特許第5958430号(P5958430)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958430
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】ワークの切断方法及びワイヤソー
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/06 20060101AFI20160719BHJP
   B24D 11/00 20060101ALI20160719BHJP
   B24B 49/10 20060101ALI20160719BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20160719BHJP
   B28D 5/04 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   B24B27/06 D
   B24B27/06 E
   B24B27/06 S
   B24D11/00 G
   B24B49/10
   H01L21/304 611W
   B28D5/04 C
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-149057(P2013-149057)
(22)【出願日】2013年7月18日
(65)【公開番号】特開2015-20235(P2015-20235A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2015年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】冨井 和弥
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−052149(JP,A)
【文献】 特開平02−274460(JP,A)
【文献】 特開2000−117613(JP,A)
【文献】 特開平11−188603(JP,A)
【文献】 国際公開第01/91982(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
B24B 49/10
B24D 11/00
B28D 5/04
H01L 21/304
B23D 61/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のワイヤガイド間に螺旋状に巻回された軸方向に走行するワイヤでワイヤ列を形成し、前記ワイヤはベースワイヤの表面に樹脂を被覆した樹脂被覆ワイヤを用い、円柱状ワークと前記ワイヤとの接触部に加工液を供給しながら、ワーク送り速度を制御しつつ、前記ワイヤ列に前記ワークを押し当てて切込み送りすることで、前記ワークをウェーハ状に切断するワークの切断方法であって、
前記ワークの直径の45%から65%までの深さを切断する際に適用する前記ワーク送り速度を最低送り速度とした時に、少なくとも、前記ワークの切断を開始してから前記ワイヤの切断部の切込み送り方向へのたわみが3mmとなるまでの間は、前記ワーク送り速度を前記最低送り速度の5倍以上となるように制御することを特徴とするワークの切断方法。
【請求項2】
前記たわみが3mmとなった後、切断終了まで前記たわみが3mm以上となるように前記ワーク送り速度を制御することを特徴とする請求項1に記載のワークの切断方法。
【請求項3】
前記たわみが3mmとなった後、切断終了まで前記たわみが20mm以下となるように前記ワーク送り速度を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のワークの切断方法。
【請求項4】
