特許第5957780号(P5957780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5957780
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】電池廃材の廃棄処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20160714BHJP
【FI】
   H01M10/54
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2011-268776(P2011-268776)
(22)【出願日】2011年12月8日
(65)【公開番号】特開2013-120709(P2013-120709A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100148884
【弁理士】
【氏名又は名称】▲廣▼保 直純
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】島野 哲
【審査官】 稲葉 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−206132(JP,A)
【文献】 特開2001−131647(JP,A)
【文献】 特開2002−198104(JP,A)
【文献】 特開2010−34021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目開き10mmのメッシュを通過する形状の電池廃材にアルカリ金属化合物を添加する添加工程と、前記電池廃材と前記アルカリ金属化合物との混合物を加熱する加熱工程と、を含み、
前記アルカリ金属化合物がアルカリ性のアルカリ金属化合物と、酸化性のアルカリ金属化合物と、の混合物であることを特徴とする電池廃材の廃棄処理方法。
【請求項2】
前記電池廃材を、目開き10mmのメッシュを通過する形状にする破砕工程を含む、請求項1に記載の電池廃材の廃棄処理方法。
【請求項3】
前記電池廃材が炭素材料を含有する、請求項1または2に記載の電池廃材の廃棄処理方法。
【請求項4】
前記炭素材料として黒鉛を含む、請求項3に記載の電池廃材の廃棄処理方法。
【請求項5】
前記炭素材料の比表面積が0.1〜20m/gである、請求項3または4に記載の電
池廃材の廃棄処理方法。
【請求項6】
前記加熱工程における保持温度が前記アルカリ金属化合物の溶融開始温度よりも100℃低い温度以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電池廃材の廃棄処理方法。
【請求項7】
前記加熱工程における保持温度が前記アルカリ金属化合物の溶融温度以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電池廃材の廃棄処理方法。
【請求項8】
前記酸化性のアルカリ金属化合物が、アルカリ金属の過酸化物、アルカリ金属の超酸化物、アルカリ金属の硝酸塩、アルカリ金属の塩酸塩、アルカリ金属のバナジウム酸塩およびアルカリ金属のモリブデン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1から7のいずれか1項に記載の電池廃材の廃棄処理方法。
【請求項9】
前記アルカリ性のアルカリ金属化合物が、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ金属の酸化物およびアルカリ金属の超酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1から8のいずれか1項に記載の電池廃材の廃棄処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池廃材の廃棄処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、従来の二次電池と比較して作動電圧が高く、充放電サイクルが優れ、エネルギー密度が高いことから、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの通信・情報機器の電源としての使用が急速に拡大し、さらに、自動車の動力源となる大型二次電池としての利用が拡大している。
【0003】
電池の活物質には、コバルト、ニッケル、マンガン、リチウムなどの希少金属成分が含有されており、特に、非水電解質二次電池の正極活物質には、上記の希少金属成分を主成分とする化合物が使用されている。また、負極の集電体には、銅が使用されている。希少金属成分の資源を保全するために、二次電池の電池廃材から、希少金属成分を回収する方法が求められている。
【0004】
一般的に、廃リチウムイオン二次電池を焙焼工程(例えば、特許文献1参照)や浸出工程(例えば、特許文献2参照)などによって処理する方法が提案されている。
リチウムイオン二次電池を構成する部材としては、主に、正極、負極、セパレータ、電解液などが用いられる。電池の内部では、正極と負極がセパレータを挟んで対向して設置され、これらの部材に電解液が浸透した形で、筐体内に収容されている。
【0005】
正極は、正極活物質と、炭素材料からなる導電材と、ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVdF」と言うことがある。)などのフッ素含有樹脂からなるバインダーとの混合物がアルミニウム箔集電体に塗布された構造をなしている。
負極は、炭素材料からなる負極活物質と、スチレンブタジエン共重合体(以下、「SBR」と言うことがある。)などの樹脂からなるバインダーとの混合物が銅集電体に塗布された構造をなしている。
