
6S
8(py)
yを製造し、その材料におけるピリジンの配位数と電子伝導性の関係について検討した。まず、pyの配位数が異なる2種類(低py数及び高py数)の(Na
2S)
xLi
ZMo
6S
8(py)
yの製造方法について、それぞれ実施例1及び実施例2として説明する。なお、本実施例で示す化学式中のx、y、zは、特に定めていない場合、x≧0、y>0、z>0である。
【0032】
(実施例1)
<Mo
6Cl
12の合成方法>
アルゴン雰囲気のドライボックス中で、1.093g(4mmol)のMo
6Cl
5(シグマアルドリッチ社製)と、1.727g(18mmol)の金属Mo粉末(レアメタリック社製)とをメノウ乳鉢を用いて混合した。これに、予め粉砕した0.195g(3.3mmol)のNaCl(マナック社製)をさらに加えて混合し、混合物を石英管(φ=15mm)に真空封入した。これを電気炉に入れ、6〜8時間かけて720℃まで加熱し、12時間焼成した。その後、石英管中の焼成物を取り出し、大気中においてメノウ乳鉢を用いて磨り潰した。これを10mlのエタノール(ナカライテスク社製)に溶かし、20時間激しく撹拌した。撹拌した後に、その溶液をテフロン
(登録商標,以下同じ。)フィルタにより濾過し、濾液に15mlの36%濃塩酸(ナカライテスク社製)を加えた。これにより、溶液中に白い沈殿物が生じ、これをブフナー漏斗を用いて濾過することによって除去した。続いて、得られた濾液を撹拌しながらヒーター(ホットプレート)で加熱して濃縮した。その濾液中に沈殿が5ml程度生じた後に、その濾液を水冷し放置することにより、黄色針状結晶を得た。この結晶を濃塩酸を用いて洗浄した後に、大気中で乾燥することにより、(H
3O)
2[Mo
6Cl
14]6H
2Oを得た。得られた(H
3O)
2[Mo
6Cl
14]6H
2Oをパイレックス
(登録商標)管に入れ、真空ラインを用いて300℃で2時間加熱することによりMo
6Cl
12を得た。
【0033】
<NaSHの合成方法>
次に、NaSH(H
2O)
x(シグマアルドリッチ社製)を120℃で3時間真空乾燥することにより、NaSHを得た。
【0034】
<(Na
2S)
xLi
ZMo
6S
8(py)
y(低py数:以下、y〜2と示す。)の製造方法>
次に、アルゴン雰囲気のドライボックス中で、上記のようにして得られた1.0g(1mmol)のMo
6Cl
12と、0.67g(12mmol)のNaSHとを50mlのナスフラスコに入れた。さらに、その中に0.41g(6mmol)のNaOEt(東京化成工業社製)を入れた。ここに、15mlのエタノールと4mlのピリジン(片山化学工業社製)をさらに加えた後に、ナスフラスコに冷却管を取り付けた。ナスフラスコ及び冷却管内をアルゴン雰囲気で密封した状態で大気中にそれらを取り出し、2日間還流を行った。還流後のナスフラスコ内の混合液をテフロンフィルタを用いて濾過し、これにより得られた固体を三角フラスコに入れた。ここに、30mlのメタノール(ナカライテスク社製)を加えて2日間撹拌した後に、その溶液を濾過して、得られた生成物を真空乾燥することにより、約1.0gの(Na
2S)
xMo
6S
8(py)
y(y〜2)を得た。
【0035】
次に、60mgの(Na
2S)
xMo
6S
8(py)
y(y〜2)に2mlのブチルリチウム/ヘキサン溶液(関東化学社製)を加え、これを1日放置した。その後、その溶液をテフロンフィルタを用いて濾過することにより、(Na
2S)
xLi
ZMo
6S
8(py)
y(y〜2)を得た。
【0036】
(実施例2)
<(Na
2S)
xLi
ZMo
6S
8(py)
y(高py数:以下、y〜4と示す。)の製造方法>
上記の実施例1において合成された150mgの(Na
2S)
xMo
6S
8(py)
y(y〜2)を、アルゴン雰囲気のドライボックス中で50mlのナスフラスコに入れ、そこに5mlのピリジンを加えた。その後、ナスフラスコに冷却管を取り付け、ナスフラスコ及び冷却管内をアルゴン雰囲気で密封した状態で大気中にそれらを取り出し、10時間還流を行った。その後、室温にまで冷却し、約半日間撹拌した。これにより得られた混合液を濾過することにより、(Na
