【実施例4】
【0036】
活物質I及び活物質IIを、活物質Iに対する活物質II中のバナジウムの割合が10mol%となるように混合した以外は実施例1と同様の手順で、実施例4の正極組成物を得た。
【0037】
[比較例1]
実施例1の活物質Iのみを比較例1の正極組成物として使用した。
【0038】
[比較例2]
中央粒径0.5μmのFe
2(SO
4)
3粒子を活物質IIとして使用し、活物質I及び活物質IIを、活物質Iに対する活物質II中の鉄の割合が5.0mol%となるように混合した以外は実施例1と同様の手順で、比較例2の正極組成物を得た。
【0039】
[比較例3]
実施例1の活物質I及び活物質IIを、活物質Iに対する活物質II中のバナジウムの割合が5.0mol%となるように袋に入れ、袋内で均一に分散混合した後、ミキサーで攪拌した。得られた混合物を580℃で熱処理し、ニッケルマンガン酸リチウム粒子の表面がV
2O
5粒子で被覆された比較例3の正極組成物を得た。
【0040】
[比較例4]
炭酸リチウム0.58mol及び中央粒径6μmのニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Ni/Co/Mn=5/2/3(モル比))1.00molを混合し、大気雰囲気中880℃で9時間焼成した。焼成後焼成品を解砕、粉砕し、#220メッシュの乾式篩(目開き約70μm)に通し、組成Li
1.16Ni
0.50Co
0.20Mn
0.30O
2のニッケルコバルトマンガン酸リチウム粒子(中央粒径4μm)を得た。これを比較例4の活物質Iとして使用した。
【0041】
中央粒径0.5μmのV
2O
5粒子を活物質IIとして使用した。活物質I及び活物質IIを、活物質Iに対する活物質II中のバナジウムの割合が5.0mol%となるように袋内で撹拌・混合し、比較例4の正極組成物を得た。
【0042】
[比較例5]
比較例4の活物質Iのみを比較例5の正極組成物として使用した。
【0043】
[電池特性の評価]
以下の要領で評価用の二次電池を作製し、各種評価に用いた。
【0044】
[電池抵抗評価用二次電池の作製]
正極組成物の粉末90重量%、導電剤となる炭素粉末5重量%、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)のノルマルメチルピロリドン(NMP)溶液(PVDF量として5重量%)5重量%を混練してペーストを調製し、これをアルミニウム箔からなる集電体に塗布し乾燥させ、圧延して正極板とした。
【0045】
負極活物質として黒鉛材料を用いた。負極活物質の粉末97.5重量%、カルボキシメチルセルロース(CMC)1.5重量%、及びスチレンブタジエンゴム(SBR)1.0重量%を水に分散し、混練してペーストを調製し、これを銅箔からなる集電体に塗布し乾燥させ、圧延して負極板とした。
【0046】
エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とを体積比3:7で混合して混合溶媒を調製した。得られた混合溶媒に電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を溶解し、濃度1mol/lの非水電解液を調製した。
【0047】
セパレータとして多孔性ポリエチレンフィルムを用いた。
【0048】
正極板及び負極板にリード電極を取り付け、正極、セパレータ、負極の順に重ねた。これらをラミネートパックに収納し、電解液を注入してラミネートパックを封止し、ラミネート型二次電池を得た。これを電池抵抗の評価に用いた。
【0049】
[充放電容量評価用二次電池の作製]
負極活物質として金属リチウムを用いた。金属リチウムを薄いシート状に成型して負極板とした。正極板、セパレータ及び電解液は電池抵抗評価用二次電池と同じものを用いた。
【0050】
正極板にリード電極を取り付け、負極、セパレータ、正極を順に容器に収納した。負極はステンレス製の容器底部に電気的に接続し、容器底部を負極端子とした。セパレータはテフロン(登録商標)製の容器側部によって固定した。正極のリード電極の先端は容器外部に導出し、正極端子とした。正極及び負極の端子は、容器側部によって電気的に絶縁されていた。収納後電解液を注入し、ステンレス製の容器蓋部によって封止し、密閉型の試験電池を得た。これを充放電容量の評価に用いた。
【0051】
[電池抵抗の測定]
電池抵抗評価用二次電池を用いて、以下の要領で電流及び電圧を測定し、電池抵抗を求めた。
【0052】
測定温度−25℃において、満充電電圧を4.2Vとして充電深度50%まで定電流充電し、その後特定の電流値でパルス放電を行った。パルスは10秒印加後開放10分で放電のみ行った。パルス放電の電流値iは0.04A、0.06A、0.08A及び0.10Aとした。電流値iをグラフ横軸に、パルス放電10秒後の電圧値Vをグラフ縦軸にそれぞれプロットし、i−Vプロットにおいて直線線形が保たれる電流範囲で傾きの絶対値を求め、電池抵抗R(−25℃)とした。R(−25℃)の値が小さいほど、低温出力特性が高いことを意味する。