セパレータは、多孔性のポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂から構成されている。
電解液は、エチレンカーボネートなどの有機炭酸塩の溶媒に、電解質であるリチウム塩を溶解した溶液である。
【0006】
電池から希少金属成分をリサイクルするには、コバルト、ニッケル、マンガン、リチウムなどの希少金属成分を含む活物質や銅箔を、電池廃材から分離する必要がある。電池廃材には、リサイクルが困難な燃焼性物質が含まれている。燃焼性物質としては、負極活物質や集電材に含まれる炭素材料、バインダーやセパレータに含まれる樹脂が挙げられる。希少金属成分のリサイクルでは、希少金属成分から燃焼性物質である炭素材料や樹脂を分離すること、および、燃焼性物質である炭素材料や樹脂を廃棄処理することが求められている。燃焼性物質の処理方法としては、燃焼性物質を焼却処理する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
しかしながら、負極活物質や導電材として使用される炭素材料、または、バインダーやセパレータとして使用される樹脂の焼却において、処理速度を高めるためには、高い温度が要求される。ただし、高い温度による廃棄処理には、加熱に多大なエネルギーを消費するという欠点や、焼却炉の劣化を早めるという欠点がある。
特に、電池廃材に炭素材料が含まれる場合には、処理速度が遅く、処理には高い温度が要求される。また、炭素材料が黒鉛である場合には、さらに処理速度が遅くなり、処理にはさらに高い温度が要求される。
そのため、電池廃材の廃棄処理では、比較的低温で処理でき、高い処理速度が得られる電池廃材の廃棄処理方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3257954号公報
【特許文献2】特許第3676926号公報
【特許文献3】特許第4491085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電池廃材を低い温度で処理でき、高い処理速度が得られる電池廃材の廃棄処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の電池廃材の廃棄処理方法は、目開き10mmのメッシュを通過する形状の電池廃材にアルカリ金属化合物を添加する添加工程と、前記電池廃材と前記アルカリ金属化合物との混合物を加熱する加熱工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の電池廃材の廃棄処理方法において、前記電池廃材を、目開き10mmのメッシュを通過する形状にする破砕工程を含んでいてもよい。
【0012】
本発明の電池廃材の廃棄処理方法において、前記電池廃材が炭素材料を含有していてもよい。
【0013】
本発明の電池廃材の廃棄処理方法において、前記炭素材料として黒鉛を含んでいてもよい。
【0014】
本発明の電池廃材の廃棄処理方法において、前記炭素材料の比表面積が0.1〜20m/gであることが好ましい。
【0015】
本発明の電池廃材の廃棄処理方法において、前記加熱工程における保持温度が前記アルカリ金属化合物の溶融開始温度よりも100℃低い温度以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の電池廃材の廃棄処理方法において、前記加熱工程における保持温度が前記アルカリ金属化合物の溶融温度以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の電池廃材の廃棄処理方法において、前記アルカリ金属化合物が、前記加熱工程における保持温度において、前記炭素材料を酸化分解する酸化力を有する酸化性のアルカリ金属化合物であることが好ましい。
【0018】
本発明の電池廃材の廃棄処理方法において、前記酸化性のアルカリ金属化合物が、アルカリ金属の過酸化物、アルカリ金属の超酸化物、アルカリ金属の硝酸塩、アルカリ金属の塩酸塩、アルカリ金属のバナジウム酸塩およびアルカリ金属のモリブデン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
本発明の電池廃材の廃棄処理方法において、前記アルカリ金属化合物が水に溶解させた場合にアルカリ性であることが好ましい。
【0020】
本発明の電池廃材の廃棄処理方法において、前記アルカリ性のアルカリ金属化合物が、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ金属の酸化物およびアルカリ金属の超酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電池廃材の廃棄処理方法によれば、電池廃材を従来よりも低い温度で処理できる上に、高い処理速度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】炭素を酸化するために必要な酸化力と、アルカリ金属化合物(ナトリウム化合物)が有する酸化力との関係を示す酸素ポテンシャル(log[P(O)]の温度依存性を示す図である。
図2】炭素を酸化するために必要な酸化力と、アルカリ金属化合物(過酸化物、超酸化物)が有する酸化力との関係を示す酸素ポテンシャル(log[P(O)]の温度依存性を示す図である。
図3】炭素を酸化するために必要な酸化力と、アルカリ金属化合物(硫酸塩)が有する酸化力との関係を示す酸素ポテンシャル(log[P(O)]の温度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の電池廃材の廃棄処理方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0024】
