(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
繊維系吸音層と、この繊維系吸音層の一方の面に積層され、かつ1以上の開口部を有する板材と、前記繊維系吸音層の他方の面に積層された板状ハニカム構造体とを含む吸音パネルであって、前記開口部の面積割合が板材の面積全体に対して20〜60%であり、かつ前記開口部の平均面積が100〜1000cm2である吸音パネル。
板状ハニカム構造体が複数の又は連続した薄片状シートで形成され、かつ前記薄片状シートの厚みが0.01〜5mmであり、前記構造体の平均厚みが5〜50mmであり、ハニカム構造を形成する各セルの平均径が1〜100mmである請求項1〜8のいずれかに記載の吸音パネル。
板状ハニカム構造体にさらに第2の繊維系吸音層が積層されており、第2の織繊系吸音層が、湿熱接着性繊維を含み、かつこの湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された板状不織繊維構造体で形成されている請求項1〜9のいずれかに記載の吸音パネル。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の吸音パネルは、繊維系吸音層の一方の面に1以上の開口部を有する板材(有孔板材又はフェイスパネル)が積層され、さらに前記繊維系吸音層の他方の面に板状ハニカム構造体が積層されている。
【0025】
[有孔板材]
有孔板材は、繊維系吸音層と積層されており(接触して組み合わされており)、音波を吸音層に入射させるための開口部と音波を反射させるための非開口部とを備えることにより、開口部から吸音層に入射した音波が、反対面の剛壁などにより反射して吸音層から漏洩するのを非開口部によって封じ込めることができる(隠蔽作用によって抑制できる)ためか、従来の繊維系吸音層を備えた吸音パネルでは吸音が困難な低周波域の音波に対する吸音性を向上できる。
【0026】
板材としては、板状又はシート状であり、かつ音波を反射できる剛性を有していれば、特に限定されず、各種の無機系面材及び有機系面材を使用できる。
【0027】
無機系面材としては、例えば、石膏ボード、珪酸カルシウム板、ガラス板、金属板(例えば、アルミニウム板、ステンレススチール、鋼板など)などが挙げられる。有機系面材としては、例えば、木質系ボード[例えば、天然木、無垢材、合板(積層木質ボード)、木質繊維ボード(中密度繊維板MDF、パーティクルボード、配向性ストランドボード、インシュレーションボードなど)など]、合成樹脂板[例えば、ポリエチレン板、ポリプロピレン板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニル樹脂板(塩ビ樹脂板)、ポリメタクリル酸メチル板(アクリル樹脂板)、ポリエステル板、ポリカーボネート樹脂板、ポリアミド樹脂板など]などが挙げられる。さらに、塩ビ鋼板(ポリ塩化ビニル被覆金属板)などの無機系と有機系との複合系又は積層系板材であってもよい。これらの板材は、用途に応じて選択でき、例えば、高度な軽量性が要求される用途では、合板やMDFなどの木質系ボード、アルミニウム板などの軽量金属板などが好適であり、透光性が要求される用途では、アクリル樹脂板、ポリカーボネート樹脂板、透明塩ビ樹脂板などの透明樹脂板、ガラス板などが好適である。特に、軽量性と吸音性(例えば、高周波域での吸音性など)とが要求される場合には、木質系ボード(MDF、積層合板、天然木、無垢材など)などの木質材料が特に好ましい。
【0028】
開口部の大きさは、音波を透過させ、か
つ開口部からの漏洩を抑制するために、用途や開口部の形状などに応じて、適宜調整できる。開口部の面積割合(開口率)は、板材の面積全体に対して5〜90%程度の範囲から選択でき、例えば、10〜80%、好ましくは20〜60%、さらに好ましくは30〜50%(特に35〜45%)程度である。開口率が小さすぎると、反射面の面積割合が大きくなるため、高周波域での吸音性に優れる吸音層に入射する音波が減少するため、高周波域での吸音性が低下する。一方、開口率が大きすぎると、反射面となる非開口部の面積割合が
小さすぎるため、吸音層及びハニカム構造体の空間部に入射した音波(特に吸音層での吸音が困難な低周波域の音波)が漏洩し易く、低周波域での吸音性が低下する。
【0029】
開口部の面積(複数の開口部を有する場合、各開口部の面積)は、パネルの大きさや形状に応じて選択できるが、音波を透過させ、かつ開口部によって意匠性を付与させるとともに、低周波域での吸音性を向上させるため、所定の大きさに調整されているのが好ましい。開口部の平均面積(1の開口部を有する場合、開口部の面積)は、例えば、5〜2500cm
2、好ましくは10〜2000cm
2、さらに好ましくは100〜1000cm
2(特に200〜500cm
2)程度であり、低周波域での吸音性を向上できる点から、250〜400cm
2であってもよい。本発明では、開口部がある程度の面積を有するため、開口部を各種の形状に形成することにより、パネルに装飾性(意匠性)を付与するのが容易である。
【0030】
開口部の大きさは、前記範囲にある限り、目的の意匠に応じて適宜選択できるが、平均面積の前記範囲(例えば、5cm
2)よりも小さい面積を有する微小な開口部を形成してもよいが、低周波域での吸音性を保持する点から、平均面積の前記範囲を超える面積の開口部は形成しないのが好ましい。すなわち、開口部(各開口部)の最大面積は2500cm
2以下、好ましくは2000cm
2以下、さらに好ましくは100〜1000cm
2であってもよい。
【0031】
開口部の数は、開口部の面積が前記範囲にあれば特に限定されず、例えば、1〜100程度の範囲から選択できるが、低周波域での吸音性を向上できる点から、複数が好ましく、例えば、2〜80、好ましくは3〜50、さらに好ましくは5〜30(特に10〜20)程度である。開口部の数が多すぎると、開口率及び開口部の平均面積の調整が困難となる。
【0032】
開口部の形状は、特に限定されず、目的の意匠に応じて選択でき、例えば、多角形状(三角形状、正方形、菱形、長方形、平行四辺形などの四角形状、五角形状、六角形状、八角形状など)、円形状、楕円形状、長円形状、アルファベットなどの字体状などであってもよい。これらの形状のうち、高周波域での吸音性を向上させるため、開口部の形状は、等方性又は所定の異方性を有する形状(異方性が大きすぎない形状)を少なくとも含むのが好ましい。異方性が大きすぎない形状は、例えば、短径に対する長径の比であるアスペクト比が1000以下、好ましくは100以下、さらに好ましくは50以下程度であってもよい。
【0033】
複数の開口部を組み合わせた板材表面におけるパターンの具体例を
図1〜4に示す。
【0034】
図1の板材1では、12個の長方形状開口部1aを組み合わせたパターンが形成されている。詳しくは、この板材1の表面には、互いに間隔をおいて並列した6つの長方形状開口部1aで第1の開口部列が形成され、この第1の開口部列と隣接して第2の開口部列が形成されている。
