(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルミニウム箔からなる正極基板に正極活物質を固着させたリチウムイオン電池の正極材を硫酸溶液に浸漬し、該正極活物質に含まれるニッケルまたはコバルトを浸出させて回収するに際して、該硫酸溶液に溶出したアルミニウムを分離除去する方法であって、
上記正極材を硫酸溶液に浸漬させた後、該硫酸溶液に炭酸水素塩を添加してpH3.5〜6.5の範囲に調整することにより、ニッケルまたはコバルトの共沈を抑制しながら、該硫酸溶液に溶出したアルミニウムを水酸化アルミニウムとして分離し、濾過することを特徴とするアルミニウムの分離除去方法。
アルミニウム箔からなる正極基板に正極活物質を固着させたリチウムイオン電池の正極材を硫酸溶液に浸漬し、該正極活物質に含まれるニッケルまたはコバルトを浸出させて回収するに際して、該硫酸溶液に溶出したアルミニウムを分離除去する方法であって、
上記正極材を硫酸溶液に浸漬させた後、該硫酸溶液に炭酸塩を添加してpH3.5〜6.5の範囲に調整することにより、ニッケルまたはコバルトの共沈を抑制しながら、該硫酸溶液に溶出したアルミニウムを水酸化アルミニウムとして分離し、濾過することを特徴とするアルミニウムの分離除去方法。
上記硫酸溶液の温度を50〜90℃の範囲のうちの一定温度に維持した状態で、上記添加を行い水酸化アルミニウムを分離し、濾過することを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウムの分離除去方法。
上記硫酸溶液の温度を50〜90℃の範囲のうちの一定温度に維持した状態で、上記添加を行い水酸化アルミニウムを分離し、濾過することを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン電池からの有価金属の回収方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るアルミニウムの分離除去方法並びにその方法を適用したリチウムイオン電池からの有価金属の回収方法の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という。)について、以下の順序で詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
1.アルミニウムの分離除去方法
2.リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法
【0016】
< 1 . アルミニウムの分離除去方法>
本実施の形態に係るアルミニウムの分離除去方法は、リチウムイオン電池を構成する、アルミニウム箔からなる正極基板に正極活物質を固着させた正極材を、硫酸溶液に浸漬して、その正極活物質に含まれるニッケル( N i ) やコバルト( C o
)等の有価金属を浸出させて回収するに際し、その硫酸溶液に溶出した正極基板由来のアルミニウムを効果的に且つ効率的に分離除去する方法である。
【0017】
具体的に、このアルミニウムの分離除去方法は、リチウムイオン電池の正極材を硫酸溶液に浸漬させた後、その硫酸溶液に炭酸水素ナトリウム等の炭酸水素塩又は炭酸ナトリウム等の炭酸塩を添加してpH3.5〜6.5の範囲に調整する。これにより、硫酸溶液に溶出したアルミニウムを水酸化アルミニウムとして分離して濾過することを特徴とする。
【0018】
このような方法によれば、硫酸溶液中に浸出したニッケル等の有価金属の沈殿物化を抑制しながら、溶出した正極基板由来のアルミニウムを効果的に且つ効率的に分離除去することができる。これにより、正極材製造工程にて生じた不良品スクラップや使用済みリチウムイオン電池より取り出した正極材等から、ニッケル等の有価金属を、その回収ロスを効果的に防止しながら、高い純度で以って回収することができ、有効にリサイクル活用することができる。しかも、非常に簡便な方法でアルミニウムを分離回収できるので、従来のように複雑な浸出処理やアルミニウム除去処理を経ることなく、有価金属の回収プロセスを低コスト化することができる。
