(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、チタン酸塩及び亜鉛粉を含有し、該チタン酸塩が、チタン酸リチウムカリウム又はチタン酸マグネシウムカリウムであり、該チタン酸塩の含有量が14〜20質量%であり、該亜鉛粉の含有量が2〜6質量%であるノンアスベスト摩擦材組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材について詳述する。
[ノンアスベスト摩擦材組成物]
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、チタン酸塩及び亜鉛粉を含有し、該チタン酸塩の含有量が10〜35質量%であることを特徴とする。
上記構成により、従来品と比較して制動時に生成する摩耗粉中の銅が少ないことから環境に優しく、高温での耐摩耗性に優れ、かつメタルキャッチを抑制できるという効果を発現することができる。
【0013】
(結合材)
結合材は、摩擦材組成物に含まれる有機充填材、無機充填材及び繊維基材などを一体化し、強度を与えるものである。本発明のノンアスベスト摩擦材組成物に含まれる結合材としては特に制限はなく、通常、摩擦材の結合材として用いられる熱硬化性樹脂を用いることができる。
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂;アクリルエラストマー分散フェノール樹脂及びシリコーンエラストマー分散フェノール樹脂等の各種エラストマー分散フェノール樹脂;アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂及びアルキルベンゼン変性フェノール樹脂等の各種変性フェノール樹脂などが挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。特に、良好な耐熱性、成形性及び摩擦係数を与えることから、フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂及びアルキルベンゼン変性フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0014】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における結合材の含有量は、5〜20質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。結合材の含有量を5〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の強度低下を抑制でき、また、摩擦材の気孔率が減少し、弾性率が高くなることによる鳴きなどの音振性能悪化を抑制できる。
【0015】
(有機充填材)
有機充填材は、摩擦材の音振性能や耐摩耗性などを向上させるための摩擦調整剤として含まれるものである。本発明のノンアスベスト摩擦材組成物に含まれる有機充填材としては、上記性能を発揮できるものであれば特に制限はなく、通常、有機充填材として用いられる、カシューダストやゴム成分などを用いることができる。
上記カシューダストは、カシューナッツシェルオイルを硬化させたものを粉砕して得られる、通常、摩擦材に用いられるものであればよい。
上記ゴム成分としては、例えば、タイヤゴム、天然ゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、二トリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、カシューダストとゴム成分とを併用してもよく、カシューダストをゴム成分で被覆したものを用いてもよいが、音振性能の観点から、カシューダストとゴム成分とを併用することが好ましい。
【0016】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における有機充填材の含有量は、1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、3〜8質量%であることがさらに好ましい。有機充填材の含有量を1〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の弾性率が高くなることによる鳴きなどの音振性能の悪化を避けることができ、また耐熱性の悪化、熱履歴による強度低下を避けることができる。また、カシューダストとゴム成分とを併用する場合、カシューダストとゴム成分とは、質量比で2:1〜10:1の割合であることが好ましく、3:1〜9:1であることがより好ましく、3:1〜8:1であることがさらに好ましい。
【0017】
(無機充填材)
無機充填材は、摩擦材の耐熱性の悪化を避けるための摩擦調整剤として含まれるものである。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、高温での耐摩耗性の向上、及びメタルキャッチの抑制のため、無機充填材として、チタン酸塩を必須成分として含有する。前記チタン酸塩としては、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等を用いることができる。チタン酸カリウムとしては、例えば、K
