(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
表面に微細サイズの凹凸が規則的に配置された微細凹凸構造を有する微細凹凸構造体は、連続的に屈折率を変化させ反射防止性能を発現することが知られている。微細凹凸構造が良好な反射防止性能を発現するには、隣り合う凸部又は凹部の間隔が可視光の波長以下のサイズである必要がある。また、微細凹凸構造体は、ロータス効果により超撥水性能を発現することも可能である。
【0003】
微細凹凸構造を形成する方法としては、例えば、微細凹凸構造の反転構造が形成されたモールドを用いて射出成形やプレス成形する方法、モールドと透明基材との間に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(以下「樹脂組成物」ともいう。)を配し、活性エネルギー線の照射により樹脂組成物を硬化させて、モールドの凹凸形状を転写した後にモールドを剥離する方法、樹脂組成物にモールドの凹凸形状を転写してからモールドを剥離し、その後に活性エネルギー線を照射して樹脂組成物を硬化させる方法などが提案されている。これらの中でも、微細凹凸構造の転写性、表面組成の自由度を考慮すると、活性エネルギー線の照射により樹脂組成物を硬化させて、微細凹凸構造を転写する方法が好適である。この方法は、連続生産が可能なベルト状やロール状のモールドを用いる場合に特に好適であり、生産性に優れた方法である。
【0004】
このような微細凹凸構造体は、同じ樹脂組成物を使用して作製した表面が平滑なハードコートなどの成形体に比べて耐擦傷性に劣り、使用中の耐久性に問題がある。また、微細凹凸構造体の作製に使用する樹脂組成物が十分に堅牢でない場合、鋳型からの離型や加熱によって、突起同士が寄り添う現象が起き易い。
【0005】
撥水性を発現させ易くする方法としては、樹脂組成物にフッ素系化合物やシリコーン系化合物等の撥水性成分を配合することが知られている。特にフッ素系化合物を用いることで、表面自由エネルギーを極めて低くすることが可能である。さらにフッ素系化合物は、シリコーン系化合物では達し得ない撥油性をも発現させることが出来る。
【0006】
例えば特許文献1には、特定構造のフッ素系モノマー成分を用いた耐擦傷性と防汚性に優れた硬化皮膜が開示されている。また、特許文献2には、フッ素含有ポリマーを含有する硬化性組成物が開示されている。また、特許文献3には、防汚性とスリップ性を付与することの出来る、ケイ素とフッ素、両方を含有するポリマーが開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1には、フッ素系モノマーを2質量部以上添加すると、透明性が損なわれることが記載されている。また、フッ素系モノマーと多官能モノマーを均一に相溶させるために有機溶剤が必要である。この場合、コーティング溶液を塗布した後に、乾燥工程を経て、活性エネルギー線照射により重合・硬化させるプロセスならば製造に大きな問題はないが、鋳型に流し込んだ状態で活性エネルギー線照射により重合・硬化させ、その後離型するプロセスでは、溶剤が硬化物中に残って成形品を弱くしてしまう。
【0008】
特許文献2には、含フッ素ポリマーと多官能モノマーが相溶しにくいことが課題として記載されており、課題解決のために多官能モノマーの構造を特定のものにしている。また特許文献2及び特許文献3ともに、溶剤を適宜用いて多官能モノマーと相溶させている。この場合、乾燥工程を経ない重合・硬化プロセスでは課題が残る。また、これらのオリゴマーやポリマーは、重合性反応基を有するものであるが、架橋密度を高くするには限界があり、特に微細凹凸構造体として用いるには満足な硬さを得ることはできない。
【0009】
更に、上記の発明は溶剤が揮発する過程でフッ素含有の防汚成分が表層へ移行することを狙ったものである。したがって、鋳型に流し込んだ状態で活性エネルギー線を照射し、重合・硬化させた後に離型する成形方法では、同程度の撥水・撥油性を出すことは不可能である。
【0010】
このように、防汚性を出すためのフッ素含有硬化性組成物は数多く提案されているが、微細凹凸構造を形成するための樹脂組成物として、耐擦傷性を十分に満足するものではない。また、鋳型中での重合・硬化で表面に撥水・撥油性を付与することは出来ない。
【0011】
一方、特許文献4、特許文献5及び特許文献6には、微細凹凸構造体の表面にフッ素系化合物を塗布し、シランカップリング反応等で繋ぎとめるという後加工処理が開示されている。このような後加工処理によれば、微細凹凸構造体にある程度の耐擦傷性を付与出来るが、表層の剥離や滑落が生じたり製造コストが増加する等の課題がある。
【0012】
そこで、本発明者らは、以上説明した各事情を鑑み、高い耐擦傷性と良好な撥水性を兼ね備えた微細凹凸構造体等を形成できる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、及びそれを用いた微細凹凸構造体とその製造方法、及び微細凹凸構造体を備えた撥水性物品を提案した(特許文献7)。この発明によれば、汎用多官能モノマーと相溶する特定構造の撥水性成分を用いることで溶剤を必要とせず、後加工処理のような複雑な工程を経ることなく、撥水性を兼ね備えた微細凹凸構造体を製造できる。
【0013】
しかしながら、特許文献7で開示されている発明も、特殊なシリコーン系化合物を用いるものである。したがって、より安価で、入手が容易な原料を用いて、良好な撥水性を発現する微細凹凸構造体等を形成できる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が望まれる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[アルキル(メタ)アクリレート(A)]
本発明に用いるアルキル(メタ)アクリレート(A)は、分子内にラジカル重合性官能基として(メタ)アクリロイルオキシ基を1つ以上(好ましくは1つ)有し、かつ炭素数12以上のアルキル基を有する化合物である。
【0024】
アルキル(メタ)アクリレート(A)の炭素数12以上のアルキル基は、(メタ)アクリレートのエステル構造を構成する部分である。このアルキル基の炭素数が12以上であることにより、硬化物に良好な撥水性を付与でき、微細凹凸構造を有する表面に水滴が付着しにくくなり、また付着した水滴を容易に転落させることができる。アルキル基は分岐を有していても良いが、直鎖状であることが撥水性の点から好ましい。アルキル基の炭素数は12以上であり、好ましくは12〜22、より好ましく12〜18、特に好ましくは16〜18である。22以下とすることにより、特に直鎖状アルキル基の場合のハンドリング性に優れ、例えば加熱により液状にし易く、室温でもワックス状になりにくい。直鎖状アルキル基の場合、その炭素数は16が最も好ましい。