複数のワイヤガイド間に螺旋状に巻回された軸方向に走行するワイヤによって形成されるワイヤ列と、円柱状ワークと前記ワイヤとの接触部に加工液を供給する加工液供給機構と、前記ワークを保持しながら前記ワークを押圧することで、前記ワークを前記ワイヤ列に押し当てるワーク送り手段と、ワーク送り速度を制御するための速度制御手段を具備し、前記ワイヤはベースワイヤの表面に樹脂を被覆した樹脂被覆ワイヤであり、前記加工液供給機構から前記ワークと前記ワイヤとの接触部に前記加工液を供給しつつ、前記ワーク送り手段により保持された前記ワークを、前記速度制御手段により前記ワーク送り速度を制御しつつ前記ワイヤ列に押し当てて切込み送りすることで、前記ワークをウェーハ状に切断するワイヤソーであって、
前記速度制御手段は、前記ワークの直径の45%から65%までの深さを切断する際に適用する前記ワーク送り速度を最低送り速度とし、少なくとも、前記ワークの切断を開始してから前記ワイヤの切断部の切込み送り方向へのたわみが3mmとなるまでの間は、前記ワーク送り速度を前記最低送り速度の5倍以上となるように制御するものであることを特徴とするワイヤソー。
【請求項5】
前記速度制御手段は、前記たわみが3mmとなった後、切断終了まで前記たわみが3mm以上となるように前記ワーク送り速度を制御するものであることを特徴とする請求項4に記載のワイヤソー。
【請求項6】
前記速度制御手段は、前記たわみが3mmとなった後、切断終了まで前記たわみが20mm以下となるように前記ワーク送り速度を制御するものであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のワイヤソー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤソーによってワークをウェーハ状に切断する切断方法及びワイヤソーに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体インゴットなどの硬脆材を薄板状のウェーハに切断する切断装置の一つにワイヤソーがある。ワイヤソーは所定のピッチで巻回されたワイヤでワイヤ列を形成し、ワイヤを高速走行させる。そして、ワークとワイヤの各接触部に加工液を供給しながら、ワイヤ列にワークを押し当てることにより、ワークを多数枚のウェーハ状に切断する。
【0003】
特許文献1には、ワークの切断に使用されるワイヤとして、ベースワイヤの外周面を砥粒キャリア樹脂皮膜で被覆した樹脂被覆ワイヤが記載されている。特許文献1には、この樹脂被覆ワイヤを使用すれば、加工液中の砥粒(遊離砥粒)が砥粒キャリア樹脂皮膜に食い込むため、安定して砥粒をワイヤとワークが接触している部分に引き込むことができると記載されている。
【0004】
上述のように、樹脂被覆ワイヤを用いたワークの切断のメカニズムは、樹脂被覆ワイヤ表面の樹脂層に加工液中の砥粒を食い込ませ、樹脂層表面に固定化された砥粒をワークと樹脂被覆ワイヤの接触部に運ぶ加工方法である。要するに、予め表面に砥粒を固定したワイヤを用いてワークの切断を行う固定砥粒ワイヤ方式に似た切断方法を、遊離砥粒を用いて行っている切断方法である。
【0005】
遊離砥粒切断とは、ワイヤによって運ばれた加工液中の砥粒が、ワイヤ表面に固定化されておらず転動しながら加工点においてワークとワイヤを同時に摩耗させる切断方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−179677号公報
【特許文献2】特開平7−52149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
樹脂被覆ワイヤを用いた切断方法には、ワークの切断中に樹脂被覆ワイヤ表面の樹脂層が摩耗してしまうという問題がある。この問題に対し、本発明者は、ワークの切断部に流入する加工液の流量に着目し、その原因を以下のように考察した。
【0008】
ワークの切断中、特にワークの切断開始直後は、ワークをワイヤへ押し当てる力が小さいため、切断部のワークとワイヤの間に隙間ができ、切断部に加工液が多く流入する。切断部に流入する加工液の流量が多くなると、切断部において樹脂被覆ワイヤ表面の樹脂層に固定しきれない砥粒が増加してしまう。その結果、樹脂層に固定しきれない砥粒が遊離砥粒と同様となり樹脂層を摩耗させる。