2O・6TiO
2、K
2O・8TiO
2等が挙げられる。チタン酸リチウムカリウムとしては、例えば、チタン源とリチウム源とカリウム源とを混合して製造したK
0.3-0.7Li
0.27Ti
1.73O
3.8-3.95で表される組成のものなどが挙げられる。チタン酸マグネシウムカリウムとしては、例えば、チタン源とマグネシウム源とカリウム源とを混合して製造したK
0.2-0.7Mg
0.4Ti
1.6O
3.7-3.95で表される組成のものなどが挙げられる。
これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。中でも、高温での耐摩耗性を向上させることから、チタン酸リチウムカリウム又はチタン酸マグネシウムカリウムが好ましい。
【0018】
前記チタン酸塩の形状としては、繊維状、柱状、板状、粒子状又は鱗片状のものを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
チタン酸塩の形状は、例えば走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)観察から解析することが出来る。
ここで、チタン酸塩の形状についての定義の一例を記載する。ここでは、チタン酸塩に外接する直方体のうち最小の体積をもつ直方体(外接直方体)の最も長い辺を長径L、次に長い辺を短径B、最も短い辺を厚さTとして(B>Tとする)、チタン酸塩の形状をアスペクト比(L/T、L/B)で定義する。
繊維状のチタン酸塩とは、L/Tが10よりも大きく、L/Bが10よりも大きいチタン酸塩である。例えば、ティスモD、ティスモN(いずれも、大塚化学株式会社製)等が挙げられる。
柱状のチタン酸塩とは、L/T=2〜10、L/B=2〜10であるチタン酸塩である。例えば、TOFIX−S(東邦マテリアル株式会社製)などが挙げられる。
板状のチタン酸塩とは、L/Tが10よりも大きく、L/Bが10よりも小さいチタン酸塩である。例えば、TXAX−A、TXAX−MA、TXAX−KA、TXAX−CT(いずれも、株式会社クボタ製)等が挙げられる。
粒子状のチタン酸塩とは、L/Tが10よりも小さく、L/Bが2よりも小さいチタン酸塩である。例えば、TOFIX−SGL(東邦マテリアル株式会社製)、GTX−C(株式会社クボタ製)等が挙げられる。また、粒子状のチタン酸塩のうち、鱗のような薄板状の形状のものを鱗片状のチタン酸塩といい、例えば、テラセスPS、テラセスPM、テラセスL、テラセスTF−S(いずれも、大塚化学株式会社製)等が挙げられる。
中でも、高温の耐摩耗性をより向上させるために、燐片状、柱状又は板状のものを用いることが好ましい。また、平均粒子径が1〜50μm、比表面積が0.5〜10m
2/gのものが好ましい。平均粒子径は例えば、メジアン径で表され、メジアン径とは、レーザー回折法の体積分布から求めた50%径をいう。また、比表面積は吸着ガスとして窒素ガスを用いたBET法等により求めることができる。
【0019】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物におけるチタン酸塩の含有量は、高温での耐摩耗性の向上、及びメタルキャッチの抑制の観点から、10〜35質量%であり、13〜24質量%であることが好ましく、14〜20質量%であることがより好ましい。前記チタン酸塩の含有量が10質量%未満の場合、耐摩耗性が悪化し、メタルキャッチが生成しやすい傾向がある。また、含有量が35質量%を超える場合、耐摩耗性の悪化及び摩擦係数の低下、さらにメタルキャッチが生成しやすい傾向がある。
【0020】
本発明のノンアスベスト摩擦材用組成物は、上記チタン酸塩以外の無機充填材をさらに含有することができる。含有することができる無機充填材としては、通常、摩擦材に用いられる無機充填材であれば特に制限はない。
上記無機充填材としては、例えば、硫化錫、二硫化モリブデン、硫化鉄、三硫化アンチモン、硫化ビスマス、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、コークス、黒鉛、マイカ、酸化鉄、バーミキュライト、硫酸カルシウム、タルク、クレー、ゼオライト、ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ムライト、クロマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、シリカ、酸化鉄、γ−アルミナなどの活性アルミナ等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。対面材への攻撃性低下の観点から、黒鉛、硫化錫、硫酸バリウムを含有することが好ましく、摩擦係数向上の観点から、酸化ジルコニウムを含有することが好ましい。
【0021】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における無機充填材の含有量は、30〜80質量%であることが好ましく、40〜80質量%であることがより好ましく、60〜80質量%であることがさらに好ましい。無機充填材の含有量を30〜80質量%の範囲とすることで、耐熱性の悪化を避けることができる。なお、上記無機充填材の含有量には、前記チタン酸塩の含有量が含まれる。
【0022】
