(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
粉末X線回折スペクトルにおいて、更に2θ=18.8°、20.3°、27.8°、40.6°及び53.3°近辺にピークを有する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のアルミニウムケイ酸塩。
前記アルミニウムケイ酸塩が、透過型電子顕微鏡(TEM)写真において100,000倍で観察したときに、長さ50nm以上の管状物が存在しないものである請求項6又は請求項7に記載の金属イオン吸着剤。
前記アルミニウムケイ酸塩が、X線源としてCuKα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおいて2θ=26.9°及び40.3°近辺にピークを有するものである請求項6〜請求項9のいずれか1項に記載の金属イオン吸着剤。
前記アルミニウムケイ酸塩が、前記粉末X線回折スペクトルにおいて、更に2θ=18.8°、20.3°、27.8°、40.6°及び53.3°近辺にピークを有する請求項10に記載の金属イオン吸着剤。
前記(b)工程で固体分離されたものは、濃度が60g/Lとなるように水に分散させた場合の電気伝導率が4.0S/m以下である請求項12に記載のアルミニウムケイ酸塩の製造方法。
前記(c)工程は、pHを3以上7未満に調整し、温度80℃〜160℃で、96時間以内の間、加熱処理する工程である請求項12又は請求項13に記載のアルミニウムケイ酸塩の製造方法。
前記(a)工程は、前記ケイ酸イオンを含む溶液のケイ素原子濃度が100mmol/L以上であり、前記アルミニウムイオンを含む溶液のアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上であり、アルミニウムに対するケイ素の元素比Si/Alがモル比で0.3〜1.0となるように混合する工程である請求項12〜請求項14のいずれか1項に記載のアルミニウムケイ酸塩の製造方法。
前記(b)工程は、前記反応生成物を水系媒体に分散して分散物を得る工程と、前記分散物のpHを5〜7に調整して固体分離する工程と、を含む請求項12〜請求項15のいずれか1項に記載のアルミニウムケイ酸塩の製造方法。
前記(c)工程における加熱処理は、水性媒体中のケイ素原子濃度が100mmol/L以上且つアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上の濃度条件で行なわれる請求項17に記載の金属イオン吸着剤の製造方法。
前記(b)工程で固体分離されたものは、濃度が60g/Lとなるように水に分散させた場合の電気伝導率が4.0S/m以下である請求項17又は請求項18に記載の金属イオン吸着剤の製造方法。
前記(c)工程は、pHを3以上7未満に調整し、温度80℃〜160℃で、96時間以内の間、加熱処理する工程である請求項17〜請求項19のいずれか1項に記載の金属イオン吸着剤の製造方法。
前記(a)工程は、前記ケイ酸イオンを含む溶液のケイ素原子濃度が100mmol/L以上であり、前記アルミニウムイオンを含む溶液のアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上であり、アルミニウムに対するケイ素の元素比Si/Alがモル比で0.3〜1.0となるように、前記ケイ酸イオンを含む溶液及びアルミニウムイオンを含む溶液を混合する工程である請求項17〜請求項20のいずれか1項に記載の金属イオン吸着剤の製造方法。
前記(b)工程は、前記反応生成物を水性媒体に分散して分散物を得る工程と、前記分散物のpHを5〜7に調整して固体分離する工程と、を含む請求項17〜請求項21のいずれか1項に記載の金属イオン吸着剤の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0031】
<アルミニウムケイ酸塩>
本発明の第一実施形態であるアルミニウムケイ酸塩は、Si及びAlの元素比Si/Alがモル比で0.3〜1.0であり、
27Al−NMRスペクトルにおいて3ppm近辺にピークを有し、
29Si−NMRスペクトルにおいて−78ppm近辺および−85ppm近辺にピークを有し、X線源としてCuKα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおいて2θ=26.9°及び40.3°近辺にピークを有する。そして、
29Si−NMRスペクトルにおける−78ppm近辺のピークAと、−85ppm近辺のピークBとの面積比率(ピークB/ピークA)が、2.0〜9.0であるか、或いは、透過型電子顕微鏡(TEM)写真において100,000倍で観察したときに長さ50nm以上の管状物が存在しない、アルミニウムケイ酸塩である。
【0032】
第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、粉末X線回折スペクトルにおいて、2θ=26.9°及び40.3°近辺にピークを有する。粉末X線回折は、X線源としてCuKα線を用いて行なう。例えば、リガク社製:Geigerflex RAD−2X(商品名)の粉末X線回折装置を用いることができる。
【0033】
図1に、第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩の一例として、後述の製造例1に係るアルミニウムケイ酸塩の粉末X線回折スペクトルを示す。比較として
図1には、いわゆるイモゴライトと呼ばれる製造例2に係るアルミニウムケイ酸塩の粉末X線回折スペクトも併せて掲載する。
【0034】
図1に示すように、第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、粉末X線回折スペクトルにおいて、2θ=26.9°及び40.3°近辺にピークを有する。2θ=26.9°及び40.3°近辺のピークは、第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩に由来するピークと推定される。
【0035】
第一実施形態に係る特定アルミニウムケイ酸塩は、粉末X線回折スペクトルにおいて、2θ=20°及び35°近辺の幅広なピークを有さなくてもよい。2θ=20°及び35°近辺のピークは、低結晶性の層状の粘土鉱物のhk0面の反射に起因するピークと考えられる。
ここで、2θ=20°及び35°近辺のピークを有しないとは、2θ=20°及び35°近辺におけるベースラインからの変位がノイズレベル以下であることを意味し、具体的にはベースラインから変位がノイズ幅の100%以下であることを意味する。
【0036】
更に、第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、2θ=18.8°、20.3°、27.8°、40.6°及び53.3°近辺にピークを有してもよい。2θ=18.8°、20.3°、27.8°、40.6°及び53.3°近辺のピークは、副生物である水酸化アルミニウムに由来するピークと推定される。なお、後述のアルミニウムケイ酸塩の製造方法において、加熱処理時の加熱温度を160℃以下とすることで水酸化アルミニウムの析出を抑えることができる。また、遠心分離による脱塩処理時のpHを調整することによって、水酸化アルミニウムの含有量を調整することができる。
【0037】
また、第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、金属イオンの吸着能が向上する観点から、Si及びAlの元素比Si/Alがモル比で0.3〜1.0であり、0.4〜0.6であることが好ましく、0.45〜0.55であることがより好ましい。Si/Alがモル比で0.3未満の場合には、アルミニウムケイ酸塩の吸着能向上に寄与しないAlの量が過剰となり、1.0を超えると、アルミニウムケイ酸塩の吸着能向上に寄与しないSiの量が過剰になりやすい。
【0038】
Si及びAlの元素比Si/Alは、ICP発光分光装置(例えば、日立製作所社製ICP発光分光装置:P−4010)を用いて、常法により測定できる。
【0039】
第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、
27Al−NMRスペクトルにおいて、3ppm近辺にピークを有する。
27Al−NMR測定装置としては、例えば、ブルカー・バイオスピン製AV400WB型を用いることができ、具体的な測定条件は以下の通りである。
共鳴周波数:104MHz
測定方法:MAS(シングルパルス)
MAS回転数:10kHz
測定領域:52kHz
データポイント数:4096
resolution(測定領域/データポイント数):12.7Hz
パルス幅:3.0μsec
遅延時間:2秒
化学シフト値基準:α−アルミナを3.94ppm
window関数:指数関数
Line Broadening係数:10Hz
【0040】
図2に、第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩の一例として、後述の製造例1に係るアルミニウムケイ酸塩の
27Al−NMRスペクトルを示す。比較として、
図2には、いわゆるイモゴライトと呼ばれる製造例2に係るアルミニウムケイ酸塩の
27Al−NMRスペクトルも併せて掲載する。
【0041】
図2に示すように、第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、
27Al−NMRスペクトルにおいて、3ppm近辺にピークを有する。3ppm近辺のピークは、6配位のAlに由来するピークであると推定される。更に、55ppm付近にピークを有していてもよい。55ppm付近のピークは、4配位のAlに由来するピークであると推定される。
【0042】
第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、
27Al−NMRスペクトルにおいて、3ppm近辺のピークに対する、55ppm付近のピークの面積比率が、25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、15%以下であることが更に好ましい。
また第一実施形態に係る特定アルミニウムケイ酸塩は、金属イオン吸着性と金属イオン選択性の観点から、27Al−NMRスペクトルにおいて、3ppm近辺のピークに対する55pm付近のピークの面積比率が、1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましい。
【0043】
第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、
29Si−NMRスペクトルにおいて、−78ppm近辺および−85ppm近辺にピークを有する。
29Si−NMR測定装置としては、例えば、ブルカー・バイオスピン製AV400WB型を用いることができ、具体的な測定条件は以下の通りである。
共鳴周波数:79.5MHz
測定方法:MAS(シングルパルス)
MAS回転数:6kHz
測定領域:24kHz
データポイント数:2048
resolution(測定領域/データポイント数):5.8Hz
パルス幅:4.7μsec
遅延時間:600秒
化学シフト値基準:TMSP−d
4(3−(トリメチルシリル)(2,2,3,3−
2H
4)プロピオン酸ナトリウム)を1.52ppm
window関数:指数関数
