特許第5958577号(P5958577)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958577
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】メタクリル系樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 265/06 20060101AFI20160719BHJP
   C08F 2/01 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   C08F265/06
   C08F2/01
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-38925(P2015-38925)
(22)【出願日】2015年2月27日
(62)【分割の表示】特願2009-188017(P2009-188017)の分割
【原出願日】2009年8月14日
(65)【公開番号】特開2015-98610(P2015-98610A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2015年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】永渕 慶秀
(72)【発明者】
【氏名】好村 壽晃
(72)【発明者】
【氏名】面手 昌樹
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5716266(JP,B2)
【文献】 特開2000−026507(JP,A)
【文献】 特開昭49−037993(JP,A)
【文献】 特開昭54−090284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00−2/01
C08F2/38
C08F2/44
C08F265/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
完全混合型反応器とそれに引き続き直列に連結されたプラグフロー型反応器を用いて、塊状重合または5質量%未満の溶媒を含む重合によりメタクリル系樹脂を製造する方法であって、
メチルメタクリレートを70質量%以上含む単量体混合物を、前記完全混合型反応器で重合率(R1)が40%〜65%となるまで重合し、重量平均分子量が5万以上の重合体(P1)を得る工程と、
前記完全混合型反応器から前記重合体(P1)を含む樹脂組成物を抜き出し、前記単量体混合物100質量部に対し0.1〜2.0質量部の連鎖移動剤及び0.0005〜0.01質量部の重合開始剤を供給した後、前記プラグフロー型反応器で、プラグフロー型反応器出口での重合率(R2)が0.65<R1/R2<0.9となるまで重合する工程と、
得られた樹脂組成物から揮発分を除去する工程と、
を有する、JIS規格K6911に準拠し、厚さ4mmとしたときの曲げ破断強度が75MPa以上であり、MFRが15以上であるメタクリル系樹脂を製造する方法。
【請求項2】
MFRが20以上である、請求項1に記載のメタクリル系樹脂を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル系樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メタクリル系樹脂は、その優れた透明性、耐候性、耐熱性、機械強度から、種々な分野で用いられている。最近では、メタクリル系樹脂を任意の形状に成型したものが、導光板をはじめ、各種映像系レンズ、光学レンズなどの光学部品として広く使用されている。
【0003】
近年、光学部品の大型化により射出成型や押出し成型による生産が増えているが、その生産性を上げるため、加熱溶融した樹脂の固化までの冷却時間を短縮し成型サイクルを短くするために、低温で成型できるように樹脂の流動性の向上が求められている。
【0004】
しかし、流動性を向上させるために樹脂の低分子量化を行うと、耐熱性、機械強度が低下する問題があった。
【0005】
このため、高分子量の重合体に低分子量の重合体を混合し、高分子量の重合体で耐熱性、機械強度を維持しつつ低分子量の重合体で流動性を付与する方法が知られている。例えば、特許文献1には、懸濁重合で低分子量の重合体Bを重合した後に、高分子量の重合体Aの原料となる単量体を追加し重合体Aを懸濁重合し、重合体Aと重合体Bを含むメタクリル系樹脂を製造するする方法が記載されている。
【0006】
また、懸濁重合で用いられる分散剤等に起因する異物による透明性の低下を防ぎ、光学用途として透明性に優れたメタクリル系樹脂を製造する方法として、例えば特許文献2、特許文献3には完全混合型反応器とプラグフロー型反応器を直列につないだ重合装置を用い、連続的に重合を行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−291230号公報
【特許文献2】特開平8−253507号公報
【特許文献3】特開2000−26507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1記載の方法では、懸濁重合で用いられる分散剤等に起因する異物のために透明性が不十分になりやすく、生産性も十分ではなかった。
