(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に記載された多対差動信号伝送用ケーブルにおいては、各差動信号伝送用ケーブル間(対間)での漏話、すなわちクロストークによって、信号の伝送効率が低下する等の問題を生じ得る。
【0007】
ここで、クロストークは、信号の伝送に寄与していない差動信号伝送用ケーブル(Aggressor)から、信号の伝送に寄与している差動信号伝送用ケーブル(Victim)に、電磁エネルギーが乗り移ることによって発生する。この電磁エネルギーの乗り移りは、電界の広がりが大きいコモンモード成分によって主に誘発される。
【0008】
また、通常の多対差動信号伝送用ケーブルでは、各差動信号伝送用ケーブルをシールドテープ導体で遮蔽することにより、上述した電界の広がり(コモンモードエネルギーの漏洩)を防止するようにしている。しかしながら、実際にはシールドテープ導体に流れる電流(コモンモード電流)によって磁界が発生し、これにより発生するコモンモード成分が、クロストークの発生原因にもなっている。このときのコモンモード成分のエネルギー量は、シールドテープ導体の外部表面を流れるコモンモード電流により決定される。
【0009】
このように、クロストークの発生原因としては、対間でのコモンモードエネルギーの乗り移りや、各差動信号伝送用ケーブルのシールドテープ導体を流れるコモンモード電流が挙げられる。さらには、コモンモード電流は、各差動信号伝送用ケーブルの電気的平衡が崩れたときにも発生する。具体的には、各差動信号伝送用ケーブルを撚り合わせて多対差動信号伝送用ケーブルを製造する際に、各差動信号伝送用ケーブルの向きが変わったり、絶縁体が潰れて変形したりすること等によっても、コモンモード電流が発生する。
【0010】
本発明の目的は、クロストークの発生を抑制し得る多対差動信号伝送用ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様では、複数本の差動信号伝送用ケーブルを束ねて形成される多対差動信号伝送用ケーブルであって、前記差動信号伝送用ケーブルが、一対の信号線導体と、前記信号線導体の周囲に設けられる絶縁体と、前記絶縁体の周囲に縦添え巻きで設けられる第1シールドテープ導体と、前記第1シールドテープ導体により形成され、前記信号線導体の長手方向に延在されるオーバーラップ部と、から形成され、複数本の前記差動信号伝送用ケーブルよりなる第1ケーブル集合体と、前記第1ケーブル集合体の周囲を覆う第1介在部材と、前記第1ケーブル集合体とともに前記第1介在部材内に設けられ、前記第1介在部材の横断面形状を円形形状に保持する第2介在部材と、前記第1介在部材の周囲に設けられ、前記第1介在部材の周方向に複数本の前記差動信号伝送用ケーブルを並べてなる第2ケーブル集合体と、前記第2ケーブル集合体の周囲を覆う被覆部材と、を備え、前記差動信号伝送用ケーブルの前記オーバーラップ部が、前記被覆部材に向けられている。
【0012】
本発明の他の態様では、前記オーバーラップ部は、前記各信号線導体の軸心を結ぶ線分の中間の垂直線上に配置される。
【0013】
本発明の他の態様では、前記各信号線導体は、前記絶縁体により一括して被覆され、前記絶縁体の周囲は、前記第1シールドテープ導体により隙間無く被覆される。
【0014】
本発明の他の態様では、前記絶縁体の横断面形状が、前記各信号線導体の並び方向に延在される一対の直線部、および前記各直線部間に設けられる一対の円弧部を有するトラック状形状である。
【0015】
本発明の他の態様では、前記絶縁体の横断面形状が、前記各信号線導体の並び方向に延在される長軸、および前記長軸と直交する短軸を有する楕円形形状である。
【0016】
本発明の他の態様では、前記第1ケーブル集合体が、2本の前記差動信号伝送用ケーブルにより形成され、前記第2ケーブル集合体が、6本の前記差動信号伝送用ケーブルにより形成される。
【0017】
本発明の他の態様では、前記被覆部材が、第2シールドテープ導体,当該第2シールドテープ導体の周囲を覆う編組線,当該編組線の周囲を覆うジャケットから形成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、第1介在部材の横断面形状を円形形状に保持する第2介在部材が、第1ケーブル集合体とともに第1介在部材内に設けられ、第1ケーブル集合体および第2ケーブル集合体を形成する差動信号伝送用ケーブルのオーバーラップ部が、被覆部材に向けられている。
【0019】