【0009】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、ベースワイヤの表面に樹脂を被覆した樹脂被覆ワイヤを用いてワークを切断するとき、特にワークの切断開始直後における樹脂被覆ワイヤの樹脂層の摩耗を抑制できる切断方法及びワイヤソーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明によれば、複数のワイヤガイド間に螺旋状に巻回された軸方向に走行するワイヤでワイヤ列を形成し、前記ワイヤはベースワイヤの表面に樹脂を被覆した樹脂被覆ワイヤを用い、円柱状ワークと前記ワイヤとの接触部に加工液を供給しながら、ワーク送り速度を制御しつつ、前記ワイヤ列に前記ワークを押し当てて切込み送りすることで、前記ワークをウェーハ状に切断するワークの切断方法であって、前記ワークの直径の45%から65%までの深さを切断する際に適用する前記ワーク送り速度を最低送り速度とした時に、少なくとも、前記ワークの切断を開始してから前記ワイヤの切断部の切込み送り方向へのたわみが3mmとなるまでの間は、前記ワーク送り速度を前記最低送り速度の5倍以上となるように制御することを特徴とするワークの切断方法を提供する。
【0011】
このような切断方法であれば、ワークの切断開始直後から、ワークをワイヤに強く押し当てることができる。その結果、ワークと樹脂被覆ワイヤの間の切断部に、樹脂被覆ワイヤの樹脂層表面に固定しきれない砥粒が流入するのを抑えることができるので、樹脂層の摩耗を抑制できる。
【0012】
このとき、前記たわみが3mmとなった後、切断終了まで前記たわみが3mm以上となるように前記ワーク送り速度を制御することが好ましい。
このように、たわみが3mmとなった後も、たわみを3mm以上に維持すれば、切断開始から切断終了まで、ワークと樹脂被覆ワイヤの間の切断部に、樹脂層表面に固定しきれない砥粒が流入するのを抑えることができるので、より確実に樹脂層の摩耗を抑制できる。
【0013】
またこのとき、前記たわみが3mmとなった後、切断終了まで前記たわみが20mm以下となるように前記ワーク送り速度を制御することができる。
このようにすれば、ワークをワイヤへ押し当てる力が大きくなり過ぎることによるワイヤの断線やワイヤソーへのダメージを防止することができる。
【0014】
また本発明によれば、複数のワイヤガイド間に螺旋状に巻回された軸方向に走行するワイヤによって形成されるワイヤ列と、円柱状ワークと前記ワイヤとの接触部に加工液を供給する加工液供給機構と、前記ワークを保持しながら前記ワークを押圧することで、前記ワークを前記ワイヤ列に押し当てるワーク送り手段と、ワーク送り速度を制御するための速度制御手段を具備し、前記ワイヤはベースワイヤの表面に樹脂を被覆した樹脂被覆ワイヤであり、前記加工液供給機構から前記ワークと前記ワイヤとの接触部に前記加工液を供給しつつ、前記ワーク送り手段により保持された前記ワークを、前記速度制御手段により前記ワーク送り速度を制御しつつ前記ワイヤ列に押し当てて切込み送りすることで、前記ワークをウェーハ状に切断するワイヤソーであって、前記速度制御手段は、前記ワークの直径の45%から65%までの深さを切断する際に適用する前記ワーク送り速度を最低送り速度とし、少なくとも、前記ワークの切断を開始してから前記ワイヤの切断部の切込み送り方向へのたわみが3mmとなるまでの間は、前記ワーク送り速度を前記最低送り速度の5倍以上となるように制御するものであることを特徴とするワイヤソーが提供される。
【0015】
このようなワイヤソーであれば、切断開始直後から、ワークをワイヤに強く押し当てることができる。その結果、ワークと樹脂被覆ワイヤの間に、樹脂被覆ワイヤの樹脂層表面に固定しきれない砥粒が流入するのを抑えることができるので、樹脂層の摩耗を抑制できるものとなる。
【0016】
このとき、前記速度制御手段は、前記たわみが3mmとなった後、切断終了まで前記たわみが3mm以上となるように前記ワーク送り速度を制御するものであることが好ましい。