【0035】
図2の板材2では、8つの正三角形状開口部2aを組み合わせたパターンが形成されている。詳しくは、板材2の表面には、同一の大きさを有する8つの正三角形状開口部2aが略等間隔で形成されている。
【0036】
図3の板材3では、7つの円形状開口部と、2つの楕円形状の開口部とを組み合わせたパターンが形成されている。詳しくは、対角線上に等間隔で第1の円形状の開口部3bが形成され、対向する開口部3dの中間部に楕円形状の開口部3dが形成されている。さらに、前記対角線と交差する対角線上に、中央部の円形状の開口部3bを挟む形で径大の第2の円形状開口部3aが形成され、左右両端部において、第1の円形状開口部3bと第2の円形状開口部3aとの間に径小の第3の円形状開口部が形成されている。
【0037】
図4の板材4では、大きさの異なる3種類の六角形状開口部4aを7つ組み合わせたパターンが形成されている。詳しくは、板材4の表面には、中央部に第1の六角形状開口部4aが形成され、周辺部(四隅部)に径大の第2の六角形状開口部4bが形成され、上下両端部において、第2の六角形状開口部4a間に径小の第3の六角形状開口部4cが形成されている。
【0038】
このように、本発明では、板材の表面において開口部が所定の面積を占めるため、開口部の形状を適宜選択して組み合わせることにより、板材に対して容易に意匠性を付与できる。
【0039】
また、板材の表面において、複数の開口部を組み合わせて各種のパターンを形成できるが、各開口部の形状や大きさは同一であってもよく、異なっていてもよい。さらに、パターンは、ランダムなパターンであってもよいが、均一に吸音特性を発現させる点から、規則的なパターン(例えば、千鳥状、略等間隔に形成された水玉状又はドット状や複数列状、対称形状に配置された各種の模様など)が好ましい。
【0040】
板材の平均厚みは、板材の材質に応じて選択できるが、吸音層に入射した音波が漏洩するのを抑制できる剛性を有している必要があり、0.1mm以上であってもよく、例えば、1〜15mm、好ましくは2〜13mm、さらに好ましくは3〜10mm(特に4〜8mm)程度であってもよい。板材の厚みが小さすぎると(特に木質材料の場合)、剛性の低下により吸音性が低下し、逆に大きすぎると、軽量性が低下する。
【0041】
板材の平面サイズも特に限定されず、要求されるパネルに応じて、100mm〜10m程度の範囲から適宜選択できる。建築用途に使用する場合は、例えば、910mm×1820mm、1000mm×1000mm、1000mm×2000mmなどの平面寸法で使用されることが多い。
【0042】
[ハニカム構造体]
本発明では、繊維系吸音層の他方の面に板状ハニカム構造体を積層することにより吸音性を向上でき、特に、吸音パネルを壁などに対して隙間を設けて配設することなどにより空間層を設けなくても、吸音性を向上できる。ハニカム構造体としては、セル構造による空間を有する構造体であれば特に制限されず、通常、複数の又は連続した薄片状又は細幅状シートにより、互いに独立した複数のセルが網目状又は格子状に形成された板状(又はシート状)構造体である。
【0043】
ハニカム構造体の材質としては、軽量化の観点から、比重の小さい材質、例えば、紙類、合成樹脂、軽量金属材料、セラミックス類などが利用できる。これらの材質のうち、軽量で安価な点から、紙類が好ましい。紙類としては、例えば、ダンボール原紙、紙器用板紙、印刷・情報用紙などが利用できる。難燃性が要求される場合には、水酸化アルミニウムの含浸などにより難燃処理を施した紙、アルミニウムなどの金属箔が積層された紙などが特に適している。
【0044】
ハニカム構造体を構成する薄片状シートの厚みは、軽量性及びセル内に大きな空間を確保するとともに、構造パネルとしての強度を確保する点から、例えば、0.01〜5mm、好ましくは0.02〜3mm、さらに好ましくは0.03〜2mm(特に0.05〜1.5mm)程度である。
【0045】
ハニカム構造を形成するセルの形状は、いわゆるハニカム形状(六角形状)に限定されず、三角形状、格子状(正方形状、長方形状、菱形状、平行四辺形状などの四角形状)、五角形状、円形状、楕円形状、波形状などであってもよい。波状としては、互いに平行な平板状シートとの間に、波形状シートが頂部で接触又は接着した形状(平板状シートと波形状シートとが交互に積層した形状)、互いに平行な平板状シートとの間に、複数の波形状シートが頂部で接触又は接着した形状であってもよい。さらに、これらの形状は、連続したシートを折り返して形成して形状であってもよい。
【0046】
各セルの平均径は、吸音域、吸音性、強度などのバランスの点から、例えば、1〜100mm、好ましくは3〜80mm、さらに好ましくは5〜60mm(特に10〜50mm)程度であり、5〜30mm程度であってもよい。例えば、用途に応じて、セル径が5mm、10mm、20mm、30mmなどの汎用サイズを利用できる。なお、本発明におけるセルの平均径とは、形状に応じて算出され、異方形状の場合における長径と短径との平均値を意味する。具体的には、正六角形の場合には対向する辺の最短距離が平均径となり、正方形の場合には各辺の長さがそのまま平均径となり、長方形の場合には長辺と短辺との平均値が平均径となり、波形の場合には、波の頂部の高さと底部の長さとの平均値が平均径となる。
【0047】
ハニカム構造体の厚み(セルの高さ)は、吸音性を確保できればよく、吸音性の点からは厚みが大きい方が好ましく、例えば、平均厚みが5mm以上であってもよい。さらに、ハニカム構造体の平均厚みは、吸音性と取り扱い性や施工性とのバランスの点から、例えば、5〜50mm、好ましくは8〜40mm、さらに好ましくは10〜30mm(特に15〜25)程度であってもよい。ハニカム構造体の厚みが小さすぎると、吸音性が低下し、剛性も低下する。一方、大きすぎると、取り扱い性や施工性などが低下する。
【0048】
ハニカム構造体の市販品としては、例えば、ナゴヤ芯材工業(株)製「ニューダイスコア」「E段コアシリーズ」「ハニカムコアシリーズ」「水酸化アルミコア」「NBコア」などが利用できる。
【0049】
[繊維系吸音層]
繊維系吸音層(第1の繊維系吸音層)は、吸音機能を発現する繊維構造を有していればよく、慣用の吸音材、例えば、合成繊維(ポリオレフィン系繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、塩化ビニル系繊維、スチレン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリカーボネート系繊維、ポリウレタン系繊維、又はこれらの繊維を含む複合繊維など)で形成された繊維状吸音材(織編物、不織布などで形成された繊維状構造体)や、無機繊維(ガラス繊維や炭素繊維など)で形成された繊維状吸音材などであってもよいが、吸音性と軽量性と形態保持性とを両立できる点から、湿熱接着性繊維を含み、この湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された不織繊維構造体が好ましい。