これにより、複数本の各差動信号伝送用ケーブルを撚り合わせて束ねても、第2介在部材により第1介在部材の横断面形状が円形形状に保持されるので、各差動信号伝送用ケーブルの向きが変わったり、絶縁体が潰れて変形したりするのを抑制して、電気的平衡の崩れを抑制できる。
【0020】
また、コモンモード電流が多く流れるオーバーラップ部が、被覆部材に向けられているので、多対差動信号伝送用ケーブルの内側へのコモンモードエネルギーの漏洩を抑制できる。
【0021】
したがって、クロストークの発生を抑制し得る多対差動信号伝送用ケーブルを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態1について図面を用いて詳細に説明する。
【0024】
図1は実施の形態1に係る多対差動信号伝送用ケーブルの横断面を示す断面図を、
図2(a)は差動信号伝送用ケーブルの斜視図,(b)は差動信号伝送用ケーブルの断面図をそれぞれ示している。
【0025】
図1に示すように、実施の形態1に係る多対差動信号伝送用ケーブル10は、その横断面形状が円形形状に形成されており、その軸心C(図中破線円)側には第1ケーブル集合体20が設けられ、第1ケーブル集合体20の周囲には第2ケーブル集合体30が設けられている。
【0026】
第1ケーブル集合体20は、2本の差動信号伝送用ケーブル40を撚り合わせて形成されている。第2ケーブル集合体30は、第1ケーブル集合体20の周囲にその周方向に沿って6本の差動信号伝送用ケーブル40を並べて、これらを撚り合わせることにより形成されている。このように、多対差動信号伝送用ケーブル10は、合計8本の差動信号伝送用ケーブル40を撚り合わせて束ねることにより形成されている。
【0027】
多対差動信号伝送用ケーブル10の詳細な説明に先立ち、まず、多対差動信号伝送用ケーブル10を形成する差動信号伝送用ケーブル40の構造について、詳細に説明する。
【0028】
図2に示すように、差動信号伝送用ケーブル40は、一対の信号線導体41を備えている。各信号線導体41のうちのいずれか一方には差動信号としてのプラス側信号が伝送され、各信号線導体41のうちのいずれか他方には差動信号としてのマイナス側信号が伝送されるようになっている。各信号線導体41は、例えば、その表面に銀めっき処理が施された軟銅線(Silver platedCopper Wire)によって形成され、これにより、高速伝送用途に優れたものとなっている。ただし、必要に応じて錫めっき処理等の安価な表面処理が施された軟銅線(Tinned Annealed Copper Wire)を用いることもできる。
【0029】
各信号線導体41の周囲は、共通の絶縁体42によって一括して被覆されている。この絶縁体42は、差動信号伝送用ケーブル40に柔軟性を持たせるために、例えば、気泡を含まないソリッドのポリエチレン(Poly-Ethylene)によって形成されている。絶縁体42の横断面形状は、各信号線導体41の並び方向に延ばされた等しい長さの一対の直線部42aと、各直線部42a間に設けられる一対の円弧部42bとからなり、陸上競技場のトラック(Track)に略等しい形状のトラック状形状に形成されている。
【0030】
絶縁体42は、各信号線導体41を軸心間距離P1(例えば0.572mm)となるよう保持しており、当該絶縁体42の各信号線導体41の並び方向に沿う長さ寸法はL1(例えば1.92mm)に設定され、絶縁体42の各信号線導体41の並び方向と直交する方向の幅寸法はW1(例えば0.96mm)に設定されている(L1=2・W1)。このように絶縁体42の形状を設定することで、差動信号伝送用ケーブル40の横断面形状のアスペクト比が「2:1」とされている。したがって、
図1に示すように、2本の差動信号伝送用ケーブル40を積み重ねると、その横断面形状は略正方形となる。
【0031】
絶縁体42の周囲には、外来ノイズの影響を抑制するための第1シールドテープ導体43が縦添え巻き(シガレット巻きとも言う)で隙間無く被覆されている。第1シールドテープ導体43は、例えばシート状の銅箔によって形成され、巻き方向に沿う両端部分は、互いに重ねられたオーバーラップ部43aとなっている。このオーバーラップ部43aは、第1シールドテープ導体43によって形成され、差動信号伝送用ケーブル40の長手方向に延在されている。
【0032】