このようなものであれば、切断開始から切断終了まで、常にワークと樹脂被覆ワイヤの間に、樹脂被覆ワイヤの樹脂層表面に固定しきれない砥粒が流入するのを抑えることができるので、より確実に樹脂層の摩耗を抑制できるものとなる。
【0017】
またこのとき、前記速度制御手段は、前記たわみが3mmとなった後、切断終了まで前記たわみが20mm以下となるように前記ワーク送り速度を制御するものとすることができる。
このようなものであれば、ワークをワイヤへ押し当てる力が大きくなり過ぎることによるワイヤの断線やワイヤソーへのダメージを防止することができるものとなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のワークの切断方法及びワイヤソーでは、ワークの切断開始から樹脂被覆ワイヤの切断部の切込み送り方向へのたわみが3mmとなるまでの間は、ワーク送り速度を最低送り速度の5倍以上となるよう制御するので、切断開始直後から、ワークを樹脂被覆ワイヤに強く押し当てることができる。従って、切断開始直後から、ワークと樹脂被覆ワイヤの間に、樹脂被覆ワイヤの樹脂層表面に固定しきれない砥粒が流入するのを抑えることができるので、樹脂層の摩耗を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のワイヤソーの一例を示した概略図である。
図2】本発明のワイヤソーが有する樹脂被覆ワイヤの一例を示した斜視図である。
図3】実施例1におけるワーク送り速度とたわみの関係の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
従来、樹脂被覆ワイヤを用いたワークの切断において、樹脂被覆ワイヤの樹脂層が摩耗してしまうという問題があった。
【0021】
本発明者は樹脂層の摩耗を抑制するために検討を重ねた。その結果、本発明者は、以下のことを発見した。
ワークの切断開始直後は、ワークを樹脂被覆ワイヤに押し当てる力が小さいため、切断部に流入する加工液の流量が多くなり過ぎ、ワークと樹脂被覆ワイヤの間の切断部において樹脂層に固定しきれない砥粒が増加する。この樹脂層に固定しきれない砥粒が樹脂層を摩耗させてしまう。
【0022】
そこで、本発明者は、最適な押し当てる力を求めるための検討をした。そして、実験を繰り返し行った結果、以下のことを見出した。
樹脂被覆ワイヤの切断部の切込み送り方向へのたわみが3mm以上の状態でワークの切断を行えば、切断部に流入する加工液の量を最適化でき、砥粒により樹脂層を摩耗させることなくワークの切断が行える。
しかし、ワークの切断開始から、たわみが3mmになるまでは、ワークを樹脂被覆ワイヤに押し当てる力が小さいため、ワークと樹脂被覆ワイヤの間に入り込んだ、樹脂層に固定しきれない砥粒が樹脂層を摩耗してしまう。
【0023】
そこで、ワークの切断を開始してからたわみが3mmになるまでの間、ワーク送り速度を大きくすることで、ワークを樹脂被覆ワイヤに押し当てる力を大きくすれば良い。
【0024】
特許文献2には、ワークの切断開始直後は、ワーク送り速度を最低送り速度の2〜4倍の速度でワークを送ると厚さ精度が良好なウェーハが得られることが記載されている。
しかし、特許文献2では樹脂被覆ワイヤを用いておらず、最低送り速度の2〜4倍というワーク送り速度は、ワークの切断開始直後の樹脂層の摩耗を防ぐには不十分な速度である。さらに、ワークの切断開始直後にワーク送り速度を速める理由は切り出したウェーハの厚さ精度を改善するためであって、ワイヤ表面の樹脂層の摩耗を防ぐためではない。これに対して本発明者は、ワーク送り速度を最低送り速度の5倍以上とすれば良いことを発見した。
【0025】
すなわち、本発明者は、ワークの切断を開始してからたわみが3mmになるまでの間は、ワーク送り速度を最低送り速度の5倍以上となるように制御すれば、砥粒による樹脂層の摩耗が発生しないことを発見し、本発明を完成させた。
【0026】
以下、本発明のワークの切断方法及びワイヤソーについて図を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
まず、本発明のワイヤソーについて説明する。