Line Broadening係数:50Hz
【0044】
図3に、第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩の一例として、後述の製造例1に係るアルミニウムケイ酸塩の
29Si−NMRスペクトルを示す。比較として
図3には、いわゆるイモゴライトと呼ばれる製造例2に係るアルミニウムケイ酸塩の
29Si−NMRスペクトルも併せて掲載する。
【0045】
図3に示すように、第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、
29Si−NMRスペクトルにおいて、−78ppm近辺および−85ppm近辺にピークを有する。−78ppm近辺に現れるピークAは、イモゴライト・アロフェン類など結晶構造のアルミニウムケイ酸塩に由来し、HO−Si−(OAl)
3という構造に起因すると考えられる。また−85ppm近辺に現れるピークBは、粘度構造のアルミニウムケイ酸塩又は非晶質構造のアルミニウムケイ酸塩と考えられる。したがって、第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、結晶構造のアルミニウムケイ酸塩と、粘度構造又は非晶質構造のアルミニウムケイ酸塩との混合物又は複合体であると推定される。
【0046】
そして、第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、
29Si−NMRスペクトルにおける−78ppm近辺のピークAと、−85ppm近辺のピークBとの面積比率(ピークB/ピークA)が、2.0〜9.0であるか、或いは、透過型電子顕微鏡(TEM)写真において100,000倍で観察したときに長さ50nm以上の管状物が存在しないものである。
【0047】
29Si−NMRスペクトルにおける前記ピークの面積比率を求める際には、まず
29Si−NMRスペクトルにおいてベースラインを引く。
図3では、−55ppmと−140ppmとを結んだ直線をベースラインとする。
【0048】
次に、−78ppm近辺に現れるピークと−85ppm近辺のピークとの谷に当たる化学シフト値(
図3では、−81ppm付近)で区切る。
【0049】
−78ppm近辺のピークAの面積は、
図3においては化学シフト軸と直交し−81ppmを通る直線と上記ベースラインに囲まれた領域の面積であり、ピークBの面積は、化学シフト軸と直交し−81ppmを通る直線と上記ベースラインに囲まれた領域の面積である。
なお、上記各ピークの面積は、NMR測定装置に組み込まれた解析ソフトにより求めてもよい。
【0050】
上記得られたピークA及びBの面積から求めたピークB/ピークAの面積比率は、金属イオンの吸着能が向上する観点から、2.0〜9.0であり、2.0〜7.0であることが好ましく、2.0〜5.0であることがより好ましく、2.0〜4.0であることが更に好ましい。
【0051】
なお、管状アルミニウムケイ酸塩であるいわゆるイモゴライトの繊維が透過型電子顕微鏡(TEM)写真で観察される場合には、ピークBの面積が小さくなる方向にある。
【0052】
図4にアルミニウムケイ酸塩の透過型電子顕微鏡(TEM)写真の一例を示す。
図4に示すアルミニウムケイ酸塩は、後述の製造例1に係るアルミニウムケイ酸塩である。比較として、
図5に、管状アルミニウムケイ酸塩であり、いわゆるイモゴライトと呼ばれる製造例2に係るアルミニウムケイ酸塩の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を示す。
図4に示されるように、第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩では、透過型電子顕微鏡(TEM)において100,000倍で観察したときに、長さ50nm以上の管状物が存在していない。
【0053】
アルミニウムケイ酸塩の透過型電子顕微鏡(TEM)の観察は、100kVの加速電圧で行う。また観察試料としては、後述する製造方法における第二洗浄工程(脱塩及び固体分離)前の加熱後溶液をTEM観察試料調製用の支持体上に滴下し、次いで乾燥して薄膜としたものを用いる。尚、TEM画像のコントラストが充分に得られない場合には、コントラストが充分に得られるように加熱処理後の溶液を適宜希釈したものを用いて観察試料を調製する。
【0054】
第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、金属イオンの吸着能が向上する観点から、BET比表面積が200m
2/g以上であることが好ましく、250m
2/g以上であることがより好ましく、280m
2/g以上であることが更に好ましい。また、BET比表面積の上限値は特に制限が無いが、アルミニウムケイ酸塩中のSiとAlの一部がSi−O−Alという形で結合し、それが金属イオン吸着能の向上に寄与しているという観点からは、BET比表面積は1500m
2/g以下であることが好ましく、1200m
2/g以下であることがより好ましく、1000m
2/g以下であることが更に好ましい。
【0055】
アルミニウムケイ酸塩のBET比表面積は、JIS Z 8830に準じて窒素吸着能から測定する。評価装置としては、例えば、QUANTACHROME社製:AUTOSORB−1(商品名)などを用いることができる。BET比表面積の測定を行う際には、試料表面及び構造中に吸着している水分がガス吸着能に影響を及ぼすと考えられることから、まず、加熱による水分除去の前処理を行う。
【0056】
前記前処理では、0.05gの測定試料を投入した測定用セルを、真空ポンプで10Pa以下に減圧した後、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却する。この前処理を行った後、評価温度を77Kとし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満として測定する。
【0057】
第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、金属イオンの吸着能が向上する観点から、全細孔容積が0.1cm
3/g以上であることが好ましく、0.12cm
3/g以上であることがより好ましく、0.15cm
3/g以上であることが更に好ましい。また、全細孔容積の上限値は特に制限が無いが、アルミニウムケイ酸塩中のSiとAlの一部がSi−O−Alという形で結合し、それが金属イオン吸着能の向上に寄与しているという観点からは、全細孔容積は1.5cm
3/g以下であることが好ましく、1.2cm
3/g以下であることがより好ましく、1.0cm
3/g以下であることが更に好ましい。
アルミニウムケイ酸塩の全細孔容積は、前記BET比表面積に基づき、相対圧が0.95以上1未満の範囲で得られたデータの中、相対圧1に最も近いガス吸着量を液体に換算して求める。
【0058】
第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、金属イオンの吸着能が向上する観点から、平均細孔直径が1.5nm以上であることが好ましく、1.7nm以上であることがより好ましく、2.0nm以上であることがより好ましい。また、全細孔容積の上限値は、金属イオンの吸着能が向上する観点から、50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、5.0nm以下であることが更に好ましい。
アルミニウムケイ酸塩の平均細孔直径は、前記BET比表面積及び全細孔容積に基づき、全細孔を1つの円筒形細孔で構成されていると仮定して求める。
【0059】
<アルミニウムケイ酸塩の製造方法>
本発明の第一実施形態であるアルミニウムケイ酸塩は以下のような製造方法で製造することができる。
本発明のアルミニウムケイ酸塩の製造方法は、(a)ケイ酸イオンを含む溶液及びアルミニウムイオンを含む溶液を混合して反応生成物を得る工程と、(b)前記反応生成物を、脱塩及び固体分離する工程と、(c)前記工程(b)で固体分離されたものを水性媒体中、酸の存在下、ケイ素原子濃度が100mmol/L以上且つアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上となる濃度条件で加熱処理する工程と、(d)前記工程(c)で加熱処理して得られたものを、脱塩及び固体分離する工程とを有し、必要に応じてその他の工程を有し得る。
【0060】
ケイ酸イオン及びアルミニウムイオンの反応生成物を含む溶液から共存イオンを脱塩処理した後に、いわゆるイモゴライトを製造するときよりも高濃度の条件で、酸の存在下に加熱処理することで、金属イオン吸着能に優れるアルミニウムケイ酸塩を効率よく製造することができる。
これは例えば以下のように考えることができる。一般に、アルミニウムケイ酸塩の酸の存在下での加熱処理を希薄溶液で実施すると、規則的な構造が連続している管状のアルミニウムケイ酸塩が形成される。しかし、本発明の製造方法のような高濃度条件下では、規則的な部分構造に加えて粘土構造及び非晶質構造を有するアルミニウムケイ酸塩が形成されると考えられる。アルミニウムケイ酸塩がこのような多様な構造を有することで、優れた金属イオン吸着能を発揮することができると考えられる。したがって、第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、長さ50nm以上の管状物に成長するのに代えて、このような多様な構造が形成されているものと推測される。
【0061】
(a)反応生成物を得る工程
反応生成物を得る工程では、ケイ酸イオンを含む溶液と、アルミニウムイオンを含む溶液とを混合して反応生成物であるアルミニウムケイ酸塩及び共存イオンを含む混合溶液を得る。
【0062】
(ケイ酸イオン及びアルミニウムイオン)
アルミニウムケイ酸塩を合成する際、原料には、ケイ酸イオン及びアルミニウムイオンが必要となる。ケイ酸イオンを含む溶液(以下、「ケイ酸溶液」ともいう)を構成するケイ酸源としては、溶媒和した際にケイ酸イオンが生じるものであれば特に制限されない。例えば、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、アルミニウムイオンを含む溶液(以下、「アルミニウム溶液」ともいう)を構成するアルミニウム源は、溶媒和した際にアルミニウムイオンが生じるものであれば特に制限されない。例えば、塩化アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミニウムsec−ブトキシド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
溶媒としては、原料であるケイ酸源及びアルミニウム源と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができる。具体的には、水、エタノール等を使用することができる。加熱処理時における溶液中の共存イオンの低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましい。
【0064】
(混合比と溶液の濃度)