(繊維基材)
繊維基材は、摩擦材において補強作用を示すものである。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物には、通常、繊維基材として用いられる、無機繊維、金属繊維、有機繊維、炭素系繊維等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。ここでいう繊維基材には上述したチタン酸塩の繊維状のものは含まない。
【0023】
上記無機繊維としては、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、鉱物繊維、ガラス繊維、シリケート繊維等を用いることができ、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
なお、ここでいう鉱物繊維とは、スラグウール等の高炉スラグ、バサルトファイバー等の玄武岩、その他の天然岩石等を主成分として溶融紡糸した人造無機繊維であり、Al元素を含む天然鉱物であることがより好ましい。具体的には、SiO
2、Al
2O
3、CaO、MgO、FeO、Na
2O等が含まれるもの、又はこれら化合物が単独で又は2種類以上含有されるものを用いることができ、より好ましくはこれらのうちAl元素を含むものを、鉱物繊維として用いることができる。摩擦材組成物中に含まれる鉱物繊維全体の平均繊維長が大きくなるほど摩擦材組成物中の各成分との接着強度が低下する傾向があるため、鉱物繊維全体の平均繊維長は500μm以下が好ましい。より好ましくは、100〜400μmである。ここで、平均繊維長とは、該当する全ての繊維の長さの平均値を示した数平均繊維長のことをいう。例えば200μmの平均繊維長とは、摩擦材組成物原料として用いる鉱物繊維を無作為に50個選択し、光学顕微鏡で繊維長を測定し、その平均値が200μmであることを示す。
本発明で用いられる鉱物繊維は、人体有害性の観点で生体溶解性であることが好ましい。ここでいう生体溶解性の鉱物繊維とは、人体内に取り込まれた場合でも短時間で一部分解され体外に排出される特徴を有する鉱物繊維である。具体的には、化学組成がアルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物総量(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムの酸化物の総量)が18質量%以上で、且つ呼吸による短期バイオ永続試験で、20μm以上の繊維の質量半減期が40日以内又は腹膜内試験で過度の発癌性の証拠がないか又は長期呼吸試験で関連の病原性や腫瘍発生がないことを満たす繊維を示す(EU指令97/69/ECのNota Q(発癌性適用除外))。このような生体分解性鉱物繊維としては、SiO
2−Al
2O
3−CaO−MgO−FeO−Na
2O系繊維等が挙げられ、SiO
2、Al
2O
3、CaO、MgO、FeO、Na
2O等を任意の組み合わせで含有した繊維が挙げられる。市販品としてはLAPINUSFIBERS B.V製のRoxulシリーズなどが挙げられる。「Roxul」は、SiO
2、Al
2O
3、CaO、MgO、FeO、Na
2O等が含まれる。
【0024】
上記金属繊維としては、耐クラック性及び耐摩耗性の向上のため、銅又は銅合金の繊維を用いることができる。ただし、銅又は銅合金の繊維を含有させる場合、環境への優しさを考慮すると、該摩擦材組成物における銅全体の含有量は、銅元素として5質量%以下の範囲であることを要する。
銅又は銅合金の繊維としては、銅繊維、黄銅繊維、青銅繊維などを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
また、上記金属繊維として、摩擦係数向上、耐クラック性の観点から銅及び銅合金以外の金属繊維を用いてもよいが、耐摩耗性の向上及びメタルキャッチ抑制の観点から、含有量が0.5質量%以下であることを要する。摩擦係数の向上の割には耐摩耗性の向上効果及びメタルキャッチの抑制効果が低いため、銅及び銅合金以外の金属繊維を含有しないこと(含有量0質量%)が好ましい。
銅及び銅合金以外の金属繊維としては、例えば、アルミニウム、鉄、亜鉛、錫、チタン、ニッケル、マグネシウム、シリコン等の金属単体又は合金形態の繊維や、鋳鉄繊維などの金属を主成分とする繊維が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
上記有機繊維としては、アラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維、フェノール樹脂繊維(架橋構造を有する)等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。有機繊維としては、耐摩耗性の観点からアラミド繊維を用いることが好ましい。
上記炭素系繊維としては、耐炎化繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、活性炭繊維等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における繊維基材の含有量は、摩擦材組成物において5〜40質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましく、5〜18質量%であることがさらに好ましい。繊維基材の含有量を5〜40質量%の範囲とすることで、摩擦材としての最適な気孔率が得られ、鳴き防止ができ、適正な材料強度が得られ、耐摩耗性を発現し、成形性を向上させることができる。なお、上記繊維基材の含有量には、銅又は銅合金の金属繊維の含有量が含まれる。