ここで、オーバーラップ部43aの各信号線導体41の並び方向に沿う長さ寸法は、各信号線導体41の軸心間距離P1よりも小さい長さ寸法D1に設定されている(D1<P1)。そして、オーバーラップ部43aは、各信号線導体41の軸心を結ぶ線分Hの中間の垂直線V上に配置されている。これにより、オーバーラップ部43aから各信号線導体41への距離を略等しくして、差動信号伝送用ケーブル40の電気的特性が悪化するのを抑制している。
【0033】
ただし、第1シールドテープ導体43としては、銅箔に限らず他の金属箔であっても良いし、さらには軟銅線等の金属細線を編み込んだ編組線であっても良い。
【0034】
第1シールドテープ導体43の周囲には、差動信号伝送用ケーブル40を保護する保護外皮として機能する絶縁テープ44が巻かれている。ここで、絶縁テープ44としては、例えば耐熱PVC(Heat Resistant Polyvinyl Chloride)製の絶縁テープが用いられている。
【0035】
図1に示すように、第1ケーブル集合体20および第2ケーブル集合体30を形成する複数の差動信号伝送用ケーブル40は、いずれもオーバーラップ部43aが多対差動信号伝送用ケーブル10の径方向外側を向くように配置されている。つまり、各差動信号伝送用ケーブル40は、いずれも多対差動信号伝送用ケーブル10の軸心Cに背を向けるようにして配置されている。
【0036】
第1ケーブル集合体20と第2ケーブル集合体30との間には、略円筒形状に形成された第1介在部材11が設けられている。この第1介在部材11は、第1ケーブル集合体20の周囲を覆うようにして設けられ、例えば耐熱PVC製の絶縁テープにより構成されている。
【0037】
第1介在部材11内には、第1ケーブル集合体20とともに、一対の第2介在部材12が設けられている。各第2介在部材12は、第1ケーブル集合体20を形成する各差動信号伝送用ケーブル40のオーバーラップ部43a側とは反対側で、かつ各信号線導体41(
図2参照)の並び方向に沿うに両端側に配置されている。各第2介在部材12は、第1ケーブル集合体20を撚り合わせて製造する際に、各差動信号伝送用ケーブル40と一緒に撚り合わせられるようになっている。
【0038】
このように、各第2介在部材12を上述した所定箇所に配置することで、第1介在部材11の横断面形状を、図示のように円形形状に保持されるようにしている。つまり、2本の差動信号伝送用ケーブル40を積み重ねることで横断面形状が略正方形に形成された第1ケーブル集合体20の外郭形状を、一対の第2介在部材12を設けることにより、当該各第2介在部材12を含めて略円形形状としている。ここで、各第2介在部材12としては、細い繊維状の物質を撚り合わせて形成された糸や紙、さらには発泡体やゴム等の緩衝性を有する材料が用いられている。
【0039】
第1介在部材11の周囲には、6本の差動信号伝送用ケーブル40を、第1介在部材11の周方向に沿って等間隔(60°間隔)で並べることにより形成された第2ケーブル集合体30が設けられている。第2ケーブル集合体30を形成する各差動信号伝送用ケーブル40は、その周囲を覆うように巻かれた第2シールドテープ導体(被覆部材)13によって、第1介在部材11側に押圧されるよう撚り合わせられている。なお、第2シールドテープ導体13においても、第1シールドテープ導体43(
図2参照)と同様に、例えばシート状の銅箔によって形成されている。ただし、第2シールドテープ導体13としては、銅箔に限らず他の金属箔であっても良いし、さらには軟銅線等の金属細線を編み込んだ編組線であっても良い。
【0040】
ここで、多対差動信号伝送用ケーブル10の製造過程において、第2シールドテープ導体13を、第2ケーブル集合体30を形成する各差動信号伝送用ケーブル40の周囲に巻く際に、各差動信号伝送用ケーブル40はそれぞれ第1介在部材11側に押圧される。すると、当該押圧力は、
図1中破線矢印Mに示すように、一部の差動信号伝送用ケーブル40を傾斜させようとする。ところが第1介在部材11は、その内部に配置された第2介在部材12によって円形形状に保持されているため、第2ケーブル集合体30を形成する各差動信号伝送用ケーブル40が傾斜して向きが変わってしまうようなことが抑制される。
【0041】
これにより、
図1に示すように、各差動信号伝送用ケーブル40の全て(8本)を傾斜させること無く、それぞれを規則正しく整然と配置することが可能となっている。したがって、各差動信号伝送用ケーブル40の絶縁体42(
図2参照)に部分的に大きな負荷が掛かって変形するようなことも抑制され、ひいては絶縁体42から第1シールドテープ導体43が剥がれてしまうような不具合も抑制される。特に、