【0025】
アルキル(メタ)アクリレート(A)は、分子内にラジカル重合性官能基として(メタ)アクリロイルオキシ基を1つ有することが好ましい。これにより、多官能モノマー(B)と共に重合体を形成して得られる硬化物において、ブリードアウトが抑制される傾向にある。また、ラジカル重合性官能基が1個であることにより、アルキル鎖が凝集し易くなり、硬化物に撥水性を付与し易くなる。
【0026】
アルキル(メタ)アクリレート(A)は、多官能モノマー(B)との組合せによって、加熱時は相溶して透明清澄な硬化性樹脂組成物となるが、室温まで冷ますと白濁を生じたり、分離する場合もある。また、硬化物に濁りや靄が発生する場合もある。しかし、アルキル(メタ)アクリレート(A)と、多官能モノマー(B)がよく相溶する組合せであると、撥水性が発現しにくくなる。このような点を考慮して、硬化性樹脂組成物を取り扱う上で不便がなく、かつ硬化物が撥水性を発現するような組合せにすることが好ましい。
【0027】
アルキル(メタ)アクリレート(A)の具体例としては、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお(メタ)アクリレートは、メタクリレート又はアクリレートを意味する。市販品としては、日油製「ブレンマーLA」「ブレンマーCA」「ブレンマーSA」「ブレンマーVA」「ブレンマーLMA」「ブレンマーCMA」「ブレンマーSMA」「ブレンマーVMA」、新中村化学製「NKエステルS−1800A」「NKエステルS−1800M」等がある(以上、全て商品名)。
【0028】
アルキル(メタ)アクリレート(A)の含有量は、組成物中に含まれる全モノマーの含有量の合計100質量部を基準として、3〜18質量部であり、好ましくは3〜12質量部、より好ましくは3〜10質量部、特に好ましくは5〜8質量部である。3質量部以上とすることにより、良好な撥水性が得られる。18質量部以下とすることにより、架橋密度が低下するのを抑制し、硬化物の耐擦傷性を良好に維持できる。
【0029】
[多官能モノマー(B)]
本発明に用いる多官能モノマー(B)は、樹脂組成物の主成分であり、硬化物の機械特性、特に耐擦傷性を良好に維持すると共に、硬化に伴う相分離を誘起させる役割を果たす。多官能モノマー(B)は、分子内に3個以上のラジカル重合性官能基を有する。これにより、硬化物の架橋点間分子量が小さくなり、架橋密度を高くして、硬化物の弾性率や硬度を高くし、耐擦傷性に優れたものとすることができる。このラジカル重合性官能基は、代表的には(メタ)アクリロイル基である。
【0030】
多官能モノマー(B)は、Fedorの推算法で表される特定のsp値を示す。sp値とは溶解性パラメーターまたは溶解度パラメーターと言われ、溶質が溶媒へ溶けるか否か、異種の液体が混ざるか否か等の溶解性を判断する際の指標となる値である。一般に、sp値を導く方法としては、液体の蒸発熱から計算する方法や、各化学構造に基づいた値を積算することで算出する方法などの様々な方法があり、例えばHildeblandのsp値、Hansenのsp値、Kreverenの推算法、Fedorの推算法が知られている。これらは、情報機構発刊の「SP値 基礎・応用と計算方法」に詳しい。本発明においては、化学構造に応じた値を積算するFedorの推算法を用いる。
【0031】
本発明において、sp値はモノマー同士の溶解性の指標になる。多官能モノマー(B)のFedorの推算法によって導出されるsp値は、20〜23であり、好ましくは20.5〜23、より好ましくは20.5〜22.5である。20以上とすることにより、多官能モノマー(B)がアルキル(メタ)アクリレート(A)と相溶し過ぎることなく、硬化物の撥水性を発現することができる。また、アルキル(メタ)アクリレート(A)と適度に相溶し、透明・清澄な硬化性樹脂組成物を得るために過度な加熱などを必要としないため、ハンドリング性に優れる。
【0032】
また、さらなる溶解性の指標としては、多官能モノマー(B)95質量部とステアリルアクリレート5質量部を混合し、加熱して溶解させた後、25℃まで冷やしたときに白濁や沈殿を生じたり、一晩静置した時に2成分が分離することが好ましい。
【0033】
多官能モノマー(B)としては、例えば、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等の3官能以上の(メタ)アクリレートを用いることができる。その具体例としては、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、及び、これらのエトキシ変性物が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、市販品としては、例えば、新中村化学工業社製の「NKエステル」シリーズのATM−4E、日本化薬製の「KAYARAD」シリーズのDPEA−12、東亞合成製の「アロニックス」シリーズのM−305、M−450、M−400、M−405、ダイセル・サイテック社製の「EBECRYL40」が挙げられる(以上、全て商品名)。
【0034】
多官能モノマー(B)の分子量をラジカル重合性官能基の数で除した値(分子量/ラジカル重合性官能基の数)は、好ましくは200以下、より好ましくは180以下、特に好ましくは110〜150である。これら各範囲は、硬化物の弾性率や硬度及び微細凹凸構造を形成した硬化物の耐擦傷性の点で意義が有る。例えば、トリメチロールプロパントリアクリレートの場合、その分子量は296であり、ラジカル重合性官能基の数は3である。したがって、分子量/ラジカル重合性官能基の数=98.7となる。
【0035】
多官能モノマー(B)の含有量は、組成物中に含まれる全モノマーの含有量の合計100質量部を基準として、82〜97質量部であり、好ましくは85〜97質量部、より好ましくは90〜95質量部である。82質量部以上とすることにより、良好な硬化物の弾性率、硬度、耐擦傷性が得られる。97質量部以下とすることにより、硬化物の耐擦傷性が向上し、脆弱になるのを抑制でき、かつ凹凸構造を形成する為のモールドを剥離する際のひび割れの発生を抑制することができる。なお、微細凹凸構造を形成する場合、表面に形成する突起の形状が細長く高さが高いほどその形状を維持することが難しいので、高硬度の樹脂が要求される。しかし、例えば突起高さが180nmを超える場合であっても、多官能モノマー(B)の含有量が上記の範囲内であれば、微細凹凸構造を良好に維持できる。