【0050】
(不織繊維構造体)
このような不織繊維構造体は、前記湿熱接着性繊維を含むウェブに高温(過熱又は加熱)水蒸気を作用させて、湿熱接着性繊維の融点以下の温度で接着作用を発現し、繊維同士を部分的に接着させることにより得られる。この不織繊維構造体は、繊維構造に特有の高い吸音断熱性、衝撃吸収性を有するとともに、不織繊維構造を構成する繊維の配列と、この繊維同士の接着状態を調整することにより、通常の不織布では得られない曲げ挙動と軽量性とを両立し、さらに折れ難く、形態保持性も確保している。そのため、壁掛けや間仕切りとして使用するのに適している。特に、高い剛性を有しているため、従来のパネルのように、木枠などの固定部材が不要であり、軽量性及び経済性を向上できる。
【0051】
湿熱接着性繊維は、少なくとも湿熱接着性樹脂で構成されている。湿熱接着性樹脂は、高温水蒸気によって容易に実現可能な温度において、流動又は容易に変形して接着機能を発現可能であればよい。具体的には、熱水(例えば、80〜120℃、特に95〜100℃程度)で軟化して自己接着又は他の繊維に接着可能な熱可塑性樹脂、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール系重合体、ポリ乳酸などのポリ乳酸系樹脂、(メタ)アクリルアミド単位を含む(メタ)アクリル系共重合体などが挙げられる。さらに、高温水蒸気により容易に流動又は変形して接着可能なエラストマー(例えば、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマーなど)などであってもよい。これらの湿熱接着性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、特に、エチレンやプロピレンなどのα−C
2−10オレフィン単位を含むビニルアルコール系重合体、特に、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が好ましい。
【0052】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体において、エチレン単位の含有量(共重合割合)は、例えば、5〜65モル%(例えば、10〜65モル%)、好ましくは20〜55モル%、さらに好ましくは30〜50モル%程度である。ビニルアルコール単位のケン化度は、例えば、90〜99.99モル%程度であり、好ましくは95〜99.98モル%、さらに好ましくは96〜99.97モル%程度である。粘度平均重合度は、必要に応じて選択できるが、例えば、200〜2500、好ましくは300〜2000、さらに好ましくは400〜1500程度である。
【0053】
湿熱接着性繊維の断面形状(繊維の長さ方向に垂直な断面形状)は、一般的な中実断面形状である丸型断面や異型断面[偏平状、楕円状、多角形状など]に限定されず、中空断面状などであってもよい。湿熱接着性繊維は、少なくとも湿熱接着性樹脂を含む複数の樹脂で形成された複合繊維であってもよい。複合繊維は、湿熱接着性樹脂を少なくとも繊維表面の一部に有していればよいが、接着性の点から、繊維表面において長さ方向に連続する湿熱接着性樹脂を有するのが好ましい。湿熱接着性樹脂の被覆率は、例えば、50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0054】
湿熱接着性樹脂が表面を占める複合繊維の横断面構造としては、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型又は多層貼合型、放射状貼合型、ランダム複合型などが挙げられる。これらの横断面構造のうち、湿熱接着性樹脂が繊維の全表面を被覆する構造である芯鞘型構造(すなわち、鞘部が湿熱接着性樹脂で構成された芯鞘型構造)が好ましい。芯鞘型構造は、他の繊維形成性重合体で構成された繊維の表面に湿熱接着性樹脂をコーティングした繊維であってもよい。
【0055】
複合繊維の場合、湿熱接着性樹脂同士を組み合わせてもよいが、非湿熱接着性樹脂と組み合わせてもよい。非湿熱接着性樹脂としては、非水溶性又は疎水性樹脂、例えば、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの非湿熱接着性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0056】
これらの非湿熱接着性樹脂のうち、耐熱性及び寸法安定性の点から、融点が湿熱接着性樹脂(特にエチレン−ビニルアルコール系共重合体)よりも高い樹脂、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、特に、耐熱性や繊維形成性などのバランスに優れる点から、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましい。ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂としては、特開2010−163778号公報(特許文献3)や特開2010−229809号公報に記載の樹脂などが利用できる。
【0057】
湿熱接着性樹脂と非湿熱接着性樹脂(繊維形成性重合体)とで構成された複合繊維の場合、両者の割合(質量比)は、構造(例えば、芯鞘型構造)に応じて選択でき、例えば、湿熱接着性樹脂/非湿熱接着性樹脂=90/10〜10/90、好ましくは80/20〜15/85、さらに好ましくは60/40〜20/80程度である。
【0058】
湿熱接着性繊維の平均繊度は、用途に応じて、例えば、0.01〜100dtex程度の範囲から選択でき、好ましくは0.1〜50dtex、さらに好ましくは0.5〜30dtex(特に1〜10dtex)程度である。平均繊維長は、例えば、10〜100mm程度の範囲から選択でき、好ましくは20〜80mm、さらに好ましくは25〜75mm程度である。
【0059】
湿熱接着性繊維の捲縮率は、例えば、1〜50%、好ましくは3〜40%、さらに好ましくは5〜30%程度である。また、捲縮数は、例えば、1〜100個/25mm、好ましくは5〜50個/25mm、さらに好ましくは10〜30個/25mm程度である。
【0060】