本発明の電池廃材の廃棄処理方法は、添加工程と、加熱工程と、を含む方法である。
【0025】
<添加工程>
添加工程は、目開き10mmのメッシュを通過する形状の電池廃材に、アルカリ金属化合物を添加する工程である。
【0026】
「電池廃材とアルカリ金属化合物との混合」
添加工程では、電池廃材にアルカリ金属化合物を添加した後、これらを混合することが好ましい。
【0027】
(混合)
電池廃材とアルカリ金属化合物を混合する方式は、乾式混合または湿式混合のいずれであってもよく、また、これらの組み合わせであってもよい。乾式混合と湿式混合を行う順序は、特に限定されない。
電池廃材とアルカリ金属化合物を混合する際には、ボールなどの混合メディアを備えた混合装置を用いて、電池廃材とアルカリ金属化合物を粉砕、混合する工程を経ることが好ましい。これにより、電池廃材とアルカリ金属化合物の混合効率を向上させることができる。
【0028】
より簡便に電池廃材とアルカリ金属化合物を混合することができる点から、乾式混合が好ましい。乾式混合では、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、攪拌翼を内部に備えた粉体混合機、ボールミル、振動ミル、または、これらの装置を組み合わせて用いることができる。
予め、比較的大きな電池廃材を破砕や裁断する工程を施して、電池廃材を目開き10mmのメッシュを通過する形状にまで細かくすることにより、電池廃材とアルカリ金属化合物を効率的に混合することができる。これにより、電池廃材にアルカリ金属化合物を添加することにより得られる効果である、高い処理速度を実現できる。
【0029】
「電池廃材」
本発明において、「電池廃材」とは、電池を廃棄する過程や電池を製造する過程で発生する廃棄物であり、空気中で加熱することによって酸化分解される燃焼性物質を含むものである。
電池廃材としては、例えば、使用済みの電池や規格外品の電池およびその解体により発生する電池の構成部材である正極、負極、セパレータ、電解液およびこれらの構成材料のいずれかを含む電池部材、電池の作製工程で発生する電極の端部や余分な電極合材、電池の作製に適さない規格外品の電極や電極合材などが挙げられる。
本発明では、電極やセパレータなどの比較的大きな電池廃材に対して、予め、破砕、裁断、粉砕などの、これらの電池廃材を細かくする破砕工程を施して、目開き10mmのメッシュを通過する形状にまで細かくされた電池廃材を用いる。
【0030】
(燃焼性物質)
燃焼性物質とは、空気中で加熱することによって酸化分解される物質である。
電池廃材に含まれる燃焼性物質としては、例えば、負極や導電材を構成する炭素材料、バインダーやセパレータを構成する樹脂などが挙げられる。
【0031】
(炭素材料)
電池廃材に含まれる炭素材料としては、具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)、熱分解炭素類、繊維状炭素材料(例えば、黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブ)および有機高分子化合物焼成体が挙げられる。なお、電池廃材に含まれる炭素材料は、単一の炭素材料であってもよいし、複数の炭素材料から構成されていてもよい。
【0032】
燃焼性物質のなかでも、処理速度が遅く、処理において高い温度が要求されるのは、炭素材料である。炭素材料は、負極活物質や導電材として電池廃材に含まれる。本発明は、燃焼性物質として炭素材料が含まれる場合において、処理温度を低下させる効果や処理速度を高める効果を発揮できる。
【0033】
特に、炭素材料のなかでも、黒鉛の処理に際しては、処理速度が遅く、高い処理温度が要求される。黒鉛は、負極活物質や導電材として電池廃材に含まれる。本発明では、燃焼性物質として黒鉛が含まれる場合において、処理温度を低下させる効果や処理速度を高める効果を発揮できる。
【0034】
本発明が適用される炭素材料の比表面積は、通常、0.01〜2000m/gである。本発明は、比表面積が0.1〜20m/gである炭素材料に好ましく適用できる。
本発明において、比表面積は、窒素ガスを用いるBET比表面積として測定される。
本発明では、炭素材料の粒子径は特に制限されない。通常、電池廃材に含まれる炭素材料の粒子径は、0.001〜100μm程度である。なお、炭素材料の一次粒子の粒径は、電子顕微鏡写真により測定できる。
また、後述するアルカリ性のアルカリ金属化合物や酸化性のアルカリ金属化合物を用いることにより、炭素材料の処理速度を高めることができる。さらに、比表面積の小さい炭素材料であっても、酸化処理することができる。
【0035】
(樹脂)
電池廃材に含まれる樹脂の一例としては、バインダーとして使用される熱可塑性樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と言うことがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体および四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;スチレン−ブタジエン共重合体(以下、「SBR」と言うことがある。);が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種または2種以上が組み合わされて用いられる。
【0036】
また、電池廃材に含まれる他の樹脂としては、例えば、セパレータとして使用されるポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料が挙げられる。これらの材料は、1種または2種以上が組み合わされて用いられる。
【0037】
「アルカリ金属化合物」
アルカリ金属化合物は、1種または2種以上の化合物から構成されている。