【0036】
[モノマー(C)]
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、1個以上のラジカル重合性官能基を有するモノマー(C)を含んでいてもよい。このモノマー(C)は、アルキル(メタ)アクリレート(A)及び多官能モノマー(B)と共重合可能なモノマーであって、樹脂組成物全体としての重合反応性を良好に維持しつつ、ハンドリング性や基材との密着性を更に向上するものであることが好ましい。
【0037】
モノマー(C)は、分子内にフッ素原子及びシリコーンを含まないことが好ましいが、撥水性を損なわない程度に分子内にフッ素原子及び/又はシリコーンを含んでいてもよい。これは、アルキル(メタ)アクリレート(A)と多官能モノマー(B)の相溶状態に影響を与えず、耐擦傷性や基材との密着性をあまり損なわないようにする為である。また、モノマー(C)としては、アルキル(メタ)アクリレート(A)と多官能モノマー(B)の相溶状態に影響を与えず、撥水性を損なわないようにする点から、Fedorの推算法で表されるsp値が20以上のものは多量に使用しないことが好ましい。
【0038】
モノマー(C)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体;2−ビニルピリジン;4−ビニルピリジン;N−ビニルピロリドン;N−ビニルホルムアミド;酢酸ビニルが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、(メタ)アクリロイルモルホリン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが、嵩高くなく、樹脂組成物の重合反応性を促進させ得ることから好ましい。また、後述する基材として、アクリル系フィルムを用いる場合には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0039】
モノマー(C)の含有量は、組成物中に含まれる全モノマーの含有量の合計100質量部を基準として、好ましくは0〜15質量部、より好ましくは0〜10質量部、特に好ましくは1〜10質量部、最も好ましくは3〜8質量部である。15質量部以下とすることにより、樹脂組成物を効率よく硬化させ、残存モノマーが可塑剤として作用して硬化物の弾性率や耐擦傷性への悪影響を与えることを抑制することができる。フッ素原子及び/又はシリコーンを含む場合は、組成物中に含まれる全モノマーの含有量の合計100質量部を基準として10質量部以下であることが好ましい。
【0040】
アルキル(メタ)アクリレート(A)、多官能モノマー(B)及びモノマー(C)は、各々上述した各範囲内でその含有割合を適宜調整すればよい。特に、モノマー(C)の含有量は、アルキル(メタ)アクリレート(A)の含有量との調整において定めることが好ましい。
【0041】
[スリップ剤(D)]
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、スリップ剤(D)を含むことが好ましい。スリップ剤(D)は樹脂硬化物の表面に存在し、表面における摩擦を低減し、耐擦傷性を向上させる化合物である。スリップ剤(D)の市販品としては、例えば、東レ・ダウコーニング製「SH3746FLUID」「FZ−77」、信越化学工業製「KF−355A」、「KF−6011」が挙げられる(以上、全て商品名)。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
スリップ剤(D)の含有量は、組成物中に含まれる全モノマーの含有量の合計100質量部に対して、好ましくは0.01〜5質量部、より好ましくは0.1〜2質量部である。0.01質量部以上とすることにより、樹脂組成物の硬化性に優れ、硬化物の機械特性、特に耐擦傷性が良好となる。5質量部以下とすることにより、硬化物内に残存するスリップ剤による弾性率及び耐擦傷性の低下や着色を抑制することができる。
【0043】
[その他の含有物]
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線重合開始剤を含むことが好ましい。この活性エネルギー線重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によって開裂し、重合反応を開始させるラジカルを発生する化合物である。活性エネルギー線とは、例えば、電子線、紫外線、可視光線、プラズマ、赤外線などの熱線等を意味する。特に、装置コストや生産性の観点から、紫外線を用いることが好ましい。
【0044】
活性エネルギー線重合開始剤の具体例としては、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン;2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン類;ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド類;メチルベンゾイルホルメート、1,7−ビスアクリジニルヘプタン、9−フェニルアクリジンが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、吸収波長の異なる2種以上を併用することが好ましい。また必要に応じて、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキシド等の過酸化物、アゾ系開始剤等の熱重合開始剤を併用してもよい。
【0045】
活性エネルギー線重合開始剤の含有量は、組成物中に含まれる全モノマーの含有量の合計100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部、特に好ましくは0.2〜3質量部である。0.01質量部以上とすることにより、樹脂組成物の硬化性に優れ、硬化物の機械特性、特に耐擦傷性が良好となる。10質量部以下とすることにより、硬化物内に残存する重合開始剤による弾性率及び耐擦傷性の低下や着色を抑制することができる。