不織繊維構造体は、前記湿熱接着性繊維に加えて、さらに非湿熱接着性繊維を含んでいてもよい。非湿熱接着性繊維としては、前記複合繊維を構成する非湿熱接着性樹脂で構成された繊維の他、セルロース系繊維(例えば、レーヨン繊維、テンセル繊維、アセテート繊維など)、無機繊維(例えば、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維など)などが挙げられる。これらの非湿熱接着性繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの非湿熱接着性繊維は、目的の特性に応じて選択でき、レーヨンなどの半合成繊維と組み合わせると、相対的に高密度で機械的特性の高い繊維構造体が得られる一方、ポリエステル系繊維やポリアミド系繊維などの疎水性繊維と組み合わせると、繊維間の空隙が増大し、かつ融着せずに自由に振動可能な繊維が増加するため、吸音性を向上できる。さらに、非湿熱接着性繊維は、熱収縮率(又は熱膨張率)の異なる複数の樹脂で相構造が形成された複合繊維(潜在捲縮性複合繊維)、例えば、特開2010−84284号公報に記載の捲縮繊維などであってもよい。これらの非湿熱接着性繊維の平均繊度及び平均繊維長は、湿熱接着性繊維と同様である。
【0061】
湿熱接着性繊維と非湿熱接着性繊維との割合(質量比)は、湿熱接着性繊維/非湿熱接着性繊維=100/0〜20/80(例えば、99/1〜20/80)、好ましくは100/0〜50/50(例えば、95/5〜50/50)、さらに好ましくは100/0〜70/30程度である。
【0062】
不織繊維構造体(又は繊維)は、さらに、慣用の添加剤、例えば、特開2010−163778号公報などに記載の添加剤(例えば、難燃剤など)が、構造体表面に担持されていてもよく、繊維中に含まれていてもよい。
【0063】
(不織繊維構造体の特性)
不織繊維構造体(成形体)は、前記繊維で構成されたウェブから得られる不織繊維構造を有しており、その形状はシート状又は板状である。平面形状は特に限定されず、用途に応じて選択でき、断面円形又は楕円形状、各種の多角形状などであってもよいが、通常、正方形や長方形などの四角形状である。
【0064】
不織繊維構造体において、繊維構造を有しながら、吸音性と軽量(低密度)性とをバランスよく備えた不織繊維構造を有するためには、前記不織繊維のウェブを構成する繊維の配列状態及び接着状態が適度に調整されている必要がある。
【0065】
具体的には、繊維が概ね繊維ウェブ面に対し平行に配列し、局部的に多数の繊維が厚み方向に沿って配列している部分が繰り返し存在するようなことがない状態が好ましい。より具体的には、構造体の繊維ウェブにおける任意の断面を顕微鏡観察した際に、繊維ウェブでの厚さの30%以上に亘り、厚み方向に連続して延びる繊維の存在割合(本数割合)が、その断面における全繊維に対して10%以下(特に5%以下)であってもよい。
【0066】
さらに、不織繊維構造を構成する繊維が前記湿熱接着性繊維の融着による繊維接着率は1〜85%(例えば、1〜60%)、好ましくは2〜50%(例えば、3〜35%)、さらに好ましくは5〜35%(特に10〜30%)程度である。
【0067】
本発明における繊維接着率は、後述する実施例に記載の方法で測定できるが、不織繊維断面における全繊維の断面数に対して、2本以上接着した繊維の断面数の割合を示す。従って、繊維接着率が低いことは、複数の繊維同士が融着する割合(集束して融着した繊維の割合)が少ないことを意味する。
【0068】
本発明の不織繊維構造体は、厚み方向で均一に繊維が接着しているのが好ましく、例えば、板状不織繊維構造体の厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域における繊維接着率がいずれも前記範囲にあるのが好ましい。さらに、各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合(最小値/最大値)(繊維接着率が最大の領域に対する最小の領域の比率)が、例えば、50%以上(例えば、50〜100%)、好ましくは55〜99%、さらに好ましくは60〜98%(特に70〜97%)程度である。本発明では、繊維接着率が、厚み方向において、このような均一性を有しているため、繊維の接着面積が低いにも拘わらず、硬さや曲げ強度、耐折性や靱性も優れている。さらに、繊維の接着面積が低いため、自由に振動可能な繊維が多く、優れた振動吸収性を有している。そのため、板材を通過してきた音波は、不織繊維構造体により吸音され、固体伝播音を軽減することができる。すなわち、本発明における不織繊維構造体は、ボードとしての機械的特性と、繊維構造体としての吸音性とを両立している。
【0069】
繊維接着率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、不織繊維構造体の断面を拡大した写真を撮影し、所定の領域において、接着した繊維断面の数に基づいて簡便に測定できる。しかし、束状に繊維が融着している場合には、各繊維が束状に又は交点で融着しているため、特に密度が高い場合には、繊維単体として観察することが困難になり易い。この場合、例えば、繊維構造体が湿熱接着性繊維で構成された鞘部と繊維形成性重合体で構成された芯部とで形成された芯鞘型複合繊維で接着されている場合には、融解や洗浄除去などの手段で接着部の融着を解除し、解除前の切断面と比較することにより繊維接着率を測定できる。
【0070】
不織繊維構造体は、靱性及び曲げ応力が高く、JIS K7017「繊維強化プラスチック−曲げ特性の求め方」に準じた方法において、少なくとも一方向(好ましくは全ての方向)における最大曲げ応力が0.05MPa以上であり、好ましくは0.1〜30MPa、さらに好ましくは0.15〜20MPa(特に0.2〜10MPa)程度であってもよい。さらに、最大曲げ応力を示す曲げ量の1.5倍の変位まで曲げた時の応力(1.5倍変位応力)は、最大曲げ応力(ピーク応力値)の1/10以上を維持しており、好ましくは3/10以上(例えば、3/10〜1)、さらに好ましくは5/10以上(例えば、5/10〜9/10)程度であってもよい。
【0071】
不織繊維構造体は、不織繊維構造を有しているため、繊維間に生ずる空隙を有しているため、高い軽量性を有している。さらに、これらの空隙は、独立した空隙ではなく連続しているため、通気性も有している。
【0072】
不織繊維構造体の密度は、吸音性を確保できれば特に限定されず、例えば、0.05〜0.5g/cm
3程度の範囲から選択でき、吸音性及び剛性を向上できる点からは大きい方が好ましいが、軽量性とのバランスに優れる点から、例えば、0.07〜0.4g/cm
3、好ましくは0.08〜0.3g/cm
3、さらに好ましくは0.1〜0.2g/cm
3、(特に0.12〜0.18g/cm
3)程度である。見かけ密度が低すぎると、吸音性が低下するとともに、剛性も低下し、逆に高すぎると、軽量性が低下する。目付は、例えば、50〜10000g/m
2、好ましくは100〜8000g/m
2、さらに好ましくは200〜6000g/m
2程度であってもよい。
【0073】
フラジール形法による通気度は0.1cm
3/(cm
2・秒)以上[例えば、0.1〜300cm
3/(cm
2・秒)]、好ましくは1〜250cm
3/(cm