これらの原料をそれぞれ溶媒に溶解させて原料溶液(ケイ酸溶液及びアルミニウム溶液)を調製した後、原料溶液を互いに混合して混合溶液を得る。混合溶液中のSi及びAlの元素比Si/Alは、得られるアルミニウムケイ酸塩におけるSi及びAlの元素比Si/Alに合わせて、モル比で0.3〜1.0となるように調整し、好ましくは0.4〜0.6となるように調整し、より好ましくは0.45〜0.55となるように調整する。元素比Si/Alを0.3〜1.0とすることで、所望の規則的な構造を有するアルミニウムケイ酸塩が合成され易くなる。
【0065】
また、原料溶液の混合の際には、アルミニウム溶液に対してケイ酸溶液を徐々に加えることが好ましい。このようにすることで、所望のアルミニウムケイ酸塩の形成を阻害する要因となりうる、ケイ酸の重合を抑えることができる。
【0066】
ケイ酸溶液のケイ素原子濃度は、特に制限されるものではない。好ましくは100mmol/L〜1000mmol/Lである
ケイ酸溶液のケイ素原子濃度が100mmol/L以上であると、生産性が向上し、効率よくアルミニウムケイ酸塩を製造することができる。またケイ酸溶液のケイ素原子濃度が1000mmol/L以下であると、ケイ酸溶液のケイ素原子濃度に応じて生産性がより向上する。
【0067】
アルミニウム溶液のアルミニウム原子濃度は、特に制限されるものではない。好ましくは100mmol/L〜1000mmol/Lである。
アルミニウム溶液のアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上であると、生産性が向上し、効率よくアルミニウムケイ酸塩を製造することができる。またアルミニウム溶液のアルミニウム原子濃度が1000mmol/L以下であると、アルミニウム溶液のアルミニウム原子濃度に応じて生産性がより向上する。
【0068】
(b)第一洗浄工程(脱塩及び固体分離)
ケイ酸イオンを含む溶液とアルミニウムイオンを含む溶液とを混合し、反応生成物として共存イオンを含むアルミニウムケイ酸塩を生成させた後、生成した共存イオンを含むアルミニウムケイ酸塩を脱塩及び固体分離する第一洗浄工程を行う。第一洗浄工程では、混合溶液中から共存イオンの少なくとも一部を除去して混合溶液中の共存イオン濃度を低下させる。第一洗浄工程を行うことで、合成工程において所望の規則的な構造を有するアルミニウムケイ酸塩を形成し易くなる。
【0069】
第一洗浄工程で、脱塩及び固体分離する方法は、ケイ酸源及びアルミニウム源に由来するケイ酸イオン以外のアニオン(例えば塩化物イオン、硝酸イオン)及びアルミニウムイオン以外のカチオン(例えばナトリウムイオン)の少なくとも一部を除去(脱塩)して固体分離できればよく、特に制限されるものではない。第一洗浄工程としては例えば、遠心分離を用いる方法、透析膜を用いる方法、イオン交換樹脂を用いる方法等が挙げられる。
【0070】
第一洗浄工程は、共存イオンの濃度が所定の濃度以下になるように行うことが好ましい。具体的には例えば第一洗浄工程で得られる固体分離されたものを、濃度が60g/Lとなるように純水に分散させた場合に、その分散液の電気伝導率が4.0S/m以下となるように行なうことが好ましく、1.0mS/m以上3.0S/m以下となるように行なうことがより好ましく、1.0mS/m以上2.0S/m以下となるように行なうことがより好ましい。
分散液の電気伝導率が4.0S/m以下であると、合成工程において所望のアルミニウムケイ酸塩がより形成しやすくなる傾向がある。
尚、電気伝導率は、HORIBA社製:F−55及び同社の一般的な電気伝導率セル:9382−10Dを用いて、常温(25℃)で測定される。
【0071】
第一洗浄工程は、前記アルミニウムケイ酸塩を水性媒体に分散して分散物を得る工程と、前記分散物のpHを5〜7に調整してアルミニウムケイ酸塩を析出させる工程とを含むことが好ましい。
例えば第一洗浄工程を、遠心分離を用いて行なう場合、以下のようにして行うことができる。混合溶液にアルカリ等を加えてpHを5〜7に調整する。pHを調整した溶液を遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として固体分離する。そして固体分離されたものを溶媒に再分散させる。その際、遠心分離前の容積に戻すことが好ましい。再分散させた分散液を同様にして遠心分離して脱塩及び固体分離する操作を繰り返すことで、共存イオンの濃度を所定の濃度以下にすることができる。
【0072】
第一洗浄工程においてはpHを例えば5〜7に調整するが、5.5〜6.8であることが好ましく、5.8〜6.5であることがより好ましい。pH調整に用いるアルカリは特に制限されない。例えば水酸化ナトリウム、アンモニア等が好ましい。
【0073】
また遠心分離の条件は製造規模や使用する容器等に応じて適宜選択される。例えば、室温下、1200G以上で1〜30分間とすることができる。具体的には例えば、遠心分離装置としてTOMY社製:Suprema23、及び同社のスタンダードロータNA−16を用いる場合、室温下、3000rpm(1450G)以上で5〜10分間とすることができる。
【0074】
第一洗浄工程における溶媒としては、原料と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができ、具体的には、水、エタノール等を使用することができるが、加熱合成時における溶液中の共存イオンの低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましく、純水を用いることより好ましい。尚、繰り返し複数回の洗浄を行う際は、pH調整を省略することが好ましい。
【0075】
第一洗浄工程における脱塩及び固体分離の処理回数は、共存イオンの残存量に応じて適宜設定すればよい。例えば1〜6回とすることができる。3回程度の洗浄を繰り返すと、共存イオンの残存量が所望のアルミニウムケイ酸塩の合成に影響しない程度に少なくなる。
【0076】
pH調整する際のpH測定は、一般的なガラス電極を用いたpHメータによって測定できる。具体的には、例えば、株式会社堀場製作所製の商品名:MODEL(F−51)を使用することができる。
【0077】
(c)合成工程
合成工程では、第一洗浄工程で固体分離されたものを水性媒体中、酸の存在下、ケイ素原子濃度が100mmol/L以上且つアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上となる濃度条件で加熱処理を行う。
従来の製造方法においては、加熱処理を希薄溶液で行うことでアルミニウムケイ酸塩を管状に成長させる。このような従来の製造方法では、希薄溶液で加熱処理を行うため生産性の向上に限界がある。しかしながら、本発明の製造方法のようにケイ素原子及びアルミニウム原子の濃度を特定の濃度以上の条件下で加熱処理を行うことで、金属イオン吸着能に優れ、管状とは異なる構造を有するアルミニムケイ酸塩を、生産性よく製造することができる。
【0078】
第一洗浄工程後、固体分離されたものに含まれるケイ素原子及びアルミニウム原子がそれぞれ所定の濃度となるように調整する。
本発明においてはケイ素原子濃度が100mmol/L以上且つアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上である。好ましくはケイ素原子濃度が120mmol/L以上2000mmol/L以下且つアルミニウム原子濃度が120mmol/L以上2000mmol/L以下であり、より好ましくはケイ素原子濃度が150mmol/L以上1500mmol/L以下且つアルミニウム原子濃度が150mmol/L以上1500mmol/Lである。
ケイ素原子濃度が100mmol/L未満又はアルミニウム原子濃度が100mmol/L未満の場合には、所望のアルミニウムケイ酸塩が得られにくくなる場合がある。またアルミニウムケイ酸塩の生産性が低下する傾向にある。
【0079】
尚、上記ケイ素原子濃度及びアルミニウム原子濃度は、後述する酸性化合物を加えてpHを所定の範囲に調整した後のケイ素原子濃度及びアルミニウム原子濃度である。
また、ケイ素原子濃度及びアルミニウム原子濃度は、ICP発光分光装置(例えば、日立製作所社製ICP発光分光装置:P−4010)を用いて、常法により測定される。
【0080】
ケイ素原子濃度及びアルミニウム原子濃度が上記所定の濃度となるように調整する際には、溶媒を加えてもよい。溶媒としては、原料と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができ、具体的には、水、エタノール等を使用することができるが、加熱合成時における溶液中の共存イオンの低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましい。
【0081】
合成工程においては、加熱処理の前に酸性化合物の少なくとも1種を加える。酸性化合物を加えた後のpHは特に制限されない。所望のアルミニウムケイ酸塩を効率よく得る観点から、pH3以上7未満であることが好ましく、pH3以上5以下であることがより好ましい。
【0082】
合成工程において加える酸性化合物は特に制限されるものではなく、有機酸であっても無機酸であってもよい。中でも無機酸を用いることが好ましい。無機酸として具体的には、塩酸、過塩素酸、硝酸等を挙げることができる。後述の加熱処理時における溶液中の共存イオン種の低減を考慮すれば、使用したアルミニウム源に含まれるアニオンと同様のアニオンを生成する酸性化合物を用いることが好ましい。
【0083】
酸性化合物を加えた後、加熱処理を行うことで、所望の構造を有するアルミニウムケイ酸塩を得ることができる。
加熱温度は特に制限されない。所望のアルミニウムケイ酸塩を効率よく得る観点から、80℃〜160℃であることが好ましい。
加熱温度が160℃以下であると、ベーマイト(水酸化アルミニウム)が析出することを抑制することができる傾向がある。また加熱温度が80℃以上であると、所望のアルミニウムケイ酸塩の合成速度が向上し、より効率よく所望のアルミニウムケイ酸塩を製造できる傾向がある。
【0084】
加熱時間は特に制限されるものではない。所望の構造を有するアルミニウムケイ酸塩をより効率的に得る観点から、96時間(4日)以内であることが好ましい。
加熱時間が96時間以下であると、より効率的に所望のアルミニウムケイ酸塩を製造することができる。
【0085】
(d)第二洗浄工程(脱塩及び固体分離)
合成工程において加熱処理して得られたものは、第二洗浄工程において脱塩及び固体分離される。これにより優れた金属イオン吸着能を有するアルミニウムケイ酸塩を得ることができる。これは例えば以下のように考えることができる。すなわち合成工程において加熱処理して得られたものは、アルミニウムケイ酸塩の吸着サイトが共存イオンで塞がれている場合があり、期待する程の金属イオン吸着能は得られない場合がある。そのため、合成工程で得られたアルミニウムケイ酸塩から共存イオンの少なくとも一部を除去する第二洗浄工程によって、脱塩及び固体分離することで優れた金属イオン吸着能を有するアルミニウムケイ酸塩を得ることができると考えることができる。
【0086】
第二洗浄工程は、ケイ酸イオン以外のアニオン及びアルミニウムイオン以外のカチオンの少なくとも一部を除去できればよく、合成工程前の第一洗浄工程と同様の操作であっても、異なる操作であってもよい。
第二洗浄工程は、共存イオンの濃度が所定の濃度以下になるように行うことが好ましい。具体的には例えば第二洗浄工程で得られる固体分離されたものを、濃度が60g/Lとなるように純水に分散させた場合に、その分散液の電気伝導率が4.0S/m以下となるように行なうことが好ましく、1.0mS/m以上3.0S/m以下となるように行なうことがより好ましく、1.0mS/m以上2.0S/m以下となるように行なうことがより好ましい。
