特許第5958229号(P5958229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5958229ケト酸金属錯体水溶液及びその製造方法並びに複合酸化物粒子の製造方法
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  • 特許5958229-ケト酸金属錯体水溶液及びその製造方法並びに複合酸化物粒子の製造方法 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958229
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】ケト酸金属錯体水溶液及びその製造方法並びに複合酸化物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 59/153 20060101AFI20160714BHJP
   C07C 59/185 20060101ALI20160714BHJP
   C07C 59/19 20060101ALI20160714BHJP
   C07C 59/195 20060101ALI20160714BHJP
   C07C 51/41 20060101ALI20160714BHJP
   C01F 17/00 20060101ALI20160714BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20160714BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20160714BHJP
   C07F 5/00 20060101ALN20160714BHJP
   C07F 5/06 20060101ALN20160714BHJP
   C07F 7/00 20060101ALN20160714BHJP
   C07F 7/28 20060101ALN20160714BHJP
   C09K 11/08 20060101ALN20160714BHJP
   C09K 11/80 20060101ALN20160714BHJP
【FI】
   C07C59/153
   C07C59/185
   C07C59/19
   C07C59/195
   C07C51/41
   C01F17/00 B
   C01G23/00 C
   C01G25/00
   !C07F5/00 D
   !C07F5/06 D
   !C07F7/00 A
   !C07F7/28 F
   !C09K11/08 B
   !C09K11/80CPP
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-208650(P2012-208650)
(22)【出願日】2012年9月21日
(65)【公開番号】特開2014-62072(P2014-62072A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】木下 暢
(72)【発明者】
【氏名】野添 勉
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−84738(JP,A)
【文献】 特開平11−71103(JP,A)
【文献】 特表2012−533512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/00−66/02
C01D 1/00−17/00
C01F 1/00−17/00
C01G 1/00−99/00
C07F 1/00−19/00
C09K 11/00−11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中にカルボキシル基とケトン基またはカルボニル基を有する水溶性ケト酸を配位子とする金属錯体を水に溶解してなるケト酸金属錯体水溶液であって、
前記金属錯体は、2種以上の金属元素またはそのイオンを含有してなり、
前記2種以上の金属元素の組合せは、バリウムとチタンとの組合せ、スカンジウムとジルコニウムとの組合せ、ランタンとユーロピウムとの組合せ、イットリウムとアルミニウムとセリウムとの組合せからなる群から選ばれるいずれか1つであり、
前記水溶性ケト酸は、グリオキシル酸、アセト酢酸、ピルビン酸、レブリン酸からなる群から選ばれるいずれか1つであり、
前記水溶性ケト酸と前記金属元素との混合比は、前記金属元素を金属イオンに換算したときに、前記水溶性ケト酸の前記金属イオンに対する混合比が、前記金属イオンの価数と同じモル数以上となる比率であることを特徴とするケト酸金属錯体水溶液。
【請求項2】
前記金属錯体は、イットリウム及び希土類元素の群から選択される1種または2種以上の元素またはそのイオンと、アルミニウムまたはそのイオンとを含有してなることを特徴とする請求項1記載のケト酸金属錯体水溶液。
【請求項3】
前記水溶性ケト酸は、グリオキシル酸、ピルビン酸、アセト酢酸、レブリン酸の群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1または2記載のケト酸金属錯体水溶液。
【請求項4】
1分子中にカルボキシル基とケトン基またはカルボニル基を有する水溶性ケト酸を水に溶解してなる水溶性ケト酸水溶液に、2種以上の金属塩を添加し混合して、前記水溶性ケト酸を配位子とし2種以上の金属元素またはそのイオンを含有してなるケト酸金属錯体水溶液とし、
前記2種以上の金属元素の組合せは、バリウムとチタンとの組合せ、スカンジウムとジルコニウムとの組合せ、ランタンとユーロピウムとの組合せ、イットリウムとアルミニウムとセリウムとの組合せからなる群から選ばれるいずれか1つであり、
前記水溶性ケト酸は、グリオキシル酸、アセト酢酸、ピルビン酸、レブリン酸からなる群から選ばれるいずれか1つであり、
前記水溶性ケト酸と前記金属元素との混合比は、前記金属元素を金属イオンに換算したときに、前記水溶性ケト酸の前記金属イオンに対する混合比が、前記金属イオンの価数と同じモル数以上となる比率であることを特徴とするケト酸金属錯体水溶液の製造方法。
【請求項5】
1分子中にカルボキシル基とケトン基またはカルボニル基を有する水溶性ケト酸を配位子とし2種以上の金属元素またはそのイオンを含有してなるケト酸金属錯体水溶液を乾燥させて、水溶性ケト酸金属錯体の乾燥物を得、
次いで、この乾燥物を350℃以上かつ600℃以下の温度範囲にて熱分解させ、
次いで、この熱分解生成物を、該熱分解生成物が結晶化する温度以上の温度にて加熱して複合酸化物粒子を得