2・秒)、さらに好ましくは5〜200cm
3/(cm
2・秒)程度である。
【0074】
(不織繊維構造体の製造方法)
不織繊維構造体の製造方法では、まず、前記湿熱接着性繊維を含む繊維をウェブ化する。ウェブの形成方法としては、慣用の方法、例えば、スパンボンド法、メルトブロー法などの直接法、メルトブロー繊維やステープル繊維などを用いたカード法、エアレイ法などの乾式法などを利用できる。これらの方法のうち、メルトブロー繊維やステープル繊維を用いたカード法、特にステープル繊維を用いたカード法が汎用される。ステープル繊維を用いて得られたウェブとしては、例えば、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ、クロスラップウェブなどが挙げられる。
【0075】
次に、得られた繊維ウェブは、ベルトコンベアにより次工程へ送られ、次いで過熱又は高温蒸気(高圧スチーム)流に晒されることにより、不織繊維構造を有する構造体が得られる。すなわち、ベルトコンベアで運搬された繊維ウェブは、蒸気噴射装置のノズルから噴出される高速高温水蒸気流の中を通過する際、吹き付けられた高温水蒸気により繊維同士が三次元的に接着される。特に、本発明における繊維ウェブは通気性を有しているため、高温水蒸気が内部にまで浸透し、略均一な融着状態を有する構造体を得ることができる。
【0076】
不織繊維構造体は、具体的には、温度70〜150℃、好ましくは80〜120℃、さらに好ましくは90〜110℃程度の高温水蒸気を、前記繊維ウェブに対して、圧力0.1〜2MPa、好ましくは0.2〜1.5MPa、さらに好ましくは0.3〜1MPa程度、処理速度200m/分以下、好ましくは0.1〜100m/分、さらに好ましくは1〜50m/分程度で噴射する方法により得られるが、詳細な製造方法については、国際公開WO2007/116676号公報や国際公開WO2009/28564号公報に記載の製造方法を利用できる。
【0077】
得られた不織繊維構造体は、板状又はシート状成形体として得られ、切断加工などにより所望の大きさや形状に加工されるが、必要に応じて慣用の熱成形により二次成形してもよい。
【0078】
(繊維系吸音層の厚み)
繊維系吸音層(特に板状不織繊維構造体)の厚みは、吸音性を確保できればよく、吸音性の点からは厚みが大きい方が好ましく、例えば、平均厚みが3mm以上であってもよい。さらに、繊維吸音層の平均厚みは、吸音性と取り扱い性などの点から、例えば、3〜50mm、好ましくは4〜30mm、さらに好ましくは5〜20mm(特に8〜15mm)程度であってもよい。繊維系吸音層の厚みが小さすぎると、吸音性が低下し、剛性も低下する。一方、大きすぎると、取り扱い性や施工性などが低下し、例えば、壁材として使用する際の他の材料との厚みの調整が困難となり、壁掛けや間仕切りとして使用する際にも省スペースを実現できない。
【0079】
(第2の繊維系吸音層)
本発明の吸音パネルは、さらに吸音性を向上させるため、板状ハニカム構造体(板状ハニカム構造体の繊維系吸音層が積層されていない側の面)にさらに第2の繊維系吸音層を積層してもよい。第2の繊維系吸音層を積層することにより、ハニカム層を通過した音波を吸収でき、例えば、ハニカム構造体を通過した側に剛性の高い材料が配設された場合でも、反射により、吸音性が低下するのを抑制できる。
【0080】
第2の繊維系吸音層としても、第1の繊維系吸音層と同様の繊維状吸音材を使用でき、第1の繊維系吸音層も、第1の繊維系吸音層と同様の不織繊維構造体(湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された板状不織繊維構造体)が好ましい。
【0081】
第2の繊維系吸音層は、第1の繊維系吸音層と異なる繊維系吸音層であってもよいが、通常、同一の繊維吸音層が使用される。第2の繊維系吸音層が、第1の繊維系吸音層とともに前記不織繊維構造体で形成されている場合、繊維接着率や密度などの特性を第1の繊維系吸音層と異なる範囲に調整してもよいが、通常、同一の範囲に調整される。
【0082】
第2の繊維系吸音層の厚みも、第1の繊維系吸音層と同様の厚みから選択できるが、吸音性を向上できる点から、第1及び第2の繊維系吸音層の平均厚みの合計が5mm以上であってもよく、例えば、5〜50mm、好ましくは6〜40mm、さらに好ましくは8〜30mm(特に10〜20mm)程度であってもよい。
【0083】
第1の繊維系吸音層の平均厚みと第2の繊維系吸音層の平均厚みとの比は、前者/後者=10/1〜1/10程度の範囲から選択でき、例えば、5/1〜1/5、好ましくは3/1〜1/3、さらに好ましくは2/1〜1/2(特に1.5/1〜1/1.5)程度であってもよい。
【0084】
[吸音パネルの構造及び特性]
本発明の吸音パネルは、繊維系吸音層の一方の面に1以上の開口部を有する板材が積層され、さらに前記繊維系吸音層の他方の面に板状ハニカム構造体が積層されており、
図5は、本発明の吸音パネルの一例を示す概略斜視図である。吸音パネル11は、不織繊維構造体で形成された繊維系吸音層13の一方の面に、互いに間隔をおいて並行に形成された6つの開口部12aの列が隣接して2列形成された板材12が積層され、さらに繊維系吸音層13の他方の面に、ペーパーハニカム構造体14(ハニカム構造は図示せず)が積層された吸音パネルである。繊維系吸音層13と、板材12及びペーパーハニカム構造体14とは、層間の接触部において、接着剤(ポリ酢酸ビニル系接着剤など)で接合されている。
【0085】
本発明の吸音パネルは、板状ハニカム構造体にさらに第2の繊維系吸音層が積層されていてもよく、
図6は、本発明の吸音パネルの他の例を示す部分切り欠き概略斜視図である。吸音パネル21は、不織繊維構造体で形成された第1の繊維系吸音層23の一方の面に、略正方形状の開口部22aを等間隔で形成した板材22が積層され、さらに繊維系吸音層23の他方の面に、ペーパーハニカム構造体24が積層されたパネルにおいて、前記ペーパーハニカム構造体24に、不織繊維構造体で形成された第2の繊維系吸音層25が形成されている。このペーパーハニカム構造体24は、波形状シート(薄片状シート)と平板状シート(薄片状シート)とが交互に積層されることにより、ハニカム構造を形成している。この吸音パネルも層間の接触部において、接着剤(ポリ酢酸ビニル系接着剤など)で接合されている。ハニカム構造体の両面に繊維状吸音層を積層したパネルは、片面にのみ繊維状吸音層を積層したパネルよりも、吸音効果を更に向上し、特に吸音域を広くできる。
【0086】
本発明の吸音パネルにおいて、板材と繊維状吸音層と平均厚み比(ハニカム構造体の両層に繊維状吸音層を形成する場合は単層の厚み)は、例えば、板材/繊維状吸音層=2/1〜1/10、好ましくは1.5/1〜1/8、さらに好ましくは1/1.2〜1/5(特に1/1〜1/3)程度である。板材の厚み比が大きすぎても、繊維状吸音層の厚み比が大きすぎても、吸音性が低下する。