分散液の電気伝導率が4.0S/m以下であると、より優れた金属イオン吸着能を有するアルミニウムケイ酸塩を得られやすくなる傾向がある。
【0087】
第二洗浄工程を、遠心分離を用いて行なう場合、例えば以下のようにして行うことができる。混合溶液にアルカリ等を加えてpHを5〜10に調整する。pHを調整した溶液を遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として固体分離する。次いで固体分離されたものを溶媒に再分散させる。その際、遠心分離前の容積に戻すことが好ましい。再分散させた分散液を同様にして遠心分離して脱塩及び固体分離する操作を繰り返すことで、共存イオンの濃度を所定の濃度以下にすることができる。
【0088】
第二洗浄工程においてはpHを例えば5〜10に調整するが、8〜10であることが好ましい。pH調整に用いるアルカリは特に制限されない。例えば水酸化ナトリウム、アンモニア等が好ましい。
【0089】
また遠心分離の条件は製造規模や使用する容器等に応じて適宜選択される。例えば、室温下、1200G以上で1〜30分間とすることができる。具体的には例えば、遠心分離装置としてTOMY社製:Suprema23、及び同社のスタンダードロータNA−16を用いる場合、室温下、3000rpm(1450G)以上で5分〜10分間とすることができる。
【0090】
第二洗浄工程における溶媒としては、原料と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができ、具体的には、水、エタノール等を使用することができるが、共存イオンの低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましく、純水を用いることより好ましい。尚、繰り返し複数回の洗浄を行う際は、pH調整を省略することが好ましい。
【0091】
第二洗浄工程における脱塩及び固体分離の処理回数は、共存イオンの残存量によって設定すればよいが、1〜6回が好ましく、3回程度の洗浄を繰り返すと、アルミニウムケイ酸塩における共存イオンの残存量が充分に低減される。
【0092】
第二洗浄工程後の分散液については、残存する共存イオンの中でも、特にアルミニウムケイ酸塩の吸着能に影響を与える塩化物イオン及びナトリウムイオンの濃度が低減されていることが好ましい。すなわち、第二洗浄工程における洗浄後のアルミニウムケイ酸塩は、当該アルミニウムケイ酸塩を水に分散させて濃度400mg/Lの水分散液を調製したとき、当該水分散液において塩化物イオン濃度100mg/L以下及びナトリウムイオン濃度100mg/L以下を与えることが好ましい。塩化物イオン濃度100mg/L以下且つナトリウムイオン濃度100mg/L以下であると、吸着能を更に向上させることができる。塩化物イオン濃度は、50mg/L以下がより好ましく、10mg/L以下が更に好ましい。ナトリウムイオン濃度は、50mg/L以下がより好ましく、10mg/L以下が更に好ましい。塩化物イオン濃度及びナトリウムイオン濃度は、洗浄工程の処理回数やpH調整に使用するアルカリの種類により調整することができる。
尚、塩化物イオン濃度及びナトリウムイオン濃度は、イオンクロマトグラフィー(例えば、ダイオネクス社製DX−320及びDX−100)により通常の条件で測定される。
また、アルミニウムケイ酸塩の分散物の濃度は、固体分離されたものを110℃、24時間乾燥して得られる固体の質量を基準とする。
【0093】
尚、ここで述べる「第二洗浄工程後の分散液」とは、第二洗浄工程を終了した後に、第二洗浄工程を行う前の容積に、溶媒を用いて容積を戻した分散液を意味する。用いる溶媒は、原料と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができ、具体的には、水、エタノール等を使用することができるが、アルミニウムケイ酸塩における共存イオンの残存量の低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましい。
【0094】
アルミニウムケイ酸塩のBET比表面積は、第二洗浄工程の処理方法(例えば、合成溶液にアルカリを加えてpHを5〜10に調整し、遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として残ったアルミニウムケイ酸塩を溶媒に再分散させ、遠心分離前の容積に戻す処理を一度もしくは複数回繰り返す方法)により調整することができる。
【0095】
またアルミニウムケイ酸塩の全細孔容積は、第二洗浄工程の処理方法(例えば、合成溶液にアルカリを加えてpHを5〜10に調整し、遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として残ったアルミニウムケイ酸塩を溶媒に再分散させ、遠心分離前の容積に戻す処理を一度もしくは複数回繰り返す方法)により調整することができる。
【0096】
またアルミニウムケイ酸塩の平均細孔直径は、第二洗浄工程の処理方法(例えば、合成溶液にアルカリを加えてpHを5〜10に調整し、遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として残ったアルミニウムケイ酸塩を溶媒に再分散させ、遠心分離前の容積に戻す処理を一度もしくは複数回繰り返す方法)により調整することができる。
【0097】
<用途>
第一実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、金属イオンに対する吸着剤として有用である。より具体的には、ニッケルイオン、銅イオン、マンガンイオンなどを効果的に吸着する。
【0098】
<金属イオン吸着剤>
本発明の第二実施形態に係る金属イオン吸着剤は、アルミニウムケイ酸塩を成分とする。第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩は、Si及びAlの元素比Si/Alがモル比で0.3〜1.0であり、
27Al−NMRスペクトルにおいて3ppm近辺にピークを有し、
29Si−NMRスペクトルにおいて−78ppm近辺および−85ppm近辺にピークを有する。
【0099】
第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩は、金属イオンの吸着能が向上する観点から、Si及びAlの元素比Si/Alがモル比で0.3〜1.0であり、0.4〜0.6であることが好ましく、0.45〜0.55であることがより好ましい。Si/Alがモル比で0.3未満の場合には、アルミニウムケイ酸塩の吸着能向上に寄与しないAlの量が過剰となり、1.0を超えると、アルミニウムケイ酸塩の吸着能向上に寄与しないSiの量が過剰になりやすい。
【0100】
Si及びAlの元素比Si/Alは、ICP発光分光装置(例えば、日立製作所社製ICP発光分光装置:P−4010)を用いて、常法により測定できる。
【0101】
第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩は、
27Al−NMRスペクトルにおいて、3ppm近辺にピークを有する。
27Al−NMR測定装置としては、例えば、ブルカー・バイオスピン製AV400WB型を用いることができ、具体的な測定条件は以下の通りである。
共鳴周波数:104MHz
測定方法:MAS(シングルパルス)
MAS回転数:10kHz
測定領域:52kHz
データポイント数:4096
resolution(測定領域/データポイント数):12.7Hz
パルス幅:3.0μsec
遅延時間:2秒
化学シフト値基準:α−アルミナを3.94ppm
window関数:指数関数
Line Broadening係数:10Hz
【0102】
図2に、第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩の一例として、後述の製造例1及び製造例2に係るアルミニウムケイ酸塩の
27Al−NMRスペクトルを示す。
【0103】
図2に示すように、第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩は、
27Al−NMRスペクトルにおいて、3ppm近辺にピークを有する。3ppm近辺のピークは、6配位のAlに由来するピークであると推定される。更に、55ppm付近にピークを有していてもよい。55ppm付近のピークは、4配位のAlに由来するピークであると推定される。
【0104】
第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩は、
27Al−NMRスペクトルにおいて、3ppm近辺のピークに対する、55pm付近のピークの面積比率が、25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、15%以下であることが更に好ましい。
また本実施形態に係る特定アルミニウムケイ酸塩は、金属イオン吸着性と金属イオン選択性の観点から、
27Al−NMRスペクトルにおいて、3ppm近辺のピークに対する55pm付近のピークの面積比率が、1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましい。
【0105】
第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩は、
29Si−NMRスペクトルにおいて、−78ppm近辺および−85ppm近辺にピークを有する。
29Si−NMR測定装置としては、例えば、ブルカー・バイオスピン製AV400WB型を用いることができ、具体的な測定条件は以下の通りである。
共鳴周波数:79.5MHz
測定方法:MAS(シングルパルス)
MAS回転数:6kHz
測定領域:24kHz
データポイント数:2048
resolution(測定領域/データポイント数):5.8Hz
パルス幅:4.7μsec
遅延時間:600秒
化学シフト値基準:TMSP−d
4(3−(トリメチルシリル)(2,2,3,3−
2H
4)プロピオン酸ナトリウム)を1.52ppm
window関数:指数関数
Line Broadening係数:50Hz
【0106】
図3に、第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩の一例として、後述の製造例1及び製造例2に係るアルミニウムケイ酸塩の
29Si−NMRスペクトルを示す。
【0107】
図3に示すように、第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩は、
29Si−NMRスペクトルにおいて、−78ppm近辺および−85ppm近辺にピークを有する。−78ppm近辺に現れるピークAは、イモゴライト・アロフェン類など結晶構造のアルミニウムケイ酸塩に由来するものと考えられ、−85ppm近辺に現れるピークBは、粘度構造のアルミニウムケイ酸塩又は非晶質構造のアルミニウムケイ酸塩と考えられる。したがって、第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩は、結晶構造のアルミニウムケイ酸塩と、粘度構造又は非晶質構造のアルミニウムケイ酸塩との混合物又は複合体であると推定される。
【0108】