アルカリ金属化合物は、電池廃材に含まれる燃焼性物質と接触することで、処理速度を向上させることができる。特に、溶融部分を含むアルカリ金属化合物が活物質に接触することで処理速度を向上する効果が高まる。
さらに、アルカリ金属化合物は、電池廃材に含まれる結着材や電解液に由来するフッ素を含む化合物と接触することにより、フッ素成分をアルカリ金属フッ化物として安定化し、フッ化水素などの腐食性ガスが発生することを防止する役割を果たす。
【0038】
アルカリ金属化合物の添加量は、アルカリ金属化合物の割合が、燃焼性物質の重量に対して、0.001〜100倍であることが好ましく、より好ましくは0.05〜1倍である。
アルカリ金属化合物の添加量を適切に制御することにより、電池廃材の廃棄処理にかかる費用を低減できるとともに、可燃性物質の処理速度を高めることができる。また、フッ化水素などの腐食性ガスが発生することを防止する役割を果たすことができる。
【0039】
さらに、電池廃材には、アルカリ金属化合物に加えて、アルカリ金属化合物以外の化合物を添加してもよい。
アルカリ金属化合物以外の化合物としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属元素を含有するアルカリ土類金属化合物が挙げられる。
アルカリ土類金属化合物は、電池廃材とアルカリ金属化合物との混合物の溶融開始温度を制御するためやフッ化水素などの腐食性ガスが発生することを防止するために、アルカリ金属化合物とともに電池廃材に混合される。
【0040】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のホウ酸塩、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の過酸化物、アルカリ金属の超酸化物、アルカリ金属の硝酸塩、アルカリ金属のリン酸塩、アルカリ金属の硫酸塩、アルカリ金属の塩化物、アルカリ金属のバナジウム酸塩、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属のモリブデン酸塩、アルカリ金属のタングステン酸塩などが挙げられる。これらの化合物は、電池廃材に混合されるアルカリ金属化合物の成分として、1種または2種以上が組み合わされて用いられる。
アルカリ金属化合物を構成するアルカリ金属元素としては、アルカリ金属元素であれば特に限定されるものではないが、リチウム、ナトリウムおよびカリウムが好ましい。なお、活性化処理剤の成分として、2種以上のアルカリ金属化合物が含まれる場合、異なるアルカリ金属元素を含むアルカリ金属化合物であってもよい。
【0041】
好適なアルカリ金属化合物の具体例としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOHなどの水酸化物;LiBO、NaBO、KBO、RbBO、CsBOなどのホウ酸化物;LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCOなどの炭酸塩;LiO、NaO、KO、RbO、CsOなどの酸化物;Li、Na、K、Rb、Csなどの過酸化物;LiO、NaO、KO、RbO、CsOなどの超酸化物;LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNOなどの硝酸塩;LiPO、NaPO、KPO、RbPO、CsPOなどのリン酸塩;LiSO、NaSO、KSO、RbSO、CsSOなどの硫酸塩;LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsClなどの塩化物;LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBrなどの臭化物;LiVO、NaVO、KVO、RbVO、CsVOなどのバナジウム酸塩;LiMoO、NaMoO、KMoO、RbMoO、CsMoOなどのモリブデン酸塩;LiWO、NaWO、KWO、RbWO、CsWOなどのタングステン酸塩;が挙げられる。
【0042】
(酸化性のアルカリ金属化合物)
電池廃材に炭素材料が含まれる場合には、電池廃材に添加されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、加熱工程の保持温度において、炭素材料を酸化分解する酸化力を有するアルカリ金属化合物(以下、「酸化性のアルカリ金属化合物」と言うことがある。)を含有することが好ましい。
このような酸化性のアルカリ金属化合物を用いることにより、炭素材料が二酸化炭素へと酸化分解する処理速度を向上させることができる。
【0043】
炭素材料を二酸化炭素へと酸化分解するために必要な酸化力を有するアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の過酸化物、アルカリ金属の超酸化物、アルカリ金属の硝酸塩、アルカリ金属の硫酸塩、アルカリ金属のバナジウム酸塩、アルカリ金属のモリブデン酸塩などが挙げられる。これらの化合物は、1種または2種以上が組み合わされて用いられる。
【0044】
好適な酸化性のアルカリ金属化合物の具体例としては、Li、Na、K、Rb、Csなどの過酸化物;LiO、NaO、KO、RbO、CsOなどの超酸化物;LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNOなどの硝酸塩;LiSO、NaSO、KSO、RbSO、CsSOなどの硫酸塩;LiVO、NaVO、KVO、RbVO、CsVOなどのバナジウム酸塩;LiMoO、NaMoO、KMoO、RbMoO、CsMoOなどのモリブデン酸塩;などが挙げられる。
【0045】
炭素材料である導電材を二酸化炭素へと酸化分解するための酸化力と、活性化処理剤が有する酸化力とは、酸素ポテンシャル(log[P(O)])を用いて推定できる。