【0087】
繊維状吸音層とハニカム構造体との平均厚み比(ハニカム構造体の両層に繊維状吸音層を形成する場合は単層の厚み)は、例えば、繊維状吸音層/ハニカム構造体=2/1〜1/10、好ましくは1/1〜1/9、さらに好ましくは1/1.5〜1/8(特に1/2〜1/5)程度である。ハニカム構造体の厚み比を大きくすることにより、低周波域での吸音特性を向上でき、さらに繊維状吸音層をハニカム構造体の両面に積層することにより、バランスのとれた吸音特性を実現できる。
【0088】
本発明の吸音パネルは、必要であれば、表面及び/又は裏面にさらに慣用の仕上げ材を積層してもよく、例えば、布クロス、木質系仕上げ材、フィルム、紙などを積層できる。さらに、構造パネルを装飾する場合には、通気性を有する化粧クロスなどを使用することが好ましい。本発明の吸音パネルは、通気性に優れているため、板材の表面に通気性を有する生地など貼っても低周波域での吸音性に影響はない。仕上げ材の厚みは、例えば、0.1〜5mm、好ましくは0.3〜3mm、さらに好ましくは0.5〜2mm程度である。
【0089】
本発明の吸音パネルは、板材が積層された側に対して反対側の面に反射体を積層してもよい。反射体としては、音波の反射効果を有する材質であれば特に限定されないが、軽量性の点から、例えば、塩ビ鋼板(ポリ塩化ビニル被覆金属板)、合板(積層木質ボード)、合成樹脂板、無機繊維不織布などが汎用される。反射体の厚みは、例えば、0.01〜10mm、好ましくは0.02〜5mm、さらに好ましくは0.03〜3mm程度である。本発明では、反射体を積層することにより、吸音や遮音効果に加えて、適度な反射音をも発生させることにより、コンサートホールなどの高度な室内音響を要求される用途にも使用できる。
【0090】
さらに、吸音パネルの難燃性を向上させる点から、ガラス繊維不織布や炭素繊維不織布などの無機繊維不織布を積層してもよい。
【0091】
本発明の吸音パネルは、板材と繊維状吸音層とハニカム構造体とは、用途や施工場所によっては接合されていなくてもよいが、パネルの安定性の点から、接合されているのが好ましい。板材と繊維状吸音層とハニカム構造体との層間が接合されていると、建築の内装材として適当な機械的強度(圧縮強度、曲げ強度など)を有するため、表面部材の厚みを数mm程度以下に調整でき、吸音パネルを軽量且つ安価に製造できる。
【0092】
層間の接合方法としては、接着剤又は粘着剤を用いる方法であってもよく、固定具を用いる方法であってもよい。
【0093】
接着剤又は粘着剤を用いる方法において、接着剤又は粘着剤は、材質に応じて、慣用の接着剤又は粘着剤の中から選択できる。接着剤としては、デンプンやカゼインなどの天然高分子系接着剤、ポリ酢酸ビニルなどのビニル系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤などの熱可塑性樹脂系接着剤、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂系接着剤などが挙げられる。粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤などの熱可塑性樹脂系粘着剤などが挙げられる。接着剤及び粘着剤は、補強層の種類に応じて、異なる種類の接着剤又は粘着剤を使用してもよい。本発明では、繊維系吸音層は、繊維構造を有しているため、接着剤や粘着剤が繊維構造に含浸するとともに、接着力の低下の原因となる空気が繊維構造を通して外部に放出されるため、高い密着力を実現できる。接着材又は粘着剤は、層間の全面に塗布してもよく、層間の一部に塗布してもよい。
【0094】
固定具を用いる方法としては、釘やホッチキス針などのステープル、ビス、ボルトなどを用いて部分的に固定化する方法、粘着テープを用いる方法、面ファスナーを用いる方法などが挙げられる。
【0095】
これらの固定方法のうち、軽量性及び生産性などの点から、接着剤又は粘着剤を用いた接合方法、ステープルを用いる方法が好ましい。
【0096】
本発明の吸音パネルを用いると、優れた吸音性能、特に、低周波数域における優れた吸音性能を実現できる。具体的には、本発明の構造パネルは、音として感知できる周波数の範囲(10〜20000Hz程度)に対して吸音性を示し、通常、100〜10000Hz程度の周波数を有する音に対して用いられる。特に、本発明の吸音パネルは、低周波域、例えば、200〜5000Hz、好ましくは300〜3000Hz、さらに好ましくは350〜2000Hz(特に400〜1500Hz)の周波数の音に対しても効果的である。
【実施例】
【0097】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。実施例における各物性値は、以下に示す方法により測定した。なお、実施例中の「部」及び「%」はことわりのない限り、質量基準である。
【0098】
(1)目付(g/m
2)
JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
【0099】
(2)厚み(mm)、見掛け密度(g/cm
3)
JISL 1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて厚さを測定し、この値と目付けの値とから見かけ密度を算出した。
【0100】
(3)通気度
JIS L1096に準じ、フラジール形法にて測定した。
【0101】
(4)曲げ応力
JIS K7017に記載の方法のうちA法(3点曲げ法)に準じて測定した。このとき、測定サンプルは25mm幅×80mm長のサンプルを用い、支点間距離を50mmとし、試験速度を2mm/分として測定を行った。本発明では、この測定結果チャートにおける最大応力(ピーク応力)を最大曲げ応力とした。なお、曲げ応力の測定は、MD方向及びCD方向について測定した。ここで、MD方向とは、測定サンプルの長辺に対しウェブ流れ方向(MD)が平行となるように測定サンプルを採取した状態をいい、一方、CD方向とは、測定サンプルの長辺に対しウェブ幅方向(CD)が平行となるように測定サンプルを採取した状態をいう。
【0102】
(5)1.5倍変位応力
曲げ応力の測定において、最大曲げ応力(曲げピーク応力)を示す曲げ量(変位)を超え、さらにその変位の1.5倍の変位まで曲げつづけた時の応力を、1.5倍変位応力とした。
【0103】
(6)繊維接着率
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、構造体断面を100倍に拡大した写真を撮影した。撮影した構造体の厚み方向における断面写真を厚み方向に三等分し、三等分した各領域(表面、内部(中央)、裏面)において、そこに見出せる繊維切断面(繊維端面)の数に対して繊維同士が接着している切断面の数の割合を求めた。各領域に見出せる全繊維断面数のうち、2本以上の繊維が接着した状態の断面の数の占める割合を以下の式に基づいて百分率で表わした。なお、繊維同士が接触する部分には、融着することなく単に接触している部分と、融着により接着している部分とがある。但し、顕微鏡撮影のために構造体を切断することにより、構造体の切断面においては、各繊維が有する応力によって、単に接触している繊維同士は分離する。従って、断面写真において、接触している繊維同士は、接着していると判断できる。
