(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プレートの前記移動は、前記移動を許容する空間を形成する要素どうしが相互に前記対物レンズの光軸と略直角に交差する方向に摺動することでなされることを特徴とする請求項1または2に記載の顕微鏡。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図において、紙面右方が観察者側すなわち顕微鏡手前側で、紙面左方が顕微鏡奥側である。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る顕微鏡の全体の構成を、ベース部の一部を切り欠いて示す図である。
【0012】
本実施形態に係る顕微鏡1は、対物レンズ4とズームレンズ7と鏡筒10と接眼レンズ13とを備えた観察光学系と、観察光学系を支持するフォーカスマウント16と、フォーカスマウント16を支持するスタンド19とを備えている。スタンド19は、フォーカスマウント16を固定する支柱部22とベース部25とから構成され、ベース部25には透過照明系28が備えられている。ベース部25の上面には円形の凹部31が形成されている。凹部31の中央部には透過照明系28の照明光を透過するための開口32が設けられている。凹部31は載物プレート34の取り付け部になっている。凹部31には円形の載物プレート34が嵌め込まれて配置され、載物プレート34の上面に標本37を載置して観察を行うようになっている。載物プレート34は、照明系に透過照明系を備えている場合は透明ガラスが用いられ、反射照明のみの場合は不透明の樹脂製プレート等が用いられる。本実施形態では透明ガラスが用いられている。
【0013】
一般に、顕微鏡1での観察中に、観察視野内の標本37の観察像を当該観察視野内で移動させる場合、最も簡単な方法は載物プレート34上で標本37を所望の方向に移動させることである。観察倍率が低倍であれば、標本37を手で動かして観察像を視野内の所望の位置に移動させることが可能である。本実施形態においても、低倍の観察においてはこの方法を用いることができる。しかし観察倍率が高くなるに従い、この方法では視野内の所望の位置に観察像を移動させることは困難となってくる。つまり、高倍率での観察では、載物プレート34上で標本37を僅かに移動させただけでも、観察視野内では観察像が大きく移動してしまい、場合によっては瞬時に視野の外へ移動してしまう。言い換えると、高倍率の観察においては、観察視野内で標本37の観察像を所望の位置へ移動させるためには、標本37をごく僅かな距離だけ移動させる必要がある。以下に、標本をごく僅かな距離だけ移動させることができるように、顕微鏡1が備えたベース部25および載物プレート34の構成を詳細に説明する。
【0014】
本実施形態においては、載物プレート34の径よりも載物プレート取り付け部である凹部31の径のほうが所定量だけ大きく形成されている。したがって、載物プレート34を凹部31に嵌め込んだ状態においては、載物プレート34と凹部31との間に隙間40が形成される。詳しく説明すると、凹部31に載物プレート34を同心となるように配置すると、載物プレート34の外径側と凹部31の内径側との間に、全周に亘って間隔が空く。この間隔の径方向の距離をaとする。そして、載物プレート34は、凹部31と同心に配置された状態から対物レンズ4の光軸と略直角に交差する方向に距離aの範囲で移動ができるようになっている。なお、以後の説明において、対物レンズ4の光軸と略直角に交差する方向をxy方向とする。
【0015】
図2は、第1実施形態に係る顕微鏡1のベース部25の部分断面図であり、
図1の状態から載物プレート34を距離aだけ移動させた状態を示している。
【0016】
載物プレート34の下面と凹部31の底面との接触面には、グリース44が塗布してある。グリース44を塗布することにより、載物プレート34と凹部31との接触面に適度の粘性抵抗を生じせしめている。この粘性抵抗により、載物プレート34の微小な距離の移動が可能となっている。凹部31の底面には周方向に複数の溝43が形成されており、これらの溝43がグリース溜めとなっている。溝43は全周に亘って形成されている。このため載物プレート34の下面は全周に亘って凹部31の底面に接触している。グリース溜めによりグリース44の効果が発揮され、さらにグリース44の効果が維持されるようになっている。
【0017】
