(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5957973
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】微小流量送液方法および前記方法を利用した装置
(51)【国際特許分類】
G01N 30/32 20060101AFI20160714BHJP
【FI】
G01N30/32 C
【請求項の数】4
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-50294(P2012-50294)
(22)【出願日】2012年3月7日
(65)【公開番号】特開2013-185897(P2013-185897A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】植松 原一
【審査官】
黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−147756(JP,A)
【文献】
特開2005−180996(JP,A)
【文献】
特開2010−101630(JP,A)
【文献】
特開昭60−011690(JP,A)
【文献】
特開2007−057539(JP,A)
【文献】
特開2007−127562(JP,A)
【文献】
特表2007−513338(JP,A)
【文献】
特開2005−134187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
G01N 35/00−37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送液手段で送液した液体の流量を測定し、前記測定した流量に基づき、前記送液手段での送液制御を行なう、送液方法であって、
前記送液手段での送液制御が、前記送液手段で送液すべき液体の流量よりも多い流量を送液するよう前記送液手段に指示し、前記測定した流量が前記送液すべき液体の流量よりも一定値以上多い流量となった場合は前記送液手段での送液を停止するよう指示し、前記測定した流量が前記送液すべき液体の流量よりも一定値以上少ない流量となった場合は前記送液手段での送液を再開するよう指示する制御である、前記送液方法。
【請求項2】
液体を送液する送液手段と、前記送液手段の吐出側に設けた、前記送液手段で送液した液体の流量を測定する流量測定手段と、前記流量測定手段で測定した流量に基づき前記送液手段での送液制御を行なう制御手段と、を設けた送液装置であって、
前記流量測定手段で測定した流量が、前記送液手段で送液すべき液体の流量よりも一定値以上多い流量か一定値以上少ない流量かを判定する、流量判定手段をさらに備え、
前記制御手段が、前記送液手段で送液すべき液体の流量よりも多い流量を送液するよう前記送液手段に指示し、前記流量測定手段で測定した流量が前記送液すべき液体の流量よりも一定値以上多いと前記流量判定手段が判定した場合は前記送液手段での送液を停止するよう指示し、前記流量測定手段で測定した流量が前記送液すべき液体の流量よりも一定値以上少ないと前記流量判定手段が判定した場合は前記送液手段での送液を再開するよう指示する手段である、前記送液装置。
【請求項3】
流量測定手段が熱式流量計である、請求項2に記載の送液装置。
【請求項4】
溶離液を送液する送液部と、試料を導入する試料導入部と、導入した試料中の各成分を分離する分析カラム部と、前記分析カラム部から溶出した各成分を検出する検出部と、を備えた液体クロマトグラフであって、前記送液部が請求項2または3に記載の送液装置である、前記液体クロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毎分数μLから数十μLといった微小流量を安定的に送液することが可能な方法および前記方法を利用した装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィの分野では溶離液の削減等の観点から、カラムの内径を小さくする、いわゆる「マイクロ化」が進行している。一般的な液体クロマトグラフィでは内径4.6mm程度のカラムを使用し、毎分1mL程度の流量で分析を行なう。一方、「マイクロ化」した液体クロマトグラフィでは、内径数百μmから数mm程度のカラムを使用し、毎分数μLから数十μL程度の流量で分析を行なう。
【0003】
図1に一般的な液体クロマトグラフの構成図を示す。液体クロマトグラフは溶離液(10)を送液するポンプ(1)、試料(6)を導入する試料導入バルブ(4)、試料を分離する分析カラム(7)、および分離された成分を検出する検出器(9)を備えている。
