特許第5958119号(P5958119)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958119
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用正極組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20160714BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20160714BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20160714BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/48
   H01M4/36 E
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-144594(P2012-144594)
(22)【出願日】2012年6月27日
(65)【公開番号】特開2014-10912(P2014-10912A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】北野 勝行
(72)【発明者】
【氏名】小林 謙一
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−043637(JP,A)
【文献】 特開2008−078139(JP,A)
【文献】 特表2008−547156(JP,A)
【文献】 特開2009−009753(JP,A)
【文献】 特開2007−080738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiNiMn1−b(但し1<a<1.2、0.5≦b<1、0≦c≦0.02、MはW、Nb、Zr及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物と、五酸化バナジウムとを含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物及び前記五酸化バナジウムが、それぞれ実質的に独立した粒子として存在しており、
前記リチウム遷移金属複合酸化物に対する前記五酸化バナジウム中の遷移金属元素の割合が0.5mol%〜10mol%である、非水電解液二次電池用正極組成物。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物に対する前記五酸化バナジウム中の遷移金属元素の割合が2mol%〜10mol%である、請求項に記載の正極組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池用正極組成物に関する。本発明は特に、非水電解液二次電池の放電特性及び出力特性を向上させることができる正極組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラ、携帯電話、ノートパソコン等の携帯機器の普及及び小型化が進み、その電源用にリチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池が用いられるようになってきている。更に、最近の環境問題への対応から、電気自動車等の動力用電池としても注目されている。
【0003】
リチウム二次電池用の正極活物質としては、LiCoO(コバルト酸リチウム)が4V級の二次電池を構成できるものとして一般的に広く採用されている。LiCoOを正極活物質として用いた場合、放電容量が約160mA/gで実用化されている。
【0004】
しかし、LiCoOの原料であるコバルトは希少資源であり且つ偏在しているため、コストが高く原料供給について不安が生じる。
【0005】
こうした事情に応じ、LiNiO(ニッケル酸リチウム)も検討されている。LiNiOは実用的には4V級で放電容量約200mA/gの二次電池を実現可能であるが、充放電時の正極活物質の結晶構造の安定性に難がある。
【0006】
そこでLiNiOのニッケル原子を他元素で置換し、結晶構造の安定性を向上させつつLiCoO並みの放電容量を低コストで実現する研究もなされている。例えばLiNi0.5Mn0.5等のニッケルマンガン酸リチウムでは約160mA/gの放電容量が得られている。
【0007】
特許文献1には、リチウム遷移金属複合酸化物と、V等の添加物とを有する正極を用いることにより、チタン含有金属複合酸化物を負極とする非水電解質電池における正極規制の放電終了が防止され、サイクル特性が向上することが記載されている。添加物として用いられているのは、充電状態の正極活物質である。
【0008】
