【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0033】
[X線回折法による分析]
単離乾燥した試料を測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製広角X線回折装置「Rint−Ultma」にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲10〜80°の条件で測定を行った。
【0034】
[示差走査熱量分析]
単離乾燥した試料を測定パッチにより秤量し、それをSIIナノ技術示差走査熱量分析測定装置(TG−TDA6300)にセットし、昇温速度を10℃/分として、20℃から1000℃の温度範囲にて窒素雰囲気中または大気中測定を行った。また、試料をSII製示差走査熱量分析測定装置(EXSTER DSC7200)にセットし、昇温速度を10℃/分として室温(25℃)から300℃の範囲内に測定を行った。
【0035】
[透過型電子顕微鏡による微細構造分析]
エタノールで分散された試料をサンプル支持膜に載せ、それを日本電子株式会社製透過型電子顕微鏡装置(JEM−2000FS)にて観察した。
【0036】
[ラマン吸収測定分析]
粉末状のサンプルをガラス板に載せ、反射型ラマン測定装置(RENISHAW、RAMASCOPE)にてスペクトルを測った。
【0037】
<ポリアミンとスズイオンを含有する複合体の調製>
5%の多分岐状ポリエチレンイミン(エポミン、sp−200、株式会社日本触媒製)の水溶液を調製し、その水溶液10mL中に、表1に示した異なるモル濃度の硫酸スズ水溶液10mLを滴下し、その混合液を室温(25℃)下で1時間激しく攪拌した。溶液からの沈殿物を遠心分離器にて単離し(10000rpm、10分)、上澄みを除いた後、蒸留水で三回洗浄した。得られた固形物を90℃で10時間減圧乾燥して、固体粉末を得た。
【0038】
表1に示した様に、水溶液を混合する際に、スズイオンとポリアミン中の窒素とのモル比を増大させるにつれて、収量が増大したが、モル比が0.8になると収率が急に降下した。不溶性ゲル状の複合体の粉末の窒素中で熱分析(TG−DTA)した結果から、例えばSn−0.7の場合(
図1a)、153℃、236℃及び312℃での吸熱ピーク及び755℃及び882℃での放熱ピークが現れ、350℃付近で大きな重量損失が検出され、1000℃までの焼成により、全体の重量損失は78%に達したことが確認できた(
図1b)。また、DSC測定の結果(表2)、当該複合体は室温より高い温度範囲でガラス転移挙動を示した。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
実施例1<金属スズと炭素とのナノシートの合成>
上記で得られた乾燥後の複合体を、窒素雰囲気中、350℃まで焼成した。室温からの昇温速度を5℃/分にし、目標温度での保温時間を3時間に設定した。焼成後、すべての紛体が黒褐色となり、発泡膨張のため焼成前後の大きな体積変化が見られた。
図2に〔Sn−0.7〕複合体の窒素中各温度下にて高温焼成した後のX線回折パターンを示す。350℃で焼成後、XRD測定結果にはそれぞれ27°、31.7°、34.1°、51.9°に回折ピークが検出された。これは硫化スズ(SnS)の国際標準JCPDSデータと一致し、ピーク半値幅値の計算結果から硫化スズ結晶子の平均粒径が5nm以下であることが分かった。650℃で焼成後、硫化スズ由来の回折ピークのほか、30.7°と32.1°にある新たなピークも現れた。これは金属スズ由来の回折ピークと一致し、窒素中650℃の焼成条件下にて一部の硫化スズが分解され、またスズイオンが還元されたことを示唆する。
【0042】
Sn−0.7複合体の窒素中熱分析の結果(
図1)では、高温下、755℃で放熱ピークが現れた。これはより低温焼成による生成物が高温下で分解されたと考えられる。よって、Sn−0.7複合体を、窒素雰囲気中、350℃での加熱発泡後、さらに5℃/分の昇温速度で800℃または1000℃まで焼成した。目標温度での保温時間をそれぞれ1時間以上に設定した。焼成後、サンプルは発泡のゆえ体積が大きく膨大した黒い多孔質体になり、軽く粉砕した後、高比表面積を有する黒粉末を得た。800℃または1000℃で得られた焼成体のX線パターンは
図2に示す。金属スズの結晶体由来の強いピーク(代表的なピークは30.7°、32.1°、44.0°、45.0°、55.4°、62.6°、64.6°にある)が検出された一方、僅かな硫化スズの存在と思われる弱い回折ピークも現れた。X線回折ピークの半値幅による結晶子(一次粒子)サイズの計算結果は、800℃での金属スズ−炭素複合ナノシート材料中に金属スズの一次粒径が約37.5nmであり、1000℃まで焼成すると平均粒径サイズが66nmになったことを示した。透過型電子顕微鏡で800℃焼成後のナノシートの一部に直径約20nmの金属スズナノ粒子の存在を確認した(
図3)。
図4に示したSn−0.7複合体の焼成前後の