図1に示す液体クロマトグラフを「マイクロ化」するにあたっては、分析カラム(7)の微小化および性能向上はもちろん、その他各機構も微小化および性能向上が要求される。中でも、送液ポンプ(1)を含む送液手段が重要な要素となる。一般的な液体クロマトグラフに備える送液手段では、毎分1mL程度の流量で安定的に送液できれば十分であるのに対し、「マイクロ化」した液体クロマトグラフに備える送液手段では、毎分数μLから数十μLの流量で安定的に送液する必要があるためである。
【0004】
液体クロマトグラフに備える送液ポンプとして、通常、ポンプ室の上下に流体の流れを一方向に抑止する逆止弁(21)を配し、プランジャ(20)の往復運動により流体の吸引/吐出を繰り返す、プランジャポンプを使用する(
図2)。プランジャ(20)は、モータ軸に直接またはプーリーベルト駆動を介して取り付けられたカム(22)の回転運動を変換することで往復運動される(
図3)。カム(22)として、構造の単純な偏心カムを使用し、モータ(25)を等速回転させた場合、プランジャ(20)は変位−時間曲線がサインカーブを描く形で往復運動し、当該運動と同期して液体の吸引/吐出が行なわれる(レシプロ式:
図3aおよび
図4a)。レシプロ式では液体の吸引に要する時間と液体の吐出に要する時間は同一であり、脈動による影響がクロマトグラムに大きく出る。この問題を解消するために、カム(22)として、吐出の領域は長時間をかけて直線性を持たす一方、吸引の領域は短時間で復帰するリニアカムを使用し、当該カムを等速回転させることでプランジャ(20)を往復運動させる方法がある(クイックリターン式:
図3bおよび
図4b)。クイックリターン式では、液体の吐出に要する時間を長時間取る一方、液体の吸引に要する時間は短時間とすることで、レシプロ式と比較しクロマトグラムにおける脈動の影響を抑えることができる。
【0005】
プランジャポンプでは、カムを回転運動させるモータの回転数を上げることで送液量をあげる(高流量)ことができ、回転数を下げると送液量を下げる(低流量)ことができる。高流量時における、プランジャポンプのプランジャ動作および圧力変動を
図5(レシプロ式:
図5a、クイックリターン式:
図5b)に、低流量時における、プランジャポンプのプランジャ動作および圧力変動を
図6(レシプロ式:
図6a、クイックリターン式:
図6b)に、それぞれ示す。レシプロ式、クイックリターン式、いずれの方式であっても、カム形状が固定、かつモータ回転数も等速であるため、モータの回転数を少なくする(すなわち低流量にする)と液体を吸引する時間が長くなり、圧力が低下する時間も長くなる。そのため低流量域では流量の安定性を確保できず、良好な分析精度を得ることが難しい。
【0006】
プランジャポンプで低流量を送液した場合でも流量安定性を確保するため、カムを回転させるモータの回転数を可変にする試みもされている。すなわち、液体吸引時におけるカムの回転速度を、液体吐出時におけるカムの回転速度より高速にすることで、圧力が低下する時間を短くし、クロマトグラムにおける脈動の影響を抑える方法である(
図7参照)。また前記方法をより簡便に行なうため、カムの代わりにボールねじ(23)を用いてプランジャを往復運動させるポンプが開示されている(非特許文献1)。当該ポンプは、ボールねじ(23)を正転させることで液体を吐出させることができ、ボールねじ(23)を反転させることにより液体を吸引させることができるため、液体の吸引/吐出制御が容易である(
図8および9参照)。しかしながら当該ポンプは、溶離液中に含まれる僅かな異物や気泡によりトラブルを起こしやすく、使用する際は十分に注意を払う必要がある。
【0007】
低流量送液時での流量安定性を確保するための別の方法として、シリンジポンプ(13)を使用する方法がある(
図10)。これは1回の分析に必要な溶離液の容量以上のシリンダ容積を有したシリンダおよびピストンを有しており、分析系から切り離した状態でシリンダ内に溶離液を充填後、分析系に接続し、ゆっくりと吐出する方法である。シリンジポンプを用いることで低流量域での送液を非常に安定的に行なうことができる。しかしながら、送液量が微量(例えば、毎分数μLから数十μL)になると送液量に対するシリンダ容積が大きくなるため、安定に要する時間が長くなる問題がある。またシリンジポンプは連続測定には向かないという問題もある。
【0008】
低流量送液時での流量安定性を確保するためのさらに別の方法として、プランジャポンプとしては一般的な液体クロマトグラフ(例えば流量が毎分数百μL)で使用するポンプを用いつつ、スプリッターにより微小流量を作成する方法がある(
図11)。すなわち、送液ポンプ(1)により毎分数百μLの流量で送液後、スプリッターによりその1/10から1/100量を分析カラム(7)に導く方法である。スプリッターとしては、