【0104】
繊維接着率(%)=(2本以上接着した繊維の断面数)/(全繊維断面数)×100
但し、各写真について、断面の見える繊維は全て計数し、繊維断面数100以下の場合は、観察する写真を追加して全繊維断面数が100を超えるようにした。なお、三等分した各領域についてそれぞれ繊維接着率を求め、その最大値に対する最小値の割合(最小値/最大値)も併せて求めた。
【0105】
(7)残響室法吸音率
床面積33.5m
2、容積251.3m
3、表面積237.4m
2であり、不整形7面体の残響室において、残響室法吸音率を測定して、吸音パネルの吸音特性を評価した。具体的には、この残響室の床中央部に1m×1mサイズの吸音パネルを載置し、音響計測システム(ブリュエル・ケアー社製「PULSE3560」)を用いて残響室法吸音率を測定した。なお、この残響室の残響時間は、1kHzに対して約8秒であった。
【0106】
[実施例に用いた構成部材]
(フェイスパネル1)
50cm×50cmサイズで、5.5mm厚みのシナ合板(札鶴ベニヤ(株)製)に、
図7に示すように、正方形状の開口部7a(42cm×42cm)を形成した。開口部の平均面積は1764m
2であり、開口率は70.6%であった。
【0107】
(フェイスパネル2)
50cm×50cmサイズで、5.5mm厚みのシナ合板(札鶴ベニヤ(株)製)に、
図8に示すように、2つの長方形状開口部8a(42cm×12cm)と1つの長方形状開口部8b(42cm×10cm)とを形成した。開口部の平均面積は476m
2であり、開口率は57.1%であった。
【0108】
(フェイスパネル3)
50cm×50cmサイズで、5.5mm厚みのシナ合板(札鶴ベニヤ(株)製)に、
図9に示すように、2つの長方形状開口部9a(42cm×6.4cm)と3つの長方形状開口部9b(42cm×4.4cm)とを形成した。開口部の平均面積は218m
2であり、開口率は43.7%であった。
【0109】
(フェイスパネル4)
50cm×50cmサイズで、5.5mm厚みのシナ合板(札鶴ベニヤ(株)製)に、
図10に示すように、2つの長方形状開口部10a(42cm×10cm)と1つの長方形状開口部10b(42cm×6cm)とを形成した。開口部の平均面積は364m
2であり、開口率は43.7%であった。
【0110】
(フェイスパネル5)
50cm×50cmサイズで、5.5mm厚みのシナ合板(札鶴ベニヤ(株)製)に、
図11に示すように、3つの長方形状開口部11a(34cm×6cm)を形成した。開口部の平均面積は204m
2であり、開口率は24.5%であった。
【0111】
(フェイルパネル6)
50cm×50cmサイズで、厚み12mmのシナ合板(札鶴ベニヤ(株)製)を用いて、
図9に示すように開口部を形成した。
【0112】
(フェイルパネル7)
50cm×50cmサイズで、厚み5mmのアクリル樹脂板(住友アクリル販売(株)製「スミペックスE000」)を用いて、
図9に示すように開口部を形成した。
【0113】
(フェイルパネル8)
50cm×50cmサイズで、5.5mm厚みのシナ合板(札鶴ベニヤ(株)製)に開口部を形成せず、そのまま使用した。
【0114】
(不織繊維吸音層1)
湿熱接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量44モル%、鹸化度98.4モル%)である芯鞘型複合ステープル繊維((株)クラレ製、「ソフィスタ」、繊度3dtex、繊維長51mm、芯鞘質量比=50/50、捲縮数21個/25mm、捲縮率13.5%)を準備した。
【0115】
この芯鞘型複合ステープル繊維を用いて、カード法により目付約100g/m
2のカードウェブを作製し、目的の目付に合わせて、このウェブを積層し、合計目付556g/m
2のカードウェブとした。
【0116】
このカードウェブを、50メッシュ、幅500mmのステンレス製エンドレス金網を装備したベルトコンベアに移送した。尚、このベルトコンベアの金網の上部には同じ金網を有するベルトコンベアが装備されており、それぞれが同じ速度で同方向に回転し、これら両金網の間隔を任意に調整可能なベルトコンベアを使用した。
【0117】
次いで、下側のベルトコンベアに備えられた水蒸気噴射装置ヘカードウェブを導入し、この装置から0.4MPaの高温水蒸気をカードウェブの厚み方向に向けて通過するように(垂直に)噴出して水蒸気処理を施した後、120℃の熱風により1分間乾燥し、不織繊維構造を有する成形体を得た。この水蒸気噴射装置は、下側のコンベア内に、コンベアネットを介して高温水蒸気をウェブに向かって吹き付けるようにノズルが設置され、上側のコンベアにサクション装置が設置されていた。また、この噴射装置のウェブ進行方向における下流側には、ノズルとサクション装置との配置が逆転した組合せである噴射装置がもう一台設置されており、ウェブの表裏両面に対して蒸気処理を施した。
【0118】
なお、水蒸気噴射ノズルの孔径は0.3mmであり、ノズルがコンベアの幅方向に沿って1mmピッチで1列に並べられた蒸気噴射装置を使用した。加工速度は3m/分であり、ノズル側とサクション側の上下コンベアベルト間の間隔(距離)を、厚み8mmの構造体が得られるように調整した。ノズルはコンベアベルトの裏側にベルトとほぼ接するように配置した。
【0119】
得られた不織繊維構造体(成形体)は、ボード状の形態を有し、一般的な不織布に比べて非常に硬質であった。また、曲げ応力ピークを超えても破壊せず、極端な応力の低下もなかった。さらに、形態保持性試験を行っても形状の変化はなく、質量も減少せず、きわめて良好な結果が得られた。得られた不織繊維構造体の特性を表1に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
この不織繊維構造体を、100cm×100cmに切断加工し、不織繊維吸音層1を作製した。
【0122】
(不織繊維吸音層2)
不織繊維吸音層1の不織繊維構造体の製造例において、1112g/m
2のカードウェブを用いて、上下コンベアベルト間の間隔を調整することにより、厚み10.8mmの不織繊維構造体を製造した。得られた不織繊維構造体の特性を表2に示す。
【0123】
【表2】
【0124】
この不織繊維構造体を、100cm×100cmに切断加工し、不織繊維吸音層2を作製した。
【0125】
(不織繊維吸音層3)
不織繊維吸音層1の不織繊維構造体の製造例において、1504g/m