前記2種以上の金属元素の組合せは、バリウムとチタンとの組合せ、スカンジウムとジルコニウムとの組合せ、ランタンとユーロピウムとの組合せ、イットリウムとアルミニウムとセリウムとの組合せからなる群から選ばれるいずれか1つであり、
前記水溶性ケト酸は、グリオキシル酸、アセト酢酸、ピルビン酸、レブリン酸からなる群から選ばれるいずれか1つであり、
前記水溶性ケト酸と前記金属元素との混合比は、前記金属元素を金属イオンに換算したときに、前記水溶性ケト酸の前記金属イオンに対する混合比が、前記金属イオンの価数と同じモル数以上となる比率であることを特徴とする複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
前記複合酸化物粒子の結晶構造は、ガーネット構造またはペロブスカイト構造であることを特徴とする請求項記載の複合酸化物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケト酸金属錯体水溶液及びその製造方法並びに複合酸化物粒子の製造方法に関し、更に詳しくは、顔料、触媒、強誘電体、磁性体、発光、蛍光体、イオン伝導体、超伝導体等の各種機能性材料として用いて好適なケト酸金属錯体水溶液及びその製造方法並びに複合酸化物粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複合酸化物粒子は、各種の機能性材料、例えば、顔料、触媒、強誘電体、磁性体、発光・蛍光体、イオン伝導体、超伝導体等として使用されている。
この複合酸化物は、特有の結晶構造をとることが知られており、例えば、ガーネット構造、ぺロブスカイト構造、スピネル構造、マグネトプランバイト構造、ホタル石構造、ブリデライト構造、アパタイト構造、オリビン構造、リシコン構造、ホランダイト構造、バーネサイト構造、デフォッサイト構造、シーライト構造、KNiF構造、NaFeO構造、AlSiO構造、GdFeO構造等をとることで様々な機能を発現するために、高い結晶性が要求される。
【0003】
このような複合酸化物粒子の製造方法としては、古くから、各酸化物粒子や金属炭酸塩粒子または金属水酸化物粒子を混合したのち高温で加熱反応させて得る、いわゆる固相反応の他、水溶液中にて複数種の金属塩を反応させて所望の複合酸化物粒子を得る共沈法、金属アルコキシドを含む溶液を熱分解させて所望の複合酸化物粒子を得るアルコキシド法等が提案され実用化されている。
多くの複合酸化物粒子は、所望の特性を発現させるためには結晶化が必要であり、特に、ガーネット構造やぺロブスカイト構造の複合酸化物においては、結晶構造中における金属イオンの位置や金属イオンの周囲の酸素配位構造によりその特性が大きく変化することが知られている。そこで、得られた複合酸化物に所望の特性を発現させるために、金属イオン及び金属イオンの周囲の酸素配位を所望の位置に位置付けするために何らかの工夫が必要であり、そこで様々な方法が提案されている。
【0004】
例えば、固相反応による製造方法では、酸化物とアルミニウム化合物とフラックスとを含む原料を加熱溶融し、半溶融状態の温度で結晶化させ、複合酸化物粒子を製造する方法等が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
また、CVD法等の気相法では、金属塩を含む原料を高温の酸素気流中に注入して酸化させ結晶化させることで複合酸化物粒子を製造する方法が知られている。
また、熱分解法においては、金属の蓚酸塩、酢酸塩、クエン酸塩等の原料を所望の温度に加熱して熱分解させて複合酸化物粒子を得る方法が知られている。
また、熱分解法の一種としては、錯体重合法のように、2種以上の金属イオンをポリエステル錯体のような有機ポリマーと反応させて有機金属ポリマーを形成することにより、より均一な金属イオンの混合状態とした有機金属ポリマー原料を熱分解させることで複合酸化物を製造する方法も知られている。
このように、複合酸化物粒子を製造する方法としては、固相法、気相法、熱分解法が主として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3785689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の複合酸化物粒子の製造方法においては、例えば、固相法では、複合酸化物粒子を合成する際に高い温度で長時間を要するという問題点があり、気相法では、複数種の金属塩を用いた場合に、金属塩それぞれの酸化温度の違いにより不純物相が発生したり、あるいは不純物が消失せずに残留してしまったり等の問題点があり、熱分解法では、使用できる金属イオン種に制限がある等の問題点や金属錯体塩の熱分解温度の違いにより生成層が不均一になり易い(不純物相生成)等の問題点、各金属イオン錯体塩やポリマーの重合度の差による金属イオン分布の不均一さにより不純物が発生し易い等の問題点があった。
特に、ガーネット構造やぺロブスカイト構造の複合酸化物粒子を得る場合、金属イオンの位置や金属イオンの周囲の酸素配位構造を精密に制御しなければ、所望の特性や機能を発現する複合酸化物粒子を得ることが難しく、製造工程上大きな問題であった。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、2種以上の金属イオンの分布均一性に優れた複合酸化物原料を用い、この複合酸化物原料を熱分解することにより、ガーネット構造やぺロブスカイト構造等の結晶構造が安定しており、特性及び機能にも優れた複合酸化物粒子を容易に生成することができ、しかも、所望の特性や機能を発現することのできるケト酸金属錯体水溶液及びその製造方法並びに複合酸化物粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、1分子中にカルボキシル基とケトン基またはカルボニル基を有する水溶性ケト酸を水に溶解してなる水溶性ケト酸水溶液に、2種以上の金属塩を添加し混合すれば、水溶性ケト酸を配位子とし2種以上の金属元素またはそのイオンを含有してなるケト酸金属錯体水溶液を容易に得ることができ、このケト酸金属錯体水溶液を原料として用い、このケト酸金属錯体水溶液を熱分解させた後、得られた熱分解生成物を、該熱分解生成物が結晶化する温度以上の温度にて加熱することとすれば、特性及び機能に優れた複合酸化物粒子を容易に得ることができ、しかも、得られた複合酸化物粒子は均一性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のケト酸金属錯体水溶液は、1分子中にカルボキシル基とケトン基またはカルボニル基を有する水溶性ケト酸を配位子とする金属錯体を水に溶解してなるケト酸金属錯体水溶液であって、前記金属錯体は、2種以上の金属元素またはそのイオンを含有してなり、前記2種以上の金属元素の組合せは、バリウムとチタンとの組合せ、スカンジウムとジルコニウムとの組合せ、ランタンとユーロピウムとの組合せ、イットリウムとアルミニウムとセリウムとの組合せからなる群から選ばれるいずれか1つであり、前記水溶性ケト酸は、グリオキシル酸、アセト酢酸、ピルビン酸、レブリン酸からなる群から選ばれるいずれか1つであり、前記水溶性ケト酸と前記金属元素との混合比は、前記金属元素を金属イオンに換算したときに、前記水溶性ケト酸の前記金属イオンに対する混合比が、前記金属イオンの価数と同じモル数以上となる比率であることを特徴とする。