図1に示すように、本発明のワイヤソー1は、複数のワイヤガイド2間に螺旋状に巻回された軸方向に走行する樹脂被覆ワイヤ3によって形成されるワイヤ列4から構成されている。さらに、切断時にワークWと樹脂被覆ワイヤ3との接触部に加工液を供給する加工液供給機構5、ワークWを保持しつつ押圧することでワークWをワイヤ列に押し当てるワーク送り手段6、樹脂被覆ワイヤ3に張力を付与するための張力付与機構7、7’等を有している。
【0028】
図2に示すように、樹脂被覆ワイヤ3はベースワイヤ13表面に樹脂を被覆したものである。樹脂被覆ワイヤ3を構成するベースワイヤ13として、例えば、直径40〜200μmのピアノ線が使用され、ピアノ線の外周面に樹脂層14が全面にわたって被覆形成される。ベースワイヤ13の表面に樹脂層14を形成する樹脂として、例えば、フェノール系、ポリアミド系、エポキシ系、ウレタン系などの樹脂を用いることができる。樹脂層14の厚みは0.5〜15μmの範囲が好ましい。この樹脂層14はワークWと樹脂被覆ワイヤ3の接触部に吹き付けられた加工液中の砥粒を、樹脂層14表面に食い込ませることにより、砥粒をワークWと樹脂被覆ワイヤ3との間に引き込むことができる。
【0029】
樹脂被覆ワイヤ3は、一方のワイヤリールボビン8から繰り出され、トラバーサを介して定トルクモーターやダンサローラ(デッドウェイト)等からなる張力付与機構7を経て、ワイヤガイド2に入っている。樹脂被覆ワイヤ3はもう一方の張力付与機構7’を経てワイヤリールボビン8’に巻き取られている。張力付与機構7、7’によって樹脂被覆ワイヤ3に付与される張力は、ベースワイヤ13の引張強度以下に限定され、好ましくはベースワイヤ13の引張強度の40〜70%の範囲である。
【0030】
また、ワイヤガイド2は鉄鋼製円筒の周囲にポリウレタン樹脂を圧入し、その表面に所定のピッチで溝を切ったローラーであり、駆動モータ12によって、巻回された樹脂被覆ワイヤ3が軸方向に往復走行できるようになっている。ここで、樹脂被覆ワイヤ3を往復走行させる際、樹脂被覆ワイヤ3の両方向への走行距離を同じにするのではなく、ワイヤ新線が供給されるように、片方向への走行距離の方が長くなるようにする。このようにして、樹脂被覆ワイヤ3の往復走行を行いながら長い走行距離の方向に新線が供給される。
【0031】
加工液供給機構5はスラリチラー9、スラリタンク10、ノズル11等から構成される。ノズル11はワイヤガイド2に巻回された樹脂被覆ワイヤ3の上方に配置されている。この、ノズル11はスラリタンク10に接続されており、加工液はスラリタンク10で攪拌されスラリチラー9により温度調節された後、ノズル11から樹脂被覆ワイヤ3に供給できるようになっている。このとき、加工液は、ワイヤ列4の各ワイヤに均一に供給される。そして、加工液はワイヤ列4に乗りワークWとワイヤ列4との接触部に送られる。その後、供給された加工液はスラリタンク10に戻り循環利用される。
【0032】
加工液は、砥粒とクーラントから構成されているが、砥粒として、例えば、炭化珪素砥粒やダイヤモンド砥粒を用いることができる。特に、ワークWの切断面を平滑にするには、ダイヤモンド砥粒を用いることが望ましい。平均粒径が2〜15μmの砥粒を用いることができる。クーラントとして、水溶性または油性のクーラントを用いることができ、特に水溶性のクーラントで代表的なグリコール系クーラントを用いることが好ましい。加工液は砥粒濃度が0.5〜30質量%、温度が5〜30℃として用いることができる。
【0033】
ここで、本発明のワイヤソー1は、ワーク送り手段6のワーク送り速度を制御するための速度制御手段15を具備している。この速度制御手段15は、ワークの直径の45%から65%までの深さを切断する際にワーク送り速度を最低送り速度となるように制御するものである。
【0034】