以下、これらの関係について理論を示す。
【0046】
(i)炭素材料を酸化させるために必要な酸化力
炭素を二酸化炭素へと酸化させるために必要な酸化力を説明する。
炭素を二酸化炭素へと酸化する平衡(a)は、次のように考えられる。
【0047】
【数1】
【0048】
平衡(a)の平衡定数(Keq(a))には、下記式(1)の関係がある。
【0049】
【数2】
【0050】
また、平衡(a)の酸素ポテンシャル(log[P(O)])は、下記式(2)のように与えられる。
【0051】
【数3】
【0052】
ここで、上記式(2)の右辺の第1項である、
【0053】
【数4】
【0054】
は、酸化還元系に特有の酸素ポテンシャルを表し、上記式(2)の右辺の第2項である、
【0055】
【数5】
【0056】
は、その酸化還元系に関与する物質の濃度による酸素ポテンシャルの変化を表す。
各種の酸化還元系の酸素ポテンシャル(log[P(O)])を比較する上では、上記式(2)の右辺第1項である、
【0057】
【数6】
【0058】
は、上記式(2)の右辺第2項である、
【0059】
【数7】
【0060】
よりも大きく変化するため、酸素ポテンシャル(log[P(O)])の変化に与える影響が大きい。そこで、平衡(a)の酸素ポテンシャル(log[P(O)])を上記式(2)の右辺第1項のlog[Keq(a)]のみで表す。
すなわち、平衡(a)の酸素ポテンシャル(log[P(O)])は、下記式(3)で与えられる。
【0061】
【数8】
【0062】
ここで、log[Keq(a)]は、下記式(4)により、所定の温度T[℃]における反応の自由エネルギー変化ΔrG°[J/mol]により計算される。
【0063】
【数9】
【0064】
ここで、Rは気体定数(8.314[J/(K/mol)]である。
自由エネルギー変化ΔrG°[J/mol]は、反応に関与する物資の所定の温度における生成自由エネルギーΔfG°により計算される。平衡(a)においては、下記式(5)のように計算される。
【0065】
【数10】
【0066】
上記式(5)における各物質の生成自由エネルギーΔfG°は、熱力学データベースより調べることができる。また、生成自由エネルギーΔfG°は熱力学計算ソフトで計算できる。熱力学データベースおよび熱力学計算ソフトとしては、例えば、MALT2(著作権者:日本熱測定学会、発売元:株式会社科学技術社)を使用できる。
【0067】
(ii)アルカリ金属化合物が有する酸化力
アルカリ金属化合物が有する酸化力の計算例として、NaSOをアルカリ金属化合物として含有する場合について示す。
NaSOをアルカリ金属化合物として含有する場合では、平衡(b)で表されるNaSO/NaSの酸化還元平衡が生ずる。
【0068】
【数11】
【0069】
平衡(b)の平衡定数(Keq(b))には、下記式(6)の関係がある。
【0070】
【数12】
【0071】
NaSO/NaSの酸素ポテンシャル(log[P(O)])は、下記式(7)のように与えられる。
【0072】
【数13】
【0073】
ここで、上記式(7)の右辺第1項である、
【0074】
【数14】
【0075】
は、酸化還元系に特有の酸素ポテンシャル(log[P(O)])を表し、上記式(7)の右辺第2項である、
【0076】
【数15】
【0077】
は、その酸化還元系に関与する物質の濃度による酸素ポテンシャル(log[P(O)])の変化を表す。
各種の酸化還元系に酸素ポテンシャル(log[P(O)])を比較する上では、上記式(7)の右辺第1項である、
【0078】
【数16】
【0079】
は、上記式(7)の右辺第2項である、
【0080】
【数17】
【0081】
よりも大きく変化するため、酸素ポテンシャル(log[P(O)])の変化に与える影響が大きい。そこで、NaSO/NaSの酸化還元平衡の有する酸素ポテンシャル(log[P(O)])を上記式(7)の右辺第1項log[Keq(b)]のみで表す。
すなわち、NaSO/NaSの酸素ポテンシャル(log[P(O)])は、下記式(8)で与えられる。
【0082】
【数18】
【0083】
ここで、log[K(NaSO/NaS)]は、所定の温度T[℃]における反応の自由エネルギー変化ΔrG°[J/mol]により計算される。
【0084】
【数19】
【0085】
ここで、Rは気体定数(8.314[J/(K/mol)])である。
【0086】
【数20】
【0087】
ここで、log[Keq(b)]は、例えば、熱力学データベースソフトMALT2を使用して計算される。
【0088】
アルカリ金属化合物が有する酸化力の計算例として、Naをアルカリ金属化合物として含有する場合について示す。
アルカリ金属化合物として、Naを含有する場合、平衡(c)で表されるNa/NaCOの酸化還元平衡が生ずる。
【0089】
【数21】
【0090】
平衡(c)の平衡定数(Keq(c))には、下記式(11)の関係がある。
【0091】
【数22】
【0092】
Na/NaCOの酸素ポテンシャル(log[P(O)])は、下記式(12)で与えられる。
【0093】
【数23】
【0094】
ここで、上記式(12)の右辺第1項である、
【0095】
【数24】
【0096】
は、酸化還元系に特有の酸素ポテンシャル(log[P(O)])を表し、上記式(12)の右辺第2項と右辺第3項である、
【0097】
【数25】
【0098】
は、その酸化還元系に特有の酸素ポテンシャル(log[P(O)])の変化を表す。
各種の酸化還元系に酸素ポテンシャル(log[P(O)])を比較する上では、上記式(12)の右辺第1項である、
【0099】
【数26】
【0100】
は、上記式(2)の右辺第2項である、
【0101】
【数27】
【0102】