【0019】
本実施の形態に係るアルミニウムの分離除去方法が適用されるリチウムイオン電池の正極材は、上述したように、アルミニウム箔からなる正極基板に正極活物質を固着させたものである。この正極材としては、特に限定されるものではないが、例えば、正極材の製造工程で発生した不良品(製造工程スクラップ)や、使用済みのリチウムイオン電池を解体して得られた正極材等を用いることができる。
【0020】
これらのような正極材に含まれる正極活物質には、ニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物や、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム等の化合物が含まれている。本実施の形態においては、このような正極活物質を構成する化合物に含まれるニッケルやコバルト、マンガン、リチウム等の有価金属を、硫酸溶液を用いて浸出させる。
【0021】
浸出処理においては、例えば、上述した正極材に純水等を添加してスラリーとし、そのスラリーに硫酸溶液を添加して正極材を硫酸溶液に浸漬させる。この浸出処理では、正極材から正極活物質のみを分離して硫酸溶液に浸漬させるのではなく、正極基板を構成するアルミニウム箔に固着させた状態で浸漬させる。ここで、正極活物質に含まれる有価金属は、還元環境において効果的に浸出される。そのため、このようにアルミニウム箔に固着させた正極材の状態で硫酸溶液に浸漬させることにより、アルミニウム(箔)の還元作用を利用することができ、正極活物質の浸出反応をより効果的に進行させることができる。
【0022】
具体的に、この浸出反応は、以下の反応式(i)に示すようにして進行する。なお、ここでは、正極活物質をLiNiO
2として示すが、これに限られるものではない。
6LiNiO
2+2Al+12H
2SO
4 →
3Li
2SO
4+6NiSO
4+Al
2(SO
4)
3+12H
2O ・・・(i)
【0023】
上述した浸出反応は、アルミニウムの還元作用による水素の発生が無くなるまで進行させる。したがって、相対的にアルミニウムが過剰量存在する環境下では、LiNiO
2等の正極活物質はすべて浸出される。
【0024】
浸出に用いる硫酸溶液としては、特に限定されないが、そのpHが0〜3程度の範囲となるように濃度調整したものを用いることが好ましい。また、その硫酸溶液に対する正極材の量(投入量)についても、特に限定されるものではなく、例えば硫酸溶液に対して10〜100g/l程度となるようにすることができる。
【0025】
ところで、上述した浸出処理においては、アルミニウムの還元作用による反応に伴って、その正極基板を構成するアルミニウムの一部が硫酸溶液中に溶出することになる(下記式(ii))。浸出処理によって硫酸溶液中に浸出させた有価金属は、例えば硫化処理等によって硫化物として回収することになるが、その回収に先立って、有価金属と共に硫酸溶液中に溶出したアルミニウムを効果的に且つ効率的に分離除去することが必要となる。
2Al+3H
2SO
4 → Al
2(SO
4)
3+3H
2 ・・・(ii)
【0026】
そこで、本実施の形態においては、
図1にフローを示すように、例えばスクラップ品等の正極材を硫酸溶液に浸漬させて有価金属を浸出させた後、その硫酸溶液に中和剤を添加してpHを所定の範囲に調整する。このことにより、下記反応式(iii)に示すように、硫酸溶液中に溶出したアルミニウムを水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)として沈殿分離させ、その沈殿物を含む溶液を濾過する。
Al
2(SO
4)
3+6NaOH → 2Al(OH)
3+3Na
2SO
4
・・・(iii)
【0027】
硫酸溶液に添加する中和剤としては、アルカリ性の炭酸水素塩又は炭酸塩を用いて所定のpHに調整することが重要となる。具体的には、ナトリウム塩(NaHCO
3、Na
2CO