【0028】
(亜鉛粉)
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、亜鉛粉を必須成分とする。本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における亜鉛粉の含有量は、0.2〜15質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、1〜6質量%であることがさらに好ましく、2〜5質量%であることが特に好ましい。亜鉛粉の含有量を0.2〜15質量%、より好ましくは1〜10質量%とすることで、優れた耐摩耗性を示す。
亜鉛粉の平均粒子径は、耐摩耗性の観点から、0.1〜150μmであることが好ましく、0.1〜100μmであることがより好ましく、0.1〜50μmであることがさらに好ましい。
【0029】
(その他の材料)
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、前記の結合材、有機充填材、無機充填材、繊維基材、亜鉛粉以外に、必要に応じてその他の材料を配合することができる。
例えば、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における銅全体の含有量が、銅元素として5質量%以下となる範囲で、銅粉、黄銅粉、青銅粉等の金属粉末などを配合することができる。また、耐摩耗性の観点から、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素系ポリマーのような有機添加剤などを配合することができる。
【0030】
[摩擦材及び摩擦部材]
また、本発明は、上述のノンアスベスト摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材を提供する。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、これを成形することにより、自動車などのディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材として使用することができる。本発明の摩擦材は高温での耐摩耗性が良好であり、また良好なメタルキャッチ抑制効果を示すため、制動時に負荷の大きいディスクブレーキパッドの摩擦材に好適である。
さらに、上記摩擦材を用いることにより、該摩擦材が摩擦面となるように形成した摩擦部材を得ることができる。摩擦材を用いて形成することができる摩擦部材としては、例えば、下記の構成などが挙げられる。
【0031】
(1)摩擦材のみの構成。
(2)裏金と、該裏金の上に摩擦面となる本発明の摩擦材組成物からなる摩擦材とを有する構成。
(3)上記(2)の構成において、裏金と摩擦材との間に、裏金の接着効果を高めるための表面改質を目的としたプライマー層、及び、裏金と摩擦材との接着を目的とした接着層をさらに介在させた構成。
上記裏金は、摩擦部材の機械的強度の向上のために、通常、摩擦部材として用いるものであり、材質としては、金属又は繊維強化プラスチック等を用いることができ、例えば、鉄、ステンレス、無機繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等が挙げられる。プライマー層及び接着層としては、通常、ブレーキシューなどの摩擦部材に用いられるものであればよい。
【0032】
本発明の摩擦材は、一般に使用されている方法を用いて製造することができ、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物を成形して、好ましくは加熱加圧成形して製造される。
具体的には、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物を、レディーゲミキサー、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー等の混合機を用いて均一に混合し、この混合物を成形金型にて予備成形し、得られた予備成形物を成形温度130℃〜160℃、成形圧力20〜50MPaの条件で2〜10分間で成形し、得られた成形物を150〜250℃で2〜10時間熱処理する。必要に応じて塗装、スコーチ処理、研磨処理を行うことによって摩擦材を製造することができる。
【0033】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、高温での耐摩耗性やメタルキャッチ抑制などに優れるため、ディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦部材の「上張り材」として有用であるが、摩擦部材の「下張り材」として成形して用いることもできる。