載物プレート34の移動は手で直接行う。例えば左右の手の人差し指、中指、薬指の指先をそれぞれ載物プレート34上の標本37を挟んでこれの両側に置き、これらの指で移動させたい方向に力を加える。載物プレート34に加える力がグリース44の粘性抵抗に打ち勝つと、載物プレート34はゆっくりと移動する。このように、載物プレート34の摺動面に粘性抵抗を持たせることによって、載物プレート34は力を加えても急激に大きく移動することがなくゆっくりと移動する。したがって標本37の僅かな距離の移動が可能となる。観察視野内で観察像が所望の位置に移動したら手の力を抜く。あるいは載物プレート34から手を離す。すると載物プレート34は移動を止め、グリース44の粘性によって移動後の位置に保持される。
【0018】
このように、本実施形態に係る顕微鏡1では、観察中に観察視野内で観察像を移動させるには、低倍率の観察においては載物プレート34上で標本37を動かして移動させ、高倍率の観察においては手で載物プレート34を動かして移動させるという、二つの方法を使い分けることが可能となっている。その結果、顕微鏡1の操作性および観察の効率を向上させることができる。
【0019】
また、本実施形態によれば、xy方向に移動可能なステージを取り付ける必要がないので、標本37の位置の高さが変化することがない。そのため、透過照明系28を備えたベース部25と組み合わせて用いても照明系の性能を損なうことはない。また、ステージを取り付けるための構造が不要なのでベース部25の構成が複雑になることもなく、したがってコストアップを抑制することができる。また、載物プレート34の下面が全周に亘って凹部31の底面に接触しているので、隙間40から開口32へゴミや水分が入り込むことを防止することができる。
【0020】
ここで、距離aの値と対物レンズ4およびズームレンズ7の倍率との関係について説明する。本実施形態において、載物プレート34の一定方向への移動可能な最大距離は、
図1および
図2より、距離aの2倍、すなわち2aである。この移動距離2aに、像面における倍率(接眼レンズ13の倍率を含まない。以後、総合倍率(Mtot)という。)を乗じた値が観察像面での観察像の移動距離になる。接眼レンズ13の視野数をφeyeとし、φeyeと同等の移動距離を確保することを考えると、距離aの値とMtotとφeyeとの間には次の関係が成り立つ。
(1)2a×Mtot=φeye
【0021】
例えばφeye=22mm、a=1mmとすると、φeye以上の観察像移動距離となるMtotの値は、Mtot>11となる。
【0022】
ズーム式顕微鏡では、観察総合倍率Mtotは、対物レンズ倍率をMobjとし、ズーム倍率をMzoomとすると、次の式で表される。
(2)Mtot=Mobj×Mzoom
【0023】
例えば、対物レンズ倍率が1倍(Mobj=1)では、ズーム倍率が11倍(Mzoom=11)のときにφeyeと同じ観察像移動距離を満たすことになる。同様に、Mobj=1.6ではMzoom=6.8、Mobj=2ではMzoom=5.5となる。
【0024】
本実施形態に係る顕微鏡1においては、対物レンズ4の倍率(Mobj)は0.5倍、1倍、1.6倍、2倍の4種類が用意されている。また、ズームレンズ7の倍率は最低倍率0.64倍、最高倍率15.75倍の間で任意の値を取ることが出来る。なお、接眼レンズ13の視野数φeyeは22mmである。本実施形態では、これらの各組み合わせにおいて、高倍率での観察時に、観察視野内での観察像の移動を接眼レンズ13の実視野、すなわち実際に接眼部で観察されている標本面での範囲に対してどれだけの量を移動可能とするか、という観点から距離aの値が設定されている。以下に、距離aの値を具体的に設定した数値実施例について説明する。なお、各実施例に係る顕微鏡の構成は上述した実施形態と略同様であり、距離aの値がそれぞれ異なるものとなっている。また、距離aは載物プレート34を凹部31と同心に配置した状態での値である。
【0025】
(第1実施例)
第1実施例は、観察視野内で実視野の値と同じ値の距離だけ像移動が可能となるように距離aの値が設定されている。なお、実視野(単位:mm)は、次の式(3)によって定義される。
(3)実視野=視野数(φeye)/観察総合倍率(Mtot)
【0026】
表1に、対物レンズ13の倍率とズームレンズ7の倍率との各組み合わせごとの実視野の値を示す。併せて、実視野の半分の値、および実視野の1/3の値も示す。
(表1)
対物レンズ倍率 ズーム倍率 総合倍率 実視野 実視野×(1/2) 実視野×(1/3)
0.5 0.64 0.32 68.75 34.38 22.92
0.5 15.75 7.88 2.79 1.40 0.93
1.0 0.64 0.64 34.38 17.19 11.46
1.0 15.75 15.75 1.40 0.70 0.47
1.6 0.64 1.02 21.48 10.74 7.16
1.6 15.75 25.20 0.87 0.44 0.29
2.0 0.64 1.28 17.19 8.59 5.73
2.0 15.75 31.50 0.70 0.35 0.23