【0009】
また特許文献2記載の方法は、耐熱分解性を向上するために開始剤濃度、連鎖移動剤濃度等を規定し、分子量の均一な樹脂を製造するものであり、流動性が改善されたものではない。
【0010】
特許文献3に記載の方法は、開始剤種類、連鎖移動剤濃度等を規定し、塊状重合において重合率が高くなった場合のゲル効果による生産性の低下を防ぐものであり、流動性が改善されたものではない。
【0011】
本発明の目的は、耐熱性、機械強度に優れ、流動性の高いメタクリル系樹脂を効率よく製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のメタクリル系樹脂を製造する方法は、完全混合型反応器とそれに引き続き直列に連結されたプラグフロー型反応器を用いて、塊状重合または5質量%未満の溶媒を含む重合により、JIS規格K6911に準拠し、厚さ4mmとしたときの曲げ破断強度が75MPa以上であり、MFRが15以上のメタクリル系樹脂を製造する方法であって、
メチルメタクリレートを70質量%以上含む単量体混合物を、前記完全混合型反応器で重合率(R1)が40%〜65%となるまで重合し、重量平均分子量が5万以上の重合体(P1)を得る工程と、
前記完全混合型反応器から前記重合体(P1)を含む樹脂組成物を抜き出し、全単量体100質量部に対し0.1〜2.0質量部の連鎖移動剤及び0.0005〜0.01質量部の重合開始剤を供給した後、前記プラグフロー型反応器で、プラグフロー型反応器出口での重合率(R2)が0.65<R1/R2<0.9となるまで重合する工程と、
得られた樹脂組成物から揮発分を除去する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るメタクリル系樹脂の製造方法により、耐熱性、機械強度に優れ、流動性の高いメタクリル系樹脂を高い生産性で提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明はメチルメタクリレートを含む単量体混合物を、完全混合型反応器で重合を行い重合体P1を含む樹脂組成物を得る工程と、該樹脂組成物に連鎖移動剤と重合開始剤を供給しプラグフロー型反応器で重合を行う工程と、得られた樹脂組成物から揮発分を除去する工程とを有する。
【0015】
[完全混合型反応器での重合]
本発明では、メチルメタクリレートを70質量%以上含む単量体混合物を、完全混合型反応器で重合率(R1)が40%〜65%まで重合し、重量平均分子量が5万〜10万の重合体(P1)を得る。
【0016】
単量体混合物中には、メタクリル系樹脂の透明性、耐候性の点から、全単量体量に対し70質量%以上のメチルメタクリレート含むことが必要である。
【0017】
また、単量体混合物中のメチルメタクリレート以外の単量体としては、例えば、アルキルアクリレートとして、炭素数1〜18のアルキル基を有するもので、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、2−エチルヘキシル、ドデシル、ステアリル等のアルキル基を有するアルキルアクリレートが挙げられる。
【0018】
また、アルキルメタクリレートとして、炭素数2〜18のアルキル基を有するものであり、例えば、エチル、n−プロピル、n−ブチル、2−エチルヘキシル、ドデシル、ステアリル等のアルキル基を有するアルキルメタクリレートが挙げられる。これらは1種を用いても2種以上を併用してもよい。
【0019】
また本発明では、完全混合型反応器で重合率(R1)が40%〜65%まで重合を行う。R1が40%未満では、プラグフロー型反応器での開始剤使用量が多くなり、機械強度が低下し、65%を超えると混合及び伝熱が不十分となり重合安定性が低下する。
【0020】
さらに本発明では、完全混合型反応器で得られる重合体の重量平均分子量が5万以上であることが必要である。重量平均分子量が5万未満では、メタクリル系樹脂の機械的強度が低下する。重量平均分子量の好ましい範囲は6万〜8万である。
【0021】
なお、重合率(R1)、重量平均分子量は、完全混合型反応器から抜き出した樹脂組成物を後述する方法で測定した。
【0022】
完全混合型反応器での重合は公知の連鎖移動剤、重合開始剤等を用い、公知の重合条件で行えばよい。
【0023】
前記連鎖移動剤としては、メルカプタン化合物を使用することができる。メルカプタン化合物としては、n−ブチル、イソブチル、n−オクチル、n−ドデシル、sec−ブチル、sec−ドデシル、tert−ブチルメルカプタン等のアルキル基又は置換アルキル基を有する第1級、第2級、第3級メルカプタン;フェニルメルカプタン、チオクレゾール、4−tert−ブチル−o−チオクレゾール等の芳香族メルカプタン;チオグリコール酸とそのエステル;エチレンチオグリコール等の炭素数2〜18のメルカプタンが挙げられる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。これらのメルカプタンの中でも、tert−ブチル、n−ブチル、n−オクチル、n−ドデシルメルカプタンが好ましい。
【0024】