13C−NMRスペクトルから、焼成前にはエチレンイミン由来のカーボンピークが検出されていたが、500℃以上の温度で焼成されるとこれらのピークが完全に消失したことを確認できる。これは複合体中の有機成分が500℃以上の温度で完全に熱分解され炭化されたことを示唆する。また、室温(25℃)から300℃の範囲で行った示差式熱分析(DSC)の測定結果から、ナノシート中に存在する金属スズ相が高温融着態から冷却時に再結晶の温度がバルク金属に比べ大きく下回ることが分かった。金属結晶学上には、金属の融点とその再結晶温度間の温度差が過冷度と定義される。この値は、自由エネルギーに影響されるため金属液滴の大きさに反比例となる。今回は、バルク金属スズの過冷度が8.9℃であることに対し、800℃での焼成体であるナノシートの過冷度が104.6℃であり、1000℃での焼成体では107.4℃であった。従って、この過冷度に大幅な変化は、本実施例で作製したナノシート中に金属スズの微粒子(粒径は数十ナノメートル)が大量に存在することを示唆する。
【0043】
TG−DTAの測定結果によると、800℃で得られたナノシート中の無機成分は86%であり、1000℃での焼成体では約55wt%である。これは、温度の上昇につれ金属スズの蒸発量の増加が無機成分減少の主な原因と考えられる。BET測定結果による各条件下で得られたナノシートの比表面積を表3に示す。600℃以下の温度で焼成したナノシートの比表面積が低く、20m
2/g前後であった。800℃で焼成すると比表面積に顕著な増加が検出され、140m
2/gになり、1000℃での一時間焼成後に、その値が220m
2/gに上った。特に、1000℃で4時間焼成後、ナノシートの比表面積がさらに増加し、352m
2/gの非常に高い値が示された。これは、焼成温度の上昇に伴う有機残留物と硫化スズの熱分解及び高温下金属スズの蒸発による大量な気孔の形成に起因したものである。ラマン測定結果には、800℃以上の焼成後のナノシートに、1570cm
−1と1340cm
−1にある二つのラマン振動吸収ピークが検出された。これは、それぞれグラファイト結晶の炭素(Gバンド)とアモルファス炭素(Dバンド)由来の吸収ピークである(
図5)。
【0044】
【表3】
【0045】
実施例2<金属スズと炭素とが複合されたナノシートの合成>
上記で得られたSn−0.3複合体を、窒素雰囲気中、350℃での加熱発泡後、さらに5℃/分の昇温速度で1000℃まで焼成した。目標温度での保温時間をそれぞれ1時間以上に設定した。焼成後、サンプルは発泡のゆえ体積が大きく膨大した黒い多孔質体になり、軽く粉砕後、高比表面積を有する黒粉末を得た。1000℃で得られた焼成体のX線回折測定結果には、金属スズの結晶体由来の強いピーク(代表的なピークは30.7°、32.1°、44.0°、45.0°、55.4°、62.6°、64.6°にある)が検出された。熱分析の結果は、窒素雰囲気下での加熱中に563℃付近に強い発熱ピークが現れ、800℃までに約60wt%の重量損失が発生したことを示した。また、ラマン吸収スペクトルによると、このナノシート中にグラファイト由来のラマン吸収(Gバンド)が検出され、無定形炭素のほかグラファイト炭素結晶体の存在も確認された。
【0046】
実施例3<金属スズと炭素とが複合されたナノシートの合成>
上記で得られたSn−0.5複合体を、窒素雰囲気中、350℃での加熱発泡後、さらに5℃/分の昇温速度で1000℃まで焼成した。目標温度での保温時間をそれぞれ1時間以上に設定した。焼成後、サンプルは黒い多孔質体になり、軽く粉砕後、高比表面積を有する黒粉末を得た。1000℃焼成体のX線回折パターンは、ナノシートに金属スズの結晶体由来の強いX線回折ピークが検出され、また半値幅からの計算結果により金属スズ一次粒子の粒径が45.0nm前後であることが示唆された。
【0047】
実施例4<金属スズと酸化スズとが複合されたナノシートの合成>
上記で得られたSn−0.7複合体を窒素中1000℃で焼成して、黒粉体のナノシートを得た。さらに、この黒粉体を大気中、400℃まで熱処理することにより、一部の金属スズが酸化され、金属スズと酸化スズとが複合化されてなる炭素のナノシートを作製した。各条件下で得られた試料のX線回折パターンは
図6に示す。300℃で熱処理後、2θが30°、33.4°、50.8°及び57.8°等にある新たなピークが現れた。これらのピークが酸化スズ(II)の結晶相のX線回折パターンと一致した。さらに、400℃で熱処理した試料には27.2°、34.4°及び39.2°にある回折ピークが検出された。これは、試料中に微量な酸化スズ(IV)が生成したことを示唆するものである。
【0048】
比較例<硫酸スズとポリビニルアルコールを用いた複合材料の合成>
1gポリビニルアルコール(PVA、数平均分子量1000)を20mlの蒸留水中に完全溶解し、それに20mlの0.58M濃度硫酸スズ溶液を攪拌しながら加えて安定かつ均一な溶液を調整した。この溶液を95℃の乾燥器中にて一晩脱水させてから減圧乾燥を行った後に乾燥体を得た。この乾燥体を窒素雰囲気中、900℃の条件下にて真空炉中で焼成した後、前駆体より体積が顕著に縮んだ灰色粉末を得た。X線回折パターンは、生成物が硫化スズ及び酸化スズ(SnO
2−x)の結晶体であり、金属スズの結晶が検出されなかったことを示した。また、TEM観察結果、焼成物に規則的な形態が観察されなかった。