図2に示すような一対の直線部42aを有する差動信号伝送用ケーブル40においては、絶縁体42の変形が各直線部42aの部分における第1シールドテープ導体43の剥がれに直結し、これが電気的特性の悪化を招くことになるため、絶縁体42の変形は抑制したい事項となっている。
【0042】
第2シールドテープ導体13の周囲には、例えば軟銅線等の金属細線を編み込んで形成された編組線14が設けられている。また、当該編組線14の周囲には、例えば耐熱PVC製のジャケット(シース)15が設けられている。ここで、編組線14およびジャケット15についても、第2シールドテープ導体13と同様に、本発明における被覆部材を構成している。
【0043】
図2に示すように、差動信号伝送用ケーブル40の短手方向に沿う一側には、第1シールドテープ導体43により形成されるオーバーラップ部43aが設けられ、差動信号伝送用ケーブル40の短手方向に沿う他側には、オーバーラップ部43aが設けられていない。そこで、差動信号伝送用ケーブル40の周囲における電磁エネルギーの漏洩について確認したところ、オーバーラップ部43a側の方がその反対側に比して大きいことが判った。以下、その分析結果について説明する。
【0044】
図3は差動信号伝送用ケーブルの近傍における磁界強度を解析する測定系の一例を示す模式図を、
図4は差動信号伝送用ケーブルに差動モード信号を入力した際の磁界強度スペクトルを示すグラフを、
図5は差動信号伝送用ケーブルに同相モード信号を入力した際の磁界強度スペクトルを示すグラフをそれぞれ示している。
【0045】
図3は、ネットワーク・アナライザ50に接続された複数本のケーブル51の端部がキャリブレーション面52となるように補正処理が施され、EMI(Electro-Magnetic Interference)測定器53を有する測定系を示している。当該測定系では、測定対象物である差動信号伝送用ケーブル40に、一対のケーブル端末処理治具54を介してミックスモード信号、つまり差動モード信号と同相モード信号とで定義される信号伝搬モードを入力する。ここで、測定対象物である差動信号伝送用ケーブル40のEMI測定器53側は、終端器55によって無反射処理が施されている。このように無反射処理を施すことにより、ノイズとなり得る不要な反射信号を低減して、高精度の分析結果が得られるようにしている。
【0046】
クロストークの原因となるコモンモード電流は、差動信号伝送用ケーブル40を形成する第1シールドテープ導体43(
図2参照)の表面を流れる。そのため、磁界プローブ(磁界検出器)56を差動信号伝送用ケーブル40の表面に近接配置し、差動信号伝送用ケーブル40から放射される磁界を検出する。磁界プローブ56で検出された磁界信号、つまりコモンモード電流成分は、プリアンプ57で増幅処理され、その後、ケーブル58,SMA(Sub-Miniature Type A)コネクタ59,ケーブル51を介して、ネットワーク・アナライザ50によりシングルエンドモード信号として計測される。
【0047】
図4は、差動信号伝送用ケーブル40に、差動モード信号(Odd Mode信号)を入力した際の磁界強度スペクトルを示している。つまり、
図3の測定系において、差動信号伝送用ケーブル40に差動モード信号を入力したときに、当該差動信号伝送用ケーブル40から発生したコモンモード電流成分をグラフ化したものである。
【0048】
一方、
図5は、差動信号伝送用ケーブル40に、同相モード信号(Even Mode信号)を入力した際の磁界強度スペクトルを示している。つまり、
図3の測定系において、差動信号伝送用ケーブル40に同相モード信号を入力したときに、当該差動信号伝送用ケーブル40から発生したコモンモード電流成分をグラフ化したものである。
【0049】
図4に示すように、差動モード信号入力時の分析結果を見ると、オーバーラップ部43aが有る側の表面に磁界プローブ56を近接させた場合と、オーバーラップ部43aが無い側の表面に磁界プローブ56を近接させた場合とで、コモンモード電流成分に殆ど差異が無いことが確認できる。
【0050】
一方、
図5に示すように、同相モード信号入力時の分析結果を見ると、オーバーラップ部43aが有る側の表面に磁界プローブ56を近接させた場合の方が、オーバーラップ部43aが無い側の表面に磁界プローブ56を近接させた場合よりも、コモンモード電流成分が大きくなっていることが確認できる。これは、オーバーラップ部43aが有る側からの電磁エネルギーの漏洩が、オーバーラップ部43aが無い側からの電磁エネルギーの漏洩よりも大きいことを示している。この傾向は、周波数が高いほど(5Ghz以上で、特に8Ghz以上において)顕著に現れることが判る。