前記連鎖移動剤の使用量は、目標とする重量平均分子量を達成するために、全単量体量に対し0.01質量%〜2質量%が好ましい。0.01質量%より少ない場合は、完全混合型反応器での重合が不安定になる場合がある。また、2質量%より多いと、重合体(P1)の重量平均分子量が5万未満となりやすい。
【0025】
また、前記重合開始剤としては、一般的なラジカル重合開始剤を用いることができ、特に制限されないが、例えばtert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサネート、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert−ブチルパーオキシアセテート、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、tert−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサネート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサネート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ジ−tert−ヘキシルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン等の有機過酸化物、又は2−(カルバモイルアゾ)−イソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、2、2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2、2’−アゾビス(2−メチルプロパン)等のアゾ化合物等から重合温度を考慮して適宜選択することができる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
重合開始剤の使用量は、目標とする重量平均分子量を達成するために、全単量体量に対し0.001質量%〜1質量%が好ましい。0.001質量%より少ないと、目標とする重合率が得られない場合がある。また、1質量%より多いと、原料コストが高くなる場合がある。
【0027】
重合温度は、110〜170℃が好ましい。重合温度が110℃より低いとゲル効果による重合速度の加速現象が大きくなるため、重合率が低い条件でしか安定に運転することができず、生産性が低下して経済的に不利である。より好ましくは120℃以上である。一方、重合温度が170℃より高いと、重合反応は安定となり重合率を高くすることができるが、重合体の透明性の低下、機械的強度の低下、熱変形温度の低下、耐熱分解性が低下するために好ましくない。より好ましくは150℃以下である。
【0028】
本発明の完全混合型反応器での重合は、溶媒を使用しない塊状重合が好ましいが、5質量%未満の溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、メタノール、エタノール、トルエン、キシレン、アセトン、メチルイソブチルケトン、エチルベンゼン、メチルエチルケトン、酢酸ブチルなど公知の溶媒を使用することができる。この中でも、メタノール、トルエン、エチルベンゼン、酢酸ブチル等が好ましい。
【0029】
[プラグフロー型反応器での重合]
次に、前記完全混合型反応器から前記重合体(P1)を含む樹脂組成物を抜き出し、該樹脂組成物に連鎖移動剤及び重合開始剤を供給した後、プラグフロー型反応器で重合を行う。
【0030】
連鎖移動剤としては、完全混合型反応器における重合と同様のメルカプタン化合物を使用することができ、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。連鎖移動剤の量は、全単量体100質量部に対し0.1〜2.0質量部必要である。0.1質量部未満では、得られる重合体の分子量の低下が不十分で流動性が不十分となり、2.0質量部を超えると得られる重合体の分子量低くなり過ぎ機械強度が低下する。
【0031】
また重合開始剤も完全混合型反応器における重合と同様のラジカル重合開始剤を使用することができ、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。重合開始剤の量は、全単量体100質量部に対し0.0005〜0.01質量部必要である。0.0005質量部未満では、流動性が不十分となり、0.01質量部を超えると機械強度が不十分となる。なお、重合開始剤を2種類以上用いる場合は、その合計量が規定の範囲にあればよい。
【0032】
さらに本発明では、プラグフロー型反応器出口での重合率(R2)が0.65<R1/R2<0.9となることが必要である。R1/R2が0.65以下の場合、得られる樹脂組成物中の分子量の高い重合体の割合が低いため、機械強度が不十分となる。また、R1/R2が0.9以上の場合、得られる樹脂組成物中の分子量の低い重合体の割合が低いため、流動性が不十分となる。
【0033】
また、プラグフロー型反応器の出口温度は、170℃〜200℃が好ましい。反応物である樹脂組成物の粘度が大きくなると、プラグフロー型反応器や配管での圧力損失が大きくなるため装置の耐圧性を高める必要がある。そこで、出口温度を170℃以上として、粘度を下げることが好ましい。これにより、本発明では、高い生産性でメタクリル系樹脂を製造することが可能となる。また、メチルメタクリレートの重合では、高温になるほど解重合が進行するため、到達重合率が低くなることが知られている。そこで、到達重合率を高くするため本発明においては出口温度を200℃以下とすることが好ましい。