第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩は、金属イオンの吸着能が向上する観点から、
29Si−NMRスペクトルにおける−78ppm近辺のピークAと、−103.8ppm近辺のピークBの面積比率(ピークB/ピークA)が、0.4〜9.0であることが好ましく、1.5〜9.0であることがより好ましく、2.0〜9.0であることが更に好ましく、2.0〜7.0であることが更に好ましく、2.0〜5.0であることが更に好ましく、2.0〜4.0であることが特に好ましい。
【0109】
29Si−NMRスペクトルにおける前記ピークの面積比率を求める際には、まず
29Si−NMRスペクトルにおいてベースラインを引く。
図3では、−55ppmと−140ppmとを結んだ直線をベースラインとする。
【0110】
次に、−78ppm近辺に現れるピークと−85ppm近辺のピークとの谷に当たる化学シフト値(
図3では、−81ppm付近)で区切る。
【0111】
−78ppm近辺のピークAの面積は、
図3においては化学シフト軸と直交し−81ppmを通る直線と上記ベースラインに囲まれた領域の面積であり、ピークBの面積は、化学シフト軸と直交し−81ppmを通る直線と上記ベースラインに囲まれた領域の面積である。
なお、上記各ピークの面積は、NMR測定装置に組み込まれた解析ソフトにより求めてもよい。
【0112】
図4及び
図5に、第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩の透過型電子顕微鏡(TEM)写真の一例を示す。
図4に示すアルミニウムケイ酸塩は、後述の製造例1に係るアルミニウムケイ酸塩である。
図5に示すアルミニウムケイ酸塩は、後述の製造例2に係るアルミニウムケイ酸塩である。
【0113】
図4に示されるように、製造例1に係るアルミニウムケイ酸塩は、透過型電子顕微鏡(TEM)において100,000倍で観察したときに、長さ50nm以上の管状物が存在していない。製造例2に係るアルミニウムケイ酸塩は、
図5に示されるように、管状のいわゆるイモゴライトである。
【0114】
アルミニウムケイ酸塩の透過型電子顕微鏡(TEM)の観察は、100kVの加速電圧で行う。また観察試料としては、後述する製造方法における第二洗浄工程(脱塩及び固体分離)前の加熱後溶液をTEM観察試料調製用の支持体上に滴下し、次いで乾燥して薄膜としたものを用いる。尚、TEM画像のコントラストが充分に得られない場合には、コントラストが充分に得られるように加熱処理後の溶液を適宜希釈したものを用いて観察試料を調製する。
【0115】
図5に示されるような管状物は、後述のアルミニウムケイ酸塩の製造方法において、ケイ酸イオン及びアルミニウムイオンを特定の濃度以下で加熱処理を実施することで生成する。他方、
図4に示されるような管状物が観察されないアルミニウムケイ酸塩は、ケイ酸イオン及びアルミニウムイオンを特定の濃度以上で加熱処理を実施することで作製される。
【0116】
図6は、第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩の一例である、管状のいわゆるイモゴライトを模式的に示す図面である。
図6に示すように、管状体10a同士により繊維構造が形成される傾向があり、管状体10aの筒内の内壁20や、管状体10a間の隙間30を形成する管状体10aの外壁(外周面)を金属イオンの吸着サイトとして利用できる。管状体10aの管部長さ方向の長さは、例えば1nm〜10μmである。管状体10aは、例えば円管状を呈しており、外径は例えば1.5〜3.0nmであり、内径は例えば0.7〜1.4nmである。
【0117】
なお、管状アルミニウムケイ酸塩であるいわゆるイモゴライトの繊維が透過型電子顕微鏡(TEM)写真で観察される場合には、
29Si−NMRスペクトルにおいて、ピークBの面積が小さくなる方向にある。
【0118】
第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩は、粉末X線回折スペクトルにおいて、2θ=26.9°及び40.3°近辺にピークを有することが好ましい。粉末X線回折は、X線源としてCuKα線を用いて行なう。例えば、リガク社製:Geigerflex RAD−2X(商品名)の粉末X線回折装置を用いることができる。
【0119】
図1に、第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩の一例として、後述の製造例1及び製造例2に係るアルミニウムケイ酸塩の粉末X線回折スペクトルを示す。
図1に示すように、第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩は、粉末X線回折スペクトルにおいて、2θ=26.9°、40.3°近辺にピークを有する。2θ=26.9°及び40.3°近辺のピークは、アルミニウムケイ酸塩に由来するピークと推定される。
【0120】
更に、製造例1に係るアルミニウムケイ酸塩のように、第二実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、2θ=18.8°、20.3°、27.8°、40.6°及び53.3°近辺にピークを有してもよい。2θ=18.8°、20.3°、27.8°、40.6°及び53.3°近辺のピークは、副生物である水酸化アルミニウムに由来するピークと推定される。なお、後述のアルミニウムケイ酸塩の製造方法において、加熱処理時の加熱温度を160℃以下とすることで水酸化アルミニウムの析出を抑えることができる。また、遠心分離による脱塩処理時のpHを調整することによって、水酸化アルミニウムの含有量を調整することができる。
【0121】
また、製造例2に係るアルミニウムケイ酸塩のように、第二実施形態のアルミニウムケイ酸塩は、2θ=4.8°、9.7°及び14.0°近辺にピークを有してもよい。更に、2θ=18.3°近辺にピークを有していてもよい。2θ=4.8°、9.7°、14.0°及び18.3°近辺のピークは、筒状アルミニウムケイ酸塩であるいわゆるイモゴライトの単繊維が平行に凝集して束状構造をとっていることに由来するピークと推定される。
【0122】
第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩は、金属イオンの吸着能が向上する観点から、BET比表面積が200m
2/g以上であることが好ましく、250m
2/g以上であることがより好ましく、280m
2/g以上であることが更に好ましい。また、BET比表面積の上限値は特に制限が無いが、アルミニウムケイ酸塩中のSiとAlの一部がSi−O−Alという形で結合し、それが金属イオン吸着能の向上に寄与しているという観点からは、BET比表面積は1500m
2/g以下であることが好ましく、1200m
2/g以下であることがより好ましく、1000m
2/g以下であることが更に好ましい。
【0123】
アルミニウムケイ酸塩のBET比表面積は、JIS Z 8830に準じて窒素吸着能から測定する。評価装置としては、例えば、QUANTACHROME社製:AUTOSORB−1(商品名)などを用いることができる。BET比表面積の測定を行う際には、試料表面及び構造中に吸着している水分がガス吸着能に影響を及ぼすと考えられることから、まず、加熱による水分除去の前処理を行う。
【0124】
前記前処理では、0.05gの測定試料を投入した測定用セルを、真空ポンプで10Pa以下に減圧した後、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却する。この前処理を行った後、評価温度を77Kとし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満として測定する。
【0125】
第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩は、金属イオンの吸着能が向上する観点から、全細孔容積が0.1cm
3/g以上であることが好ましく、0.12cm
3/g以上であることがより好ましく、0.15cm
3/g以上であることが更に好ましい。また、全細孔容積の上限値は特に制限が無いが、アルミニウムケイ酸塩中のSiとAlの一部がSi−O−Alという形で結合し、それが金属イオン吸着能の向上に寄与しているという観点からは、全細孔容積は1.5m
2/g以下であることが好ましく、1.2m
2/g以下であることがより好ましく、1.0m
2/g以下であることが更に好ましい。
アルミニウムケイ酸塩の全細孔容積は、前記BET比表面積に基づき、相対圧が0.95以上1未満の範囲で得られたデータの中、相対圧1に最も近いガス吸着量を液体に換算して求める。
【0126】
第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩は、金属イオンの吸着能が向上する観点から、平均細孔直径が1.5nm以上であることが好ましく、1.7nm以上であることがより好ましく、2.0nm以上であることがより好ましい。また、全細孔容積の上限値は、金属イオンの吸着能が向上する観点から、50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、5.0nm以下であることが更に好ましい。
アルミニウムケイ酸塩の平均細孔直径は、前記BET比表面積及び全細孔容積に基づき、全細孔を1つの円筒形細孔で構成されていると仮定して求める。
【0127】
<アルミニウムケイ酸塩の製造方法>
本発明の第二実施形態に係る金属イオン吸着剤の成分であるアルミニウムケイ酸塩は以下のようにして製造することができる。
第二実施形態に係るアルミニウムケイ酸塩の製造方法は、(a)ケイ酸イオンを含む溶液及びアルミニウムイオンを含む溶液を混合して反応生成物を得る工程と、(b)前記反応生成物を、脱塩及び固体分離する工程と、(c)前記工程(b)で固体分離されたものを水性媒体中、酸の存在下で加熱処理する工程と、(d)前記工程(c)で加熱処理して得られたものを、脱塩及び固体分離する工程と、を有し、必要に応じてその他の工程を有し得る。
【0128】
反応生成物であるアルミニウムケイ酸塩を含む溶液から共存イオンを脱塩処理した後に、酸の存在下で加熱処理することで、金属イオン吸着能に優れる金属イオン吸着剤を効率よく製造することができる。
これは例えば以下のように考えることができる。規則的な構造の形成を阻害する共存イオンが除去されたアルミニウムケイ酸塩を、酸の存在下で加熱処理することで、規則的な構造を有するアルミニウムケイ酸塩が形成される。アルミニウムケイ酸塩が規則的な構造を有することで、金属イオンに対する親和性が向上し、効率よく金属イオンを吸着できると考えることができる。
【0129】
(a)反応生成物を得る工程
反応生成物を得る工程では、ケイ酸イオンを含む溶液と、アルミニウムイオンを含む溶液とを混合して反応生成物であるアルミニウムケイ酸塩及び共存イオンを含む混合溶液を得る。
【0130】
(ケイ酸イオン及びアルミニウムイオン)