よりも大きく変化するため、酸素ポテンシャル(log[P(O)])の変化に与える影響が大きい。そこで、Na/NaCOの有する酸化還元平衡の酸素ポテンシャル(log[P(O)])を、上記式(12)の右辺第1項log[Keq(c)]のみで表す。
すなわち、Na/NaCOの酸素ポテンシャル(log[P(O)])は、下記式(13)で与えられる。
【0103】
【数28】
【0104】
ここで、log[K(Na/NaCO)]は、所定の温度T[℃]における反応の自由エネルギー変化ΔrG°[J/mol]により計算される。
【0105】
【数29】
【0106】
ここで、Rは気体定数(8.314[J/(K/mol)])である。
【0107】
【数30】
【0108】
【数31】
【0109】
ここで、log[Keq(c)]は、例えば、熱力学データベースソフトMALT2を使用して計算される。
【0110】
炭素材料を二酸化炭素へと酸化分解するために必要な酸化力と、各種アルカリ金属化合物が有する酸化力とを、酸素ポテンシャル(log[P(O)])で示し、その温度依存性を図1〜3に示す。
図1〜3において、各温度における炭素および炭化水素の酸化力は、炭素(C)で示される曲線である。各温度において、炭素(C)で示される曲線よりも酸素ポテンシャル(log[P(O)])が高いときに、炭素および炭化水素を、二酸化炭素と水蒸気へと酸化分解するために必要な酸化力を有することを示す。
【0111】
図1には、炭素および炭化水素を、二酸化炭素と水蒸気へと酸化分解するために必要な酸化力を有するアルカリ金属化合物として、過酸化ナトリウム(Na)、超酸化ナトリウム(NaO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、モリブデン酸ナトリウム(NaMoO)、硫酸ナトリウム(NaSO)、バナジウム酸ナトリウム(NaVO)を示す。これらのアルカリ金属化合物の酸化力を示す酸素ポテンシャル(log[P(O)])は、炭素および炭化水素を、二酸化炭素と水蒸気へと酸化分解するために必要な酸化力を示す酸素ポテンシャル(log[P(O)])よりも高い温度領域がある。
すなわち、過酸化ナトリウム、超酸化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、バナジウム酸ナトリウムおよびモリブデン酸ナトリウムは、炭素を、二酸化炭素へと酸化分解する酸化力を有する。
【0112】
図2には、炭素および炭化水素を、二酸化炭素と水蒸気へと酸化分解するために必要な酸化力を有するアルカリ金属化合物として、過酸化リチウム(Li)、過酸化ナトリウム(Na)、超酸化ナトリウム(NaO)、過酸化カリウム(K)、超酸化カリウム(KO)を示す。これらのアルカリ金属化合物の酸化力を示す酸素ポテンシャル(log[P(O)])は、炭素および炭化水素を、二酸化炭素と水蒸気へと酸化分解するために必要な酸化力を示す酸素ポテンシャル(log[P(O)])よりも高い温度領域がある。
すなわち、アルカリ金属の過酸化物、超酸化物は、炭素を二酸化炭素へと酸化分解する酸化力を有する。
【0113】
図3には、炭素および炭化水素を、二酸化炭素と水蒸気へと酸化分解するために必要な酸化力を有するアルカリ金属化合物として、硫酸リチウム(LiSO)、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)を示す。これらのアルカリ金属化合物の酸化力を示す酸素ポテンシャル(log[P(O)])は、炭素および炭化水素を、二酸化炭素と水蒸気へと酸化分解するために必要な酸化力を示す酸素ポテンシャル(log[P(O)])よりも高い温度領域がある。
すなわち、アルカリ金属の硫酸塩は、炭素を二酸化炭素へと酸化分解する酸化力を有する。
【0114】
(アルカリ性のアルカリ金属化合物)
電池廃材に添加するアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物(以下、「アルカリ性のアルカリ金属化合物」と言うことがある。)であることが好ましい。アルカリ性のアルカリ金属化合物とは、そのアルカリ金属化合物を純水に溶解して溶液を調製したとき、その溶液のpHが7よりも大きくなるアルカリ金属化合物のことである。
本発明において、アルカリ性のアルカリ金属化合物を使用することにより、電池廃材に含まれる炭素材料や樹脂の処理速度を高めることができ、さらに、腐食性ガスの発生を防止する効果を向上させることができる。
【0115】
アルカリ性のアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の過酸化物、アルカリ金属の超酸化物などが挙げられる。これらの化合物は、1種または2種以上が組み合わされて用いられる。
好適なアルカリ性のアルカリ金属化合物の具体例としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOHなどの水酸化物;LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCOなどの炭酸塩;LiO、NaO、KO、RbO、CsOなどの酸化物;Li、Na、K、Rb、Csなどの過酸化物;LiO、NaO、KO、RbO、CsOなどの超酸化物;などが挙げられる。
【0116】
<加熱工程>
加熱工程とは、電池廃材とアルカリ金属化合物との混合物を加熱する工程である。
【0117】
加熱工程では、燃焼性物質が分解される温度まで加熱する。加熱工程において到達する最も高い温度を、電池廃材の処理温度とする。
加熱工程を安定して行うために、燃焼性物質が分解される温度において、一定時間の間、保持することが好ましい。このときの温度を保持温度とし、時間を保持時間とする。
【0118】
「加熱工程の雰囲気」