【0027】
表1に示すように、総合倍率が最も低い組み合わせは、対物レンズ倍率が0.5倍でズーム倍率が0.64倍の組み合わせである。このとき総合倍率は、上記式(2)より0.32倍であり、実視野は式(3)より68.75mmである。一方、総合倍率が最も高い組み合わせは、対物レンズ倍率が2倍でズーム倍率が15.75倍の組み合わせである。このとき総合倍率は31.50倍であり、実視野は0.70mmである。距離aの値は総合倍率が高倍の時に効果を発揮するように設定されている。本実施例においてはズーム倍率が15.75倍の時の実視野に基づいて算出されている。
【0028】
表1に示す組み合わせについて、観察視野内で実視野と同じ値だけ観察像の移動を可能とするためには、ズーム倍率が15.75倍の場合において実視野が最も大きい状態すなわち総合倍率Mtotが最も低い状態を基準にして、距離aを設定すれば良い。距離aの値は式(1)を変形して、
(4)2a=φeye/Mtot
これより、aは次の式(5)で求められる。
(5)a=(1/2)×(φeye/Mtot)
【0029】
本実施例では、表1に示すように、ズーム倍率が15.75倍の場合における実視野の最も大きい値は2.79mmであるので、距離aの値は式(5)より、a=1.40(mm)となる。したがって本実施例では距離aが1.40(mm)となるように載物プレート34および凹部31が形成されている。
【0030】
(第2実施例)
第2実施例は、観察視野内で実視野の半分の値だけ像移動が可能となるように距離aの値が設定されている。
【0031】
表1に示すように、総合倍率が最も低い組み合わせおよび最も高い組み合わせは第1実施例と同様である。観察視野内で実視野の半分の値と同じ値だけ観察像の移動を可能とするためには、ズーム倍率が15.75倍の場合において実視野が最も大きい状態すなわち総合倍率が最も低い状態を基準にして、距離aを設定すれば良い。観察像の移動可能距離が実視野の半分なので、式(4)より、
(6)2a=(1/2)×(φeye/Mtot)
となる。これより、aは次の式(7)で求められる。
(7)a=(1/4)×(φeye/Mtot)
【0032】
本実施例では、表1に示すように、ズーム倍率が15.75倍の場合における実視野の最も大きい値は2.79mmであるので、これを式(7)に代入し、a=0.70(mm)となる。したがって本実施例では、距離aが0.70(mm)となるように載物プレート34および凹部31が形成されている。
【0033】
(第3実施例)
第3実施例は、観察視野内で実視野の1/3の値の像移動が可能となるように距離aの値が設定されている。
【0034】
表1に示すように、総合倍率が最も低い組み合わせおよび最も高い組み合わせは第1実施例と同様である。観察視野内で実視野の1/3の値と同じ値だけ観察像の移動を可能とするためには、ズーム倍率が15.75倍の場合において実視野が最も大きい状態すなわち総合倍率が最も低い状態を基準にして、距離aを設定すれば良い。観察像の移動可能距離が実視野の1/3なので、式(4)より、
(8)2a=(1/3)×(φeye/Mtot)
となる。これより、aは次の式(9)で求められる。
(9)a=(1/6)×(φeye/Mtot)
【0035】
本実施例では表1に示すように、ズーム倍率が15.75倍の場合における実視野の最も大きい値は2.79mmであるので、これを式(9)に代入し、a=0.47(mm)となる。したがって本実施例では、距離aが0.47(mm)となるように載物プレート34および凹部31が形成されている。
【0036】
(変形例)
次に、上記第1実施形態の変形例について説明する。
【0037】
図3は、第1実施形態の変形例に係る顕微鏡のベース部125の部分断面図である。本変形例は、第1実施形態とは載物プレートおよび載物プレート取り付け部である凹部の形状が異なっている。本変形例においては載物プレート134の上面の縁部に全周に亘ってフランジ146が形成されている。また、ベース部125の凹部131の縁には全周に亘って段部が形成され、フランジ受け部149となっている。
【0038】
本変形例においては、載物プレート134の本体部152の径よりも凹部131の径のほうが所定量だけ大きく形成されている。また、載物プレート134のフランジ146の外径よりも凹部131のフランジ受け部149の径のほうが所定量だけ大きく形成されている。したがって、載物プレート134を凹部131に嵌め込んだ状態においては、載物プレート134と凹部131との間に隙間140が形成される。詳しく説明すると、凹部131に載物プレート134を同心となるように配置すると、載物プレート134の本体部152の外径側と凹部131の内径側との間、およびフランジ146の外径側とフランジ受け部149の内径側との間には全周に亘って間隔が空く。本変形例では載物プレート134の本体部152と凹部131の内径側との間隔の径方向の距離をaとする。フランジ146は載物プレート134の本体部152から距離aよりも大きく外方に突出して設けられ、隙間140を覆っている。他の構成については第1実施形態と同様である。