【0051】
すなわち、数Gbit/s以上の高速デジタル信号を行い得る多対差動信号伝送用ケーブル10において、各差動信号伝送用ケーブル40のオーバーラップ部43aを、多対差動信号伝送用ケーブル10の径方向外側に規則正しく整然と向けることは、多対差動信号伝送用ケーブル10のクロストーク対策において、重要な設計要素であることが判る。
【0052】
以上詳述したように、実施の形態1に係る多対差動信号伝送用ケーブル10によれば、第1介在部材11の横断面形状を円形形状に保持する第2介在部材12が、第1ケーブル集合体20とともに第1介在部材11内に設けられ、第1ケーブル集合体20および第2ケーブル集合体30を形成する差動信号伝送用ケーブル40のオーバーラップ部43aが、第2シールドテープ導体13に向けられている。
【0053】
これにより、複数本の各差動信号伝送用ケーブル40を撚り合わせて束ねても、第2介在部材12により第1介在部材11の横断面形状が円形形状に保持されるので、各差動信号伝送用ケーブル40の向きが変わったり、絶縁体42が潰れて変形したりするのを抑制して、電気的平衡の崩れを抑制できる。
【0054】
また、コモンモード電流が多く流れるオーバーラップ部43aが、第2シールドテープ導体13に向けられているので、多対差動信号伝送用ケーブル10の内側へのコモンモードエネルギーの漏洩を抑制できる。
【0055】
したがって、クロストークの発生を抑制し得る多対差動信号伝送用ケーブル10を得ることができる。
【0056】
さらに、他の差動信号伝送用ケーブル40へのコモンモードエネルギーの漏洩を抑制することができるので、各差動信号伝送用ケーブル40間の物理的な距離を大きくすること無く、対間でのコモンモードエネルギーの干渉を防止することができる。よって、多対差動信号伝送用ケーブル10の直径寸法をより小さくして、多対差動信号伝送用ケーブル10を小型化することが可能となる。
【0057】
次に、本発明の実施の形態2について図面を用いて詳細に説明する。なお、上述した実施の形態1と同様の機能を有する部分については同一の記号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0058】
図6(a)は実施の形態2に係る差動信号伝送用ケーブルの斜視図,(b)は実施の形態2に係る差動信号伝送用ケーブルの断面図を示している。
【0059】
図6に示すように、実施の形態2に係る多対差動信号伝送用ケーブルを形成する差動信号伝送用ケーブル60は、上述した実施の形態1の差動信号伝送用ケーブル40(
図2参照)に比して、絶縁体61の横断面形状のみが異なっている。具体的には、絶縁体61の横断面形状は、各信号線導体41の並び方向に長さ寸法がL2に設定された長軸を有するとともに、当該長軸と直交して長さ寸法がW2に設定された短軸を有する楕円形形状に形成されている(L2>W2)。なお、絶縁体61においても、気泡を含まないソリッドのポリエチレンによって形成されている。
【0060】
以上のように形成された実施の形態2においても、上述した実施の形態1と同様の作用効果を奏することができる。また、実施の形態2においては、横断面形状が楕円形形状の絶縁体61の周囲に第1シールドテープ導体43が縦添えで巻かれている。したがって、一対の直線部42a(
図2参照)を有する実施の形態1に比して、部分的な外力の負荷に対して第1シールドテープ導体43が絶縁体61から剥がれ難くなっており、ひいては絶縁体61と第1シールドテープ導体43との間に隙間が生じ難いという作用効果を奏することもできる。
【0061】
次に、本発明の実施の形態3について図面を用いて詳細に説明する。なお、上述した実施の形態2と同様の機能を有する部分については同一の記号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0062】
図7(a)は実施の形態3に係る差動信号伝送用ケーブルの断面図を示している。
【0063】
図7(a)に示すように、実施の形態3に係る多対差動信号伝送用ケーブルを形成する差動信号伝送用ケーブル70は、気泡を含む発泡ポリエチレン(Foamed Poly-Ethylene)によって絶縁体71を形成するとともに、当該絶縁体71と第1シールドテープ導体43との間に、絶縁体スキン層72を設けた点が異なっている。ここで、絶縁体スキン層72は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の絶縁体によって略筒状に形成されており、絶縁体71を押し出し成形等する際に、硬化する前の柔らかい絶縁体71を変形しないように保持する役割を果たすものである。