アルミニウムケイ酸塩を合成する際、原料には、ケイ酸イオン及びアルミニウムイオンが必要となる。ケイ酸イオンを含む溶液(以下、「ケイ酸溶液」ともいう)を構成するケイ酸源としては、溶媒和した際にケイ酸イオンが生じるものであれば特に制限されない。例えば、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、アルミニウムイオンを含む溶液(以下、「アルミニウム溶液」ともいう)を構成するアルミニウム源は、溶媒和した際にアルミニウムイオンが生じるものであれば特に制限されない。例えば、塩化アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミニウムsec−ブトキシド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0131】
溶媒としては、原料であるケイ酸源及びアルミニウム源と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができる。具体的には、水、エタノール等を使用することができる。加熱処理時における溶液中の共存イオンの低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましい。
【0132】
(混合比と溶液の濃度)
これらの原料をそれぞれ溶媒に溶解させて原料溶液(ケイ酸溶液及びアルミニウム溶液)を調製した後、原料溶液を互いに混合して混合溶液を得る。混合溶液中のSi及びAlの元素比Si/Alは、得られるアルミニウムケイ酸塩におけるSi及びAlの元素比Si/Alに合わせて、モル比で0.3〜1.0となるように調整し、好ましくは0.4〜0.6となるように調整し、より好ましくは0.45〜0.55となるように調整する。元素比Si/Alを0.3〜1.0とすることで、所望の規則的な構造を有するアルミニウムケイ酸塩が合成され易くなる。
【0133】
また、原料溶液の混合の際には、アルミニウム溶液に対してケイ酸溶液を徐々に加えることが好ましい。このようにすることで、所望のアルミニウムケイ酸塩の形成阻害要因となりうる、ケイ酸の重合を抑えることができる。
【0134】
ケイ酸溶液のケイ素原子濃度は、特に制限されるものではない。好ましくは1mmol/L〜1000mmol/Lである。
ケイ酸溶液のケイ素原子濃度が1mmol/L以上であると、生産性が向上し、効率よくアルミニウムケイ酸塩を製造することができる。またケイ酸溶液のケイ素原子濃度が1000mmol/L以下であると、ケイ酸溶液のケイ素原子濃度に応じて生産性がより向上する。
【0135】
アルミニウム溶液のアルミニウム原子濃度は、特に制限されるものではない。好ましくは100mmol/L〜1000mmol/Lである。
アルミニウム溶液のアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上であると、生産性が向上し、効率よくアルミニウムケイ酸塩を製造することができる。またアルミニウム溶液のアルミニウム原子濃度が1000mmol/L以下であると、アルミニウム溶液のアルミニウム原子濃度に応じて生産性がより向上する。
【0136】
(b)第一洗浄工程(脱塩及び固体分離)
ケイ酸イオンを含む溶液とアルミニウムイオンを含む溶液とを混合し、反応生成物として共存イオンを含むアルミニウムケイ酸塩を生成させた後、生成した共存イオンを含むアルミニウムケイ酸塩を脱塩及び固体分離する第一洗浄工程を行う。第一洗浄工程では、混合溶液中から共存イオンの少なくとも一部を除去して混合溶液中の共存イオン濃度を低下させる。第一洗浄工程を行うことで、合成工程において所望のアルミニウムケイ酸塩を形成し易くなる。
【0137】
第一洗浄工程で、脱塩及び固体分離する方法は、ケイ酸源及びアルミニウム源に由来するケイ酸イオン以外のアニオン(例えば塩化物イオン、硝酸イオン)及びアルミニウムイオン以外のカチオン(例えばナトリウムイオン)の少なくとも一部を除去(脱塩)して固体分離できればよく、特に制限されるものではない。第一洗浄工程としては例えば、遠心分離を用いる方法、透析膜を用いる方法、イオン交換樹脂を用いる方法等が挙げられる。
【0138】
第一洗浄工程は、共存イオンの濃度が所定の濃度以下になるように行うことが好ましい。具体的には例えば第一洗浄工程で得られる固体分離されたものを、濃度が60g/Lとなるように純水に分散させた場合に、その分散液の電気伝導率が4.0S/m以下となるように行なうことが好ましく、1.0mS/m以上3.0S/m以下となるように行なうことがより好ましく、1.0mS/m以上2.0S/m以下となるように行なうことがより好ましい。
分散液の電気伝導率が4.0S/m以下であると、合成工程において所望のアルミニウムケイ酸塩がより形成しやすくなる傾向がある。
尚、電気伝導率は、HORIBA社製:F−55及び同社の一般的な電気伝導率セル:9382−10Dを用いて、常温(25℃)で測定される。
【0139】
第一洗浄工程は、前記アルミニウムケイ酸塩を水性媒体に分散して分散物を得る工程と、前記分散物のpHを5〜7に調整する工程と、アルミニウムケイ酸塩を析出させる工程とを含むことが好ましい。
例えば第一洗浄工程を、遠心分離を用いて行なう場合、以下のようにして行うことができる。混合溶液にアルカリ等を加えてpHを5〜8に調整する。pHを調整した溶液を遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として固体分離する。固体分離されたものを溶媒に再分散させる。その際、遠心分離前の容積に戻すことが好ましい。再分散させた分散液を同様にして遠心分離して脱塩及び固体分離する操作を繰り返すことで、共存イオンの濃度を所定の濃度以下にすることができる。
【0140】
第一洗浄工程においてはpHを例えば5〜8に調整するが、5.5〜6.8であることが好ましく、5.8〜6.5であることがより好ましい。pH調整に用いるアルカリは特に制限されない。例えば水酸化ナトリウム、アンモニア等が好ましい。
【0141】
また遠心分離の条件は製造規模や使用する容器等に応じて適宜選択される。例えば、室温下、1200G以上で1〜30分間とすることができる。具体的には例えば、遠心分離装置としてTOMY社製:Suprema23、及び同社のスタンダードロータNA−16を用いる場合、室温下、3000rpm(1450G)以上で5〜10分間とすることができる。
【0142】
第一洗浄工程における溶媒としては、原料と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができ、具体的には、水、エタノール等を使用することができるが、加熱合成時における溶液中の共存イオンの低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましく、純水を用いることより好ましい。尚、繰り返し複数回の洗浄を行う際は、pH調整を省略することが好ましい。
【0143】
第一洗浄工程における脱塩及び固体分離の処理回数は、共存イオンの残存量に応じて適宜設定すればよい。例えば1〜6回とすることができる。3回程度の洗浄を繰り返すと、共存イオンの残存量が所望のアルミニウムケイ酸塩の合成に影響しない程度に少なくなる。
【0144】
pH調整する際のpH測定は、一般的なガラス電極を用いたpHメータによって測定できる。具体的には、例えば、株式会社堀場製作所製の商品名:MODEL(F−51)を使用することができる。
【0145】
(c)合成工程
合成工程では、第一洗浄工程で固体分離されたものを水性媒体中、酸の存在下で加熱処理を行う。
第一洗浄工程において共存イオンを低減させたアルミニウムケイ酸塩を含む溶液(分散液)を、酸の存在下に加熱処理することで、規則的な構造を有するアルミニウムケイ酸塩を形成することができる。
【0146】
合成工程は、第一洗浄工程で固体分離されたものを適宜希釈して希薄溶液として行なってもよく、また第一洗浄工程で固体分離されたものを高濃度溶液として行なってもよい。
合成工程を希薄溶液中で行なうことで、規則的な構造が管状に伸展した構造を有するアルミニウムケイ酸塩(以下、「第一のアルミニウムケイ酸塩」ともいう)を得ることができる。また合成工程を高濃度溶液中で行なうことで、規則的な構造に加えて粘度構造及び非晶質構造を有するアルミニウムケイ酸塩(以下、「第二のアルミニウムケイ酸塩」ともいう)を得ることができる。なお、第二のアルミニウムケイ酸塩は、長さ50nm以上の管状物に成長するのに代えて、粘度構造及び非晶質構造の形成が増大しているものと推測される。
第一及び第二のいずれのアルミニウムケイ酸塩も特定の規則的な構造を有することにより、優れた金属イオン吸着能を示す。
【0147】
合成工程において第一のアルミニウムケイ酸塩を得る場合の希釈条件としては、例えばケイ素原子濃度が20mmol/L以下且つアルミニウム原子濃度が60mmol/L以下とすることができる。中でも金属イオン吸着能の観点から、ケイ素原子濃度が0.1mmol/L以上10mmol/L以下且つアルミニウム原子濃度が0.1mmol/L以上34mmol/L以下であることが好ましく、ケイ素原子濃度が0.1mmol/L以上2mmol/L以下且つアルミニウム原子濃度が0.1mmol/L以上7mmol/L以下であることがより好ましい。
ケイ素原子濃度を20mmol/L以下且つアルミニウム原子濃度を60mmol/L以下とすることで、第一のアルミニウムケイ酸塩を効率よく製造することができる。
【0148】
また合成工程において第二のアルミニウムケイ酸塩を得る場合の高濃度条件としては、例えば、ケイ素原子濃度が100mmol/L以上且つアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上とすることができる。中でも金属イオン吸着能の観点から、ケイ素原子濃度が120mmol/L以上2000mmol/L以下且つアルミニウム原子濃度が120mmol/L以上2000mmol/L以下であることが好ましく、ケイ素原子濃度が150mmol/L以上1500mmol/L以下且つアルミニウム原子濃度が150mmol/L以上1500mmol/L以下であることがより好ましい。
ケイ素原子濃度を100mmol/L以上且つアルミニウム原子濃度を100mmol/L以上とすることで、第二のアルミニウムケイ酸塩を効率よく製造することができ、さらにアルミニウムケイ酸塩の生産性も向上する。
【0149】
尚、上記ケイ素原子濃度及びアルミニウム原子濃度は、後述する酸性化合物を加えてpHを所定の範囲に調整した後のケイ素原子濃度及びアルミニウム原子濃度である。
また、ケイ素原子濃度及びアルミニウム原子濃度は、ICP発光分光装置(例えば、日立製作所社製ICP発光分光装置:P−4010)を用いて測定される。
【0150】
ケイ素原子濃度及びアルミニウム原子濃度が所定の濃度となるように調整する際には、溶媒を加えてもよい。溶媒としては、原料と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができ、具体的には、水、エタノール等を使用することができるが、加熱処理時における溶液中の共存イオンの低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましい。
【0151】
合成工程においては、加熱処理の前に酸性化合物の少なくとも1種を加える。酸性化合物を加えた後のpHは特に制限されない。所望のアルミニウムケイ酸塩を効率よく得る観点から、pH3以上7未満であることが好ましく、pH3以上5以下であることがより好ましい。
【0152】