3)やカリウム塩(KHCO
3、K
2CO
3)、カルシウム塩(Ca(HCO
3)
2、CaCO
3)等を用いてpH調整することが好ましい
【0028】
ここで、中和剤としては、例えば水酸化ナトリウム等のアルカリを用いることも考えられ、これによればアルミニウムを効果的に水酸化物とすることが可能となる。しかしながら、中和剤を添加して生成する水酸化アルミニウムは共沈作用のある化合物であり、水酸化ナトリウム等を中和剤として用いた場合には、硫酸溶液中に浸出したニッケル等の有価金属の共沈が促され、その結果として有価金属の回収ロスを招くことになる。この点において、炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウム等の炭酸水素塩又は炭酸塩を中和剤として用いて硫酸溶液に添加することにより、硫酸溶液に浸出した有価金属の共沈化を抑制することができ、有価金属の回収ロスを効果的に防止することができる。
【0029】
また、このアルミニウムの分離除去方法においては、上述した中和剤を添加することにより、硫酸溶液のpHを3.5〜6.5の範囲に調整することが重要となる。pHが3.5未満では、溶出したアルミニウムの水酸化物が生成せず、アルミニウムを効果的に分離除去することができない。一方で、pHが6.5を超えると、硫酸溶液中に浸出したニッケルの水酸化物生成が始まるため、ニッケルが水酸化アルミニウムと共沈して回収ロスを招く。したがって、中和剤を添加して硫酸溶液のpHを3.5〜6.5の範囲に調整することにより、ニッケルの共沈化を抑制しながら効果的に水酸化アルミニウムを生成させることができる。また、特に好ましくは、中和剤を添加してpHを5.5程度に調整することにより、溶出したアルミニウムをより効果的に水酸化物として分離することができる。
【0030】
炭酸水素塩又は炭酸塩の添加量としては、硫酸溶液のpHを上述した範囲にすることができれば、特に限定されるものではない。また、その添加方法についても、特に限定されるものではなく、例えばチューブ滴下法やスプレー滴下法等を利用することができる。
【0031】
上述のようにして中和剤によるpH調整によって硫酸溶液中に溶出させたアルミニウムを水酸化アルミニウムの沈殿として分離した後、その硫酸溶液を濾過することによって水酸化アルミニウムを除去することができる。このときの濾過方法としては、特に限定されるものではなく、一般的な方法を用いることができる。
【0032】
このアルミニウムの分離除去方法においては、硫酸溶液の温度条件としては、特に限定されないが、50〜90℃程度の温度とすることが好ましく、80℃程度とすることがより好ましい。50℃未満の温度では、中和剤の添加により生成した水酸化アルミニウム殿物がゲル化して、濾過処理に長時間を要する。一方で、90℃を超えると、昇温するためのコストが掛かって効率的ではなく、また安全性も低下する。
【0033】
また、温度条件としては、中和剤の添加から濾過処理までの一連の操作に亘って、その硫酸溶液の温度を一定温度に維持した状態とすることが好ましい。具体的には、例えば、硫酸溶液の温度を80℃に昇温させた後に中和剤である炭酸水素塩又は炭酸塩を添加して水酸化アルミニウムの沈殿物を生成させ、その80℃の温度を略一定に維持した状態で濾過処理を施すことが好ましい。このように、硫酸溶液の温度を一定温度に維持した状態で、炭酸水素塩又は炭酸塩を添加して水酸化アルミニウムを分離し濾過することで、その濾過性を高めることができる。さらに、硫酸溶液中に浸出したニッケル等の有価金属の共沈化の抑制効果が高まり、その有価金属の回収ロスをより効果的に防止することができる。
【0034】
< 2 . リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法>
次に、上述したアルミニウムの分離除去方法を適用した、リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法について説明する。この有価金属の回収方法は、リチウムイオン電池を構成する正極材における正極活物質から、ニッケル、コバル