図11に示す抵抗管(11)を用いた単純な抵抗比を利用したものや、制御された弁機構を利用したもの等がある。しかしながら、いずれも安定性には欠け、また溶離液の大半を廃棄してしまう等問題が多い。
【0009】
これらの問題を解決するために、送液ポンプによる送液量の値を送液ポンプの制御部にフィードバックすることで、送液ポンプによる送液量(流量)を一定とするよう、制御する方法がある(
図12から14)。具体的には、送液ポンプ(1)による送液量を測定可能な流量計(15)を送液ポンプ(1)の吐出側に設け、コントローラ(3)を用いて、流量計(15)の値が指定値になるよう、PID制御等により比例制御することで、送液ポンプの送液量を微調整する。当該方法により安定的に微小流量を送液することが可能となる。しかしながら、流量が一定になるまで長い時間を要したり、
図13に示すように安定化後もうねりが残る問題がある。また比例制御により流量を微調整していることから、長期間における流量変動に対する修正力は強いものの、短時間における流量変動には追随しにくい欠点がある。
【0010】
微小流量で送液する場合、送液開始から圧力が一定になるまでに膨大な時間を要することも大きな問題である。送液量が低いと、送液ポンプ等が有するボイド容積の割合が送液量に対し大きくなるため、送液を開始しても圧力がなかなか上昇しないためである。当該問題を解決するため、圧力が上昇するまでは実際に分析で使用する流量よりも多くの流量で送液することで短時間で圧力を上昇させた後、分析で使用する流量に戻す等の方法があげられる(
図15参照)。しかしながら、前記方法を採用する場合、分析を開始するのに必要な圧力値をあらかじめ設定する必要があり、この設定を間違えると分析カラムに大きなダメージを与えるおそれがある。
。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】株式会社ユニフローズ、送液用組込型マイクロポンプのホームページhttp://www.uniflows.co.jp/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述したように、微小流量を安定的に送液する方法は、機械的に微小流量を安定化させる方法と、流量値を送液手段にフィードバックし、比例制御により送液量を一定に保つ方法とに分けられる。前者は構造的に複雑になる等の問題があり、後者は短時間の変動に対する応答が悪い等の問題があるため、分析者が容易に使いこなせるものではない。
【0013】
そこで本発明は、長期間における流量変動および短期間における流量変動を抑制し、短時間で安定した送液状態が得られる、応答性の高い微小流量送液方法、および前記方法を利用した、構成の簡単な送液装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の発明を包含する。
【0015】
本発明の第一の態様は、
送液手段で送液した液体の流量を測定し、前記測定した流量に基づき、前記送液手段での送液制御を行なう、送液方法であって、
前記送液手段での送液制御が、前記送液手段で送液すべき液体の流量よりも多い流量を送液するよう前記送液手段に指示し、前記測定した流量が前記送液すべき液体の流量よりも一定値以上多い流量となった場合は前記送液手段での送液を停止するよう指示し、前記測定した流量が前記送液すべき液体の流量よりも一定値以上少ない流量となった場合は前記送液手段での送液を再開するよう指示する制御である、前記送液方法である。
【0016】
本発明の第二の態様は、
液体を送液する送液手段と、前記送液手段の吐出側に設けた、前記送液手段で送液した液体の流量を測定する流量測定手段と、前記流量測定手段で測定した流量に基づき前記送液手段での送液制御を行なう制御手段と、を設けた送液装置であって、
前記流量測定手段で測定した流量が、前記送液手段で送液すべき液体の流量よりも一定値以上多い流量か一定値以上少ない流量かを判定する、流量判定手段をさらに備え、
前記制御手段が、前記送液手段で送液すべき液体の流量よりも多い流量を送液するよう前記送液手段に指示し、前記流量測定手段で測定した流量が前記送液すべき液体の流量よりも一定値以上多いと前記流量判定手段が判定した場合は前記送液手段での送液を停止するよう指示し、前記流量測定手段で測定した流量が前記送液すべき液体の流量よりも一定値以上少ないと前記流量判定手段が判定した場合は前記送液手段での送液を再開するよう指示する手段である、前記送液装置である。
【0017】
本発明の第三の態様は、流量測定手段が熱式流量計である、前記第二の態様に記載の送液装置である。
【0018】
本発明の第四の態様は、溶離液を送液する送液部と、試料を導入する試料導入部と、導入した試料中の各成分を分離する分析カラム部と、前記分析カラム部から溶出した各成分を検出する検出部と、を備えた液体クロマトグラフであって、前記送液部が前記第二または第三の態様に記載の送液装置である、前記液体クロマトグラフである。