【0046】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線吸収剤及び/又は酸化防止剤を含んでいてもよい。活性エネルギー線吸収剤は、樹脂組成物の硬化の際に照射される活性エネルギー線を吸収し、樹脂の劣化を抑制できるものが好ましい。活性エネルギー線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤、ベンゾエート系の紫外線吸収剤が挙げられる。その市販品としては、例えば、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製の「チヌビン(登録商標)」シリーズの400や479、共同薬品社製の「Viosorb(登録商標)」シリーズの110が挙られる。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系の酸化防止剤、リン系の酸化防止剤、イオウ系の酸化防止剤、ヒンダードアミン系の酸化防止剤が挙げられる。その市販品としては、例えば、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製の「IRGANOX(登録商標)」シリーズが挙げられる。これら活性エネルギー線吸収剤、酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
活性エネルギー線吸収剤及び/又は酸化防止剤の含有量は、組成物中に含まれる全モノマーの含有量の合計100質量部に対して、好ましくは0.01〜5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に好ましくは0.01〜0.5質量部である。0.01以上とすることにより、硬化物の黄色化やヘイズ上昇を抑制し、耐候性を向上させることができる。5質量部以下とすることにより、樹脂組成物の硬化性、硬化物の耐擦傷性、硬化物の基材との密着性を良好にすることができる。
【0048】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、多官能モノマー(A)及びモノ(メタ)アクリレート(B)の機能を阻害しない範囲において、離型剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、光安定剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、シランカップリング剤、着色剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤等の添加剤を含有してもよい。
【0049】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、溶剤を含んでいてもよいが、含まない方が好ましい。溶剤を含まない場合は、例えば、樹脂組成物を鋳型に流し込んだ状態で活性エネルギー線照射により重合・硬化させ、その後離型するプロセスにおいて、溶剤が硬化物中に残る心配がない。また、製造工程を考慮した場合、溶剤除去のための設備投資が不要であり、コストの点でも好ましい。
【0050】
[樹脂組成物の物性]
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の粘度に関して、モールドにより微細凹凸構造を形成して硬化させる場合、この樹脂組成物の25℃における回転式B型粘度計で測定される粘度は、好ましくは10000mPa・s以下、より好ましくは5000mPa・s以下、特に好ましくは2000mPa・s以下である。また、この粘度が10000mPa・sを超える場合であっても、加温により上記範囲内の粘度にした樹脂組成物を使用すれば、作業性を損なうことはない。この樹脂組成物の70℃における回転式B型粘度計で測定される粘度は、好ましくは5000mPa・s以下、より好ましくは2000mPa・s以下である。
【0051】
樹脂組成物の粘度は、モノマーの種類や含有量を調節することで調整できる。具体的には、水素結合等の分子間相互作用を有する官能基や化学構造を含むモノマーを多量に用いると、樹脂組成物の粘度は高くなる。また、分子間相互作用のない低分子量のモノマーを多量に用いると、樹脂組成物の粘度は低くなる。
【0052】
[成形品:微細凹凸構造体]
以上説明した活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、重合及び硬化させて成形品とすることができる。その成形品として、特に微細凹凸構造を表面に有する微細凹凸構造体は極めて有用である。微細凹凸構造体としては、例えば、基材と、表面に微細凹凸構造を有する硬化物とを有するものを挙げることができる。
【0053】
図1は、本発明の微細凹凸構造体の実施形態を示す模式的断面図である。
図1(a)に示す微細凹凸構造体は、基材11上に本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物である層(表層)12が積層されたものである。層12の表面は、微細凹凸構造を有する。微細凹凸構造は、円錐状の凸部13と、凹部14とが等間隔W1で形成される。凸部の形状は、垂直面における断面積が、頂点側から基材側に、連続的に増大する形状であることが、屈折率を連続的に増大させることができ、波長による反射率の変動(波長依存性)を抑制し、可視光の散乱を抑制して低反射率にできることから好ましい。
【0054】
また、凸部の間隔w1(又は凹部の間隔)は、可視光の波長(380〜780nm)以下の距離とする。凸部の間隔w1が380nm以下であれば、可視光の散乱を抑制でき、反射防止膜として光学用途に好適に使用できる。
【0055】
また、凸部の高さ又は凹部の深さ、即ち、凹部の底点14aと凸部の頂部13aとの垂直距離d1は、波長により反射率が変動するのを抑制できる深さとすることが好ましい。具体的には、60nm以上が好ましく、90nm以上がより好ましく、150nm以上が特に好ましく、180nm以上が最も好ましい。垂直距離d1が150nm近傍では、人が一番認識し易い550nmの波長域光の反射率を最も低くすることができる。凸部の高さが150nm以上になると、凸部の高さが高いほど、可視光域における最高反射率と最低反射率の差が小さくなる。このため、凸部の高さが150nm以上になれば、反射光の波長依存性が小さくなり、目視での色味の相違は認識されなくなる。
【0056】
ここで凸部の間隔及び高さは、電界放出形走査電子顕微鏡(JSM−7400F:日本電子社製)により加速電圧3.00kVの画像における測定により得られる測定値の算術平均値を採用した。
【0057】
凸部は、