【0039】
本変形例はこのようにフランジ146が隙間140を覆うように配置されているので、上記実施形態と同様の効果に加えて、グリース塗布部や、凹部131の中央部に形成された照明光を透過するための開口132にゴミや水分が入り込むことを防止することができる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態に係る顕微鏡の構成は上記第1実施形態と略同様であり、同様の構成については同じ符号を用いて説明する。
【0041】
図4は、第2実施形態に係る顕微鏡のベース部225の断面図である。
図4に示すように、本実施形態では、載物プレート234は保持部材255に保持されている。保持部材255は円形の底板258と、底板258の上面の縁部に形成された全周に亘る枠部261とで構成されている。底板258の中央部には照明光を透過するための開口264が設けられている。載物プレート234は保持部材255の枠部261の内径側に保持されている。
【0042】
ベース部225の上面には円形の凹部231が形成されている。凹部231の中央部には照明光を透過するための開口232が設けられている。円形の凹部231は保持部材取り付け部となっている。保持部材255は凹部231に嵌め込まれて配置される。ベース部225の一方の側方から凹部231の中心に向かって、ベース部225を貫いてクランプネジ267が挿入されている。クランプネジ267を締め付けるとクランプネジ267の先端は保持部材255の枠部261の外周側を押圧する。これによって保持部材255は凹部231の他方側に押し付けられ、ベース部225に固定される。
【0043】
載物プレート234は保持部材255に対して摺動する。本実施形態においては、載物プレート234の外径よりも保持部材255の枠部261の内径のほうが所定量だけ大きく形成されている。したがって、載物プレート234を保持部材255に嵌め込んだ状態においては、これらの部材間に隙間240が形成される。詳しく説明すると、保持部材255に載物プレート234を同心となるように配置すると、載物プレート234の外径側と保持部材255の枠部261の内径側との間には所定の間隔が空く。この間隔の径方向の距離をaとする。そして、載物プレート234はxy方向に距離aの範囲で移動ができるようになっている。
【0044】
載物プレート234の下面と保持部材255の底板258との接触面にはグリース244が塗布してある。グリース244を塗布することにより、載物プレート234と保持部材255との接触面に適度の粘性抵抗を生じせしめている。この粘性抵抗により、載物プレート234の微小な距離の移動が可能となっている。底板258の上面には周方向に複数の溝243が形成されており、これらの溝243がグリース溜めとなっている。溝243は様々な配置が可能であるが、本実施例では全周に亘って形成されている。このため載物プレート234の下面は全周に亘って底板258の上面に接触している。グリース溜めによりグリース244の効果が発揮され、さらにグリース244の効果が維持されるようになっている。載物プレート234の移動は第1実施形態と同様に手で直接行う。
【0045】
このような構成により、本実施形態においても第1実施形態と同様に、観察中に視野内で標本37の観察像を移動させるには、低倍率の観察においては載物プレート234上で標本37を動かして移動させ、高倍率の観察においては手で載物プレート234を動かして移動させるという、二つの方法を使い分けることができる。その結果、顕微鏡の操作性および観察の効率を向上させることができる。また、標本載置用のステージを取り付ける必要が無いので標本の位置の高さが変化することがなく、透過照明系28を備えたベース部225と組み合わせて用いても照明系の性能を損なうことはない。さらに、ステージを取り付けるための構造が不要なので構成が複雑になることもなく、したがってコストアップを抑えることができる。また、載物プレート234の下面が全周に亘って底板258の上面に接触しているので、隙間240から開口264、232へゴミや水分が入り込むことを防止することができる。
【0046】