加熱工程では、電池廃材に含まれる燃焼性物質とアルカリ金属化合物の種類や、電池廃材に含まれる燃焼性物質とアルカリ金属化合物の組み合わせに応じて、最適な雰囲気を設定する。
燃焼性物質の酸化分解を促進する観点から、加熱工程の雰囲気は、空気など、酸素を含む酸化性雰囲気が好ましい。
【0119】
「加熱工程の保持時間」
加熱工程では、電池廃材に含まれる燃焼性物質とアルカリ金属化合物の種類や、電池廃材に含まれる燃焼性物質とアルカリ金属化合物の組み合わせに応じて、最適な保持時間を設定する。保持時間は、通常、1分〜48時間であり、好ましくは10分〜24時間である。
【0120】
「加熱工程の処理温度」
加熱工程では、処理温度は、燃焼性物質が分解される温度であればよい。燃焼性物質が分解される温度は、電池廃材に含まれる燃焼性物質とアルカリ金属化合物の種類や、電池廃材に含まれる燃焼性物質とアルカリ金属化合物の組み合わせにより異なる。通常、処理温度が高い方が、処理速度は向上する。しかし、処理温度が高すぎると、加熱に多量のエネルギーを消費することや、処理設備の劣化を加速することの問題がある。
処理温度の下限は100℃であり、より好ましくは300℃であり、さらに好ましくは500℃である。
一方、処理温度の上限は1500℃であり、より好ましくは1200℃であり、さらに好ましくは1000℃である。
【0121】
加熱工程の保持温度を、電池廃材とアルカリ金属化合物の混合物を加熱したとき、その混合物の一部が液相を呈する最も低い温度以上とすることで、処理反応が加速され、電池廃材とアルカリ金属化合物との接触が大きくなることから、処理速度を向上できる。
電池廃材とアルカリ金属化合物の混合物を加熱したとき、その混合物の一部が液相を呈する最も低い温度は、電池廃材に含まれる燃焼性物質とアルカリ金属化合物の種類や、電池廃材に含まれる燃焼性物質とアルカリ金属化合物の組み合わせにより異なるが、一般にアルカリ金属化合物の溶融開始温度よりも100℃より低い温度まで低下することがある。そのため、加熱工程における保持温度は、アルカリ金属化合物の溶融開始温度よりも100℃低い温度以上であることが好ましく、より好ましくは溶融開始温度よりも50℃低い温度以上である。
【0122】
加熱工程の保持温度を、アルカリ金属化合物の溶融開始温度以上に設定することにより、電池廃材に含まれる燃焼性物質と融解状態のアルカリ金属化合物との接触面積が大きくなることから、処理速度を向上させることができ、処理温度を低温とすることが可能となる。
【0123】
電池廃材に添加するアルカリ金属化合物の種類によって、処理温度は異なる。特に、電池廃材に添加するアルカリ金属化合物の溶融開始温度以上では処理速度が向上することから、処理温度は、アルカリ金属化合物の溶融開始温度以上であることが好ましい。また、処理温度は、より好ましくはアルカリ金属化合物の溶融開始温度よりも30℃以上高い温度であり、さらに好ましくはアルカリ金属化合物の溶融開始温度よりも50℃以上高い温度である。
また、保持温度は、アルカリ金属化合物の溶融開始温度以上であることが好ましい。
【0124】
(アルカリ金属化合物の溶融開始温度)
アルカリ金属化合物の溶融開始温度(Tmp)は、アルカリ金属化合物の一部が液相を呈する最も低い温度のことである。
本発明において、アルカリ金属化合物の溶融開始温度(Tmp)は、示差熱測定(DTA)により求めた値である。すなわち、電池廃材とアルカリ金属化合物の混合物約5mgを示差熱測定(DTA、測定条件:昇温速度:10℃/min)にて、DTAシグナルが吸熱のピークを示す温度を溶融開始温度(Tmp)とする。
【0125】
処理温度は、アルカリ金属化合物の融点よりも高い温度であることが好ましい。より好ましくは、保持温度がアルカリ金属化合物の融点よりも高い温度である。なお、アルカリ金属化合物の融点は、複数種の化合物を混合することで、各化合物の単体の融点よりも下がることがある。アルカリ金属化合物が2種以上で構成される場合には、共晶点を融点とする。
【0126】
処理温度の上限は、1500℃であることが好ましく、より好ましくは1200℃であり、さらに好ましくは1000℃である。
【実施例】
【0127】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0128】
以下に、燃焼性物質の反応開始温度および処理速度の測定方法、燃焼性物質の物性の測定方法およびアルカリ金属化合物の物性の測定方法を示す。
【0129】
(1)熱重量測定(TG)による燃焼性物質の処理速度および反応開始温度の測定
所定の温度における燃焼性物質の処理速度[sec−1]は、下記の条件による熱重量測定において、その温度で存在する燃焼性物質の単位重量[g]当たりの燃焼性物質の単位時間当たりの消費量[g・sec−1]とする。
燃焼性物質の反応開始温度は、下記の条件で熱重量測定において、燃焼性物質の処理速度が0.1[sec−1]に達する最も低い温度とする。
熱重量測定(TG)の測定条件
装置 :示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA6200、セイコーインスツルメンツ社製)
パン :白金
初期試料量:約5mg
雰囲気 :空気
昇温速度 :10℃/min
【0130】
(2)燃焼性物質の比表面積の測定
試料0.5gを窒素雰囲気中、150℃にて15分間乾燥した後、BET比表面積測定装置(フローソープII2300、マイクロメリティックス社製)を用いてBET比表面積を測定した。この方法で測定された比表面積を活物質の比表面積とした。
【0131】
(3)走査電子顕微鏡(SEM)観察による平均一次粒子径の測定