図1(b)に示すような、凸部の頂部13bが曲面である釣鐘状であってもよく、その他、垂直面における断面積が、頂点側から基材側に連続的に増大する形状を採用することができる。
【0058】
微細凹凸構造は、
図1に示す実施形態に限定されず、基材の片面又は全面、もしくは、全体又は一部に形成することができる。また、撥水性能を効果的に発現させるには、凸部の突起の先端が細いことが好ましく、微細凹凸構造体と水滴の接触面における硬化物の占有する面積ができるだけ少ないことが好ましい。
【0059】
また、基材11と表層12の間に、耐擦傷性や接着性などの諸物性を向上させる為の中間層を設けてもよい。
【0060】
基材としては、微細凹凸構造を有する硬化物を支持可能なものであれば、いずれであってもよいが、微細構造体をディスプレイ部材に適用する場合は、透明基材、すなわち光を透過する成形体が好ましい。透明基材を構成する材料としては、例えば、メチルメタクリレート(共)重合体、ポリカーボネート、スチレン(共)重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体等の合成高分子、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート等の半合成高分子、ポリエチレンテレフタラート、ポリ乳酸等のポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、それら高分子の複合物(ポリメチルメタクリレートとポリ乳酸の複合物、ポリメチルメタクリレートとポリ塩化ビニルの複合物等)、ガラスが挙げられる。
【0061】
基材の形状はシート状、フィルム状等いずれでってもよく、その製造方法も、例えば、射出成形、押し出し成形、キャスト成形等、いずれの製法により製造されたものを使用することができる。更に、密着性、帯電防止性、耐擦傷性、耐候性等の特性の改良を目的として、透明基材の表面に、コーティングやコロナ処理が施されていてもよい。
【0062】
このような微細凹凸構造体は、反射防止膜として適用することができ、高い耐擦傷性と、優れた指紋除去性等の汚染物の除去効果が得られる。
【0063】
[微細凹凸構造体の製造方法]
微細凹凸構造体の製造方法としては、例えば、(1)微細凹凸構造の反転構造が形成されたモールドと基材との間に上記樹脂組成物を配し、活性エネルギー線の照射により樹脂組成物を硬化して、モールドの凹凸形状を転写し、その後モールドを剥離する方法、(2)樹脂組成物にモールドの凹凸形状を転写してからモールドを剥離し、その後活性エネルギー線を照射して樹脂組成物を硬化する方法等が挙げられる。これらの中でも、微細凹凸構造の転写性、表面組成の自由度の点から、(1)の方法が特に好ましい。この方法は、連続生産が可能なベルト状やロール状のモールドを用いる場合に特に好適であり、生産性に優れた方法である。
【0064】
モールドに微細凹凸構造の反転構造を形成する方法は、特に限定されず、その具体例としては、電子ビームリソグラフィー法、レーザー光干渉法が挙げられる。例えば、適当な支持基板上に適当なフォトレジスト膜を塗布し、紫外線レーザー、電子線、X線等の光で露光し、現像することによって微細凹凸構造を形成した型を得て、この型をそのままモールドとして使用することもできる。また、フォトレジスト層を介して支持基板をドライエッチングにより選択的にエッチングして、レジスト層を除去することで支持基板そのものに直接微細凹凸構造を形成することも可能である。
【0065】
また、陽極酸化ポーラスアルミナを、モールドとして利用することも可能である。例えば、アルミニウムをシュウ酸、硫酸、リン酸等を電解液として所定の電圧にて陽極酸化することにより形成される20〜200nmの細孔構造をモールドとして利用してもよい。この方法によれば、高純度アルミニウムを定電圧で長時間陽極酸化した後、一旦酸化皮膜を除去し、再び陽極酸化することで非常に高規則性の細孔が自己組織化的に形成できる。さらに、二回目に陽極酸化する工程で、陽極酸化処理と孔径拡大処理を組み合わせることで、断面が矩形でなく三角形や釣鐘型である微細凹凸構造も形成可能となる。また、陽極酸化処理と孔径拡大処理の時間や条件を適宜調節することで、細孔最奥部の角度を鋭くすることも可能である。
【0066】
さらに、微細凹凸構造を有する原型から電鋳法等で複製型を作製し、これをモールドとして使用してもよい。
【0067】
モールドそのものの形状は特に限定されず、例えば、平板状、ベルト状、ロール状のいずれでもよい。特に、ベルト状やロール状にすれば、連続的に微細凹凸構造を転写でき、生産性をより高めることができる。
【0068】
このようなモールドと、基材間に、上記樹脂組成物を配する。モールドと基材間に樹脂組成物を配置する方法としては、モールドと基材間に樹脂組成物を配置した状態でモールドと基材とを押圧することで、成型キャビティーへ樹脂組成物を注入する方法などによることができる。
【0069】
基材とモールド間の樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して重合硬化する方法としては、紫外線照射による重合硬化が好ましい。紫外線を照射するランプとしては、例えば、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、フュージョンランプを用いることができる。
【0070】
紫外線の照射量は、重合開始剤の吸収波長や含有量に応じて決定すればよい。通常、その積算光量は、400〜4000mJ/cm
2が好ましく、400〜2000mJ/cm
2がより好ましい。積算光量が400mJ/cm
2以上であれば、樹脂組成物を十分硬化させて硬化不足に因る耐擦傷性低下を抑制することができる。また。積算光量が4000mJ/cm
2以下であれば、硬化物の着色や基材の劣化を防止する点で意義が有る。照射強度も特に制限されないが、基材の劣化等を招かない程度の出力に抑えることが好ましい。
【0071】
重合・硬化後、モールドを剥離して、微細凹凸構造を有する硬化物を得て、微細凹凸構造体を得る。
【0072】
また、上記基材が立体形状の成形体等の場合は、形成した微細凹凸構造体を、別途成形した立体形状の成形体に貼り付けることもできる。
【0073】
このようにして得られる微細凹凸構造体は、その表面にモールドの微細凹凸構造が鍵と鍵穴の関係で転写され、高い耐擦傷性を備え、且つ、撥水性を兼ね備えると共に、連続的な屈折率の変化によって優れた反射防止性能を発現でき、フィルムや、立体形状の成形品の反射防止膜として好適である。
【0074】
[撥水性物品]