特許文献2には、非水電解質二次電池の正極に含まれるリチウムニッケル複合酸化物粒子の表面をVで覆うことにより、正極と電解液との界面における電解液の分解反応が抑制され、サイクル特性が向上することが記載されている。特許文献2において、Vによる表面被覆は、リチウムニッケル複合酸化物粒子とVとを混合し、その混合物を680〜720℃に加熱することで達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−80738号公報
【特許文献2】特開平9−293508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ニッケルマンガン酸リチウムは、希少なコバルトを用いないのでニッケルコバルトマンガン酸リチウムと比べてコスト面で有利であるが、放電容量や出力特性の面で不利になる傾向にある。そのため、コストと放電容量及び出力特性との両立ができないという問題があった。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、ニッケルマンガン酸リチウムを含む非水電解液二次電池用正極組成物であって、電池の放電容量及び出力特性を向上させることができ、コストと電池性能とを両立させることができる正極組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明者らは鋭意検討を重ね、特定組成のニッケルマンガン酸リチウムと、リチウムイオンを挿入脱離可能な特定の遷移金属酸化物とを含む正極組成物を正極に用いた場合に、ニッケルマンガン酸リチウムを単独で用いた場合と比較して、非水電解液二次電池の放電容量及び出力特性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の非水電解液二次電池用正極組成物は、
一般式LiNiMn1−b(但し1<a<1.2、0.5≦b<1、0≦c≦0.02、MはW、Nb、Zr及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物と、
リチウムイオンの挿入脱離が可能であり、且つ1種類の遷移金属元素と酸素元素とからなる単純遷移金属酸化物とを含むことを特徴とする。
【0014】
前記リチウム遷移金属複合酸化物及び前記単純遷移金属酸化物は、それぞれ実質的に独立した粒子として存在していることが好ましい。
【0015】
前記リチウム遷移金属複合酸化物に対する前記単純遷移金属酸化物中の遷移金属元素の割合は、好ましくは10mol%以下であり、より好ましくは2mol%〜10mol%である。
【0016】
前記単純遷移金属酸化物は、好ましくは酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ニッケル及び酸化鉄からなる群より選択される少なくとも1種であり、より好ましくは酸化バナジウムである。前記酸化バナジウムは、五酸化バナジウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の正極組成物は上記の特徴を備えているため、ニッケルマンガン酸リチウムを単独で使用する場合と比較して、電池の放電容量および出力特性を向上させることができる。このため、本発明の正極組成物は、コストと電池性能とを両立させることができる。
本発明の正極組成物は、特に、非水電解液二次電池の初期放電容量及び低温出力特性を向上させるのに有用である。
更に、本発明の正極組成物は、非水電解液二次電池の初期効率を向上させることも可能である。
【0018】
上記構成と効果との関係は、特定の理論にとらわれるものではないが凡そ以下の通りであると推測される。
本発明の正極組成物は、ニッケルマンガン酸リチウム(以下、活物質Iとも称する)及びリチウムイオンの挿入脱離が可能であり、且つ1種類の遷移金属元素と酸素元素とからなる単純遷移金属化合物(以下、活物質IIとも称する)の2種類の異なる正極活物質を含むものである。活物質IIは活物質Iと比較して電気抵抗が小さいので、放電時に活物質IIに流れる単位質量当たりの電流は、活物質Iに流れる単位質量当たりの電流と比較して大きい。このため、正極に流れる電流が等しい場合、本発明の正極組成物を用いた二次電池において放電時に活物質Iに流れる電流は、活物質Iのみからなる正極組成物を用いた場合に活物質Iに流れる電流と比較して小さくなる。放電時に活物質Iに流れる電流が小さくなると、活物質Iは実質的に低レートで放電していることになり、その結果、本発明の正極組成物における活物質Iの放電容量は、活物質Iのみからなる正極組成物における活物質Iの放電容量よりも大きくなる。このように活物質Iの放電容量が大きくなることにより、正極組成物全体として放電容量が大きくなる。更に、本発明の正極組成物を用いることにより、上述のように放電容量が増加するので、初期放電容量もまた増加し、その結果、初期効率も向上し得る。