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の送液方法を示すフローチャートを
図16に示す。本発明の送液方法では、
送液手段で送液すべき液体の流量である目的流量F(T)、
送液手段で実際に送液する流量の設定値である駆動流量:F(S)、
送液手段での送液を停止する流量(閾値)である制御上限流量F(H)、
送液手段での送液を再開する流量(閾値)である制御下限流量F(L)、
の4つのパラメータを設定し、微量流量を送液する。
【0021】
本発明の送液方法では、駆動流量F(S)は目的流量F(T)より大きな値を設定する。駆動流量F(S)の設定方法としては、目的流量F(T)に一定の値を加算して設定してもよいし、一定の値を乗算して設定してもよい。また、流量に応じて加算値または乗算値を変化させて設定してもよいし、加算と乗算とを組み合わせて設定してもよい。さらに脈動等の影響が少ない高流量域(例えば毎分数百μL以上)では、目的流量F(T)への加算を行なわないよう設定してもよい。本発明の送液方法における目的流量F(T)と駆動流量F(S)との関係の一例を
図17および18に示す。
【0022】
図17aは目的流量F(T)の全域にわたり、目的流量F(T)に一定の値を加算して駆動流量F(S)を設定する例を示した図である。
【0023】
F(S)=F(T)+k1 ※ k1:加算流量
図17bは目的流量F(T)を一定の流量(m1)を境に2つの区間に分割し、流量m1未満の低流量域では目的流量F(T)以上でかつ一定値となるよう駆動流量F(S)を設定し、流量m1以上の高流量域では目的流量F(T)に一定の値を加算して駆動流量F(S)を設定する例を示した図である。
【0024】
0≦F(T)<m1:F(S)=k2
F(T)≧m1:F(S)=F(T)+k3
※ k2:低流量域での駆動流量、k3:高流量域での加算流量
m1:目的流量の区間分岐点
図18cは目的流量F(T)を一定の流量(m2)を境に2つの区間に分割し、流量m2未満の低流量域では、流量に応じて目的流量F(T)を下記式に基づき加算した値を駆動流量F(S)として設定し、流量m2以上の高流量域では目的流量F(T)への加算を行なわない(すなわち目的流量F(T)と駆動流量F(S)とが一致)例を示した図である。
【0025】
0≦F(T)<m2:F(S)={(m2−k4)/m2}×F(T)+k4
F(T)≧m2:F(S)=F(T)
※ k4:低流量域での加算流量、m2:目的流量の区間分岐点
制御上限流量F(H)は目的流量F(T)に一定の値を加算して設定し、制御下限流量F(L)は目的流量F(T)に一定の値を減算して設定すればよい。目的流量F(T)への加算値および減算値を小さく設定すると、送液手段(ポンプ)によるFlow(送液)/Stop(停止)が頻繁に繰り返されるため、送液の安定性および精度が増す点で好ましい。ただし実際は、ポンプの流量制御の分解能のため、目的流量F(T)への加算値および減算値を小さくするのには限界がある。したがって、予備的な試験により、最適な加算値および減算値を設定するとよい。
【0026】
本発明の送液方法では、まず前述した方法により設定した駆動流量F(S)で、送液手段による液体の送液を行なう。送液された液体の流量を測定し、その値F(R)が制御上限流量F(H)を越えると、送液手段による送液を停止する。送液手段による送液を停止すると、流量値F(R)が低下する。そして、流量値F(R)が制御下限流量F(L)を下回ると、送液手段による送液を再開する。この操作を繰り返すことで、目的流量F(T)付近での安定的な送液が行なわれる(
図19参照)。本発明の送液方法では、駆動流量F(S)は目的流量F(L)よりも大きな値を設定する。そのため、流量値F(R)が制御下限流量F(L)を下回ることで、送液手段による送液が再開すると、速やかに流量値F(R)が制御上限流量F(H)に達し、送液手段による送液が停止すると、速やかに流量値F(R)が制御下限流量F(L)に達し、送液手段による送液が再開される。結果、送液手段によるFlow(送液)/Stop(停止)が頻繁(例えば1秒間に数回)に繰り返されることになり、目的流量F(T)付近での極めて安定的な送液が実現される。
【0027】
また本発明の送液方法は、圧力が一定になるまでの時間を大幅に短縮する効果も併せ持っている。
図20はその効果を模式的に示した図である。フィードバック制御を行なわない従来の送液方法では、常に目的流量値で送液手段による液体の送液が実施される。そのため、従来法では、微小流量を送液しようとすると、送液手段による液体の吸引時間も同時に長くなり、圧力が一定するまで(目的流量に達するまで)の間大きな圧力変動が生ずる。一方、本発明の送液方法では、送液開始時から、目的流量よりも大きな流量(駆動流量)で液体が送液される。よって、従来の方法より液体が高速で送液され、結果として、圧力が一定になるまで(目的流量に達するまで)の時間を大幅に短縮することができる。