また、本実施形態では、メンテナンス等の為にベース部225から保持部材255を取り外すことができるようになっている。保持部材255を取り外すときはクランプネジ267を緩めれば良い。このとき、載物プレート234は保持部材255に取り付けたままで良い。このように保持部材255と載物プレート234とを一体で取り外すことができるので、保持部材255と載物プレート234との間に介在するグリース244が外部に露出しない。そのため、メンテナンス時等にゴミが付着してグリース244の効果が低下することを防止することができる。
【0047】
なお、本実施形態における距離aの値と対物レンズ4およびズームレンズ7の倍率との関係、および対物レンズ4の倍率とズームレンズ7の倍率との組み合わせについては、第1実施形態と同様である。また、隙間240の距離aの値を具体的に設定した数値実施例については、隙間240が載物プレート234と保持部材255との間に形成されているという違いはあるが、第1実施形態の各実施例と同様の計算で求めることができる。したがって数値実施例の距離aの値も第1実施形態の各実施例と同様である。
【0048】
(第1変形例)
次に、上記第2実施形態の第1変形例について説明する。
【0049】
図5は、第2実施形態の第1変形例に係る顕微鏡のベース部225の部分断面図である。本変形例は、第2実施形態とは載物プレートおよび保持部材の形状が異なっている。本変形例においては載物プレート235の上面の縁部に全周に亘ってフランジ246が形成されている。保持部材256の枠部262は、保持部材取り付け部である凹部231に配置された状態において上端部がベース部225の上面よりも低い位置となるように形成されている。したがって、保持部材256の枠部262の上端部と凹部231の縁とで段部が形成されている。この段部がフランジ受け部249となっている。
【0050】
本変形例においては、載物プレート235の本体部252の径よりも保持部材256の枠部262の内径のほうが所定量だけ大きく形成されている。また、載物プレート235のフランジ246の外径よりも凹部231の径のほうが所定量だけ大きく形成されている。したがって、載物プレート235を保持した保持部材256を凹部231に嵌め込んだ状態においては、載物プレート235と保持部材256との間に隙間241が形成され、同時に載物プレート235と凹部231との間に隙間が形成される。詳しく説明すると、保持部材256に載物プレート235を同心となるように配置すると、載物プレート235の本体部252の外径側と保持部材256の枠部262の内径側との間、およびフランジ246の外径側と凹部231の内径側との間に、全周に亘って間隔が空く。本変形例では載物プレート235の本体部252と保持部材256との間隔の径方向の距離をaとする。フランジ246は載物プレート235の本体部252から距離aよりも大きく外方に突出して設けられ、隙間241を覆っている。他の構成および数値実施例については第2実施形態と同様である。
【0051】
本変形例はこのようにフランジ246が隙間241を覆うように形成されているので、上記第2実施形態と同様の効果に加えて、グリース塗布部や開口264、232にゴミや水分が入り込むことを防止することができる。
【0052】
(第2変形例)
次に、上記第2実施形態の第2変形例について説明する。
【0053】
図6(a)は、第2実施形態の第2変形例に係る顕微鏡のベース部225の部分断面図である。本変形例は、載物プレートおよび保持部材の形状は上記第2実施形態(
図4参照)と同様の構成である。
【0054】
本変形例では、ベース部225の手前側から保持部材取り付け部である凹部231の中心に向かって、ベース部225と保持部材255の枠部261とを貫いてネジ孔270が設けられている。ネジ孔270には雌ネジが形成され、調整ネジ273が螺合している。調整ネジ273はねじ込むことによって隙間240の距離aを変化させることができる。なお、隙間240は全周に亘って形成されているが、本変形例では、距離aはベース部225を観察者からみて左側(または右側)から見た状態(
図6各図の状態)での距離をいう。
【0055】
図6(a)に示す状態、すなわち調整ネジ273の先端が保持部材255の枠部261の内部にあり、内周面から突出していない状態は、距離aが最も大きい状態である。この状態から調整ネジ273をねじ込むと、先端が枠部261の内周面から突出してくる。
図6(b)は、調整ネジ273が枠部261の内周面から距離bだけ中心方向に突出している状態を示している。この状態で載物プレート234を紙面右方に移動させると、載物プレート234の紙面右方の側面は調整ネジ273の先端に接触して保持部材255の枠部261まで到達しない。つまり、当初の隙間240の距離aは(2a−b)/2になり、載物プレート234の移動可能距離が小さくなっている。
【0056】