【0019】
また、上述のように放電時に活物質Iに流れる電流が緩和されること、および活物質IIが高出力特性を有することにより、本発明の正極組成物を用いた非水電解液二次電池は優れた出力特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態及び実施例について詳細に説明する。但し、本発明はこれら実施の形態及び実施例に限定されるものではない。
【0021】
本発明の非水電解液二次電池用正極組成物は、一般式LiNiMn1−b(但し1<a<1.2、0.5≦b<1、0≦c≦0.02、MはW、Nb、Zr及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(活物質I)と、リチウムイオンの挿入脱離が可能であり、且つ1種類の遷移金属元素と酸素元素とからなる単純遷移金属酸化物(活物質II)とを含む。
【0022】
本発明の正極組成物における活物質Iは、遷移金属としてニッケル及びマンガンを含み、且つコバルトを含有しないニッケルマンガン酸リチウムである。なお、本明細書において、「ニッケルマンガン酸リチウム」は、ニッケルマンガン酸リチウムのニッケルサイト及び/又はマンガンサイトを微量の他の元素で置換したものも含む。aの値は大きいほど充放電容量及び出力特性が向上するが、大きすぎると活物質Iを使用可能な形態で得ることが困難になる。aの値が1<a<1.2の範囲内であると、充放電容量及び出力特性が向上し、且つ活物質Iを使用可能な形態で得ることができる。aの値のより好ましい範囲は1.10<a<1.18である。bの値は大きいほど出力特性が向上するが、同時に活物質Iの合成が困難になり、未反応のリチウム化合物が生成し易くなる。bの値が0.5≦b<1の範囲内であると、出力特性が向上し、且つ活物質Iの合成が容易であり、未反応のリチウム化合物の生成が抑制される。bの値のより好ましい範囲は0.5<b<0.7である。ニッケルサイト及びマンガンサイトは2mol%程度までであれば他の元素で置換してもよい。従って、cの値は0≦c≦0.02の範囲内である。置換元素MがW、Nb、Zr及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが、出力特性の向上の点で好ましい。
【0023】
上述のニッケルマンガン酸リチウム以外のリチウム遷移金属複合酸化物、例えばニッケルコバルトマンガン酸リチウムを活物質Iとして使用した場合には、本発明の効果を得ることはできない。
【0024】
本発明の正極組成物における活物質IIは、リチウムイオンの挿入脱離が可能であり、且つ1種類の遷移金属元素と酸素元素とからなる単純遷移金属酸化物である。活物質IIは、活物質Iと共に存在することで活物質Iの放電容量の増加に寄与する。なお、本明細書において、「単純遷移金属酸化物」は、1種類の遷移金属元素と酸素元素とからなる遷移金属酸化物を意味し、一般式L(Lは遷移金属元素、x及びyは任意の整数)で表される。本発明において用いられる活物質IIとして、例えば、V等の酸化バナジウム、MnO等の酸化マンガン、CoO等の酸化コバルト、NiO等の酸化ニッケル、FeO等の酸化鉄が挙げられる。
リチウムイオンの挿入脱離が可能である遷移金属酸化物としては、上述のような単純遷移金属酸化物の他に、例えば、FePO等のリン酸鉄、Fe(P等の二リン酸鉄及びFe(SO等の硫酸鉄も存在している。本発明者らは、このような遷移金属のオキソ酸塩あるいは複酸化物を活物質IIの代わりに使用した場合には本発明の効果を得ることができず、上述のような単純遷移金属酸化物を活物質IIとして使用した場合にのみ、本発明の効果を得ることができることを見出した。
【0025】
活物質IIの代わりに遷移金属のオキソ酸塩または複酸化物を用いた場合に本発明の効果が得られない理由としては、特定の理論に限定されるものではないが、以下のことが推測される。
本発明において使用される活物質II(単純遷移金属酸化物)は活物質Iと比較して電気抵抗が小さいので、放電時に活物質IIに流れる単位質量当たりの電流は、活物質Iに流れる単位質量当たりの電流と比較して大きい。このため、本発明の正極組成物を用いると、放電時に活物質Iに流れる電流を小さくすることができ、正極組成物全体の放電容量を大きくすることができる。
遷移金属酸化物の複酸化物やオキソ酸塩は一般に、活物質IIと比較して電気抵抗が大きい傾向にある。そのため、活物質IIの代わりにこのような複酸化物またはオキソ酸塩を用いた場合、放電時に活物質Iに流れる電流を小さくすることができず、従って、活物質Iの放電容量および正極組成物自体の放電容量を大きくすることができないと考えられる。
【0026】
本発明の正極組成物を用いた非水電解液二次電池は、上述のように放電容量が増加するので、初期放電容量もまた増加し、その結果、初期効率も向上し得る。