本発明の撥水性物品は、本発明の樹脂組成物を重合及び硬化してなる微細凹凸構造を表面に有する微細凹凸構造体を備えた物品であってもよいし、本発明の樹脂組成物を重合及び硬化させてなる物品であってもよい。本発明の撥水性物品は、水の接触角が130°以上であることが好ましく、140°以上が更に好ましい。また、水滴の転落性が良好である。特に、微細凹凸構造体を備えた撥水性物品は、高い耐擦傷性と良好な撥水性を有すると共に、優れた反射防止性能を発現する。例えば、窓材、屋根瓦、屋外照明、カーブミラー、車両用窓、車両用ミラーの表面に、微細凹凸構造体を貼り付けて使用することができる。
【0075】
また、本発明の微細凹凸構造体を反射防止膜として使用する場合は、反射防止性能だけでなく、高い耐擦傷性と良好な撥水性能を有する反射防止膜となる。例えば、コンピュータ、テレビ、携帯電話等の液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、陰極管表示装置のような画像表示装置、レンズ、ショーウィンドー、眼鏡レンズ等の対象物の表面に、微細凹凸構造体を貼り付けて使用することができる。
【0076】
上記各対象物品の微細凹凸構造体を貼り付ける部分が立体形状である場合は、あらかじめそれに応じた形状の基材を使用し、その基材の上に本発明の樹脂組成物の硬化物からなる層を形成して微細凹凸構造体を得、これを対象物品の所定部分に貼り付ければよい。また、対象物品が画像表示装置である場合は、その表面に限らず、その前面板に対して貼り付けてもよいし、前面板そのものを微細凹凸構造体から構成することもできる。
【0077】
また本発明の微細凹凸構造体は、上述した用途以外にも、例えば、光導波路、レリーフホログラム、レンズ、偏光分離素子などの光学用途や、細胞培養シートの用途にも適用できる。
【0078】
[インプリント用原料など]
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、インプリント用原料にも使用できる。インプリント用原料は、この樹脂組成物を含むものであれば特に制限されない。樹脂組成物をそのまま用いることができるが、目的とする成形品に応じて各種添加剤を含有させることも可能である。
【0079】
インプリント用原料は、モールドを用いて、UV硬化或いは加熱硬化による硬化物の成形に使用することもできる。加熱などによって半硬化させた状態の樹脂組成物にモールドを押し当て、形状転写した後にモールドから剥がし、熱やUVによって完全に硬化させるという方法を用いることもできる。
【0080】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、その他、種々の基材上に硬化被膜を形成する原料として使用することもでき、コーティング材として塗膜を形成し、活性エネルギー線を照射して硬化物を形成することもできる。
【0081】
[モールド]
本発明のモールドは、本発明の樹脂組成物の硬化物であって微細凹凸構造を表面に有する微細凹凸構造体を備えたモールド(成形用型)である。具体的には、微細凹凸構造体と他の部材(基材等)とからなるモールドであっても良いし、微細凹凸構造体のみからなるモールドであっても良い。本発明のモールドは、良好な離型性を発現する。モールドの形状はフィルム状で用いても良いし、シート状でも良い。フィルム状のモールドをロールに巻き付けて使用しても良い。
【0082】
複数回の転写を繰り返して、貴重なマザーモールドからレプリカモールドを作製し、マザーモールドと同じ形状の微細凹凸構造を転写する方法は既に知られている。例えば特開2010−719号公報では、陽極酸化アルミをマザーモールドとしてレプリカモールドを作製している。ここでは、モールドとして使用するに当たって、フッ素処理を必須としている。モールド樹脂の表面自由エネルギーを低くしなければ、良好な離型が出来ないからである。
【0083】
一方、本発明のモールドは、炭素数12以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(A)によって離型性を発現しつつ、多官能モノマー(B)によって適度な硬度を発現し、硬化性樹脂組成物がモールドに浸透することを防ぐことができる。その結果、本発明のモールドは、フッ素処理などの高価な後加工を必要とせず、離型性に優れたモールドとなる。
【0084】
モールドがフィルム状であれば、ガラスのような剛性の材料への転写も容易になる。また、モールドが透明であれば、不透明な基材に対して微細凹凸構造を光硬化で形成することも出来る。
【0085】
[微細凹凸構造体の製造方法]
微細凹凸構造体の製造方法に、本発明のモールドを用いることが出来る。例えば、(1)基材の上に熱可塑性樹脂を配し(例えば熱可塑性樹脂を塗布して層を形成し)、モールドを加熱しながら押し当て、冷却し、その後モールドを剥離する方法、(2)モールドと基材との間に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を配し、活性エネルギー線を照射して樹脂組成物を硬化し、その後モールドを剥離する方法、(3)活性エネルギー線硬化性樹脂組成物にモールドの凹凸形状を転写してからモールドを剥離し、その後活性エネルギー線を照射して樹脂組成物を硬化する方法、が挙げられる。これら方法においては、熱可塑性樹脂層の表面又は活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物の表面に、モールドの微細凹凸構造の反転構造が形成される。
【0086】
モールドの形状は特に限定されず、例えば、平板状、ベルト状、ロール状のいずれでもよい。特に、ベルト状やロール状にすれば、連続的に微細凹凸構造を転写でき、生産性をより高めることができる。
【0087】
モールドと基材間に樹脂組成物を配置した状態でモールドと基材とを押圧する場合は、その押圧力により成型キャビティー(モールドの微細凹凸構造等)へ樹脂組成物が充填される。
【0088】
基材とモールド間の樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して重合硬化する方法としては、紫外線照射による重合硬化が好ましい。紫外線を照射するランプとしては、例えば、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、フュージョンランプを用いることができる。
【0089】
紫外線の照射量は、重合開始剤の吸収波長や含有量に応じて決定すればよい。通常、その積算光量は、400〜4000mJ/cm