ここで、ワーク送り速度について説明する。ワーク送り速度は、樹脂被覆ワイヤ3の切込み送り方向へのたわみが安定するように制御することが一般的である。切断するワークWは円柱状であるため、ワークWの切り始めから直径の50%の深さの切込み位置で、切断長が最も長くなる。しかし、実際には、ワークW切断中の樹脂被覆ワイヤ3にはたわみがあるため、ワークWの直径の50%の深さより遅れて切断長が最も長くなる。よって、本発明では、ワークWの直径の45%から65%の深さを切断する際には、ワーク送り速度を、速度が最も小さくなるように制御する。この時の最も速度が小さいワーク送り速度を最低送り速度と呼ぶ。ただし、前記のようにワークWは円柱状であるため、ワークの切断長は常に変化する。そのため、ワークWの直径の45%から65%の範囲においてもワーク送り速度を変化させることが一般的である。従って、最低送り速度とは、ワークWの直径の45%から65%の範囲に存在する極小値である。特に、好ましい最低送り速度は、たわみを3mm以上に維持する速度とすることができる。
【0035】
更に、速度制御手段15は、少なくとも、ワークの切断を開始してからワイヤの切断部の切込み送り方向へのたわみが3mmとなるまでの間は、ワーク送り速度を前記最低送り速度の5倍以上となるように制御することができるものである。
【0036】
また、ワイヤソー1は樹脂被覆ワイヤ3の切断部の切込み送り方向へのたわみを測定するための渦電流方式のセンサー16を有している。このセンサー16は、予めセンサー16から得られる電流値と樹脂被覆ワイヤ3のたわみの関係を取得しておくことで、実際のワークW切断中のたわみをモニターすることが可能であるものである。
【0037】
このようなワイヤソーであれば、ワークの切断開始直後から、ワークWを樹脂被覆ワイヤ3に押し当てる力を大きくすることができる。従って、ワークWと樹脂被覆ワイヤ3の接触部に供給される加工液の流量を最適化できるので、樹脂被覆ワイヤ3の樹脂層14に固定化しきれない砥粒の量を大幅に減らすことができる。その結果、切断開始直後から、樹脂層14に固定化しきれない砥粒による樹脂層14の摩耗を抑制することができる。これにより、砥粒を樹脂層14に固定した樹脂被覆ワイヤ3を長時間使用でき、ワークWの切断中に起こる樹脂被覆ワイヤ3の断線を防止することができるので、安定したワークWの切断ができるものとなる。また、樹脂被覆ワイヤ3の寿命が延びた結果、コストを削減できるものとなる。
【0038】
このとき、速度制御手段15は、たわみが3mmとなった後、切断終了までたわみが3mm以上となるようにワーク送り速度を制御するものであることが好ましい。この場合、上記のように最低送り速度を、例えば、たわみを3mm以上にできる速度とすれば良い。
このようなものであれば、切断開始から切断終了まで、常に樹脂層14の表面に固定しきれない砥粒の増加を抑制することができるので、より確実に樹脂層14の摩耗を抑制できるものとなる。
【0039】
またこのとき、速度制御手段は、たわみが3mmとなった後、切断終了までたわみが20mm以下となるようにワーク送り速度を制御するものとすることができる。
このようなものであれば、ワークWを樹脂被覆ワイヤ3へ押し当てる力が大きくなり過ぎることによる樹脂被覆ワイヤ3の断線やワイヤソー1へのダメージを防止することができるものとなる。
【0040】
次に本発明のワークの切断方法について説明する。ここでは、図1に示すような本発明のワイヤソー1を用いた場合について述べる。
まず、ワーク送り手段6によりワークWを保持する。そして、樹脂被覆ワイヤ3を張力付与機構7、7’によって張力を付与しながら軸方向へ往復走行させる。このとき、樹脂被覆ワイヤ3の走行速度は300m/min以上とすることができる。次に、加工液供給手段5により樹脂被覆ワイヤ3へ加工液を供給した状態で、ワーク送り手段6によりワークWを、相対的に押し下げて、ワークWをワイヤ列4に対して切り込み送りさせてワークWの切断を開始する。
【0041】
このとき、本発明のワークの切断方法では、ワークWの切断を開始してから樹脂被覆ワイヤ3の切断部の切込み送り方向へのたわみが3mmとなるまでの間は、ワーク送り速度を最低送り速度の5倍以上となるように制御する。ワーク送り速度は速度制御手段15によって制御される。たわみが3mmになった後、引き続きワーク送り手段6によりワークWを相対的に押し下げて、ワークWをワイヤ列4に対して切り込み送りさせてワークWをウェーハ状に切断する。このときの、ワーク送り速度は、0.02〜3.50mm/minとなるように制御することができる。