【0028】
本発明の送液方法を利用した送液装置(以下単に、本発明の送液装置とする)の一例を
図21に示す。
図21の装置は、溶離液(10)を送液する送液ポンプ(1)と、溶離液の流量を測定する流量計(15)と、流量判定手段(16)と、送液ポンプ(1)による液体の吸引/吐出を制御するポンプコントローラ(3)とを備えている。
【0029】
本発明の送液装置に備える送液ポンプ(1)としては、カムを等速回転させて駆動させる一般的なレシプロ式プランジャポンプやクイックリターン式プランジャポンプ(
図2および3)を用いてもよいが、カムを回転させるモータの回転数を可変とし液体吸引時におけるカムの回転速度を液体吐出時におけるカムの回転速度より高速にしたプランジャポンプ(
図7)や、カムの代わりにボールねじを用いてプランジャを往復運動させるプランジャポンプ(
図8および9)を用いたほうが、微小流量送液時でも高速で吸引動作を行なうことでき、流量変動およびそれに伴う圧力変動を最小に抑えることできるため、安定的な送液ができる点で好ましい。
図8に示すプランジャポンプを用いて、本発明の送液方法を行なった場合の模式図を
図22に示す。
【0030】
本発明の送液装置に備える流量計(15)としては、微小流量(具体的には毎分数μL程度)を測定可能な流量計であれば特に限定はないものの、コリオリ式流量計や熱式流量計といった質量流量(g/min)を直接測定可能な流量計が微小流量を高精度に測定できる点で好ましい。中でも熱式流量計は、内部容量を極めて少量にできる点、構造が比較的単純な点、および耐圧性の確保が比較的容易な点で、本発明の送液装置に備える流量計として特に好ましい。熱式流量計の原理を
図34に示す。液体が流れるパイプ(30)に一定熱量を供給するヒータ(29)が巻かれており、液体が流れていない時、T1の位置とT2の位置とが同じ温度になるよう調整する。液体が流れるとT1の位置での温度は液体に熱を奪われるため低下する一方、T2の位置での温度はヒータ(29)により上昇する。このT1の位置とT2の位置との温度差は、液体の質量流量に比例するため、温度検知部(28)によりT1の位置とT2の位置の温度を検知することで液体の質量流量を高精度に測定することができる。なお熱式流量計は流体の熱量に影響を受けるため、環境温度の変動を受けやすい。そのため、熱式流量計を本発明の送液装置に備える場合は、少なくとも温度検知部(28)およびヒータ(29)は恒温槽内に備え、環境温度を一定に保つと好ましい。また熱式流量計は、測定する液体の密度や比熱が異なると容積流量の測定値も変化する。例えば液体クロマトグラフィの溶離液として通常用いられるアセトニトリルの比熱は1.27J/℃・gであり、水の比熱(4.19J/℃・g)とは大きく異なる。そのため、水1mL/minを送液した結果、1mL/minの測定値を示す熱式流量計で、アセトニトリル1mL/minを送液すると、測定値は0.304mL/minとなる。したがって、熱式流量計を本発明の送液装置に備える場合は、使用する液体により事前に流量値を補正する必要がある。流量計(15)で測定された流量は、流量判定手段(16)で設定した流量と比較/演算処理を行なった後、ポンプコントローラ(3)に対して制御信号を送り、それを基づき送液ポンプ(1)の吸引/吐出動作が行なわれる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の送液方法は、送液手段で送液した液体の流量を測定し、前記測定した流量に基づき、前記送液手段での送液制御を行なう送液方法であって、前記送液手段での送液制御が、前記送液手段で送液すべき液体の流量よりも多い流量を送液するよう前記送液手段に指示し、前記測定した流量が前記送液すべき液体の流量よりも一定値以上多い流量となった場合は前記送液手段での送液を停止するよう指示し、前記測定した流量が前記送液すべき液体の流量よりも一定値以上少ない流量となった場合は前記送液手段での送液を再開するよう指示する制御である、ことを特徴としており、毎分数μLから数十μLといった微小流量であっても安定的に送液することができ、また圧力が一定となるまでの時間を大幅に短縮することができる。従って、本発明の送液方法を用いた送液装置を液体クロマトグラフに備えることで、液体クロマトグラフの「マイクロ化」が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】一般的な液体クロマトグラフの構成図である。
【
図2】プランジャポンプの一例および前記ポンプによる吸引/吐出動作を示した図である。