図6(c)は、調整ネジ273が枠部261の内周面から距離2aだけ中心方向に突出している状態を示している。この状態は調整ネジ273が最も奥までねじ込まれた状態であり、載物プレート234は一方側の側面が保持部材255の枠部261に当接し、他方の端部が調整ネジ273の先端に当接している。つまり当初の距離aは0(零)となっており、載物プレート234は移動を規制されている。観察時に載物プレート234が動いてほしくないときにはこの状態とする。
【0057】
このように本変形例では、調整ネジ273のねじ込み量を調整することによって、距離aの値を変化させることができる。言い換えると、載物プレート234の移動可能距離を調節することができる。これにより、観察倍率に対応した最適な距離aに調整でき、観察の効率を上げることができる。
【0058】
なお、調整ネジ273は2箇所に設けても良い。すなわち、凹部231の中心から観察者側を見て、観察者側から左右にそれぞれ略60°の角度位置に設けても良い。このようにすれば、載物プレート234の左右方向への移動可能距離も調整することができる。
【0059】
また、観察時に載物プレート234が動いてほしくないときの載物プレート234の固定手段は、距離aの幅で形成されたリング状の部材でも良い。これを隙間240に嵌め込むことで載物プレート234の移動を規制することができる。
【0060】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態に係る顕微鏡の構成は上記第1および第2実施形態と略同様であり、同様の構成については同じ符号を用いて説明する。
【0061】
図7は、第3実施形態に係る顕微鏡のベース部325の部分断面図である。
図7に示すように、本実施形態では、載物プレート334は保持部材355に保持されている。本実施形態に係る保持部材355は円環状に形成され、円環部376の内周側の穴に円形の載物プレート334が嵌め込まれている。円環部376には一方側の外周面から円環部376を内周面側に貫いてクランプネジ367が締め込まれている。クランプネジ367の先端は載物プレート334の外周側を押圧し、これによって載物プレート334は保持部材355の内周面の他方側に押し付けられ、固定される。この状態において、載物プレート334の上面は、円環部376の上面よりも上方に突出して固定され、載物プレート334の上面の縁部と保持部材355の上面とで段部379が形成されている。
【0062】
ベース部325の上面には円形の凹部331が形成されている。凹部331の中央部には照明光を透過するための開口332が設けられている。凹部331は保持部材取り付け部となっている。保持部材355は凹部331に嵌め込まれて配置される。
【0063】
本実施形態においては、保持部材355がベース部325に対して摺動する。本実施形態においては、保持部材355の外径よりも凹部331の径のほうが所定量だけ大きく形成されている。したがって、保持部材355を凹部331に嵌め込んだ状態においては、保持部材355と凹部331との間に隙間340が形成される。詳しく説明すると、凹部331に保持部材355を同心となるように配置すると、保持部材355の外径側と凹部331の内径側との間には所定の間隔が空く。この間隔の径方向の距離をaとする。したがって、載物プレート334は保持部材355と一体となってxy方向に距離aの範囲で移動ができるようになっている。
【0064】
保持部材355の下面と凹部331の底面との接触面にはグリース344が塗布してある。グリース344を塗布することにより、保持部材355と凹部331との接触面に適度の粘性抵抗を生じせしめている。この粘性抵抗により、保持部材355の微小な距離の移動が可能となっている。凹部331の底面には周方向に複数の溝343が形成されており、これらの溝343がグリース溜めとなっている。溝343は全周に亘って形成されている。このため保持部材355の下面は全周に亘って凹部331の底面に接触している。グリース溜めによりグリース344の効果が発揮され、さらにグリース344の効果が維持されるようになっている。載物プレート334の移動は第1実施形態と同様に手で直接行う。
【0065】
このような構成により、本実施形態においても第1実施形態と同様に、観察中に視野内で観察像を移動させるには、低倍率の観察においては載物プレート334上で標本37を動かして移動させ、高倍率の観察においては手で載物プレート334を動かして移動させるという、二つの方法を使い分けることができる。その結果、顕微鏡の操作性および観察の効率を向上させることができる。また、標本載置用のステージを取り付ける必要が無いので標本の位置の高さが変化することがなく、透過照明系28を備えたベース部325と組み合わせて用いても照明系の性能を損なうことはない。さらに、ステージを取り付けるための構造が不要なのでベース部325の構成が複雑になることもなく、したがってコストアップを抑えることができる。また、保持部材355の下面が全周に亘って凹部331の底面に接触しているので、隙間340から開口332へゴミや水分が入り込むことを防止することができる。