【0034】
プラグフロー型反応器としては特に制限はないが、スタティックミキサを内装した管型反応器が好ましい。プラグフロー型反応器は、装置の耐圧性の観点から、圧力損失はできる限り小さいことが好ましい。プラグフロー型反応器がスタティックミキサを含む場合には、圧力損失の小さいスタティックミキサを用いることが好ましい。圧力損失を小さくする手段としては、スタティックミキサの長さ(L)をスタティックミキサの直径(D)で除した値L/Dを小さくする方法等がある。しかし、プラグフロー型反応器に供給する重合開始剤、連鎖移動剤を速やかに樹脂組成物に混合するためには、プラグフロー型反応器は、混合速度を高めるために、線速度を上げる、すなわちL/Dを大きくすることが好ましい。
【0035】
このため、完全混合型反応器から抜き出した樹脂組成物に、連鎖移動剤及び重合開始剤を直径の小さなスタティックミキサ内で速やかに混合した後に、直径の大きなプラグフロー型反応器を用いることが好ましい。
【0036】
すなわち、完全混合型反応器に連結されるプラグフロー型反応器が、直径Dmのスタティックミキサと直径Drのプラグフロー型反応器からなり、Dm<Drであって、前記完全混合型反応器と、直径Dmのスタティックミキサ、直径Drのプラグフロー型反応器、の順序で直列に連結されており、前記直径Dmのスタティックミキサにおいて、完全混合型反応器から抜き出された樹脂組成物に連鎖移動剤及び重合開始剤を供給し混合した後、前記直径Drのプラグフロー型反応器において重合を行うことが圧力損失を小さくする上で好ましい。
【0037】
連鎖移動剤及び重合開始剤の混合のためのスタティックミキサは、混合速度が充分速い場合は、併用でも構わないが、連鎖移動剤混合用スタティックミキサと、重合開始剤混合用スタティックミキサの2つを用いることが好ましい。具体的には、完全混合型反応器に連鎖移動剤混合用スタティックミキサ及び重合開始剤混合用スタティックミキサを連結し、さらに連鎖移動剤混合用スタティックミキサ及び重合開始剤混合用スタティックミキサより直径の大きいプラグフロー型反応器を連結することが好ましい。なお、連鎖移動剤混合用スタティックミキサと重合開始剤混合用スタティックミキサは同一のものを用いることができる。
【0038】
前記反応器を用いる場合には、まず、連鎖移動剤混合用スタティックミキサにおいて完全混合型反応器から抜き出した樹脂組成物に連鎖移動剤を供給後、引き続き、重合開始剤を重合開始剤混合用スタティックミキサに供給し、連鎖移動剤混合用スタティックミキサ及び重合開始剤混合用スタティックミキサより直径の大きなプラグフロー型反応器で重合させる。これにより、連鎖移動剤を効率よく用いることができると共に、連鎖移動剤と重合開始剤のレドックス反応による消費も抑制することが可能となる。
【0039】
連鎖移動剤混合用スタティックミキサ及び重合開始剤混合用スタティックミキサのL/Dは、3〜36であることが好ましい。L/Dが3より小さいと、圧力損失は小さいが混合が不十分となる場合がある。また、L/Dが36より大きいと、混合は充分であるが圧力損失が大きくなる場合がある。
【0040】
[揮発分の除去]
本発明では、プラグフロー型反応器から抜き出された樹脂組成物を揮発物除去工程に送り、未反応モノマーを主成分とする揮発物を除去し、メタクリル系樹脂を得る。
【0041】
揮発分を序供する方法としては、連続的に送られてくる所定の重合率を有する反応混合物を、減圧下で200〜290℃に加熱してモノマーを主体とする揮発物の大部分を連続的に分離除去することが好ましい。具体的には、脱揮押出機を挙げることができる。
【実施例】
【0042】
実施例の重合体の物性評価は以下の方法で行った。
【0043】
(重量平均分子量)
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)にて測定した。GPC法の測定は、メタクリル系樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた後、液体クロマトグラフィー「HLC−8020」(商品名、東ソー(株)製)を用い、分離カラムは「TSK−Gel GMHXL」(商品名、東ソー(株)製)2本直列、溶媒はTHF、流量1.0ml/min、検出器は示差屈折計、測定温度40℃、注入量0.1ml、標準ポリマーとしてポリメタクリル酸メチルを使用して実施した。
【0044】
(重合率)
重合率は、230℃、−20KPaで揮発分を除去した樹脂組成物の質量(質量A)と、供給する単量体混合物の質量(質量B)から、
[重合率](%)=[質量A]/[質量B]×100(%)
により求めた。
【0045】
(曲げ破断強度)
JIS規格K6911に準拠した。試験片厚さは4mmとした。曲げ破断強度は75Mpa以上あれば、機械強度が十分と判断した。
【0046】
(流動性(MFR))
MFRは、キャピログラフ(東洋精機(株)製)を用い、キャピラリー:L/D=10/1mm、温度:230℃、せん断速度:600(Sec-1)の条件で測定した。MFRは15以上あれば、流動性が十分と判断した。