また、上述のように放電時に活物質Iに流れる電流が緩和されること、および活物質IIが高出力特性を有することにより、本発明の正極組成物を用いた非水電解液二次電池は優れた出力特性を有する。
【0027】
VO、V、VおよびV等の酸化バナジウムは、作動電圧がニッケルマンガン酸リチウムのそれに近いので、活物質IIとして好適に用いることができる。また、酸化バナジウムは一般に高い放電容量を有するので、酸化バナジウムを活物質IIとして使用すると、放電容量がより増加し、出力特性がより向上するので好ましい。更に、五酸化バナジウム(V)は優れた負荷特性を有するので、Vを活物質IIとして使用すると、放電容量だけでなく負荷特性も向上するので好ましい。
【0028】
本発明の正極組成物において、活物質I及び活物質IIは、それぞれ実質的に独立した粒子として存在していることが好ましい。
本明細書において、活物質I及び活物質IIがそれぞれ「実質的に独立した粒子として存在している」とは、活物質Iの粒子と、活物質IIの粒子とが、物理的又は化学的結合によって一体化されていないことを意味する。
活物質Iおよび活物質IIの内、一方の活物質が他方の活物質で被覆される等、両者が一体化されていると、活物質Iから活物質IIへのリチウムイオンの移動がおこり、その結果、電気的に不活性なリチウム化合物が生成される可能性がある。活物質Iと活物質IIとがそれぞれ独立した粒子として存在していると、そのようなリチウムイオンの移動およびリチウム化合物の生成を抑制することができる。更に、活物質I及び活物質IIは、正極組成物において全体として均一に分布していると、電池特性がより向上するので好ましい。
【0029】
正極組成物中の活物質IIの量が多すぎると、負荷特性を向上させる効果が小さくなる虞がある。また、活物質IIは初期充電に関与しないので、活物質IIの量が多すぎると、初期充電容量が減少し、且つ初期放電容量が増加する傾向にある。そのため、初期効率が100%を超えて、二次電池全体に何らかの不利益をもたらすこともあり得る。従って、正極組成物中の活物質IIの量を適宜調節することが好ましい。本発明の正極組成物における活物質IIの含有量は、リチウム遷移金属複合酸化物(活物質I)に対する単純遷移金属酸化物(活物質II)中の遷移金属元素の割合が10mol%以下となるような量であれば、負荷特性を向上させる効果が高く、且つ初期効率を100%未満とすることができるので好ましい。活物質Iに対する活物質II中の遷移金属元素の割合は、より好ましくは2mol%〜10mol%である。
【0030】
次に本発明の正極組成物の作製方法について説明する。
本発明の活物質I及び活物質IIは、公知の手法を用いて適宜作製することができるが、市販品を用いてもよい。
本発明の正極組成物は、活物質Iと活物質IIとを混合することによって得られる。混合手法は、極端な分布の偏りがない程度に混合することができるものであればよく、例えば、活物質I及びIIを袋に入れて手作業で混合する程度で十分である。ミキサー等を用いて混合を行ってもよいが、活物質Iと活物質IIとが固着又は融着したり、活物質I又は活物質IIの何れか一方が他方を被覆したりすることがないように、混合時間やミキサーの回転速度等を適切に調節することが好ましい。
【0031】
以下、実施例にてより具体的な例を説明する。
【実施例1】
【0032】
炭酸リチウム0.58mol及び中央粒径4μmのニッケルマンガン複合酸化物(Ni/Mn=6/4(モル比))1.00molを混合し、大気雰囲気中890℃で9時間焼成した。焼成後焼成品を解砕、粉砕し、#220メッシュの乾式篩(目開き約70μm)に通し、組成Li1.16Ni0.60Mn0.40のニッケルマンガン酸リチウム粒子(中央粒径4μm)を得た。このニッケルマンガン酸リチウム粒子を実施例1の活物質Iとして使用した。
【0033】
中央粒径0.5μmのV粒子を実施例1の活物質IIとして使用した。活物質I及び活物質IIを、活物質Iに対する活物質II中の遷移金属元素(バナジウム)の割合が0.5mol%となるように袋に入れ、袋内で撹拌・混合し、実施例1の正極組成物を得た。
【実施例2】
【0034】
活物質I及び活物質IIを、活物質Iに対する活物質II中のバナジウムの割合が2.0mol%となるように混合した以外は実施例1と同様の手順で、実施例2の正極組成物を得た。
【実施例3】
【0035】
活物質I及び活物質IIを、活物質Iに対する活物質II中のバナジウムの割合が5.0mol%となるように混合した以外は実施例1と同様の手順で、実施例3の正極組成物を得た。
【実施例4】
【0036】
活物質I及び活物質IIを、活物質Iに対する活物質II中のバナジウムの割合が10mol%となるように混合した以外は実施例1と同様の手順で、実施例4の正極組成物を得た。
【0037】
[比較例1]