ト等の有価金属を硫酸溶液を用いて浸出させて回収する方法である。本実施の形態に係るリチウムイオン電池からの有価金属の回収方法においては、その浸出処理に際して、正極活物質をアルミニウム箔からなる正極基板に固着させた正極材の状態で硫酸溶液に浸漬させることで、その正極基板のアルミニウムの還元作用を利用した還元浸出を行う。
【0035】
具体的に、このリチウムイオン電池からの有価金属の回収方法は、正極材を硫酸溶液に浸漬させて還元浸出を行う浸出工程と、硫酸溶液に溶出したアルミニウムを分離除去する不純物分離除去工程と、アルミニウムを分離除去した硫酸浸出液から有価金属を回収する回収工程とを有する。なお、本実施の形態においては、正極材の製造工程で発生した正極材不良品(製造工程スクラップ)から有価金属を回収する場合を一例として説明する。
【0036】
〔浸出工程〕
浸出工程では、アルミニウム箔からなる正極基板に正極活物質を固着させた正極材に対して、例えば純水を添加することによってスラリーとし、その正極材を含むスラリーに対して硫酸溶液を添加してその硫酸溶液中に浸漬させるようにし、正極材を構成する正極活物質からニッケルやコバルト、マンガン等の有価金属を浸出させる。
【0037】
使用する硫酸溶液としては、特に限定されないが、そのpHが0〜3程度となるように濃度調整したものを用いることが好ましい。また、硫酸溶液に対する正極材の量(投入量)についても、特に限定されるものではなく、例えば硫酸溶液に対して10〜100g/l程度となるようにすることができる。
【0038】
上述したように、この浸出工程における浸出処理では、正極活物質と共に硫酸溶液中に浸漬させた正極基板を構成するアルミニウム(箔)の還元作用を利用した還元浸出を行う。このようにアルミニウムの還元作用を利用することによって、正極活物質の浸出反応をより効果的に進行させることができ、有価金属の浸出率を向上させることができる。なお、上述したように、この還元浸出反応は、アルミニウムの還元作用による水素の発生が無くなるまで進行させ、したがって、相対的にアルミニウムが過剰量存在する環境下では、LiNiO
2等の正極活物質はすべて浸出されることになる。
【0039】
このようにして、この浸出工程における還元浸出処理によって、ニッケル、コバルト、マンガン等の有価金属を浸出させた浸出液と不純物からなる浸出残渣とを得る。このときに生成した浸出残渣については、濾過処理等を施すことによって浸出液から分離除去することができる。
【0040】
一方で、この浸出工程における還元浸出処理によって得られた硫酸浸出液(硫酸溶液)は、還元浸出に際して用いた正極基板に由来するアルミニウムの一部が溶出した状態となっている。この溶液中に溶出したアルミニウムは、後工程の有価金属の回収処理における不純物となるものであり、有価金属の回収に先立って、溶出したアルミニウムを効果的に且つ効率的に分離除去することが必要となる。そこで、本実施の形態においては、次工程の不純物分離除去工程において、硫酸溶液中に溶出したアルミニウムを分離除去する。
【0041】
〔不純物分離除去工程〕
不純物分離除去工程では、上述の浸出工程における還元浸出処理にて得られた硫酸浸出液から、その溶液中に溶出したアルミニウムを分離除去する。具体的には、その硫酸浸出液に、炭酸水素塩又は炭酸塩を添加してpH3.5〜6.5の範囲に調整して中和処理を施し、その溶出したアルミニウムを水酸化アルミニウムの沈殿物として分離し、その沈殿物を濾過処理によって除去する。
【0042】
なお、この不純物分離除去工程におけるアルミニウムの分離除去方法については、上述の説明と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0043】
このようにして硫酸浸出液中に含まれるアルミニウムを分離除去することによって、浸出したニッケル等の有価金属の沈殿物化(共沈化)を抑制しながら、アルミニウムを効果的に且つ効率的に分離除去することができる。
【0044】