2のカードウェブを用いて、上下コンベアベルト間の間隔を調整することにより、厚み9.7mmの不織繊維構造体を製造した。得られた不織繊維構造体の特性を表3に示す。
【0126】
【表3】
【0127】
この不織繊維構造体を、100cm×100cmに切断加工し、不織繊維吸音層3を作製した。
【0128】
(ハニカム構造体)
ハニカム構造体として、セル形状が波形で、セルサイズ(平均径)5mmである板状ペーパーハニカム構造体(ナゴヤ芯材工業(株)製、製品番号「NB NKN」、厚み20mm)を、100cm×100cmに切断して使用した。
【0129】
[実験例1]
実験例1として、ハニカム構造体の両面に不織繊維吸音層を積層したパネルに対して、下記の
参考例1及び実施例
2〜5に示すように、開口部の大きさや形状が異なるフェイスパネル(有孔板材)を積層し、フェイスパネルの開口部による影響を調べた。
【0130】
(
参考例1)
ハニカム構造体の両面に、不織繊維吸音層1(密度0.103g/cm
3、厚み5.4mm)を接着剤(コニシ(株)製「ボンドCH18」)を用いて貼り合わせた。一方の面の不織繊維吸音層1の上に、さらにフェイスパネル1(
図7、開口部平均面積1764cm
2、開口率70.6%、厚み5mm)を4枚並べて積層し、接着剤(コニシ(株)製「ボンドCH18」)を用いて貼り合わせ、吸音パネルを作製した。
【0131】
(実施例2)
フェイスパネル1の代わりにフェイスパネル2(
図8、開口部平均面積476cm
2、開口率57.1%、厚み5mm)を用いる以外は
参考例1と同様にして吸音パネルを作製した。
【0132】
(実施例3)
フェイスパネル1の代わりにフェイスパネル3(
図9、開口部平均面積218cm
2、開口率43.7%、厚み5mm)を用いる以外は
参考例1と同様にして吸音パネルを作製した。
【0133】
(実施例4)
フェイスパネル1の代わりにフェイスパネル4(
図10、開口部平均面積364cm
2、開口率43.7%、厚み5mm)を用いる以外は
参考例1と同様にして吸音パネルを作製した。
【0134】
(実施例5)
フェイスパネル1の代わりにフェイスパネル5(
図11、開口部平均面積204cm
2、開口率24.5%、厚み5mm)を用いる以外は
参考例1と同様にして吸音パネルを作製した。
【0135】
参考例1及び実施例
2〜5で得られた吸音パネルについて、残響室法吸音率を測定した結果を
図12に示す。
図12の結果から明らかなように、いずれの実施例の吸音パネルも低周波から高周波の広い範囲に亘り、優れた吸音性能を示す。
【0136】
[実験例2]
実験例2として、ハニカム構造体の両面に不織繊維吸音層を積層したパネルに対して、下記の実施例6及び7に示すように、厚み又は材質が異なるフェイスパネルを積層し、フェイスパネルの厚みや材質による影響を調べた。
【0137】
(実施例6)
フェイスパネル1の代わりにフェイスパネル6(
図9、厚み12mm)を用いる以外は
参考例1と同様にして吸音パネルを作製した。
【0138】
(実施例7)
フェイスパネル1の代わりにフェイスパネル7(
図9、アクリル樹脂板)を用いる以外は
参考例1と同様にして吸音パネルを作製した。
【0139】
実施例6及び7で得られた吸音パネルについて、残響室法吸音率を測定した結果を
図13に示す。なお、
図13には、比較のために実施例3の結果も示す。
図13の結果から明らかなように、フェイスパネルの厚みを大きくした実施例6の吸音パネルは、実施例3の吸音パネルと同等の吸音性を示し、アクリル樹脂板を用いた実施例のパネルは、高周波域の吸音性が若干低下した。
【0140】
[実験例3]
実験例3として、下記の実施例8及び9に示すように、ハニカム構造体の片面に、密度の異なる不織繊維吸音層を積層したパネルに、フェイスパネルを積層し、不織繊維吸音層の積層構造や厚み、密度による影響を調べた。
【0141】
(実施例8)
ハニカム構造体の片面に、不織繊維吸音層2(密度0.103g/cm
3、厚み10.8mm)を接着剤(コニシ(株)製「ボンドCH18」)を用いて貼り合わせた。不織繊維吸音層2の上に、さらにフェイスパネル3(
図9)を4枚並べて積層し、接着剤(コニシ(株)製「ボンドCH18」)を用いて貼り合わせ、吸音パネルを作製した。
【0142】
(実施例9)
不織繊維吸音層2の代わりに不織繊維吸音層3(密度0.155g/cm
3、厚み9.7mm)を用いる以外は実施例8と同様にして吸音パネルを作製した。
【0143】
実施例8及び9で得られた吸音パネルについて、残響室法吸音率を測定した結果を
図14に示す。なお、
図14には、比較のために実施例3の結果も示す。
図14の結果から明らかなように、大きな厚みで不織繊維吸音層を片面に形成した実施例8の吸音パネルは、約半分の厚みで不織繊維吸音層を両面に形成した実施例3の吸音パネルに比べて、1000Hz以下の低周波域での吸音性が向上し、かつ2500Hz以上の高周波域での吸音性も向上した。さらに、大きな厚みで大密度の不織繊維吸音層を片面に形成した実施例9の吸音パネルは、約半分の厚みで小密度の不織繊維吸音層を両面に形成した実施例3の吸音パネルに比べて、低周波域での吸音性が若干低下したが、かつ高周波域での吸音性は向上した。
【0144】
[実験例4]
実験例4として、下記の比較例1〜6に示すように、フェイスパネル又は開口部による影響や、各部材単独の効果などを調べた。
【0145】
(比較例1)
フェイスパネル1の代わりにフェイスパネル8(開口部なし)を用いる以外は
参考例1と同様にして吸音パネルを作製した。
【0146】
(比較例2)
ハニカム構造体の両面に、不織繊維吸音層1(密度0.103g/cm
3、厚み5.4mm)を接着剤(コニシ(株)製「ボンドCH18」)を用いて貼り合わせ、吸音パネルを作製した。
【0147】
(比較例3)
ハニカム構造体の片面に、不織繊維吸音層3(0.155g/cm
3、厚み9.7mm)を接着剤(コニシ(株)製「ボンドCH18」)を用いて貼り合わせ、吸音パネルを作製した。
【0148】
(比較例4)
ハニカム構造体を単独で吸音パネルとして用いた。
【0149】
(比較例5)
不織繊維吸音層2(密度0.103g/cm
3、厚み10.8mm)を単独で吸音パネルとして用いた。
【0150】
(比較例6)
グラスウール(密度0.032g/cm
3、厚み10.8mm)を単独で吸音パネルとして用いた。
【0151】
比較例1〜6で得られた吸音パネルについて、残響室法吸音率を測定した結果を
図15に示す。
図15の結果から明らかなように、いずれのパネルでも、吸音性は低下し、特に、低周波域で高い吸音性を示すパネルはなかった。
【0152】
さらに、実施例及び比較例で得られた吸音パネルの500Hzでの残響室法吸音率の値を表4に示す。
【0153】
【表4】
【0154】
表4の結果から明らかなように、比較例の吸音パネルに比べて実施例の吸音パネルは、低周波域の500Hzにおいて、高い吸音性を示している。