【
図3】レシプロ式プランジャポンプ(a)およびクイックリターン式プランジャポンプ(b)の平面図である。
【
図4】レシプロ式プランジャポンプ(a)およびクイックリターン式プランジャポンプ(b)におけるプランジャ動作ならびに圧力変動の模式図である。
【
図5】高流量時における、レシプロ式プランジャポンプ(a)およびクイックリターン式プランジャポンプ(b)におけるプランジャ動作ならびに圧力変動を示した図である。
【
図6】低流量時における、レシプロ式プランジャポンプ(a)およびクイックリターン式プランジャポンプ(b)におけるプランジャ動作ならびに圧力変動を示した図である。
【
図7】液体吸引時にカムを高速回転させたときの、プランジャポンプにおけるプランジャ動作および圧力変動を示した図である。
【
図8】プランジャポンプの別の例および前記ポンプによる吸引/吐出動作を示した図である。
【
図9】
図8のプランジャポンプにおけるプランジャ動作ならびに圧力変動を示した図である。
【
図10】溶離液の送液ポンプとしてシリンジポンプを用いたときの液体クロマトグラフの一例を示す構成図である。
【
図11】さらにスプリッターを設けたときの液体クロマトグラフの一例を示す構成図である。
【
図12】比例制御によるフィードバック制御を行なう液体クロマトグラフの一例を示す構成図である。
【
図13】
図12の液体クロマトグラフにおける流量変動を示した図である。
【
図14】比例制御によるフィードバック制御のフローチャートを示す図である。
【
図15】低流量時での圧力上昇を加速させるときの流量パターンおよび圧力変動の一例を示した図である。
【
図16】本発明の送液方法を示すフローチャートである。
【
図17】本発明の送液方法における、目的流量と駆動流量との関係の一例を示す図である。
【
図18】本発明の送液方法における、目的流量と駆動流量との関係の一例を示す図である。
【
図19】本発明の送液方法における、流量の変化を模式的に示した図である。
【
図20】本発明の送液方法と、フィードバック制御を行なわない従来の送液方法とで、送液開始時における圧力の上昇を模式的に示した図である。
【
図21】本発明の送液方法を利用した送液装置の一例を示した図である。
【
図22】
図8に示すプランジャポンプを
図21に示す送液装置に備えたときの、プランジャ位置モータ回転速度および圧力変動を模式的に示した図である。
【
図23】実施例で使用した液体クロマトグラフの構成図である。
【
図24】実施例で使用した本発明の送液方法における、目的流量と駆動流量との関係を示した図である。
【
図25】実施例1(A)の結果を示す図である。aはフィードバック制御を行なわない従来の送液方法で送液した場合の送液時間に対する流量(熱式流量計の出力値)変化を、bは本発明の送液方法で送液した場合の送液時間に対する流量変化を、それぞれ示した図である。
【
図26】実施例1(A)の結果を示す図である。aはフィードバック制御を行なわない従来の送液方法で送液した場合の送液時間に対する圧力変化を、bは本発明の送液方法で送液した場合の送液時間に対する圧力変化を、それぞれ示した図である。
【
図27】実施例1(A)の結果のうち、表1の条件7の送液開始付近を拡大した図である。aはフィードバック制御を行なわない従来の送液方法で送液した場合の送液時間に対する流量(熱式流量計の出力値)変化の拡大図であり、bは本発明の送液方法で送液した場合の送液時間に対する流量変化の拡大図である。
【
図28】実施例1(A)の結果のうち、表1の条件7の送液開始付近を拡大した図である。aはフィードバック制御を行なわない従来の送液方法で送液した場合の送液時間に対する圧力変化の拡大図であり、bは本発明の送液方法で送液した場合の送液時間に対する圧力変化の拡大図である。
【
図29】実施例1(B)の結果を示す図である。aはフィードバック制御を行なわない従来の送液方法で送液した場合の送液時間に対する流量(熱式流量計の出力値)変化を、bは本発明の送液方法で送液した場合の送液時間に対する流量変化を、それぞれ示した図である。
【
図30】実施例1(B)の結果を示す図である。aはフィードバック制御を行なわない従来の送液方法で送液した場合の送液時間に対する圧力変化を、bは本発明の送液方法で送液した場合の送液時間に対する圧力変化を、それぞれ示した図である。
【
図31】実施例1において、流量に対する圧力変化率(脈動の大きさ)をまとめた図である。
【
図32】実施例2で得られたクロマトグラムを示す図である(溶離液送液量:毎分3μL)。aはフィードバック制御を行なわない従来の送液方法で送液した場合のクロマトグラムであり、bは本発明の送液方法で送液した場合のクロマトグラムである。
【
図33】実施例2において、流量に対する溶出時間の再現性をまとめた図である。