〔回収工程〕
回収工程では、上述した不純物除去工程にて不純物であるアルミニウムを分離除去した硫酸浸出液から有価金属を回収する。具体的に、その回収方法としては、例えば、その硫酸浸出液を反応容器に導入し、硫化剤を添加することによって硫化反応を生じさせることで、ニッケル・コバルト混合硫化物として回収する方法を用いることができる。なお、以下では、有価金属の回収方法として、硫酸浸出液に対して硫化処理を施すことによって有価金属を硫化物として回収する方法を一具体例として説明するが、有価金属を回収する方法はこれに限られるものではなく、回収しようとする有価金属に応じて適した回収方法を採用することができる。
【0045】
硫化処理に用いる硫化剤としては、特に限定されるものではないが、硫化ナトリウムや水硫化ナトリウム、又は硫化水素ガスなどの硫化アルカリ等を用いることができる。
【0046】
具体的に、この硫化処理では、得られた硫酸浸出液中に含まれる有価金属であるニッケルイオン(又はコバルトイオン)が、例えば下記反応式(1)、(2)、又は(3)に従って硫化アルカリによる硫化反応が生じることで、硫化物となる。
Ni
2++H
2S ⇒ NiS+2H
+ ・・・(1)
Ni
2++NaHS ⇒ NiS+H
++Na
+ ・・・(2)
Ni
2++Na
2S ⇒ NiS+2Na
+ ・・・(3)
【0047】
硫化工程における硫化剤の添加は、それ以上に硫化剤を添加しても反応溶液中のORPの変動がなくなる時点まで行う。なお、通常、反応は−200〜400mV(参照電極:銀/塩化銀電極)の範囲で完結する。また、硫化反応に用いる溶液のpHとしては、pH2〜4程度とする。また、硫化反応の温度としては、特に限定されるものではないが、0〜90℃とし、好ましく25℃程度とする。
【0048】
なお、特に上記反応式(1)又は(2)においては、反応が進行する際に酸も生成し、反応が遅延する。このため、反応を促進し完結させるために、硫化剤の添加と共に水酸化ナトリウム等のアルカリを添加し発生する酸を中和することが好ましい。
【0049】
このようにして硫化反応を生じさせることにより、リチウムイオン電池の正極材における正極活物質に含まれていた有価金属であるニッケル、コバルト等を、ニッケル・コバルト硫化物(硫化澱物)として分離回収することができ、これを磁性材料や正極活物質の製造原料としてリサイクルすることができる。
【0050】
以上詳述したように、本実施の形態に係るリチウムイオン電池からの有価金属の回収方法においては、アルミニウム箔からなる正極基板とそのアルミニウム箔に固着した正極活物質とを含む正極材を硫酸溶液に浸漬させて正極活物質に含まれる有価金属を浸出させた後、その硫酸浸出液に対して炭酸水素塩又は炭酸塩を添加してpH3.5〜6.5の範囲に調整することにより、硫酸溶液に溶出したアルミニウムを水酸化アルミニウムとして分離し、濾過する工程を含む。
【0051】
このような有価金属の回収方法によれば、浸出したニッケル等の有価金属の沈殿物化を抑制しながら、溶出した正極基板由来のアルミニウムを効果的に且つ効率的に分離除去することができる。そして、これにより、ニッケル等の有価金属を、その回収ロスを効果的に抑制しながら、高い純度で以って回収することができる。
【0052】
しかも、このような有価金属の回収方法では、非常に簡便な方法でアルミニウムを分離回収することができるので、従来のように複雑な浸出処理やアルミニウム除去処理を経ることなく、有価金属の回収プロセスを低コスト化することができる。
【0053】
なお、上述の説明においては、正極材の製造工程において生じた正極材の不良品(製造工程スクラップ)を用いて、その正極材スクラップから有価金属を回収する場合を例に挙げたが、正極材としてはこれに限られるものではない。例えば、使用済みのリチウムイオン電池から解体回収した正極材を用いてもよい。その場合、上述した浸出工程を行うに先立ち、リチウムイオン電池を放電させる放電工程と、放電して無害化させた使用済みのリチウムイオン電池を破砕・解砕等することによって解体し正極材を取り出す解体工程と、解体して得られた正極材を洗浄する洗浄工程とを経るようにすることができる。