合成工程において加える酸性化合物は特に制限されるものではなく、有機酸であっても無機酸であってもよい。中でも無機酸を用いることが好ましい。無機酸として具体的には、塩酸、過塩素酸、硝酸等を挙げることができる。後に続く加熱処理時における溶液中の共存イオン種の低減を考慮すれば、使用したアルミニウム源に含まれるアニオンと同様のアニオンを生成する酸性化合物を用いることが好ましい。
【0153】
酸性化合物を加えた後、加熱処理を行うことで、所望の構造を有するアルミニウムケイ酸塩を得ることができる。
加熱温度は特に制限されない。所望のアルミニウムケイ酸塩を効率よく得る観点から、80℃〜160℃であることが好ましい。
加熱温度が160℃以下であると、ベーマイト(水酸化アルミニウム)が析出することを抑制することができる傾向がある。また加熱温度が80℃以上であると、所望のアルミニウムケイ酸塩の合成速度が向上し、より効率よく所望のアルミニウムケイ酸塩を製造できる傾向がある。
【0154】
加熱時間は特に制限されるものではない。所望の構造を有するアルミニウムケイ酸塩をより効率的に得る観点から、96時間(4日)以内であることが好ましい。
加熱時間が96時間以下であると、より効率的に所望のアルミニウムケイ酸塩を製造することができる。
【0155】
(d)第二洗浄工程(脱塩及び固体分離)
合成工程において加熱処理して得られたものは、第二洗浄工程において脱塩及び固体分離される。これにより優れた金属イオン吸着能を有する金属イオン吸着剤を得ることができる。これは例えば以下のように考えることができる。すなわち合成工程において加熱処理して得られたものは、アルミニウムケイ酸塩の吸着サイトが共存イオンで塞がれている場合があり、期待する程の金属イオン吸着能は得られない場合がある。そのため、合成工程で得られたアルミニウムケイ酸塩から共存イオンの少なくとも一部を除去する第二洗浄工程によって、脱塩及び固体分離することで優れた金属イオン吸着能を有する金属イオン吸着剤を得ることができると考えることができる。
【0156】
第二洗浄工程は、ケイ酸イオン以外のアニオン及びアルミニウムイオン以外のカチオンの少なくとも一部を除去できればよく、合成工程前の第一洗浄工程と同様の操作であっても、異なる操作であってもよい。
第二洗浄工程は、共存イオンの濃度が所定の濃度以下になるように行うことが好ましい。具体的には例えば第二洗浄工程で得られる固体分離されたものを、濃度が60g/Lとなるように純水に分散させた場合に、その分散液の電気伝導率が4.0S/m以下となるように行なうことが好ましく、1.0mS/m以上3.0S/m以下となるように行なうことがより好ましく、1.0mS/m以上2.0S/m以下となるように行なうことがより好ましい。
分散液の電気伝導率が4.0S/m以下であると、より優れた金属イオン吸着能を有するアルミニウムケイ酸塩を得られやすくなる傾向がある。
【0157】
第二洗浄工程を、遠心分離を用いて行なう場合、例えば以下のようにして行うことができる。混合溶液にアルカリ等を加えてpHを5〜10に調整する。pHを調整した溶液を遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として固体分離する。次いで固体分離されたものを溶媒に再分散させる。その際、遠心分離前の容積に戻すことが好ましい。再分散させた分散液を同様にして遠心分離して脱塩及び固体分離する操作を繰り返すことで、共存イオンの濃度を所定の濃度以下にすることができる。
【0158】
第二洗浄工程においてはpHを例えば5〜10に調整するが、8〜10であることが好ましい。pH調整に用いるアルカリは特に制限されない。例えば水酸化ナトリウム、アンモニア等が好ましい。
【0159】
また遠心分離の条件は製造規模や使用する容器等に応じて適宜選択される。例えば、室温下、1200G以上で1〜30分間とすることができる。具体的には例えば、遠心分離装置としてTOMY社製:Suprema23、及び同社のスタンダードロータNA−16を用いる場合、室温下、3000rpm(1450G)以上で5〜10分間とすることができる。
【0160】
第二洗浄工程における溶媒としては、原料と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができ、具体的には、水、エタノール等を使用することができるが、共存イオンの低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましく、純水を用いることより好ましい。尚、繰り返し複数回の洗浄を行う際は、pH調整を省略することが好ましい。
【0161】
第二洗浄工程における脱塩及び固体分離の処理回数は、共存イオンの残存量によって設定すればよいが、1〜6回が好ましく、3回程度の洗浄を繰り返すと、金属イオン吸着剤における共存イオンの残存量が充分に低減される。
【0162】
第二洗浄工程後の分散液については、残存する共存イオンの中でも、特に金属イオン吸着剤の吸着能に影響を与える塩化物イオン及びナトリウムイオンの濃度が低減されていることが好ましい。すなわち、第二洗浄工程における洗浄後の金属イオン吸着剤は、当該金属イオン吸着剤を水に分散させて濃度400mg/Lの水分散液を調製したとき、当該水分散液において塩化物イオン濃度100mg/L以下及びナトリウムイオン濃度100mg/L以下を与えることが好ましい。塩化物イオン濃度100mg/L以下且つナトリウムイオン濃度100mg/L以下であると、吸着能を更に向上させることができる。塩化物イオン濃度は、50mg/L以下がより好ましく、10mg/L以下が更に好ましい。ナトリウムイオン濃度は、50mg/L以下がより好ましく、10mg/L以下が更に好ましい。塩化物イオン濃度及びナトリウムイオン濃度は、洗浄工程の処理回数やpH調整に使用するアルカリの種類により調整することができる。
尚、塩化物イオン濃度及びナトリウムイオン濃度は、イオンクロマトグラフィー(例えば、ダイオネクス社製DX−320及びDX−100)により通常の条件で測定される。
また、アルミニウムケイ酸塩の分散物の濃度は、固体分離されたものを110℃、24時間乾燥して得られる固体の質量を基準とする。
【0163】
尚、ここで述べる「第二洗浄工程後の分散液」とは、第二洗浄工程を終了した後に、第二洗浄工程を行う前の容積に、溶媒を用いて容積を戻した分散液を意味する。用いる溶媒は、原料と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができ、具体的には、水、エタノール等を使用することができるが、金属イオン吸着剤における共存イオンの残存量の低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましい。
【0164】
本発明に係るアルミニウムケイ酸塩のBET比表面積は、第二洗浄工程の処理方法(例えば、合成溶液にアルカリを加えてpHを5〜10に調整し、遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として残ったアルミニウムケイ酸塩を溶媒に再分散させ、遠心分離前の容積に戻す処理を一度もしくは複数回繰り返す方法)により調整することができる。
【0165】
またアルミニウムケイ酸塩の全細孔容積は、第二洗浄工程の処理方法(例えば、合成溶液にアルカリを加えてpHを5〜10に調整し、遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として残ったアルミニウムケイ酸塩を溶媒に再分散させ、遠心分離前の容積に戻す処理を一度もしくは複数回繰り返す方法)により調整することができる。
【0166】
またアルミニウムケイ酸塩の平均細孔直径は、第二洗浄工程の処理方法(例えば、合成溶液にアルカリを加えてpHを5〜10に調整し、遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として残ったアルミニウムケイ酸塩を溶媒に再分散させ、遠心分離前の容積に戻す処理を一度もしくは複数回繰り返す方法)により調整することができる。
【0167】
<金属イオン吸着剤>
第二実施形態に係る金属イオン吸着剤は、前記アルミニウムケイ酸塩から構成されるものであり、金属イオンに対する吸着剤として有用である。より具体的には、通液性を有するハニカム形状基材又は多孔質基材に金属イオン吸着剤をコーティングしてフィルタとして使用すること、粒状又は球状基材の表面に金属イオン吸着剤をコーティングしてこの基材を容器中に充填して使用すること、金属イオン吸着剤そのものを使用すること等によって用いることができる。尚、前述した基材は、特に限定されるものではなく、金属、セラミック、合成樹脂硬化物、木材等の天然素材等を用いることができる。
【0168】
金属イオンの具体例としては、ニッケルイオン、銅イオン、マンガンイオンなどを効果的に吸着する。
【実施例】
【0169】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0170】
[製造例1]
<アルミニウムケイ酸塩の作製>
濃度:700mmol/Lの塩化アルミニウム水溶液(500mL)に、濃度:350mmol/Lのオルトケイ酸ナトリウム水溶液(500mL)を加え、30分間攪拌した。この溶液に、濃度:1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を330mL加え、pH=6.1に調整した。
【0171】
pH調整した溶液を30分間攪拌後、遠心分離装置としてTOMY社製:Suprema23及びスタンダードロータNA−16を用い、回転速度:3,000回転/分で、5分間の遠心分離を行った。遠心分離後、上澄み溶液を排出し、ゲル状沈殿物を純水に再分散させ、遠心分離前の容積に戻した。このような遠心分離による脱塩処理を3回行った。
脱塩処理3回目の上澄み排出後に得たゲル状沈殿物を、濃度が60g/Lとなるように純水に分散し、HORIBA社製:F−55及び電気伝導率セル:9382−10Dを用いて、常温(25℃)で、電気伝導率を測定したところ、1.3S/mであった。
【0172】
脱塩処理3回目の上澄み排出後に得たゲル状沈殿物に、濃度:1mol/Lの塩酸を135mL加えてpH=3.5に調整し、30分間攪拌した。このときの溶液中のケイ素原子濃度及びアルミニウム原子濃度を、ICP発光分光装置:P−4010(日立製作所社製)を用いて、常法により測定したところ、ケイ素原子濃度は213mmol/L、アルミニウム原子濃度は426mmol/Lであった。
次に、この溶液を乾燥器に入れ、98℃で48時間(2日間)加熱した。
【0173】
加熱後溶液(アルミニウムケイ酸塩濃度47g/L)に、濃度:1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を188mL添加し、pH=9.1に調整した。pH調整により溶液中のアルミニウムケイ酸塩を凝集させ、上記同様の遠心分離でこの凝集体を沈殿させることで、上澄み液を排出した。これに純水を添加して遠心分離前の容積に戻すという脱塩処理を3回行った。
脱塩処理3回目の上澄み排出後に得たゲル状沈殿物を、濃度が60g/Lとなるように純水に分散し、HORIBA社製:F−55及び電気伝導率セル:9382−10Dを用いて、常温(25℃)で電気伝導率を測定したところ、0.6S/mであった。
【0174】
脱塩処理3回目の上澄み排出後に得たゲル状沈殿物を、60℃で16時間乾燥して30gの粉末を得た。この粉末を試料Aとした。
【0175】
<BET比表面積、全細孔容積、平均細孔直径>