【0066】
本実施形態においては、保持部材355が保持部材取り付け部である凹部331の内部でガタつきなくスムーズに摺動するように、保持部材355の上に押さえ部材382が配置されている。押え部材382は薄い円環状に形成され、外径側が凹部331の縁部に形成された段部380に嵌め込まれている。押さえ部材382の内径は載物プレート334の径よりも大きく形成され、凹部331の中央に配置された保持部材355が距離aだけ移動すると、保持部材355よりも上方に突出した載物プレート334の外周側に当接し、保持部材355の移動を規制している。また、押え部材382の円環の幅は、保持部材355が凹部331のどの位置にあっても、保持部材355と凹部331との隙間340を覆うことができる寸法で形成されている。したがって、外部からグリース塗布部や開口332にゴミや水分が入ることを防止することができる。
【0067】
また、本実施形態では、メンテナンス等の為に載物プレート334を取り外すことができるようになっている。載物プレート334を取り外すときは、押さえ部材382を取り外し、クランプネジ367を緩めれば良い。本実施形態では、保持部材355は凹部331に取り付けたままで載物プレート334のみを取り外す。そうすれば、保持部材355と凹部331との間に介在するグリース344が外部に露出しない。グリース344が露出しないので、メンテナンス時等に摺動面にゴミが付着することを防止することができる。
【0068】
なお、本実施形態における距離aの値と対物レンズ4およびズームレンズ7の倍率との関係、および対物レンズ4の倍率とズームレンズ7の倍率との組み合わせについては、第1実施形態と同様である。また、隙間340の距離aの値を具体的に設定した数値実施例については、隙間340が保持部材355と凹部331との間に形成されているという違いはあるが、第1実施形態の各実施例と同様の計算で求めることができる。したがって距離aの値も第1実施形態の各実施例と同様である。
【0069】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態に係る顕微鏡の構成は上記第1〜第3実施形態と略同様であり、同様の構成については同じ符号を用いて説明する。
【0070】
図8は、第4実施形態に係る顕微鏡のベース部425の部分断面図である。また、
図9は当該ベース部425を、一部を切り欠いて示す平面図である。
【0071】
図8に示すように、本実施形態では、載物プレート434は保持部材455に保持されている。本実施形態に係る保持部材455は第3実施形態と同様に円環状に形成され、円環部476の内周側の穴に円形の載物プレート434が嵌め込まれている。円環部476には一方側の外周側から円環部476を内周側に貫いてクランプネジ467が締め込まれている。クランプネジ467の先端は載物プレート434の外周側を押圧し、これによって載物プレート434は保持部材455の内周面の他方側に押し付けられ、固定される。この状態において、載物プレート434の上面は、円環部476の上面よりも上方に突出して固定され、載物プレート434の上面の縁部と保持部材455の上面とで段部479が形成されている。円環部476は、
図8に示すように、上面側の外径よりも下面側の外径の方が大きく形成されており、外周面477がテーパ状に形成されている。
【0072】
ベース部425の上面には円形の凹部431が形成されている。凹部431の中央部には照明光を透過するための開口432が設けられている。円形の凹部431は保持部材取り付け部となっている。保持部材455は凹部431に嵌め込まれて配置される。
【0073】
本実施形態においては、第3実施形態と同様に保持部材455がベース部425に対して摺動する。本実施形態では、保持部材455の下面の外径よりも凹部431の径のほうが所定量だけ大きく形成されている。したがって、保持部材455を凹部431に嵌め込んだ状態においては、保持部材455と凹部431との間に隙間440が形成される。詳しく説明すると、凹部431に保持部材455を同心となるように配置すると、保持部材455の下面の外径側と凹部431の内径側との間には所定の間隔が空く。この下面側における間隔の径方向の距離をaとする。したがって、載物プレート434は保持部材455と一体となってxy方向に距離aの分だけ移動ができるようになっている。
【0074】