【0054】
具体的に、放電工程では、使用済みリチウムイオン電池を解体するに先立ち、電池を放電させ、無害化させる。これにより、後工程における解体時等における危険性を無くす。この放電工程では、例えば硫酸ナトリウム水溶液や塩化ナトリウム水溶液等の放電液を用い、使用済みのリチウムイオン電池をその水溶液中に浸漬させることにより放電させる。
【0055】
次に、解体工程では、放電して無害化させた使用済みのリチウムイオン電池を破砕・解砕することによって解体する。解体工程では、無害化させた電池を、通常の破砕機や解砕機を用いて破砕(解砕)し、外装缶を切断する等して、内部の正極材を取り出す。このとき、正極材も適度な大きさに切断することが好ましい。
【0056】
次に、洗浄工程では、リチウムイオン電池を解体して得られた正極材を、水又はアルコールで洗浄し、付着した電解液及び電解質を除去する。リチウムイオン電池には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の有機溶剤や、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)のような電解質が含まれているため、これらを予め除去する。これにより、後工程の浸出工程での浸出液中に有機成分やリン(P)やフッ素(F)等が不純物として混入することを防ぐことができる。
【0057】
電池解体物の洗浄には、水又はアルコールを使用し、振盪又は撹拌して有機成分及び電解質を除去する。アルコールとしては、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合液等を用いる。カーボネート類は一般的には水に不溶であるが、電解液成分である炭酸エチレンは水に任意に溶け、その他の有機成分も水に多少の溶解度を有しているため、水でも洗浄可能である。また、この洗浄は、複数回繰り返して行うことが好ましく、これにより、有機成分及び電解質に由来するリンやフッ素等を後工程に影響を及ぼさない程度にまで除去することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明についての実施例を比較例と対比しながら説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
原料として、リチウムイオン電池の正極部品の製造工程にて発生した正極材の不良品(スクラップ)を用いた。なお、この正極材は、正極基板であるAl板にNi−Co−Mn酸化物からなる正極活物質が塗布されたものである。
【0060】
先ず、この正極材の不良品に含まれる正極活物質に含まれる有価金属であるNi、Co、Mnを浸出させために、正極材をH
2SO
4溶液に浸漬させた。次に、得られた硫酸浸出液に対し、中和剤として濃度200g/lのNaHCO
3溶液を、硫酸浸出液のpHが5.5となるまで供給チューブを介して供給し、溶液を攪拌機により攪拌した。その後、硫酸溶液のpHが5.5になった時点で中和剤の供給を停止し、攪拌機による攪拌も停止した。なお、温度条件としては、中和剤の添加前から中和処理における反応進行に伴って硫酸溶液の温度を室温から80℃にまで徐々に昇温させていった(室温→80℃)。
【0061】
得られた中和処理後の濾液(中和終液)を吸引濾過し、水酸化アルミニウム澱物を得た。その中和処理後の濾液の組成をICP発光分析により分析したところ、Ni:19g/l、Co:22g/l、Mn:18g/l、Al:0.002g/lであった。中和処理前の中和始液の組成(Ni:31g/l、Co:31g/l、Mn:25g/l、Al:18g/l)と比べると、硫酸浸出液中のアルミニウムを効果的に低減できたことが分かった。
【0062】
また、得られた中和澱物(水酸化アルミニウム澱物)の組成をICP発光分析により分析したところ、Ni:4.8%、Co:1.2%、Mn:0.37%、Al:18%であった。この分析値から、中和澱物へのNiロスの割合を計算すると、14.8%であった。なお、中和澱物の濾過時間は、1日を要した。