【0064】
また、実施の形態3においては、第1シールドテープ導体43のオーバーラップ部43aを、図中一点鎖線矢印に示すように、垂直線Vから所定量オフセットさせた点が異なっている。ここで、オーバーラップ部43aの垂直線Vからのオフセット量は、各信号線導体41の軸心間距離P1よりも十分に小さい量に設定されている。したがって、当該オフセット量が、クロストークを発生させるような悪影響を及ぼすことは無い。
【0065】
以上のように形成された実施の形態3においても、上述した実施の形態2と同様の作用効果を奏することができる。また、実施の形態3においては、絶縁体71を発泡ポリエチレンで形成したので、絶縁体71の誘電率を低くすることができる。これにより、伝送速度の低下等を抑制して、高速伝送用途により適した差動信号伝送用ケーブル70を提供することができる。また、実施の形態2におけるソリッドの絶縁体61(
図6参照)に比して、伝送効率はそのままで絶縁体71の太さを細くすることができ、ひいては差動信号伝送用ケーブル70のコンパクト化を実現できる。
【0066】
次に、本発明の実施の形態4について図面を用いて詳細に説明する。なお、上述した実施の形態1と同様の機能を有する部分については同一の記号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0067】
図7(b)は実施の形態4に係る差動信号伝送用ケーブルの断面図を示している。
【0068】
図7(b)に示すように、実施の形態4に係る多対差動信号伝送用ケーブルを形成する差動信号伝送用ケーブル80は、各信号線導体41を、それぞれ個別に絶縁体81,82で覆うようにした点が異なっている。そして、各信号線導体41を絶縁体81,82で個別に覆うようにしたことで、各信号線導体41の軸心間距離P2が、上述した各実施の形態1〜3の軸心間距離P1よりも大きくなっている(P2>P1)。
【0069】
また、第1シールドテープ導体43におけるオーバーラップ部43aの各信号線導体41の並び方向に沿う長さ寸法が、上述した各実施の形態1〜3の長さ寸法D1よりも長い長さ寸法D2に設定されている(D2>D1)。ただし、オーバーラップ部43aにコモンモード電流を多く流さないようにするためにも、当該オーバーラップ部43aの各信号線導体41の並び方向に沿う長さ寸法は、製造上の阻害とならない範囲で可能な限り短くすることが望ましい。
【0070】
本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記各実施の形態においては、第1ケーブル集合体20を2本の差動信号伝送用ケーブル40により形成し、第2ケーブル集合体30を6本の差動信号伝送用ケーブル40により形成したものを示したが、本発明はこれに限らない。多対差動信号伝送用ケーブルに必要とされる仕様に応じて、例えば、第1ケーブル集合体20を3本の差動信号伝送用ケーブル40により形成し、第2ケーブル集合体30を7本の差動信号伝送用ケーブル40により形成しても良い。つまり、奇数本数等、任意の本数に設定しても良い。
【0071】
また、上記各実施の形態においては、各信号線導体41の周囲に銀めっき処理が施されたものを示したが、本発明はこれに限らず、周囲にめっき処理が施されていない信号線導体を用いることもできる。この場合、多対差動信号伝送用ケーブルの製造コストを低減することができる。
【0072】
さらに、上記各実施の形態においては、第2介在部材12の横断面形状が円形形状となるものを示したが、本発明はこれに限らず、第1介在部材11の内側形状(円弧形状)に合わせて、例えば横断面形状が扇形形状の第2介在部材を用いるようにしても良い。この場合、第1介在部材11の横断面形状をより精度良く円形形状に保持することが可能となる。
【0073】
また、上記各実施の形態においては、第1ケーブル集合体20と第2ケーブル集合体30とを備えた多対差動信号伝送用ケーブル10を示したが、本発明はこれに限らず、例えば、第2ケーブル集合体30と第2シールドテープ導体13との間に、複数本の差動信号伝送用ケーブル40からなる第3,第4,第5・・・ケーブル集合体を設けるようにしても良い。この場合、各ケーブル集合体を形成する各差動信号伝送用ケーブル40のオーバーラップ部43aについても、多対差動信号伝送用ケーブルの径方向外側を向くように配置する。