【0010】
前記金属錯体は、イットリウム及び希土類元素の群から選択される1種または2種以上の元素またはそのイオンと、アルミニウムまたはそのイオンとを含有してなることが好ましい。
前記水溶性ケト酸は、グリオキシル酸、ピルビン酸、アセト酢酸、レブリン酸の群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0011】
本発明のケト酸金属錯体水溶液の製造方法は、1分子中にカルボキシル基とケトン基またはカルボニル基を有する水溶性ケト酸を水に溶解してなる水溶性ケト酸水溶液に、2種以上の金属塩を添加し混合して、前記水溶性ケト酸を配位子とし2種以上の金属元素またはそのイオンを含有してなるケト酸金属錯体水溶液とし、前記2種以上の金属元素の組合せは、バリウムとチタンとの組合せ、スカンジウムとジルコニウムとの組合せ、ランタンとユーロピウムとの組合せ、イットリウムとアルミニウムとセリウムとの組合せからなる群から選ばれるいずれか1つであり、前記配位子は、グリオキシル酸、アセト酢酸、ピルビン酸、レブリン酸からなる群から選ばれるいずれか1つであり、前記水溶性ケト酸と前記金属元素との混合比は、前記金属元素を金属イオンに換算したときに、前記水溶性ケト酸の前記金属イオンに対する混合比が、前記金属イオンの価数と同じモル数以上となる比率であることを特徴とする。
【0012】
本発明の複合酸化物粒子の製造方法は、1分子中にカルボキシル基とケトン基またはカルボニル基を有する水溶性ケト酸を配位子とし2種以上の金属元素またはそのイオンを含有してなるケト酸金属錯体水溶液を乾燥させて、水溶性ケト酸金属錯体の乾燥物を得、次いで、この乾燥物を350℃以上かつ600℃以下の温度範囲にて熱分解させ、次いで、この熱分解生成物を、該熱分解生成物が結晶化する温度以上の温度にて加熱して複合酸化物粒子を得、前記2種以上の金属元素の組合せは、バリウムとチタンとの組合せ、スカンジウムとジルコニウムとの組合せ、ランタンとユーロピウムとの組合せ、イットリウムとアルミニウムとセリウムとの組合せからなる群から選ばれるいずれか1つであり、前記配位子は、グリオキシル酸、アセト酢酸、ピルビン酸、レブリン酸からなる群から選ばれるいずれか1つであり、前記水溶性ケト酸と前記金属元素との混合比は、前記金属元素を金属イオンに換算したときに、前記水溶性ケト酸の前記金属イオンに対する混合比が、前記金属イオンの価数と同じモル数以上となる比率であることを特徴とする。
【0013】
前記水溶性ケト酸は、グリオキシル酸、ピルビン酸、アセト酢酸、レブリン酸の群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
前記複合酸化物粒子の結晶構造は、ガーネット構造またはペロブスカイト構造であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のケト酸金属錯体水溶液によれば、1分子中にカルボキシル基とケトン基またはカルボニル基を有する水溶性ケト酸を配位子とする金属錯体を水に溶解してなるケト酸金属錯体水溶液であり、この金属錯体を2種以上の金属元素またはそのイオンを含有してなることとしたので、金属イオンの触媒作用による脱水・縮重合反応によるポリマー化が生じることがなく、2種以上の金属元素を分子レベルで均一にかつ安定に溶液中に存在させることができる。
したがって、このケト酸金属錯体水溶液を熱分解させた後、得られた熱分解生成物を、該熱分解生成物が結晶化する温度以上の温度にて加熱することにより、特性及び機能に優れた複合酸化物粒子を容易に得ることができる。
【0015】
本発明のケト酸金属錯体水溶液の製造方法によれば、1分子中にカルボキシル基とケトン基またはカルボニル基を有する水溶性ケト酸を水に溶解してなる水溶性ケト酸水溶液に、2種以上の金属塩を添加し混合するので、水溶性ケト酸を配位子とし2種以上の金属元素またはそのイオンを含有してなるケト酸金属錯体水溶液を、簡単な工程で、しかも安価に得ることができる。
【0016】
本発明の複合酸化物粒子の製造方法によれば、1分子中にカルボキシル基とケトン基またはカルボニル基を有する水溶性ケト酸を配位子とし2種以上の金属元素またはそのイオンを含有してなるケト酸金属錯体水溶液を乾燥させて、水溶性ケト酸金属錯体の乾燥物を得、次いで、この乾燥物を350℃以上かつ600℃以下の温度範囲にて熱分解させ、次いで、この熱分解生成物を、該熱分解生成物が結晶化する温度以上の温度にて加熱するので、所望の特性や機能を発現することのできる複合酸化物粒子を、容易に製造することができる。
しかも、得られた複合酸化物粒子は、安定した結晶構造を有するので、所望の特性や機能を安定して発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例4の乾燥固形物の熱分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のケト酸金属錯体水溶液及びその製造方法並びに複合酸化物粒子の製造方法を実施するための形態について説明する。
なお、以下の実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0019】
[ケト酸金属錯体水溶液]
本実施形態のケト酸金属錯体水溶液は、1分子中にカルボキシル基とケトン基またはカルボニル基(>CO)を有する水溶性ケト酸を配位子とする金属錯体を水に溶解してなるケト酸金属錯体水溶液であり、前記金属錯体は、2種以上の金属元素またはそのイオンを含有している。
【0020】