【
図35】
図23に示す液体クロマトグラフに備えた圧力センサの詳細図である。
【実施例】
【0033】
以下、液体クロマトグラフに備える溶離液の送液装置を例として、本発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。
【0034】
実施例1
液体クロマトグラフにおいて、微小流量の溶離液を送液する際の、流量変化および圧力変化を確認した。
【0035】
(A)低圧条件下での送液
液体クロマトグラフとして
図23に示す装置を用いた。
図23に示す液体クロマトグラフは、溶離液(10)、送液ポンプ(1)、ダンパ(26)/圧力センサ(2)、試料導入バルブ(4)、分析カラム(7)、検出器(9)を、前記順に直列に備え、さらに流量計(15)を圧力センサ(2)と試料導入バルブ(4)の間に備えることで送液ポンプ(1)による溶離液(10)の流量をリアルタイムでモニタできる構成とした。ダンパ(26)/圧力センサ(2)は
図35に示すような一体型のものを使用した。隔膜(32)と緩衝液(31)と設けた隔膜式ダンパ(26)の片面に圧力検知部(33)を設け、溶離液が直接圧力検知部(33)に接しない構成となっている。圧力センサ(2)は長野計器製KM15−S07 50PMAを使用した。送液ポンプ(1)は
図8に示すプランジャポンプを、試料導入バルブ(4)は2位置切り替えバルブを、試料ループ(5)は0.5μL容量のループを、それぞれ用いた。低圧条件下での分析カラム(7)として東ソー製TSKgel ODS−100V(内径1.0mmI.D.、長さ35mm、粒径3μm)を用いた。検出器(9)は東ソー製紫外可視検出器UV−8020(マイクロセル)(検出波長:254nm)を、溶離液(10)は60%アセトニトリル水溶液を、それぞれ用いた。流量計(15)は、熱式流量計であるBronkhorst製LIQUID Mass Flow Meters L13を、45℃に制御された恒温槽(17)に収納した状態で使用した。送液ポンプ(1)による実流量は検出器(9)からの廃液を、天秤(18)上の計量容器(19)に受け、その重量変化から算出した。なお天秤による時間当たりの重量変化から求めた流量値は、温度による影響や液流による誤差等を含む。そのため、精度良く絶対値を測定することが難しく、本発明での流量計測値と差異が生じることがある。したがって、天秤による流量値はあくまで参考値として使用している。
【0036】
図23に示す液体クロマトグラフにおいて、本発明の送液方法を採用する場合は、流量計(15)のアナログ出力を流量判定手段(16)に入力し、流量判定手段(16)であるプログラマブルリレーのON/OFF信号をポンプコントローラ(3)に送り、送液ポンプ(1)のFlow(送液)/Stop(停止)をフィードバック制御することで、溶離液(10)の流量を制御する。なお流量判定手段(16)であるプログラマブルリレーは、制御上限流量値を超えた場合にOFF、制御下限流量値を下回った場合にONとなる。送液ポンプ(1)の駆動流量は、目的流量が7μL/min以下では38.6μL/minに設定し、目的流量が7μL/min以上では目的流量値に概ね31.6μL/minを加算した値に設定した(
図24)。
【0037】
【表1】
表1に示す7つの条件で、フィードバック制御を行なう本発明の送液方法で送液した場合と、フィードバック制御を行なわない従来の送液方法で送液した場合とで、送液時間に対する流量変化(熱式流量計の出力値)を確認した結果を
図25に、送液時間に対する圧力変化を確認した結果を
図26に、それぞれ示す。また表1に示す条件の中で最も流量の少ない、条件7における送液開始時付近を拡大した図を
図27(流量変化)および
図28(圧力変化)に示す。
【0038】
フィードバック制御を行なわない従来の送液方法で送液した場合、送液ポンプによる溶離液の吸引/吐出は周期的に行なわれ、流量(熱式流量計の出力値)および圧力もそれと同期する形で周期的に変動する(
図25a、
図26a、
図27aおよび
図28a)。また流量が少なくなるとともに、その周期が長くなる。一方、本発明の送液方法で送液した場合は、目的流量よりも約30μL/min多い流量で送液ポンプを駆動させる。そのため、送液ポンプによる送液のFlow/Stopが短時間で切り替わり、送液ポンプによる吸引操作も高速で行なわれることから、流量および圧力の落ち込みを抑えることができる(
図25b、
図26b、
図27bおよび
図28b)。
【0039】
また従来の送液方法で送液した場合、送液開始から圧力が一定になるまでに長い時間を要しており、特に流量が低い場合、顕著にあらわれる(
図26a)。具体的には、表1に示す条件の中で最も流量の低い、条件7では圧力が一定(0.3MPa)になるまで10分程度要している(