粒子状の試料をサンプルステージ上に貼った導電性シート上に載せ、走査電子顕微鏡(JSM−5510、日本電子社製)を用いて、加速電圧が20kVの電子線を照射して、SEM間三つ観察を行った。平均一次粒子径は、SEM観察により得られた画像(SEM写真)から任意に50個の一次粒子を抽出し、それぞれの粒子径を測定し、その平均値を算出することにより測定した。
【0132】
(4)アルカリ金属化合物のpHの測定
純水70gにアルカリ金属化合物3.5gを添加して、スターラーにより十分に攪拌し、ガラス電極によるpHメーターを用いて、アルカリ金属化合物のpHを測定した。
【0133】
(5)示差熱測定(DTA)によるアルカリ金属化合物の溶融開始温度の測定
アルカリ金属化合物の溶融開始温度(Tmp)は、下記の条件による示差熱測定(DTA)において、アルカリ金属化合物の部分的な融解による吸熱ピークが表れる最も低い温度とする。
示差熱測定(DTA)の測定条件
装置 :示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA6200、セイコーインスツルメンツ社製)
パン :白金
初期試料量:約5mg
雰囲気 :空気
昇温速度 :10℃/min
【0134】
「比較例1」
<アルカリ金属化合物が未添加における天然黒鉛の廃棄処理>
電池廃材に含まれる燃焼性物質として、負極活物質として使用される炭素材料である天然黒鉛(BF15SP、中越黒鉛社製)を用いた。
天然黒鉛の物性は、BET比表面積により測定される比表面積は4.9m/gであり、SEM観察により得られた画像より算出される平均粒子径は17μmであった。天然黒鉛は、目開き10mmのメッシュを通過した。
天然黒鉛0.37mgに、アルカリ金属化合物を添加せずに、その天然黒鉛を白金パンに入れて、燃焼性物質の処理速度を熱重量測定(TG)により測定した。反応開始温度と各温度における処理速度を表2に示す。
【0135】
「実施例1」
<天然黒鉛にLiCOとNaSOを添加したときの廃棄処理>
アルカリ金属化合物として、1.45gのLiCOと、2.87gのNaSOとを添加し、乳鉢により混合した。
LiCOとNaSOからなるアルカ金属化合物の溶融開始温度は、553℃であった。
また、LiCOとNaSOからなるアルカ金属化合物のpHは11であり、アルカリ性のアルカリ金属であった。
また、NaSOは酸化性のアルカリ金属化合物である。
燃焼性物質である天然黒鉛(BF15SP、中越黒鉛社製)0.50gに、LiCOとNaSOからなるアルカ金属化合物を0.05g添加した。
この燃焼性物質とアルカリ金属化合物の混合物4.4mgを、白金パンに入れて、燃焼性物質の処理速度を熱重量測定(TG)により測定した。なお、混合物中の燃焼性物質は4.0mgであった。
燃焼性物質の処理速度を熱重量測定(TG)により測定した。反応開始温度と各温度における処理速度を表2に示す。
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【0138】
実施例1の反応開始温度は、比較例1よりも低い温度であった。また、各温度における処理速度は、比較例1よりも実施例1において高い値が得られた。
すなわち、燃焼性物質である天然黒鉛(BF15SP、中越黒鉛社製)に、LiCOとNaSOからなるアルカ金属化合物を添加することにより、反応開始温度が低下し、処理速度は向上した。
【0139】
「比較例2」
<アルカリ金属化合物が未添加における黒鉛導電材の廃棄処理>
電池廃材に含まれる燃焼性物質として、正極用黒鉛導電材として使用される炭素材料であるグラファイトパウダー(SNO−3、SECカーボン社製)を用いた。
グラファイトパウダーの物性は、BET比表面積により測定される比表面積は16m/gであり、SEM観察により得られた画像より算出される平均粒子径は3μmであった。黒鉛導電材は、目開き10mmのメッシュを通過した。
グラファイトパウダー3.4mgに、アルカリ金属化合物を添加せずに、そのグラファイトパウダーを白金パンに入れて、燃焼性物質の処理速度を熱重量測定(TG)により測定した。反応開始温度と各温度における処理速度を表4に示す。
【0140】
「実施例2」
<黒鉛導電材にLiCOとNaSOを添加したときの廃棄処理>
アルカリ金属化合物として、1.45gのLiCOと、2.87gのNaSOとを添加し、乳鉢により混合した。
LiCOとNaSOからなるアルカリ金属化合物の融解開始温度は、533℃であった。
また、LiCOとNaSOからなるアルカ金属化合物のpHは11であり、アルカリ性のアルカリ金属であった。
また、NaSOは酸化性のアルカリ金属化合物である。
燃焼性物質であるグラファイトパウダー(SNO−3、SECカーボン社製)0.50gに、LiCOとNaSOからなるアルカリ金属化合物を0.43g添加した。
この燃焼性物質とアルカリ金属化合物の混合物4.4mgを、白金パンに入れて、燃焼性物質の処理速度を熱重量測定(TG)により測定した。なお、混合物中の燃焼性物質は2.4mgであった。
燃焼性物質の処理速度を熱重量測定(TG)により測定した。反応開始温度と各温度における処理速度を表4に示す。
【0141】
【表3】
【0142】
【表4】
【0143】
実施例2の反応開始温度は、比較例2よりも低い温度であった。また、各温度における処理速度は、比較例2よりも実施例2において高い値が得られた。
すなわち、燃焼性物質であるグラファイトパウダー(SNO−3、SECカーボン社製)に、LiCOとNaSOからなるアルカ金属化合物を添加することにより、反応開始温度が低下し、処理速度は向上した。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の電池廃材の廃棄処理方法によれば、電池廃材に含まれる燃焼性物質をより低い温度で処理できること、高い処理速度を得られるという効果が得られる。したがって、電池廃材の廃棄処理に消費されるエネルギーを大幅に低減でき、工業的に有望である。
図1
図2
図3