ここで、水溶性ケト酸としては、1分子中にケトン基(またはカルボニル基:>CO)とカルボキシル基(−COOH)を有する有機化合物であればよく、特には限定されないが、例えば、グリオキシル酸(CHOCOOH)(式(1))、ピルビン酸(CHCOCOOH)(式(2))、アセト酢酸(CHCOCHCOOH)(式(3))、レブリン酸(CHCOCHCHCOOH)(式(4))の群から選択される1種または2種以上であることが好ましく、グリオキシル酸、アセト酢酸が金属錯体を形成し易い点で好ましく、特に、グリオキシル酸が、有機分子が小さく2種以上の金属イオンの混合間隔が小さくなり、均一な水溶性ケト酸金属錯体の乾燥固形物を形成するので好ましい。
【0021】
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【0022】
また、金属錯体の主成分となる2種以上の金属元素またはそのイオンとしては、アルカリ土類元素(Ca、Sr、Ba、Ra)、遷移元素(周期表で第3族の元素から第11族の間に存在する元素でSc、Y、Ti、Ni、Cu、Fe、Mn、Co等)、第12族元素(Zn等)、第13族元素(Al、Ga、In等)、第14族元素(Si、Sn、Pb等)、第15族元素(Sb、Bi等)及び希土類元素の群から選択される1種または2種以上の元素またはそのイオンが好ましい。ここで、希土類元素とは、ランタン系列であるLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの15元素のことであり、上記の15元素の群から選択される1種または2種以上を主成分とすることが好ましい。
【0023】
特に、発光や蛍光体の場合には、上記のY(イットリウム)、アルミニウム(Al)及び希土類元素からなる17元素の群から選択される1種または2種以上を主成分とすることが好ましい。
なお、このケト酸金属錯体水溶液中の金属元素またはそのイオンの濃度については、特に制限を設けるものではないが、複合酸化物の重量換算で0.5質量%以上かつ15質量%以下が好ましい範囲である。
【0024】
[ケト酸金属錯体水溶液の製造方法]
本実施形態のケト酸金属錯体水溶液の製造方法は、1分子中にカルボキシル基とケトン基またはカルボニル基(>CO)を有する水溶性ケト酸を水に溶解してなる水溶性ケト酸水溶液に、2種以上の金属塩を添加し混合して、前記水溶性ケト酸を配位子とし2種以上の金属元素またはそのイオンを含有してなるケト酸金属錯体水溶液とする方法である。
【0025】
ここでは、水溶性ケト酸水溶液に2種以上の金属塩を添加し、100℃以下の温度にて混合・撹拌することで水溶性ケト酸を配位子とし2種以上の金属元素またはそのイオンを含有してなるケト酸金属錯体水溶液を作製することができる。
このようにして得られた水溶性ケト酸を配位子とする金属錯体(または金属錯塩)とは、錯イオンの中心原子が金属元素の原子またはイオンである錯体(または錯塩)のうち、この中心原子に水溶性ケト酸が配位結合している錯体(または錯塩)のことである。
【0026】
水溶性ケト酸水溶液としては、上述したように、1分子中にケトン基(またはカルボニル基:>CO)とカルボキシル基(−COOH)を有する有機化合物を含む水溶液であればよく、特には限定されないが、例えば、グリオキシル酸(CHOCOOH)(上記の式(1))、ピルビン酸(CHCOCOOH)(上記の式(2))、アセト酢酸(CHCOCHCOOH)(上記の式(3))、レブリン酸(CHCOCHCHCOOH)(上記の式(4))の群から選択される1種または2種以上であることが好ましく、グリオキシル酸、アセト酢酸が金属錯体を形成し易い点で好ましく、特に、グリオキシル酸が、有機分子が小さく2種以上の金属イオンの混合間隔が小さくなり、均一な水溶性ケト酸金属錯体の乾燥固形物を形成するので好ましい。
【0027】
金属塩としては、金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等の金属塩、または金属アルコキシド、あるいは金属水酸化物、金属ヒドロキシ炭酸化物、金属酸化物を用いることができる。特に共沈法で作製した金属水酸化物や金属ヒドロキシ炭酸化物は、金属イオンの組成均一性や塩素等の不純物残留の影響がないので好ましい。
【0028】
金属錯体の主成分となる2種以上の金属元素またはそのイオンとしては、アルカリ土類元素(Ca、Sr、Ba、Ra)、遷移元素(周期表で第3族の元素から第11族の間に存在する元素でSc、Y、Ti、Ni、Cu、Fe、Mn、Co等)、第12族元素(Zn等)、第13族元素(Al、Ga、In等)、第14族元素(Si、Sn、Pb等)、第15族元素(Sb、Bi等)及び希土類元素の群から選択される1種または2種以上の元素またはそのイオンが好ましい。
特に、発光や蛍光体の場合には、上記のY(イットリウム)、アルミニウム(Al)及び希土類元素からなる17元素の群から選択される1種または2種以上を主成分とすることが好ましい。
【0029】
この水溶性ケト酸と金属塩との混合比は、金属塩を金属イオンに換算したときに、水溶性ケト酸の金属イオンに対する混合比を、金属イオンの価数と同じモル数以上の比率とする。例えば、1価金属イオンに対しては1倍モル以上、2価の金属イオンに対しては2倍モル以上、3価の金属に対しては3倍モル以上、4価の金属イオンに対しては4倍モル以上等である。
このようにして得られた水溶性ケト酸金属錯体は、末端にヒドロキシ基を有していないので、水溶性ケト酸を配位結合させて得られた金属錯体(または金属錯塩)を2種以上混合してなる混合液を撹拌している最中に脱水・縮重合のようなポリマー化が生じることがない。
【0030】
本実施形態の複合酸化物粒子の製造方法は、上述したケト酸金属錯体水溶液、すなわち1分子中にカルボキシル基とケトン基またはカルボニル基(>CO)を有する水溶性ケト酸を配位子とし2種以上の金属元素またはそのイオンを含有してなるケト酸金属錯体水溶液を乾燥させて、水溶性ケト酸金属錯体の乾燥物を得、次いで、この乾燥物を350℃以上かつ600℃以下の温度範囲にて熱分解させ、次いで、この熱分解生成物を、該熱分解生成物が結晶化する温度以上の温度にて加熱して複合酸化物粒子を得る方法である。
【0031】
まず、上記のケト酸金属錯体水溶液、すなわち1分子中にカルボキシル基とケトン基またはカルボニル基(>CO)を有する水溶性ケト酸を配位子とし2種以上の金属元素またはそのイオンを含有してなるケト酸金属錯体水溶液を、噴霧乾燥法等の通常の乾燥方法により乾燥させ、水溶性ケト酸金属錯体の乾燥固形物を得る。
この水溶性ケト酸金属錯体は、上述したように、末端にヒドロキシ基を有していないので、この混合液を乾燥している最中に脱水・縮重合のようなポリマー化が生じることがなく、したがって、2種以上の金属イオンが均一に分布した水溶性ケト酸金属錯体の乾燥固形物を得ることができる。