なお、「上張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材であり、「下張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材と裏金との間に介在する、摩擦材と裏金との接着部付近の剪断強度、耐クラック性向上を目的とした層のことである。
【実施例】
【0034】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限を受けるものではない。
なお、実施例及び比較例に示す評価は次のように行った。
【0035】
(1)高温の耐摩耗性の評価
耐摩耗性は、制動前ブレーキ温度500℃、制動前速度60km/h、減速度0.3Gで1000回制動を行い、試験前後の摩擦材厚みから、摩擦材の摩耗量を算出した。
【0036】
(2)メタルキャッチ生成の評価
メタルキャッチ生成の評価では、制動前速度60km/h、制動条件1.96m/s
2、2.94m/s
2、3.92m/s
2でそれぞれ2回ずつ、制動前温度を50℃から300℃まで50℃間隔で昇温する計36回の制動を行った後、250℃から50℃まで50℃間隔で降温し、かつ上記同様の制動条件による計30回の制動を行った。試験完了後、摩擦材摺動面に生成したメタルキャッチの大きさと数を、以下の基準で評価した。
A:メタルキャッチの生成無し
B:長径2mm未満のメタルキャッチが1個〜2個生成
C:長径2mm未満のメタルキャッチが3個以上生成
D:長径2mm以上のメタルキャッチが1個以上生成
【0037】
(3)摩擦係数の評価
摩擦係数は、自動車技術会規格JASO C406に基づき測定し、第2効力試験における摩擦係数の平均値を算出した。
【0038】
なお、上記耐摩耗性の評価、メタルキャッチ生成及び摩擦係数の評価はダイナモメータを用い、イナーシャ7kgf・m・s
2で評価を行った。また、ベンチレーテッドディスクロータ((株)キリウ製、材質FC190)、一般的なピンスライド式のコレットタイプのキャリパを用いて実施した。
【0039】
[実施例1〜12及び比較例1〜5]
ディスクブレーキパッドの作製
表1に示す配合比率に従って材料を配合し、実施例及び比較例の摩擦材組成物を得た。なお、表1の各成分の配合量の単位は、摩擦材組成物中の質量%である。この摩擦材組成物をレディーゲミキサー((株)マツボー社製、商品名:レディーゲミキサーM20)で混合し、この混合物を成形プレス(王子機械工業(株)製)で予備成形し、得られた予備成形物を成形温度145℃、成形圧力30MPaの条件で5分間成形プレス(三起精工(株)製)を用いて日立オートモティブシステムズ(株)製の裏金と共に加熱加圧成形し、得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行って、ディスクブレーキパッド(摩擦材の厚さ11mm、摩擦材投影面積52cm
2)を得た。
作製したディスクブレーキパッドについて、前記の評価を行った結果を表1に示す。
【0040】
なお、実施例及び比較例において使用した各種材料は次のとおりである。
(結合材)
・フェノール樹脂:日立化成工業(株)製(商品名:HP491UP)
(有機充填材)
・カシューダスト:東北化工(株)製(商品名:FF−1056)
(無機充填材)
・チタン酸塩1:大塚化学株式会社製(商品名:テラセスL)
成分:チタン酸リチウムカリウム、形状:燐片状
メジアン径:25μm、比表面積:0.6m
2/g
・チタン酸塩2:大塚化学株式会社製(商品名:テラセスPS)
成分:チタン酸マグネシウムカリウム、形状:燐片状
メジアン径:4μm、比表面積:2.5m
2/g
・チタン酸塩3:大塚化学株式会社製(商品名:テラセスTF−S)
成分:チタン酸カリウム、形状 :燐片状
メジアン径:7μm、比表面積:3.5m
2/g
・チタン酸塩4:株式会社クボタ製(商品名:TXAX−MA)
成分:チタン酸カリウム、形状:板状
比表面積:1.5m
2/g
・チタン酸塩5:東邦マテリアル株式会社製(商品名:TOFIX−S)
成分:チタン酸カリウム、形状:柱状
メジアン径:6μm、比表面積:0.9m
2/g
・チタン酸塩6:大塚化学株式会社製(商品名:ティスモD)
成分:チタン酸カリウム、形状:繊維状
比表面積:7.0m
2/g
・硫酸バリウム:堺化学(株)製(商品名:BA)
・黒鉛:TIMCAL社製(商品名:KS75)
・硫化錫:Chemetall社製(商品名:Stannolube)
(繊維基材)
・アラミド繊維(有機繊維):東レ・デュポン(株)製(商品名:1F538)
・鉄繊維(金属繊維):GMT社製(商品名:#0)
・銅繊維(金属繊維):Sunny Metal社製(商品名:SCA−1070)
・鉱物繊維(無機繊維):LAPINUS FIBERS B.V製(商品名:RB240 Roxul 1000、平均繊維長300μm)
(亜鉛粉)
・亜鉛粉:福田金属箔粉工業株式会社製(商品名:Zn−At−200、平均粒子径25〜38μm)
【0041】
【表1】
【0042】
実施例1〜12は500℃での摩擦材摩耗量が少なく、優れた耐摩耗性を示し、メタルキャッチを抑制することができ、かつ高い摩擦係数を発現した。亜鉛粉を含有しない比較例1及び2、チタン酸塩の含有量が10質量%より少ない比較例3、チタン酸塩の含有量が35質量%より多い比較例4、並びに鉄繊維を1質量%含有する比較例5では、十分な耐摩耗性が得られず、またメタルキャッチを抑制することができなかった。