図28a)。一方、本発明の送液方法で送液した場合は、目的流量よりも約30μL/min多い流量で送液ポンプを駆動させるため、圧力が一定になるまでの時間が短縮される。具体的には、表1の条件7において、圧力が一定(0.3MPa)になるまでに要する時間は1分程度である(
図28b)。
【0040】
(B)高圧条件下での送液
前記(A)よりも高圧条件下で送液する場合における、本発明の送液方法の有用性を評価した。使用した液体クロマトグラフは、高圧条件下での分析カラム(7)として東ソー製TSKgel ODS−100V(内径0.3mmI.D.、長さ90mm、粒径3μm)を用いたほかは、実施例1と同じである。なお本条件では、流量3μL/min付近において実施例1の約10倍にあたる、約3MPaの圧力が生じる。
【0041】
表1の条件7で、本発明の送液方法で送液した場合と、フィードバック制御を行なわない従来の送液方法で送液した場合とで、送液時間に対する流量変化(熱式流量計の出力値)を確認した結果を
図29に、送液時間に対する圧力変化を確認した結果を
図30に、それぞれ示す。従来の送液方法で送液した場合、送液開始から圧力が一定(3MPa)になるまでに約50分要する(
図30a)。一方本発明の送液方法で送液した場合、目的流量よりも約30μL/min多い流量で送液ポンプを駆動させるため、圧力が一定(3MPa)になるまでに要する時間は3分程度である(
図30b)。すなわち高圧条件下では、本発明の送液方法を行なうことによる効果が、より顕著にあらわれることがわかる。
【0042】
(A)および(B)で実施した送液における、圧力が一定となった後の圧力変動率(脈動の大きさ)をまとめた結果を
図31に示す。本発明の送液方法で送液することで、フィードバック制御を行なわない従来の送液方法で送液した場合と比較し、低圧条件下(A)では約40%、高圧条件下(B)では約80%、それぞれ低減させることができる。すなわち、本発明の送液方法で送液すると、脈動が低減するため、実流量変動が少なくなり、溶出時間の再現性の向上が期待できる。
【0043】
実施例2
本発明の送液方法による、液体クロマトグラフによる分析への影響を確認した。使用した液体クロマトグラフは実施例1(A)で使用したものと同一である。溶離液(10)は60%アセトニトリル水溶液を、試料(6)はp−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸ブチルおよびp−ヒドロキシ安息香酸ヘキシルの混合液を、それぞれ用いた。溶離液(10)の送液量は毎分3μLとした(表1の条件7に相当)。前記試料を10回分析し、得られたクロマトグラムを
図32に示す。
図32のうち、本発明の送液方法で送液した場合のクロマトグラムを
図32bに、フィードバック制御を行なわない従来の送液方法で送液した場合のクロマトグラムを
図32aに、それぞれ示す。
【0044】
また溶離液(10)の送液量を、毎分15μL(表1の条件5に相当)、毎分7μL(表1の条件6に相当)または毎分3μL(表1の条件7に相当)で前記試料を10回分析して得られた、各成分の溶出時間、および溶出時間の再現性(Cv[%])を示した結果を表2(毎分15μL)、表3(毎分7μL)および表4(毎分3μL)に示す。さらに溶離液(10)の送液量に対する溶出時間の再現性(Cv[%])をプロットした図を
図33に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
フィードバック制御を行なわない従来の送液方法で送液した場合、流量が低くなるにつれて溶出時間の再現性(Cv[%])が悪くなる傾向にある。特に毎分3μLの微小流量で送液した場合、溶出時間の再現性(Cv[%])は0.67%から1.2%と極端に悪くなり、実際の分析では許容できないレベルとなっている。一方、本発明の送液方法で送液する場合、毎分3μLから40μLまでの広い範囲で、溶出時間の再現性(Cv[%])は0.2%程度を維持しており、微小流量を送液する液体クロマトグラフであっても、試料中に含まれる成分を再現性高く分析することができる。
【符号の説明】
【0048】
1:送液ポンプ
2:圧力センサ
3:ポンプコントローラ
4:試料導入バルブ
5:試料ループ
6:試料
7:分析カラム
8:カラム恒温槽
9:検出器
10:溶離液
11:抵抗管
12:分岐ブロック
13:シリンジポンプ
14:流路切り替えバルブ
15:流量計
16:流量判定手段
17:恒温槽
18:天秤
19:計量容器
20:プランジャ
21:逆止弁
22:カム
23:ボールねじ
24:ポンプヘッド
25:モータ
26:ダンパ(脈動除去装置)
27:流量判定部
28:温度検知部
29:ヒータ
30:パイプ
31:緩衝液
32:隔膜
33:圧力検知部
34:溶離液通過部