【0042】
このようにすれば、切断開始直後から、ワークWを樹脂被覆ワイヤ3に押し当てる力を大きくすることができる。従って、ワークWと樹脂被覆ワイヤ3の接触部に供給される加工液の流量を最適化できるので、樹脂被覆ワイヤ3の樹脂層14に固定化しきれない砥粒の量を大幅に減らすことができる。その結果、切断開始直後から、樹脂層14に固定化しきれない砥粒による樹脂層14の摩耗を抑制することができる。これにより、砥粒を樹脂層14に固定した樹脂被覆ワイヤ3を長時間使用でき、ワークWの切断中に起こる樹脂被覆ワイヤ3の断線を防止することができるので、安定したワークWの切断ができる。また、樹脂被覆ワイヤ3の寿命が延びた結果、コストを削減できる。
【0043】
ここで、たわみが3mmとなった後、切断終了までたわみが3mm以上となるようにワーク送り速度を制御することが好ましい。これは、センサー16を用いて切断中のたわみを測定し、該測定値に基づいて適切なワーク送り速度を算出しワーク送り速度を制御することで、たわみが3mm以上の状態を維持しながら切断できる。
このようにすれば、切断開始から切断終了まで、常に樹脂層14の表面に固定しきれない砥粒の増加を抑制することができるので、より確実に樹脂層14の摩耗を抑制できる。
【0044】
また、たわみが3mmとなった後、切断終了までたわみが20mm以下となるようにワーク送り速度を制御することができる。
このようにすれば、ワークWを樹脂被覆ワイヤ3へ押し当てる力が大きくなり過ぎることによる樹脂被覆ワイヤ3の断線やワイヤソー1へのダメージを防止することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実験、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実験)
まず、樹脂被覆ワイヤの切断部の切込み送り方向へのたわみと樹脂層の摩耗の関係を把握するために以下のような実験を行った。
本実験では、図1に示すような本発明のワイヤソーを用いた。このとき、樹脂被覆ワイヤとして、直径0.13mmのベースワイヤの外周の全面に樹脂層を6μmの厚さで被覆したものを使用した。切断対象のワークとして、表1に示すように、直径φ:201mm、長さL:120mmの寸法の円柱状の単結晶シリコンを使用した。
【0046】
また、ワイヤソーの樹脂被覆ワイヤの張力は30N、新線供給量は3m/min、往復走行における走行方向の正反転サイクルは60sec、平均線速は750m/minとした。そして、加工液として、ジエチレングリコール系水溶性クーラントに、砥粒径平均5.5μmのダイヤモンド砥粒を砥粒濃度が5質量%となるように作製したものを使用した。また、ワークの直径の45%から65%の深さを切断する際に適用するワーク送り速度である最低送り速度は、0.09mm/minとした。
【0047】
【表1】
【0048】
次に、実験の方法を説明する。
この実験では、樹脂被覆ワイヤの切断部の切込み送り方向へのたわみを、それぞれ1mm、2mm、3mm、4mmに維持しながら、シリコン単結晶の切断を30分間行った。その後、樹脂被覆ワイヤの樹脂層の摩耗量を確認した。切断は2回行い、樹脂層の摩耗量はマイクロメータを用いて測定し、2回測定した摩耗量の平均値を算出した。尚、シリコン単結晶の切込み深さ5mm位置と15mm位置の2ヶ所から切断を開始した。
【0049】
その結果、表2の網掛け部に示すように、樹脂被覆ワイヤのたわみを2mm以下として切断を行った場合では、樹脂層の摩耗が発生しており、たわみが小さいほど早く摩耗することが分かった。一方、たわみを3mm、4mmとした場合は樹脂層の摩耗は発生せず、さらに30分以上シリコン単結晶の切断を行っても樹脂層の摩耗は発生しなかった。
【0050】
以上のことから、切断中の樹脂層の摩耗を防ぐためには、樹脂被覆ワイヤの切断部の切込み送り方向へのたわみが3mm以上となるようにワークを切込み送りする必要があることがわかった。