【0032】
次いで、得られた乾燥固形物を、350℃以上かつ600℃以下、好ましくは400℃以上かつ500℃以下の温度範囲にて熱分解させる。
ここで、400℃以上かつ600℃以下の温度範囲にて熱分解することとしたのは、この温度範囲が乾燥固形物を効果的に熱分解するのに最も適した温度範囲だからである。
この乾燥固形物は、2種以上の水溶性ケト酸金属錯体がそれぞれ分子レベルで混合されているので、水溶性ケト酸金属錯体の乾燥固形物の熱分解は殆ど同時に生じる。その結果、得られる非晶質状の複合酸化物粒子は2種以上の金属イオンが均一に分布した状態で得ることができる。
【0033】
次いで、得られた熱分解生成物を、大気雰囲気中、不活性雰囲気中、還元性雰囲気中のいずれかの雰囲気中にて、この熱分解生成物が結晶化する温度以上の温度、例えば、500℃以上かつ1500℃以下にて加熱する。
この場合、加熱する以前の非晶質状の複合酸化物粒子は、2種以上の金属イオンが均一に分布した状態で存在しているので、これを加熱することにより、非晶質状の複合酸化物粒子を結晶化させることで、得られた複合酸化物の結晶構造が精密に制御されることとなる。よって、結晶構造が精密に制御された複合酸化物粒子を得ることができる。
以上により、結晶性に優れた複合酸化物粒子を得ることができる。
【0034】
[複合酸化物粒子]
このようにして得られた複合酸化物粒子は、次のような性質を有している。この複合酸化物粒子の結晶構造は、ガーネット構造またはペロブスカイト構造である。
【0035】
(ガーネット構造)
ガーネット構造は、組成式[C][A][B]12で表され、空間群はIa3dで立方晶系に属し、C、A、Bの各サイトに入る陽イオンの周りには、それぞれ酸素がCサイトでは12面体配位、Aサイトでは8面体配位、そしてBサイトでは4面体配位で配置された結晶構造となっている。このように歪んだ酸素の配位構造により所望の機能が発現され、その歪みの程度が特性に大きく影響する。したがって、複合酸化物粒子を構成するガーネット構造における各金属イオンは、極めて高い分布の均一性が求められることとなる。
【0036】
ガーネット構造の複合酸化物粒子としては、次のようなものを挙げることができる。
(1)磁性材料
ReM12(但し、ReはYまたは希土類元素、MはFeまたはAl)にて表される、いわゆるYIG系複合酸化物が挙げられる。このYIG系複合酸化物の具体例としては、例えば(Tb,Re)Al12、(Tb,Bi)(Fe,Ga,Al)12
等が挙げられ、これらの材料はマイクロ波用デバイス、光アイソレータファラデー回転子等として有益である。
【0037】
(2)発光、蛍光材料
ReM12:R(但し、ReはYまたは希土類元素、MはAlまたはGa、Rは希土類元素)にて表される、いわゆるYAG系複合酸化物、あるいは、L12:Re(但し、Lはアルカリ土類元素、MはAl,Ga,InまたはSc、RはY,Si,GeまたはSn、Reは希土類金属)にて表される複合酸化物が挙げられる。複合酸化物の具体例としては、例えばCaScSi12:Ce等が挙げられ、これらの材料はLED用蛍光体、レーザー発振子、近赤外発光材等として有益である。
なお、ガーネット構造以外の蛍光体としては、CaSc:Ce、(Ca,Sr,Ba)SiO:Eu、BaSiO:Eu、SrSiO:Eu等がある。
【0038】
ガーネット構造の複合酸化物粒子の具体例としては、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)、テルビウムアルミニウムガーネット(TAG)等がある。
【0039】
このようなガーネット構造の複合酸化物は、次のようにして作製することができる。
まず、水溶性ケト酸として、グリオキシル酸、ピルビン酸、アセト酢酸、レブリン酸の群から選択される1種または2種以上を選択し、これらを含む水溶液に複合酸化物の原料となる金属塩、または金属水酸化物や金属ヒドロキシ炭酸塩、あるいは金属酸化物を、水溶性ケト酸と金属イオンの混合比を金属イオンの価数と同じモル数以上の比率で混合し溶解させてケト酸金属錯体帥溶液を作製する。
【0040】
次いで、この水溶液をスプレードライヤー等の噴霧乾燥装置を用いて噴霧乾燥し、乾燥固形物を得る。次いで、この乾燥固形物を、ケト酸金属錯体が熱分解する温度以上で加熱処理し、次いで、複合酸化物が結晶化する温度以上でさらに熱処理(必要に応じて還元雰囲気焼成)を行う。
以上により、ガーネット構造の複合酸化物を得ることができる。
【0041】
(ぺロブスカイト構造)
ぺロブスカイト構造は、一般式ABOで表される化合物であり、立方晶系の単位格子を有し、立方晶の各頂点に金属Bが、体心に金属Aが、そして金属Aを中心として、酸素Oは立方晶の各面心に配置している酸素と金属Aから成るAO八面体の向きは、金属Bとの相互作用により容易に歪み、これにより、より対称性の低い斜方晶や正方晶に相転移する。これにより、結晶の物性が変化する。その結果、誘電性、圧電性、同電性、非線形光学性、磁性、超電導性、イオン電導性等に優れた機能を発現することとなる。
【0042】
ぺロブスカイト構造の複合酸化物の結晶構造においても、ガーネット構造の複合酸化物の結晶構造と同様、複合酸化物の結晶構造を構成する各金属イオンは、きわめて高い分布の均一性が求められることになる。
【0043】
ぺロブスカイト構造の複合酸化物粒子としては、次のようなものを挙げることができる。
(1)強誘電体材料
ぺロブスカイト構造の強誘電体材料としては、例えば、BaTiO、SrTiO、(Ca,Ba,Sr)TiO、(Ca,Na)(Nb,Ti,Fe)O等が挙げられる。
(2)イオン伝導体
燃料電池のイオン伝導体用複合酸化物粒子としては、例えば、一般式(A,M)(B,R)O(但し、AはLa、MはSr、BはGa,Sc,MnまたはCr、RはFe)にて表される複合酸化物が挙げられる。
【0044】
(3)正極材用
正極材用複合酸化物粒子としては、例えば、一般式(A,M)BO(但し、AはLa、MはLi、BはTi,NbまたはTa)にて表される複合酸化物が挙げられる。
なお、一般式ABOで表される化合物以外の材料としては、YBaCu、BiSrCaCu10等で表される高温超電導材料がある。
【0045】
これらの複合酸化物粒子は、本実施形態の複合酸化物粒子の製造方法により得られたことにより、極めて高い金属イオンの分布が要求されるガーネット構造またはペロブスカイト構造の結晶構造を容易に形成することが可能である。
【0046】