【0053】
次に、充放電容量評価用二次電池を用いて、以下の要領で初期充放電容量及び負荷放電容量を測定した。
【0054】
[初期充放電容量の測定]
満充電電圧4.3V、充電負荷0.2C(1C:満充電の状態から1時間で放電を終了させる電流値)で定電流定電圧充電し、満充電電圧までに蓄積した電荷を初期充電容量とした。次いで、放電電圧2.75V、放電負荷0.2Cで定電流放電し、放電電圧までに放出した電荷を初期放電容量とした。初期充電容量に対する初期放電容量の比を初期効率とした。
【0055】
[負荷放電容量の測定]
満充電電圧を4.3V、放電電圧を2.75Vとし、放電負荷を0.2C、1C、3Cの順に変化させて、それぞれ充電と放電を行った。3Cのときの放電容量を負荷放電容量とした。初期放電容量に対する負荷放電容量の比を負荷効率とした。負荷効率が高いことは、負荷特性が良好であることを意味する。
【0056】
[正極組成物における活物質Iの初期放電容量の算出]
正極組成物全体の初期放電容量から活物質IIの初期放電容量を差し引き、活物質Iの初期放電容量を算出した。上述の測定条件において、活物質IIの初期放電容量は、正極組成物中の活物質IIの割合によらず一定であると仮定し、V
2O
5の初期放電容量を150mAh/g、Fe
2(SO
4)
2の初期放電容量を110mAh/gとして計算を行った。
【0057】
実施例1〜4及び比較例1〜5について、正極組成物の詳細を表1に、電池特性を表2に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
活物質Iがニッケルマンガン酸リチウムであり、活物質IIがV
2O
5である正極組成物を用いた実施例1〜4の二次電池は、ニッケルマンガン酸リチウムのみを含む正極組成物を用いた比較例1の二次電池と比較して、初期充電容量は減少したものの、初期放電容量、初期効率および活物質Iの初期放電容量が増加した。実施例1〜4の初期充電容量が比較例1より減少したのは、初期充電に関与しないV
2O
5が正極組成物中に存在していることに起因する。また、表2より、実施例1〜4の二次電池は、比較例1と比較して負荷特性及び低温出力特性が向上したことがわかる。
【0061】
実施例1〜4の二次電池において、活物質IIの含有量が多いほど、初期充電容量が小さくなり、低温出力特性が向上し、初期効率が大きくなった。一方、初期放電容量、負荷効率および活物質Iの初期放電容量は、活物質Iに対する活物質II中のバナジウムの割合が5.0mol%である実施例3において最大の値となった。
【0062】
活物質IIとしてV
2O
5の代わりにオキソ酸塩であるFe
2(SO
4)
3を用いた比較例2の二次電池は、実施例1〜4の二次電池と比較して、初期充電容量、初期放電容量、負荷効率及び活物質Iの初期放電容量が小さくなった。このことより、活物質IIが単純酸化物でない場合には本発明の効果が得られないことがわかる。
【0063】
活物質Iの表面が活物質IIで被覆されている比較例3の二次電池は、活物質I及びIIがそれぞれ独立して粒子として存在している実施例1〜4の二次電池と比較して、初期充電容量、初期放電容量、初期効率、負荷効率及び活物質Iの初期放電容量の値が小さくなり、低温出力特性が低下した。このことより、活物質Iおよび活物質IIはそれぞれ実質的に独立した粒子として存在していることが好ましいことがわかる。
【0064】
活物質Iがニッケルコバルトマンガン酸リチウムであり、活物質IIがV
2O
5である比較例4の二次電池は、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムのみを含有する比較例5の二次電池と比較して、初期効率は高いものの、初期充電容量、初期放電容量、負荷効率及び活物質Iの初期放電容量の値が小さくなり、低温出力特性が低下した。このことより、ニッケルマンガン酸リチウム以外のリチウム遷移金属複合酸化物を活物質Iとして使用した場合には本発明の効果が得られないことがわかる。
【0065】
上述のように、本発明の正極組成物は、コバルトフリーのニッケルマンガン酸リチウムを用いながら、十分な初期放電容量、負荷特性、および低温出力特性を達成することができた。本発明の正極組成物を正極に用いた非水電解液二次電池の初期効率は、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを正極に用いた非水電解液二次電池の初期効率とほぼ同等である。そのため、電池仕様を大幅に変更することなく正極を代替することも可能である。