【0051】
【表2】
【0052】
(実施例1)
実施例1では、実験で用いた本発明のワイヤソーを用いて、本発明のワークの切断方法に従って単結晶シリコンの切断を行った。そして、ワークの切断開始から樹脂被覆ワイヤのたわみが、3mmに到達するまでの樹脂層の摩耗の有無を確認した。この時のワーク送り速度は最低送り速度(0.09mm/min)の5倍(0.45mm/min)とした。樹脂層の摩耗の有無の判定方法は、切断に関与した樹脂被覆ワイヤの直径を、マイクロメータを用いて5ヶ所測定し、平均で2μm以上の摩耗が確認できれば摩耗有と判定した。尚、表3に示すように、各たわみ量までの到達時間はワーク送り速度と実際に切断が進行する切断レートとの差から算出できる、そのたわみ量となるまでの時間である。
その結果、表3に示すように、実施例1では、たわみが3mmに到達した時点で樹脂層の摩耗は無かった。図3に実施例1の条件で切断終了まで切断を実施した場合のワーク送り速度とたわみの関係の一例を示す。上記と同様に、たわみを4mmに到達させ、その時点での樹脂層の摩耗の有無を判定したが、この時も摩耗は無かった。
【0053】
(実施例2)
ワーク送り速度を最低送り速度(0.09mm/min)の6倍(0.54mm/min)としたこと以外、実施例1と同様な条件で単結晶シリコンの切断を行い、実施例1と同様な方法で樹脂層の摩耗の有無を判定した。
その結果、表3に示すように、たわみが3mmに到達した時点でも、4mmに到達した時点でも樹脂層の摩耗は無かった。
【0054】
(比較例)
ワーク送り速度を最低送り速度(0.09mm/min)の4倍(0.36mm/min)としたこと以外、実施例1と同様な条件で単結晶シリコンの切断を行い、実施例1と同様な方法で樹脂層の摩耗の有無を判定し摩耗量を測定した。
その結果、表3の網掛け部に示すように、たわみが3mmに到達した時点で樹脂層の摩耗が有った。従って、ワーク送り速度を最低送り速度の4倍とした場合、樹脂層の摩耗が起きることが分かった。このとき、たわみが2mmに到達した時点では樹脂層の摩耗は無いが、上記実験で述べたように、たわみを2mm以下として切断を行った場合は樹脂層の摩耗が発生することが既に分かっている。
【0055】
また、ワーク送り速度を最低送り速度(0.09mm/min)の1〜3倍(0.09mm/min〜0.27mm/min)に変化させて同様の手順で単結晶シリコンの切断を繰り返した。そして、樹脂被覆ワイヤの樹脂層の有無を判定した。尚、比較例では、摩耗が有ることを確認した時点で切断を終了した。
その結果、表3の網掛け部に示すように、ワーク送り速度を最低送り速度(0.09mm/min)としたときと、ワーク送り速度を最低送り速度(0.09mm/min)の2倍(0.18mm/min)にしたときは、たわみが1mmに到達した時点で樹脂層の摩耗が有った。また、ワーク送り速度を最低送り速度(0.09mm/min)の3倍(0.27mm/min)にしたときは、たわみが2mmに到達した時点で樹脂層の摩耗が有った。
【0056】
表3に、実施例、比較例における実施結果をまとめたもの示す。
【0057】
【表3】
【0058】
以上の結果から、少なくとも、ワークの切断を開始してから樹脂被覆ワイヤの切断部の切込み送り方向へのたわみが3mmとなるまでの間は、ワーク送り速度を最低送り速度の5倍以上となるように制御すれば、切断開始直後から、樹脂層の摩耗を抑制できることが確認された。
【0059】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0060】
1…ワイヤソー、 2…ワイヤガイド、 3…樹脂被覆ワイヤ、
4…ワイヤ列、 5…加工液供給機構、 6…ワーク送り手段、
7、7’…張力付与機構、 8、8’…ワイヤリールボビン、
9…スラリチラー、 10…スラリタンク、 11…ノズル、
12…駆動モータ、 13…ベースワイヤ、 14…樹脂層、
15…速度制御手段、 16…センサー、 W…ワーク。
図1
図2
図3