以上説明したように、本実施形態のケト酸金属錯体水溶液によれば、1分子中にカルボキシル基とケトン基またはカルボニル基を有する水溶性ケト酸を配位子とする金属錯体を水に溶解してなるケト酸金属錯体水溶液であり、この金属錯体を2種以上の金属元素またはそのイオンを含有してなることとしたので、金属イオンの触媒作用による脱水・縮重合反応によるポリマー化が生じることがなく、2種以上の金属元素を分子レベルで均一にかつ安定に溶液中に存在させることができる。
【0047】
本実施形態のケト酸金属錯体水溶液の製造方法によれば、1分子中にカルボキシル基とケトン基またはカルボニル基を有する水溶性ケト酸を水に溶解してなる水溶性ケト酸水溶液に、2種以上の金属塩を添加し混合するので、水溶性ケト酸を配位子とし2種以上の金属元素またはそのイオンを含有してなるケト酸金属錯体水溶液を、簡単な工程で、しかも安価に得ることができる。
【0048】
本実施形態の複合酸化物粒子の製造方法によれば、本実施形態のケト酸金属錯体水溶液を乾燥させて、水溶性ケト酸金属錯体の乾燥物を得、次いで、この乾燥物を350℃以上かつ600℃以下の温度範囲にて熱分解させ、次いで、この熱分解生成物を、該熱分解生成物が結晶化する温度以上の温度にて加熱するので、所望の特性や機能を発現することのできる複合酸化物粒子を、容易に製造することができる。
しかも、得られた複合酸化物粒子は、安定した結晶構造を有するので、所望の特性や機能を安定して発現することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0050】
A.ケト酸金属錯体水溶液の作製
[実施例1]
バリウム−チタンケト酸錯体水溶液としてバリウム−チタングリオキシル酸水溶液を作製した。
まず、バリウムケト酸水溶液としては、炭酸バリウム粉体84.63gを10%グリオキシル酸水溶液635g(バリウムイオンに対し2倍モル量のグリオキシル酸を含有)に添加し、室温(25℃)にて24時間撹拌して溶解させ、バリウムグリオキシル酸水溶液Aaを作製した。
【0051】
また、チタンケト酸水溶液としては、チタンイソプロポキシド121.9gを50%グリオキシル酸水溶液254.0g(チタンイオンに対して4倍モル量のグリオキシル酸を含有)に撹拌しながら滴下して全量加えたのち、室温(25℃)にて24時間撹拌し、チタングリオキシル酸水溶液Abを作製した。
【0052】
次いで、バリウムグリオキシル酸水溶液Aa71.96gと、チタングリオキシル酸水溶液Ab37.59gとを混合し、9.13質量%(チタン酸バリウム(BaTiO)換算)のバリウム−チタングリオキシル酸水溶液Aを作製した。
次いで、このバリウム−チタングリオキシル酸水溶液Aをスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥して乾燥粒子を作製した。その後、この乾燥粒子を、大気中、1000℃にて2時間、加熱処理を行ったところ、チタン酸バリウム(BaTiO)粉体を得ることができた。
【0053】
[実施例2]
スカンジウム−ジルコニウムケト酸錯体水溶液としてスカンジウム−ジルコニウムグリオキシル酸水溶液を作製した。
まず、酸化スカンジウム粉体13.79gとオキシ塩化ジルコニウム8水和物(ZrOCl・8HO)290.03gを、10%グリオキシル酸水溶液1555g(スカンジウムイオンに対し3倍モル量、オキシジウルコニウムイオンに対し2倍モル量のグリオキシル酸を含有)に添加して、室温(25℃)にて24時間撹拌して溶解させ、スカンジウム−ジルコニウムグリオキシル酸水溶液Bを作製した。
【0054】
次いで、このスカンジウム−ジルコニウムグリオキシル酸水溶液Bをスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥して乾燥粒子を作製した。その後、この乾燥粒子を、大気中、1250℃にて2時間、加熱処理を行ったところ、スカンジウム安定化酸化ジルコニウム(10モル%Sc−ZrO)粉体を得ることができた。
【0055】
[実施例3]
ランタン−ユーロピウムケト酸錯体水溶液としてランタン−ユーロピウムグリオキシル酸水溶液を作製した。
まず、塩化ランタン7水和物(LaCl・7HO)371.37gと、塩化ユーロピウム6水和物(EuCl・6HO)7.48gを、純水8000gに溶解させ、溶液Caを作製した。
【0056】
次いで、この溶液Caに5%アンモニア水1145gを加えて撹拌し、水酸化ランタン−水酸化ユーロピウム共沈物を生成させた。その後、限外濾過装置にて不純物イオンを除去・洗浄した後、水酸化物の固形分換算で15質量%となるように濃縮し、水酸化ランタン−水酸化ユーロピウム共沈物のスラリーCbを作製した。
次いで、このスラリーCb1000gにグリオキシル酸176g(金属イオンの3倍モル)を加え、室温(25℃)にて24時間撹拌し、ランタン−ユーロピウムグリオキシル酸水溶液Cを作製した。
【0057】
次いで、このランタン−ユーロピウムグリオキシル酸水溶液Cをスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥して乾燥粒子を作製した。その後、この乾燥粒子を、大気中、1100℃にて2時間、加熱処理を行ったところ、ユーロピウム添加酸化ランタン(2モル%Eu−La)粉体を得ることができた。
【0058】
B.複合酸化物粒子の作製
[実施例4]
グリオキシル酸錯体によるYAG:Ce複合酸化物粒子を作製した。なお、グリオキシル酸/金属イオンの比を3倍モルとした。
まず、硝酸イットリウム・6HO186.3g、硝酸アルミニウム・9HO313.5g、硝酸セリウム・6HO6.5gを純水5000gに溶解し、Y−Al−Ce塩の水溶液Daを調製した。
次いで、炭酸水素アンモニウム349gを純水10000gに溶解させた水溶液Dbを調製した。
【0059】
次いで、室温にて水溶液Dbを撹拌しながら水溶液Daを添加して沈殿物を生成させた後、限外濾過装置にて濾液の伝導度が100μSまで洗浄を行い、濾過器にて固液分離を行った後、固形物(ケーキ状物質)を乾燥器にて110℃にて24時間乾燥し、イットリウムアルミニウムヒドロキシ炭酸塩乾燥物Dを得た。
このイットリウムアルミネートヒドロキシ炭酸塩乾燥物D中のYAG:Ce酸化物含有量を1000℃での強熱減量による固形分率にて測定した結果、58.8質量%であった。
【0060】
次いで、得られた乾燥物Dを50g(YAG:Ce;29.4g(=0.04915モル);YAG:Ceモル質量=598.24)をグリオキシル酸(分子量:74.04)87.32gを純水1000gに溶解させたグリオキシル酸水溶液に加え、室温(25℃)にて24時間撹拌して溶解させ、グリオキシル酸錯体溶液Dを作製した。これらの組成等を表1に示す。
【0061】