【0063】
[実施例2]
実施例2では、中和剤として濃度280g/lのNa
2CO
3を用い、温度条件として、中和剤の添加前から中和処理中に亘って80℃の一定温度に維持したこと以外は、実施例1と同様にして行った。
【0064】
その結果、得られた中和処理後の濾液(中和終液)を吸引濾過し、水酸化アルミニウム澱物を得た。その中和処理後の濾液の組成を分析したところ、Ni:29g/l、Co:30g/l、Mn:26g/l、Al:0.13g/lであった。中和処理前の中和始液の組成(Ni:31g/l、Co:31g/l、Mn:25g/l、Al:18g/l)と比べると、硫酸浸出液中のアルミニウムを効果的に低減できたことが分かった。
【0065】
また、得られた中和澱物(水酸化アルミニウム澱物)の組成を分析したところ、Ni:2.7%、Co:1.1%、Mn:0.24%、Al:19%であった。この分析値から、中和澱物へのNiロスの割合を計算すると、8.2%であった。また、中和澱物の濾過時間は、38分となり、実施例1と比べて濾過性が向上した。
【0066】
[比較例1]
比較例1では、中和剤として濃度8g/lのNaOHを用い、温度条件として、中和剤の添加前から中和処理中に亘って80℃の一定温度に維持したこと以外は、実施例1と同様にして行った。
【0067】
その結果、得られた中和処理後の濾液(中和終液)を吸引濾過し、水酸化アルミニウム澱物を得た。その中和処理後の濾液の組成を分析したところ、Ni:20g/l、Co:23g/l、Mn:20g/l、Al:0.019g/lであった。中和処理前の中和始液の組成(Ni:29g/l、Co:28g/l、Mn:20g/l、Al:17g/l)と比べると、硫酸浸出液中のアルミニウムを低減できることが分かった。
【0068】
しかしながら、得られた中和澱物(水酸化アルミニウム澱物)の組成を分析したところ、Ni:6.2%、Co:2.7%、Mn:0.28%、Al:18%であり、その中和澱物へのNiロスの割合を計算すると、21.2%となり、実施例に比べてNiロス量が著しく増加してしまった。
【0069】
[比較例2]
比較例2では、中和剤として濃度8g/lのNaOHを用い、温度条件として、中和剤の添加前から中和処理中に亘って室温に維持したこと以外は、実施例1と同様にして行った。
【0070】
その結果、得られた中和処理後の濾液(中和終液)を吸引濾過し、水酸化アルミニウム澱物を得た。その中和処理後の濾液の組成を分析したところ、Ni:20g/l、Co:21g/l、Mn:20g/l、Al:0.029g/lであった。中和処理前の中和始液の組成(Ni:24g/l、Co:24g/l、Mn:20.6g/l、Al:17.4g/l)と比べると、硫酸浸出液中のアルミニウムを低減できることが分かった。
【0071】
しかしながら、得られた中和澱物(水酸化アルミニウム澱物)の組成を分析したところ、Ni:4.6%、Co:2.7%、Mn:0.35%、Al:16%であり、その中和澱物へのNiロスの割合を計算すると、19.5%となり、実施例に比べてNiロス量が著しく増加してしまった。
【0072】
下記表1に、上述した実施例及び比較例の処理条件並びに濾過時間、Niロス量の分析値をまとめて示す。
【0073】
【表1】
【0074】
上述したように、アルミニウム箔からなる正極基板と正極活物質とを含む正極材に対して硫酸溶液を用いて浸出処理を施し、得られた浸出液に対して炭酸水素ナトリウム等の炭酸水素塩や炭酸ナトリウム等の炭酸塩を中和剤として添加して所定のpHに調整することによって、正極活物質に含まれるニッケル等の有価金属のロスを防止しながら、溶出したアルミニウムを効果的に且つ効率的に分離除去できることが分かった。
【0075】
また、特に、硫酸溶液の温度を一定温度に維持した状態で中和剤を添加して反応させることによって、中和澱物の濾過性が向上するとともに、ニッケル等の有価金属のロスをより効果的に低減できることが分かった。