【0047】
[実施例1]
メチルメタクリレート(MMA)95質量部、メチルアクリレート(MA)5質量部からなるモノマー混合物に窒素を導入した後、このモノマー混合物100質量部に対して、連鎖移動剤として、n−オクチルメルカプタン0.32質量部と、重合開始剤として、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン0.009質量部とを混合した原料モノマーを、重合温度135℃に制御された完全混合型反応器に攪拌混合しながら連続的に供給し、樹脂組成物をギアポンプで連続的に抜き出しながら重合を行った。反応域での反応液の滞在量を60kgとし、平均滞在時間を2.0時間として重合を実施した。完全混合型反応器出口でサンプリングした高分子量樹脂の重合率は50%、重量平均分子量は75000であった。
【0048】
続いて、前記完全混合型反応器に直列に連結された連鎖移動剤混合用スタティックミキサ(商品名:「SMXスルーザミキサ」、住友重機械工業(株)製、直径27.2mm、長さ650mm)に、前記抜き出した樹脂組成物を供給した。さらに、連鎖移動剤混合用スタティックミキサにおいて、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン0.26質量部を供給し、樹脂組成物と混合した。
【0049】
その後、連鎖移動剤混合用スタティックミキサに連結した重合開始剤混合用スタティックミキサに、前記混合物を供給した。重合開始剤混合用スタティックミキサには、前記連鎖移動剤混合用スタティックミキサと同一のものを用いた。さらに、重合開始剤混合用スタティックミキサにおいて、重合開始剤として1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン0.0035質量部、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド0.0035質量部をメチルメタクリレートで100倍に希釈し、前記混合物と混合した。
【0050】
その後、重合開始剤混合用スタティックミキサに連結したプラグフロー型反応器(商品名:「SMXスルーザミキサ」、住友重機械工業(株)製、直径65.9mm、長さ5000mm)に、前記重合開始剤混合用スタティックミキサを通過した混合物を供給して重合を行った。プラグフロー型反応器出口温度は、190℃となるように、プラグフロー型反応器のジャケット温度を調節した。なお、重合率は原料モノマーと得られた重合体組成物の質量より求めた。
【0051】
得られた重合体組成物を押出機にて脱揮し、メタクリル系樹脂を得た。得られたメタクリル系樹脂の重合率は71%であった。評価結果を表1に示す。
【0052】
[実施例2〜6]
重合開始剤、連鎖移動剤の量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0053】
[比較例1]
重合開始剤、連鎖移動剤の量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。完全混合型反応器出口でサンプリングした高分子量樹脂の重合率は38%と低く、機械強度が低下した。
【0054】
[比較例2]
重合開始剤、連鎖移動剤の量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。完全混合型反応器で得られる重合体の重量平均分子量が高く、流動性が不十分となった。
【0055】
[比較例3]
重合開始剤、連鎖移動剤の量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。完全混合型反応器で得られる重合体の重量平均分子量が低く、曲げ破断強度が不十分となった。
【0056】
[比較例4]
重合開始剤、連鎖移動剤の量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。R1/R2が0.65と低いために、高分子量の重合体の割合が小さいため、曲げ破断強度が不十分となった。
【0057】
[比較例5]
重合開始剤、連鎖移動剤の量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。R1/R2が0.9と高いために、高分子量の重合体の割合が大きく、流動性が不十分となった。
【0058】
[比較例6]
重合開始剤、連鎖移動剤の量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。完全混合型反応器で得られた樹脂組成物に供給する連鎖移動剤の量が多いため、低分子量の重合体の分子量が低くなりすぎ、破断強度が不十分となった。
【0059】
[比較例7]
重合開始剤、連鎖移動剤の量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。完全混合型反応器で得られた樹脂組成物に供給する連鎖移動剤の量が少ないため、低分子量の重合体の分子量が十分に低下せず、流動性が不十分となった。
【0060】
【表1】
*1:1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン
*2:ジ−t−ヘキシルパーオキサイド。