試料AのBET比表面積、全細孔容積、及び平均細孔直径を、窒素吸着能から測定した。評価装置には、QUANTACHROME社製:AUTOSORB−1(商品名)を用いた。これらの測定を行う際には、後述する試料の前処理を行った後、評価温度を77Kとし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満としている。
【0176】
前処理として、0.05gの試料Aを投入した測定用セルに、真空ポンプで脱気及び加熱を自動制御で行った。この処理の詳細条件は、10Pa以下に減圧した後、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却するという設定とした。
【0177】
評価の結果、試料AのBET比表面積は363m
2/g、全細孔容積は0.22cm
3/g、そして平均細孔直径は2.4nmであった。
【0178】
<粉末X線回折>
粉末X線回折は、リガク社製:Geigerflex RAD−2X(商品名)を用い、X線源としてCuKα線を用いて行なった。
図1に、試料Aの粉末X線回折のスペクトルを示す。2θ=26.9°近辺、そして40.3°近辺にブロードなピークが観測された。また2θ=18.8°、20.3°、27.8°、40.6°、そして53.3°近辺にシャープなピークが観測された。
【0179】
<
27Al−NMR>
27Al−NMRスペクトルの測定装置として、ブルカー・バイオスピン製AV400WB型を用い、下記条件で測定を行った。
共鳴周波数:104MHz
測定方法:MAS(シングルパルス)
MAS回転数:10kHz
測定領域:52kHz
データポイント数:4096
resolution(測定領域/データポイント数):12.7Hz
パルス幅:3.0μsec
遅延時間:2秒
化学シフト値基準:α−アルミナを3.94ppm
window関数:指数関数
Line Broadening係数:10Hz
【0180】
図2に試料Aの
27Al−NMRのスペクトルを示す。
図2に示されるように、3ppm近辺にピークを有した。また55ppm近辺に若干のピークが見られた。3ppm近辺のピークに対する、55ppm付近のピークの面積比率は、15%であった。
【0181】
<
29Si−NMR>
29Si−NMRスペクトル測定装置としては、ブルカー・バイオスピン製AV400WB型を用い、下記条件で測定を行った。
共鳴周波数:79.5MHz
測定方法:MAS(シングルパルス)
MAS回転数:6kHz
測定領域:24kHz
データポイント数:2048
resolution(測定領域/データポイント数):5.8Hz
パルス幅:4.7μsec
遅延時間:600秒
化学シフト値基準:TMSP−d
4(3−(トリメチルシリル)(2,2,3,3−
2H
4)プロピオン酸ナトリウム)を1.52ppm
window関数:指数関数
Line Broadening係数:50Hz
【0182】
図3に試料Aの29Si−NMRのスペクトルを示す。
図3に示されるように、−78ppm近辺及び−85ppm近辺にピークを有した。−78ppm及び−85ppm近辺のピークの面積を上記方法により測定した。その結果、−78ppmのピークAの面積を1.00としたとき、−85ppmのピークBの面積は2.61であった。
【0183】
<元素比Si/Al>
常法のICP発光分光分析(ICP発光分光装置:P−4010(日立製作所社製))から求めたSi及びAlの元素比Si/Alは、0.5であった。
【0184】
<透過型電子顕微鏡(TEM)写真観察>
図4に、試料Aを100,000倍で観察したときの透過型電子顕微鏡(TEM)写真を示す。尚、TEM観察は、透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、H−7100FA型)を用いて、100kVの加速電圧で行なった。また、TEM観察対象の試料Aは以下のようにして調製した。すなわち、最終の脱塩処理工程前の、加熱後溶液(アルミニウムケイ酸塩濃度47g/L)を純水で10倍に希釈し、超音波照射処理を5分間行ったものをTEM観察試料調整用の支持体上に滴下し、次いで自然乾燥して薄膜とすることで調製した。
図4に示されるように、長さ50nm以上の管状物が存在していない。
【0185】
<金属イオン吸着能>
金属イオン吸着能評価はICP発光分光分析(ICP発光分光装置:P−4010(日立製作所社製))によって行った。
金属イオン吸着能の評価に当たり、まず、Ni
2+又はMn
2+について、各々の金属硫酸塩及び純水を用いて100ppmの金属イオン溶液を調製した。その調製溶液に対し試料Aが1.0質量%となるように添加し、十分混合した後、静置した。そして、試料A添加前後の各々の金属イオン濃度をICP発光分光分析にて測定した。
【0186】
金属イオン吸着能について、試料A添加後の濃度はNi
2+が5ppm未満、Mn
2+が10ppmとなった。
【0187】
[比較例1]
市販品の活性炭(和光純薬工業社製、活性炭素、破砕状、2mm〜5mm)を試料Bとした。金属イオン吸着能について、試料B添加後の濃度はNi
2+が50ppm、Mn
2+が60ppmとなった。
【0188】
[比較例2]
市販品のシリカゲル(和光純薬工業社製、小粒状(白色))を試料Cとした。金属イオン吸着能について、試料C添加後の濃度はNi
2+が100ppm、Mn
2+が100ppmとなった。
【0189】
[比較例3]
市販品のゼオライト4A(和光純薬工業社製、モレキュラシーブス4A)を試料Dとした。金属イオン吸着能について、試料D添加後の濃度はNi
2+が30ppm、Mn
2+が10ppmとなった。
なお、ゼオライト4Aを添加したMn
2+溶液は静置すると茶色く濁った。
【0190】
【表1】
【0191】
[製造例2]
<アルミニウムケイ酸塩の作製>
濃度:180mmol/Lの塩化アルミニウム水溶液(500mL)に、濃度:74mmol/Lのオルトケイ酸ナトリウム水溶液(500mL)を加え、30分間攪拌した。この溶液に、濃度:1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を93mL加え、pH=7.0に調整した。
【0192】
pH調整した溶液を30分間攪拌後、遠心分離装置としてTOMY社製:Suprema23及びスタンダードロータNA−16を用い、回転速度:3,000回転/分で、5分間の遠心分離を行った。遠心分離後、上澄み溶液を排出し、ゲル状沈殿物を純水に再分散させ、遠心分離前の容積に戻した。このような遠心分離による脱塩処理を3回行った。
【0193】
脱塩処理3回目の上澄み排出後に得たゲル状沈殿物を、濃度が60g/Lとなるように調整し、HORIBA社製:F−55及び電気伝導率セル:9382−10Dを用いて、常温(25℃)で、電気伝導率を測定したところ、1.3S/mであった。
【0194】
脱塩処理3回目の上澄み排出後に得たゲル状沈殿物に純水を加え、容積を12Lとした。その溶液に濃度:1mol/Lの塩酸を60mL加えてpH=4.0に調整し、30分間攪拌した。このときの溶液中のケイ素原子濃度及びアルミニウム原子濃度をICP発光分光装置:P−4010(日立製作所社製)を用いて測定したところ、ケイ素原子濃度は2mmol/Lであり、アルミニウム原子濃度は4mmol/Lであった。
次に、この溶液を乾燥器に入れ、98℃で96時間(4日間)加熱した。
【0195】
加熱後溶液(アルミニウムケイ酸塩濃度0.4g/L)に、濃度:1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を60mL添加し、pH=9.0に調整した。pH調整により溶液を凝集させ、遠心分離でこの凝集体を沈殿させ、第一洗浄工程と同様の遠心分離でこの凝集体を沈殿させることで、上澄み液を排出した。これに純水を添加して遠心分離前の容積に戻すという脱塩処理を3回行った。
【0196】
脱塩処理3回目の上澄み排出後に得たゲル状沈殿物を、濃度が60g/Lとなるように調整し、HORIBA社製:F−55及び電気伝導率セル:9382−10Dを用いて、常温(25℃)で電気伝導率を測定したところ、0.6S/mであった。
【0197】
脱塩処理後に得たゲル状沈殿物を、60℃で72時間(3日間)乾燥して4.8gの粉末を得た。この粉末を試料Eとした。
【0198】
<BET比表面積、全細孔容積、平均細孔直径>
製造例1と同様の方法で、BET比表面積、全細孔容積、及び平均細孔直径を、窒素吸着能から測定した。
評価の結果、試料EのBET比表面積は323m
2/g、全細孔容積は0.22cm
3/g、そして平均細孔直径は2.7nmとなった。
【0199】
<粉末X線回折>
製造例1と同様の方法で、試料Eの粉末X線回折を行った。
図1に、試料Eの粉末X線回折のスペクトルを示す。2θ=4.8°、9.7°、14.0°、18.3°、27.3°、そして40.8°近辺にブロードなピークを有していた。
【0200】
<
27Al−NMR>
図2に試料Eの
27Al−NMRのスペクトルを示す。
図2に示すように、3ppm近辺にピークを有した。また55ppm近辺に若干のピークが見られた。3ppm近辺のピークに対する、55ppm近辺のピークの面積比率は、4%であった。
【0201】
<
29Si−NMR>
図3に試料Eの
29Si−NMRのスペクトルを示す。
図3に示されるように、−78ppm及び−85ppm近辺にピークを有した。−78ppm及び−85ppm近辺のピークの面積を上記方法により測定した。その結果、−78ppm近辺のピークAの面積を1.00としたとき、−85ppm近辺のピークBの面積は0.44であった。
【0202】
<元素比Si/Al>
常法のICP発光分光分析(ICP発光分光装置:P−4010(日立製作所社製))から求めたSi及びAlの元素比Si/Alは、0.5であった。
【0203】
<透過型電子顕微鏡(TEM)写真観察>
図5に、試料Eを実施例1と同様の方法により100,000倍で観察したときの透過型電子顕微鏡(TEM)写真を示す。
図5に示されるように管状物が生成しており、管状体10aの管部長さ方向の長さは、1nm〜10μm程度であり、外径は1.5〜3.0nm程度であり、内径は0.7〜1.4nm程度であった。
【0204】
<金属イオン吸着能>
製造例1と同様の方法で、Mn
2+イオン吸着能を評価したところ、試料Eは試料Aと同様の金属イオン吸着能を示した。
【0205】
[金属イオン吸着能評価1]
製造例1で作製した試料Aを用い、試料Aの添加量を下記表に示すように変更した以外は製造例1で説明した方法で金属イオン吸着能を評価した。その結果を下表に示す。
【0206】
【表2】
【0207】
上表に示されるように、試料Aを0.5質量%添加すると、マンガンイオン濃度が半減した。そして、試料Aを2.0質量%添加したときには、マンガンイオンが95%捕捉された。
【0208】
[金属イオン吸着能評価2]
製造例1で作製した試料Aを用い、金属イオン種をCu
2+に、また金属イオン調整濃度を400ppmに代えた以外は製造例1で説明した方法で金属イオン吸着能を評価した。このときのpHは5.1であった。試料A添加後の濃度はCu
2+が160ppmとなった。
【0209】
日本国特許出願2011−054787号、日本国特許出願2011−054788号、日本国特許出願2011−054857号、日本国特許出願2011−054858号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。