次いで、このグリオキシル酸錯体溶液Dをスプレードライヤーにて噴霧乾燥し、グリオキシル酸錯体の乾燥固形物Dを作製した。
この乾燥固形物Dについて熱分析を行った結果、460℃に発熱ピークが1つ認められ、Y,Al,Ceグリオキシル酸錯体が同時に熱分解したことが確認された。熱分析の結果を図1に示す。
【0062】
次いで、この乾燥固形物Dを電気炉にて、大気中、700℃、800℃、900℃、1000℃の各温度にて5時間焼成を行い、得られた4種類の焼成物について粉末X線回折による生成物の同定を行った。結果を表2に示す。
表2によれば、700℃の焼成では、アモルファス相(A相)であったが、800℃以上の加熱処理では結晶化され、ガーネット構造のYAG:Ce複合酸化物は単一相(YAG相)であった。
【0063】
[実施例5]
グリオキシル酸錯体によるYAG:Ce複合酸化物粒子を作製した。なお、グリオキシル酸/金属イオンの比を3.5倍モルとした。
ここでは、実施例4にて得られた乾燥物Dを50g(YAG:Ce;29.4g(=0.04915モル);YAG:Ceモル質量=598.24)をグリオキシル酸(分子量:74.04)101.87gを純水1000gに溶解させたグリオキシル酸水溶液に加え、室温(25℃)にて24時間撹拌して溶解させ、グリオキシル酸錯体溶液Eを作製した。これらの組成等を表1に示す。
【0064】
次いで、このグリオキシル酸錯体溶液Eをスプレードライヤーにて噴霧乾燥し、グリオキシル酸錯体の乾燥固形物Eを作製した。
この乾燥固形物Eについて熱分析を行った結果、460℃に発熱ピークが1つ認められ、Y,Al,Ceグリオキシル酸錯体が同時に熱分解したことが確認された。
【0065】
次いで、乾燥固形物Eを電気炉にて、大気中、700℃、800℃、900℃、1000℃の各温度にて5時間焼成を行い、得られた4種類の焼成物について粉末X線回折による生成物の同定を行った。結果を表2に示す。
表2によれば、700℃の焼成では、アモルファス相(A相)であったが、800℃以上の加熱処理では結晶化され、ガーネット構造のYAG:Ce複合酸化物は単一相(YAG相)であった。
【0066】
[実施例6]
アセト酢酸錯体によるYAG:Ce複合酸化物粒子を作製した。なお、アセト酢酸/金属イオンの比を3倍モルとした。
ここでは、実施例4にて得られた乾燥物Dを50g(YAG:Ce;29.4g(=0.04915モル);YAG:Ceモル質量=598.24)をアセト酢酸(分子量:102.09)120.04gを純水1000gに溶解させたアセト酢酸水溶液に加え、室温(25℃)にて24時間撹拌して溶解させ、アセト酢酸錯体溶液Fを作製した。これらの組成等を表1に示す。
【0067】
次いで、このアセト酢酸錯体溶液Fをスプレードライヤーにて噴霧乾燥し、アセト酢酸錯体の乾燥固形物Fを作製した。
この乾燥固形物Fについて熱分析を行った結果、470℃に発熱ピークが1つ認められ、Y,Al,Ceアセト酢酸錯体が同時に熱分解したことが確認された。
【0068】
次いで、乾燥固形物Fを電気炉にて、大気中、700℃、800℃、900℃、1000℃の各温度にて5時間焼成を行い、得られた4種類の焼成物について粉末X線回折による生成物の同定を行った。結果を表2に示す。
表2によれば、700℃の焼成では、アモルファス相(A相)であったが、800℃以上の加熱処理では結晶化され、ガーネット構造のYAG:Ce複合酸化物は単一相(YAG相)であった。
【0069】
[実施例7]
ピルビン酸錯体によるYAG:Ce複合酸化物粒子を作製した。なお、ピルビン酸/金属イオンの比を3倍モルとした。
ここでは、実施例4にて得られた乾燥物Dを50g(YAG:Ce;29.4g(=0.04915モル);YAG:Ceモル質量=598.24)をピルビン酸(分子量:88.06)103.86gを純水1000gに溶解させたピルビン酸水溶液に加え、室温(25℃)にて24時間撹拌して溶解させ、ピルビン酸錯体溶液Gを作製した。これらの組成等を表1に示す。
【0070】
次いで、このピルビン酸錯体溶液Gをスプレードライヤーにて噴霧乾燥し、ピルビン酸錯体の乾燥固形物Gを作製した。
この乾燥固形物Gについて熱分析を行った結果、465℃に発熱ピークが1つ認められ、Y,Al,Ceピルビン酸錯体が同時に熱分解したことが確認された。
【0071】
次いで、乾燥固形物Gを電気炉にて、大気中、700℃、800℃、900℃、1000℃の各温度にて5時間焼成を行い、得られた4種類の焼成物について粉末X線回折による生成物の同定を行った。結果を表2に示す。
表2によれば、700℃の焼成では、アモルファス相(A相)であったが、800℃以上の加熱処理では結晶化され、ガーネット構造のYAG:Ce複合酸化物は単一相(YAG相)であった。
【0072】
[実施例8]
レブリン酸錯体によるYAG:Ce複合酸化物粒子を作製した。なお、レブリン酸/金属イオンの比を3倍モルとした。
ここでは、実施例4にて得られた乾燥物Dを50g(YAG:Ce;29.4g(=0.04915モル);YAG:Ceモル質量=598.24)をレブリン酸(分子量:116.11)136.94gを純水1000gに溶解させたレブリン酸水溶液に加え、室温(25℃)にて24時間撹拌して溶解させ、レブリン酸錯体溶液Hを作製した。これらの組成等を表1に示す。
【0073】
次いで、このレブリン酸錯体溶液Hをスプレードライヤーにて噴霧乾燥し、レブリン酸錯体の乾燥固形物Hを作製した。
この乾燥固形物Hについて熱分析を行った結果、470℃に発熱ピークが1つ認められ、Y,Al,Ceレブリン酸錯体が同時に熱分解したことが確認された。
【0074】
次いで、乾燥固形物Hを電気炉にて、大気中、700℃、800℃、900℃、1000℃の各温度にて5時間焼成を行い、得られた4種類の焼成物について粉末X線回折による生成物の同定を行った。結果を表2に示す。
表2によれば、700℃の焼成では、アモルファス相(A相)であったが、800℃以上の加熱処理では結晶化され、ガーネット構造のYAG:Ce複合酸化物は単一相(YAG相)であった。
【0075】
[比較例1]
クエン酸錯体によるYAG:Ce複合酸化物粒子を作製した。なお、クエン酸/金属イオンの比を3倍モルとした。
ここでは、実施例4にて得られた乾燥物Dを50g(YAG:Ce;29.4g(=0.04915モル);YAG:Ceモル質量=598.24)をクエン酸(分子量:192)226.59gを純水1000gに溶解させたクエン酸水溶液に加え、室温(25℃)にて24時間撹拌して溶解させ、クエン酸錯体溶液Jを作製した。このクエン酸錯体溶液Jは、撹拌中に粘度が上昇するのが認められた。これらの組成等を表1に示す。