実施例1の活物質Iのみを比較例1の正極組成物として使用した。
【0038】
[比較例2]
中央粒径0.5μmのFe(SO粒子を活物質IIとして使用し、活物質I及び活物質IIを、活物質Iに対する活物質II中の鉄の割合が5.0mol%となるように混合した以外は実施例1と同様の手順で、比較例2の正極組成物を得た。
【0039】
[比較例3]
実施例1の活物質I及び活物質IIを、活物質Iに対する活物質II中のバナジウムの割合が5.0mol%となるように袋に入れ、袋内で均一に分散混合した後、ミキサーで攪拌した。得られた混合物を580℃で熱処理し、ニッケルマンガン酸リチウム粒子の表面がV粒子で被覆された比較例3の正極組成物を得た。
【0040】
[比較例4]
炭酸リチウム0.58mol及び中央粒径6μmのニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Ni/Co/Mn=5/2/3(モル比))1.00molを混合し、大気雰囲気中880℃で9時間焼成した。焼成後焼成品を解砕、粉砕し、#220メッシュの乾式篩(目開き約70μm)に通し、組成Li1.16Ni0.50Co0.20Mn0.30のニッケルコバルトマンガン酸リチウム粒子(中央粒径4μm)を得た。これを比較例4の活物質Iとして使用した。
【0041】
中央粒径0.5μmのV粒子を活物質IIとして使用した。活物質I及び活物質IIを、活物質Iに対する活物質II中のバナジウムの割合が5.0mol%となるように袋内で撹拌・混合し、比較例4の正極組成物を得た。
【0042】
[比較例5]
比較例4の活物質Iのみを比較例5の正極組成物として使用した。
【0043】
[電池特性の評価]
以下の要領で評価用の二次電池を作製し、各種評価に用いた。
【0044】
[電池抵抗評価用二次電池の作製]
正極組成物の粉末90重量%、導電剤となる炭素粉末5重量%、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)のノルマルメチルピロリドン(NMP)溶液(PVDF量として5重量%)5重量%を混練してペーストを調製し、これをアルミニウム箔からなる集電体に塗布し乾燥させ、圧延して正極板とした。
【0045】
負極活物質として黒鉛材料を用いた。負極活物質の粉末97.5重量%、カルボキシメチルセルロース(CMC)1.5重量%、及びスチレンブタジエンゴム(SBR)1.0重量%を水に分散し、混練してペーストを調製し、これを銅箔からなる集電体に塗布し乾燥させ、圧延して負極板とした。
【0046】
エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とを体積比3:7で混合して混合溶媒を調製した。得られた混合溶媒に電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解し、濃度1mol/lの非水電解液を調製した。
【0047】
セパレータとして多孔性ポリエチレンフィルムを用いた。
【0048】
正極板及び負極板にリード電極を取り付け、正極、セパレータ、負極の順に重ねた。これらをラミネートパックに収納し、電解液を注入してラミネートパックを封止し、ラミネート型二次電池を得た。これを電池抵抗の評価に用いた。
【0049】
[充放電容量評価用二次電池の作製]
負極活物質として金属リチウムを用いた。金属リチウムを薄いシート状に成型して負極板とした。正極板、セパレータ及び電解液は電池抵抗評価用二次電池と同じものを用いた。
【0050】
正極板にリード電極を取り付け、負極、セパレータ、正極を順に容器に収納した。負極はステンレス製の容器底部に電気的に接続し、容器底部を負極端子とした。セパレータはテフロン(登録商標)製の容器側部によって固定した。正極のリード電極の先端は容器外部に導出し、正極端子とした。正極及び負極の端子は、容器側部によって電気的に絶縁されていた。収納後電解液を注入し、ステンレス製の容器蓋部によって封止し、密閉型の試験電池を得た。これを充放電容量の評価に用いた。
【0051】
[電池抵抗の測定]
電池抵抗評価用二次電池を用いて、以下の要領で電流及び電圧を測定し、電池抵抗を求めた。
【0052】
測定温度−25℃において、満充電電圧を4.2Vとして充電深度50%まで定電流充電し、その後特定の電流値でパルス放電を行った。パルスは10秒印加後開放10分で放電のみ行った。パルス放電の電流値iは0.04A、0.06A、0.08A及び0.10Aとした。電流値iをグラフ横軸に、パルス放電10秒後の電圧値Vをグラフ縦軸にそれぞれプロットし、i−Vプロットにおいて直線線形が保たれる電流範囲で傾きの絶対値を求め、電池抵抗R(−25℃)とした。R(−25℃)の値が小さいほど、低温出力特性が高いことを意味する。
【0053】
次に、充放電容量評価用二次電池を用いて、以下の要領で初期充放電容量及び負荷放電容量を測定した。