2S)
xMo
6S
8(py)
y(y〜4)を得た。
【0037】
次に、実施例1と同様に、ブチルリチウム/ヘキサン溶液と反応させることにより、(Na
2S)
xLi
ZMo
6S
8(py)
y(y〜4)を得た。
【0038】
なお、実施例1及び実施例2では、上記の方法でLiイオンを導入したが、100mg〜200mgの(Na
2S)
xMo
6S
8(py)
y(y〜2)に10mlのナフタレン−Li/THF溶液を加え、これを1日放置した後に、濾過及び無水ヘキサンによる洗浄を行うことによってLiイオンを導入してもよい。ナフタレン−Li/THF溶液は、128mg(1mmol)のナフタレンと、7mg(1mmol)のLi金属と、10mlのTHFとを混合することにより得られる。これらの工程は、アルゴン雰囲気のドライボックス中で行う。
【0039】
(化合物の分析)
上記のようにして得られた実施例1の(Na
2S)
xLi
ZMo
6S
8(py)
y(y〜2)、及び実施例2の(Na
2S)
xLi
ZMo
6S
8(py)
y(y〜4)の構造を検討するために、それぞれに対してX線回折(X-ray diffraction:XRD)を行った。その結果を
図2に示す。
【0040】
図2に示すように、XRDにおいて、実施例1及び実施例2の化合物では鋭いピークが見られなかった。このため、これらの化合物は非晶質構造を有することが確認できた。
【0041】
次に、実施例1及び実施例2の化合物に対して、赤外分光法(infrared spectroscopy:IR法)を用いて、構造分析を行った。その結果を
図3に示す。
【0042】
図3(a)に示すように、実施例1の化合物のIRスペクトルにおいて、C=C及びC=Nの環伸縮による吸収である1300cm
−1〜1700cm
−1にピークが見られる。また、
図3(b)に示すように、実施例2の化合物も1300cm
−1〜1700cm
−1にピークが見られる。これにより、実施例1及び実施例2の化合物の両方にピリジンが配位されていることが確認できた。
【0043】
(各元素の定量分析)
次に、実施例1及び実施例2の化合物に対して、X線光電子分光法(X-ray photoelectron spectroscopy:XPS法)を用いて、それらの構成元素の定量分析を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示すように、実施例1と実施例2を比較すると、実施例2の方が窒素原子(N)の割合が大きくなっており、ピリジンがより多く配位していることが確認できた。
【0046】
(電子伝導度の測定)
次に、実施例1及び実施例2の化合物を含む固体電解質の電子伝導性を評価するために、実施例1及び実施例2の化合物の電子伝導度を測定した。この測定のために、まず、それぞれの化合物からなるペレットを白金板で挟み、それらの白金板を直流電源に接続し、直流電流を流した。このときの、実施例1及び実施例2の化合物による直流抵抗を測定して、それぞれの化合物の電子伝導度を評価した。なお、白金板及び実施例1及び実施例2の化合物からなるペレットは、真空又はアルゴン雰囲気下で20℃の条件下に置いて、測定した。この条件における実施例1及び実施例2の化合物の電子伝導度を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
表2に示すように、真空及びアルゴン雰囲気下で20℃の条件下では、実施例1の化合物の電子伝導度は、それぞれ3.7×10
−7S/cm及び1.1×10
−7S/cmと極めて低く、固体電解質として用いるのに良好であることが示された。また、ピリジンの配位数をより多くした実施例2の化合物の電子伝導度は、真空及びアルゴン雰囲気下で共に測定限界値の5.0×10
−9S/cm以下であり、実施例1の化合物よりもさらに低い値であった。すなわち、実施例2の化合物も固体電解質として用いるのに良好であることが示された。
【0049】
この結果から、シェブレル相化合物にピリジンを配位することにより、電子伝導度を低減することが可能となり、より良好な固体電解質を得ることができることが示された。