【0076】
次いで、このクエン酸錯体溶液Jをスプレードライヤーにて噴霧乾燥し、クエン酸錯体の乾燥固形物Jを作製した。
この乾燥固形物Jについて熱分析を行った結果、420℃と465℃に発熱ピークが2つ認められ、Y,Alクエン酸錯体が別々に熱分解したことが確認された。
【0077】
次いで、乾燥固形物Jを電気炉にて、大気中、700℃、800℃、900℃、1000℃の各温度にて5時間焼成を行い、得られた4種類の焼成物について粉末X線回折による生成物の同定を行った。結果を表2に示す。
表2によれば、700℃の焼成では、アモルファス相(A相)であったが、800℃では、ガーネット構造とは異なるY/Al=1/1のイットリウムアルミネート(YAP)の生成が認められた。また、900℃では、上記のYAP相以外にY/Al=3/5のガーネット構造のイットリウムアルミネートガーネット(YAG)の生成が認められた。
さらに、1000℃では、Y/Al=3/5のガーネット構造のイットリウムアルミネートガーネット(YAG)のみ生成が認められた。
【0078】
この比較例1におけるイットリウムアルミネート複合酸化物の生成メカニズムでは、イットリウムアルミネート複合酸化物はAlイオンのY酸化物中への拡散により生成するので、乾燥固形物J中のAlイオンとYイオンの分布が不均一であることから、800℃焼成ではY/Al比の大きいイットリウムアルミネート複合酸化物から生成が始まっていると考えられる。
【0079】
[比較例2]
グリコール酸錯体によるYAG:Ce複合酸化物粒子を作製した。なお、グリコール酸/金属イオンの比を3倍モルとした。
ここでは、実施例4にて得られた乾燥物Dを50g(YAG:Ce;29.4g(=0.04915モル);YAG:Ceモル質量=598.24)をグリコール酸(分子量:76.05)89.69gを純水1000gに溶解させたグリコール酸水溶液に加え、室温(25℃)にて24時間撹拌して溶解させ、グリコール酸錯体溶液Kを作製した。
このグリコール酸錯体溶液Kを作製する途中、すなわち乾燥物Aをグリコール酸水溶液に溶解させる途中で析出物が認められた。この析出物を分析した結果、Y、C,H、O成分が検出された。これらの組成等を表1に示す。
【0080】
次いで、このグリコール酸錯体溶液Kをスプレードライヤーにて噴霧乾燥し、グリコール酸錯体の乾燥固形物Kを作製した。
この乾燥固形物Kについて熱分析を行った結果、420℃と460℃に発熱ピークが2つ認められ、Y,Alグリコール酸錯体が別々に熱分解したことが確認された。
【0081】
次いで、乾燥固形物Kを電気炉にて、大気中、700℃、800℃、900℃、1000℃の各温度にて5時間焼成を行い、得られた4種類の焼成物について粉末X線回折による生成物の同定を行った。結果を表2に示す。
表2によれば、700℃の焼成では、アモルファス相(A相)であったが、800℃では、ガーネット構造とは異なるY/Al=2/1のイットリウムアルミネート(YAM)と、Y/Al=1/1のイットリウムアルミネート(YAP)の生成が認められた。また、900℃では、上記のYAP相が単相で存在していることが認められた。
さらに、1000℃では、上記のYAP相以外にAl相が認められ、Y/Al=3/5のガーネット構造のイットリウムアルミネートガーネット(YAG)の生成のみが認められなかった。
【0082】
この比較例2におけるイットリウムアルミネート複合酸化物の生成メカニズムでは、AlイオンのY酸化物中への拡散により生成するので、乾燥固形物K中のAlイオンとYイオンの分布が不均一であることから、800℃焼成ではY/Al比の大きいイットリウムアルミネート複合酸化物から生成が始まっていると考えられる。また、Y−グリコール酸錯体は、重合化が促進されて一部が水に不溶化して析出したため、1000℃ではYAGが生成されずにYAP相とAlが生成した。
【0083】
[比較例3]
グリオキシル酸錯体によるYAG:Ce複合酸化物粒子を作製した。なお、グリオキシル酸/金属イオンの比を2.6倍モルとした。
ここでは、実施例4にて得られた乾燥物Dを50g(YAG:Ce;29.4g(=0.04915モル);YAG:Ceモル質量=598.24)をグリオキシル酸(分子量:74.04)75.67gを純水1000gに溶解させたグリオキシル酸水溶液に加え、室温(25℃)にて24時間撹拌して溶解させ、グリオキシル酸錯体溶液Lを作製した。
【0084】
次いで、このグリオキシル酸錯体溶液Lをスプレードライヤーにて噴霧乾燥し、グリオキシル酸錯体の乾燥固形物Lを作製した。
この乾燥固形物Lについて熱分析を行った結果、200℃と300℃との間に吸熱ピークが1つ、460℃に発熱ピークが1つ、それぞれ認められ、Y,Al,Ceのヒドロキシ炭酸塩の不溶粒子が残存していることが確認された。また、Y,Al,Ceグリオキシル酸錯体が同時に熱分解したことが確認された。
【0085】
次いで、乾燥固形物Lを電気炉にて、大気中、700℃、800℃、900℃、1000℃の各温度にて5時間焼成を行い、得られた4種類の焼成物について粉末X線回折による生成物の同定を行った。結果を表2に示す。
表2によれば、700℃の焼成では、アモルファス相(A相)であったが、800℃及び900℃では、ガーネット構造とは異なるY/Al=1/1のイットリウムアルミネート(YAP)の生成が認められた。また、1000℃では、Y/Al=3/5のガーネット構造のイットリウムアルミネートガーネット(YAG)が単一相で生成していることが認められた。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のケト酸金属錯体水溶液は、1分子中にカルボキシル基及びケトン基を有する水溶性ケト酸を配位子とする金属錯体を水に溶解してなるケト酸金属錯体水溶液であり、この金属錯体は、2種以上の金属元素またはそのイオンを含有したものであり、本発明の複合酸化物粒子の製造方法は、本発明のケト酸金属錯体水溶液を乾燥させて、水溶性ケト酸金属錯体の乾燥物を得、次いで、この乾燥物を400℃以上かつ600℃以下の温度範囲にて熱分解させ、次いで、この熱分解生成物を、該熱分解生成物が結晶化する温度以上の温度にて加熱することにより、所望の特性や機能を発現することのできる複合酸化物粒子を、容易に製造することができるものであり、しかも、得られた複合酸化物粒子がガーネット構造やペロブスカイト構造等の安定した特有の結晶構造をとることにより、所望の特性や機能を安定して発現することができるものであるから、顔料、触媒、強誘電体、磁性体、発光・蛍光体、イオン伝導体、超伝導体等の材料として有益であり、その工業的価値は大きい。
図1