【0054】
[初期充放電容量の測定]
満充電電圧4.3V、充電負荷0.2C(1C:満充電の状態から1時間で放電を終了させる電流値)で定電流定電圧充電し、満充電電圧までに蓄積した電荷を初期充電容量とした。次いで、放電電圧2.75V、放電負荷0.2Cで定電流放電し、放電電圧までに放出した電荷を初期放電容量とした。初期充電容量に対する初期放電容量の比を初期効率とした。
【0055】
[負荷放電容量の測定]
満充電電圧を4.3V、放電電圧を2.75Vとし、放電負荷を0.2C、1C、3Cの順に変化させて、それぞれ充電と放電を行った。3Cのときの放電容量を負荷放電容量とした。初期放電容量に対する負荷放電容量の比を負荷効率とした。負荷効率が高いことは、負荷特性が良好であることを意味する。
【0056】
[正極組成物における活物質Iの初期放電容量の算出]
正極組成物全体の初期放電容量から活物質IIの初期放電容量を差し引き、活物質Iの初期放電容量を算出した。上述の測定条件において、活物質IIの初期放電容量は、正極組成物中の活物質IIの割合によらず一定であると仮定し、Vの初期放電容量を150mAh/g、Fe(SOの初期放電容量を110mAh/gとして計算を行った。
【0057】
実施例1〜4及び比較例1〜5について、正極組成物の詳細を表1に、電池特性を表2に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
活物質Iがニッケルマンガン酸リチウムであり、活物質IIがVである正極組成物を用いた実施例1〜4の二次電池は、ニッケルマンガン酸リチウムのみを含む正極組成物を用いた比較例1の二次電池と比較して、初期充電容量は減少したものの、初期放電容量、初期効率および活物質Iの初期放電容量が増加した。実施例1〜4の初期充電容量が比較例1より減少したのは、初期充電に関与しないVが正極組成物中に存在していることに起因する。また、表2より、実施例1〜4の二次電池は、比較例1と比較して負荷特性及び低温出力特性が向上したことがわかる。
【0061】
実施例1〜4の二次電池において、活物質IIの含有量が多いほど、初期充電容量が小さくなり、低温出力特性が向上し、初期効率が大きくなった。一方、初期放電容量、負荷効率および活物質Iの初期放電容量は、活物質Iに対する活物質II中のバナジウムの割合が5.0mol%である実施例3において最大の値となった。
【0062】
活物質IIとしてVの代わりにオキソ酸塩であるFe(SOを用いた比較例2の二次電池は、実施例1〜4の二次電池と比較して、初期充電容量、初期放電容量、負荷効率及び活物質Iの初期放電容量が小さくなった。このことより、活物質IIが単純酸化物でない場合には本発明の効果が得られないことがわかる。
【0063】
活物質Iの表面が活物質IIで被覆されている比較例3の二次電池は、活物質I及びIIがそれぞれ独立して粒子として存在している実施例1〜4の二次電池と比較して、初期充電容量、初期放電容量、初期効率、負荷効率及び活物質Iの初期放電容量の値が小さくなり、低温出力特性が低下した。このことより、活物質Iおよび活物質IIはそれぞれ実質的に独立した粒子として存在していることが好ましいことがわかる。
【0064】
活物質Iがニッケルコバルトマンガン酸リチウムであり、活物質IIがVである比較例4の二次電池は、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムのみを含有する比較例5の二次電池と比較して、初期効率は高いものの、初期充電容量、初期放電容量、負荷効率及び活物質Iの初期放電容量の値が小さくなり、低温出力特性が低下した。このことより、ニッケルマンガン酸リチウム以外のリチウム遷移金属複合酸化物を活物質Iとして使用した場合には本発明の効果が得られないことがわかる。
【0065】
上述のように、本発明の正極組成物は、コバルトフリーのニッケルマンガン酸リチウムを用いながら、十分な初期放電容量、負荷特性、および低温出力特性を達成することができた。本発明の正極組成物を正極に用いた非水電解液二次電池の初期効率は、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを正極に用いた非水電解液二次電池の初期効率とほぼ同等である。そのため、電池仕様を大幅に変更することなく正極を代替することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の正極組成物を正極に用いた非水電解液二次電池は、コバルトフリーであり、且つ優れた放電容量、出力特性および負荷特性を有する。本発明の正極組成物を正極に用いた非水電解液二次電池は、低温出力特性が特に優れているので、コストと電池性能との両立が厳しく求められる電気自動車等の車載用電池に好適に用いることができる。