2が好ましく、400〜2000mJ/cm
2がより好ましい。積算光量が400mJ/cm
2以上であれば、樹脂組成物を十分硬化させて硬化不足に因る耐擦傷性低下を抑制することができる。また。積算光量が4000mJ/cm
2以下であれば、硬化物の着色や基材の劣化を防止する点で意義が有る。照射強度も特に制限されないが、基材の劣化等を招かない程度の出力に抑えることが好ましい。
【0090】
重合・硬化後、モールドを剥離して、微細凹凸構造を有する硬化物を得て、微細凹凸構造体を得る。
【0091】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物にモールドの凹凸形状を転写してからモールドを剥離し、その後活性エネルギー線を照射して樹脂組成物を硬化する方法では、樹脂組成物が未硬化の状態で剥離するため、微細凹凸構造体の表面が傷つきにくい。また、樹脂組成物とモールドとの間に気泡が入ったままの状態で硬化されて欠陥になることもない。さらに、基材フィルムを介さずに紫外線を照射できるので微細凹凸構造体の硬化効率が良く、基材フィルムやモールドの劣化もされにくい。
【0092】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物にモールドの凹凸形状を転写してからモールドを剥離し、その後活性エネルギー線を照射して樹脂組成物を硬化する方法に用いる樹脂組成物としては、超高粘度で、室温における動的貯蔵弾性率が1×10
7Pa以上になるようなものが好ましい。動的貯蔵弾性率が1×10
7Pa以上であれば、モールドを剥離してから樹脂組成物を硬化させるまでの間にパターン崩れや糸引きを起こすこともなく、良好に賦型できる。
【0093】
また、基材が立体形状の成形体の場合は、形成した微細凹凸構造体を、別途成形した立体形状の成形体に貼り付けることもできる。
【0094】
このようにして得られる微細凹凸構造体は、その表面にモールドの微細凹凸構造が鍵と鍵穴の関係で転写され、連続的な屈折率の変化によって優れた反射防止性能を発現でき、フィルムや、立体形状の成形品の反射防止膜として好適である。
【実施例】
【0095】
以下に本発明の実施例を示し、具体的に説明する。以下の記載において、特に断りがない限り「部」は「質量部」を意味する。また、各種測定及び評価方法は以下の通りである。
【0096】
(1)モールドの細孔の測定:
陽極酸化ポーラスアルミナからなるモールドの一部の縦断面を1分間Pt蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子社製、商品名JSM−7400F)により加速電圧3.00kVで観察し、隣り合う細孔の間隔(周期)及び細孔の深さを測定した。具体的にはそれぞれ10点ずつ測定し、その平均値を測定値とした。
【0097】
(2)微細凹凸構造体の凹凸の測定:
微細凹凸構造体の縦断面を10分間Pt蒸着し、上記(1)の場合と同じ装置及び条件にて、隣り合う凸部又は凹部の間隔及び凸部の高さを測定した。具体的にはそれぞれ10点ずつ測定し、その平均値を測定値とした。
【0098】
(3)樹脂組成物の状態の評価:
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を60℃に加熱した後に冷却し、25℃のときの状態を観察した。
【0099】
(4)耐擦傷性の評価
磨耗試験機(新東科学社製HEIDON)に1cm四方のキャンバス布を装着し、100gの荷重をかけて、往復距離50mm、ヘッドスピード60mm/sの条件にて微細凹凸構造体の表面を1000回擦傷した。その後、外観について目視にて観察し、以下の評価基準により評価した。
「○」:0〜2本の傷が確認される。
「△」:3〜5本の傷が確認される。
「×」:6本以上の傷が確認される。
【0100】
(5)撥水性の評価(接触角の測定):
微細凹凸構造体に1μLのイオン交換水を滴下し、自動接触角測定器(KRUSS社製)を用いて、θ/2法にて接触角を算出した。
【0101】
(6)撥水性の評価(水滴転落性の評価):
微細凹凸構造体に20μL及び50μLのイオン交換水を滴下し、20°に傾けたときの水滴の転落具合で評価した。
「○」:転がる。
「△」:衝撃を与えると転がる。
「×」:転がらない。転落後に、水滴が残る。
【0102】
[モールドの作製]
図2に示す工程に従い、モールド(深さ180nm)を以下の様に作製した。
【0103】
まず、純度99.99%のアルミニウム板30を、羽布研磨及び過塩素酸/エタノール混合溶液(1/4体積比)中で電解研磨し鏡面化した。
(a)工程
アルミニウム板30を、0.3Mシュウ酸水溶液中で、直流40V、温度16℃の条件で30分間陽極酸化を行い、酸化皮膜32に亀裂31を生じさせた。
(b)工程
アルミニウム板30を、6質量%リン酸/1.8質量%クロム酸混合水溶液に6時間浸漬して、酸化皮膜32を除去し、細孔31に対応する周期的な窪み33を露出させた。
(c)工程
このアルミニウム板について、0.3Mシュウ酸水溶液中、直流40V、温度16℃の条件で30秒陽極酸化を行い、酸化皮膜34を形成した。酸化皮膜をアルミニウム表面に沿って形成することにより、細孔35を有していた。
(d)工程
酸化皮膜34が形成されたアルミニウム板を、32℃の5質量%リン酸に8分間浸漬して、細孔35の径拡大処理を行った。
(e)工程
前記(c)工程及び(d)工程を合計で5回繰り返し、周期100nm、深さ180nmの略円錐形状の細孔35を有する陽極酸化ポーラスアルミナを得た。得られた陽極酸化ポーラスアルミナを脱イオン水で洗浄し、表面の水分をエアーブローで除去し、表面防汚コーティング剤(ダイキン社製、商品名オプツールDSX)を固形分0.1質量%になるように希釈剤(ハーベス社製、商品名HD−ZV)で希釈した溶液に10分間浸漬し、20時間風乾してモールド20を得た。
【0104】
[重合反応性モノマー成分]
実施例及び比較例で用いた各モノマーの物性等を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
<実施例1>
[樹脂組成物の調製]
アルキル(メタ)アクリレート(A)として、ラウリルアクリレート(新中村化学社製、商品名ブレンマーLA)10部、多官能モノマー(B)として、「ATM−4E」:エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業社製、商品名NKエステルATM−4E)90部、活性エネルギー線重合開始剤として、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(日本チバガイギー社製、商品名DAROCURE TPO)0.5部、内部離型剤(アクセル社製、商品名モールドウィズINT AM−121)0.1部を混合し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を調製した。