保持部材455の下面と凹部431の底面との接触面にはグリース444が塗布してある。グリース444を塗布することにより、保持部材455と凹部431との接触面に適度の粘性抵抗を生じせしめている。凹部431の底面には周方向に複数の溝443が形成されており、これらの溝443がグリース溜めとなっている。溝443は全周に亘って形成されている。このため保持部材455の下面は全周に亘って凹部431の底面に接触している。グリース溜めによりグリース444の効果が発揮され、さらにグリース444の効果が維持されるようになっている。また、第3実施形態と同様に、保持部材455の上には押え部材482が設けられている。
【0075】
本実施形態においては、
図9に示すように、ベース部425の手前側の2箇所に心出しつまみ485が設けられている。心出しつまみ485は、凹部431の中心から観察者側を見て、観察者側から左右にそれぞれ略60°の角度位置に設けられている。各心出しつまみ485はベース部425の外側から凹部431の中心に向かってベース部425を貫いて設けられた孔に挿入されている。一方、ベース部425の奥側には圧縮バネ488が設けられている。圧縮バネ488の一方側の端部はベース部425に固定され、他方側の端部は先端が半球状の保護カバー491に覆われている。保護カバー491の半球状部が保持部材455の奥側の外周面477に当接し、保持部材455をベース部425の手前方向に付勢している。この付勢力により、保持部材455の手前側の外周面477は各心出しつまみ485の先端に当接する。保持部材455は外周面477がテーパ状なので、圧縮バネ488および各心出しつまみ485の先端が外周面477に当接することによりガタつきが抑えられている。
【0076】
本実施形態においては、各心出しつまみ485の挿入状態を調節することによって載物プレート434を移動させる。保持部材455は圧縮バネ488によって手前側に付勢されているので、各心出しつまみ485を中心方向に押し込むあるいは中心から外方に引き抜く操作をすることで保持部材455を移動させることができる。心出しつまみ485は2方向に沿って設けられているので、それぞれの挿入状態を調節することにより保持部材455をxy方向に移動させることができる。保持部材455と凹部431との間にはグリース444が介在しているので、グリース444の粘性抵抗によって載物プレート431は急激に大きく移動することがなくゆっくりと移動する。したがって標本の僅かな距離の移動が可能となる。
【0077】
このような構成により、本実施形態においても顕微鏡の操作性および観察の効率を向上させることができる。また、標本載置用のステージを取り付ける必要が無いので標本37の位置の高さが変化することがなく、透過照明系28を備えたベース部425と組み合わせて用いても照明系の性能を損なうことはない。さらに、ステージを取り付けるための構造が不要なので構成が複雑になることもなく、したがってコストアップを抑えることができる。また、保持部材455の下面が全周に亘って凹部431の底面に接触しているので、隙間440から開口432へゴミや水分が入り込むことを防止することができる。
【0078】
また、本実施形態では、メンテナンス等の為にベース部425から保持部材455を取り外すことができるようになっている。保持部材455を取り外すときは、押え部材482を取り外し、各心出しつまみ485を引き抜く方向に移動させれば良い。本実施形態では、保持部材455は凹部431に取り付けた状態で載物プレート434のみを取り外す。そうすれば、保持部材455と凹部431との間に介在するグリース444が外部に露出しない。グリース444が露出しないので、メンテナンス時等にゴミが付着することを防止することができる。
【0079】
なお、本実施形態における距離aの値と対物レンズ4およびズームレンズ7の倍率との関係、および対物レンズ4の倍率とズームレンズ7の倍率との組み合わせについては、第1実施形態と同様である。また、隙間440の距離aの値を具体的に設定した数値実施例については、隙間440が保持部材455と凹部431との間に形成されているという違いはあるが、第1実施形態の各実施例と同様の計算で求めることができる。したがって距離aの値も第1実施形態の各実施例と同様である。
【0080】
以上、本発明の実施形態および実施例、変形例(以下、実施形態等という。)について説明したが、本発明の構成は上記実施形態等に限定されるものではない。例えば、第2実施形態の第2変形例で説明した距離aの値を変更する調整ネジ、および載物プレートの移動を規制する固定手段であるリング状部材は、他の実施形態等に用いることもできる。また、距離aの値も適宜変更が可能である。また、上記実施形態等では摺動面で粘性抵抗を生じせしめる部材としてグリースを用いているが、これに代えて油、あるいはフェルトを介在させても良い。また、上記実施形態等は本発明をズーム式の顕微鏡に適用した例を説明したが、他の形式の顕微鏡にも適用が可能である。