【0107】
[微細凹凸構造体の製造]
この活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を50℃に調温し、50℃に調温したモールドの細孔が形成された表面上に流し込み、その上に厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂製、商品名WE97A)を押し広げながら被覆した。その後、フィルム側からフュージョンランプを用いてベルトスピード6.0m/分で、積算光量1000mJ/cm
2となるよう紫外線を照射して、樹脂組成物を硬化させた。次いで、フィルムとモールドを剥離して、微細凹凸構造体を得た。
【0108】
微細凹凸構造体の表面には、モールドの微細凹凸構造が転写されており、
図1(a)に示すような、隣り合う凸部13の間隔w1が100nm、凸部13の高さd1が180nmの略円錐形状の微細凹凸構造が形成されていた。また、この微細凹凸構造体について評価を実施した。結果を表2に示す。
【0109】
[実施例2〜18、比較例1〜11]
モノマーを、表2及び3に示すものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして同じサイズの微細凹凸構造体を製造し、評価した。結果を表2及び3に示す。なお、各表中の配合量の単位は「部」である。
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
表1〜3中の略号は下記の通りである。
・「LA」:ラウリルアクリレート(新中村化学社製、商品名ブレンマーLA、アルキル基の炭素数12)
・「CA」:セチルアクリレート(新中村化学社製、商品名ブレンマーCA、アルキル基の炭素数16)
・「SA」:ステアリルアクリレート(新中村化学社製、商品名ブレンマーSA、アルキル基の炭素数18)
・「VA」:ベヘニルアクリレート(新中村化学社製、商品名ブレンマーVA、アルキル基の炭素数22)
・「ATM−4E」:エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業社製、商品名NKエステルATM−4E)
・「DPHA−6EO」:エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(第一工業製薬社製、商品名ニューフロンティアDPEA−6)
・「PET−3」:ペンタエリスリトールトリアクリレート(第一工業製薬製、商品名ニューフロンティアPET−3)
・「TMPT−3EO」:エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学社製、商品名NKエステルTMPT−3EO)
・「U−4HA」:4官能ウレタンアクリレート(新中村化学社製、商品名NKオリゴU−4HA)
・「MA」:メチルアクリレート(sp値18.3)
・「C6DA」:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業社製、商品名ビスコート230)(sp値19.6)
・「X−22−1602」:変性ポリジメチルシロキサンジアクリレート(信越化学製シリコーンジアクリレートX−22−1602、sp値19.5〜19.9)
・「INT AM121」:内部離型剤(アクセル社製、商品名モールドウィズINT AM−121)
・「DAR TPO」:2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド(日本チバガイギー社製、商品名DAROCURE TPO)
表2に示す結果から明らかなように、各実施例の微細凹凸構造体は、良好な撥水性と耐擦傷性を兼ね備えていた。
【0113】
比較例1、4、5、7では多官能モノマー(B)が適切でないので、アルキル(メタ)アクリレート(A)と相溶し過ぎて撥水性を発現しなかった。比較例2、6ではアルキル(メタ)アクリレート(A)の量が少な過ぎるので、良好な撥水性を発現しなかった。比較例3ではアルキル(メタ)アクリレート(A)の量が多過ぎ、多官能モノマー(B)の量が少な過ぎるので、良好な撥水性は発現するものの耐擦傷性に劣っていた。比較例8では多官能モノマー(B)が適切でないので、加熱してもモノマー成分が混じり合わなかった。比較例9、10ではアルキル(メタ)アクリレート(A)及び多官能モノマー(B)の量が適切でないため撥水性に劣り、架橋度が低く耐擦傷性に劣っていた。比較例11でも同様に撥水性に劣るものの、架橋度は高いため耐擦傷性は良好であった。
【0114】
<実施例19>
実施例7で得られた微細凹凸構造体をフィルム状のモールドとして用い、以下の様にして微細凹凸構造体を製造した。
【0115】
[樹脂組成物の調製]
エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(第一工業製薬社製、商品名ニューフロンティアDPEA−6)50部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート50部、活性エネルギー線重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(日本チバガイギー社製、商品名DAROCURE TPO)0.5部を混合し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を調製した。
【0116】
[微細凹凸構造体の製造]
この活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を実施例7で得られた微細凹凸構造体の上に滴下し、その上に厚さ500μmのポリカーボネート板(帝人化成製、商品名PC1151)を重ね、ポリカーボネート板の上からローラーを押し当て、硬化性樹脂組成物を塗り広げた。その後、ポリカーボネート板側からフュージョンランプを用いてベルトスピード6.0m/分で、積算光量1000mJ/cm
2となるよう紫外線を照射して、樹脂組成物を硬化させた。次いで、モールドを剥離して、陽極酸化ポーラスアルミナと同じ形状の微細凹凸構造体が形成されたポリカーボネート板を得た。